“スマホ実質0円”規制強化の影響

質問者1:テレビ東京のオオハマです。あまり興味がないと言われてしまうかもしれませんけれど、国内の通信事業についてです。

いわゆるスマートフォンの0円販売に対する規制強化の動きがまた起きています。これが強化された場合に、通信事業への影響をどのようにご覧になっているのか。また、他社との競争に勝ち抜くために、通信分野の競争の主戦場はどのようなところに移っていくと見ていらっしゃいますでしょうか。

孫正義氏(以下、孫):はい、これは総務省のガイドラインがそういうルールということで、良い・悪い議論はいろいろあるとは思いますけれど、共通に業界に課せられるルールなので、競合3社、4社はみな同じルールで規制の枠内に入るわけですから、競争上はお互いに同じことだろうと思います。

ただ、入れ替わりは減っていくんだろうな、より固定化されていくんだろうなという気はしますけれども。基本的には共通のルールですから、お互いに晴れの日は晴れ、くもりの日はくもりと。どちらが良い・悪いは別にして、そういうことだろうと思います。

ですから、直接的な競争という意味で影響はないんですけれど、お互いに新たな収益ということでの伸びということで考えると、単に通信料金だけではなくて、通信料金は少しずつ安く、多くの人たちに楽しんでもらわなければいけないので、とくに通信コストの単価とか、そういうものについてはどんどん改善、安くしなければならない。

そのぶん何に成長を求めるかと言いますと、新たなサービスですね。コンテンツとか、 総合的なサービスを付加していくということが成長のために必要な部分だろうと思います。

質問者1:確認ですけれど、通信料金自体はこれから安くなっていくということ、これはもう容認せざるをえないという考え方なんですか?

:そうですね。とくに1ギガバイト当たりの単価はどんどん下がっていくでしょうね。

10兆円ファンドの投資領域

質問者2:日経のオオワダです。2つあります。1つ目は、引き続き退屈な国内通信についてなんですけれど、ARPUが低下してきているように思うんですけれど、そこが下がると、いろいろと今日お話を聞いたことの構造が崩れてくるんじゃないかという気がします。

APRUの強い日米でソフトバンクの事業をやっているという強みが中長期的に失われる恐れがないのかというところについてお聞かせください。

:APRUは、総務省の基本的な方針として、できるだけ安く多くの人々の負担が小さくいろんな通信を楽しんでもらえるようにという方針なので、やはり我々もそれに協力すべきだろうとは思うんですね。

一方、例えば、モバイルの通信単価は下がっていますけど、我々はセット販売として光ファイバーを家庭の固定通信に併せて販売するとか、スポーツの見放題とか映画の見放題とか音楽の聴き放題とか、さまざまな総合的なコンテンツをセットで提供すると。

あるいはFinTechも最近、みずほ銀行さんとジョイントベンチャーを発表させていただきましたけれど、そういう金融系だとか、コンテンツ系だとか、さまざまな複合的なサービスをこれから付加していくということで、1顧客あたりのトータルの収益という意味ではまだまだ増やしていけるんではないかと思います。

質問者2:ありがとうございます。もう1つ、10兆円ファンドなんですけれど、投資分野について、情報革命という広いテーマがあると思うんですが、そのなかでAIとか、IoTとかどういった分野に投資していくのか、その辺りの考えをお聞かせ下さい。

:基本的に、シンギュラリティというのは最近の言葉ですけれど、ソフトバンクを創業したときから、初めてのチップを見たときから、マイクロコンピュータによるパラダイムシフト、人類最大の革命が起きると直感し、この30年間そういうふうに伸びてきたわけですけれど、それが2次曲線的に加速すると思っています。

その分野は、先ほども言いましたように、あらゆる産業の再発明になる。再発明されるところにビジネスチャンスがたくさんある。したがって、1つのサブセグメントではなくて、この情報革命という広いテーマのなかで、例えば、従来の定義であれば「Uber」なんかは入らなかったと思うんですね。

私が非常に反省しているのは、「Uber」にもっと早い段階で投資するチャンスがあったわけです。トラビス(Uber社長、トラビス・カラニック氏)にもだいぶ前に会ったわけですね。

その時に投資をしなかったことを大変反省し、その後、中国だとかアジアのさまざまなUber対抗馬のところに投資をしましたけれども、これも従来の定義で言えばまったく入らなかった範囲ですね。

でも今のシンギュラリティ、情報革命によってあらゆる産業が再発明されるということで言えば、「Uber」のような業界・業態も我々のテーマに入ったということで、今回のファンドは広く情報革命全般に行き渡ると思っていただいていいと思います。

国内電力事業について

質問者3:テレビ朝日のカヤと申します。電力について教えて下さい。今、東京電力の廃炉費用が兆単位で膨れ上がり、ほかの原発の廃炉費用を賄うために新たに宅送料金への上乗せや、送電子会社の利益を回そうという話が政府のなかで進んでいます。

そうなると新電力が負担することにもなりますが、この点についてのお考えをおきかせいただけますか?

