本日お伝えしたいこと

長坪正樹氏(以下、長坪):artience株式会社執行役員グループ経営部部長の長坪です。グループ経営部でIRを担当しています。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。今回のIRセミナーを通して、当社に関心を持っていただければ幸いです。

本日お伝えしたいことは、大きく3つです。1つ目に、当社はこれまで「東洋インキSCホールディングス株式会社」という名前で活動してきましたが、2024年1月から「artience株式会社」へ社名を変更しています。これにより、会社を変えていくということです。

2つ目に、インキ等の材料に加え、現在はEV向けのリチウムイオン電池用材料に注力しています。こちらが今後、数年間の成長の柱となっていきます。

そして3つ目に、安定配当に加え、利益成長に合わせた株主還元の実現を考えているということです。

本日のご説明内容

長坪:スライドは、本日のご説明内容です。会社概要、そして今後の事業展開、最後に株主還元についてご説明します。

artienceについて

長坪:まず会社概要です。当社は創業が1896年で、100年以上の歴史を有する会社です。2023年度の売上高は約3,200億円、社員数が約8,000名の、東証プライムに上場している化学メーカーです。

動画

長坪:ここで、動画をご覧ください。

社名を変更しました

長坪:スライドに記載したとおり、当社は2024年1月に「東洋インキSCホールディングス株式会社」から「artience株式会社」へと、大きく名前を変えました。

なぜ社名を変えたのか-変革に向けて-

長坪:なぜ社名を変えたのかといいますと、当社はもともと、印刷インキメーカーでした。その過程で、自動車向けの素材やエレクトロニクス向けの素材などを提供することで、スペシャリティケミカルメーカーとして活動してきました。

しかし、例えばデジタル化の推進など、昨今の事業環境の変化を受け、当社も提供する技術や製品・サービスを変えていかなければならないと考えました。そこで、今回「artience」へと名前を変えることになりました。

この「artience(アーティエンス)」は、Art(アート)とScience(サイエンス)を掛け合わせた造語です。Artは「人の心を動かす」「ワクワクさせる」ことを象徴し、Scienceは「技術」や「機能」を象徴しています。

これらを組み合わせ、「感性に響く価値」と「人の心を動かすようなモノ」を届けていきたいと考えています。

セグメント別事業構成比

長坪:当社の事業は大きく4つのセグメントがあります。スライド左側に記載した「印刷・情報関連事業」「パッケージ関連事業」が、インキを主体にしたセグメントです。

スライド右側に記載した「色材・機能材関連事業」が、インキの原料である顔料をもとに発展してきたビジネス、そして「ポリマー・塗加工関連事業」が、インキの原料である樹脂をベースに発展してきたビジネスです。

スライド中央の円グラフの外側は、売上高の構成を示しています。今は約4分の1ずつになっています。円グラフの内側は、営業利益の割合を示しています。今はインキ以外のビジネスで、半分以上を稼ぐ会社となっています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):御社はインキメーカーから出発し、インキ以外の事業も広げ、社名も変更されたというお話でした。ご説明にあった売上高と営業利益の構成比率ですが、近年はコロナ禍などで、インキ以外が伸びていることもあると思います。このような変化について教えてください。

長坪:1990年くらいまでは、インキ系のビジネスが7割程度を占めていました。その後、色材・機能材関連事業やポリマー・塗加工関連事業といった、インキ以外の割合が増え、2010年代に入ると、構成比率は半々くらいとなってきました。

ただし、印刷の中でも紙の印刷は新聞なども減っているため、その割合が減ってきていますが、逆にパッケージ関連事業は増えてきています。

坂本:非常によくわかりました。この後、新しい取り組みの話も深掘りしてお聞きしたいと思います。

海外売上高比率は50% 以上、更なる拡大を目指す

長坪:スライドは、当社のグローバルネットワークです。現在、世界24ヶ国以上で事業を展開しており、2023年度の海外売上高比率は53.7パーセントとなりました。この傾向は、今後も強まっていくと考えています。

スライドに記載したとおり、中国、東南アジア、インドなどのアジア、それ以外にもヨーロッパ、アメリカ、メキシコ、ブラジルなどで事業を展開しています。

坂本:スライドを見ると、売上高の半数超が海外になっています。インキメーカーは、海外展開が早かったと思うのですが、御社はいつ頃から展開したか教えてください。

長坪:実は、戦前には中国、台湾、韓国に拠点を持っていました。戦争でいったん引き上げましたが、1960年代からスタートしています。1961年に、香港に事務所を構えたのが最初です。

坂本:アジアからスタートされたということですね。現状、海外で売上が一番多い地域はどこですか?

