窪田製薬グループ

窪田良氏:みなさま、こんにちは。ただいまご紹介いただきました、窪田製薬ホールディングスの窪田でございます。本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。それでは、説明会を開始させていただきたいと思います。

我々は2002年4月に、当時Acugenという名前でしたが、ワシントン州シアトル市で設立されました。日本に上場して、後に内国企業となり、現在に至るということでございます。

私はもともと眼科医をやっておりましたので、「あらゆる手段を使って、世界から失明をなくす」ことに関して、現在まで事業を進めているということでございます。

ちなみに、一番最初の2002年に(事業を)始めた時は、我々が網膜を培養して、それに対していろいろなストレスをかけることによって、ビトロの中で病態モデルを作って、それに対する薬剤スクリーニングをするというビジネスモデルでした。そこの一番の目玉は何かというと、画像解析を行ってハイコンテントスクリーニングをすることを我々の売りにして、実は会社を始めたんです。

なんでこのような話をするかというと、現在はPBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)というデバイスで、AIによる網膜の画像解析をする事業を展開しているということです。

実は、僕らが設立された2002年に、最初に始めたのはビトロではありましたが、Machine Learningという機械学習、今で言うAI……当時はまだ、「AI」という言葉がなかったのですが。そのようなものをベースに会社が始まって、今に至るということなので、ずいぶん時間が経ちましたが、今またそのような画像解析技術が非常に注目されているのは、感慨深いということです。

ですから、たまに「どうして画像解析のデバイスという、突拍子もないものを始めたの?」という思いを持つ方もいらっしゃるのですが、実はそもそも我々は、会社が設立された時に(当時の)オリンパス光学工業と一緒に、そのような共同研究をやっていました。基本的には、その画像解析の……当時は「人工知能的な機械学習」と言っていましたが、「その細胞がこの薬剤に対して、反応しているか反応しないか」を画像で見る。そのようなことをもとに、会社が始まったということです。

窪田製薬グループの強み

現在の我々のグループのご説明です。基本的に、研究開発を米国及び欧州に置いていますが、優秀な人材が小さい会社に移ってきてくれるというのは、やはり欧米ならではだと感じております。

日本でもベンチャー企業がどんどんできていますが、少なくとも、我々がやっている眼科領域などに関しましては、やはり優秀な人はどうしても大企業や有名大学に研究者の方が張り付いていて、リスクを取ってベンチャー企業に来るという方は、まだなかなかいないのが現状です。

それはやはり、眼科のベンチャーにせっかく入って研究しても、会社がなくなったりする可能性が、もちろんあるということです。その時に、簡単に別のベンチャーに乗り移れるかというと、それだけのクリティカルマスがまだ日本にはないので、そうなると、どうしてもベンチャーに入った後、また大手企業に戻ったり……というリスクを考える。なかなか、みんなが出てこられない。

これは、アメリカには、我々を含めて眼科ベンチャーも数多くあるということですので、そのような意味では、大企業からでも出てきやすいということですよね。そのようなことがあるので、我々は研究開発を一貫して欧米に置いているということでございます。

また、開発品目に関しては、やはり我々はベンチャーですので、限られた資金を使っていかに短期間・低コストで、新しいものを生み出すかということに非常に注力しておりますので、そのようなプロジェクトに優先的に取り組んでいるということでございます。

技術としても、PBOSや(スターガルト病治療薬候補の)「エミクススタト塩酸塩」は、我々がまったくのゼロから自分たちの会社で発明してきたものです。それ以外の(遺伝子治療の)オプトジェネティクスや他のものは、パートナーからある程度の技術移転をしてから、そこを元にして、さらに我々が新しい価値を付加していくかたちで開発しているものもございます。