:その考え方は根底からおかしいんだろうと思うんですね。それは古い業界を守るために、過去の遺産を新しいところに押し付けるということを意味していて、本来伸びるべき芽を摘んでしまうことになるのではないかと危惧しています。

ですから、その議論がこれから深まるなかで、バランスよく多くの人々の意見を聞いた議論をしてほしいと願います。

質問者3:ありがとうございます。電力の関連でもう1つ。日露の首脳会談を前に、経済協力としてロシアは、サハリンから北海道に(送電線を)持ってくるということを進めたい考えですけれども。

これについて、「アジアスーパーグリッド」を検討している御社としては、こういう話が政府間で進めば送電網のところについて、「やりたい」というお考えはありますでしょうか?

:あります。

質問者3:もし具体的な案があれば。

:まずは技術的な範囲のフィージビリティスタディをするということだろうと思います。一部、検討を開始し始めておりますけれども、もし「採算が合う」「技術的にやれる」ということであれば、前向きに検討していきたいと思います。もちろん前提として「採算に合えば」ということですね。

端末の販売台数減少への対策

質問者4:フリーランスのイシノと申します。また退屈な質問になってしまうかと思うんですけれども、先ほどの続きでガイドラインが出て、端末の販売台数が実際に落ち込んできているんじゃないかという話がありますけれども、そこに対してソフトバンクとしてなにか対策をしていくのか。

結局端末が売れなくなってくると、市場の動きが少なくなって、ARPUも下がっていけばということになると、今日お話されたことの前提も崩れてしまうような気がするんですけれども、そこに対してテコ入れをしていくだとか、なにかそういうお考えはないでしょうか?

:基本的にビジネスモデルとして理解いただきたいのは、我々は最初から、端末の販売ではほぼ一円も儲かっていないと。むしろ端末の販売は赤字で行っているという状況だと思います。

我々は、回線が減ると収益に決定的な打撃があるわけですね。回線が減らなくて、端末の入れ替わりの台数が減るというのは、経営的にはそれほど大きな打撃があることではない。

台数の入れ替わりが減ることによって一番打撃があるのは、国内で今までスマートフォンのハードウェアを作っていた会社。こちらには決定的な打撃になる。それで国産のスマートフォンメーカーは壊滅しかけているということだと思うんですね。

ですからそこは、いろんな長所があれば短所もある。この端末の入れ替わり台数が減るというのは、そういう国内のスマホのハードメーカーにとっては決定的な打撃なんだろうという気がします。

よろしいでしょうか。我々は国民のスマホトータルの回線数は減っていないと。今までゼロサムゲームの中で競合各社が戦っていたという状況で。

ただ一方、本質的なご質問の、通信としての事業収益を、成熟してしまった業界において伸ばすにはどうしたらいいかと言えば、先ほどからコメントしていますように、総合的なサービス。

コンテンツだとか、FinTech、金融だとか、さまざまな分野でYahoo! JAPANとも連携しながら、ソフトバンクは総合サービスを、付加サービスを増やしていって、総合的なサービス収入を得ると。

コンテンツだとかサービス収入を得る。通信収入以外のところに成長のチャンスを見出すということが必要になるのだと思います。

質問者4:それと付随して2点目。iPhone7の売れ行きは今のところどうなのかというところと、ApplePayが始まりましたけれど、ソフトバンクとして、そこからビジネスチャンスにつなげていくということはあるのかどうか、iPhone絡みでお願いします。

:ソフトバンクのiPhoneは順調にいっております。ApplePayについては、iPhoneがさまざまなペイメントに使われるということは、ソフトバンクフループにおいては、副次的なメリットはいろいろと出てくるとは思いますけれども、直接的にApple社から我々に収益の配分があるわけではないということです。

ARMの成長戦略

質問者5:野村證券のマツノです。1点目はARM、2点目はファンドです。まずARMについては、マネジメントは2020年までのビューを出していますが、ネットワーキングのところは、放っておいてもARMの人たちがシェアをあげていってると。

サーバーはチャレンジングだと思うんですけど、まあIntelさんがありますから。IoTのデバイスのところは、今回MシリーズでTrustZoneが入ったというところがあるんですが。