長坪:今は中国で、400億円超くらいの売上を計上しています。

坂本:インキ事業以外で、大きな追い風となったものはありますか?

長坪:中国の場合は、インキ事業が比較的大きいです。

坂本:なるほど、そのような状況なのですね。非常にイメージが湧きました。

インキから発展した3つのビジネス

長坪:ビジネスについて、ご説明します。先ほどお伝えしたとおり、当社はインキメーカーからスタートしています。その原料である、顔料から発展した顔料系のビジネスと、色をくっつける役割の樹脂をベースにした事業も展開しています。

当社製品と対象市場

長坪:具体的には「顔料系ビジネス」「樹脂系ビジネス」「インキ系ビジネス」に区分けしています。

スライドの左側に記載したのが、顔料系ビジネスです。例えば、シャンプーのボトルや飲料缶のキャップ、プリンターのようなOA機器に使われる着色剤や印刷インキ、自動車の塗料の顔料、大型パネルのレジストインキ、そして、現在当社が一番注力しているEV用の電池材料が、顔料系のビジネスになります。

スライドの中央は、樹脂系ビジネスです。先ほど、「色をくっつける役割をする」とお話ししましたが、色を除くと接着剤の役割になります。

このような技術を用いて、缶詰や飲料缶の内面・外面を保護するコーティング剤、包装パッケージ、エレクトロニクスの部材を貼り合わせる接着剤・粘着剤、そして、それを塗工して導電性を付与した、モバイル用の機能性フィルムなどを展開しています。

スライドの右側、インキ系ビジネスでは、新聞・雑誌用のインキ、ラベルやお菓子の袋・プラスチックの袋に使われるインキを展開しています。

当社の技術力:コア素材・技術融合で事業領域拡大

長坪:「なぜこのように幅広い事業を展開できているのか?」という問いに対する答えの1つは、当社の技術にあると考えています。

インキ事業からスタートして、色の原料である顔料や、くっつける役割である樹脂を自前で製造するようになりました。素材を合成する技術を培い、それらを組み合わせた製品を展開しています。

インキはそれらを混ぜ合わせる「分散」を行います。単に混ぜ合わせることは、簡単だと思われるかもしれませんが、顔料はナノサイズという非常に細かいものです。しかも、樹脂は非常に粘度が高いため、それらを均一に混ぜ合わせていくのは難しいことです。

例えば、小麦粉とハチミツを均一に混ぜ合わせるのが難しいことは、想像いただけると思います。それをナノサイズで培ってきたということです。

この色の代わりに導電性の素材を混ぜ合わせると、エレクトロニクス用のフィルムに使われます。また、色を調整したり細かく分散したりして透明度を高める「光の制御技術」は、ディスプレイ用の材料に使われてきました。

坂本:これは御社の技術が積み上がった結果だと思います。インキからこのようなかたちへと進化する過程には、きちんとした基礎研究があったと思いますが、外部の方との連携などもあったのでしょうか?

長坪:当社は、もともと輸入した顔料などを使って、インキの製造・販売をしていました。それを自前で製造したことに加え、1950年代にはインターケミカル社(現・BASF社)と技術連携したことで、合成の技術を導入し、広げてきたということです。

坂本:技術の深堀りや提携、発展に加え、用途の広がりも増えてきていると思います。これだけ技術が溜まっていると、御社から提案することが多いのか、「このようなものを作ってください」とお願いされることが多いのか教えてください。

