投資家の五感 視覚

かぶ1000氏(以下、かぶ1000):次にいきましょう。これは番外編になります。「投資家の五感を鍛える」。これ僕はすごく大事な要素だと思っています。

『刑事コロンボ』というテレビドラマ、ちょっと古いんですけど、見たことがある人はいますか? 1970年代なんで、いないかな。僕は大好きで、もう何百回と見てます。刑事コロンボもこれと同じやり方をやって、犯人を追い詰めていくのですが、株も一緒で、やはりこの五感ですね。

人間には五感があるじゃないですか。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感があるのですが、この五感をフルに活かすことによっていろいろ見極められるようになるといいんじゃないかなと思っています。

一番大事なのはもちろん視覚ですよね。人間、五感のうち視覚から得られるものが約8割ぐらいと言われています。ここが一番大事は大事なのですが、株において視覚は2つに分けられて、1つはデータです。データは、決算書とか有価証券報告書など、会社側が出す開示資料です。

もう1つ大事なところは現場です。現場とは何かというと、例えばBtoCの会社だったらお客さんがどれぐらい入ってるかを見に行くとか、かっこいいお店かどうかとか。

あとは、これはちょっと難しいかなと思いますが、株主総会ですね。株主総会に行くと何がいいかというと、まず会社の社長さんとか取締役の方とか、実際に人を見ることができます。もう1つおもしろいのは、どういう人が株主かというのもわかるんですよ。この会社を持っている株主の質もわかるんですよね。例えば、くだらない質問ばかりの株主総会だと「ああ、ここの会社の株主の質はちょっと悪いな」というのがわかるわけです。

一方で、すごく真面目な話とか、逆にぜんぜん株主総会に人が来ないとか、株主総会っていろいろあるのですが、それは実際に現場に行かないとわからないんですよね。なので、私がすごく大事にしているのは、データと現場の2つをうまく組み合わせることです。

最近、3月期決算の、第3四半期、第3四半期の決算が、2月の半ばに出たのですが、データとしては12月末までのものなんですよね。12月末のデータが2月の半ばに出ているので、ちょっと過去のものになっちゃっているんです。

決算書は、いわゆるその間の成績表みたいなものなので、実際にはどんどんどんどん新しく変わっていっているんです。決算書を見て気になったら現場も見に行くと、今の情報が得られるので、慣れてくると次の決算の予想までできるようになってくるんですよ。

この売上やこのベースで行くんだったら、次はもしかしたら会社の出している予想よりもいいんじゃないかとか、逆に会社の予想よりこれはちょっと届かないんじゃないかということも見えてくるんです。そういうところまでいくと、人よりも有利な情報を早く得ることができるので、人より早く投資のチャンスを得られたり、逆に言うと失敗しちゃっても傷が浅く済むわけです。

そういう意味ですごく大事な要素なんですよね。データと現場の2つをうまく組み合わせることによって、より視覚の精度を上げていくことはものすごく大事なことじゃないかなと私は思います。

投資家の五感 聴覚

次に大事だと思うのは聴覚です。聴覚を株でいうと何かというと、雰囲気です。盗み聞きじゃないですが、「みんながどんな話をしてるんだろう?」「何を今みんな話してるんだろう?」と、そういう雰囲気をつかむことが株ではすごく大事です。今は株がすごく盛り上がっている時期なのかとか、すごく熱気が高い時期なのかとか、今その環境がすごくいいか悪いかを知っておく。やはりその雰囲気がいい時は何でも高くなりがちなんですよね。逆に雰囲気が悪い時は、どんなにいいものでも高く売れなかったりするんですよ。

自分の想定する価格よりも高く売れるのかとか、いや、想定する価格まで今回はいかないんじゃないかとか、そういうことを判断する時にこの雰囲気を知っておくと、その判断の精度がより上がってくるんじゃないかなと思っています。

私の聴覚だと、今はけっこう高揚感が上がっている時代じゃないかなと思います。日経平均もいよいよバブル後の高値を抜くかというところまで来ているし、新NISAが始まって新たに投資を始めようという人も増えてるので、雰囲気はすごく良くなってきてるのかなと思っています。そういう意味で、やはり株は今、すごく期待されているんじゃないかなと思います。

投資家の五感 嗅覚

次が嗅覚ですね。嗅覚は、直感です。これはなかなか難しい気はするのですが……みなさん、どんなことでもいいのですが、ピンとくるってわかりますか? 例えば、アニメを観ていて「あ、これは次の展開こうなるんじゃないか」みたいにピンとくる時はありませんか?

