今、企業経営に求められる新たな指標

武藤あり彩氏(以下、武藤):それでは、記者発表会を進めてまいります。まず初めに、本日の記者発表会の主催者でもあります、株式会社リンクアンドモチベーション代表取締役会長の小笹芳央から、弊社の概要と本日の発表につきまして、ご説明をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

小笹芳央氏(以下、小笹):みなさま、大変お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。私のパートでは、3点ほどご説明をさせていただきます。まず最初に、当社の概要。2点目に、今多くの企業を取り巻く環境変化について。3点目に、今回のメインであります、新たな(企業)経営指標のご提案、またその開示活動についてということで、3点申し上げます。

代表者プロフィール

こちらは、私の自己紹介でございますが、大学卒業後に株式会社リクルートに入社いたしまして、そこで14年間お世話になりました。14年のキャリアは主に、人事部門において7年間(働き)、後半の7年間は採用や人事のコンサルティング部門を立ち上げまして、その責任者としてお世話になりました。

そして、今から18年前の2000年に、「これからの時代の企業にとって非常に重要なのは、人材、そしてモチベーションである」。そういった考え方をもとに、「モチベーション」にフォーカスしたコンサルティング会社、当社リンクアンドモチベーションを立ち上げまして、現在に至ります。

会社概要

当社の歩みでございます。

創業当初から、大変ありがたいことに順調に成長・拡大を続けまして、2007年に東証第2部、2008年に東証第1部に上場し、その後、リーマンショックの影響を受けまして、2年間ほど足踏みをする期間がございましたが、その後は本業の急拡大・急回復と、M&Aという手法による事業拡大を継続しています。

上(の基礎情報)にあります当社のミッションでございますが、「モチベーションエンジニアリングによって」……これは、当社の基幹技術の名前でございます。「それによって、組織と個人に変革の機会を提供する」。

「組織」。これは、企業組織に対してですので、BtoBのビジネスです。そして「個人」。これは、BtoCのビジネスです。

「モチベーションエンジニアリング」を中心に、BtoBとBtoCの事業を展開し、「意味のあふれる社会を実現する」というミッションのもと、活動しています。

リンクアンドモチベーショングループの事業構造

こちらが、当社の事業の構造になります。

左上が「組織開発Div」で、企業組織をクライアントとして、その企業の魅力づくり、個人から選ばれる組織を作るお仕事をさせていただいています。

右上が「個人開発Div」で、BtoCの事業です。これは、企業組織から選ばれる個人づくりをしようということで、BtoCのキャリアスクールや学習塾の事業をやっています。

そして真ん中が、その両者を結ぶ「マッチングDiv」で、3つ目の事業の柱となっています。

さらには4年ほど前から、ベンチャー企業に対して出資を伴うサポートということで、「ベンチャー・インキュベーション」もスタートしています。

この一番上の(基幹技術の)「モチベーションエンジニアリング」について、簡単にご説明させていただきます。

モチベーションエンジニアリングの前提①

これは一体、どんな考え方を下敷きにしているのか。

2点だけご説明申し上げますと、1点目はまず「人間観」です。人間を、どのように捉えているか。

私どもは、人間は完全合理的な「経済人」ではなく、限定合理的な「感情人」であるという捉え方をしています。簡単に言えば、完全合理的に、24時間365日お金のことばかり考える存在ではなくて、限定合理的……ある程度は合理的に考えたり振る舞ったりするものの、最終的には気持ち・感情によって、ものの判断や行動をするんだと。

こちらは、2002年にノーベル経済学賞を受賞いたしました、行動経済学者の第一人者のダニエル・カーネマンが、日本において行動経済学を広めるために出した著作。その帯に付いていたフレーズでございます。「人は“勘定”ではなく、“感情”で判断する」。「うまいことを言ったな」と思うんですけれども。

簡単に言えば、私にも経験がありますが、誰かからの一言……「よくやったね」とか「がんばったね」とか「本当にありがとうね」とか。そういう言葉をいただくことが、時には1,000円をもらうよりも、1万円をもらうよりもうれしいことがある。そういった存在が、人間であるんだと。こういった考え方を前提にしているのが、「モチベーションエンジニアリング」でございます。

モチベーションエンジニアリングの前提②

「モチベーションエンジニアリング」の前提の、2点目でございます。

そういった人間が複数集まる「組織」をどのように捉えているかなんですが、「組織は要素還元できない『協働システム』である」という見方をしています。これは、ちょっと解説が必要だろうと思います。

