2016年 3月期第2四半期 決算説明会
孫正義氏:ソフトバンクの孫です。よろしくお願いします。
最近、いろいろと反省することが多いんですよね。何を反省しているかと言いますと、保守的に、堅く、小さく、固まってたんじゃないかと。
これほどテクノロジーの進化、パラダイムシフトが起きてるのに、目の前の日常業務に忙殺されてたと。そしていたずらに年が過ぎていくと。
そのことに対して、もっと積極的にこのテクノロジーの進化、業界の発展に対して、我々はしっかりと取り組んでいかなければいけない。
しかし我々の目の前には、Sprint、これを立て直さなければいけないという問題がありましたし、それから国内の小さな市場のなかで、日々それなりの業務をやってるというなかで、私が事業家として、またこの情報革命に取り組む人間の1人として、忙殺のなかに年過ぎ行く自らの姿を振り返ってみて、猛反省し、「いろいろと手を打っていかなければけない」と。
ソフトバンク2.0というのは、そういう想いで私がソフトバンク自身をもっとグローバルで、もっと積極果敢に、業界のテクノロジーの進化に負けないで、むしろそれをリードする立場にならなければいけないと。
その第1弾として打った手がARMでありました。
これは自らが持っている資産のなかで、切り売りで、一部売りたくないものまで売って、資金を作って、ARMの買収に打って出たと。
これは、これからIoTへのパラダイムシフトがやってくるという認識のなかで打った手としては、10年間胸に秘めてきた想いをそこで打ち放ったわけですね。
でもこれだけでは足りないと。これはソフトバンク2.0のはじまりであるというのが私の想いであります。
この大きな成長を追い求めていくなかで、一方で、我々が気にかけていなければならないものがあると。それはなにかというと、負債の大きさということであります。
もちろん今の負債を半分以下にするというのは簡単ですよ。それは持ってるアリババ株を半分売れば、純有利子負債は一気に減るということになりますけれども、私はアリババはまだまだ成長途上にあると、まだまだ伸びると。
今回、先週でしたか、アリババの決算発表がありましたけれども、その決算発表の内容を見ていただいても、アリババがまだ成長の真っただ中にいるということが再確認できたと思います。
そういう意味で、持ってる資産の切り売りではなくて、まだまだ成長する資産なので、できるだけ売らずに、なおかつ攻めにいくためにはどういう構えを作らなければいけないのかということで打ち出したのが、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」であります。
どうせそういう構えを作るのであれば、小さな構えを用意しても大して意味がないということで、今回10兆円の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」というものを発表させていただきました。
今日はそのことも少し触れて説明をしたいと思います。それでは早速、決算発表説明に入ります。
連結業績
連結の業績。退屈な内容ですけど、伸びております。まあ、この程度は伸びないとしょうがないということであります。売上高、調整後EBITDA、営業利益、当期純利益、それぞれ伸びております。
若干の解説をするとすれば、円の表記でいきますと0.2パーセント減っておりますが、国内の事業は売上も利益もすべて伸びています。
海外の事業でありますSprint、こちらはドルで見ると売上も伸びております。しかし、円に換算すると円高の影響で少し減っております。
そんな言い訳はどうでもいいんですけど、調整後のEBITDAは円・ドル表記関係なしに伸びております。
7パーセントの増大ということですね。
この(スライドの)なかで黄色い部分のSprintが、先ほど冒頭で言いましたように、今まではソフトバンクグループの連結の利益の足を引っ張るという重荷でしたけど。
これからは、少なくともソフトバンクグループの直接的な利益の成長エンジンになるのがSprintであると、私は最近自信を深めてきております。そのへんの内容を、このあと少し解説いたします。
営業利益、こちらも伸びております。
内訳ですけれども、ヤフージャパンは去年アスクルを子会社化したということで一時益が入っておりますけれども、そのことを除くと、国内の通信も、ヤフージャパンも、Sprintもそれぞれ順調に推移していると。
なかでも、これからSprintが利益の貢献の伸び率として一番大きく来るのではないかなと思っております。
今回のARMの買収で、ソフトバンクの連結の純有利子負債のEBITDAに対する割合は、いったん4倍を超えるところまで膨れ上がっております。
しかし、これが近い将来、数年以内に3.5倍を切ると。3.5倍を切れば、バランス上は健全な範囲ということになります。3.5倍を切るところまでは十分いけると確証を得たところであります。
国内通信事業
セグメント別の状況ですけれども、まずは国内ですね。
国内の通信、9パーセントの営業利益であります。退屈ではありますけど、順調に伸びているということであります。
累計の回線数も堅調に推移と。
解約率もソフトバンクモバイルを始めて以来、最も低い解約率のレベルに改善してきているということであります。
また顧客獲得のためのいろいろな努力もこういうかたちでやっておると。
とくに「SoftBank光」のほうが、顧客獲得の成長ドライバーとして着実に機能し始めてると。この結果、解約率も大いに改善してると。
