リンクアンドモチベーションの従業員持株会

一瀬龍太朗氏(以下、一瀬):ちなみに2016年から「IRはフルスイングでやるぞ」ということで、だいぶ予算をとって、経営の本気を見せることをやりました。その当時のIR予算を、相当な額確保して、フルスイングのIRをやりました。いろいろやったんですけれども、IRへの本気度を示す1つの施策として、従業員持株会があると思っています。(IRを強化する前から)もともとやっていたんですけれども。

従業員持株会とは、従業員のお給料から一部天引きをして、自社の株を買って資産にしていきましょう、ストックしていきましょうという考え方なんですね。

よく、(従業員のお給料から一部)天引きされて、「従業員持株会に入ってくれたら、いくらかは会社が補助しますよ」と、奨励金がつくケースがありますよね。それが5パーセントだったり、多く出しましょうという場合は、10パーセントもついたりすることがあります。

当社も上場来(従業員持株会を)やってきたんですけれども、「IRを本気でやるのであれば、その本気度合いが、従業員に対してもしっかりと伝わることが重要であろう」ということで、制度を見直しました。当社の奨励金は拠出額に応じて(レートを)変えてはいるんですけれども、一番多く……毎月5万円以上出資をする従業員に対しては、奨励金を40パーセント負担しましょうと。

菅原弘暁氏(以下、菅原):40パーセント! は〜。

一瀬:なので、5万円であれば2万円ですか。最大で(月額の出資額は)10万円なんですけれども。10万円であれば、毎月4万円分の株を会社が買ってくれて、それが自分の資産形成につながると。

菅原:みなさん、ネットで調べていただければわかるんですけれども……日本のほとんどの会社って、(奨励金の負担は)5パーセントや、良くて15パーセントぐらいが多いんですよね。

一瀬:40パーセント出している会社は、あまり聞いたことがないですね。

菅原:ほぼ、半分還元じゃないですか。

一瀬:正直、こんな金融商品はないと思うんですよね。銀行の金利は……これは安すぎますけれども、0.0何パーセントですよと。いい利回りだとしても数パーセントだと考えると、(当社の従業員持株会は)株価のボラティリティのリスクはありますけれども、それにしても40パーセントの(負担)は、けっこう……。

菅原:思い切りましたね。

一瀬:けっこう、大奮発ですね。それだけ本気で、時価総額に向き合うこと。これが、株価が上がってから従業員に「もっと出資しておけばよかったな」と後悔をさせたくないという、ちょっとした思いやりですね。それを振り切ったかたちにして、このようになったという感じです。

菅原:「(みんな、従業員持株会を)やっていけ」と(笑)。インパクトがある数字を出すと、やっぱりみんな「おおー!」となるんですか?

一瀬:そうですね。どよどよっとしましたね。

菅原:5パーセントって言われても、ちょっとテンションが上がらないですもんね。

一瀬:そうですよね。

菅原:(それに対して)40パーセントと言われると……。

一瀬:なので、これをすごく魅力的だと思ってくれた新卒の社員は、1年目から10万円をぶっ込むとか。

菅原:へぇ〜。

一瀬:私もやっていました。その時は40パーセントとかじゃなくて。その当時でどれくらいでしたかね、20パーセントとか? それでもけっこう、高い水準だったんですけど。

菅原:それこそ、自己投資産業に近いけれども。「ぶっ込んだから、やるしかない」じゃないですけど。

一瀬:そうですね。振り切った言い方をすれば、従業員持株会は「会社と一心同体になる」ということだろうなと思っているんですよね。なので、やっぱり従業員持株会は、従業員のオーナーシップマインドを醸成する、おもしろい制度だなと思ってるんですよね。

自分ががんばって成果を出して、業績につないで会社が伸びる。それによって資本市場からの評価も高まって、それが自分の資産として形成されるのは、もうオーナー経営者と同じなんじゃないかな。