まず、左側の5人のチームをご覧ください。これは、「Aくんがいて、Bさんがいて、Cさん・Dさん・Eさんがいる5人のチームだね」と数えるのが、通常の数え方だろうと思います。

私どもは、「協働システム」であるという見方をいたしますので、このチームのことを、この(右側の)ような関係性の目線で見ます。共通の目標のもとに、直接・間接的な連携関係があるということです。要素ではなくて、「AさんとBさん」、あるいは「BさんとCさん」を結ぶ関係性のチャネルと言いますか、線の数を数えるようにしています。この場合、「10本の関係性のあるチームである」と(捉えられます)。

これが(組織観として)どれくらい違うかと言いますと、このチームに仕事が増えまして、人数も5人増えたときに、左側では「5人だったチームが10人になりました。2倍の人数になりました」という数え方が普通だろうと思うんですが、右側の(協働)システム的・関係論的な考え方を当てはめますと、この場合は45本の線の数(による数え方)になります。

つまり(関係性の線の数が)10本だったのが、4.5倍の45本。合意形成が難しく、意思疎通が難しい。専門的に言うと、「複雑性が増大した集団に変貌した」という見方をいたすのが、モチベーションエンジニアリングの組織観です。

ですので、私どもは「組織は生き物だ」と捉えていまして、生き物であるがゆえに「血流」がある。その血流とは、「AさんとBさん」や「BさんとCさん」、それぞれの関係性の中に流れる「コミュニケーション」である。

そういう意味では、組織に問題が起こったときには、要素還元的に「Aさんが悪い」「Cさんが悪い」ではなくて、「組織の問題は『人』ではなく『間』に生じる」という、関係論的・システム論的な見方をしてまいりました。

一般的には、「営業部門と技術部門」の間に問題がある組織も多いですし、チェーンオペレーションをしている会社であれば、「本社と各店舗」の間に問題がある組織も多いですし。階層的に言えば、「トップとミドル」の間の意思疎通に問題があるケースもあれば、「ミドルと現場」の間という場合もあります。

基幹技術「モチベーションエンジニアリング」

そういった、「組織の問題は『人』ではなく『間』にある」という眼鏡を掛けて、さまざまな組織と向き合い、問題の早期発見と解決に努めてまいりました。

こういった人間観と組織観を前提として、さまざまな組織や個人の現状の診断。そして、その診断結果に応じて、「変革」あるいは「変革に向けたソリューション」を提供してきたのが、この「モチベーションエンジニアリング」です。

リンクアンドモチベーショングループの事業構造

ここまでが、当社の事業の概要となります。

2つの時代背景

2点目の、企業を取り巻く環境変化というパートに入りたいと思います。

こちらは、2つの時代背景がございます。1点目は「経済の『成長』と『成熟化』」でございます。2点目は、「『商品市場の変化』と『人材の流動化』」。人材の流動化とは、「労働市場の変化」と言い換えてもいいのかもしれません。

背景1|経済の「成長」と「成熟化」①

まず、1点目の背景の「経済の『成長』と『成熟化』」から、簡単にご説明させていただきます。

こちらは、エンゲル係数の推移です。戦後復興期から高度成長期にかけて、どんどんエンゲル係数が下がっています。ここ3~4年は、若干上昇傾向にあると言われています。それは、年金受給者である高齢者が増えていることや、外食という文化が根付いていることも含めて、今は25パーセントくらいまで上昇していますが、長い時間観で見ますと、我が国の経済は順調に成長・発展(しています)。

また、成熟期を迎える中でどんなことが起こるかと言うと、「食べるために働く」といった昔のワークモチベーション一色だけではなくて、働く目的やワークモチベーションの源泉が、多様化してくるということなんです。

背景1|経済の「成長」と「成熟化」②

ワークモチベーションの多様化ということで、「稼ぎたい」「お金を貯めたい」という目的で働く人もいるでしょう。

真ん中の「仕事内容」に醍醐味を感じる方もいれば、ある人は、右上の会社の「理念戦略」に共感できるということで、働くモチベーションを高める。また、一番下の真ん中の、一緒に働く人々の「人的魅力」がワークモチベーションになって、がんばる方々もいるわけです。つまり、豊かになればなるほど、一人ひとりのモチベーションは多様化していく。

マズローの欲求5段階説的に言うなら、(低次の)生理的欲求や安全の欲求が満たされれば、より高次元の「人に認められたい」という承認欲求だったり、「誰かに貢献したい」という貢献欲求だったり、あるいは成長欲求・親和欲求を満たしたいということが、十人十色で多様性を帯びてくるということでございます。