またフリーキャッシュフローも大幅に伸びておると。
フリーキャッシュフロー、会計上の数字はいろんな表現があるんですけど、最後に一番重要なのは、事業の成績はフリーキャッシュフローですね。設備投資あるいは税金、そういうのを含めて最後に残るお金がフリーキャッシュフローです。
このフリーキャッシュフローがついに収穫期に入って、年間に直すと6,000億円規模のフリーキャッシュフローのレベルに来たということで、これは着実な収穫期ということで、今後も安定的にこの現金収益を稼いでいくことができるということであります。
ということで、国内の通信は順調に推移しているということであります。
Sprint事業
Sprint。これが今までの3年間、我々の連結の業績の足を引っ張る、借金が増えた一番大きな要因でありました。
もともとは、SprintとT-モバイルを両方買収して合併させて、AT&Tやベライゾンに匹敵する規模の会社を作って、真っ向勝負するという基本戦略であったわけですが、アメリカ政府の拒絶により、基本戦略が崩れました。
しかし、苦しいながらも着実な努力をして、結果、顧客の純減が止まり、顧客の純増ペースに反転することができた。着実に顧客の増加が始まりました。
解約率もSprint史上、もっともよい解約率のところまで改善することができました。
その結果、解約率が減り、顧客が純増したということで、売上高が加速度的に下落していたものが、ついに底を打って反転し始めたということであります。
経費を増やして、売上を増やすのは簡単ですけど、かかる固定費を減らして、なおかつ売上を反転させるというのは、簡単ではありません。ユーザー数も増やすというのは簡単ではありません。
しかし、その両方を同時並行して成し遂げて、結果、我々が買収したSprintのEBITDA、償却前の利益は、ほぼ倍増のところまで反転させることができたと。
おそらく、今から何年か経てば、Sprintはアメリカ経済市場もっとも劇的な、大きな規模の反転であったというふうに、アメリカの経済史の1ページに名を残すことができる事例になるのではないかと、私は自信を深めつつあります。
結果、Sprintのフリーキャッシュフローも反転してきました。
これまで、年間数千億規模のフリーキャッシュフローの赤字が出ていました。これは上期だけの数字ですけど、年間では数千億円規模のフリーキャッシュフローの赤字であったものが、ついに反転してプラスに転じてきたということであります。
これほど、経費を減らして、固定費を減らして、設備投資費も数千億円規模で減らしています。にも関わらず、ネットワークの改善率は、アメリカの通信企業のなかで、もっとも改善してきているという状況になりました。
それは、ソフトバンクで我々が培ったネットワークの設計技術が機能し始めて、Sprintのネットワークは着実に、今一番改善率がよくなってきているということであります。
先ほど言いましたように、フリーキャッシュフローを改善して、ネットワークを改善しているから、解約率がSprint史上でもっとも改善できた、もっともよいレベルにきたということであります。
ということで、これまで重荷で足かせであったSprintに、ようやく反転の目処が見えてきたと。ついに、我々がもう一度攻めに度転じることができるというステージがきたわけです。
Yahoo! JAPANは増益を継続
もう1つ、国内のYahoo! JAPANですけど、アメリカのヤフーは大赤字で、大リストラで身売りまでなっておりますけれど、Yahoo! JAPANは着実に伸びてきています。
これまで広告がPCからスマホに移り、小さな画面のなかで検索広告やディスプレイ広告の価値が減ると思われていたところ、Yahoo! JAPANはその危機を乗り越えることができたと。
eコマースにおいても、今、日本国内でもっとも伸びているのがYahoo! JAPANじゃないかと思いますけれど、着実に改善してきているということです。
ARM事業の開発ロードマップ
また今回、ソフトバンク2.0としての攻めの第一弾。ARM買収を発表させていただきましたけれど、実際に買ってみて、実際の経営の中に入ってみて、ARMのCEOであるサイモンと一緒に主要なお客さんを訪問いたしました。
ARMにとってのトップ7社くらいのお客さんを訪問して、私自身が直接先方の経営陣と会ってきました。そしたら彼らは、「ARMは自分たちにとって必要不可欠な会社である」「今後10年分くらい契約したい」と。
実際にARMは、これから10年分の開発ロードマップがすでにできているんですね。世の中にはいろんな会社ありますけれども、今の状況から10年先までの、開発・技術のロードマップが明確にできているという会社はそうたくさんないと思います。
これほど進化の激しい業界で、我々の業界のエンジンに相当するマイクロプロセッサのコアの設計の部分で、10年分の設計ロードマップができているということです。
訪問した顧客企業からは非常に強い関心と、共同開発、ぜひジョイントのプロジェクトをやりたいというお話をたくさんいただきました。
ということで、私はARM(に対して)非常に自信を深めた、買ってよかったとつくづく思ったということであります。
テクノロジーの進化とシェアの拡大
また最新技術はものすごい勢いで進化しておりまして、さまざまな製品にARMの技術が入っていくと。あらゆるモノ、IoT、約1兆個の製品にARMがこれから20年で入っていくと。
