全資料作成者必見 Notionで生産性向上!

重松英氏(以下、重松):8月のIR向上委員会を始めます。司会は「IR note マガジン」発案者のLawyer’s INFO株式会社重松です。よろしくお願いします。

「IR note マガジン」とは、noteでIRができるというものです。今は89社が参画しています。もうすぐ90社、100社という節目があるため、まだご参画されていない方はご検討ください。

本日はIRの資料作成について、FiNX株式会社の後藤さんにお話しいただきます。よろしくお願いします。

後藤敏仁氏(以下、後藤):久しぶりに私がプレゼンターで若干緊張していますが、オンラインでご参加の方は随時、チャットでご意見やコメントをいただけると嬉しいです。

早速ですが「Notion、使っているよ」という方は会場にどのくらいいますか? 4人、5人くらい手が挙がりました。「Notion、全然知らないよ」という方はいますか? 「知ってはいるけど、使ってはない」という感じでしょうか。

私も最初は「Notionってなんじゃそれ」と思っていました。「Evernoteと何が違うんだろう」「やたらと騒がれているけどなんだろう」といった印象でしたが、使っていくうちに「あれ? 何これ、すごく面白いじゃん」と気がつきました。そこで今回のテーマに設定しました。

IR向上委員会

重松:Notionを使って資料を作るというテーマは楽しみですが、少し前振りだけします。IR向上委員会とは、IR実務に携わる人のためのコミュニティで、各企業のCFOやIR担当者が集まって、毎月様々なテーマを決めてお話しするという会です。

長期ビジョン

重松:目的は「IRをアップデートし、世界中の投資家から日本に投資マネーを」と設定しています。

日本金融経済研究所を通じて政策提言を推進する

重松:主催は日本金融経済研究所です。日本金融経済研究所は、政策提言を推進することも目指しており、上場後に「第二の仕事に」と呼ばれている状況に陥らず、しっかりと連綿と企業が成長し続ける世界観を作ることを目指しています。趣旨にご賛同いただけましたら、賛助会員もご検討いただければ幸いです。

後藤:つい最近、我々の仲間の株式会社うるるの近藤CFOも、日本金融経済研究所の理事になっていただきました。

IRにおける構造的な課題

後藤:Notionの話題に入る前に、資料を作ることや伝えることの背景にある課題を共有できたらと思います。個人的には「情報は発信している。でも伝わっていない」その結果、「PERでディスカウントされている」というようなことが、最近よくあるという感覚を持っています。

その背景には、単純に「上場企業数×情報開示量」の問題があると思っています。スライドのグラフは東京証券取引所に上場している企業数です。振り返ると2000年ぐらいは2,000社強、2,100社ほどしかありませんでした。

2000年はライブドアが上場した年です。このグラフを見ると、2000年から2012年ぐらいまでは、横ばいから少し上がりかけたと思ったら、リーマン・ショックで少しなだらかに下がるといった時期がありました。

2013年に大阪証券取引所がJASDAQと統合して、そこから3千数百社になってからは、毎年100社ぐらいのペースで上場しており、一部でM&AやMBOで市場から出ると増減もありますが、基本的には上がってます。

グラフを見ると特に大阪証券取引所と統合後は、きれいな右肩上がりとなっています。私の経験では、2019年に前職のトビラシステムズ株式会社で上場した当時、3,600社と聞いていましたが、2024年では4,000社を突破しています。このトレンドや構造が、来年になって急に下がったりフラットになったりするとは考えにくく、さらに増えていくだろうと思っています。

今度は情報量のほうに着目します。「2000年頃は現在ほど多く開示していたのか?」という話があります。CGコード、TC/FD、主要KPI、サステナビリティ、人的資本など、決算説明資料は東京証券取引所の要請というより各社の努力によって、クオリティもページ数も上がっているという印象です。

その結果、IR情報の氾濫が起きていると思います。2015年から2020年ぐらいの期間は、決算説明資料のクオリティがある程度高ければ、素直に投資家へ伝わりやすかった時代であったかと思います。しかし、現在は個々の決算説明資料のクオリティが上がっていても、情報量が増えているため、投資家へ少し届きにくくなっているかと思います。

したがって、今後は「どれだけシンプルに刺せるか」が問われる時代になってきたと私は思います。たくさん情報を出すことももちろん大事ですが、どれだけコンパクトに、端的に伝えるかがポイントとなるのではないかと思います。

投資家に伝わる資料をつくりたい!