我々としては、自社研究と、アメリカ及びヨーロッパ、場合によっては日本にあるような革新的な技術も取り入れつつ、研究開発を進めているという状況でございます。

失明の主要原因

失明。我々が取り組んでいる一番大きな状況……重度障害に匹敵する、アメリカでも日本でもそのような認定をされるものが、失明状態です。身体障がい者になるという非常につらい状況ですが、それに至る病気が、各国別にこのように示されております。米国・欧州では加齢黄斑変性が圧倒的に多いのですが、日本は緑内障(が多い)ということで、やはり人種差が見られるのが、この失明原因でございます。

我々は日本にある会社ですので、(まず)日本の患者さまのためにも、あるいは米国・欧州の患者さまのためにも医薬品を開発してきたいということですので、このような失明の大きな原因なものに、取り組んでいるということでございます。

世界市場規模

これは、世界市場規模です。これもいつもお話ししますが、眼科領域は成長性がまだ高いと言われております。

医薬品の年平均成長率は3パーセント前後であると言われておりますが、 我々の眼科領域に関しては、その倍近い成長速度(6.7パーセント)で成長しているということでございます。

これは、眼科領域で今まで薬が十分に出ていなかったということから、今後新しい薬が出やすい領域であることと、世界が高齢化していることで、眼科疾患が増えている。そのようなところで、他の平均的な医薬品に比べて、高い成長率が期待されているということでございます。

一番最近のこととなりますと、遺伝子治療において、世界で初めて遺伝子治療の医薬品として、眼科領域の「ラクスターナ」が昨年(2017年)の暮れに認可されたということです。まったく革新的な医薬品が出てきやすいのが眼科領域だと考えられているために、まだまだ成長していくのではないかと予測されています。

窪田製薬グループの事業フォーカス

我々の事業領域で、どの部分にフォーカスしているのかというスライドです。

医薬品の開発は、平均で12年かかると言われております。その最初の段階で探索研究が行われて、それを動物試験で確認する。動物が効果があったら、それが本当にヒトで再現できるのか。それを、トランスレーショナル研究あるいはProof of concept(POC、探索的薬剤開発)をやる。その次に大規模床試験を行って、本当にそのコンセプトが再現性をもって大規模に証明できるかということをやって、認可に至るということでございます。

我々は、動物試験でポジティブになったものを、ヒトでProof of conceptを取るところにフォーカスしているということです。なぜこの領域にフォーカスしているかというと、こちら(スライドの中央)にありますように、(当社は)一番投資額が少なくて、50億ドルということです。

他の探索研究(スライドの左側)は、たくさんファンディングして、3兆円に近い300億ドルというお金が使われているということですが、それに比べると(金額としては)手薄であるので、そこに事業チャンスがあるのではないかということで、我々はProof of conceptのトランスレーショナル研究を中心にやっているということでございます。

その後、そのようなものが得られたら、大規模臨床試験は大手製薬企業と組んでやっていくと。こちらは650億ドルと言われていますが、やはり大規模臨床試験が、医薬品開発で一番お金がかかる部分ですので、なかなかそれをベンチャー企業だけでやっていくのは非常に困難ですので、その部分は大手製薬企業とパートナリングを組んでやっていくということでございます。

それが、我々の「エミクススタト塩酸塩」でもやっていた戦略ですが、今持っている化合物でも同じことを目指しています。

研究開発パイプライン

現在の研究開発パイプラインです。

「エミクススタト塩酸塩」は、従来から我々が一番力を入れている化合物ですが、現在はスターガルト病の臨床試験第3相の準備をしているということと、増殖糖尿病網膜症に関しましては、開発パートナーを探す、あるいはより強力なPOCをもう1個取るのかを、社内で検討しているということでございます。

それ以外にもこちらに示すように、複数のプロジェクトがありますが、我々がいつも気をつけているのは、どうしても医薬品開発の場合は、一つひとつのプロジェクトで成功確率が高くありませんので、いかに数を多く持つかということ。

あとは、デバイスのような、どちらかと言うと医薬品に比べるとリスクが低いものを織り交ぜることによって、成功確率を少しでも高めて、それで会社を成長させていく。そのような戦略で、やっているということでございます。

