トランプ関税の本当の意味とは?
岡元兵八郎(以下、岡元):マネックス証券のハッチこと岡元兵八郎です。今日はマネックス証券にアーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッドさんをお招きし、テスラについて深くお話をうかがいます。最後までご覧ください。
まず、関税についてお聞きします。トランプ大統領は明日、関税の詳細を発表する予定です。世界中の投資家や日本のような貿易相手国には大きな関心を寄せています。詳細を見ずに判断するのは難しいと思いますが、最終的に米国経済と世界経済にどのような影響を与えると思いますか?
キャシー・ウッド(以下、ウッド):発表が近づくにつれて、トランプ大統領は報復よりも相互性、つまりお互いを同じように扱うべきだという話をするようになってきました。これは良いことだと思います。ただ、おっしゃるとおり、彼は米国に多くの不確実性をもたらしました。
関税のオンオフなど、時には混沌としているように見えました。世界の他の地域でもそうです。相互性を最終的な落とし所とするなら、それは非常に興味深い展開になるでしょう。というのも、米国に最も高い関税を課している国は、ブラジルとインドだからです。
仮に関税だけではなく付加価値税も含めて比較するなら、多くのヨーロッパ諸国がそこに含まれるでしょう。しかし現時点では大統領は関税により注目をしているようなので、これは良い兆候です。米国内の話をすると、私は個人的には関税も税金にも賛成しません。
しかし、もし相互性の追求という名目で関税が上がる一方で経済成長やイノベーションを促進するような減税が行われるなら、私は個人的にはそれを受け入れられると思います。そして、私たちがもう1つ理解すべきことは、トランプ大統領という人物についてです。就任当日1月20日から、私たちが予想していた以上に彼は不確実性を生み出してきました。まさに今は嵐の目の中にいるような状況です。
市場はこのような不透明さを好みませんが、この嵐を抜け出した時に、私たちは株式市場が予想以上に力強い状況にあることに驚かされるかもしれません。
状況が落ち着いた時、レーガン時代、あるいはそれを超えた強化版レーガン時代のようになるかもしれません。これは非常に良いことでしょう。なぜなら、トランプ大統領は経済成長と株式市場という2つの変数で自分の成功を判断しているからです。
減税と規制緩和が生む、新しい回復のかたち
岡元:では関税の詳細が発表された後はどうなるのでしょうか?
ウッド:この不確実性と一見混沌とした状況が、米国内の消費者や企業の行動を慎重にさせていると考えています。つまり、経済を支えてきた高所得者層の消費者までもが、中間所得者層・低所得者層の消費者と同じように消極的なスタンスに転じているのです。
中間所得者層・低所得者はインフレの名残の中でずっと消費を控えていましたが、今は高所得者層の消費者も、「この大統領は次に何をするかわからない」と不安を感じ、支出を控えるようになっています。ですから、私たちは今ローリング・リセッションの終盤に差し掛かっていると見ています。
これまで経済を支えてきたのは住宅、自動車、中小企業、低・中所得者層の労働者でした。AIデータセンターのブームがあったのにもかかわらず、資本支出も減少し始めています。そしてここまで米国経済を支えてきた高所得者層の消費者と政府支出でさえも鈍化しつつあります。私たちは今、政府の支出が大幅に減速しており、それが経済全体にとって抑制要因となっているという意味で、「政府のリセッション」が起きていると捉えています。
前回政府が最後に財政の大掃除をしたのは、クリントン大統領とニュート・ギングリッチ下院議員の時代で最終的に黒字になりました。当時、政府支出が経済のブレーキとなった一方で民間セクターの拡大に余地を与えることになりました。
今回も同様に政府支出が減速することによって、過去4年間続いてきたクラウディングアウト(政府が支出を増やすことで、民間の投資や消費が減ってしまう現象)が終わり、より生産性の高い民間セクターにパイを分け与えることになります。これは非常に良いニュースです。
多くの人がGDPのマイナス成長を見て、「ああ、今まさにリセッションが始まった」「それはトランプ大統領の政策が原因で、長く続くだろう」と言うかもしれませんが、私たちはまったく逆の見方をしています。
これはローリング・リセッションの終盤であり、トランプ政権が打ち出している政策、減税、そして非常に重要な規制緩和が、生産性主導の景気回復を引き起こすだろうと見ています。これは、1980年代と1990年代のように、生産性が向上し、インフレが低下するにつれて成長が加速したように感じられるでしょう。つまりwin-winなのです。
中間選挙を見据えた景気刺激のタイミングとは?
岡元:つまり、私たちが今経験しているのは短期的な痛みで、長期的には利益があるということですね。
ウッド:そうです。そしてこれがトランプ大統領を取り巻く多くの政策顧問が言っていることでもあります。今こそ苦い薬を飲もう。そして来年の真夏の終わりから初秋にかけての中間選挙シーズンが来る頃には、経済が上向きになるようにしましょうというわけです。
これは共和党にとって中間選挙を有利に進める上で好材料となるでしょう。通常、中間選挙では、政権与党が議会で議席を減らす傾向があります。特に現在の下院では、共和党の多数派はほんのわずかな議席しかないため、議席を失う余裕はありません。ですから、来年の夏の終わりから秋、冬にかけての選挙シーズンに入ると、経済を刺激する政策が出てくると思います。
そして、ここではまだ触れていませんが、FRB(連邦準備制度)も重要な役割を果たします。もしFRBがGDPの減少を確認すれば、2025年の第1四半期、そしてもしかすると第2四半期もマイナスになる可能性があります。それがローリング・リセッションの始まりです。
2022年の最初の2四半期もマイナス成長でした。ですから、もしFRBが「現在は景気後退局面にある」と判断した場合、金利を引き下げる余裕が生まれるでしょう。
現在の市場ではすでに2回の金利引き下げが織り込まれています。加えてGDP成長率がマイナスに転じている状況に加えて仮に関税によるインフレ圧力があったとしてもそれは一時的なものにとどまると考えられます。
そしてFRBがインフレの鈍化を確認すれば年内に2回の利下げが行われる可能性もあると私は見ています。