長坪:歴史的には、お客さまとの付き合いの中でリクエストがあり開発したケースもあれば、当社から新しく開拓したケースもあると思います。

生活に密着した製品群―ニッチ分野で数多くの高シェア製品-

長坪:当社は東洋インキ時代、またartienceとしても、消費者のみなさまと直に接することが少ないのですが、実はみなさまのご家庭にも、当社の製品を使ったものがたくさんありますのでご紹介します。

スライドにシェアが高い製品群を記載しました。日本シェアNo.1には、例えば金属インキがあります。こちらは日本国内で90パーセントくらいのシェアがあります。コーヒーやビールの缶への印刷は、当社の金属インキの可能性が非常に高いということです。

世界シェアが高いものとしては、大型テレビやパソコンのディスプレイ用のレジストインキがあります。また、スマートフォンには導電接着シートが使われており、こちらは50パーセントくらいのシェアがあります。

今後新たに提供していきたい“感性に響く価値”(事例)

長坪:このような製品群に加え、今後提供していきたいものとして、アサヒビールの「生ジョッキ缶」をご紹介します。

みなさまご存じかと思いますが、「生ジョッキ缶」は、蓋を開けるとシュワシュワと泡立ち、生ビールのような泡が出てきます。実は、この内面の塗料が当社の製品です。こちらはアサヒビールと共同開発したものです。もともとは、泡が出すぎてしまう失敗作でしたが、泡をコントロールすることで、生ビールのような泡立ちを実現しました。

このように、開けた瞬間に人を驚かせる、感性に響くものを、今後さらに提供していきたいと考えています。

最新の業績動向(2023年度通期)

長坪:今後の事業展開についてご説明します。スライドは直近の業績です。緑の棒グラフが売上高、灰色が営業利益となっています。ここ数年の売上高は、2019年度の2,800億円くらいから、2023年度におよそ3,200億円まで伸びてきました。

ただし、営業利益は130億円前後で推移しており、2022年度は69億円です。こちらは原材料高騰の影響を非常に大きく受けました。しかしながら、2023年度は134億円まで挽回しています。

今年からartienceとしてスタートし、新しい中期経営計画をスタートさせています。2026年には、売上高4,000億円、営業利益250億円にジャンプアップする計画です。

荒井沙織氏(以下、荒井):価格改定の影響はどのくらいあったのでしょうか?

長坪:2021年から2023年にかけて、原材料が非常に高騰しました。この期間に価格改定しています。原材料あるいはエネルギーコストの高騰が、3年間で318億円ありました。しかし、トータルとして313億円の価格改定を行ったことで、高騰分をほぼ打ち返した結果となっています。

荒井:よく聞かれる質問かとは思うのですが、御社の為替感応度はどのくらいでしょうか?

長坪:当社は海外の売上が多くなっているため、1ドル円安になると、営業利益としてだいたい6,000万円ぐらい上振れることになります。

経営計画 artience2027/2030 “GROWTH”

長坪:先ほどお話しした、新しい中期経営計画の全体像をスライドに示しました。当社は心豊かな未来、あるいは持続可能な社会に貢献することを目的にしています。そして、企業価値を最大化していくことを目指しています。

2029年度末には、ROEを10パーセント以上にするという目標を掲げ、中期経営計画の最初の3年間となる2026年度末までには、売上高4,000億円、営業利益250億円、ROEは7.0パーセント以上を目標としています。

この目標を実現するための考え方として、事業ポートフォリオの変革、資本効率とキャッシュフローの最大化、それを支える企業基盤構築とサステナビリティ経営の実践を掲げています。この考え方に基づいた基本方針について1つずつご説明したいと思います。

坂本:中計の大枠について少しおうかがいしたいのですが、こちらには計画予定されているM&Aは含まれているのでしょうか?

長坪:現時点で予定して入れているものはありません。

坂本:「予算計上していますか?」という質問でしたが、それほどないということですね。では、もしもM&Aがあれば、そこはぶれるということでしょうか?

