投資家と幹部の接触機会を増やした

一瀬龍太朗氏(以下、一瀬):これは、社員総会の様子ですね。一度掲げた「時価総額(に注力した)経営をやるぞ」ということは、簡単には戻さない。1回言ったからには、ずっと言い続けるということです。宣言した3ヶ月後の社員総会にも、幹部を前に……時にはあまり積極的でない幹部にも、無理やり「登壇してください」と言って。

菅原弘暁氏(以下、菅原):ははは(笑)。

一瀬:パネルディスカッションをやってみるとか。一般的にはIRの場面に、積極的に登壇したい幹部は多くないと思います。「自分は今、この事業を任されているわけで、目標も掲げて利益を出さないといけないのに、なんで投資家の前に出なきゃいけないんだ」みたいな空気感は、やっぱり出たりしますよね。

なので、企業経営上やらなきゃいけないことをわかっているものの、ちょっと重い腰をよいしょって、「しょうがないか」っていう感じで出ていただくケースって、けっこうあるのかなと思っているんですよね。

菅原:執行役員が(投資家の前に)出るということですよね? 

一瀬:そうですね、役員とか。

菅原:「あいつががんばってます」っていうことですもんね。

一瀬:そうですね。だから、私がIRをやるときには、積極的に幹部を矢面に立たせることをやりましたね。(今までは)資本市場との結節点……パイプが、IR担当者か社長しかいなかった状況なんですね。当社で言えば、CEOの会長ですけれども。

でも、それってすごく狭いパイプなんですよね。やっぱりそれだと、資本市場適応上は、コミュニケーションの血栓ができやすい構造なのかなと思っていました。やっぱりIRは、投資家や資本市場と向き合うとか、その声を聞くことが、すごく学びになると思ったんですよね。

「嫌な人や変な人もいるけど、すごくアドバイスやありがたいことを言ってくれるじゃないか」ということもあって。これを私だけが知っているのは、すごくもったいないなと思って、「ぜひ前に出てください」と。

一生懸命ビジネスを作っている幹部が、そのビジネスについて熱く語ることは、やっぱりすごく大事だなと思っていて。なので、機関投資家との説明会とかには、最初は代表とIR担当者だけで出ていたものを、今はどんどん登壇者を増やしていまして。

一瀬:はい、これですね。「投資家との接触機会を積極的に創出」ということで、(スライドの)左側に赤丸で括ってるところは、当社の役員ですね。「投資家が何をしゃべってるのか、自分の耳で直接聞いてください」「その質問に対して、幹部が自分の言葉でしゃべってください」と。

ということで、だんだん資本市場と向き合うということが、幹部陣・経営ボードの中で「自分ごと化」されていったなという感覚が、すごくありますね。

ここが「自分ごと化」されないと、すごくハレーションが起きるんですよね。(会社全体の)コミュニケーションやエンゲージメントを、すごく一生懸命がんばってはいるものの、それでもやっぱり(各部門の)個別最適性はすごくあって。

「株主・投資家からの期待がこれだけ高いんだから、このぐらいやれよ」みたいな話が、例えば代表からあったとするじゃないですか。(それに対して役員が)「いやいや、できないできない。今はそんな状況じゃねぇし」みたいな。

(会場笑)

一瀬:この内部の小競り合いみたいなものが起きがちですけれども、やっぱりいったんこのようなところ(投資家の前)に出ていって、そのような市場やステークホルダーとリアルに接触することによって、「そうだよな」「理解がすごく速くなったよ」「コミュニケーションがすごくスムーズになりましたよね」と、そのようなことをやったりとか。

あとは投資家にも、IR担当者や決算資料だけを見るんじゃなくて、もっとちゃんと会社のことを知ってくださいと。なので、そのような接地面を増やしたいなという話から、機関投資家向けにオフィス見学をやっています。「リンクさんはこのような感じで働いてるんだ」「エンゲージメントが高いな」と見せたくて、そのような工夫もしていましたね。

菅原:なるほど。

一瀬:ということで、そのようなIR経由の間接情報だけではなく、やっぱり直接情報から伝わる温度感は、すごくあるかなと思います。

大事なのは「たった1人で戦わないこと」

菅原:広報とメディアに通じる部分が、ある気がしますね。広報から言うよりも、直接事業を作っている人からのほうが、やっぱり伝わるものがあるということですよね。

一瀬:そうですね。なので、やっぱり「伝える努力」は非常に重要なのかなと。これは別にIRに、限らずですよね。(ここにいらっしゃるのは)コーポレートコミュニケーションのみなさまかと思います。