クラウドのところは、エンベデッドクラウドがようやく今回発表になったばかりで、これからということだと思うんですけど。

これは時間軸で5年くらいで見ると、どういう立ち上がりを見ているのか。このあたりをおうかがいさせていただければと思います。

:はい。5年でARMの内部的な目標としては、今、サーバーで1パーセントくらいのマーケットシェアを願わくば20パーセントくらいまで伸ばしたいと。

サーバーのところにおいては、Intel社が99パーセントのマーケットシェアですから、ほぼ独占状態にある。そこに我々は挑戦していきたいという部分があります。

IoTについては、少なくてもマイクロプロセッサーがインターネットにつながっているいう分野においては8割近いマーケットシェアがすでにあるのではないかと感じております。

これはIoTの時代にARMが、これから厳しい山に登っていかなければならないというマーケットシェアではなくて、すでにインターネットにつながるマイクロコンピューター、8ビットとか16ビットとかは基本的に機能的にインターネットにつながるチップではないと。

32ビットの世界においてはARMは8割近いシェアを持っていますので、そういう意味で言いますと、インターネットにつながるチップにおいてはすでに8割くらいのシェアを持っていると。

これを着実に広がっていく需要にしっかりと製品を提供していくことによって、IoTの時代でもARMがリーダーシップをとれるのではないかと感じていると。

クラウドのところにおいては、さっき言ったようにサーバー中心に、まだまだARMは弱いので、これは先の長い闘いとして一歩一歩進んでいかなければならないと思っております。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの運営について

質問者5:わかりました。2点目はファンドのところなんですけれども、御社の2兆5,000億(円)の出資というのは、5年間の累計なんですけれども。

先ほどの純有利子負債EBITDA倍率を3.5倍まで落とすという目標であれば、単純に年間5,000億を投資していくと。目先の目標に対してキャッシュアウトが生じるので、基本はこの3.5倍を達成した後にファンドへの出資が加速がされていくのかと思うんですけれども、そういう理解でいいのかということと。

さっきのお話だと、数百億円以上がファンド経由だということだと、子会社の投資は自社ではやらないということで、例えばARMとかSprintのような子会社としての投資は今後ないということになるかと思うんですが、そういうことになるんでしょうか?

:それぞれの子会社は子会社で、自らに100パーセント合体してしまうようなものは、自らがやると。それぞれの子会社が、自分のキャッシュフローの中でやっていくと。ただ金額的には小さいだろうと思うんですね。

ですから、それらの小さな金額のそれは今後も続いていくけれども、大きなものに対しては原則今度の新しいファンドで行うと。そうしないとファンドの投資家としては、ソフトバンクがいいとこ取りをするんではないかということは、常にコンフリクトオブインタレストということでありますから。

原則として、数百億円以上。今その額を調整中なんですけれども、その額が決まったらその金額以上はファンドでと。

それで、この率を改善していくために、今準備中のもう1つの手だてがありまして、それによってさらに改善の度合いが高まるということは考えてますけれども、今具体的なコメントをするのは時期尚早だと思っております。

質問者5:すると、事業運営はファンドがやってしまうことになるんですが、例えばARMとかSprintのように御社が事業を運営していけるのかどうかという、ファンドなのでどこかでリターン、イグジットしないといけないと思うんですが、そこはどうなるんでしょう?

:ファンドはあくまでも10数年でイグジットしていくということを前提としています。ただ3年、5年でイグジットというよりは、ソフトバンクの今までの投資に対する事績は平均13.5年くらいなんです。

一部の人は、「孫正義は1回投資すると、イグジットする気がない」と言ってる人がたくさんいると思いますが、実際はけっこうイグジットしてるんですね。その平均は13.5年と。そういう目線のなかでは、徐々に一部ずつ、時によっては銘柄によっては全株イグジットする

そういう目線のなかでは、徐々に一部ずつ、あるいは時によって、銘柄によっては、全株イグジットすることもあると。

ただ今後はパートナーのお金を預かって投資していくわけですから、基本的にはIRRをしっかりと出していくということが課せられた義務になりますね。

経営者・孫正義の今後の役回り

質問者6:マイナビニュース、オオサワです。ちょっと今回の発表で、孫社長の役回りが見えなくなってしまったんですけれども。

今まで経営にタッチされてきたことで、ソフトバンク、それからスプリントの立て直しというところまできました。

今回のファンドの立ち上げによって、もうスプリントの立て直しがうまくいってるというふうに聞こえるんですけれども、孫社長は今後どういう役回りになられるのでしょうか。

:例えば、ソフトバンクグループの企業価値のなかで今、一番大きいのがアリババだろうと思うんですね。これは私が日常の業務にタッチしているわけではないです。

社外取締役として、重要な戦略のところについては時々コメントはしますし、ジャック・マーともほぼ、毎月1回ぐらいは会っておりますので、密接なコミュニケーションはしてますけれども、基本的な事業のオペレーションはジャック・マー、そして現在CEOをやっているダニエル(・チャン)、彼らが自らの判断で行ってますね。