長坪:おっしゃるとおりです。

坂本:不採算事業の整理と戦略再構築はどのあたりを行うのでしょうか? この後のご説明で出てくるかもしれませんが、頭出しで構いませんので教えてください。

長坪:戦略を再構築していく必要があるものとしては、今、情報出版系の市場が縮小していますので、それに該当するオフセットのインキ、特に日本国内のインキの事業は再構築していくことになると思います。現在は、例えば生産のアライアンスなどを進めています。

坂本:ありがとうございます。スライドの戦略的重点事業群にある、モビリティ・バッテリーの領域は、景気や政策の影響を受けやすい部分だと思います。集中的な投資をされる部分もあると思うのですが、その回収は今後市場規模が伸びていくことで可能なのでしょうか? また、それが少し落ちてしまった時も大丈夫なのかなども含めて教えていただけますか?

長坪:後ほど詳しくご説明したいと思いますが、中長期的にはEVの自動車が広まっていくことにより、その中で回収はできると考えています。

基本方針(1)(2)による事業ポートフォリオ変革

長坪:それでは基本方針(1)と(2)についてご説明します。

スライドの右側中央あたりに基本方針(1)「高収益既存事業群への変革」と記載しました。これは、既存の事業を成長事業、収益基盤事業、構造改革・戦略再構築事業に分け、それぞれに適した戦略を行っていくものです。

この中で特に成長する事業は、海外エリアで伸ばしていこうと考えています。既存の事業で、2023年度107億円だった営業利益を2026年には140億円に、特に成長事業の営業利益を65億円から90億円に伸ばし、成長させようというものです。

基本方針(2)の「戦略的重点事業群の創出」では、モビリティ・バッテリー分野とディスプレイ・先端エレクトロニクス関連市場の2つを特に取り上げ、そこに集中していこうというものです。昨年度の営業利益27億円から110億円に伸ばすという意欲的な計画となっています。

このように、海外への拡大など市場を変える、製品を変えることなどにより、全体の事業ポートフォリオを変革していこうという計画です。

基本方針(1)高収益既存事業群への 変革:成長事業の代表例

長坪:既存事業における成長事業をご紹介します。簡単にお伝えすると、包装パッケージ用の材料を海外市場で拡大していこうという計画です。パッケージ市場は、人口が増える、あるいは経済が成長することに伴って拡大していくとみられています。

例えばインド、東南アジア、あるいは北米などの市場では、人口も増え、経済成長も見込めます。ここ数年、このようなエリアでグラビアインキ、粘着剤、ラミネート接着剤などに必要な設備をかなり増強しています。今後3年間は、その設備の稼働を増やし、成長していこうというものです。

坂本:御社は新興国で、グラビアインキを含めて拡販していくということですが、ライバルがかなり多いという事業ではないかと思います。

新興国における強みとして、すでに生産施設を整えたことが1つあると思います。それ以外に考えられそうな強みについて教えてください。昔からけっこう地盤ができていることもあると思いますが、そのへんを含めて教えてください。

長坪:おっしゃるとおり競合他社はありますが、これからそのような地域でも、品質が良いパッケージが求められると考えています。例えばレトルトの袋に使うような製品や、環境調和型製品が求められてくるということで、いち早く投入することを考えています。

また、当社はインキだけではなく、包装に使うラミネート接着剤も持っていますので、このようなものもあわせて提案していくことで、差別化を図っていきたいと考えています。

基本方針(2)戦略的重点事業群の創出

長坪:基本方針(2)です。こちらは戦略的重点事業群ということで、先ほども触れましたが、モビリティ・バッテリー関連事業と、ディスプレイ・先端エレクトロニクス関連事業に注力していきます。

モビリティ・バッテリー関連事業では、後ほどご説明するリチウムイオンバッテリー用のCNT、カーボンナノチューブの分散体に加え、接着剤や全固体電池用の材料の開発なども進めています。このようなものによって事業を拡大していこうと考えています。

ディスプレイ・先端エレクトロニクス関連事業では、現在、主にLCD用レジストというものを展開しています。それに加えて光学粘着剤、機能性フィルム、センサ用のレジストも展開していきます。さらに半導体関連の材料も開発を進めていますので、これらの実用化を進めていきたいと考えています。