後藤:今日のテーマは「投資家に伝わる資料をつくりたい!」です。スライドに「こんなお悩みありませんか?」と記載しましたが、「どんな視点で考えれば投資家に伝わりやすいのかわからない」というのは、ベテランの方はすでによくわかっているかもしれません。

また、「『こんなこと伝えたい』と思っているけど、どう表現して良いかわからない」「他社の参考資料をひたすら見ているだけで時間が経過してしまった」というようなことはないでしょうか? 以前私が自分で資料を作っていた時もそうですし、他社のお手伝いをしている今も、これはよくあります。

「なんとなくこんなこと言いたいんだよな、でもどうやって言ったらいいんだろうな」と、モヤモヤしている間に時間が過ぎていくことがありましたが、これは今日お話しするNotionを使用した「IR資料ラボ」の取り組みでだいぶ改善されました。資料を作成する上でのヒントができたというか、これによって作成がすごく早くなりました。

こんな時、どんなプロセスで資料作成しますか?

後藤:みなさまにご質問したいのですが「こんな時、どんなプロセスで資料作成しますか?」ということで、よくあるケースがスライドに挙げられています。利益進捗が一時的に良すぎたり悪すぎたりした時、「これは一過性なんだけど、どうやって伝えようかな」といったことがよくあると思います。

また、新規事業や新サービスの発表時、もしくは「M&Aしたよ」「M&Aするよ」という時に、そのシナジー創出やポテンシャルを伝えたいこともあると思います。他にも様々なシーンで「これ、どうやって表現しようかな」という状況があります。重松さんは思い返してみて、どうでしょうか?

重松:まず、同じようなリリースを出している企業の資料をひたすらピックアップして、まとめて検討するところから始めますが、そこがけっこう面倒くさいです。まずはゼロからというより、他社資料の確認から始めます。

後藤:会場の方にも聞いてみたいと思います。どのようなステップで資料を作りますか?

参加者:伝えたいメッセージをまず書き出します。

後藤:手書きで相手に伝えたいメッセージをメモしているということですか?

参加者:カードやホワイトボードにパパッと書いてみて、その後、情報量が絶対多すぎるので、どんどん減らしていくという作り方です。

後藤:メッセージラインを先に組み立てて、増えすぎた部分をコンパクトにしていくようなプロセスですね。オンラインで参加している方も、もしよければコメントを投稿してくれると嬉しいです。もう1人ぐらい会場の方に聞いてみます。

参加者:決算資料は現状の数字やP/Lを並べて、要因分析として次の四半期以降の見通しとその要因を整理します。そうするとある程度、方向性が見えてきます。

後藤:数字の状況を見て要因分析をすれば、だいたいポイントが見えてくるのでそれを伝えていくというプロセスでしょうか。ありがとうございます。

資料作成における想定プロセス

後藤:このスライドは想定される資料作成プロセスです。STEP1、STEP2に関しては、私も類似ケースや他社の事例調査をけっこうします。同じような事例では、他社はどのようなIR資料を作成しているかなどを調べます。

次に大まかなメッセージのアウトラインを設計します。私も何となくの図解イメージをノートに書きます。なぜかはわかりませんが、私は紙のノートに書くと「こんな感じにすればいいのかな」というような、アイディアが浮かびやすくなります。

その後、ドラフトレベルの雑な図解などの表現でアウトラインをいったん作り、レビューをしてもらい、「これでうまく伝わるかな?」と思った時にはフィードバックをもらったり、やり直したりしながら調整していくイメージです。

ここまで来れば、最後はブラッシュアップして完成に持っていくわけですが、STEP1とSTEP2が作成作業で一番差が生まれやすいポイントかと思います。慣れている方だと、特に考えなくてもパパッとできる方もいると思いますが、経験値が浅かったりすると、なかなか思い浮かばず、最初のSTEP1、STEP2あたりで時間を要してしまいます。

「もう今日は時間がないから明日やろう」「週末考えよう」としてしまう方もいると思います。この時間を減らせると、だいぶ生産性の改善になるのではないかと思います。

重松:「週末にやろう」とおっしゃった時、会場の頷きがすごかったですね。

後藤:「ちょっと空いた時間や、まとまった時間でやりたい」と思いますよね。しかし結局週末に再度、他社事例の調査などをしてしまいます。「ノッてくるとすぐ出来るけど、そこに至るまでなかなか難しい」といった話だと思います。

