平成30年3月期 総括
横山周史氏(以下、横山):半年ぶりの決算説明会でございまして、主にこの半年間の進捗をメインに、お話させていただければと思います。
総括として、平成30年3月期に変わった部分をピックアップしています。
1つ目はインドです。インドの会社を買収して、100パーセント子会社にしました。さらに、アメリカのFox Chase Cancer Centerという、アメリカで一番古い、伝統のあるがんセンターと共同で、ジョイントベンチャーをインドに設立しました。インドに関してかなり精力的な事業展開をしていったのが、1つ大きな点です。
2つ目は、遺伝子改変の技術。これは我々が唯一持っていなかった技術プラットフォームです。iPSに関しては、非常に強いプラットフォームを持っているんですが、遺伝子改変に関しては、これまであまり取り組めていませんでした。この部門に関して、株式会社GenAhead Bioというベンチャー企業に投資をしまして、今、協業を進めているということでございます。これがそろうと、iPS細胞のプラットフォームとしては、ほぼ全面的にそろうというかたちでございます。
3つ目です。メディカル事業は、脂肪由来の幹細胞を使った再生医療を台湾のステミネント社から導入して、今治験の準備を進めていますが、いよいよ本格的にiPS細胞を使った再生医療がスタートしたのが、この期の最大の特徴でございます。もともと我々のビジネスのモデルとしては、iPS細胞がコアではございますけれども、そこから研究試薬であったり、創薬支援をやりながら、最終ゴールとして、再生医療に取り組んでいこうということでした。今回、その最終ゴールに足を踏み入れることができたと。これが最大の特徴でございます。
iPS細胞について
このスライドは、iPS細胞の特徴を表しているものでございます。
ヒトのiPS細胞は、山中先生が世界で初めて開発されたのが2007年ですので、もうかれこれ10年強たったところでございます。さまざまな事業展開を進めてきていますけれども、まずは、研究者もしくは製薬メーカーさんが使うような研究支援、研究の材料を使って新薬を作る。こういうところは先行して進んできていましたが、ここ1、2年、ようやく再生医療が始まってきたというところでございます。
背景の1つは、技術的な進捗です。これは我々の1つの大きな特徴でもありますが、がん化のリスクを極めて低く抑えられる、iPSの作成技術ができています。これを使って、iPSの再生医療をやっていこうということです。もう1つは、規制の面です。2014年から、再生医療を促進しましょうという日本の法律が施行されたことを受けまして、これをうまく活用しながら再生医療をやっていこうということです。
規制面と技術面の両面で、iPS細胞の再生医療が非常にやりやすくなって、我々自身も、両方ともいけると確信を持ちましたのでスタートしたということでございます。
REPROCELLグループ
体制面に関しましては、これまで、日本のREPROCELL Inc.以外にREPROCELL USA、REPROCELL Europa、この3拠点を中心にやってまいりました。今回、このREPROCELL Indiaを加えることによって、4拠点体制になったということでございます。
今までは、我々のお客さんである製薬企業さんや大学は主に日・米・欧にありました。研究が盛んな日・米・欧に局在していますので、そういう意味で我々の3拠点は良かったのですが、インドも経済発展が著しいので、最終的に再生医療に取り組むことになっていきます。再生医療の市場は基本的には人口比例ですから、インドや中国の人口を考えると、やはり医療はインド・中国が最大の市場だろうと見ています。いち早く、ここに入っていったということでございます。
今、社員数で見まして、インドは38名の会社でございます。人件費はインド自体はまだまだ低いので、トータルで見るとそれほど大きな人件費にはなっていませんが、日本・アメリカ・ヨーロッパ・インドというかたちで、かなりグローバルな体制になってきているということでございます。
事業セグメントと成長戦略
このスライドは、我々のビジネスの成長戦略を、1枚の絵で表したものでございます。
セグメントは大きく分けて、研究支援事業とメディカル事業、こういう2つです。技術プラットフォームは基本的には同じで、iPS細胞を使ったり、その他の細胞を使ったりして、対象とする顧客が違うということでございます。
研究支援事業は、大学の先生方もしくは今後、製薬企業さまがメインになってくると思いますが、彼らに研究の資材、培養液や細胞を提供します。また、サービスを提供したりというところで研究をサポートしていくというものです。これによって、製薬メーカーさんに新薬を開発していただくというサポート型のビジネスでございます。これは今までずっとやっているものでございまして、長期的に継続的に成長させていきたいと考えています。
