質疑応答:日本の市場の変化について
司会者:では今からは質問の時間に移りたいと思います。事前に投資部員から質問を募集しました。かぶ1000さんに回答いただきたいと思います。
では、まず1つ目、「投資を始めた当時と比べ、今、日本の市場はどう変わったと思いますか?」という質問です。
かぶ1000氏(以下、かぶ1000)::私が本当に投資を始めた時は、37年前の1988年なので、みなさんは当然生まれていないし、僕も中学生だったので、今ぜんぜん違いますが、やはりすごく良くなったなと思います。
まずは手数料がすごく安くなったんですよね。私が株を始めた当時は、手数料がすごく高くて、売って買うと、だいたい4パーセント近く手数料がかかっちゃったんですよ。でも今って、手数料ゼロというところもありますよね。その部分がないだけでもすごくメリットが大きいです。
あとはやはり当時はインターネットがなかったので、株価を知りたいと思っても、短波ラジオを聴いたり、新聞を読んだり、証券会社に直接行ったりするしか、株価をチェックできなかったんですね。
でも今って、スマホやパソコンで簡単にリアルタイムの株価を見ることができるじゃないですか。そういった意味でも、すごく良くなったなと思います。私が始めた頃は、情報を1つ得るにも本当に大変だったので、みなさんが本当にうらやましいなと思います。なので、ぜひこの良くなった環境で、思う存分株式投資をやっていただきたいなと思っています。
質疑応答:これまで最も成功した投資と最も失敗した投資について
司会者:では、次の質問です。「これまでで最も成功した投資と、最も失敗した投資、それらから学んだことを教えていただきたいです」という質問です。
かぶ1000:僕はあまり成功していないんでね。最も成功したというのはちょっとあれなんですが、予想と、チャンスと、タイミングの3つともうまくいった投資があって、1998年の話なので、今からもう27年前の話になりますが、ユニクロのファーストリテイリング(9983)に投資したことです。
私は1992年から『会社四季報』をずっと買っていて読んでいたのですが、その当時、そのファーストリテイリングが「最高益」と書いてあるのに株価が最安値になっていたんですよ。
ファーストリテイリングのことを私は知らなくて、「最高益なのに株価が安いってどうしてだろう?」「それってお得なんじゃないの?」と思ったのですが、やはりそこだけでは確信が持てなかったんですね。
その頃ちょうど、うちの母親から、「ユニクロのフリースってすごく安くていいらしいよ」と聞いて、実際にそのお店に行ったらすごく混んでいたんですよ。1,990円でいろいろなカラーバリエーションのフリースがあって、土日はもう本当に人でごった返していました。
商品のタグを見たら、「ユニクロはファーストリテイリングって会社なんだ」とわかって、株価が安くなっていて、チャンスであるということと、業績が最高益でお客さんがこんなに来ている、これはもう絶対いい会社だなと思って、そこで投資したんですよね。
半年ぐらいしたら、株価が7倍ぐらいまで上がったんです。だから、「万歳」って感じで売っちゃったのですが、実は今まで持っていればそこから400倍になっていたので、これが一番成功したことでもあり、失敗したことでもあります。成功したのは、ファーストリテイリングを株価のどん底の時に見つけられたこと、最も失敗したのは、良い会社の株を安く買えたのに、持ち続けられなかったことですね。これは本当に失敗したなと思います。
良い会社の株を買ったのに、持ち続けられなかったというのは大失敗だったので、ぜひみなさんも本当にいいと思う会社を安く買えたなら、生涯握り切るぐらいの覚悟で持っていただいたほうがいいんじゃないかなと思います。
質疑応答:成長株への投資について
司会者:では、次の質問です。「成長株投資にほとんど関心がないのでしょうか。それとも状況によっては取り入れることもありますか」という質問です。
かぶ1000:関心がないわけではなくて、あるんですよ。実際、先ほどのファーストリテイリングみたいな例もあります。ただ、先行きの予想は本当に難しくて、やはり私は安定的に確実に利益を積み上げていくという投資方針がモットーなので、不確実性が高いものに投資するのは、ちょっと性に合わないんですよね。
私は将来の先が見える眼鏡を今、持っていないんです。なので、どうしてもより確実なバリュー株投資に軸足を置いているだけで、もし本当に成長株で割安な株があったら今からでもがっちり投資したいなと思っているので、がんばって市況を読んでみます。
質疑応答:毎日のルーティーンについて
司会者:では次です。「株式投資に通ずる毎日ルーティンを教えてください」という質問です。
かぶ1000:ここに関してはやはり開示情報ですね。東証の適時開示情報をみなさんも見たことがあると思いますが、そういうところは毎日欠かさず見るようにしています。