その比率は違いますけれども、結局そのようなことじゃないかなと思います。そのような意味でも、これはインナーIRとしても、すごく意味があったことかなと思いますね。

菅原:会社の成長を、自分が感じられるという意味では。

一瀬:そうですね。それでちゃんと株価が向上していけば、従業員の資産形成につながるので、ドリームもあると思いますね。

菅原:ははは(笑)。そうですよね。確かに月に4万円もらえるんだったら、がんばるか。

一瀬:それこそ、20代でもう資産が何千万円もある社員もいますね。

菅原:へぇ〜。

一瀬:(その要因には)株価がこれだけ順調に伸びてきてしまったというのも、当然あるんですけれども。

菅原:リンモチさんの社員のみなさんは、熱量がすごいですよね。

一瀬:ありがとうございます、そうですね(笑)。

菅原:熱がすごいんですよ、熱が。

一瀬:これが、エンゲージメントです(笑)。もう平たい言葉で言うと、「本気が大事だな」と思ってるんですよ、みんな。青臭い言葉かもしれないですけど、「世の中に本気で働いている人間・大人たちが、どれだけいるのか?」に真正面から向き合って、問うてみたいなというのが、当社なので。

時にはバカにされたり、「ちょっと気持ち悪い会社だね」というご指摘を、IR部門にもいただくことがあるんですけれども。「別にそれでもいいじゃないか」と、自信を持ってやっている会社かなと思いますね。

それを口先だけで言ってるんじゃなくて、実際の経営にも仕組みとして、ちゃんと落としていこうじゃないかと。「本気をかたちにすると、どのような人事制度になって、どのような持株会の制度になって、どのようなIRをするのか」。そういうチャレンジをしているところに、当社の魅力があるのかなと、手前味噌ながら思っていますね。

菅原:そうですね。実際に(従業員持株会に)どれぐらいの方が入られているのかは……?

一瀬:ちょっとだけ古いデータですけれども、だいたい水準的には、これぐらいの従業員の方が入られていて。

菅原:ほぼ全社員ですね。

一瀬:そうですね。

菅原:これってどうなんですか? やっぱり(入会率は他社に比べて)高いんですかね?

一瀬:高いと思います。IRのつながりの中で、いろいろな方とお話ししますけれども。従業員持株会をやってますよという会社さんの中で、(入会率が)90パーセント後半の会社さんは、なかなかいらっしゃらない……というか、聞いたことがないですよね。

菅原:そうですよね。それぞれ自分の会社がどうなのか、考えていただきたいのですけど。私も、聞いたことがないですね。

一瀬:そうですね。(当社が)自然にこうなったわけではなくて、当然努力をして、この数字を作っているんですよね。従業員に対する説明を、かなり濃密にしています。

菅原:あ〜。

一瀬:それこそ、当社は新卒社員がすごく多かったんですけれども、その新入社員ガイダンスの中で、持株会制度について語ります。

菅原:数多くいる、3,000人の投資家の前に立つように?(笑)。

一瀬:そうそうそう(笑)。

菅原:(グループ全体の)1,400人の前でも(笑)。

一瀬:「(従業員持株会を)やっといたほうがいいかもよ?」みたいな話を、するわけですよね。当然、経営のレイヤーからすれば、やっぱり従業員が会社を「自分ごと化」して、オーナーシップマインドを持ってくれるということは、ウェルカムな話ですので。

最終的には(従業員持株会の入会は)個人の自由ですから、別に強制することは一切ありませんけれども、やっぱりおすすめはしますね。そのような意味では、従業員に対して営業行為・営業活動をしていることに、等しいのかなと思っています。

菅原:なるほど、ありがとうございます。

コミュニケーションは「血流」

一瀬:あとは、インナーIRの取り組みということで、やっぱりキーになるのは社内広報だなと思っています。ここはインナーIRに限らず、当社の社内広報について少し説明をしていますけれども。

やっぱり(社名を)「モチベーション」というだけあって、自社のリンクアンドモチベーショングループ内のモチベーションやエンゲージメントを高めるために、当社は積極的に投資をしていまして。その投資とは何かというと、総じて言えば、コミュニケーションに対しての投資なんですね。

