ベステラはプラント解体工事の会社です

本田豊氏(以下、本田):ベステラの本田です。よろしくお願いします。

当社はプラントの解体を行っている会社です。スライドの画像をご覧ください。一番左側は製鉄所の溶鉱炉で、高さが100mくらいあります。中央上段の画像が風力発電の設備、下段が石油精製設備です。

右側上段はガスホルダーと呼ばれるガスタンクです。右側下段は焼却炉で、ダイオキシンなどの有害な物質が飛散しないように、囲って養生してあります。このような複雑なプラント設備の解体を手がけている会社です。一般的なビルの解体などももちろん行いますが、難易度が高く、危険が伴うものの解体を主に行っています。

会社概要

本田:「ベステラ」という少し変わった社名は、英語のBESTとラテン語のTERRAを組み合わせています。約50年前(1974年)の設立当時から、「地球環境に貢献したい」という想いがあり、このような社名をつけています。

従業員数はグループ会社を合わせると200名弱ですが、プラント解体を中心としたベステラ単体の従業員数は100名ほどであり、少数精鋭で運営している会社です。

ビジネス コンセプト、沿革

本田:ビジネスコンセプトです。「つくった人には壊せない」と生意気なことを記載していますが、「つくった方は造ったときの逆をたどって解体する」傾向があります。こちらは後ほど詳しくお話しします。

もう1つのビジネスコンセプトが「プラント解体に特化したオンリーワン企業」です。当社以外にも解体工事やプラント解体を行っている会社は多くありますが、当社はプラント解体工事に特化しています。プラントには1つとして同じものがなく、プラント解体にもいろいろな種類の工事があります。当社は、ほかの会社には真似できないようなノウハウを継続的に積み上げてきています。

沿革にもいろいろと記載していますが、2015年に東証マザーズに上場し、2017年に一部指定に変更しています。現在、解体を専業とする企業では、田中建設工業さまも上場していますが、あちらはビルの解体などを中心としているため、当社とは特に競合していません。

企業理念、行動規範

本田:当社は、重機を持ったり、職人をたくさん抱えたりする会社ではなく、監督や施工計画を立てる人たちで構成されている会社です。柔軟な発想と創造性を大切にし、工事だけではなく、地球環境にも貢献していくことを企業理念として掲げています。

ビジネス モデル(事業系統図)

本田:ビジネスモデルです。製鉄所では、例えば施主が日本製鉄さまであれば、元請会社に日鉄テックスエンジさまが入ります。同じ鉄でも、施主がJFEスチールさまであれば、元請会社はJFEプラントエンジさまとなり、当社が1次請けで解体工事のマネジメントを行います。

施主はプラントを持っている会社で、その元請会社になる会社は施主の100パーセント子会社であることがほとんどです。元請会社によって50年間くらいメンテナンスが行われ、最終的な解体の時に当社にお声がかかるというケースが多いです。

スライド右側に赤字で「化学分野直接発注増」と記載しているとおり、最近は化学関連、石油・石油化学関連の工事において、元請会社として直接受注することが増えてきています。元請案件の受注拡大は上場した目的の1つでもあります。当社自身は、重機などを保有しない「持たざる経営」を実践しており、実作業については外注しています。

解体市場の拡大

本田:市場環境です。統計資料がないため、あくまでも当社の試算となりますが、年間1兆円ぐらいの市場があると考えています。これは、主要な設備を解体したら、概算でこれくらいになるという数字です。スライドのグラフは建設投資額のため、ビルやダム、橋の建設なども含まれていますが、プラントの建設もだいたい同じような推移で行われてきました。

そのため、現在解体しているのは、高度経済成長期に建設された、築50年から60年のプラントということです。今後も老朽化が進み、解体するものは増えていきます。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):スライドのグラフを見る限り、解体の需要は今後非常に高くなってくると予想できます。今後も機械化の推進を含め、いろいろな対策をされたり、工法を考えたりしていくと思いますが、これだけ潜在的な解体需要があると、工事する会社や人が足りなくなるのではないでしょうか?