そうなると、企業にとってこういった多様なワークモチベーションを束ねなければ、組織成果(業績)が下がるという時代になったと。

当然、個々のモチベーションを高めることも大切なんですが、多様なモチベーションを束ねるというところが、今は企業経営にとって、より重要なテーマになっているということでございます。

背景2|「商品市場の変化」と「人材の流動化」①

背景の2点目の、「『商品市場の変化』と『人材の流動化』」についてご説明させていただきます。

これは(1955年から)2008年までということで、古いデータしか入手できなかったんですが、簡単に言えば、産業構造が変化して、GDPに占める第三次産業……いわゆるサービス産業の比率が、年々高まっているということでございます。

背景2|「商品市場の変化」と「人材の流動化」②

そうなると、かつては「どんな土地を持っている」「どんな設備を持っている」「どれだけ工場を持っているか」といった「ハード」が企業にとって競争優位の源泉だったものが、今は「ソフト」に変わっております。

「ソフト」というのは、人材資源に備わっている「アイディア」だったり、あるいは「ホスピタリティ」だったり、さらには「モチベーション」だったり。そういったものの「ソフト力」の差が、企業の競争力を決める非常に重要なファクターになってきているということでございます。

そこにきまして、右側の「商品のライフサイクル」は、年々短期サイクル化しております。新たなビジネスモデルや新しい商品がヒットしても、それは非常に短い期間のうちに模倣される。さらには、陳腐化することが起こっております。

こういった変化から、企業にとっての競争優位の源泉が「事業戦略」から、そういったソフト力を活かし、短期サイクル化している商品のライフサイクルの変化に適応できるような、組織や人材をいかにつくるかというところ(「組織戦略」)に、移ってきているということでございます。

背景2|「商品市場の変化」と「人材の流動化」③

一方で、人材も流動化しております。

上段では、かつての戦後復興期から高度成長期に、「企業」と「個人」の両者の関係を、私どもは「相互拘束型」の関係と命名しております。(企業は)終身雇用を保証し、一方で個人は、全面的な忠誠行動を企業に捧げる。そういった、お互いに縛り縛られ合う関係だったわけです。

それが1990年代後半以降、徐々に人材の流動化がスタートいたしまして、現在は「企業」と「個人」がお互いに選び選ばれる、「相互選択型」の関係になっております。

企業としては多様な雇用形態・メニューを提供し、個人としては必要に応じて企業と関係を結んだり、場合によって転職や副業をしたり。そういう時代に、変わってきているわけでございます。

背景2|「商品市場の変化」と「人材の流動化」④

そうなると企業にとって(何が起こるかと言うと)これまでは左側の、商品市場への適応だけを考えていたんです。

つまり、自社の商品やサービスを競合企業と争いながら、いかにたくさんマーケットに売り込んでいくか、商品市場にいかに適応していくかということが、至上命題であったわけですが。

それに加えまして、労働市場にいかに適応していくかということが、これからの時代は非常に重要なテーマだということです。

「労働市場への適応」とはどういうことかと言いますと、働く個人から選んでいただけるような、組織の魅力づくりをしなければいけないということなんです。

この労働市場への適応が遅れたがために、例えば「もう、24時間営業ができなくなりました」という話もよく聞きます。労働市場への適応を怠ったがために、「荷物の再配達を制限しなければならなくなりました」という企業も出てまいりました。労働市場への適応がままならなかったために、「新規事業が立ち上がらない」という企業も出ています。

そういう意味では、企業にとって、この労働市場への適応というのは、非常にこれから重要な時代(になります)。今は金回りがいいので、お金はすぐに集めることができるんですが、「人材資源」というものが、もっとも得難い貴重な経営資源になってきていると考えていただければと思います。

2つの市場への適応と指標

最後に、3点目の「企業経営における新たな指標」でございます。

労働市場への適応では、これまではモノサシがなかったわけです。「商品市場への適応度合い」は、その成績表としてP/LやB/Sといった、いわゆる財務情報が明確にあったのですが、労働市場への適応や組織を測るモノサシということでいうと、なかったわけです。

これまでは投資家のみなさまも、せいぜい組織の「従業員数」とか「平均年齢」とか、そういう投資の判断にとって、有益な情報ではないモノサシしか与えられなかったと思います。