菅原:コミュニケーションなんですね。

一瀬:なので、社内のコミュニケーションをいかにサラサラにするか。望ましいコミュニケーションをどうやって誘発するかを設計して、ひたすら投資をしているのが、当社の強みの1つでもあるのかなと思っていますね。

なので、社内のイベントや、あとはメディアですね。先ほども申し上げましたとおり、3ヶ月に一度全社員を集めて、グループ会社も含めて総会をしますし。

菅原:これも、多いですもんね。年に1回や半年に1回という会社が、ほとんどだと思うんですけど。

一瀬:そうですね。全社員といっても……昔は本当に、全社員を集めてやってたんですけれども。今でいうと、M&Aをして全国に店舗を持ってやっているビジネスがあるんですね。

例えば、パソコンスクールのアビバ。ご存じの方もいらっしゃるかと思うんですけれども、あの会社も(リンクアンドモチベーションに)グループインをして、当社のBtoCのビジネスとして展開させていただいてるんですね。そうなると、(全社員が総会に参加することで)さすがに店舗は閉じられないというところがありますので、一部の社員には残ってもらいますけれども。

基本的には、全社員集まってやろうということです。3ヶ月に一度、大型のホール会場を借りて、(グループ全体の)1,400人中、現在は1,000人ぐらいを集めて、社内イベントをやっています。そこで、会社の方針や業績、当社の労働市場適応の状況の報告をしています。あとは、これからご紹介しますけれども、IRの情報を流すこともやっていますね。

そのようなイベントに加えて、メディアにもけっこう力を入れています。いろいろやっているんですけれども。例えば紙媒体で、当社では『LMジャーナル』と名前をつけて、3ヶ月に一度、季刊の社内報をやっています。あとは、Webで動画を流しています。

菅原:動画?

一瀬:動画社内報をやっています。これを、毎週やっていますね。あとは、当社が大事にしている『DNA BOOK』『HISTORY BOOK』みたいな、我々の文化を深掘りした内容を伝えるような仕組みとか。テストもやっていますね。

菅原:テスト?

一瀬:このような冊子があるんですけれども。年に1回、グループ社員全員でテストをして、満点を目指して一生懸命がんばるみたいなことを、やっています。

菅原:会社が大事にしてる価値観を、穴埋めとかで?

一瀬:そうです、そうです。そのような社内施策を、そもそもやっていまして。とにかく、コミュニケーションをサラサラにすると。私たちは、企業を生命体的・生物学的に見ています。コミュニケーションは、やっぱり血流だと見ているわけですね。

なので、そのコミュニケーションが滞ることによって、(人体で言うと)例えば肩こりが起きたり、内臓の機能が低下したり、頭に血が回らなかったりすることが、企業経営上も(問題として)大きいかなと思っていますので。(それを防ぐために、コミュニケーションを)サラサラにするわけですよね。このような社内の血流の中に、IRを溶かし込む。

菅原:そこをサラサラにしてから?

一瀬:はい。そのような意味では、ラッキーだったんですよ。私がこのIRで、結果を出しやすい状態にあったと。当然、当社の株価がIR活動だけによって10倍にまで上がっているなんて、私はさらさら思ってなくて。

現場のがんばりがあって、優れたプロダクトがあって、経営ボードのすばらしい判断があっての総合された結果だと、当然捉えています。ただし、IR活動やコミュニケーションの設計という意味で言えば、貢献したところもあるかなとも思っているんです。その貢献のしやすさが、断然高かったのかなと思っていて。

それはなぜかというと、コミュニケーションインフラが整ってたという話なんですね。

菅原:(インフラが)良かったから?