一方、メディカル事業に関しましては、再生医療がメインになってまいります。こちらはどちらかと言うと規制業種でございます。国でガイドラインに基づいて治験をやって、承認をされて、そして初めて世の中に出てくと。そういう意味では、治験をきっちりクリアしていくというかたちにはなってまいりますけれども、ある意味ハイリスク・ハイリターン型のビジネスです。ただ、いったん承認されれば、我々がやっているのは希少疾患でございますので、これ以外に治療法がないものですから、立ち上がるのは急激だろうと見ています。
このようなかたちで、安定的に成長させる研究支援事業と、少し治験期間を置きながら、承認後、急激に上げていくメディカル事業。この2つのビジネスを組み合わせることで、企業価値を総合的に上げていこうということでございます。
動物実験からヒト細胞を使った実験へ
まず研究支援事業について、ご説明をさせていただきます。
基本コンセプトは、動物実験からヒトへ、でございます。今まで製薬メーカーさんでは、動物実験をメインにやっていました。けれども、やはり動物愛護の倫理的な課題であったり、けっこう時間がかかったりしますので、これをヒトの細胞に置き換えてやろうというのが、我々の基本コンセプトになります。
もちろんiPS細胞を使って、それをいろんな細胞に変えて実験材料として製薬メーカーさんが使っていくというものもありますし、ヒトから取ったものをそのまま使っていくものもあります。あとは、サービスとして我々がやっていくものもございます。さまざまなかたちで、ビジネスとして提供していくということでございます。
研究支援事業の市場規模
市場規模でございます。
スライド記載の表は、製薬メーカーさまが使われる年間のR&D費用です。これが我々の市場になります。これに、国が大学などに出している研究補助金も含めて、これらの研究費用が我々の市場というかたちになってまいります。ちょっと古いんですが2013年の日本と海外の製薬企業のR&Dの費用を単純にまとめると、国内が1.3兆円以上、海外が7.7兆円以上で、かなり大きなR&Dの支出を製薬メーカーさんはされています。
もちろんこの大部分は、臨床の費用なんですが、前臨床も25パーセントなので、単純に掛け算すると数千億円から2兆円くらいの市場規模というかたちになります。iPSとか細胞に係る予算に絞ると、実際にはもっと低くなりますが、規模としては、数千億円規模の市場が見込めるということでございます。
研究支援事業における成長戦略
こういう大きな研究支援の市場にどうやってアクセスしていくのか、どうやって開拓していくのかということでございます。
差別化戦略をスライドにまとめております。
非常に単純で、まずは細胞を採ってこないといけないんです。iPS細胞も同様で、まずは人工的にiPSはつくれないので、なんらかの細胞ソースを採ってくる、これが1つ目です。
2つ目はその細胞をいかに加工していくか。iPS細胞をつくるということも加工ですし、遺伝子を改変するというのも加工です。いろんな加工方法がありますけれども、ここにある意味サイエンスが集約されているということであります。
3つ目はグローバル化ということで、市場です。今は日・米・欧が中心でございますけれども、これにさらにインド・中国を加えていくということで、市場の拡大も行っています。
こういうかたちで競合との差別化を行っていくということでございます。
今回スライド上に赤で示したところが新しい取り組みでございます。それぞれ3つの領域に関して進捗をしております。
まず1つ目のヒトの細胞の調達は、新規ヒト細胞バンクというのをインドで設立していきます。これは先ほど申し上げたFox Chase Cancer Centerと共同でやっていくということであります。
2つ目で、遺伝子改変技術という、細胞加工の部分に新たな技術を導入していくということでございます。
3つ目、市場に関しましてもインドに進出していくということで、それぞれ3つの領域で進捗を行っているということでございます。
その中を少しピックアップしてご説明いたします。
遺伝子改変による疾患iPS細胞の作製
まずは遺伝子改変の技術でございます。
遺伝子改変で最近「CRISPR/Cas9」という単語をよく聞くと思います。今までできなかったような、ある遺伝子をピンポイントに細胞に入れる、もしくはある遺伝子を抜くということが、かなり高精度でできるような技術でございます。
これができるとなにがいいか、ということでございますが、iPS細胞に特定の疾患遺伝子、例えばアルツハイマーに関連するような遺伝子でわかっているようなものを入れて、例えば神経に分化するとアルツハイマーのモデル細胞ができると。