発注元と、御社を含む解体の需給がどのように進んでいくのか、2025年以降のイメージを教えてください。

本田:現状の感覚としては、スライドのグラフよりもさらに加速している気がします。脱炭素化への動きもあり、自然エネルギーにどんどん移行していますので、耐用年数がきていなくても解体するケースが増えています。おっしゃるとおり、業界全体で人が足りていない状態です。

建設業自体が足りない状態ですので、追いつかないのではないかとみなさまが心配されるとおり、かなり厳しいところはあります。採用・教育には一番力を入れていますが、建築・土木・解体がある建設業界の中で、解体には一番人が集まりません。大学の建築学部を出たら、造るほうに行きたいという方が多く、解体を選ぶことには抵抗があると思います。

また、解体には大きな会社があまりありません。解体を行っている会社は、小さい会社が全国にたくさん散らばっているような状態です。そこを当社がリーダーシップを取って変えていきます。当社が扱っているのはリサイクルやリユースなどにもつながっている分野ですので、他業界も含めて、優秀な人材に入っていただきたい、もっと多くの人材を抱えていきたいと思っています。

人手不足に関しては、情報化施工と言っているように、当社もロボットを造るなどの対応を行っていますが、それだけでは追い付かないため、どんどん人を呼んでいきたいと思っています。

坂本:需給が逼迫してくると、当然単価も上がってくるのでしょうか?

本田:そうですね、人件費はやはり上がります。

坂本:例えば需給が非常にタイトになった場合は、人件費ももちろん上がりますが、元請けからの単価もやはり上昇していくのでしょうか?

本田:価格転嫁を行っていきたいと思います。

坂本:海沿いにある貴重な工業地帯などは、当然壊して建て替えると思いますが、放置するというか、温存・保存して壊さない選択をされるケースもあるのでしょうか?

本田:海外では敷地が大量にあるため、そのようなケースもありますが、日本ではなかなかありません。

坂本:日本は平地が少ないから、内陸でもやはり壊して活用するということですね。

プラント業界に対する各種政策

本田:プラント業界に対する各種政策によって、どんどん工事量が増加している状態です。

プラント業界の動向(電力、製鉄)

本田:どのような業界が多いのかというと、電力、製鉄、石油・石油化学がそれぞれ約30パーセントを占めています。

プラント業界の動向(石油・石油化学、その他)

本田:残りの10パーセントは、スライドの右下に記載しているとおり、ガスや物流設備などいろいろな解体を行っています。現在、石油・石油化学の分野では、元請会社として直接受注する機会が増えているため、全体に占める元請比率は30パーセント以上に伸びてきています。

プラント業界の変化に対する当社の強み

本田:事業環境についてご説明します。環境としては、脱炭素化社会へシフトしています。先ほどのご説明したとおり、いろいろなものが老朽化しています。原発関連では、「原発を稼働させる・させない」の議論がありますが、稼働させるにしても、原子炉本体だけではなく、老朽化が進んだ周辺設備の更新も必要となります。

また、分離発注の増大は、最近非常に顕著になってきています。かつては解体後に同じような設備を造っていたため、解体の際に造る会社が監督としてついていました。実際に作業を行うのは解体工事会社なのですが、発注はまとめて造る会社に出されていました。

しかし、現在は自然エネルギーへの転換もあり、設備の更新をせず解体のみを行うケースが増えてきており、当社のチャンスがかなり高まってきています。プラントを持っている施主は、本当に大きな会社ばかりで、信用力のある会社に発注したいと考えていますので、「解体工事会社で上場している会社があるんだ」と気づくと、当社に声をかけてくださいます。

坂本:分離発注の増大は技術的なものも当然あるとは思いますが、コストを細かく計算していくと、おそらく分離発注で解体だけをお願いした場合、資材を売った分を少し差し引いてコンペをしたり、価格提示したりすると思います。そのあたりの細かい工事の積み上げをきちんとするために分離発注しているケースはあるのでしょうか?

本田:かつては建設工事と解体工事をまとめて金額を提示していました。建設会社が本体の建設工事を取るために、「解体は赤字でも良い」と判断することもありましたが、分離発注が増えてきているため、今はそのようにいかなくなってきました。

また、先ほど少しお話しにあったように、解体の際はスクラップが出ます。スクラップの中には、希少金属や値段が高いものもけっこう含まれているため、全部鉄で出してしまうと値段が大きく変わってしまいます。

坂本:もったいないですよね。

本田:何十倍どころではなく、100倍違うこともあります。当社であれば、「このような設備だったら高圧のものや温度が高いものが通っているだろう」「触媒の材質からこのような金属が使われているはずだ」など、蓄積したノウハウから判断できます。当社のほうで見分けがつけば、そのまま価格転嫁できるため、工事費を安くすることが可能です。

坂本:そのあたりも強みであり、最近の流れに乗っているということですね。

本田:当社には「スクラップの目利き力」みたいなものがあります。それだけではなく、いかに再資源化率、再利用を増やしていくかにも注目しており、プラントを持っているお客さまからもニーズが非常に高まっています。そのため、今まさに当社も再資源化や再利用に取り組んでいる最中です。

坂本:それは、御社から作業を任せているところに「ちゃんと分別してください」というかたちで出しているのですか?