IR資料ラボのご紹介

後藤:今日のメインテーマ「IR資料ラボ」のご紹介として、ここで資料を切り替えます。

「最終アウトプットのイメージ」とありますが、ブラッシュアップを重ねて最終的にどのようなイメージのアウトプットになるのかというご説明です。投影されているのは、7月に私がお手伝いしたダブル・スコープ社の元々の資料の状態を表しています。

投影しているような文字情報と表のデータが「こんな感じに作り直せますよ」というご説明です。私のようなやり方をすると、ある程度センスなどの問題ではなく、このように作り直せます。

なぜできるかというと、レジル社のスライドを真似しているだけだからです。理由を聞くと「なんだ」と思われるかもしれませんが、資料をご覧になる方は真似していることはわからないのです。IR資料においては、参考にして怒られることはあまりありません。むしろ「私の力作をよく見てくれていましたね、ありがとうございます」となぜか感謝されることもあります。

続いて参考事例として、ダブル・スコープ社で作成したスライド資料です。ファイブフォーシズに少し似せたようなかたちになっています。この資料の元々の情報は文章のスライドです。そこから先程の資料へブラッシュアップさせるのですが、参考資料として別のスライドを真似しています。

このピンピンと弾き返しているような図の見せ方と、ファイブフォーシズのような見せ方がとても良いと思ったため、「このようなフレームに乗せて、強みを表現すればいいんだな」と考え、それぞれの要素を取り入れて作成しました。参考事例があると当てはめて考えやすいため、作成が早くなります。

もう1事例ご紹介します。画面に投影したのは私の会社のサービス資料です。4象限のマトリックス図を用いて「私の会社はこのような部分に特徴がありますよ」と表現していますが、この参考資料はチームスピリット社のスライドです。かなり似ていますが、内容はオリジナルに変えていますし、資料の構成やポイントだけを真似していて中身は違うため、コピーにはなっていません。

このような事例から「こんなことができるようになります」という、今日のアウトプットのイメージを想像いただければと思います。ちなみに重松さんは、この資料のように他社事例と比較する時はどのように作成しますか?

重松:他社事例を参考にしますが、それに引き寄せられすぎるのも良くないため、ポイントや数字などの元々の内容に、まとめてメッセージやアウトラインを検討することがけっこう大事だと思います。先ほど会場の方がおっしゃっていたポイントを「確かにな」と思いましたが、そこは根源としてあります。

しかし、それをデザインとして落とし込む時に、やはりいろいろなアイディアがあったほうがいいため、うまく表現できるアイディアを求めて他社事例を探していく、参考にしていくイメージでしょうか。

後藤:おっしゃるとおりだと思います。

「チームメンバー限定 スライド共有の場」

後藤:私が行っている「IR資料ラボ」の取り組みについてご説明します。画面に投影している一覧はNotionで作成しています。「IR資料ラボ」とは何かご説明します。ちなみにNotionはデータベースとして使えるため検索がしやすいです。

私は比較的、東京証券取引所発信の情報を起点に作成することが多いのですが、ありがたいことに東京証券取引所が事業計画及び成長可能性に関する事項の開示例をまとめています。東京証券取引所が機関投資家にアンケートを取って「投資家からはこのような情報がわかりやすかった」という事例をまとめています。これは情報として、かなりまとまっています。

重松:これに掲載されることはIR担当者からすると非常に嬉しいことです。

後藤:「これに載ったぞ」と嬉しくなります。すごく参考になりそうだと思って、私もこの資料をブックマークし、時間がある時に見ようとしましたが、情報量が多すぎて、逆に参考として使えなかったという反省があります。

資料の特徴として、1つのスライドに対して東京証券取引所のコメントが1つあります。ビジョナル社の例では、ビジョナル社のスライドのキャプチャーを貼り付けて「ビジネスモデルの特徴を簡潔に説明しているところが、わかりやすかった」というコメントをつけています。

まとめられたすべてのスライドにコメントがあります。スライドのキャプチャーを貼って「これはこのようなポイントが良かった」と一言ずつ書いてくれています。ただ、この資料の課題点としては、データベースになっていないため取り出しにくいことです。すべての資料を読まなければなりません。

目次があり、「ビジネスモデル」「市場環境」「競争力の源泉」と、まとまっています。しかし、これを全部データベース化して、例えばポジショニングマップやKPIの表現だけ取り出せるようにすると非常に便利かと思います。「取り出せたら便利ではないか?」という考えが「IR資料ラボ」発想の原点です。