2018年度上期の主な動き

2018年度の上期に行われた、主に達成したことです。遺伝子治療では、SIRION社と共同研究開発契約を結んだということでございます。これは、まったく新しいベクターの開発ということですので、そのような意味では、知的財産の観点からも治療効果を高めることからも、我々は非常に幸運な契約を結ぶことができたと考えている次第でございます。

「エミクススタト塩酸塩」に関しましては、スターガルトの第2aの試験で、きちんとスターガルト病の患者さまご自身に飲んでいただいて、ちゃんと酵素が抑制されて、しかも飲んでも何も問題がないということで、現在は大規模試験の準備ができるまでのデータを出すことができました。

もう一方は、糖尿病網膜症に関してです。バイオマーカーが改善を示唆したことと、あとは後に解析した結果ではありますが、網膜の厚さに関して、優位な現象が見られました。

糖尿病網膜症というのは、血液中の液体が網膜の中に漏れ出てしまって、網膜がぶよぶよに浮腫になってしまうという状態ですが、それを「エミクススタト塩酸塩」は抑える。水浸しになってしまったものを乾かすことができるということが、優位なんです。統計学的に優位な数値を示すことができて、我々は(「エミクススタト塩酸塩」の)糖尿病網膜症に関しての可能性も十分あるのではないかと考えて、開発を進めています。

PBOSに至っては、初めての臨床試験を開始して、現在も順調に推移しているということと、いくつかの会議を開催できたということです。外からは、我々の活動はなかなか見えにくいということがあるのですが、振り返って見れば、このようなことを行ってきました。

財務と人事でも、このように(新株予約権発行で)資金調達を開始したり、後ほど財務の説明する前川CFOに我々に参画していただいたというのも、日本の企業として、より日本の投資家に対して、日本語で詳しい説明ができる状態を確保しているということです。

2018年度下期を目標とする主なマイルストーン

今後、期待される後半のマイルストーンとして我々が目指すものは、「エミクススタト塩酸塩」に関しましては、スターガルト病の第3相試験を開始するということです。

PBOSに関しましては、現在やっている臨床試験を終了させます。

遺伝子治療に関しましては、プロモーター最適化・カプシド最適化というプロセスを開始することをマイルストーンとして、現在社員一同力を合わせて、研究開発に取り組んでいるということでございます。

スターガルト病

それではまず、スターガルト病の説明をさせていただきます。

「スターガルト病」というのは、遺伝性の若年性黄斑変性です。これは、子どものときに遺伝子異常があることによって、若いうちから視界の中心部が見えなくなっていって、周辺部も徐々に視力低下に至ってしまうという、現在は(有効な)治療法がまったくない、遺伝性の難病でございます。

アメリカ・欧州・日本において、約15万人弱の患者さまがいらっしゃるということですので、これは人数的には非常に少ないということで、希少疾患に分類される疾患でございます。

この病気の特徴は、遺伝子異常です。ABCA4遺伝子という1つの遺伝子で、病気が説明できるということです。

加齢黄斑変性は、「炎症がある」あるいは「いろいろな理由で、さまざまな細胞障害がある」、その原因がマルチファクトリアルな疾患だと考えられているために、残念ながら我々の薬の効果が出なかったのですが、そのような中で、スターガルト病というのは、原因が非常にはっきりしています。

1つの遺伝子が異常を起こして病気になるということでして、そのような意味ではどちらかと言うと、病気の中では原因がクリアカットであるので、我々は薬効証明がしやすいだろうと考えているということです。

とくに、ABCA4遺伝子異常に関しましては、動物でもまったく同じ遺伝子異常を持っていて、人間と非常に類似した症状を呈する動物モデルがありますので、それで我々の薬効を証明しております。