本田:基本はそのようなケースが多いです。また、今までならスクラップにして終わりだったものを、売却できないか検討することもあります。

坂本:その分だけ切り取って海外などに売却するのですね。

本田:耐用年数がきているものもありますが、アフリカなどが買うこともあります。また、風車の羽根などは、今まであまり再利用できないと言われていました。そのようなものも、当社が業務提携しているTREホールディングスと連携して、別のものに再利用できないか検討を進めています。要は「できるだけ産業廃棄物にしないで再利用していこう」ということです。

強みのお話をしてきましたが、スライドの一番右下に記載している「プラント解体トータルマネジメント」をご覧ください。ワンストップやトータルマネジメントを掲げる会社は非常に多くありますが、こちらは本当に当社がオンリーワンだと思っています。

造る側の方、プラントを持っている方も、実際に有害物質が出てきたらどのような法律に抵触するのか、どのように処分したらいいのか、どのような順番で解体すれば安全なのかなどはなかなかわからないため、当社でそれを補っています。

基本方針

本田:現在実施している中期経営計画の基本方針は、「脱炭素経営と企業風土の変革による収益力の向上」です。脱炭素経営は当社の事業そのものですが、企業風土の改革というのは、社内向けに言っているところもあります。

正直に言いますと、今まではわりと保守的な経営を行ってきました。特に工事監督員数などは、少しずつ増やし、専門家を育て、リスクをあまり増やさないようにしていましたが、今はそこのギアを変えて、かなりスピードを上げて進めています。

数値目標① 新旧対比

本田:数値目標も変えています。売上高が100億円に達するのを1年前倒ししているという状態です。

坂本:このあとお話しされると思いますが、上方修正をしている理由をお聞かせいただければと思います。

本田:もともと当社は、小さい会社しかいない解体業界の中でリーディングカンパニーとなり、動脈産業・静脈産業と我々は呼んでいますが、そこの連携を図る上でも優秀な人に入ってもらって静脈産業全体の発言力を高めていきたいという目標があります。会社を少しずつ大きくしていくのでは、なかなかその目標には行き着かないため、スピードを加速させたいと考えました。

また、上場企業の場合は固定費もそれなりにかかることから、利益を得る必要があり、まずは売上を増やすための上方修正を行っています。その影響もあり、今期は利益が下がっていますが、それは後ほどご説明します。

数値目標② 人員計画

本田:人員計画も改めています。今までは2名から5名の少人数を採用してきましたが、今期は18名を採用する予定です。現在、13名採用できており、かなり順調です。18名を超えても、可能であればもっと採用していきたいと思っています。

坂本:採用が加速すると、できることも増えていきますね。

本田:おっしゃるとおりです。もちろん誰でもいいというわけではないため、がんばって良い人材を採っていきたいと思います。

坂本:中途採用のほうが多いのですか?

本田:中途採用のほうが多いです。新卒採用はまだ4名程度ですが、取り組んでいます。

坂本:理系の土木関係の方でしょうか?

本田:それがなかなか難しいですね。

坂本:さっきのお話ですね。採りにくいとおっしゃっていました。

本田:当社は全日本柔道連盟への協賛活動を行っているので、私が大学の柔道部を訪ねて「入ってくれませんか」と声をかける活動も行っています。

ベステラの脱炭素解体

本田:工事本体のご説明に入ります。ここでいったん映像を見ていただきます。

これは球形のガスホルダーの解体です。リンゴの皮をむくように鉄板を切り、重力を利用して下に落とします。ガスホルダーは四角い鉄板を貼り合わせ、強引に球形にしてあるのですが、従来はこの四角い鉄板をそのまま切り出し、クレーンで持ち上げて降ろす作業を行っていました。

先ほど「つくった人には壊せない」とお話ししましたが、造った人はたいてい造った際の逆の手順をとってしまいます。それが一番安全だという考えに基づいているのですが、実は鉄板を強引に丸めているため、上のほうを切ると鉄板がはねたりします。それが非常に危険で、実際に事故も起きています。また、足場を組む必要もあり、手間がかかります。

しかし、リンゴの皮をむくように切っていけば、自重で下に落ちていくため、足場を組む必要もないし、何より安全です。また、足場を組まないことで、工期も短縮することができます。

坂本:一般的に、何日くらいで解体できてしまいますか?