基本方針(2)モビリティ・バッテリー関連事業:LiB用CNT分散体①

長坪:続いて、モビリティ・バッテリー関連事業の目玉であるCNT分散体についてご説明したいと思います。

スライド右下の写真は、当社が提供している製品はカーボンナノチューブを分散した液体です。この製品が、スライド左下の図にあるようなLiB電極の正極材の中に使われています。正極材の中には正極活物質があり、これがニッケルやコバルト、マンガンと呼ばれるもので、電気の容量を決めています。

図の中に正極活物質をつなぐ黒い線がありますが、これが当社のCNTの助剤です。導電性を助け、導電助剤の役割を果たし、リチウムイオンバッテリーの高容量化ができます。電気自動車の航続距離が伸びることなどに貢献するものです。

このカーボンナノチューブは非常に細かい、細長い線のようなもので、分散すると壊れてしまうという性質があります。それをいかに壊れないようにうまく分散するか、いかに正極活物質にくっつけるかが重要になり、そこに当社の技術が活きています。

坂本:電池の高容量化やEVの航続距離の伸長に寄与ということですが、これによって従来品と比較してどのぐらい効率化されたのかを教えてください。

長坪:おそらく従来品というのは、今もあるカーボンブラックを分散したものですが、それに比べると、大まかに言って数倍程度の導電です。

坂本:すごいですね。コストはやはりまだけっこう高いのでしょうか?

長坪:カーボンナノチューブ自体が高いため、高価にはなります。

坂本:なるほど。現状では高級品から採用という感じになっているのですか?

長坪:高級品が多くなっています。ただ、導電助剤自体の量はカーボンブラックの分散体よりも低く抑えられるというメリットはあります。

基本方針(2)モビリティ・バッテリー関連事業:LiB用CNT分散体② 分散をコア技術とした進化の歴史

長坪:こうした技術をどのように培ってきたかというと、当社は顔料分散をしてきたため、これが自動車の塗料に使われてきた経緯があります。

その後、データストレージの黒いテープの部分にカーボンブラックの分散体として使われていたところから発展させ、2015年代にカーボンブラックの分散体をハイブリッドの自動車用に提供したことからこの技術が始まっています。

このように、当社は他社に対して分散という点で技術力があると考えています。

坂本:このカーボンナノチューブはどこかから買ってくるのではなく、御社がイチから作られるのですか?

長坪:今は購入品を使っています。

坂本:購入したものを加工して提供しているということですね。御社と同様にCB分散体を使った手法で、電池を含めた開発を行っているメーカーはあるのでしょうか?

長坪:大きいところでは、韓国にAdvanced Nano Products社、中国にCnano社があります。

坂本:ずっと各国で開発競争もされているような状況なのでしょうか?

長坪:そのような状況です。

坂本:将来的にさらに汎用品まで広がると、電池に関してみんながかなりハッピーだと思うのですが、やはりなかなか生産コストを下げていくことは難しいのですか?

長坪:そうですね。ただ、生産を続けていくことで生産の効率を上げていくことはまだ可能だと思います。

坂本:すると、あとはカーボンナノチューブ自体の仕入れが下がってくれば、というイメージでしょうか?

長坪:そのとおりです。

基本方針(2)モビリティ・バッテリー関連事業:LiB用CNT分散体③ 事業概況と今後の計画

長坪:続いて、この事業の計画についてご説明します。2021年度から売上が立っており、2021年度は11.5億円、2023年度は52億円の売上でした。

EV自動車が広まるということで、2025年、2026年には200億円、400億円と大幅に増えていく計画になっています。この設備投資も250億円で計画していたものを、目標に合わせて490億円に増やしています。

坂本:これはかなり大きいのですが、ほとんどのEV電池にカーボンナノチューブを使った素材が入っているという条件での目標でしょうか? EV電池の中でも高級品にしか入っていないという条件なのでしょうか?

長坪:そうですね。今は高級品を中心とした採用となっています。その他の部分では主にカーボンブラックの分散体が使われています。

坂本:高級品の台数が伸びていくことと、汎用まではいかないとしても中上級ぐらいの車種までカーボンナノチューブが採用されていくということも絡んで、今回の予想になっているという理解でよろしいでしょうか?