そのような意味では、一番ヒトの状態を動物モデルでより高い確率で再現しているというのが、遺伝子異常症の特徴なんです。

動物(とヒト)でまったく同じ遺伝子の異常、同じ状態が起こることを確認していて、「エミクススタト塩酸塩」は非常に高い効果を示しておりますので、同じことがヒトで再現される可能性が高いのではないかということで、この疾患を選んで、現在開発を進めています。

スターガルト病の症状

スターガルト病の症状です。

眼の奥の網膜色素上皮細胞(RPE)。これは、視細胞という光を感じる細胞に、光を見るために必要な分子あるいは活性型ビタミンAを絶えず供給している、電池のような役割をしています。

その細胞の中に、A2Eという有害な毒性物質(リポフスチン)が溜まって、中心部が失明していってしまう。そのような疾患です。

視覚サイクル(簡略図)

その電池(網膜色素上皮)がどう動いているかというプロセスを拡大します。

基本的には、11-シス レチナールというのが、光を感じるのに一番大事な分子です。それにオプシンというタンパク質が結合して、光を感じる物質になって、それに光が当たると11-シス レチナールがオール-トランス-レチナールという、より熱医学的に安定したかたちに変化する。

その構造変化をもとに、人間の脳は「光が感じられた」と判断しているのですが、それだけだと見続けることができないので、いったんオール-トランス-レチナールになったものを、もう1回光をキャッチできるように、11-シス レチナールに変えてあげる。

そのサイクルをぐるぐると回して、我々はモノを見続けているのですが、そのサイクルがぐるぐると回っている中で、どうしてもオール-トランス-レチナールという物質が完全に11-シス レチナールに変換されずに、一部で有害なリポフスチンに変化を起こしていってしまうということです。

これは、加齢黄斑変性でも歳をとると徐々に起こってきているのですが、スターガルト病の場合は、解毒するための(網膜中の)ABCA4遺伝子という……正確に言うと、オール-トランス-レチナールを解毒酵素(RPE65)のところに運ぶためのトランスポーター遺伝子が故障しているために、より高い確率でより速く、眼の中に毒性物質が溜まってしまいます。(これにより)若いうちから失明してしまうという病気です。

エミクススタトの作用機序

それに対して我々は、視覚サイクル(で重要な酵素であるRPE65を選択的に阻害すること)によって、有害物質(リポフスチン)の産生を抑えてあげて、トランスポーター(ABCA4遺伝子)が壊れてうまく解毒できないなりにも、眼の機能を維持するために、毒性物質のそもそものオール-トランス-レチナールが多く生成されないような状態にしてあげることによって、失明が防げるのではないかと考えているということです。

エミクススタトは 11-シス レチナールの産生と光障害を抑制

それを、ヒトが起こしている遺伝子異常と同じ遺伝子異常を持った動物に対しまして、実験を重ねてきているということです。こちらの(実験によって)ABCA4遺伝子では、毒性物質が減少していくということが認められております。

光障害のスターガルト病の方も、非常に強い光を浴びないように、遮光サングラスなどをかけて暮らしている場合が多いです。強い光が目に当たると、より視機能の低下が早まると言われていますが、そのような状態を動物を使って確認したところ、光障害に関しても我々の化合物は非常に著効を示していることがわかります。

(スライド右側の網膜保護作用の)一番上は、正常な網膜です。(これに)光を当ててしまうと、20個ぐらいの細胞が一層になってしまって、ぺちゃんこになってしまいます。(そこで)こちらの「エミクススタト塩酸塩」を投与すると、ほとんど防げているということで、その効果もあり、我々はこの化合物を「飲むサングラス」と呼んだりしていたということです。そのような効果もあるということなので、非常に期待されています。

スターガルト病:臨床第2a相試験完了

これを実際に、スターガルト病の患者さまで臨床試験を行った結果ですが、このように用量依存的に、10ミリグラム(の投与)では非常に高い確率で(RPE65)酵素が阻害されていることがわかりましたので、10ミリグラムの投与を目指して、今は長期の臨床試験を準備しています。