もちろん遺伝子改変しないものに関しては健常な神経細胞ができますので、この健常な神経細胞とアルツハイマーの異常な遺伝子が入った神経細胞を比較することによって、薬をスクリーニングしていくことができます。
例えばある薬の候補をバーッとスクリーニングして、この異常な疾患モデル細胞が非常に元気になって、健常と同じようなかたちになったというのであれば、その薬がひょっとしたら新薬の候補になるかもしれないというようなコンセプトでございます。
この遺伝子改変の技術に関して、GenAhead Bio社という設立間もないベンチャーに我々投資をいたしまして、協業で一緒にやっていこうということでございます。
GenAhead Bio社について
同社を簡単にご紹介いたしますと、まだまだ本当にできたばかりの会社なんですが、もともとは武田薬品工業さんで25年間ずっと研究員をされていて、おもに遺伝子改変、ゲノム編集の専門のチームをずっとやられてた方々がチームで独立されたのがこの会社でございます。
まだ会社も湘南ヘルスイノベーションパークという武田薬品工業さんが入っている建物なんですが、同じところにずっと入られて、ずっと武田薬品工業の中で培われた技術を、今回スピンアウトして新しく立ち上げようというコンセプトでございます。
スライドに簡単に書いてありますが、DNAを切って、ここに目的の遺伝子を入れたり、逆に目的の遺伝子を抜いたりということが自由自在にできます。実際にこれをやってみると、なかなか効率が悪かったりというのが現実には起こります。ところが、周郷さんの武田薬品工業のチームが持っていた技術は、他社より非常に効率的な特殊な技術があります。こういうところに我々も投資をしながら関係を深めて、一緒に遺伝子改変と我々の持っているiPS細胞そのものの技術を組み合わせて、疾患モデルというのをやっていこうということでございます。
RNAリプログラミング技術の優位点
我々は、そもそもiPSの何に強いのかということでございます。
もっとも特筆すべきところは、RNAリプログラミング法、つまりiPS細胞をつくるところです。血液、尿、皮膚といったところから、いかに品質のいいiPS細胞をつくることができるか、これが我々の最大の強みでございます。
研究支援で使うというのも1つの大きな強みにはなるんですが、とくにその次の臨床医療、再生医療に使う時にもっとも力を発揮するということでございます。
RNAというDNAの転写した副産物なんですが、これを入れることによって、リプログラミングをします。最大の特徴は、核の中にRNAは入らないんです。ですから、核の中に入っている遺伝子を傷つけることはありません。よく、がん化の問題と言われますけれども、核の中に入っている遺伝子が損傷したりかたちが変わることによって、がん化が起こるリスクがあるということです。これが最大のiPSのがん化のリスクになっているんですが、このリスクがほぼありません。 なおかつ、すぐに分解されて抜けますので、外来の遺伝子が残存するリスクもないということで、ガイドライン上はもっとも認証に近い手法だと思います。
実際にこれを使って実験を何度も繰り返してやっておりますけれども、やはり、できたiPSの品質が非常にいいです。ばらつきが非常に少なくて、安定的ないいものができて、我々の研究者自身も、一回このiPSを使うともう二度と他のiPSは使わないんです。実際に実験が非常にやりやすいので、これしか使いません。あとは、例えばiPS細胞から神経とか肝臓などへの分化誘導の技術も持っておりますが、この分化誘導の効率も非常にいいです。
というわけで、この品質のよいiPS細胞という技術をコアにして研究支援というのもやっていきます。将来は、再生医療に関しても最大限活用していきたいと考えております。
REPROCELL Indiaについて
インドには2つ法人がありますが、買収したほうの会社のついて説明します。
ハイデラバードというインド中部の都市にありまして、もともとBioserve Biotechnologies Indiaという会社でございます。ここを買収したということになります。
(スライドの写真を指しながら)これはオフィスの入り口で、こちらはラボです。このようなラボの整った設備で、メインのビジネスは遺伝子の解析サービス、次世代シークエンシングサービスということで、遺伝子を解析するのがメインです。
先ほど申し上げましたような遺伝子改変と、さらにそれを入れた遺伝子をどうやって解析するのかというところを含めて、この会社でできるようになります。遺伝子に関して非常に加工したり解析したりというところのプラットフォームが、我々としては一気に広がったということでございます。これをiPSと組み合わせることによって、非常に強固な技術的強みができたと思います。
インド進出について
インドの経済成長について、少しまとめてみました。