こういう直感って、私はすごく大事だと思います。直感だけに頼るのはよくないですが、データと現場の情報と雰囲気がわかってくると、「あ、なんかこれはこういうかたちになりそうだぞ」って、ピンとくるようになるんですよ。

こうなってくるとすごく良くて、やはり人よりも早く、より気づけるようになる。あるいは自分なりの考えが自分の身に付いている。

最初に、自分で考え自分で決断すると言ったじゃないですか。ここまで来ると、完全に自分で考えて自分で決断できるようになっているんですよね。もう人の意見なんかどうでもいいと。自分がピンとくるかどうかだというところですよね。

こうなってくると、誰よりも早く判断できる可能性があります。株式投資で、パーティー会場とよく言うのですが、例えば100人しか入れないパーティー会場があったとして、80人目、90人目で行ったら、もうご飯もほとんど残っていないですよ。解散間近みたいな感じ。

だけど、逆に一番乗りで行っても、パーティーが始まるまで待っていなきゃいけないですよね。そうすると時間が無駄になっちゃうので、できれば10人目、20人目ぐらいの段階で参加できるのが一番効率がいいというのがあって、ピンとくるようになると、そういうとこまで見えてくるようになります。

「これは来るけど、今じゃないな」とか「半年後だな」とか。そうなったら、半年はちょっと違うところでお金を回して、半年後にちょっと投資してみようとか、そういうこともできる。時間軸の効率を高めることができるようになるので、そうなってくるとしめたもんですね。

投資家の五感 味覚

次が味覚です。私は体験を味覚に置き換えたのですが、やはりこの自分で体験して経験するのはすごく大事なんですね。

「こういうことやっちゃ駄目だよ」とか「ああしなさい、こうしなさい」って親から言われることがいっぱいあったと思います。「そりゃそうだな」とその時は思っても、やはり自分で体験・経験してみないとわからないことって世の中あるんですよ。

投資もまったくそうで、やっちゃいけないことはだいたい決まっているんですね。例えば、ここにいる生徒さんたちはレバレッジ、信用取引を使ってやっていないと思います。

もし、普通に株式投資やる場合は、信用取引とか、集中投資とか、そういうかたちで、自分で何かリスクをコントロールできるようになります。やはり「やると危険だよ」と言われていても、やっちゃう人っていっぱいいるんですよ。それで失敗する人がすごく多いんですよ。自分である程度、体験して経験するのはすごく大事だと思っています。

例えば、みなさんも子どもの頃、まだ自転車にあまりうまく乗れない時って、公園で練習したと思うんですよね。いきなり道路の坂道でやる人っていないと思うんですよ。そんなことやっちゃったら、操作できなくて車道に出ちゃったり、転んで大けがしちゃったりするから、良くないなというのは体感的にわかると思います。

株の場合も一緒でいい失敗をたくさん繰り返すと、僕はいいかなと思っています。自分で体験・経験するのはすごく大事なことです。みなさんまだお若いので、言い方は悪いですが、失敗しちゃっても、僕はいいと思うんですよね。

メンタルにくるような失敗はダメですが、擦り傷とか、捻挫とかぐらいだったら、僕はどんどんチャレンジしたほうがいいと思っています。「これぐらいだったら自分は大丈夫だな」という怪我の範囲内でどんどん投資のチャレンジをしていってもらいたいなと思っています。

投資家の五感 触覚

最後に触覚です。これは体験と体感です。手応えですね。例えばスポーツやってる方はわかるかと思いますが、ある程度やっていると「なんか、俺、コツをつかんだ気がする」という瞬間が、たぶんあると思うんです。