長坪:おっしゃるとおりです。アメリカで2025年から新しく採用が決まっているものや、中国の大手バッテリーメーカーで、今年の中頃から採用が決まっているものなどがあります。

坂本:では未来の話ですので、実際にそうなるかはわかりませんが、さらに伸びる可能性もあるという意味ですよね?

長坪:そのように考えています。

坂本:これは非常にいいことだなと思います。現状、すでにすべてのものに使われているのであれば、ただ市場規模だけ見ていればいいというところですが、今はそのような状況なのですね。

長坪:CNTの分散体自体が増えていく方向で考えています。

基本方針(3) 経営基盤の変革

長坪:続いて基本方針の(3)として、こうした事業活動を支える経営基盤の変革についてもESGの観点でご説明したいと思います。「E」の環境では、化学メーカーとして2050年にはカーボンニュートラルを達成するために、サステナビリティビジョン「asv2050/2030」を推進しています。

現在、2030年には、2020年と比べてCO2を35パーセント削減しようと活動しています。「S」では、このような変革を進めるために、やはり人がとても重要だということで、人的資本の強化も進めていく考えです。

特に多様性も重要で、2024年からDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を専門で進める推進室も設けて活動しています。

最後の「G」、ガバナンスとしては、このようなIRの強化などを行い、透明性を高めることでガバナンスを強化していきます。また、保有株式もある程度持っているため、前回の中期経営計画でも131億円削減していますが、本中期経営計画でも100億円以上削減する計画です。

株主還元について① 資本政策およびキャッシュアロケーション

株主還元についてです。スライドは中計期間のキャッシュアロケーションで、左側の図はキャッシュインについてです。3年間の営業キャッシュフローが700億円になります。

それ以外に資金調達に関しては、日本政策投資銀行からリチウムイオンバッテリー用事業へ150億円の資金調達が決まっています。先ほどご説明した保有株式等の売却が100億円以上となる予定で、合わせて950億円以上のキャッシュインを見込んでいます。

それに対してキャッシュアウトとしては、投資が600億円で、そのうちの半分はLiB関連投資に使用する計画です。

株主還元は200億円となっています。純利益が400億円に対して200億円となり、還元性向50パーセント以上は確保していきます。

株主還元について②

当社は株主優待制度も導入しており、食品等のギフトが選べる制度を設けています。配当等については、ここ数年、1株あたり90円の安定配当を維持しています。加えて、2021年度、2022年度には計107億円の自社株買いを実施し、今後もこのような還元を続けていき、総還元性向は50パーセント以上を維持する考えです。

また、2026年度は営業利益の目標が250億円で、純利益は175億円ほどになる予定ですので、安定配当に加えて増配あるいは自社株買いで還元していく考えです。

坂本:増配か、自社株買いかの判断というのは、その時の株価や利益が恒常的なものであるかなどを含めるイメージでよろしいですか?

長坪:そうですね。その時々で判断していきたいと考えています。

株価トレンド

長坪:当社の株価のトレンドについてです。スライドのグラフは、2023年4月を起点として指数化したものです。こうして見るとTOPIXと比較して、当社の株価が現在上がり基調にあることがご覧いただけると思います。

2023年4月に2,080円だった株価が、現在3,030円まで上がってきていますが、PBRはまだ0.6倍、0.65倍となり、まだ割安な状態だと考えています。

坂本:「リチウムイオン電池用CNT分散体事業説明会を開催」とありますが、機関投資家向けに開催されたのでしょうか? それとも個人投資家も参加可能だったのでしょうか?

長坪:こちらは2023年8月に機関投資家向けに開催しています。書き起こし等が公開されていますので、ぜひご覧ください。

坂本:2023年8月開催のため時間が経っていますが、その後に進展した開発や販路開拓などもあると思います。説明会は定期的に開催されるのでしょうか?