一瀬:そうですね。「こんなに血液がバンバン流れているじゃないか」と。もう社内の情報なんて、さらっさらに流れてしまっていたわけですよね。

「じゃあここに、『IR』という情報をポンって落とし込んだら、どうなるだろうか?」というところで、ちょっとずつやってみた感じなんですよね。それでこのような季刊報にも、「時価総額1兆円企業」みたいなドリームを掲げて、それについての幹部陣の対談を、特集でやるとか。

あとは、月刊のWeb社内報があるんですけれども。(季刊報より)もうちょっとライト版で、今の企業経営の問題に切り込んでいくような、ジャーナリズムのある記事を毎月やっているんですけれども、ここに出て行ったり。

そのようなことをちょっとずつ、いろいろしてみましたね。このコミュニケーション(インフラ)に、IRを乗せていくと。

菅原:確かにね。「『時価総額1兆円を目指す』と言ったって、どうやるの?」って思いますよね。

一瀬:そうですよね。よくありがちなのは、経営の方針は掲げるんだけども、(従業員としては)「で?」っていう。「(経営方針に)中身がない」「達成の可能性が見えないよ」ということが、非常にあるのかなと思っていまして。

「3ヶ年計画」や「中期経営計画」が、いろいろな会社さんから出されていて、流行ってるじゃないですか。それを考え抜くということは、非常に重要だと思うんですけれども。「じゃあ、それをどうやって実現するんですか?」という、その「So what?」が、すごく大事なのかなと思っていて。

これは当然、IRをされてるみなさま方にも、すごく実感値があるかと思うんですけど。やっぱり、機関投資家や株主の方に聞かれるわけですよね。「『3年後に今の規模の2倍』って言ってるけど、どうやってやるの? この環境下で」みたいな。そのような、ちょっとつらい質問を受けるわけなんです。「えーっと、それはですね」とか言って、なんとかかわすわけですけど(笑)。

やっぱり、それを従業員に対しても拡張して考えて、同じことが言えるんじゃないかなと思ってるわけですよね。例えば、経営のトップが、「これからこのようなことをやるぞ」「今まではこっちに向かって行ってたけど、今度はこっちだ」「AじゃなくてBだ」みたいに経営方針変更をしたとします。

その時に(従業員が思うのは)「えー?」「どうやってやるんですか?」「いや、それは無理だよ」「こんなリスクがありますよね」みたいなことです。これは、やっぱり阻害要因になるわけですよね。

それこそ従業員のモチベーションが低下するわけなので、それをいかに、同じ経営の考え方と並走して考えていただけるようになるかということが重要で。そのようなことを伝えるために、いろんなメディアでIRの情報を流すことをやっていきました。

がんばってることは、ちゃんと伝えようよ

一瀬:海外IRを当社も始めて、とりあえずいったんやってみようということで、私が企画して、CFOと行ってきたわけですけれども。このような情報も、「一生懸命IRとしてやっていることを、みんなに知ってほしいな」という思いもあり、「ちょっと取り上げてよ」ということで、動画社内報で流しました。

菅原:活動を知ってもらうっていうのが、やっぱり大事ですよね。

一瀬:そうですね。

菅原:広報でも多いんですよ。がんばってるのに、「あいつ、何をしてるんだ?」ってみんなから言われて、枕を濡らすみたいな。

一瀬:そうですね。

(会場笑)

一瀬:縁の下の力持ち的な感じじゃないですか、コーポレート部門の方々とか、スタッフ部門の方々って。そのような方々がいないと会社が回らないということは、たぶんみんな、頭では理解しているんだけれども。そのリアリティって、あまりないと思うんですね。

それで、そこ(担当者)にどこかあきらめの空気が流れる。「どうせ現場は、管理部門のことはわかんないしな」みたいなのって、絶対にあると思うんですよね。それって、あまり健全じゃないなと思っていて。「がんばってることはがんばってるって、ちゃんと伝えようよ」と、僕はすごく思っていますね。

なので、これだけ一生懸命にIRや新しいことを仕掛けていることを、もっとみんなに理解していただく。これがやっぱり、コミュニケーションとして非常に重要なのかなと思います。

菅原:ありがとうございます。