人口はやはり小学校の時に習った数字とはもうずいぶん変わってまして、2016年時点でいうとインドは13億2,400万人なんです。中国が14億300万人なので、統計的には2022年ぐらいには、インドの人口が世界一になるんじゃないかといわれております。3位がアメリカで3億2,200万人で、1位・2位と3位の間に大きなギャップがあるんです。そのあとは2億人ぐらいですね。ですから、この2つの国というのは、将来再生医療を考える上では、もう断トツの大きな国になるだろうと思います。
あとはGDPの比較です。為替の関係でいろいろ算定方法があります。これは購買力平価という指標をベースに計算すると、徐々に徐々に上がってきて日本を抜いているということがおわかりいただけると思います。
人口でも大国ですし、経済的にも大国になりつつあるインドに、我々は進出するということが、1つ大きな話かなと思っています。ただ一方、インド進出はけっこう難しい話でして、やはり、人のコネがもうほぼすべてなんです。ここが、我々単独では、なかなか。例えば、私が行って、インドの病院とかビジネスマンと接触してディールをまとめられるかというと、正直、ちょっと難しいところがあります。
これを我々ができた大きな理由は、REPROCELL USAの社長・Rama Modaliがインド出身なんです。もうアメリカの市民権を持っていますけれども、彼がインドに非常に強い。実際、買収したREPROCELL Indiaに関しましても、もともと彼が設立した会社なんです。彼が設立した会社で、違う会社に買収されていて、もう1回買い戻したという経緯があります。ですから、彼が今、従業員も含めて全員を知っているということで、インドに関しては彼と彼のネットワークを十分活用しながら、インドのネットワークでやっていくということでございます。
技術シナジーによる当社ビジネスの加速化
インドには2社あると申し上げましたが、もう1つはFox Chase Cancer Centerのジョイントベンチャーです。
これはインドのサンプル、例えばがん細胞であったり、いろんなヒトのサンプルを取ってきてバンクを作ることだけをやる会社です。それを使って、創薬支援事業をやったり、iPSをやっていくのがREPROCELL Indiaということです。
1つの場所に2社同時に入れて、ほぼ共同でやっていこうと思っています。Fox Chase Cancer Centerに「一緒にやりたい」と言っていただいたのも、先ほどのRama(REPROCELL USA社長)のインドのネットワークを活用したいということで、申し出があったという経緯もございます。
インドでこういう細胞を取ってくるのは、非常に大きなメリットがございます。やはり人口が多いので、アメリカとかヨーロッパで取れないようなサンプルがけっこう容易に取れます。これができている会社は、たぶん他にはないと思いますので、細胞調達に関しては、おそらく世界で有数の会社になっていけるんじゃないかなと考えています。
それをさらにiPS化して、遺伝子改変をして、3次元培養をして、そういう意味では、サイエンスの部分でも世界最高峰の技術を有していますので、これをうまく組み合わせることによって、どんどんとビジネスを拡大していこうということでございます。
新規事業:化粧品の発売
ちょっと話が飛びますが、新規事業として化粧品の販売も行っています。
我々の持っている細胞培養の技術で、細胞からグロースファクターやエキソゾームというような有意義な栄養分が出てきます。これを回収して、化粧品の中に閉じ込めて販売しようというのが、これのコンセプトでございます。
キレートジャパン社という化粧品メーカーさんとジョイントベンチャーを作りまして、今やっているということでございます。徐々にマーケティングを行っていまして、東京の大丸で売ったり、少しずつ売れてきている状況でございます。
以上、研究支援事業をメインに、私から簡単に説明をさせていただきました。
続きまして、メディカルの部分に関しましては、口石からご説明をさせていただきます。
リプロセルの再生医療パイプラインについて
口石幸治氏(以下、口石):メディカル事業を担当しています、取締役の口石です。どうぞよろしくお願いします。それでは私から、メディカル事業のうち再生医療の進捗について、ご報告をさせていただきます。
当社が取り組んでいますのは、2品目でございます。
まず1つ目が、台湾のステミネント社から導入しています、体性幹細胞(MSC)を用いた「Stemchymal®(ステムカイマル®)」という製品です。当社は日本における開発権を有していまして、脊髄小脳変性症という希少疾患を対象とした治験を、始める準備を進めているところでございます。
