円安メリット銘柄8選、海外売上比率7割超から9割の業績押し上げ期待株【後編】
円安が株価の追い風になる3つの理由を解説したこの記事の前編「円安メリット銘柄8選、海外売上比率7割超から9割の業績押し上げ期待株【前編】」に続き、ここからは、足元の業績押し上げ効果が出やすい企業や、中期的に円安メリットが拡大すると期待される企業など、8銘柄について事業の概要と為替との関係を整理します。
1. 住友林業(1911)海外売上6割超の木材大手
住友林業は、森林・住宅・不動産を世界展開する木材大手です。米国・豪州などの住宅事業が伸び、売上の6割超を海外が占めます。主力の住宅販売はドルや豪ドル建てが多いと考えられ、円安時には円換算の売上・利益が増えやすい構造です。また、2024年12月期の決算概要資料には「円安の進行もあり増収増益」とあり、円安が業績押し上げ要因であることが明示されています。一方で、円安は輸入木材のコスト上昇を招くマイナス面もあるため、為替の影響はプラス・マイナス両面を意識する必要があります。
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2. 東京応化工業(4186)海外売上比率83.8%のフォトレジスト世界大手
東京応化工業は、半導体製造に欠かせないフォトレジストで世界トップクラスのシェアを持つ化学メーカーです。2024年12月期の売上高約2,009億円のうち、海外売上比率は83.8パーセントとされています。有価証券報告書にも「外貨建ての金銭債権債務を抱えており、為替ヘッジを行っている」旨が記載されています。顧客の多くは台湾・韓国・米国などの半導体メーカーであることから販売の多くが外貨建てであると考えられ、円安時には円換算売上と利益が押し上げられやすい典型的な円安メリット銘柄です。
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3. トレックス・セミコンダクター(6616)外貨建て売上比率69.4%の電源IC大手
トレックス・セミコンダクターは、電源ICを中心とするアナログ半導体メーカーで、自社工場と外部ファウンドリの「いいとこ取り」で事業を展開しています。2025年3月期の決算説明資料では、海外売上高比率(外貨建て売上比率)が開示されており、アジア・欧州・北米向けが合計で6割超を占めます。2024年3月期の外貨建て売上高比率は69.4パーセント。汎用アナログ半導体の国際取引はドル建てが中心であり、円安局面では海外収益の円換算額が増え、業績回復を後押ししやすい構造です。
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4. インスペック(6656)海外売上拡大で円安メリット期待の検査装置メーカー
インスペックは、半導体パッケージ基板やフレキシブル基板向けの外観検査装置を手がけるメーカーです。顧客は先端パッケージの量産を進める海外半導体メーカーや基板メーカーが増えており、受注の国際分散が進んでいます。現時点では国内向けの比率も高く、円安による利益押し上げ効果はまだ限定的ですが、中期的には海外売上高の拡大を掲げています。ハイエンド基板需要の波に乗って海外比率が高まれば、円安局面でのメリットも徐々に大きくなると考えられます。
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5. 小松製作所(6301)海外売上比率91%、為替影響+1,745億円の建機世界大手
小松製作所は、「コマツ」ブランドで建設機械・鉱山機械を世界展開する総合建機メーカーです。個人投資家向け説明会資料によると、2025年3月期の連結売上高4兆1,044億円のうち、建設機械・車両事業を中心に海外売上比率は91パーセントに達しています。また、2024年度の決算説明資料では「為替影響+1,745億円を含む」と円安が売上・利益をどの程度押し上げたかが定量的に示されています。北米・中南米・オセアニアなど資源国向けの売上が大きく、ドル建てを含む外貨建て取引が多いと考えられるため、円安になると海外利益の円換算額が増加しやすく、典型的な円安メリット銘柄です。
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6. AeroEdge(7409)米ドル建て売上中心、為替感応度を明示する航空機部品メーカー
AeroEdgeは、航空機エンジン向けチタンアルミブレードを製造する部品メーカーです。製品は海外エンジンメーカー向けの供給が中心で、IR資料では売上高の多くが米ドル建て取引とされています。また、為替感応度として、ドル1円の円安で年間1,900万円から2,300万円程度の利益押し上げ効果を見込むと説明されており、為替動向が業績に与えるインパクトが明示されている点も特徴です。
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7. ジャックス(8584)ASEAN4カ国展開、外貨建て資産の評価差益が期待できる信販会社
ジャックスは、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の信販会社で、クレジット、ペイメント、ファイナンス、海外の4事業を展開しています。国内事業が営業収益の約8割強を占める一方、ベトナム・インドネシア・フィリピン・カンボジアのASEAN4カ国で二輪・四輪ローンを展開し、マレーシア中古車ファイナンスにも進出するなど、海外事業を成長ドライバーと位置づけています。海外事業は現地通貨建ての貸付が中心だと考えられ、外貨建て資産の円換算残高が増えることで、円安局面で営業収益が押し上げられる側面があります。前述した「外貨建て資産や設備の評価差益」に近いかたちで、円安メリットが表れやすいビジネスモデルと言えます。
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8. リックス(7525)海外売上96億円目標、インド工場設立で円安メリット拡大へ
リックスは、産業機械や工場設備向けの機器販売と、自社製品の製造を組み合わせた「メーカー機能を持つ機械商社」です。中期経営計画「GP2026」では、連結売上高600億円のうち96億円を海外販売で稼ぐことを目標としており、インド工場の設立などを通じて海外売上比率の拡大を掲げています。現時点では国内向けが主力ですが、EV・電池工場向け設備など海外案件の比重が高まるほど、円安局面で海外売上の円換算額が膨らむ余地が大きくなると考えられます。
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為替感応度と需要環境の両面から投資判断を
円安メリット銘柄は、足元の円安環境とグローバル企業の収益拡大を同時に取りにいけるテーマとして、個人投資家からの関心も高い領域です。ただし、本稿で見たように、単に「海外売上が多いから買い」という単純な話ではなく、どの通貨で売上・コストを計上しているか、為替ヘッジをどの程度行っているかによって、業績へのインパクトは大きく変わります。
決算説明資料などで「海外売上比率」や「想定為替レート」「為替感応度」などを確認し、1ドルあたり何円までなら業績に追い風か、どこからは為替の振れがリスクに変わるかをイメージしておくと、テーマ投資としての解像度が高まります。あわせて、それぞれの企業が置かれている需要環境(半導体サイクル、航空機の更新需要、ASEANのクレジット需要など)も確認し、円安が「追い風をさらに強める要因」なのか「向かい風を和らげる程度の要因」なのかを考えることで、さらなる投資の成果を得られるはずです。
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執筆者プロフィール
執筆:西田哲郎ライター・コンテンツディレクター。投資歴15年。『神の手』の某社で大きな損失を出したことをきっかけにイナゴを卒業、ビジネスモデルとファンダメンタルズ重視の手法に切り替える。業界紙やスタートアップを経てフリーで投資情報メディアやM&A情報サイトの立ち上げに関わり、現在は主に週刊誌で投資や経済関連の記事を執筆。
※記事内容、企業情報は2025年12月5日時点の情報です。
※当記事内容に関連して投資等に関する決定を行う場合は、ご自身の判断で行うものとし、当該判断について当社は一切の責任を負わないものとします。なお、文中に特定の銘柄の投資を推奨するように読み取れる内容がある可能性がございますが、当社および執筆者が投資を推奨するものではありません。