本田:大きさにもよりますが、1ヶ月くらいだと思います。

坂本:意外とゆっくりと解体していくのですね。映像のスピードなら1日でいけるのかなと思ってしまいました。

技術特許一覧

本田:工期が短縮できれば、その分価格も安くできます。そのほか、いろいろなノウハウがあり、それを特許として取得しています。

ベステラの転倒工法

本田:こちらのスライドには「転倒工法」と記載していますが、後ほど動画でご説明します。

風力発電設備解体①

本田:現在、風力発電の解体に、非常に力を入れています。

風力発電設備解体②

本田:こちらも転倒工法に関係してくるのですが、先に風力発電設備のご説明をします。日本国内に約2,500基あり、耐用年数がほかの設備と比べて20年ほどと短いです。洋上風力発電設備がよく話題となっていますが、まだ地上の風力発電設備もたくさん残っています。地上の風力発電設備は、わりと小さい出力のものが多く、同じ風車をたくさん建てられないこともあり、「まとめて大きなものを近くに造ろう」という話から、解体するものが出てきています。それに対しての当社の取り組みは映像をご覧ください。

まず、基礎を削り取って倒します。この工程の難しさは、決められた場所に正確に倒すところにあります。ズレると大変なことになってしまいます。

倒す時に、鉄柱の筒芯部分を切っていくと、鉄が拉げてしまい支点が安定しなくなるため危険です。筒状のもの、例えば煙突などもそうですが、すべて基礎があるため、基礎部分を削ると、正確かつ安全に倒すことができます。

クレーンを横付けできるところもありますが、それができず、倒すこともできない場所では、マトリョーシカ工法を採用します。実際はマトリョーシカというより、釣り竿を下に落としていくような方法です。このような解体方法もあります。

脱炭素解体への取り組み

本田:工期が短くなれば、CO2の排出量も減るため脱炭素化への取り組みにもつながります。

ベステラの無火気工法

本田:当社の工事の基本となっているのは無火気工法です。これは特許ではなくノウハウの世界で、火を出さずに解体する工法です。具体的には、ワイヤーソーやカッターのほか、ウォータージェットなどで解体しています。

スライド左側の写真にある大型変圧器の中には、PCBという有害物質が入っているケースがあります。気化させてはいけないため、火を使うことができません。当社はそのような、絶対に火を出さないようにする解体を得意としています。

先日テレビで、ほかの工事会社の解体工事を拝見しましたが、それはウォータージェット工法でした。そのようなケースもありますが、中に残っている油を売却したり、再利用したりもできるため、有害物質でなければ、当社はあえてウォータージェットを使わない場合もあります。

PCB含有塗膜の市場規模(推計)

本田:PCBはほかにもさまざまな物質に含まれています。

ブラストマシンによるPCB含有塗膜剥離

本田:有害物質にもいろいろありますが、そういったものにも対応しています。

アスベスト除去技術と市場の取り込み

本田:例えばアスベストなどは、「まだあるのかアスベスト!」と思われるかもしれませんが、実はまだけっこう残っています。

2022年4月にはアスベスト関連法令が改正され、解体工事の際には、すべてアスベストの調査をしなくければならなくなりました。それに伴い工事も増えています。 当社グループの株式会社矢澤では、プラントよりも超高層ビルなどの仕事を受注しています。

土壌汚染対策工事

本田:そのほか、内需の縮小によって解体したプラント跡地が、ショッピングモールやマンションになるケースも多く、土壌汚染対策工事も発生しています。当社が扱っている分野は、面積が広い事業所が多いことから、このような工事が増えています。

拠点の充実

本田:当社は東日本を中心に発展した企業ですが、最近は西日本からの仕事が増え、現在はほぼ同じくらいの受注量となっています。しかし以前は、西日本の工事で失注したり、受注交渉がうまくいかなかったりするケースもありました。プラントを持っている方々は、50年から60年その土地で仕事をしてきているため、最後はやはり地元の会社にお願いしたいという気持ちや、ベステラのような東京の知らない会社に発注したくないという思いもあるのだと思います。

ふだんから事務所を造って、小さい工事も行うようにしているのは、スライドに記載している「フロー型からストック型へ」の転換を図る意味もあります。地域に拠点を構えていると、大きな工事もすんなりと発注してもらえるようになります。

スライドには記載していませんが、以前は1億円以上の工事が売上の9割を占めていましたが、今期に限っていうと、6割程度まで落ちています。つまり売上の4割を占めるのは、それほど大きくはないストック型の工事ということです。

