2018年3月期 第3四半期決算説明会
永守重信氏(以下、永守):それでは第3四半期の決算について、ポイントを突いてお話しします。最初の方はさまざまな資料がありますので、そちらに関しては見ていただいて、後ほど、質問があれば、お答えしていきたいと思います。
HDD市場の短期トレンド
11ページからお話しいたします。11ページでは、HDDのトレンドについて簡単に説明しておきたいと思います。このマーケットは、数量ベースで言うと下がっています。
しかし、この終わった期(2018年3月期第3四半期)もそうでありますが、サーバも含めてニアラインの数量が増えてきています。とくに第3四半期では、既にヘリウム充填ガスのHDDは50パーセントを超えてきました。
現時点から見ると、おそらく2020年には、全体の数量の中でも売上ベースで、サーバ用やニアラインが50パーセントを超えてくるということで、あまり総量全体の生産数量よりも、売上ベースで見ていただくと非常にわかりやすいかと思います。
言い換えれば、我々にとっては、平均単価と平均のマージン率がますます上がっていきますので、マージン率のアップによって利益もしっかりと出していけるというトレンドに、はっきりとなってきているということを、まず、説明しておきます。
事業環境:モータは産業のコメになる
今日は、この12ページの内容を重点にお話をしていきます。そもそも、私は学生時代からブラシレスDCモータの研究をずっとやってきまして、昔、勤めていた会社に対して、「このモータは将来非常に有望だから、事業にしてはどうか」ということを申し上げたのですが、「そんなものは興味はない」ということでした。
そのため、私は「世界のモータを全部ブラシレスモータに変えていこう」という遠大な計画に基づいて、1973年に日本電産という会社をを創業しました。それ以来、45年経ちましたが、その関連のところで、4つの大波が到来しました。過去にも様々な波がありましたが、その中で一番大きかったものは1990年代、HDDに進出したときの大波です。
そのときは、もちろん今とは規模が違いますけれども、次々と新工場を作っていって、もちろん国内工場もありましたが、タイにも進出し、それからフィリピンにも進出し、生産能力の向上に全力をあげていた時期がありました。そのときと同じような状況が、今まさにこの4つの大波として来ていると私は見ています。
これらはすべて、今申し上げたブラシレスDCモータの応用製品であり、かつそれに関係する分野です。まず1つは、クルマの電動化。これは過去にも説明をしていますから重複になりますが、現在これに関連する引き合い状況は、すさまじいものがあるということで、人材の投入をものすごい勢いで行っています。
従って目先のところでは、人件費増によって収益に若干圧迫感がありますが、一方で、過去にない来客者数となっています。私も今大変多忙で、来客者の対応に追われていますけれども、本当に(各企業の)トップの方々が次々といらっしゃって、この電動化の波に対するプロジェクトの推進を積極的にやっていらっしゃる。これは当然、世界的な規模で工場を増強するという状況にあります。
それから2つ目の波として、ロボット活用の拡がりによって、減速機を中心とした分野に今、積極的な先行投資をしています。
それから3つ目の、家電商品のブラシレスDC化は、我々のセグメントで言うと、もちろん若干他のセグメントにも広がりますが、「その他小型モータ」というセグメントです。
その他小型モータというセグメントは、この数年間、パソコンの減少、パソコン関係としては光ディスクやファンなどがありますが、それらの急激な減少、また売上的にカメラも減少して、ずいぶん(売上が)落ちたところを新しい商品で穴埋めをしてきましたが、落ち込みが速く、その穴埋めがなかなか難しいものでした。
そのようにしてフラットな状況が続きましたが、ここへ来てこれが好転し、急激に展開してきています。この第3四半期のHDDの売上が約500億円、その他小型モータの売上が740億円ぐらいになっていますが、おそらくこれが来期以降、HDDの売上の2倍や3倍となります。言い換えれば、その他小型モータが売上的に非常に大きな比重を占めてくるという段階に来ています。