やっぱり伝える努力とか、何が伝わったかとか。そのようなことを一生懸命やって、本気になる。その本気をみんなに理解してもらうことって、すごく大事だと思います。「たった1人で戦わない」ということは、すごく大事なんだろうなと思ってますね。

やっぱりIRをやってると、どうしても投資家からのプレッシャーがくるわけですよね。代表も感じてるかもしれませんけれども。1on1のようなIRの面談を繰り返していくと、その矢面にIR担当者はずーっと(プレッシャーを)浴び続けることになるわけなんですね。「なんで僕だけ、こんな(プレッシャーを)受けてるんだろう」。

菅原:(笑)。

一瀬:だんだん、頭にきちゃったりして(笑)。

菅原:はいはい(笑)。

一瀬:もっと、みんなでやりたいなと思ったんですよね。

菅原:なるほどね。

一瀬:なので、「全社一丸」という発想が出てきて、みんなでやろうと。逆に言うと、自分は1人じゃない。目の前に投資家や資本市場が広がっているかもしれませんけども、後ろを振り返れば、仲間がいるじゃないかと。

自社の社員がいるし、任せて仕事をくださる経営ボードがいる。この人たちと一緒に戦おうということが、奏功したのかなと。

菅原:一瀬さんご自身も、励まされたことが?

一瀬:そうですね、本当に。ぶっちゃけた話をすると、当社は12月決算なので、ちょうどこの(2018年)2月に本決算を出したばかりですけれども。2017年12月の最後のクォーターの業績が、ちょっと怪しかったんですね。「怪しかった」というのは、外部公表目標に対して、届くかどうかというところだったわけですよ。

やっぱり外部に出している業績予想は、「約束」なので。「この約束を守る」ことが信頼につながるので、なんとしても信頼獲得をしなければならん……ということで、けっこう焦っていたんですよね。

このときに、「全社一丸IR」ということで、IR情報を流しました。経営幹部にも現場の社員にも「自分ごと化」していただいたからこそ、最後の(クォーターで)「外部に対しての約束が危ないかもしれない」という時に、めちゃくちゃ協力してくれたんですよ。会社が、幹部が。現場の一人ひとりのメンバーも。それこそ、新卒社員の1年目の子とかもですね。

「自分たちの部署ががんばってこの業績を達成することによって、資本市場との約束を守っていこうぜ」「信頼を獲得するんだ」「我々は1兆円企業を目指すんだから、こんなことではへこたれない」とか、言ってくれるわけですよ。

菅原:へぇ〜。感動しますね、それ。

一瀬:感動しますよ。当社の中で、事業が大きく3つに分かれていて。その中の2つは、短期的に業績を伸ばすことが難しいビジネスモデルなんですね。

一番短期で業績が積みやすい、本業のコンサルティングの部隊があるんですけれども。そこの幹部がこの状況下で、「目標を上方修正しよう。他のディビジョンが苦戦してる中で、我々が株価・時価総額(の向上)の牽引役をやるんだ」と発信して、喜んで目標を上げてくださって。それに文句を言わずに、むしろ「がんばります!」と言ってくれる社員たちがいて。

菅原:男気ですね。

一瀬:なんていい会社なんだろうと(笑)。

(会場笑)

一瀬:本当に思いましたね。そのような姿を垣間見たら、やっぱりそのすばらしさや努力を、一生懸命伝えたいなと思いましたね。投資家や資本市場に対して。そのような思いで、一つひとつの面談に臨んでる感じですね。

菅原:今の時点での感想を言ってもしょうがないですけど、IRってけっこう冷たいイメージ……数字が並べられてるイメージだと思いますけど。やっぱりエモいですよね。

一瀬:そうなんですよね。やっぱり形式的であるとか、慣習の強い業界なんだろうなっていうのを、なんとなく2年間やってくる中で、すごく思ったんですけども。新しい風を吹かせられるんじゃないかなという機運というか、雰囲気みたいなものはあって。

それこそ「IRに大事なのはモチベーションだ」ぐらいまで、言っちゃってもいいんじゃないかなと、僕は思っていて。誰も、そんなことは言ってないですけどね。だけど、みんなそのようなことを求めてるんじゃないかなって。

やっぱり、熱い思いを持ってやってる企業や担当者と仕事がしたいとか、そのようなところに投資や応援をしたいとか。これは別に、IRに限った話じゃないと思うんですけど。そのようなエモーショナルな部分とか、目に見えない部分・数字で表れないところに、コーポレートとしての魅力があるような気がします。

2年で8倍成長した株価

菅原:ありがとうございます。ちょっと途中で話の腰を折っちゃって……。続きもあると思いますので。

一瀬:あります。そんなこんなでIRをフルスイングさせていただきまして……これは、当社の株価の推移ですね。

菅原:上がり方がすごいですよね。

一瀬:上がり方が半端ない。

(会場がざわつく)