長坪:その方向で考えています。決算説明会も以前は2回しか実施していなかったのですが、今年は計4回、四半期ごとに開催しています。こうしたリチウムイオンバッテリーに関連する事業報告も実施していきたいと考えています。

本日お伝えしたいこと

長坪:最後のまとめです。本日お伝えしたいことは「東洋インキSCホールディングス」から「artience」に名前が変わり、事業も変えていく、会社も変えていきますということです。また、EV向けリチウムイオン電池用材料が成長の柱になっているということです。

株主還元については、安定配当と利益成長に合わせた株主還元を行っていきます。当社について、関心を持っていただければ非常にありがたく思います。

質疑応答:PBR1倍割れの対策について

坂本:「PBR1倍割れの対策はされてますか?」というご質問です。一番効果的なのは増配かと思いますが、配当が高いことも評価されているので、そこも含めてもう少し教えていただけますか?

長坪:もちろん株価に関連している部分では、株主還元が重要であると考えています。それについては総還元性向50パーセント以上と表明しています。

ただし、当社としては、収益力を高めていくことが必要だと考えており、今までご説明してきたような事業ポートフォリオの変革であったり、集中して伸ばしていく事業、例えばLiBの事業で収益を上げていくことが必要だと考えています。

加えて、資本政策で持っているものを減らすために、保有株式の削減や、社内のCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)改善目標、ROIC指標をセグメントごとに使って効率化を図るなどして、ROEを上げていきます。結果としてみなさまにもご評価いただくことを考えています。

質疑応答:バイオメディカル向け機能性ポリマーの販路について

坂本:「バイオメディカル向け機能性ポリマーは、基礎研究への販路を考えていますか?」というご質問です。

長坪:まだ新しく開発を始めた事業ですが、現段階では商用で自社販売していくことを考えています。今後のマーケティング次第では、基礎研究への開拓も考えられると思います。

質疑応答:ディスプレイ用の需要について

坂本:「最近はパソコンがあまり売れていないという話もあります。コロナ禍にかなり大きな需要がありましたが、最近のパソコンはすぐに買い替えしなくても良く、ディスプレイを含めて落ち込んでいる部分があると思います。この先の需要は戻ってくるのでしょうか?」というご質問です。

長坪:2022年度後半頃から、パソコンを始めとした中小型パネルの需要は落ちています。直近で少しずつ戻ってきていますが、パソコンだけではなく、車載用モニターの需要などが新たに生まれています。そのような分野に製品を提供することで、当社の事業自体は維持拡大していきたいと考えています。

坂本:御社のディスプレイ用の原料は、ハイエンドなものから汎用まで全部強いのでしょうか? それともどこかが強いという強みはありますか?

長坪:そのような意味では、ハイエンドに強いことになるかと思います。

坂本:それは高精細な部分も含めて、小型化という部分ですか? 

長坪:売上としては大型パネル向けがやはり多く、7割ぐらいを占めています。中小型向けは3割ですが、利益としては中小型向けで約6割を稼いでいるような状況です。

坂本:大型ですと、もちろんテレビとかも含まれますよね? 

長坪:そうですね。

坂本:おそらく、みなさまもイメージが湧いたかと思います。

質疑応答:インドへの投資について

坂本:「海外ではインド市場が今後ますます成長していくと思いますが、グローバル展開で見た時に、インドへの投資を特に重点的に行っていく方向性はお持ちでしょうか?」というご質問です。

長坪:ご指摘のとおりです。今、インドではデリーに最初の工場と、グジャラートというところに第2工場を設けています。実は最近もニュースリリースを出したのですが、そのグジャラートで粘着剤の追加投資をする予定です。

質疑応答:海外拠点の懸念点や対策について

坂本:「先ほどのお話でも御社は戦前から続いており、戦後も1960年代から海外に出られているという話ですが、海外拠点における懸念される問題・リスク、対策などがあれば教えてください」というご質問です。

長坪:海外拠点では、例えば地政学上のリスクは、常に頭に入れて対応していかないといけないと考えています。例えばウクライナでの紛争などが、原油、原料の調達、あるいは商売そのものにも影響しますし、中国と米国の摩擦などもリスクにはなります。

質疑応答:中国の景気減速による影響について

坂本:「中国の景気減速による影響はありますか?」というご質問です。お話できる範囲で、例えばこのような製品が落ちているとか、逆に不況になったことで売れ筋が変わっているなどがあれば教えていただけたらと思います。

長坪:やはり中国の市況が全体的に沈んでいる影響は受けています。現在は大型パネルの大きな市場が中国のため、その影響を大きく受けています。パッケージなどの一般消費財も全体的には落ちています。そうした中でも、当社品のシェアを拡大することで対応していこうと考えています。

質疑応答:株主への配当について

坂本:「株主としては増配していただいて配当利回りを求めたいのですが、あくまでも安定配当なのでしょうか?」というご質問です。現状ではかなり配当性向も高い状況にあり、ここから増配というよりは利益が増えていき、それをスライドしていった結果、増配になるというイメージの方向性で合っていますか?