光干渉断層計(OCT)を用いた網膜疾患治療

続きまして、(在宅・遠隔医療モニタリング機器の)超小型OCTデバイスです。光干渉断層計(OCT)とは、網膜を、顕微鏡のように細胞レベルで外から観察することができるデバイスです。

もともと、光干渉断層装置の原理は、日本の研修者が発明しました。まず、Carl Zeissというところが大型の機械を製品化して、現在は臨床分野で使われているということで、1台が1,000万円以上する非常に高価格の機械ですが、我々はその装置を非常に安く作ることに成功したということです。

この安くできた一番大きな理由は、一番最近のiPhone Xのフェイシャルスキャンという顔認証が行われていますが、それは、赤外線のレーザーで顔をスキャンしているんです。

実は、これに使っているのがVCSELレーザー(垂直共振器面発光型レーザー)というレーザーで、このレーザーがこのような機械に搭載されたことによって、数がたくさん使われるようになって、ものすごく製造コストが下がったんです。

「VCSELレーザーは、網膜の診断にも使えるのではないか?」というのを、我々は世界で初めて証明して、それに関しての知的財産を抑えているので、今までは非常に高かった機械を廉価に作れるということを我々は示して、現在開発を進めています。

超小型OCTデバイスソリューション

OCTですが、これは網膜の厚さを測定することができるというものです。

正常な網膜(左の図)はこのような状態で、この(右の図の)真ん中にこのような黒いものが見えていますが、これが浮腫で水たまりです。網膜の中に水が溜まって風船のように膨らんでしまって、網膜が厚くなって、ピントが合わなくなって視力が低下するということです。

その水浸しになっている網膜の水の部分がどれくらいあるかを、この網膜の厚さで測定するのが、OCTの一番大きな役割なのですが、それを我々は小型デバイス(のPBOS)でやっていくということでございます。

加齢黄斑変性治療薬投与頻度と視力改善比較

(超小型OCTデバイスソリューションのPBOSに)どのようなメリットがあるかということです。

例えば、現在はウェット型加齢黄斑変性には抗VEGF(抗血管内皮増殖因子)製剤というものが使われているのは、みなさんもご存じのことだと思います。

薬によって(投与頻度は)異なりますが、だいたい1ヶ月から2ヶ月に1回投与するということが、元々の臨床試験では推奨されているのですが、医者としても患者さまとしても、毎月病院に行く、あるいは毎月注射をするのは、非常に負担がかかるということがあります。(それに対してPBOSは、患者さまがご自分で検査をするためのデバイスで、在宅・遠隔医療分野での需要の増大に対応できるということで)それが(メリットの)1つです。

もう1つは、患者さまによっては、1回(抗VEGF製剤を)注射しただけで、1年近く網膜に浮腫ができてこなくて、そのまま落ち着いてしまう方もいる。あるいは、もう毎月注射しなければいけない方もいる。

それが現在のところ、どのような患者さまは頻回投与しなくてはいけなくて、どのような患者さまは1回だけでいいというのが、まったくわかっていないんです。医者が注射して様子を見ながら、だましだましで患者さまを1ヶ月後に拝見してどうか、2ヶ月後に拝見してどうか……というのを見ながら、結果的に治療しているという状況です。

この(スライドの)左側に書いてありますが、1回注射して、毎月患者さまに来てもらって、目の具合によってはもう1回注射する。それが本来、一番推奨されている治療法です。それだと、眼内注射の(年間)回数が7.7回ぐらいで、視力が8.0ぐらいに改善するというのが、真の臨床試験の結果から出ているということです。

現在の状況はどうなっているかということ、やはり毎月来ていただいて、「大丈夫ですよ」って帰すという意味では、患者さまに病院に来てもらって非常に負担が高い上に、せっかく来ても「今日は大丈夫だから、帰ってください」ということで、注射をしない。