菅原:逆に、何をしてたんですか? この下がってる時。

(会場笑)

一瀬:上場直後のリーマンショック後、当時の経営においては、株主とのリレーション構築には十分な時間やコストを割いてこれませんでした。事業活動の商品市場への向き合い方、顧客とどう向き合うかの話、ビジネスと向き合うこと。これに加えて、労働市場に向き合う……当社の従業員や採用市場の方々と向き合って、そこに対してコスト投下や経営の努力をすることが、当時は必要なんじゃないか、と。

しかし、ただ、代表は、「それは明らかに間違ってた」と、今は申していまして。やっぱり企業経営にとって、(商品市場、労働市場、資本市場の)3市場適応は非常に重要な命題であって。それぞれは連動しているので、ちゃんと3市場に向き合っていくことが重要なんだなっていうことに気づいたのが、ここ(2016年)ですね。

菅原:なるほど。そこから、フルスイングでガーッと上がられましたね。

一瀬:そうですね。いろいろなラッキーも重なりまして、うまいこといきました。上場来高値を更新して、(時価総額は)1,000億円ですね。このあたり(2016年の底値)が100億円ぐらいでしたので。

菅原:もう今日(2018年3月1日)時点で言うと1,249億円なので、もうグラフにおさまらないでしょ?

一瀬:そうですね。はい。

菅原:は〜、わかりました。

一瀬:そのようなありがたいことが、いろんな巡り合わせで起きたのが、この2年ですね。

菅原:うらやましい。

一瀬:なので、「IRを起点に、戦略的に従業員エンゲージメントを高め、資本市場への『約束』を『実行』する企業創り」が、IR担当者の視点として非常に重要だったのかなというのが、私の今のところの結論ですね。

IRでも、やりたいことをやればいい

菅原:なるほど、ありがとうございます。けっこうIRの伝え方や(市場に対する)約束の伝え方・数字という部分だけに、(それらの)実行って、けっこう大事なんだなと。

一瀬:そうだと思いますね。やっぱり実体を作ることが、非常に重要なんだなと思っていて。きれいなことを言うだけなら、すごく簡単だと思うんですけど、そのようなものって見抜かれるのかなと思ってますし。これだけメディアが多様化をしていて、情報のコントロールが難しい世の中で……昔は、統制が効いたと思うんですよ。企業情報は企業の中心機関が発信して、それが真実であると。

だけど今はSNSの時代であり、多様なメディアがあり、口コミサイトがたくさんあり……という状況の中で、やっぱりセントラライズされた情報だけじゃなくて、非セントラライズ……要するに、分散した情報発信が、もう溢れているわけじゃないですか。

そうなると、綻びは絶対見えるんだろうなと思っているので。表裏がないとか、言行一致の経営が、これからは非常に求められるんだろうなと思います。スライドは、以上ですかね。

菅原:ありがとうございます。今日いろいろお話しいただいた中で、「IRパーソン自体は、どのように変わっていくべきだ」「変わっていけば、よりよくなるんじゃないか」というところで、ご意見を聞かせていただければと思うんですけど。

一瀬:自由にやっていいんだっていうことを、みなさんも、もっと思っていいのかなと思ってますね。

やっぱり(IRは)「形式ばった」とか「決められた仕事」とか「ルーティンである」みたいな部分もありますし、法的制約もありますけれども。それでも、「やりたいことをやればいいじゃん」「伝えたいことを、みんなに伝えようよ」と。

それは外部の人に対してもそうですし、社内の人に対しても、「私はこのような仕事をしてる」「このようなことを一生懸命やりたい、だから協力してほしい」とか。「どうせ変わんないしな」みたいな感覚が蔓延している感じは、やっぱり変えていきたいなと、私は思いましたね。

「自分が大事にしたいと思うことを、作れる。そのような自己効力感やムーブメントを、たまたま(IR活動を)やっていく中で結果が出た、リンクアンドモチベーションのIR担当者が言ってたな」と。なにか1つ、みなさまや、まだ私の出会ったことのない方々……IR担当者もそうですし、他のコーポレートスタッフの方々が見て、なにか1つ気づいてもらえるとか。もっと新しいことやってみようとか、新しいチャレンジが生まれたらいいなと思いますね。

やっぱりそのためには、伝えたいっていう気持ちが、すごく大事な原動力なのかなと思っているので。そのような意味では、会社のことをすごく真剣に考える人が、コミュニケーションに携わる人としてすごく向いているのかなと。これは、PRとかも一緒だと思います。

菅原:そうですね。ありがとうございました。いったんここで、セッション自体は終わらせていただきます。