協業先企業との連携強化

本田:こちらのスライドには、提携をしている企業を記載しています。風力発電設備解体のスライドに日立パワーソリューションズさまの名前を記載していましたが、原子力発電に関しては日立プラントコンストラクションさまと業務提携しています。第一カッター興業さまは、実際に切る作業を行う企業で、上場されています。リバーさま(上場企業としてはTRAホールディングス)は、リサイクル、リユースなどを行っています。

元請案件の受注拡大

本田:元請け工事の比率を高めていることについては先ほどご説明しましたが、それに伴い、有資格者を増やす必要があり、資格取得制度などを充実させています。

坂本:今期は順調ですか? 前期から変更した取り組みがあれば教えてください。

本田:社内での支援制度を充実させたほか、講習も始めており、録画して従業員に見せています。評価や昇進・昇格にもつなげていますが、基本的には教育の部分をかなり充実させています。

また、元請け工事を受注するために必要な資格があるのですが、そのうちの1つに技術士というかなり難易度の高い資格があります。技術士を持っていないと何かができないというわけではありませんが、やはり実務で役立ちます。建設業にはさまざまな業種区分があり、2016年に「解体工事業」という区分ができました。

技術士は口頭試験もあるのですが、解体工事分野について口述して合格した人はおそらく当社の社員が初めてではないかと思います。このように資格を保有する社員も増えてきています。

オダコーポレーション(株)の子会社化について

本田:先日、オダコーポレーションを子会社化しました。こちらは岡山県で、プラントのメンテナンスを提供しています。つまり当社の上流工程の仕事となるため、当社からオダコーポレーションに対してお客さまの紹介などを行っています。

そのほか、まだ本格化していませんが、プラントの移設などの際にも、お互いの知識を生かせるのではないかと思っています。

DXプラントソリューション

本田:DXについてです。

3D計測、モデリング(設計・施工業務の変革)

3D計測に関しては昔から行っています。レーザースキャナを使い、スライド左下の点群データという写真のようなものを撮影します。XYZの座標があるため、計測・測量したものと同じ価値があります。

解体する際に図面がないケースや、ふだんのメンテナンスで設備を改良したい場合のシミュレーションなどに使用します。上流工程で工事を受注するためのものです。

クレーンレール検査ロボット(検査手法の変革)

本田:こちらは企業間の競争が激しい分野です。ここで利益を上げるために、危険な高所作業を行うクレーンレール計測ロボットを導入しました。お客さまは変わりませんが、ロボットで計測することも始めています。

配管・プラント設計システム AUSE/V3の拡販

本田:当社は配管・プラント設計システムの「AUSE(アウゼ)」というソフトを保有しています。AUTODESKさまの持つAutoCADのアドオンソフトです。この「AUSE」において、AUTODESKさまと協力して、二次元から三次元への変換を行う機能等の開発をしています。

同じく、AUTODESKさまには「PLANT 3D」というソフトウェアがあります。「PLANT 3D」の日本唯一の教育機関である3Dビジュアル社が、当社のグループ会社ということで関係も深く、これにより設計の仕事も少し増えてきています。

(株)クラッソーネとの資本業務提携

本田:クラッソーネさまと業務提携をしています。クラッソーネさまは、解体業界ではめずらしいIT企業です。同社は見積り比較サイトからスタートし、AIなどを駆使して、見積りを自動化し、空き家対策や一軒家の解体などを多く行っています。当社はIT関係が弱いので、教え合っています。

HRトランスフォーメーション

本田:大手企業が多く取り組まれている人事戦略についても、解体業界の上場企業として、きちん整えていくべきだと考えています。さまざまな良い人材に興味を持ってもらいたいので、褒める文化に変えていきたいという気持ちもあります。工事会社は事故が起こると吊し上げにあうケースもありますが、そのような文化も変えていきたいと考えています。

教育プログラムの確立

本田:教育制度も充実させていきます。

ナレッジマネジメント

本田:解体業界の課題についてです。造るほうはノウハウや知識がまとめられているのですが、解体業界はなかなかそれができていません。暗黙知であるものを形式知に変えてデータベース化していきます。私が現場を回ると、「データベース化を進めてください」という意見をもらうことが非常に多いですね。

株主還元

本田:株主還元です。配当に関しては配当性向40パーセントを目安としています。しかしながら、業績がかなり変動するため、最近はパーセンテージよりも安定配当を優先する傾向があります。

坂本:今後も成長を目指すなら、人材を採用しなければならないと思います。その場合、「もう少し配当を下げて成長に力を入れます」と言っても理解していただけるのではないかと僕は思っています。そのような考え方はされないのでしょうか? 

