~morichの部屋 Vol.1 ヴィス代表取締役社長 金谷智浩様~
福谷学氏(以下、福谷):morichさん。始まってしまいました。
森本千賀子氏(以下、morich):始まりましたね。本当に楽しみです。
福谷:morichさんがこの場に立っていただけること、本当に感謝しかないです。
morich:とんでもないです。
福谷:本当にありがとうございます。morichさんの横に立ってお話しできると思うと、実は昨日あまり寝られませんでした。
morich:本当ですか? よく寝ている顔ですけど。
福谷:ぐっすり寝ましたが、楽しみにしていたというのは本当です。本日はmorichさんのお話を聞くのはもちろん、ゲストもお呼びしています。
実は、3つほど企画が走っており、リーダーズトークというテーマでスタートアップ企業の方に来ていただいたり、中小企業の重鎮に来ていただいたり、その中で今回は、初めてmorichさんと「morichの部屋」という企画を開催できました。
morich:いつか「morichの部屋」を開催したいと思っていました。
福谷:なるほど、そうだったのですか?
morich:還暦になったら実現させようと温めていた企画だったのですが、こんなに早く実現できてうれしいです。
morichの自己紹介
福谷:では、みなさまにmorichさんの自己紹介をしていただきたいと思います。この番組はたくさんの方が観ています。さらに、この番組はふだん公にされないことを深掘りするというコンセプトですので、morichさんのことを深掘りする場面も出てくるかと思います。
morich:もちろんです。深掘りされる気満々です。
福谷:簡単でけっこうですので、morichさんの自己紹介をお願いします。
morich:morichこと、森本千賀子です。生まれは滋賀県で、それもかなりの田舎である高島郡(現・高島市)出身で、大学入学を機に上京してきました。1学年に10クラスある高校に通っていたのですが、東京に出てきたのは女子学生でただ1人でした。上京時には、同級生50人くらいが地元のローカル線に乗り込んできて、京都駅で校歌斉唱されながら見送られたと言うエピソードもあります。
福谷:ユニークな自己紹介ですね。
morich:海外に行くくらいの勢いで、18歳の時に上京してきました。ラグビーが好きだったので、大学時代は『スクールウォーズ』というドラマに憧れて、ずっとマネージャーをしてきました。
そして、新卒でリクルートに入社します。当時は女性の営業がものすごくマイノリティで、全体の1割もいなかったのですが、外国語学部を卒業した同級生たちがJALやANAのキャビンアテンダントを目指す中で、そこに行っても勝てないと考え、逆張りで営業職を選びました。せっかくなら一番鍛えられるところで経験を積もうと思い、リクルートに入社し、25年間勤めました。
転機となったのは東日本大震災です。あの光景を見て、リクルートの中だけに閉じているキャリアではなくて、外に向けたいろいろな活動を行いたいと考え、そこから今で言う副業を始めました。ちょうど6年前に、副業のウエイトのほうが増えたこともあり、独立しました。
今は転職エージェントとして活動しています。人と企業とのマッチング、特に本日のゲストのようなCXOと呼ばれる経営幹部で活躍している方をより輝ける場所に紹介するエージェント業務がメインです。
加えて、スタートアップ支援やビジネスマッチング、社外役員、顧問など、パラレルキャリアを地でいくかたちで活動しています。同時に、大学生と中学生の2人の子どもの母親でもあります。
福谷:素晴らしいです。お子さん、かわいいですよね。
morich:かわいくて、目の中に入れても痛くないです。
福谷:そんなmorichさんなのですが、本日はスペシャルゲストもお呼びしています。morichさん、ご紹介をお願いできますでしょうか。
morich:株式会社ヴィス代表取締役社長、金谷智浩社長です。本日はよろしくお願いします。
金谷智浩氏(以下、金谷):よろしくお願いします。morichさんに花を添えるために、はるばるやって来ました。
morich:ありがとうございます。お会いしたいと思っていましたので、来ていただけて本当にうれしいです。
この1週間、「YouTube」などで金谷社長が出ている映像をずっと見ていました。金谷社長のシャワーを浴びたような状態です。
金谷:僕よりも僕に詳しいわけですね。
morich:そのとおりです。本日はいろいろなお話を聞いていきたいと思います。
金谷社長の自己紹介
morich:では、金谷社長に簡単に自己紹介をお願いします。
金谷: はじめまして、株式会社ヴィス代表取締役の金谷です。今47歳です。
morich:見えないですね。
金谷:ありがとうございます。年齢不詳とはよく言われます。生まれは東大阪です。
morich:関西出身なのですね。
金谷:だんじりといえば岸和田が有名ですが、東大阪の布施にもだんじりがあります。
morich:布施ですか? 私の両親が一時期住んでいました。
金谷:本当ですか? まさにそこの出身です。中小企業が集積するような街で生まれ育って、父親も自営業だったのですが、昔から感情の起伏が激しい「関西人のオヤジ」に育てられました。
もともと水泳やソフトボールを習っていたのですが、小学3年生の時に友だちの影響でサッカーを始めて、そこからサッカーが大好きになりました。
morich:サッカー少年だったのですね。
金谷:小学6年生の時は大阪で2位になりまして、あと1回勝てば全国大会進出でした。
morich:準優勝はすごいことですよ。
金谷:自慢できるわけではないですが、中学校でも惜しくも3位で、あと1歩で全国大会に行けませんでした。自分は日本サッカー界のピラミッドの下部の下部の下部にしかいませんでしたが、先日のドイツ戦のように今の日本代表が勝てるようになったのは、自分のような存在が人柱のようにがんばってきた結果なのではないかと思っています。
morich:金谷社長は体育会な感じなのですか?