そこで、新たな指標のご提案です。

労働市場への適応度(組織状態)を示す概念

この労働市場への適応度(組織状態を示す概念)でいうと、現在はモノサシが不在なんですが、当社といたしましては、その企業とそこで働く従業員のエンゲージメント度合い……つまり、企業と従業員の結び付き度合いです。

「相互理解・相思相愛度合いの指標を、1つのモノサシにするのはいかがでしょうか?」というのが、提案でございます。この従業員エンゲージメントを、当社が開発した組織診断サーベイによって測定するということです。

エンゲージメントを測定する16項目

具体的には、企業と個人のエンゲージメントのポイントを、当社は16項目で測定しております。

左側の8つが「会社に求めるエンゲージメントファクター」です。例えば、「会社基盤が安定している」ということも1つのエンゲージメントのポイントになりますし、上から2番目の「理念戦略に共感している」ということも、非常に重要なエンゲージメントファクターになります。

「事業内容の将来性や成長性」、さらには「仕事内容の醍醐味」「組織風土」……例えば、風通しのよさとか。あるいは、経営陣の魅力や働く同僚たちとの人間関係といった「人的資源」も、非常に企業と個人のエンゲージメントのポイントとしては重要です。

さらには、「働く施設環境」、さらには「制度待遇」ですよね。先ほど申し上げましたように、(モチベーションエンジニアリングの前提である)人間観……「人間は完全合理的な『経済人』ではなくて、限定合理的な『感情人』である」。となれば、お金だけではない他の要素も、会社と従業員のエンゲージメントを決めるポイントになると。(以上の)左側が、会社に求める8つのエンゲージメントファクターです。

さらには(右側にあるように)すでに職場の中で働いているわけですから、その直属の上司の行動を、4つほどに分類しております。詳しくは申し上げませんが(上司の)行動からも、会社と従業員のエンゲージメントに影響する要素が4つほどあるわけです。さらには、その職場の状態からも、エンゲージメントのポイントを4つ抽出しております。

この16項目のエンゲージメントファクターにおいて、さらに4項目ずつに細分化された合計64項目が、組織診断サーベイの設問となります。

エンゲージメント状態の可視化

無記名で社員の方々に、この16項目のそれぞれで「あなたはどれぐらい『期待』しますか?」と「どれぐらい『満足』していますか?」という(ことをご回答いただき、それを表したものが)期待度と満足度というマトリックスです。

これをご覧いただきたいんですが、縦軸が(下から上に)期待度、横軸が左から右に満足度です。

具体的には、期待度の平均値と満足度の平均値の部分で、この両軸を交差するようにしておりますので、この16項目が集計されますと、このマトリックスの上にマッピングされてくるわけです。

左側をご覧ください。「期待度が非常に高いにも関わらず満足度が低い」、左上に飛び出している項目。これを、なんとかしなければならない。逆に右下には、「期待度は低いけど、満足度は高い」という項目も出てまいります。

つまり、そこで「期待度」というファクターのモノサシを入れたのは、先ほどより申し上げている、関係論的なものの見方なんです。

要するに、会社と従業員の関係を見たときに、すべての項目で「満足度だけで、きちっとフルマークなのか」「絶対値で何点なのか」を測るのではなくて。

個人ごとに、求めるものはそれぞれ違いますよね。期待しているものも違いますよね。そうであるならば、「期待度」という縦軸を入れてマトリックス化することによって、16項目の相対的な位置関係が明確になります。

右側が、理想の図です。「期待しているものについては、満足度も高い」「大して期待していないものについては、それなりの満足度しかない」と。こういう左下から右上への楕円形の中に、16ファクターが入っていくように、さまざまな打ち手を打っていくというのが、組織計画のポイントになります。

この期待度を入れたサーベイについては、今年(2018年)3月に特許を取得しております。

労働市場への適応度(組織状態)を測る指標

このエンゲージメントスコア(ES)とは、企業と個人の結び付き度合い、相思相愛度合いを数値化したものです。

まず、「エンゲージメントスコア」というものが、偏差値として出てまいります。これは、サーベイ結果をもとに判定される相思相愛度指数です。実績データは(2018年9月18日時点で)3,840社・90万人でございます。

そして、「期待度」「満足度」「その一致度合い」などから、総合的にエンゲージメントスコアが算出され、そのスコアに応じて、一番左側の「エンゲージメント・レーティング(ER)」ということで、いくつかのバンドでくくり、11段階のレーティングを行っております。