これが僕は触覚だと思っています。僕も、本当に10年ぐらいいろいろな手法を試してきました。その中で、自分の中ではそのバリュー株投資というのが、一番手応えや実感があったんですよ。「このやり方って負けないんじゃない?」みたいな感じですね。

「1万円で売れるものを4,000円、5,000円で買ってりゃ、負けられないでしょう」みたいな感じです。そういうのが手応えとして実感できたので、「もうその手法でずっとやっていこう」と決意ができたわけです。

そうなってくるとメンタルも弱くならないんですよ。だって、もう絶対大丈夫だという確信があるので、一時的に買った株が下がっちゃったとしても、「いやいや、これには1万円の価値がある。4,000円で買って、今は3,000円だけど、もっと買い増してやろうか」とか「下がっても1万円の価値があるんだから、ぜんぜん気にならない」みたいな感じ。

株価が下がっちゃった時に「わあ、どうしよう、どうしよう」と考えちゃう人もいると思いますが、僕の場合、そういうかたちで手応えや実感をしっかり経験しているから、メンタルも鍛えられて大丈夫なようになる。これはすごく大事です。

ワンポイントとしては、あらゆる感覚を並行して鍛えることです。五感をしっかり並行して鍛える。1つだけじゃ僕はダメだと思います。実際、私生活でもそうじゃないですか。もちろん目が見えなくなっちゃったら大変ですが、例えば耳が聞こえない、匂いが感じられないだけでも自分の感じ方はすごく変わってきちゃうじゃないですか。

せっかく人間には五感というものがあるんだから、それをうまく並行してトレーニングすることによって、総合力を上げていくことが大事です。

あとは、一つひとつの小さな状況、情報から大きな発見があるということ。これはもう『刑事コロンボ』でいつもやっていることなのですが、細かい違和感や細かい情報を積み重ねていくと、意外と大きな発見があったりするんですよ。

僕は、いろいろな情報をジグソーパズルのピースの1つだと思っています。いろいろなピースを集めて、それを組み立てて絵ができたら、銘柄に投資するんだという答えが書いてある、みたいな感じです。

だけど、例えば100ピースのジグソーパズルで、10ピースぐらい集まっただけで「あ、このピースが集まったら、もしかしたらこれだろう」とわかっちゃう勘がいい人もいるんですよ。

あとは、重要な場所のピースの位置を知っていれば、「このピースをゲットできれば、たぶん他のピースがなくてもわかる」というのがわかってくるんですね。でも、勘が悪い人はこの絵に使われないピースも集めてきちゃうんですよ。そうすると、もう訳がわからないですよ。使えるか使えないかわからないピースも混ざっちゃってると「どんだけ組み立てても、これ、絵ができんぞ」みたいな。

そうなっちゃうと、本当に時間も無駄になっちゃうので、一つひとつの小さな情報をどう組み合わせていけるかを整理できてくると、新しい発見があるんじゃないかな、と僕は思っています。

寿命を知る

次に、いきましょう。「寿命を知る」ということですが、複利を活かすために一番大事なのは寿命なんですよね。みなさん、まだお若いから寿命を考える人はあまりいないと思いますが、いろいろなものに寿命はあるんですよ。『寿命図鑑』という本があるのですが、おもしろいので興味がある方はぜひ読んでほしいと思います。

まず重要なのは、やはり自分の寿命ですよね。平均寿命が今、男性が81歳で女性が87歳です。まず女性に生まれただけで、めちゃめちゃ複利で有利です。男性よりも6年間、得しています。そういう意味でも女性のほうが強い。

その中で、自分の年齢を引くと残りの寿命が出てくると思います。資産運用もそうだし、自分がやりたいこともそうだし、その期間の計画をどう立てるかということなので、まずこのことをしっかり知ることが大事です。

例えば、よく僕のところに80歳の人が「どういう運用をしたほうがいいですか?」って来るんですよ。いや、80歳の人が運用って言われても……もう残りの寿命がって、言えないですけど。「一か八かになっちゃうから、インデックス投資はまずやめたほうがいいですよ」って言っちゃいます。

残りの寿命がどうかによってやり方もぜんぜん変わってきます。みなさんはまだお若いからどんなやり方でもチャレンジできるので、そういう意味では私よりもみなさんのほうがすごく有利です。