Yahoo! JAPANにしても、重要な局面でたまに私がコメントしますけれども、これも独立採算した、別途の独立自尊の上場会社として成り立っています。

ソフトバンクモバイルも、今日現在においては宮内(謙)を中心としてソフトバンクのモバイルの経営陣がいます。ですから、私は通常の経営会議にはもう参加しないで任せてるということですね。

スプリントも立ち直しのところまでは、私自身がチーフネットワークオフィサーとして、ネットワークの設計、それから建設に自ら陣頭指揮をとってやっておりますけれども、これももうじき、あと1~2年でだいぶ完成してきますから、私の手を徐々に離れていくということになります。

私はこのファンドの投資の意思決定、そしてそれぞれの企業のシナジーを出し合えるように、オーケストラで言えば、自らが演奏するのではなくて、全体のコーディネーションをしていくと。

そして全体の向かうべき方向だとか、バイオリニストは誰にすべきか、ピアノは誰にすべきか、どこで音を鳴らすべきか、どこでイグジットすべきかと、そういう全体をオーケストラするというのが、より私の役割の中心になっていくだろうと思いますね。

幸いなことにARMも、非常に成功している、自ら独立自尊で上場して立派に業績を伸ばしている会社でしたので、入口では私もかなりARMの経営陣と、今も毎週いろんなやりとりをしてますし、Face to Faceでも月1回会って、いろんな経営議論をしておりますけれども。

もともと成功している会社で、業界の圧倒的ナンバーワンシェアの会社ですから、立て直しが必要だという会社じゃないですね。

うまくいってる会社ということで、立て直しが必要な会社の場合は私が深く入るべきかもしれませんけども、そうでない場合には、比較的私の役割は、楽な役回りになるということで、守備範囲は広げていくことができるということだと思います。よろしいでしょうか。

テクノロジー界のウォーレン・バフェットを目指す

質問者8:朝日新聞のカミグリです。よろしくお願いいたします。

投資のリターンの話がありまして、名だたる投資ファンドに比べても圧倒的に高い44パーセントというリターンを実現しているというお話なんですけれども。

まず孫さんがそれだけのリターンをこれまで得てきたのはなぜだと分析してらっしゃるのか。目の付け所なのか、孫さんのひらめきなのか、原因の分析をお願いします。

もう1点、今の話で、これからの孫さんの軸足の置き方としては、傘下の(企業)あるいはソフトバンクの企業の経営よりも、投資ファンドの投資先の決定あるいはコーディネートというところに今後は軸足を置いていかれるというイメージでよろしいのかということをお聞かせください。

:人間には右脳と左脳があると思うんですね。左脳が理論的にいろんなものを積み上げていくと。作業をすると。

右脳がより直感的なことだとか創造的なことだとか、そういう部分をやっていくということ。だから芸術家とかは右脳でいくと。将棋の羽生名人なんかも右脳の名人だろうと思うんですけれども。

そういう意味では、今まで私は左脳を中心に使って、ソフトバンクのモバイルだとかSprintだとか、理論的にいろんな作業を行ってきましたけれども。一方、この18年間、趣味のようにして右脳でときどき投資、案件の意思決定をするということを。

両方の脳を使ってやってきたつもりですけれども、時間的配分としては、圧倒的に今までは左脳が配分が多かったんですね。

それは、さっき「退屈だ」という、ちょっと不遜な言い方をしまいましたけれども、着実に真面目に日常の業務をやっていく部分に時間の9割を費やして、今までは右脳の部分の投資の部分については1割ぐらいの時間で、かつては本当は3パーセントぐらいの時間かもしれませんね。

そのぐらいの範囲の時間配分できましたけれども、これからは右脳の部分の投資の意思決定、マネジメント、そちらのほうがやっぱりより重点的になっていくでしょうし。

いわゆる日常の真面目なキャッシュフローの事業という部分においては、それぞれ専門の立派なCEOがオペレーションカンパニーごとにいるということだと思います。

イメージ的には、テクノロジー業界のウォーレン・バフェットさんを目指していると。テクノロジー業界のバークシャー・ハサウェイを目指していると。

彼らは保険というキャッシュフローの事業を片方で持ちながら、右手で投資を行っていると。その合わせ技の事業モデルがバークシャー・ハサウェイですけれども、テクノロジー業界のバークシャー・ハサウェイのような会社がソフトバンクだと思っていただいたらいいんじゃないかと思います。

ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか? それではだいたい行き渡りましたので、私の説明は終わらせていただきます。ありがとうございました。

司会者:以上をもちまして、ソフトバンクグループ株式会社2017年3月期第2四半期決算説明会を終了させていただきます。ありがとうございました。