こちらの用途は家電商品が中心になっていますけれども、技術革新の波に乗って、ほとんど(のモータが)がブラシレスDCモータに変わっていきます。
従って、家電商品のマーケット、冷蔵庫や洗濯機、エアコンや掃除機など、いろいろあると思いますが、そのようなマーケットの成長云々ではなく、その中において、載せられるモータが全部ブラシレスモータに変わっていく。このような大きな波が来ていまして、このセグメントも大変多忙な状況になってきています。
それから4つ目の波、これは少しタイムラグがあるかもしれませんが、やはりドローンを中心にした、物流関係の引き合い状況です。新製品の開発は、非常に多忙になってきています。つまり、この4つの大波が今、一挙にやってきているという状況です。
もちろんクルマは、昨今発表したトラクションモータ関係も含めて、今までの油圧機構が電動に変わっていく。それらは全部ブラシレスモータです。ブラシレスモータは我々が一番得意としている領域で、我々は世界最大のブラシレスモータのメーカーですから、そこへ大きな波が来ているというわけです。
それからロボットは、精密機械加工の分野が中心になってきますけれども、こちらも高水準で今、投資を進めてきているという状況です。
EV・PHEV市場と当社モータ売上
次のページをめくっていただくと、電動化の波の中におけるトラクションモータです。こちらは今現在、大変な引き合いをもらってきています。
既に昨年も製品を発表していますが、大変好評を博して、多方面からたくさんの引き合いをいただいて、今サンプルを多く提供していて、そして、既に生産受注も数社確定しています。その他にも10社以上、「我々も使いたい」ということで、非常に熱心にお声がけいただいて、お話を進めているという状況になっています。
小型協働型ロボットの活用領域拡大で減速機キャパを急拡大
それから次のページは、ロボット用の減速機です。マーケットで非常に品薄になってきています。おそらく将来、さらに品薄になってくると予想しています。また、同時に私は、現在のロボットの価格は高すぎると思っています。
おそらく、この価格が下がるに従って、ロボットの普及率もますます上がってくる。言い換えれば、この減速機は従来、それほど大きなサプライもいませんでしたし、高い価格で販売し、高いマージンを取ってきたというマーケットです。
これはとくに精密機械加工が中心になるので、我々(の製品)で言うと、スピンドルモータに近い、非常に精度の高い技術で、製品を作り上げています。
単なるアッセンブリではありませんので、設備投資も機械加工を中心に膨大な費用がかかりますが、とくに我々はHDD等で培った超精密加工の技術を長年追求してきました。そのため、単なる新規参入ではありません。
これは我々のグループ会社、日本電産シンポの長年による技術ですが、日本電産グループをあげて、このような加工技術を駆使して、これから国内の上田工場でも(減速機の)生産に入っていきますし、今フィリピン(スービック)のHDD工場を全面的に減速機の生産に切り替えています。
ここ(減速機の生産)には既に何千人という精密機械加工の技能者がいまして、1から要請する必要はありません。
すぐに機械を使えるということで、今次々と機械を搬入して、ここで一挙に生産をあげるということです。我々の予想では、2021年度は(2016年度の)40倍ほどの生産量になります。しかし、私はおそらくそれだけ(生産量を)上げても製品は十分に足りるとは思っていません。
「これは1つの大波で、そんなこと(2021年度に生産量が40倍になること)はない」という意見もあります。私がHDDの製造を始めたときも、立て続けに(工場を)作っていって、「そんなに工場を作って、誰がそれほどの製品を使うのか」と言われました。
しかし、マーケットが変わり、価格が下がったことでパソコンは急速に普及し、HDDもますます容量が上がっていきました。誰の意見も聞かず、そのようなことが起こるということ、自分のマーケット予測に従って工場を増設して、一挙に世界のシェアをとっていきました。
私はこのような戦いをしたわけですが、今回の減速機に関しても、ありとあらゆるお客さんを訪問して、その訪問先のさまざまな要望に従って、マーケットの予測をしています。我々は、その予測に基づいて供給体制を作り上げることを考えています。おそらく、フィリピンのスービックの工場(の生産キャパシティ)も全部埋まってくると思います。