事業計画及び成長可能性に関する事項の開示例が、前編・後編とあります。ここまではNotionでデータベースにしてPDFを貼っているだけなのですが、これをもとに私が行っているのが、今日お話しする「チームメンバー限定 スライド共有の場」であり、これを「IR資料ラボ」と呼んでいます。

最初は当社のホームページにスライドをすべて掲載しようと思っていましたが、実は公開しているのは一部だけです。チーム限定というのは、私が個人的に親しくしている何人かに「このようなものを一緒にやろうよ」と相談して行っているためです。

例えば「このスライドについて、私だったらこのような書き方はしない」など、好き勝手に書けるのは少し良いと思いませんか?ただし、他社のスライドについて、少し悪口を言うような印象になるかもしれません。

また、それを意識しすぎるあまり、当たり障りのないコメントになってしまうと、データベースとしての価値が下がると思います。そのため、ホームページ公開を一部だけにし、逆に「Notionスペース内だけで、みんなが自由に書けるものにしよう」といった目的で始めたのが「IR資料ラボ」です。

検索コストが爆発的に向上

後藤:多くのスライドが集まっていますが、参考に1つお見せすると、これはライスカレー社の顧客基盤についてのスライドです。このように、Notionは属性のようなものを自由に設計できます。

まず、表示したいスライドのURLを一番上に表示します。タグを自由につけられることがポイントで、チャートの参考になるものをタグにしてもよいですし、私はビジネスモデルに関する資料が好きなため、見つけてはタグをつけています。

また、デザインというチェック項目は、私が個人的にデザインが良いと思っているスライドにチェックをつけます。これは、デザインが良いものだけをサンプルに取り出しやすく、情報の検索コストを上げるために行っています。東京証券取引所というチェック項目は、東京証券取引所の資料に載っているかどうかです。

スライドDB反映というチェック項目は、ホームページに公開しているかどうかです。記載パート欄は、先ほどお見せした東京証券取引所の成長可能性資料のどのパートに書いてあるかを示しています。東京証券取引所が「これを書いてください」と推奨しているものがどこにあるかがわかります。他には資料の発表日と、このページを作成した日付の項目があります。

さらにリレーションです。Notionはリレーショナルデータベースのようなことが可能で、これが普通のExcel、Evernoteなどとは違う特徴のため、企業のマスターデータベースを作り、それにリレーションしています。

例えばライスカレー社で検索すると、その企業のスライドが溜まるようになります。他には作成者と評価の項目があります。これは私の個人的な評価で、勝手に点数を3などとつけますので「関係者がいたらごめんなさい」というところです。

重松:ちなみに、評価の一番上は3ですか? 5ですか?

後藤:一番上は5です。しかし、そもそも良い資料だと思い、参考になると思って登録しているため、ここにある時点でけっこう得点が高いことが多くなっています。まずは、良いと思ったスライドにキャプチャーを貼ります。基本ルールは、1ページに1スライドです。

2019年頃はどのようにしていたかというと、他社の資料のリンク集をEvernoteに作っていました。「ここの資料は良い」など、チャートのページがなにか参考になると思い、ひたすらメモを取っていました。しかし検索性がないため、後で見返した時に「これは何だったのか? 一体何に感動していたのかわからない」ということになりました。

「この前見たあれが非常に良かった、あれを使いたい」と思って、部下に「今度の資料はあれのように作りたい」と伝えると、「後藤さん、あれがなにかわかりません」と返されてしまいます。「あれね、なにかあったんだよね…」と、ひたすら探していましたが、スライド単位で保存しておくことで、検索コストが爆発的に上がります。

もう1つのポイントは、キャプチャーだけではなくメモを取ることです。あくまで私の意見をメモするのですが、「このスライドは何を説明している」といった書き方をしています。少し不思議な書き方だと思いますが、私は自分のNotion AIを構築するつもりでこれをデータ化しています。「このスライドが表しているのは、文章にするとこのようなことだ」と意識して書いているのです。

ChatGPTのように、古いデータベースからネットに散らばっている情報を統合、検索しLLM生成してくれるものもありますが、加えてNotion AIは、自分のNotionスペースに溜まったデータベースを検索し、オリジナルのLLMとして発展させることができます。

したがって、「ここにきちんとしたデータを次々に入れていくと、参考情報などをLLM、Notion AIに聞けば、すぐに返ってくるようになるのでは?」と思い、それを意識しながら行っています。