そして、2つ目の品目が、iPS細胞を用いた神経グリア細胞製品です。iGRPと我々は呼んでいますけれども、こちらの研究および臨床開発でございます。こちら(2018年)4月にプレスリリースをしていますけれども、アメリカのQ Therapeutics社と共同で、さまざまな中枢神経系の疾患への効果が期待できるグリア細胞を、iPS細胞から作るという研究開発に取り組んでいます。
対象としている疾患は、希少疾患であります筋萎縮性側索硬化症(ALS)および、横断性脊髄炎(TM)です。こちらを対象とした、国内での開発権および商業化権を当社が有しています。
ステムカイマル®の進捗と対象疾患
それぞれの品目について、具体的なご説明を申し上げます。
まずは「ステムカイマル®」でございます。
対象としています脊髄小脳変性症は希少疾患でございます。運動を制御する小脳、そして呼吸を制御する脳幹といった神経の細胞が、徐々に壊死していくことにより、徐々に歩行障害であったり、嚥下障害という運動失調が現れ、日常の生活が脅かされてしまうという、原因不明の疾患です。国内の患者は約3万人と言われていまして、若年層から高齢層まで幅広い年齢で発病することが知られています。
各国におけるステムカイマル®の治験進捗
こちらの開発の状況ですけれども、ステミネント社が台湾および米国での開発を担当しており、当社は日本での開発を担当しています。
台湾ではすでにフェーズ1の安全性を確認する治験が終了し、有害事象がなかったことが報告されています。現在ステミネントでは、次のフェーズの試験を台湾で進めている段階です。米国においては、治験実施に向けた準備が、ステミネント社において始められています。当社は今年度中の治験計画届の提出を目指して、順調に準備を進めている段階です。
iPS細胞由来神経グリア細胞製品(iGRP)の研究開発概要
2つ目の品目でございます、iPS細胞由来神経グリア細胞(iGRP)の研究開発の状況です。
グリア細胞とは、中枢神経系の中で神経細胞ニューロンをサポートする役割を持った細胞の総称です。グリア細胞の移植により、さまざまな中枢神経の疾患への有効性が、動物実験では確認されています。ただしグリア細胞は、健常な人から安全に採取することができず、これまで中絶胎児を用いた細胞の採取が行われてきました。
しかしながら、中絶胎児の組織を用いることには倫理的な問題がございますので、iPS細胞からグリア細胞を作るということです。そして、それを臨床開発に応用するという共同事業をQ Therapeutics社と共同で行っています。臨床開発においては、まず、希少疾患でございます筋萎縮性側索硬化症(ALS)および横断性脊髄炎(TM)の国内治験を、リプロセルが担当いたします。
さらにリプロセルでは、iGRPの製造権についても、包括的に契約を締結しています。その後、希少疾患以外の、より患者の多い中枢神経系の疾患に対しても、適用拡大を随時行ってまいります。こちらは、主にパートナー企業と共同で進めていくことになると考えております。
iPS細胞由来神経グリア細胞製品(iGRP)の対象疾患について
iGRP(iPS細胞由来神経グリア細胞製品)が最初に対象としておりますALS(筋萎縮性側索硬化症)およびTM(横断性脊髄炎)の疾患の概要、それから患者数に関しては、こちらの資料に記載のとおりでございます。
MAGiQセラピューティクス社について
今回、iGRPの開発についてQ Therapeutics社と当社で、50対50という持分比率によって、合弁会社を設立しております。会社名は、MAGiQセラピューティクスと申します。
役員として私が代表を務めております。Q Therapeutics社の創業者でNIH再生医療センターの元ディレクターでありますMahendra Raoが、CSOとして開発をリードしております。
MAGiQセラピューティクス社の役割としては、動物実験による非臨床データの取得と将来的な商業化のライセンスアウトです。iGRPの開発権、そして商業化権を製薬メーカーに対してライセンスアウトして、それによって得られた収益をリプロセルおよびQ Therapeuticsの両者によって配分をしていくというスキームのために合弁会社を作っております。
以上が、私からのご説明になります。
それでは、今期の決算概要について、横山からご説明申し上げます。
連結損益計算書①
横山:去年との比較見ていただきますと、正直言いまして、2018年3月期というのは、あまり数字としては良くない年だったということでございます。
連結損益計算書②
ただ、ちょっとご説明しないといけないのが、少しトリッキーな部分がございます。
とくに、2017年3月期という前の期が、アメリカの(子会社の)決算変更で12ヶ月ではなく15ヶ月ぶんの業績を取り込んだり、あとはヨーロッパで、さらに前の年に上手く計上していなかった売上を2017年3月期に無理やり取り込んだというのがあって、通常ではない売上が2億6,800万円程度あったというのが、2017年3月期の数字でございます。