そのような状況だと、医者の側も……とくにアメリカの場合ですが、患者さまに同じ20分〜30分の時間をとって、高額の注射をできるかできないかで、報酬の収益が非常に変わってくることから、本当に注射が必要な段階まで患者さまを呼び戻さないという傾向が、今はあるんです。だから、本当は毎月来てもらうといいのですが。

でも、かなり乾いていて網膜が水浸しになっていないと、「あなたは3ヶ月後でもいいですから、3ヶ月後に考えて(また病院に)来てください」というように、診察自体を毎月やらない状況にあるのがアメリカの医療ですし、日本の医療の現場でも、そのような方向性になっている。それは、「患者さまの負担を減らしたい」「自分の収益の最大化も図りたい」という、そのようないくつもの思惑が重なって、そのような状況になっているのですが。

結果として、その後に何が起こっているかというと、(眼内注射の年間の)投与回数が5.2回です。先ほどの毎月(来院の上、投与した場合を)見ていると、年間平均的に7.7回で、結果的に1年間で投与する結果になってたのですが、(現実としては年間で)5.2回の投与になっているということで、実際は少ない回数を投与している。

5.2回しか注射しなかった患者さまの視力を見ると、4.0しか改善していない。4.0しか改善していないということは、本来は7.7回投与すれば、8.0改善するにもかかわらず、十分な診察が間に合ってないために、結果的に低い視力療法で甘んじてしまっているという状況が、アメリカにはあります。

これを我々は、患者さまが毎回病院に来なくても、在宅で目の状態をリアルタイムでモニターして、本当に最適なタイミングで注射を受けることを可能にするということで、非常に注目されているといます。

もちろん(メリットは)これだけではありません。非常にこの加齢黄斑変性で難しいところは、患者さまもどんどん悪くなってきても、自覚症状で出てくるというのは時間がかかるんです。

ですから、本当にすぐ痛みが出るとか、何かわかりやすいものであれば(症状が)出た瞬間に病院に行くことができるのですが、実は加齢黄斑変性の網膜の腐死は徐々に起こってくるものですから、なかなか患者さまは気づかないんです。

でも、そのような状態になっていることを患者さまご自身も知りたいということで、そのような意味では(PBOSで)自分で網膜の厚さを毎日好きな時に測って、分厚くなっていなくてちゃんと薄いままだと知れるというのは、精神安定上でも、患者さまにとって非常に欲しい(ものだと)と言われているということです。

自覚症状が変わらなくても、網膜が厚くなってしまうことがあるので、実際の予後を良くするということだけでなくて、「自分の目の状態は、自覚症状が変わらないから大丈夫なんだな」というだけではなくて、「網膜が厚くなっていないこと」をご自分でいつでも確認できるというのは、非常に大きな価値があると患者さまが考えているということがありますので、我々はこの機械が普及するのではないかと考えています。

超小型OCTデバイスソリューション:PBOS

機械としては、このPBOSで患者さまが測定した結果がクラウドに上がって、自動的に診断されて、アプリにフィードバックされるということです。異常があった場合は、ドクターにもその情報が通報されて、患者さまにも伝えられて、速やかに病院に行ってもらうということで、注射のタイミングを伸ばさずに注射を受けられるということでございます。

臨床測定結果の一例

これが、我々の装置で網膜を測定した結果の一例です。2つあるピークの間の距離を測ることによって、網膜の厚さを測るということでございます。

超小型OCTデバイスソリューション:PBOS臨床試験開始

現在はこのように大型のデバイスで、中はスカスカなのですが、パーツの位置をずらしたり、いろいろ最適化できるような状態でのプロトタイプで臨床試験を行っています。アルゴリズムや、光のスキャンのする方向、あるいはスキャンやデータ解析の仕方についてデータを取りながら、今はデバイスの最適化を行っているということでございます。

今年度(2018年度)中に、この臨床試験を終えることを目指しています。(写真からおわかりのように)大きな箱ではありますが、横にいる人と比べるとこれぐらいの大きさで、中は本当にスカスカなんです。