「市場規模でなにか良い感じのところはあるか?」と、かなり雑な質問をChatGPTにしてみましたが、あまり良い答えは返ってきませんでした。一方、Microsoft Bingは意外と良かったです。きちんとスライド単位で回答が上がってきて、さすがに進んでいると思いました。しかし、私が作ったNotion AIが最高でした。当たり前ですが、私が登録しているため、自分が一番欲しいと思う「最近あったなにか良い感じのもの」がすぐに返ってきます。

Notion AIにそのようなことが聞けるのです。「2ヶ月から3ヶ月以内に登録したもの」など、いろいろな検索方法でNotion AIと対話しながら次々と聞けるため、これをできるようにしていくことが、このコメントの非常に大切なポイントです。

重松:ただのワード検索などでなく、もう少し何かわかりやすく書いているというイメージでしょうか。

後藤:おっしゃるとおりです。読みやすいぐらいのボリュームになっており、東京証券取引所のコメントがある場合はコメントを入れます。他には、メンバーの人のコメントをつけるボタンがあり、このボタンを押すと自分のメモスペースができて、自動的に私のところにメンションが飛び、誰がコメントを書いたか伝わるようになっています。

IR関係者の共有知を作る

後藤:検索を試してみたいと思います。最近よく話題になる「人的資本」という語で検索してみると、すぐに出てきます。「人的資本」に関するスライドで良いものは、検索ボックスに入力すればすぐに取り出すこともできます。

他には、東京証券取引所チェックのありなしやタグです。例えば、ポジショニング系のものだけを取り出したい時は、ポジショニングタグがついたものだけがすぐに出てきます。これがあることで、圧倒的に取り出しやすくなっています。グループストラクチャーやビジネスモデル、業績予想などのタグも選べます。

データベースを構築しておくことで、最初の検索コスト、最初のドラフティングを圧倒的に早くできると思っています。加えて言うと、1人よりも何人かで行ったほうが、もしかしたら非常に良いのではないかと思いました。

みんなで行うことでなんとなく励みにもなり、他の人のアイディアや登録していったデータも、全部検索対象にできます。みんなの共有知を作っていくことで、IR関係者だけのひっそりとしたWikipediaができたら、非常に便利ではないかと思います。どうですか? これはすごいことではありませんか?

重松:これは欲しいです。Googleでワード検索する時は「その企業を見ようかな」と、だいたい企業単位で見ています。しかし、意外としっくりこないような「この辺に何かなかったかな?」と探していましたが、確かにこれは良いと思います。

後藤:ちなみに重松さん、他社事例を探す時は、どのようなプロセスで探していたのですか?

重松:そもそも頭の中には「この会社の資料は良いな」というのがあります。そのような良い会社の資料を常日頃から見るのもそうですし、もちろん同じようなトピックやニュースリリースなどがあれば、それを出した会社のものを参考にすることはあります。

後藤:おっしゃるとおり、ちょっとしたことを伝える時に、やはり参考にするものがあることは非常に便利です。

先ほどSTEP1、STEP2、STEP3のような見せ方で、このようなプロセスで資料を作る過程をお見せしました。あれは実際、私が「IR資料ラボ」を参考にして作っており、どれを借用したかここでお見せしたいと思います。

投影したこちらの資料をそのまま借用しています。元の資料は人的資本の説明で使っているスライドですが、私は人的資本の話で先ほどのスライドを作っているわけではありません。「ステップやフローで進んでいくような表現の資料はないか」というイメージで探し、これを借用しながら、先ほどの資料作成のフローのようなものを作ると、それらしくなる印象です。

行っていることは非常に簡単ですが、徹底的に借用しているかたちです。

直近でインパクトのあった資料をご紹介

後藤:実際、アズ企画設計社の神部さんに少し協力してもらい、登録してもらったことがあります。神部さん、使ってみてどうですか?

神部翔太郎氏(以下、神部):今まで、他の会社の資料を漫然と見ていたのに対し、登録したいものがあったら、クリップ留めように入れられるのが一番良かったと思います。

後藤:最初は、Notionは少しとっつきにくく、いろいろできるが故に、何をどうしたらよいかわかりませんでした。私はこのデータベースという概念が、Notionにおいては非常に秀逸だと思っています。

しかもギャラリービューという機能で、画像を貼るとカード形式のように並びます。これがまた非常に見やすいです。これがもしエクセル表になっていたとすると、けっこう見にくいと思います。

テーブルビューにすると、画面がこのようになります。一覧性があって見やすいという考えもありますが、これだと、参考資料を取り出しにくいです。ヒントの上がり方が圧倒的に違います。