例えば他のもので考えると、建物ですね。建物の寿命とか耐久消費財の寿命とか、そういう寿命を知っておく。家電はだいたい7年から8年が寿命ですが、私は冷蔵庫とかは、壊れる前に買い換えるんですよ。冷蔵庫って絶対要るものだから、壊れちゃうとすぐに買わなきゃいけないじゃないですか。そうすると、もう高い安いと言ってられないわけです。

だけど、統計的に7年か8年で壊れるとわかっていて、その段階で買っておくと、まだ壊れてないから選べるんですよね。選べた上に、なおかつ冷蔵庫にはリサイクル法があって、処分する時にお金かかっちゃうのですが、使える冷蔵庫だったら売れたりするわけです。そうすると、リサイクル料を払う必要なくなるんですよ。そういった意味で得するんですよね。

そうやって寿命を知っているとうまく入れ替えができていくので、自分自身も損をしない。しかも焦ることもない。

株も一緒で、自分が追い詰められちゃうとやはり、無理な取引しちゃうので、追い詰められないためにも、寿命とを知っておくといいんだよということですね。

企業にも寿命があって、だいたい平均で24年ぐらいと言われています。みなさんは、あまり倒産する企業を見たことがないかもしれませんが、1999年以降で上場企業で倒産してしまった件数って、236件もあるんですよ。約6パーセントです。

運が悪いと、この6パーセントに当たっちゃうのですが、ここは分散投資するとか、財務をしっかり見ることによって避けることはできます。だけど、これぐらいの確率で倒産することもあるから、こういうリスクをしっかり頭の中に入れていたほうがいいということですね。

あとは、権利の寿命。特許権は20年、著作権は著者が死んじゃった後70年ということで、寿命があります。こういうことを知っておくと、例えば企業が持っている版権があとどれぐらい持つんだろうと考えることができます。これがなくなっちゃうと価値がなくなっちゃうわけですから、そういうところを知っておくといいのかなと思います。

投資を楽しむ習慣を身に付けよう

次は番外編の最後。「投資を楽しむ習慣を身に付けよう」ということなのですが、私は常々思っているのですが、やはり投資って楽しみながらやるべきだと思うんですよ。

私自身、本当に投資が大好きで、中学2年からずっとやっています。みなさんの前で言うのはちょっとあれですが、アルバイトも就職も1回もしたことないんですよ。ずっと株だけでやってきているんですよね。なんでやってこられたかというと、やはり楽しいからなんですよね。

一応うまくいけば利益も出るので、そういう意味でもすごく楽しいんですけど、秘訣としてはやはり長く継続して行うことがまず大事です。そのためには、やはり楽しくなかったら絶対続かないんですよ。

次がそれを習慣化することです。投資に対する習慣化。例えば、みなさん、歯磨きや入浴をすると思いますが、それと一緒の感覚で、毎日、投資のことを考える脳みその構造に変えていくということです。そうすると、習慣化して楽しくなってくる。

最後に、一喜一憂し過ぎない。やはり最初の頃は、買った株が上がった、下がったと一喜一憂しちゃうと思いますが、増えたか減ったかというよりも、自分が判断した投資の判断が正しかったか正しくなかったかというところを検証する習慣を身に付けたほうがいいと思うんですね。

例えば、儲かったからいいわけじゃないんですよ。儲かっても、悪い儲かり方もあるし、損しちゃっても、いい損というのもあるわけです。

そういうかたちで、儲かった、損したではなくて、いい儲かり方ね。これはいい儲かり方だったのか、悪い儲かり方だったのか。いい負け方だったのか、悪い負け方だったのか。そういうことまで考えるようになるといいと思います。

最後に、「投資のパフォーマンスで最も成績が良かったのは誰だ?」というと、死んじゃった人というおもしろい話があって、結局、買ってほったらかしにしていれば株って儲かるんです。あまりごちゃごちゃ売り買いしてる人のほうが儲かっていないよという、皮肉みたいな感じですけどね。そういうデータがあっておもしろいと思います。

(次回へつづく)