実際にきっちり比較すると、2017年3月期(の売上)は10億円を切るくらい、9億8,000万円くらいですかね。こちら(2018年3月期)は9億2,000万円なので、若干低下気味ということは間違いないんですが、それほど大きな数字のマイナスではないということでございます。
あとコスト面もあまり変わっておりませんけれども、こちらも(2017年3月期は)15ヶ月取り込んだりしているので、(2018年3月期は)実は若干増えています。これは、そんなに大きくコストカットしたということではございません。ただ、2018年3月期には、1番大きなイベントとして、アメリカのボストンとメリーランドにあった拠点を1つに統合してボストンの拠点をなくしましたので、それに関する家賃であったり人件費が大きく削減しております。
ただ、その効果は数字上、2018年3月期には出ません。というのは、家賃を払ったり、一時的な退職に伴う費用などを2018年3月期は払っております。コスト削減として効果が出てくるのは、今年度(2019年3月期)からというかたちになります。その意味で去年は、かなり大きなコスト削減は、実際はしているということでございます。
あともう1つ大きな違いは、当期純利益のところですね。この特別損失はのれんを減損したというところで、アメリカの旧会社名・Bioserveの部分、あとはヨーロッパです。これを減損して、13億2,000万円程度減損しましたので、これが特別損失としてのってまいりまして、当期純利益に影響しているということでございます。
もちろんアメリカ・ヨーロッパ中心に今後ともやっていきますので、それぞれの会社自身に価値がなくなったとは思っておりません。しかし、当初の事業計画との齟齬があったり、あとは昨今の監査の動向として多少コンサバティブに見ていかないと、なかなか世間的に納得が得られないというところもございますので、そういうところも含めまして、最終的には、減損という判断をさせていただいたということでございます。
これは、ただ計算上の数字なので、実績には、アメリカ・ヨーロッパ含めて今後とも事業を伸ばしていくと。先ほども申しました、インドも含めて伸ばしていくということでございます。
連結貸借対照表
あとは連結貸借対照表ですね。BSでございます。
有価証券は短期運用のものなので、実質的には現金と同等と思っていただければ正しいと思いますので、これを足すとだいたい55億円くらいの現預金があるということでございます。
こういうかたちで、経営的には安定した状況にはなっているということでございます。
第三者割当による第14回新株予約権の発行について
あとは直近でございますが、新株予約権の発行による増資というのを決議をいたしました。
これは、だいたい20億円くらいが調達できれば良いなと考えております。
使途としましては、まずは先ほど申し上げましたMAGiQセラピューティクス社のiPS細胞を使った再生医療に14億円程度。この用途は本当に初めてやったことですので、これに関する治験費用も含めて一部の希少疾患の治験費用を含めて、これで賄いたいと考えております。
あとは、(2018年)4月に子会社化しましたインド企業の取得費用、もしくは成長費用というかたちで4億円。
さらに、その他の研究開発として2億4,700万円という使途を考えております。
これはいずれも、前回行った増資とは使途がまったく違うもので、新規事業への投資という位置づけでございます。
中期経営計画
最後に、中長期計画でございます。
前期は9億2,600万円の売上でした。これは、経常利益ベースでいいますと、マイナスの9億3,500万円ということでございます。
今期は、11億6,700万円で、若干増やしていきたいということです。いろいろ受注の見えているところがございますので、緩やかではありますが、増やしていけるかなと思っています。
その後は、(2020年3月期が)15億円、(2021年3月期が)20億円というかたちで、順調に増やしていきたいと考えています。メインは研究支援事業ということで、再生医療製品は、この中では想定しておりません。
売上が上がれば、当然固定費も薄まりますので、赤字幅も縮小していくと考えております。
平成30年3月期 総括
以上でございますが、総括いたしますと、研究支援事業に関しましては、インドの子会社化、そしてジョイントベンチャーの展開、あとは、遺伝子改変に関して新たに進出。インドも含めて同じなんですが、遺伝子のサービスもやっていくということです。
メディカルに関しましては、脂肪由来の幹細胞、ステミネントのプロジェクトに加え、ある意味、我々の本丸中の本丸であるiPS細胞の再生医療に乗り出すということでございます。
以上になります。