画像が並んでおり、「なにか良い資料がないかな」と見ているだけでも、使いやすいため、私は表になっているこの形式が圧倒的に見やすくて好きです。Excelなどのブックマーク形式だと、見せ方としていまひとつだと思います。しかも、どのタグ付けがされているのか、全部表示できるようになっているため大変参考になります。

最近は、提案資料など自分のサービス資料を作る時なども、このデータベースから「なにかこのようなものを伝えたい、この辺は使えるかな」と参考にしながら、配色などもひっそり借用しています。PowerPointのカラーピック機能を使い、直接資料内の色を参照したりしつつ、場合によっては配色も真似て使っています。これが非常に参考になります。

神部さんに少しお聞きしたいのですが、最近「これは良かった」という資料はありましたか?

神部:Timee社の類似企業資料のインパクトがすごかったです。これは、個人的に感動したレベルです。

後藤:私もすごいと思いました。たった1枚ですが、「働く領域においてパラダイムシフトを起こします。タクシーはUberになったよね。ホテル・旅館はairbnbが出てきたよね。会議はZoomになったよね。ムービーはNETFLIXが出てきたよね。働くはTimeeです」という資料は、私もすごいと思いました。

海外投資家とお話しした時に言われたことです。アメリカが一番わかりやすいと思いますが、「アメリカで言うと何に似ている企業なの?」といった類似を端的に言ってくれたほうが、いちいち質問しなくても、彼らはビジネスモデルをだいたい理解できるらしいです。

そうすると、シャープな質問もしやすくなると思います。翻訳が入ることがけっこう多いため、直接英語で対話できる企業は別ですが、そうでないケースで、海外投資家とのファーストセッションの場合、「海外でもわかる類似想起をさせることで、わりとシンプルに理解できる」と聞きました。それが日本は下手だと海外投資家が話していました。

「もし海外投資家に説明したいのなら、海外の企業の類似を伝えるとよい」と聞きましたが、このTimee社の例がある程度効いており、非常にすごいと思いました。

これもなんとなく見ているだけだと、傍観しているだけですが、あえて「これは秀逸だな」などと言語化していくと、さらに自分の中の解像度も上がります。ただ画像を登録するだけでなく、自分で言語化してみると、自分の記憶に留まりやすいし、情報が非常に取り出しやすくなります。

その結果、神部さんもコメントを書いてくれたり、みんなでコメントを書いたりするだけで、自分の経験は当たり前ですが、記憶に残りやすくなります。ただなんとなく多くあるというよりも、「なにかで自分も見たよ、すごいと思ったよ」など、今日は見せませんが、本当に私だったらしないような書き方で書いたりします。

「これはわかりにくくないですか?」「東京証券取引所はこれを好事例で載せていたが、個人的にはあまり刺さらなかったね」などと、意外とそちらのほうがメンバー間で盛り上がったりします。

Notionを使うことは、スライドのデータベースをみんなで共有し作っていくことが本質のため、Notion自体がすごいというよりは、この共有知の作り方にヒントがあると思います。1人よりみんなで取り組んだほうが、全体の生産性が上げられると思うため、興味がある方はぜひご相談ください。ゲストアカウント数に限りもあり、あまりたくさんの方はご参加できないかもしれませんが、必要な方は一緒に取り組んでいけたらと思います。

現在は、約100個の情報しかないため、少ないと思っています。たくさん集めたらすごいことになると思います。年間で約100社上場しているため、全てのスライドをデータ化してもいいのではないかと考えています。すると、良いデータベースになると思います。

実験的に行っているプロジェクトについてご説明します。こちらのデータベースをAIに学習させて、ある程度のデータを入れると自動的にプレゼン資料や会社説明資料を作るところまではできています。

データベースを進化させていくと、近い将来にはミルフィーユ系の図もパッとAIで作成できるかもしれません。また、タイムラインに時系列で情報を少し入力するだけで、すぐに書けるかもしれません。

手間のかかるデータの引用にも役立つ

後藤:最近意識しているのは、市場データ系です。TAMの話はとても面倒です。みなさまは、どのように作っているのだろうかと思い、総務省の見解などを調べてみました。こちらでは、日本の労働市場の両極化が確認できます。経済産業省の未来人材ビジョンがありますが、決算説明資料ではなく、TAMや市場データに使えそうなものを記録しておくことで、取り出しやすくなります。

TAMや新サービス、M&Aによって新しい領域に踏み込む際など、マクロ要因は、Timee社の例ですと人口減少を表しています。さらに、こちらのデータは、日本銀行が発表する日銀短観に基づいて作成されているといったこともメモしています。

よく出典が書いてありますが、複雑な計算によってTAMを独自で計算しているものもあります。みなさまが見ているかわかりませんが、作るのはとても大変です。やはり、他社が何のデータをもとに設計してるのかを集めたら、とても面白いのではないかと思っています。

重松:先ほどのものは、デザインではなくデータを入れているということですか?