さらに今、ベトナムのハノイにも新工場を建設しています。おそらく我々は世界最大の減速機の生産会社になっていくと目論んでいます。
ですから、規模が違います。今からおよそ1,000〜2,000億円の投資をして、この分野を進めていこうと考えています。
もちろん、この減速機の分野だけではなく、AGVの関係も今、非常にうまく進行しています。この分野への投資、車・車載関係の増強として、今トラクションモータの専用工場も建設・着工をしています。既に具体的なお客さんがついていて、いつからいくら供給するということもはっきり見えてきているので、この分野も来期以降、500〜1,000億円くらいの投資をしていきます。
従って来期は、過去最大の投資をすることが決まっています。
また、先ほど申し上げたその他小型モータ、この分野も非常に急速な勢いで伸びています。それに伴ってエアコンなど、本来ならば今はシーズンオフの時期に入るのですが、まったくシーズンオフを感じさせないほど、製品が供給不足になっています。
これはつまり、エアコン全体が非常に売れているというよりも、ブラシレスモータに変わってきていることで、モータの供給不足になっていると言えるかと思います。
そのため、こちらも中国、タイ、インドの工場、ベトナムの新設工場、すべてが今増強体制に入っています。
以上、この4つの大波をきっちりとこなすことによって、モータはまさに「産業のコメ」だと、私が十数年前から申し上げていたことが現実化してきているのではないかと思います。
それはまだスタートの段階であって、まだ波がこちらまで届いていない。まだはるか向こうにあるけれども、それが来てからでは遅いわけです。
(波が)来る前から待ち受ける、波を待ち受けて徹底的な勝負に出ていくという、日本電産が本来持ちうる経営のやり方で、この4つの波に対処していくという考えです。
その他小型モータ:世の中丸ごとブラシレス化戦略は順調に進捗
次の15ページ、これは前回にも説明していますが、どのような商品が今後伸びていくかというところです。他にも(伸びていく商品は)たくさんありますが、1つとして、軽薄短小・低消費電力・低騒音・長寿命のブラシレスDCモータです。それからコードレス製品、電気製品は次々とコードレスになってきています。
従って、バッテリー駆動の製品を作らなければいけませんが、消費電力を大幅に減らす必要があるという点から見ても、我々は最適のモータを持っています。
非常に薄く、小さく、短く、電気を食わない、この技術を車載関係にも応用していて、4つの波において、非常に好循環に働いてきていると思っています。
既に着手している波もありますが、今からやってくる大波にしっかりと乗って、我々はHDDで成功したようなビジネスモデルを、この分野でも高いシェアを着実に築き上げていき、高い収益も堅実に上げるという考えです。
とくに車載関係の製品は、既に営業利益が18パーセントまで上がっています。「車載用は儲からない」と言われていましたが、おそらく来期以降は車載関係も15パーセント以上の利益を上げられる、そのようなトレンドに入っていると思います。
現在、昨年(2017年)買収したフランスのLS(Leroy-Somer)と、それからイギリスのCT(Control Techniques)、こちらのPMI活動、収益改善に全力を尽くしています。
マネジメントも、(買収から)1年が経ちましたので、どのようなマネジメントが有用か判断をして、より良いマネジメントに変えていくという方針をとって、PMI活動をしっかりと行い、15パーセント以上の利益を上げていきたいと思っています。
これまでに申し上げてきた4つの波、これはまさにブラシレスDCモータの時代が本格的にやってきたということだと感じています。
その中で大事なことは、もちろん必死に開発を行ってきたわけですが、しっかりと(製品)供給できる体制を作り、生産能力の増強を図ることです。納期を1年先などにしている会社もありますが、当社では注文いただいて直ちに供給できる体制を作り上げていくことで、先発メーカーも凌駕する、そのような戦いにこれから入っていくといいのではないかと思います。
今日は、こちらが一番大事なポイントとなります。他のところは資料をご覧いただければと思います。