また、M&Aについてお聞きします。例えば、質はさておき、解体の同業会社を買ってしまえば人材が増えます。また、最終処分場を買えば、そこを使ってビジネスもでき、自分のところでも活かせると思うのですが、いかがでしょうか?

本田:配当率は、安定配当を続ける予定です。

また、研究開発にも投資します。当社の場合は、実際に工事に入ってから開発が行われることが多いため、研究開発費ではなく工事の原価で計上されているケースが多いです。残った利益については、M&Aなどにも投資していきたいと考えています。

現在、自己資本比率が約50パーセントで、増資などは行いません。しかし資金は確保していきたいと考えています。今はかなりの数の有価証券を持っており、資金的には余裕があるため、株主さまへの配当は続けていきたいと思っています。

株主還元

本田:また株主還元として、株主優待も行っています。

当分はこのような株主還元を行っていきますが、今後は総合利回りを重視したいと考えています。ただし「保有期間も考慮してほしい」といったご意見もいただいており、随時見直しを行っていきます。

決算のポイント

本田:直近である2024年1月期第2四半期の決算です。第2四半期は赤字ですが、受注残高は多く、売上高も過去最高となっています。

完成工事高の推移について

本田:第2四半期は例年、完成工事高が少ない時期ですが、四半期別の完成工事高でも過去最高となっており、順調に進んでいます。

受注状況:第2四半期(2024年1月期)

本田:受注状況についても、前年同期と比べ圧倒的に多くなっています。

業界別受注残高構成比率

本田:業界別の受注状況をみても、非常にバランスがよくなっています。製鉄業界が多くを占めているように見えますが、絶対額としては電力業界と石油・石油化学業界も増えています。

受注残高の推移について

本田:受注残高の推移で見ると、今期が非常に増えていることがわかると思います。

業績予想の修正(2024年1月期)

本田:利益については下方修正しました。これは大手企業から依頼された大規模工事の利益率が低かったものの、今後の営業施策上、受注したことによるものです。そのため1億円ほど利益が低くなっています。

残り2億円の利益減少に関しては、体制変更に伴って起きたものです。当社ではこれまで、営業でも工事でも数人のスペシャリストに頼ってきた部分が大きく、業務の属人化が起きていました。

しかし会社を拡大するためには、ある程度の人数に仕事を振り分けていかなければならないと考え、営業部の人数を増やして仕事を受注する体制に移行していました。

建設会社では積算部が材料を積算しますが、解体会社では現場を調査し、図面を見て見積もりを作成します。その段階で、慣れていない社員が、見積もりの際に断熱材の量や厚さを間違えるというミスが起きてしまいました。

これを猛省し、当社では再発防止に向け対策を立てました。

まず工事部でもっとも経験が長く、業務に詳しい人間を社長室に配置し、本社での見積もり作成の管理体制を強化しました。また京浜事務所の所長を務めていた経験豊富な社員に営業部に異動してもらい、新人は全員、彼から現場調査について学ぶ体制に変更しています。

1億円以上の工事に関しては、本部長や工事部長も見積もり作成の段階から関わるようにしています。大規模工事に関しては、毎月報告会を行い、私も出席しています。

さらに、今後は見積もりの補助機能としてAIを活用し、抜本的な間違いをなくすよう努めていきたいと考えています。

長期ビジョン~当社の目指す目標~

本田:長期ビジョンとして、売上高1,000億円を目指しています。

坂本:これはいつ頃達成するイメージでしょうか?

本田:よく「いつですか」と聞かれますが、現在のペースで工事量を増やしていくと、およそ10年かかると見込んでいます。しかしできるだけペースを上げて前倒ししていきたいと考えています。確証はできませんが、今後5年ほどで達成できればと思っています。

市場規模から考えると、売上高1,000億円を達成すると当社のシェアは約10パーセントとなります。競合他社は非上場で100億円規模の会社が多いため、達成できない数字ではないと思っています。

もちろんM&Aも成長のポイントですが、M&Aだけに頼るのではなく、本業を充実させ成長させていくことにより、この数字を達成したいと考えています。

質疑応答:海外展開について

坂本:海外展開について、具体的なイメージがあれば教えてください。

本田:先日シンガポールに行ってきました。大きさは東京23区と同じぐらいで、金融や観光のイメージが強いものの大きな港や多くの石油関連設備もあり、日本と非常によく似ている印象でした。