後藤:データソースの在り処を入れています。

重松:データソースの在り処も、ハードのところに入れているということですか?

後藤:チャートと合わせて入れています。

重松:データも出てくるようにということで、入れているのでしょうか?

後藤:出典を入れたいと思ったのと、こちらのグラフも使えそうだなと考えました。日本における職業別就業者のシェアの変化、高スキルと低スキルの人が上がっていて中スキルの人が下がっているという、わかりやすいデータになっています。労働市場は両極になっています。

重松:時系列と業界とスキルと、いろいろな要素を一つの図で表せるということですか?

後藤:おっしゃるとおりです。なにかに使えそうだという印象ですが、マクロ環境について引用すると説得力が生まれるため、ビジョナリーも実はこのようなデータを出しています。G7の実質賃金の推移にも、マクロ系のデータはヒントになると思い、取るようにしています。

こちらも将来、Notion AIに「このようなTAMを出したい」と聞いた時に「こちらから取るといい」「日銀が出している短観はTimee社が使っていた」「経済産業省も使っていた」などとすぐに答えてくれるとGoogleではできないことができます。

このような方向性でデータを集めようと決めると、TAMの大変さが解決するのではないかなと思います。お客さまの成長可能性についての資料を作る際も「TAMやSAM、SOMだけを専属で行う人がほしい」と思った時期があるくらい手間がかかります。

「説明を聞いている投資家も本当に気にしているのか?」という疑問も持ちました。東京証券取引所の指導で書くように定められているため作りますが、苦手です。

重松:データがないと作れないから、どのデータを基にするかというところから始まります。

後藤:おっしゃるとおりです。以上で、プロジェクトのご紹介は終わります。

質疑応答:テンプレートの活用について

後藤:「テンプレートを活用して構築していったのですか?」というご質問です。

Notionのテンプレートは、他人のテンプレートを自分のところに取り込んで作ることができます。そのようなテンプレートを活用したのかというご質問だと思います。

私はテンプレートを一切活用せず、全部自分で作りました。基本的な考えさえわかれば、自分で作ることもできますし、真似したいというご要望があればテンプレート化と言いますか、お渡しできます。もし欲しければおっしゃってください。

質疑応答:プロネクサスと宝印刷について

後藤:事前にいただいたご質問にも回答します。IRに関するご質問をいただいています。「プロネクとタカラのどちらを使っていますか?」というご質問です。

会場にいらっしゃる方で、プロネクを使っている方はいらっしゃいますか? 会場はプロネク派が7割くらいです。市場シェアで言いますと半分ずつくらいとなりますが、会場にいらっしゃる方は、プロネク派が多いようです。残りがタカラだと思います。

ちなみに、プロネクからタカラ、タカラからプロネクなどと変更された方はいらっしゃいますか。3社ほど手を挙げていました。変更のスケジュール感は、3ヶ月から6ヶ月くらいかかりますか?

参加者:半年くらいです。

後藤:ありがとうございます。詳細は個別に聞いてください。聞きにくい話のため、ぜひ会場に来ていただいて、直接コミュニケーションを取るとスムーズだと思います。

質疑応答:時価総額100億円を突破するまでの転機について

後藤:「時価総額100億円を突破するまでの『転機』があったと思うのですが、それが何だったのか、またそのような転機を迎えるためにどのような準備をされたかについて、参考になりそうな話ありませんか?(小売業 PER約15倍)」というご質問です。

本日会場にいらっしゃる方を事前に調べましたが、時価総額100億円を突破しているのが、スターティアとコンフィデンス・インターワークスが挙げられます。会場のご担当者様にお聞きします。コンフィデンス・インターワークスは、元々100億円以上あり、一度100億円を割るシーンがあり、時間をかけて再び100億円を突破したと思います。経緯はご存知ですか?