この数値が高まれば高まるほど、業績……つまりは、収益力にプラスの影響を与えるという相関性が、明らかになっております。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本特任教授と、新改研究員にバトンタッチいたしまして、そのあたりのデータ分析について、お話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

武藤:小笹会長、ありがとうございました。岩本先生、新改先生、よろしくお願いいたします。

岩本隆氏:みなさま、おはようございます。慶應ビジネススクールの岩本と申します。それでは、まず私から説明をさせていただきます。

ESと業績との相関性に関する共同研究 概要

「エンプロイーエンゲージメント」は、日本では最近聞かれ始めた言葉ではありますけれども。実は、海外ではものすごく流行っておりまして、欧米やオーストラリアとか、いろいろなところで「エンゲージメントの企業経営における重要性」というのが、すごく語られています。

アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアなどでは、エンゲージメントスコアと企業業績の関係はすごく研究されているわけなんですけれども、日本ではまだ(あまり)なされていないということもありまして、今回が日本では初めてになるかと思いますけれども、エンゲージメントと企業業績との関係性について、統計分析をして導き出したところでございます。

分析対象は(上場企業の)66社、研究期間は今年(2018年)の5月~7月でございます。

この前に一度、実はエンゲージメントと企業売上との相関(の分析)は昨年(2017年)実施しておりまして、これは見事に「きれいに相関が出る」ということでございました。

今回は主に、利益の面……営業利益率と労働生産性に特化して、発表させていただきたいと思います。

ESと業績との相関性に関する共同研究 結果

こちらが、その統計分析の結果でございます。

「エンゲージメントスコア(ES)と営業利益率との相関性」というのが左側になりますけれども、エンゲージメントスコアが1ポイント上昇するにつれて、営業利益率が0.35パーセント上昇する。きれいな相関関係が出ているということでございます。

右側は「エンゲージメントスコアと労働生産性との相関性」になるんですけれども、こちらはエンゲージメントスコアが1ポイント上昇するにつき、労働生産性指数が0.035上昇するという結果になっております。

今日の発表はここまでなんですけれども、研究をリードしてもらっていた新改先生に、このあとコメントをいただければと思います。

新改敬英氏:実際の分析とそのあとのディスカッションについて担当しました、新改と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は、こういった結果が出ました。

そもそも、人事系の指標を財務系の指標とぶつけて統計的に分析するといった手法というのは、これまで私が経験した中では、ほとんど見たことがありません。

そういった意味でも、今回の研究に関しましては、非常に意義の深いものであると考えておりますし、しかもそれが統計的に有意なものであるとわかったことは、これが限られたサンプルであったとしても、非常にこれからのエンゲージメントスコアの価値に関しましては、意義が深いのではないかと考えている次第です。

先ほどから(小笹)会長も岩本先生も、「相関関係」とおっしゃっております。「因果関係」を「相関関係」という言い方にしているのは、ビジネスの領域において因果関係を明らかにすることは、非常に難しいところがあります。変数が多いですし、いろいろな要件を満たさないと、因果関係とは言えないということがあります。

しかしながら、今回の研究に関しましては、限られたサンプルだったものを(次から)サンプル数を増やすとか、あるいは個別の企業に関しての事例を研究していくといったことを重ねることによって、より因果関係が明らかになるのではないかと考えています。

これは、分析・ディスカッションした私の個人的な感想なんですけれども、因果関係はおそらく実際にあるのではないかと考えています。

とくにスタートアップ企業さんですとか、あるいは労働集約型の企業さんですとか、そういった企業さんに関しましては、ある程度の因果関係はこれから発見できるのではないかと期待をしているところでございます。以上になります。

岩本:我々の発表は、以上でございます。ありがとうございました。

武藤:岩本先生、新改先生、ありがとうございました。

ここからは再び、小笹からお話をさせていただきます。よろしくお願いします。

当社のM&Aについて

小笹:画面に出ていまして、これはかなりリアルな数字なんですけれども、当社はこれまでM&Aをたくさん経験しております。

M&Aで会社を買収するときには、デューデリジェンスをするわけですが、基本的には財務系のアプローチしかできないんです。ほかにも競争している企業もありますから、最後に値付けするときには、財務情報が中心になります。

2013年以降に、いくつかM&Aをしてきました。左側のグラフが、当社グループに入ってくれた200人を超える規模の3社の、エンゲージメントスコアの推移です。

一番最初(2013年)をご覧ください。赤いところは、リンクスタッフィングという人材派遣事業をやっている会社です。実に47.4と(なっています)。

青いところは、リンクアカデミーというキャリアスクール事業……パソコンスクールのアビバとか、資格の大栄をやっている教室事業です。買収して一番最初にやるのは、エンゲージメントスコアを測定することなんですけれども、これも(2013年で)49.3です。