あとは、大量保有報告書ですね。これは5パーセント以上の株を持っている大株主の人が、1パーセント以上を売買した時に出ます。
最近「アクティビスト投資家」という言葉がはやっていて、聞いたことがある人もいると思います。アクティビストファンドがいろいろ株主提案したり、アクティビストファンドからの「配当を出してください」という要望に応えたら株価が上がったりすることはけっこうあるのですが、大量保有報告書を見ると、そういうアクティビスト投資家が、どういう株を売買しているかが見えてくるので、そういうのは欠かさずチェックするようにしています。
質疑応答:株式に求める最低条件について
司会者:では次です。「投資に対する知識、考え方の変わり目があれば教えてくださるとうれしいです。また、株式投資をする上で、株式に求める最低条件などがあれば教えてください」。
かぶ1000:答えがいっぱいあるのでなかなか難しいですが、やはり私は、自分がしっくりくるまでいろいろな投資法を試すのが大事だと思います。
最初から正解はなかなか見つからないので、いろいろ試すことが大事だと思っています。私も先ほども言ったように、自分に合った投資がバリュー株投資で、それに行き着くまでにすごく時間がかかりました。知識も当然大事だし、考え方もすごく大事ですが、やはり、投資で大事なのは頭ではなく体の芯から理解していくことで、本当に骨の髄から理解することがすごく大事なんですよね。
そこまでどう落とし込んでいくかがまず1つ大事なところで、株式に求める最低条件はありますが、「投資は自己責任」という言葉があるとおり、自分で考えて自分で決めるというのが、私は最低条件として必要なスキルじゃないかなと思います。
誰々がいいと言ったから買うとか、誰々が駄目と言っているから売るということじゃなくて、自分の人生も自分で決めていきたいじゃないすか。
それと一緒で、株も自分で決めて自分で決断していくという習慣を身につけていかないと、いつまでたっても他力本願だったり、人のせいにしちゃったり、自分が成長しないと思うんですよね。なので、そういうところを頭の中じゃなくて、もう骨の髄までしっかりと理解していくことがすごく大事じゃないかなと思います。
質疑応答:専業投資家にこだわった理由について
司会者:では次です。「就職せずに専業投資家になったとネットで見たのですが、就職せずに専業投資家になる上で、懸念点や不安などありましたか? また、そのような懸念点や不安があった上で、なぜ専業投資家にこだわったのですか?」という質問です。
かぶ1000:就職せずって、あまりよくないのがばれちゃって、ちょっとやばいですけどね。みなさんはぜひ就職して、投資のお金を積み立てていったほうがいいと思います。
私の場合は正直、まったく不安はなかったんですよね。なぜ不安はなかったかというと、「株で僕は生活できる」という確信があったからなんですよ。
過剰な自信というか、株がやはり一番効率がいいし、しかも全部自分の責任においてやれることじゃないですか。上司の顔色を見なくてもいいし、お客さんに媚を売らなくてもいいし、全部自分の決めたことでやれるので、一番正々堂々とやれるというのがあったんですよね。
親からは「就職しなさい」と言われました。当時は、今みたいにスマホとかもないし、情報が見られなかったんですよね。今は、株が取引されている時間は9時から3時半ですが、当時は9時、11時、1時、3時という感じで、土曜日も前場があったんです。なので、今よりも株の開かれていたのですが、どうしても仕事をする時間とかぶっちゃうんですよね。
株を見たいと思うと、仕事と時間がかぶっちゃうから、株を優先したというだけで、別に就職したくなかったわけじゃなくて、就職しちゃうと株が見られなくなっちゃうから仕方なく専業投資家になったみたいな感じです。懸念点や不安点はその当時はなくて、本当に専業投資家になりたくてなりました。
あとやはり大きかったのは、私が株を始めた当時の1988年、株の売却益が原則、非課税だったことですね。今みたいに20.315パーセントの税金がかからなかったんです。一方で、所得税の最高税率は当時70パーセントだったんですよ。
証券会社に通っていた時に、かっぷくがいいお金持ちの人に「稼ぐことよりも、いかに手元に残すお金を増やすことが大事なんだよ」と教えてもらいました。同じ1億円を稼いでも、給料だったら7割税金に持っていかれる。でも株だったら、全部自分の手元に残る。「どっちが得かわかるよな?」と言われて、「そりゃそうだ」と思いました。
所得税って今、最高55パーセントかな? 株の場合は20.315パーセントなので、僕が始めた頃よりは税率は高くなっていて所得税は下がっているけど、でもまだ株のほうが有利で、同じ利益があったとしても、手元に残るお金が多いのは株なので、専業投資家がいいなと思ったのがきっかけでもあります。
質疑応答:短期投資と長期投資に対する考え方について
質問者:短期投資と長期投資について、それぞれどのように考えていますか?