工事の質や安全対策、振動への規制など、法律が厳しい面でも日本と似ており、チャンスはあると思います。東南アジアを中心に展開を考えていきたいと思っています。

質疑応答:安全対策について

増井麻里子氏(以下、増井):前回、「工事は安全が大事」とおっしゃっていましたが、どのような対策をされているのか、また他社との違いについて教えてください。

本田:他社も安全対策をされていると思いますが、当社のいう他社とは解体工事会社ではなく、ゼネコンやプラントエンジニアリング会社といった、当社のお客さまに属する、いわゆる一流企業に合わせています。

解体工事会社が安全を疎かにしているとは言いませんが、やはり安全の質が違うということは感じています。特にプラントの中は、「絶対に火災を起こさない」など、安全基準が非常に厳しくなっています。

お客さまから多くを学んでいるという話もしましたが、当社には「ベステラ・スタンダード」という基準があります。例えば「ここに消火器を何本置きます」という基準について、当社はより多く置いておくということを、細かく決めています。

質疑応答:拠点の新設について

増井:「北海道や北陸、沖縄に拠点を新設する予定はありますか?」というご質問です。

本田:考える可能性はあります。実際に、今は北海道でも工事が増えています。

コロナ禍では県内の人しか入れないという規制もありましたが、今後はそのようなこともなくなると考えています。プラントが多く、工事量が見込まれるところであれば、工事受注も含めて事務所を展開する必要はあると考えています。

質疑応答:新技術の開発について

坂本:「御社はさまざまな技術をお持ちですが、新技術開発でおもしろいものがあれば、教えてください」というご質問です。

本田:これは企業秘密になります。

坂本:そうですよね。お話しできる範囲で、最近特許を取られた中でおもしろい技術はありますか?

本田:先ほど転倒工法やマトリョーシカ式工法をご紹介しましたが、風車解体の関連技術にタワークレーン工法という工法があります。タワークレーンを塔の中に入れ、上部で解体作業をしたものを下に落としていく工法で、さまざまな発展型があります。

質疑応答:特許のライセンス・海外特許について

坂本:「特許は他社に導出していますか? また海外特許もありますか?」というご質問です。

本田:海外特許もいくつか出しています。建設業の工法の特許は他社が真似できないようなものが多いです。なぜ工法を真似できないかというと、そもそも工事用の機械が特許でないと作れなかったり、工法自体も、工事現場が囲いで隠されていたらどのようになっているかわからなかったりするからです。

当社の場合はリンゴ皮むき工法が代表的な工法ですが、技術力の証明になっているという面もあります。

坂本:昔からの職人技みたいなものでしょうか?

本田:そのとおりです。例えば治具を作る場合でも、他社がロボットを完璧に造ることはできません。そのような差別化ができています。

質疑応答:物価高の影響と鉄スクラップ価格の上昇について

坂本:「物価高の影響はありますか? 鉄スクラップの処分価格が上がることはあるのでしょうか?」というご質問です。

本田:建設業界に比べると物価高の影響はありませんが、人件費と重機の燃料費は上がっており、今後は価格転嫁も考えていきます。

鉄スクラップの処分価格は、それほど上がっていません。一方で製鉄所では、二酸化炭素を多く排出する高炉から、電炉への移行が進んでいます。

現在、国内における鉄スクラップの発生源は限られており、そのほとんどが海外に輸出されています。しかし今後、高炉の解体工事が増えることにより、鉄スクラップもかなりの量が排出されると考えられます。

電炉では鉄スクラップを使用するため、今後は電炉の増加に伴い国内での鉄スクラップの流通量が増加し、価格が上がる可能性はあると思います。

質疑応答:営業のアプローチについて

坂本:「営業のアプローチはどのようなルートで行われているのでしょうか?」というご質問です。

本田:半分は、営業部が取引先のある商社や顧問の方などから、新しいお客さまにつないで取ってくる受注です。

もう半分は、工事部員が良い工事をすることで、お客さまから「別の設備もお願いしたい」というかたちで継続的な受注につながっています。以前は営業部がなかったため、工事現場でのつながりから受注に至るものがほとんどでした。

坂本:現場監督などの社員の方が営業活動もしているのでしょうか?