またそういう小さなIoTの製品だけではなくて、こういうネットワークの、通信機器のベースステーションにもARMのチップが入り、またインテリジェントアンテナ、そちらの部分にもARMが入っていくということが確認できました。
インフラの、サーバー側のほうですね、クラウドのほうのブレードにもARMのコアが、大量に入っていくと。
また日本では「2番ではダメなんですか?」という例のフレーズで有名になったスーパーコンピュータの京がありますね。この日本の国家プロジェクトである京の、次世代のポスト京はARMだらけで、ARMで設計がやり直されることが決定されました。
従来の手作りのスーパーコンピュータではなくて、ARMを大量に入れて、大量に並列計算することで、より安く、より消費電力を減らしながら、性能を100倍レベルで上げるということが決定されて、ARMが単に小さな製品だけではなく、スマホやIoTだけではなく、こういうスーパーコンピュータの世界にまで入っていくということが、大きな流れとして出てまいりました。
情報化社会におけるARMの需要
またつい最近、IoTの分野にもウイルスが入ってきて、ハッカーがハッキングするという事件が報道されましたけど、これからはますますセキュリティが大事になるということが再確認されました。
最近みなさんが新車を買うと、今売られている自動車1台に数百個のARMが入っているということをご存知でしたか? 1台につき数百個のARMが入っているんです。そのみなさんが現在乗っている車、現在買われている新車のチップがほぼ全滅していると
何が全滅しているかというと、その数百個のチップは、ほぼ1個も暗号化がなされていない。セキュリティの面では全滅しているということなんですね。
今までは、車の中でチップとチップが通信をし合う、命令をし合うということで、車の中だけで事が済んでましたから、暗号化がされていなくてもそれで済んだわけですね。
自動車メーカーはけっしてマイクロコンピュータの専門家ではないんですね。マイクロコンピュータを買ってきて取り付けているだけです。ですから、半導体の専門家ではない。
その彼らが、今までは無邪気に……と言ったら言いすぎですか(笑)。でも事実なんですよね。ただ単に無邪気に買ってきて付けているというのが今までの状態でした。
そこに一切の暗号化が入っていないということに対して、今まではそれほど心配をせずに出荷していました。しかし、みなさんご存知ですよね? 今や「コネクティッドカー」という言葉が日常いろんな記事に出るようになりました。
コネクティッドカーってなんだ、車が何にコネクトされるのかというと、インターネットにコネクトされるわけです。
車の内側の通信で止まらなくなったんですね。車内通信ではなくて、車の外と通信、つまりインターネットと通信をして、インターネットとコネクトされるという時代が来たわけです。
コネクトされた瞬間に、有益な情報もコネクトされるわけですけれども、同時にウイルスもコネクトされる、ハッキングもコネクトされるということを意味しているわけですね。
にもかかわらず、車の中の数百個のチップには一切暗号化がされていないと。そこにウイルスが入った時に何が起きるかというと、ある日突然、世界中の車が……Xデーですね。
一気にウイルスが起き上がって、高速道路で同時多発的にブレーキが利かなくなって、暴走する車が発生する。
そのような状態になると、高速道路のハイウェイシステムというのは、30年ぐらい壊滅的な打撃を受けるだろうと。もちろん多くの人々の人命は奪われるというリスクが、今、目の前にやってきてるわけですね。
こういう状況で、無邪気に半導体をただハンダづけするということでいいのかという。これはもはや国家の安全保障、人々の命に関わる問題であります。
一刻も早く、「暗号化されていない車はコネクティッドカーになってはならない」という法案を通すべきだし、また自動車メーカーは、「それをしていない車はすべてリコール」という時代が目の前にやってくるということであります。
2016年度の見通し
つまり、情報化社会がやってくるということは、便利になる一方、リスクも孕んでいるわけで、セキュリティというものがもっとも重要な機能の1つになると。
単に安い、早い、消費電力が小さいということではなくて、安心安全な暗号化がされたチップであるかということが大事になる時代が来ます。
そういうことに向けて、ARMは今回の新製品Cortex-M33そしてCortex-M23。これらの製品は、セキュリティを一気に強化したチップ。しかも小さい。今までよりも(M33は)80パーセント小さい。(M23は)95パーセント小さい。
(スライドを指して)鉛筆の先っぽの芯がこれで、今までの(Cortex-)A5がこれだと。Cortex-M33はこんなに小さい、(Cortex-)23はもっと小さいということであります。
より消費電力が小さくて、性能が上がっているにも関わらず、セキュリティが強化される。普通、セキュリティが強化されるということは、暗号化をするわけですね。
暗号化をすると解読もしなきゃいけない。ということで性能は下がるわけです。負荷がかかるわけです。にもかかわらず性能を上げて、セキュリティを同時に強化するということがなされるようになったわけです。ですから、ARM=安心と。ARMインサイドであれば安心と。
そういう意味で、ARMは買ってよかったなと。数はこれからますます2次曲線で伸びていくということの確信を得ることができました。