パーツ自体は、全部小型のものを使って、調整しやすく人の手が入りやすいものを大きくして使っているということです。それを、今度はこの箱の中に詰めて、ミニチュアライズして、このような機械にして、これを世の中に出していきます。

超小型OCTデバイスソリューション:PBOS開発

2018年度中にこの小型化を行っていって、2019年度の認証・承認を目指していくということでございます。2019年度以降に、より多くの数を生産して世の中に出していくことを目指しています。

網膜色素変性

続きまして、網膜色素変性に関する遺伝子治療です。

「網膜色素変性」は、これもやはり遺伝的な病気で、(患者さまは)世界で4,000人に1人ぐらいいらっしゃって、約150万人が罹患している。これもまた、希少疾患の一部です。(8,000〜10,000人に1人の割合で発症する)スターガルト病よりは数が多いのですが、それでも希少疾患に属する疾患でございます。

スターガルト病も遺伝性の病気でしたが、これも同じです。違いは、周辺から見えなくなっていき、最後に中心まで見えなくなってしまう、外側から内側に(向かって)見えなくなる病気です。

スターガルト病は、最初は中心がやられて、外の方が見られなくなるのですが(網膜色素変性は)まったくその逆で、周辺から真ん中にきて(最終的に)真っ暗になってしまう。そのようなものが網膜色素変性ですが、これに関する治療法は、現在はまったくないということです。

遺伝子治療(オプトジェネティクス)

(それに対して行っている治療が)我々はオプトジェネティクス(遺伝子治療)です。

「オプトジェネティクス」とは、本来は光を感じることができない細胞に、光を感じる力を遺伝子導入によって起こすということで、非常に注目されている研究技術です。それは、脳の細胞の中に光を感じる細胞を入れて、その細胞に光を当てる(ということです)。

例えば、患者さまあるいは動物が「痛い」「暑い」「なんだか目が回る」とか、そのようなことの表現型によって……「この細胞は、そのようなことを発信するための細胞なんだな」ということをマッピングしていくために、もともとこの技術は開発されました。

それを、我々は眼科で応用して、目の中の細胞が死んでしまって見えなくなった時に、生き残っている細胞に、この「光を感じる力」(ロドプシン)を与えることによって、視力を再生・再獲得させることを目指しています。

遺伝子治療 - オプトジェネティクス技術①

現在やっているのは、Adeno Asociate Virus(アデノ随伴ウイルス)という(ウイルスベクターです)。

スパークという会社の「ラクスターナ」という薬(遺伝性網膜疾患の治療薬)が昨年(2017年)認可されました。あれは「レーベル先天性黒内障」という、またちょっと網膜色素変性とは違った病気ですが、その病気に対しての遺伝子治療も、AVの2というベクターで実行したということです。

そのような意味では、アデノ随伴ウイルスというのは、目において非常に遺伝子発現の効率がよく出ることが、確認されている。そのようなベクターを使いまして、ヒトロドプシンを(光受容体の位置も機能も近い)網膜の双極細胞に特異的に発現させることによって、視覚を再獲得する。

いったん見えなくなってしまった方を見えるようにしてあげるということを目指して、今は臨床試験の準備をしています。

遺伝子治療 - オプトジェネティクス技術②

これは動物実験のレベルではありますが、正常な動物(正常型)と、失明した後にこの遺伝子治療をした動物(治療マウス)と、完全に失明してしまった動物(失明したマウス)の行動実験を行いました。

モニターに、この(マウスの)天敵であるフクロウを見せた時に、失明したマウスはまったく反応しないのですが、正常なマウスと、我々の遺伝子治療で治してあげたマウスに関しては、逃げ回ることが確認されました。