参加者:上場した際に100億円を超えていて、上場後に下がりました。70億円くらいまで下がり、現在は110億円から120億円と増えていますが、転機はありません。

当社の場合は特殊なのが、昨年上場したインターワークスと合併をしたため、そちらの部分が希薄化しましたが、IR活動を続けることによって徐々に戻ってきたと思います。転機というよりも、IR活動を地道に、特に、今年1年間は注力したところが出ていると思います。

後藤:ありがとうございます。他にもコメントはありますか?

重松:私の古巣、ツクルバ社もそうだと思います。赤字から黒字に期待感が出てきて、上がってきています。そちらに関しては、結局IRよりは事業だという気がします。

後藤:具体的にどのような業績、ビジネスモデルなのかわからないため、わかりにくいとは思います。私が調べた限り、こちらの会社は売上高がとても伸びています。

3年CAGRなどではなく、10年CAGR単位で18パーセントほどと、相当な伸びとなっています。しかし、利益はずっと横ばいで凸凹しており、おそらく利益の見通しが不透明だと捉えられていると感じました。

売上高が上がってるため、いつか利益上がるだろうと感じていますが、売上高を上げるためにひたすら先行投資が続いているため、いつ利益率がどのくらいの水準になるか、投資家に伝わってない可能性があります。もしかしたら1on1でお話されているのかもしれませんが、このように感じました。

質疑応答:ベストプラクティス資料のデータベースについて

後藤:「4,000社以上の全上場企業の資料すべてが入っているわけではないと思いますが、ベストプラクティス資料のデータベースに追加漏れはないでしょうか?」というご質問です。

こちらは、東京証券取引所が良い事例として公開しているものは、全部カバーしています。ただし、それ以外は私とメンバーの独断と偏見で選んだため、4,000社以上のものを全部網羅しているわけではありません。

良い資料として追加でお見せしたいのは、アズ企画設計社のスマートフォン向け縦型スライド資料です。私はこちらを流行らせたいと思っています。

重松:発祥はやはりyutori社ですか?

後藤:yutori社が発祥で、今3社くらい事例があります。神部さんとも話していますが、すごく良いと思った反面、現状のスマートフォンをターゲットにしている縦型スライドの難点は、2in1のようになっていることです。

ご紹介する資料も、実は縦型の特徴を活かし切っているわけではありません。発想は良いのですが、担当者の制作時間やコストがかかるため、これくらいが今の限界かと思います。そこで、私が勝手にcanvaを使って作り直してみました。短い資料ですが、いろいろな要素を詰め込んでいます。

まずどのような会社なのか、自分たちが思ってる以上に投資家からすると思い浮かぶわけではないと思います。私が行ったのは、不動産であることをクリエティブのニュアンスで伝えることです。本当だったら内部のデータを使いたかったのですが、アズ企画設計社の社員ではないため、canvaの素材から「このようなビジュアルかな」というように作りました。

証券コードを入れるのは当然ですが、こちらが秀逸だと自画自賛していますが、四季報のコメントよりも短く事業内容を説明しています。「23区を中心に収益物件を取得、リノベーション等でバリューアップして投資家に販売する会社です」と記載しています。こちらもぜひ行ってほしいと考えています。

時価総額がいくらか、PERが何月何日時点で何倍かなど、決算発表時時点の情報で良いと思います。こちらの段階で投資家フィルターをするかしないか決めています。私の場合は、いちいち見に行きます。「株探」「バフェット・コード」「Yahoo!ファイナンス」などのいろいろなサービスを見て時価総額やシェアを調べます。

投資家としては面倒で、言ってほしいと思います。また、そもそも決算ハイライトに入る前に今期の業績予想をいくらで出し、前年比どのくらいの水準か最初に言うと見やすいと思います。

その上で進捗率について記載してほしいと考えています。こちらで業績は概ね想定通りというコメントでは、少し弱く見えます。今回のアズ企画設計社の決算は、やや赤字で弱く見えてしまいます。

実は第4四半期に偏重する傾向が毎年あると、決算説明資料には丁寧に記載されています。将来の売上につながる不動産の在庫状況は積み上がっているというトピックもありますし、詳しくは見てくださいと書いてあります。

こちらが冒頭にお伝えしたように、情報があふれている中でどうしたらコンパクトに、刺さるように作れるか、考えていかなければならない時代に入ってきていると思います。いろいろな工夫が生まれてくると思いますが、できるだけコンパクトに、投資家が最初にフィルターできるレベルに集約できる、サマライズ版のようなものがあってもいいと思います。

このような資料が出てきたら、見る方も楽だと思い、こちらは私が作ったもので世の中に出ていませんが、参考までにご紹介しました。