本田:そのような意味では、当社の工事部員には営業的な雰囲気のある、人当たりの良い人が多いです。

坂本:人の良さが新しい仕事につながってくるわけですね。

本田:それは採用とも関連しており、良い人を採用したいというところにつながっています。

坂本:良い人というのは、そのような基準でもあるわけですね。

本田:最小限の人数で回しているため、工事現場において一番大切なことは安全です。十分に人を雇い、無理のない範囲で工事をできる状態になければ、安全を脅かしてまで工事を受注しようとは思いません。

質疑応答:「脱炭素解体」のメリットについて

増井:「脱炭素解体」に取り組んでおられますが、受注側のメリットについて具体的に教えてください。

本田:メリットについては今後出てくると思っています。製造メーカーでは「製造ラインでこれだけ二酸化炭素を削減しました」という数値を出していますが、解体工事では現在はそこまで出していません。しかし、いずれは数値を出すことになると考えています。

実際に少しずつ出していますが、当社に解体工事を発注していただければ、二酸化炭素の排出量を数値化してお出しします。燃料についても、「燃料はこのくらいで、これだけ排出量が下がります」といったものを見積もりの段階で出せるようにしていきたいと思っています。

質疑応答:解体工事の省人化・完全自動化について

坂本:「需要が増えてくると、『りんご☆スター』のような省人化機械が必要になると思います。省人化については今後も進めていく予定でしょうか? また解体処理の完全自動化構想もありますか?」というご質問です。

本田:さまざまなハードルはあると思いますが、できることには取り組んでいきたいと考えています。

先ほどお話しした「3D計測/点群データ化」については、プラント全体がすべてデータ化されています。理論上、そのデータの中でロボットを動かすことは可能なため、引き続き実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。

坂本:原発の解体など、危険を伴う現場でも使えそうですね。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:どの年代の方も「解体=汚れる・汚い・健康に悪そう」というイメージを抱いているように感じます。そのイメージについては、人材採用時に実際の現場の写真や動画を見せるなど、理解してもらえる取り組みを実施されていますか?

回答:採用時に現場の写真等を共有することで実際の解体現場のイメージをしてもらうことはもちろんのこと、他に疑問に思うことは何でも質問してもらう時間を設けたり、労働環境が整っていることのアピールをしたりと、当社について理解を深めてもらうためにさまざまな取り組みを行っています。

建設業の中では、施工不良がないことから、建設会社に比べて残業時間が少ないこともあり、建設会社に不満があって転職してくる方や、もともと解体業界に良いイメージを持っている方も多くいらっしゃいます。

<質問2>

質問:ゼネコンやサブコンなどの建設会社とJVを組んだり、仕事をしたりするケースがあれば、どのような現場なのか教えてください。

回答:工事の請負は当社単体となります。他社さまとJVを組んだケースは今のところありません。

<質問3>

質問:みらい事業部を立ち上げた反響はいかがでしょうか? 長期的な目線で見て、優秀な人材確保にもつながりそうですか?

回答:みらい事業部では、会社での業務体験を通して、PR戦略、SDGs施策など企業が求める課題について中高生が自ら問いを立て、それに対して自ら答えを探究する社会参加の機会を提供しています。この取り組みによって若い世代を中心とした当社の認知拡大や、解体工事や産業廃棄物の処理等の静脈産業と呼ばれる仕事への興味喚起が期待できます。そのため、長い目で見ると今後の採用活動や優秀な人材の確保、解体工事業界全体のイメージ向上につながると考えています。

<質問4>

質問:売上予想が楽観的ではないでしょうか? 安全性を担保して保守的にしたほうが良いと思いますが、いかがでしょうか?

回答:高度経済成長期以降に建設された設備の老朽化による解体市場の拡大や、近年の脱炭素社会へのシフトに伴う設備更新等の新たな解体需要の発生により、中長期的に大きな受注が見込める環境があることや、その受注をこなすための工事監督者の採用に全社的に注力しており、人材の確保や教育が順調に進んでいることを根拠に売上目標を立てています。

採用を強化する中で、工事部員1人あたりの売上高については、安全に配慮し十分なゆとりを持って受注ができる水準(1人1億円以下)まで下げ、以前よりも保守的に設定していることもあり、達成可能な数値目標と考えています。

<質問5>

質問:2024年問題は関係ないのでしょうか?

回答:解体工事は建設工事と違い施工不良がないため、現場の平均残業時間は1ヶ月あたり約20時間から30時間と比較的少なくなっており、2024年問題による影響は軽微であると考えています。

また、建設業界での人手不足が懸念される中、当社は全社を挙げて採用活動に取り組んでおり、今期は工事部員を18名増員予定ですが現時点で13名採用できており、採用活動はとても順調です。

さらに、教育制度の充実や残業時間の削減、フラットな企業風土への変革等、従業員が働きやすい環境を整えることを第一に考えることで、若手を中心とした人材の確保・育成に注力し定着率の向上を図っており、離職率は低く昨年度は6.8パーセント(工事部員は約5パーセント)となっています。