「マウスに、どれぐらいの視力があるか?」というのは、なかなか厳密に測ることはできませんが、少なくとも行動実験からは、(失明したマウスが)何も動かなかったのが(治療マウスは)動いているということで、行動変化が非常にはっきりと起こっていますので、視覚が再獲得されていると、我々は考えているということです。

網膜色素変性:遺伝子治療開発

これも、我々は現在プロモーターとカプシドの網膜の中のバイポーラセルに、いかに特異的に発現させて、特異的に感染させるか。現在は、そのようなウイルスとプロモーターの最適化を行っております。

2020年からは、大量合成を行って臨床に使うCMCのマテリアルを合成して、それで安全性を確認した上で、2021年に最初の臨床試験を開始することを目指すという方向で、現在は開発を進めています。

続きまして、財務の説明をさせていただきます。そちらは、CFOの前川から説明させていただきますので、ちょっと交代させていただきます。

連結損益計算書の概要 (IFRS)

前川裕貴氏:それでは、第2四半期の決算概要につきまして、私前川からご報告させていただきます。

まず(スライドを)見ていただきまして、真ん中の黄色い部分が、第2四半期の決算結果です。みなさまもご存じのとおり、大塚製薬さまとの(共同開発)契約が解消されましたので、現時点では、まだ売上はございません。したがいまして、(事業収益に)バー(ー)を引いてございます。

事業費用なのですが、第2四半期は14億8,800万円となりました。これは対前年同期と比べまして、5億8,200万円の減少でございます。

その下の内訳を、大きく研究開発費と一般費用と分けてございます。やはりこの14億8,800万円の大半は、研究開発費でございまして、この第2四半期は10億9,400万円という数字になってございます。

一方、一般管理費は3億9,400万円でございます。右側に増減額が書いてございますが、それぞれ、開発費は2億500万円(の減少)、一般管理費は3億7,700万円の減少になってございます。

開発費は、当然時期によってアップダウンがございますので、その影響もあるのですが、開発のタイミングが一服したこともございまして、開発費が若干減少してございます。その他はこのような状況でございますが、費用はかなり削減しておりまして、そのようなコスト削減効果といったものも、研究開発費・一般管理費ともに発生してございます。

その他の特殊要因として、今期(2018年度)は前期(2017年度)まではIFRS移行プロジェクト・三角合併関連費用で、かなり金額が膨らんでいたのですが、このような要因が今回は剥離しますので、そのような減少要因もございまして、この(事業費用の)5億8,200万円の減少になっているということでございます。

営業損失ですが、事業費用と同じく14億8,800万円です。

最終損失は、わずかながら金融費用がございましたが、手持ち資金は安全性の高いもので運営してございますので、その費用が若干入って、損失も若干減っている格好でございます。

連結財政状態計算書の概要(IFRS)

バランスシートは、非常にシンプルな構造になってございます。

この(2018年)6月末の状況でございますが、総資産は121億3,500万円でございます。これは(2017年)12月末と比較しまして、半年で12億6,200万円の減少となってございます。

見ていただきますとおり、わりと弊社の資産のほとんどが現金(及び現金同等物)と言いますか、(金融)資産でございます。(表の)一番下に6月末の現金残高(手元資金)がございますが、現時点では115億9,900万円の現預金及び、それに相当する資産を持ってございます。

この減少ですが、事業運営費用は現金からの拠出でございましたので、その営業キャッシュフローのマイナスが12億7,900万円。

あと、今年の春に新株予約権を発行してございまして、それによる調達分が、6月末現在で3億1,400万円ございます。これが、いわゆる財務キャッシュフローで、プラス要因でございます。

予算と若干差額が出ているのですが、この内訳は、為替変動による為替差損でございます。

2018年度の見通しと資金調達

最後に、今期(2018年度)の見通しです。

今期は売上(事業収益)はゼロで、営業利益はマイナス35億円、税引前利益は(マイナス)33億7,000万円。同じく、当期利益もマイナス33億7,000万円となっております。

簡単ではございますが、財務の内容は以上でございます。