簡単に言うと、「会社を買ってきたものの、ふたを開けてみたら組織が危ない」という状況からスタートするんです。最近はもう慣れてきましたので、どんな数値であろうが驚かなくなったんですが。

そこから半年ごとにエンゲージメントスコアを測定し、いろいろな手を打つ。当然、人材教育もいたしますし、人材採用の見直しもします。いろいろな手を打ちながら、このエンゲージメントスコアを2~3年かけて、グラフでご覧いただけるように上昇させていくわけです。そんなことを、当社でやっています。

結果的に、右側のグラフをご覧ください。M&A前の会社の営業利益率が、M&A後は大幅に改善してきているわけです。

当社自身もいろいろなクライアント・経営者に対して、とにかく「エンゲージメントスコアというものを、経営指標に入れなさい」「P/LやB/Sというものは、商品市場への適応度合いの結果論としての成績表だ」。

「でも、いい成績を出そうと思えば、一歩手前の組織のエンゲージメントのところを高めるようなアクションを経営指標に入れて、PDCAサイクルを回して、そのスコアを高めるようにしなさい」ということを、啓発・啓蒙してきています。

ですから、当社も自らが実践者であるべきということで、それを忠実にやっております。先ほど先生からもお話がありましたが、確実にこのエンゲージメントスコアの上昇が、営業利益率の向上に繋がっていくと。

裏を返せば、だいたい会社を買ってきたときに見た組織は、エンゲージメントが低いんです。どういう状態かというと、人を入れども入れども辞めていくと。現場のマネージャーは人を育てる意識もなく、自らもプレイヤー。

辞めたら、人事部門に「また人を補充してくれ」と。これを繰り返して、永遠に生産性が高まらないというのが、逆側から見たエンゲージメントの低い組織の実態です。それが、世の中にたくさんございます。

そうではなくて、より筋肉質に、会社と個人の結び付き度合いを高めていく。先ほど言いましたように、組織は(協働)システムですから、10人のチームが1人欠けても、あとの9人の連携の仕方によって、同じような成果が出せるというものがございます。

これが当社のM&Aと、エンゲージメントスコアと営業利益率の推移についてのご説明になります。

当社の売上推移とエンゲージメント・レーティング

そして、当社本体のリンクアンドモチベーションは、ずっとエンゲージメント・レーティングでいうとAAAを継続しております。

引き続き、当社の人材・組織という経営資源をうまく活かしながら、事業成長を目指していく予定でございます。

エンゲージメント・レーティングを活用した組織改善クラウド

「モチベーションクラウド」という、このエンゲージメントスコアを測定したり、スコアを高めるためのアクションプランを立てたり、それの進捗管理をしたりというクラウドサービスがございます。

この「モチベーションクラウド」を導入していただいている企業数も、どんどん増えております。言い方を変えれば、エンゲージメント・レーティングを経営指標として重視して、そこをしっかり測定し、そして、その改善に向けた取り組みをしている企業が増えてきていると。

エンゲージメント・レーティング開示 賛同企業一覧

当初はITやサービス系のベンチャー企業の導入が多かったんですが、最近では大手企業さまにかなり関心を持っていただけるようになりまして、大手企業さまの導入もかなり活発化しております。

今日は、このあとのセッションで、このエンゲージメント・レーティング開示賛同企業のクラウドワークスさん・ユーザベースさん・ラクスルさんにご登壇いただきます。

その他においても、自らの組織状態、言い方を変えれば「エンゲージメント・レーティングを開示していく」ということに賛同していただいている企業が、出始めております。

当社の目標としては、2025年までには上場企業の約10分の1(300社)が、このエンゲージメント・レーティングを投資家のみなさまに普通に開示している、そんな世の中になること。

また、エンゲージメント・レーティングを高める事業経営者が、たくさん増える。そして、働く個人がいきいきと、組織からやりがいや働きがいを与えられるような社会づくりを目指していきたいと考えておりますので、ご支援のほどをよろしくお願いいたします。

私からは、以上になります。ありがとうございました。

武藤:小笹会長、ありがとうございました。

(会場拍手)

武藤:みなさま、ご清聴ありがとうございました。

それではここから第二部の、賛同企業のみなさまによるトークセッションに移ってまいります。会場の準備をいたしますので、少々お待ちください。