かぶ1000:私の場合は、あまり短期や長期で分けて投資することはないんですよね。私の投資のスタイルは割安な株に投資するというものですが、時期を決めて投資するというよりも、割安なうちは持っておきたいなと思っています。
逆に株価が上がってくると、当然割安度はどんどん下がっていくし、私の場合、割安な株のコレクションをしたいという考え方なので、割安でなくなったら売ります。逆にもっと割安な銘柄があったら入れ替えるというやり方をしているので、短期とか中期とか、下がったら損切りするとか、そういうのが一切ないんです。
みなさんとちょっと方針が違うかなと思いますが、時間軸を決めるのは、あまりよくないと思っています。長期で持っていなきゃいけないからとチャンスを逃すこともあるし、短期だからといって、本当はもっと大きく上がる可能性があるのに売ってしまうのは、すごくもったいないんですよね。
だから僕は短期・中期・長期で決めるのではなくて、常に市場にアクセスして、もっといい銘柄がないかということに時間をかけたほうがいいかなと思います。
やはり大事なのは、いかに効率よく利益を出していくかで、長期だからといってずっと我慢して持っているのが正義かというとそうでもないし、長期で儲かったら売っちゃうというのも、せっかくもっと大きくなる可能性があるのに、という点でもったいないから、時間軸だけじゃなくて、その企業にもっとフォーカスを当てにいって、この子はもっと伸びるかもしれないから持ってみようとか判断する。
逆に長期で買ったんだけど、この子はちょっとうだつが上がらなさそうだから、もう売ってしまおうとか、そういうふうにやっていったほうがいいんじゃないかなと思います。
質疑応答:「お金を使う」という考え方について
質問者:いろいろな投資家の方のお話を聞いていて思ったのですが、先ほども、きちん収益として得たお金を使うというお話をされていたと思います。
自分はもったいなくて使えないとか、使うにしても家族のためというより、ついつい自分のことという感じに考えちゃうのですが、家族のためとか、世界のためとかみたいな、心の広さや心の余裕みたいなものは、どこから得ているのかうかがいたいです。
かぶ1000:やはり泣いても笑っても人生は1回しかないので、その1回だけの人生を、どう充実させていくかと考えた時に私は投資をするというのが1つだと思っています。時間には限りがありますよね。どんなにお金持ちな人でも、どんなに貧乏な人でも、24時間は24時間なんですよ。
投資は、お金に働いてもらうことによってリターンを得ていくもので、自分自身、有限な時間をどううまく活用するかと考えた時に、お金にはがんばって働いてもらう。その代わり自分自身も働いたり、もっとそのお金をうまく扱えるスキルを身につける。それによって、みんながどうやって幸せになっていくかと考えたほうが、楽しいんじゃないかなと思っているんです。
もちろんお金を増やして、お金を数えるのが好きなんだという人もいるかもしれませんが、私は私のところに来てくれたお金をどう活用してあげたら、みんながもっといいふうになるかなと考えるのに時間をかけたほうが好きなので、そういうふうにやっている感じかな。
投資で利益を得られるのは、投資している会社ががんばってくれて利益を出してくれたからで、株価が上がって配当がもらえるからじゃないですか。
それに対する感謝ということで、一番私がやっているのは、自分がよく行くお店の会社の株を買うことです。自分がお金を使えば、その会社の売上が上がる、利益も上がる、株価も上がる、またその儲かったお金で、その会社のものを買うと、どんどんどんどん経済が回ることになるんですよね。
そういうふうにやっていくと、実感も湧くし、すごく店が繁盛して業績が増えたら配当や株価が上がって自分も潤うから、また還元しようみたいな気持ちになってくると思うんですよね。そういうのがやっぱり楽しいからやっている感じですかね。
質疑応答:元手の大きさと投資先の目安について
質問者:僕もリスクとリターンを加味しながら投資をしようとは思っているのですが、そういうのを考えると、安定しすぎているというか、ある程度確実だけど、まあ、こんなもんだよねというリターンしか出せないところにしか投資できていないんですよね。
今後どんどん資産を増やしていくことを目指すためには、元手が小さい時は、もうちょっとリスクが高いというか、もっといいリターンが狙えるところのほうがいいのかなと迷ったりもしていて、投資の元手だったり、人生の段階ごとに狙うべき投資先の目安というか、小さい時はもっとリスクを取って、大きくなったら安定したところみたいな感じで、元手の大きさによって投資先は変わってきたりしますか。
かぶ1000:すごくいい質問だと思います。元手が少ないと、もっとリスクを取ってとか、集中投資してという人がすごく多いんですけど、私はまったく逆なんですよね。