長坪:それで合っているかと思います。

坂本:その場合、確かに下限の配当性向をつけていると、自動的に利益が上がれば増配になるかと思いますが、そのあたりはいかがですか? あえて総還元性向でというかたちで示されることになりますか?

長坪:現在は総還元性向で進めており、安定配当に加えて、例えば自社株買いがどれぐらいできるかを見ながら、増配についても検討していくことになると思います。

坂本:ありがとうございます。最近はつみたてNISAなども含めて、普通の成長枠で株を買うのですが、高配当投資はかなりブームになっているので、おそらくこのような質問が来るのかと思います。

質疑応答:海外の同業他社との状況について

荒井:「海外の売上比率が高いことは、持続的な成長の点で株を買いたくなる理由となります。海外の同業他社との状況について教えてください」というご質問です。

長坪:例えば、当社は今期中計でアジア地域に特に注力していこうと考えています。例えば競合のDIC社やサカタインクス社は、比較的欧米でのシェアが高いという違いはあるかと思います。

坂本:アジアに注力する上で大事なこととしては地盤があることと、おそらく所得も上がってきており、ハイエンドなものが売れるなどもあるかと思います。戦略の中で工夫されている部分があれば、教えていただけたらと思います。

長坪:先ほどもお話ししましたが、例えば日本ではハイグレード向けの製品があるため、そのようなものを現地に合わせて提供していきます。あるいは、その環境に調和したような製品が、日本ではラインアップが揃っていますので、各国のステージに合わせたものを提供していくことを考えています。

質疑応答:原材料の調達の安定性について

坂本:「製品に必要な原材料の調達というのは、安定的に行われるでしょうか?」というご質問です。コロナ禍で原材料の調達が難しいこともありましたか? それも含めて教えていただけたらと思います。

長坪:結果的には、安定的に調達して製品供給を絶やすことはなかったのですが、輸入の原料もかなり増えています。ただ、当社はグローバルにネットワークを構えていますので、そのネットワークを活かしながら、全体としての安定調達は可能だと考えています。

長坪氏からのご挨拶

長坪:東洋インキSCホールディングス株式会社からartience株式会社に社名が変わりました。これまで培ってきた信頼をベースに、新しい製品、みなさまがわくわくするような製品をお届けしたいと考えていますので、ぜひよろしくお願いします。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:今後伸ばしていきたい領域があれば教えてください。

長坪:この中計で「成長事業」と位置付けている製品領域と、「戦略的重点事業」と位置付けている製品領域は特に伸ばしていきたいと考えています。前者は、主に海外の包装関連用途であり、後者はモビリティ・バッテリー関連とディスプレイ・先端エレクトロニクス関連の用途になります。

<質問2>

質問:海外販売は国により販売する分野が変わるのでしょうか?

長坪:おっしゃるとおり、国により販売する用途は異なりますが、基本的にどの国でも包装関連用途のインキや接着剤を販売しています。エレクトロニクス関連の材料であれば、中国、韓国、台湾が多くなります。

<質問3>

質問:貴社の場合はクロスセルが多くできる環境にあるのでしょうか?

長坪:セミナーでもご紹介しましたが、包装パッケージ用途であれば、フィルムへの印刷に使うインキと、フィルムを貼り合わせるための接着剤を販売することなどができます。

また、例えば自動車向けなどには、バンパーや内装材向けの着色剤、塗料用の顔料、顔料分散体、内装材の貼り合わせ用の粘着剤、液晶パネル用の材料、そして電池用のCNT分散体など、多様な製品を直接自動車メーカーやTire1のメーカーに販売しています。