私は元手が小さくても大きくても同じやり方をやっています。なぜかというと、投資って長年の積み重ねなんですよ。ギャンブルをやっているわけじゃないし、博打をやっているわけじゃなくて、投資というのは、本当に投資なんですよね。腰を据えてやるものが投資なんですよ。
資産が少ない時だから、資産が多い時だからこうするというのは違っていて、自分に合ったやり方をひたすら貫いていくのが投資だと思うんですよ。それをどんどんどんどん磨いていくということですよね。
寿司職人の方は、日々同じことを何回も何回もやりながら、ちょっとずつ改善していくと思いますが、株もまったく同じだと思っていて、増えないとどうしても焦りがあると思います。先ほども言ったように、私の運用成績自体も正直あまりぱっとしないんですよ。
すごく爆発的に増えている投資はぜんぜんないけれど、それが積み重ね、積み重ね、積み重ねで、どんどんどんどん、雪だるまみたいに大きくなってくるんです。
せっかく大きくなっているのに途中で割れてふりだしに戻っちゃったら、まったく意味がないので、資金が大きい・小さい関係なく、自分がこのやり方が一番合っているんだというやり方を探すのが最初だと思います。それをいかに長く続けられるかがすごく大事だと思います。
仕事と一緒なんですよね。最初はどんな仕事をしたいかがわからないから、いろいろな職業を転々とすると思います。私も正直、バリュー株投資に行き着くまでに10年かかったんですよ。10年間いろいろなやり方をやってきました。
10年経って、このやり方が自分に合っていると感じたのが1998年なんですが、そこからはもうずっと同じやり方です。やはりそこがすごく大事だと私は思っていて、目先のリターン・リスクとか、運用金額が大きい・小さい関係なく、自分に合っていて長く続けられるやり方を、どう早く見つけるかが一番大事かなと思う。
私も10年かかりましたけどね。みなさんは賢いからもっと早く見つけられると思います。なるべく自分に合ったやり方を早く見つけるということを、まず最優先に置くのが、私はいいんじゃないかなと思います。
質問者:なるほど。目標の1億、10億と金額を決めるんじゃなくて、自分が得意なところを突き詰めてくということなんですね。
かぶ1000:まさにおっしゃるとおり。投資って、超長期で見ると、緩やかに右肩上がりになっています。なぜ右肩上がりかというと、インフレと企業収益によって株価が上がってくるからです。
だからいかに長く続けるかが一番大事。あとは、自分に合ったやり方じゃないと続かないんですよ。合ったやり方じゃないと、絶対、5年、10年続かない。
僕もデイトレとか、スキャルピングとかやったんですよ。利益も出たんだけど、これ、拷問じゃないかというぐらいもう疲れちゃってね。
ずっと株価を見ながら、売ったり買ったり、売ったり買ったりやるわけですよ。仮にお金が儲かったとしても、それが楽しいかと言われると楽しくないし、実際に一生懸命やったんだけど、長期でやっているバリュー投資のほうが圧倒的に利益があったんです。やはり自分はそっちのやり方が合っているんだなと思ったので、そういうふうにやることに決めました。
いろいろなことにチャレンジすることがまず大事で、その後、何が自分に合うんだろうと見つけていって、もし見つけられたらもう勝ち組です。合ったやり方が見つかれば、もう気にしなくてもお金は自然にどんどん増えていくから大丈夫です。
かぶ1000氏から投資部の部員へメッセージ
司会者:最後に、かぶ1000さんから投資部のみなさんにメッセージをいただければと思います。
かぶ1000:いろいろみなさん、まだ悩んでいると思うんですよ。うまくいくのかなとか、難しいなとか、いろいろあると思いますが、私は日本はやはり資本主義社会だから、どうしても投資は切っても切れないと思うんですよね。
資本主義だからこそ、知識が一番上にくると私は思うんですよね。その中で、やはり株って難しくて、儲かった、損をしたとか、目先の利益にどうしてもみなさん惑わされちゃうと思いますが、楽しみながら投資を続けるというふうに気持ちを切り替えると、損をした、得をしただけじゃなくて、それが1つの勉強になるなと思うんですよね。
そういうふうにすることによって、一喜一憂しないで長く投資を続けられるし、目線がすごく変わってくると思うんですよ。街中を歩いていて行列ができていると、この会社は上場しているかなとか、すごく売れているこの商品はどこの会社が作っているのかなってすぐ調べて、それが投資のヒントになることが多いんですよね。
ぜひみなさんも、そうやって世の中のニュースとか、いろいろな現象を見たら、すぐに調べる習慣を身につけましょう。自分のお金をどういうところに置いたほうが、育ってくれるかと考えるのが投資の醍醐味だと思うので、みなさんも、そういうのを楽しみながら続けていけるといいんじゃないかなと思います。