金谷:マインドとしては体育会です。その中でも、自分としてはキャプテンとしてリーダーシップを発揮して、突破するタイプではなく、ディフェンスもオフェンスも全体を把握しながら、自分の動きと相手の動きを見極めて指示する、ボランチのようなポジションだと思っています。サッカーをはじめ、アルバイトでも学生生活でも、バランスを取りながら過ごしてきました。
morich:自身のキャラクターとポジションは、ニアリーイコールですか?
金谷:今はそう思います。サッカーに打ち込んでいた時はそのようには考えていなかったのですが、そこで学んだことが私生活にも人間関係の形成にも非常に役立っているため、振り返るとそうなのだと思います。
小学生時代の苦い思い出もあります。僕には姉と弟がいて、3人姉弟の真ん中っ子なのですが、僕が小学6年生の時に姉が勝手に僕と弟の写真を芸能事務所に送っていたのですよ。知らないうちに送られて、知らないうちに私だけ落ちているということがありました。
morich:かわいらしいお子さまだったのですね。もし受かっていたら、違う人生だったかもしれませんね。
金谷:小学4年生の弟は受かってしまったため、そこで明暗が分かれて、自分はビジュアルではなく、優しさや学力、おもしろさみたいなことを追求してきました。
morich:関西人はおもしろくないと人気者になれませんからね。
金谷:そのようなバックボーンがあり、今に至ります。
ヴィスの事業内容
福谷:そんな金谷社長にお越しいただいたのですが、本日はヴィスという会社についても聞いていきたいと思っています。事業内容などもご紹介いただければと思います。
金谷:オフィスデザインを軸に、企業ブランディングを行っている会社です。オフィスを空間デザインとして捉え、ビルの仲介、デザイン、工事、引っ越しまでをワンストップで行うという事業にこの19年取り組んできました。
しかし、コロナ禍によって、「オフィスで働く」ということが再定義されるようになってきました。
morich:リモートワークも普及してきましたね。
金谷:何も考えずにオフィスで仕事をする時代から、多様化する働き方にフィットする選択肢が複数あるという時代に変化しています。それに対して、企業もうまく取り組めて、社員一人ひとりが自己実現し、働くことを通じてハッピーになれるような会社にしていきたいと考え、現在はオフィスデザインからワークデザインという言葉に定義を変えています。
具体的には、これまではデザインしてモノを作ってきたところから、現在はデザインをするにしても、いろいろな定量的なデータや定性的なアンケートなどを分析して進めています。
morich:働く人たちのマインドセットなども影響しますね。
金谷:「プログラミング」と呼んでいるのですが、上流の部分からソリューションのためのコンサルティングを行っています。
デザインして、施工して、出来上がったものを引き渡すだけでもお客さまは喜んでくれるのですが、オフィスというのは経営者にとって大きなコスト投資です。そのため、投資をどのように回収していくのか、どのように成長につながっていくのかを、経営者は知りたいだろうと思います。
したがって、作っておしまいではなく、作ってからがスタートだと考えています。いろいろなシミュレーターやサーベイを活用することで、お客さまにアップデートの機能を提供するようにしており、そのような考え方をワークデザインと定義しています。オフィスデザインにプラスαで肉付けしながら、もう少し幅広く「働く」ということに向き合っている会社です。
morich:確かに、働き方改革や人的資本経営など、働く人たちがいかにエンゲージメントを高めるかという視点で考えると、働く環境もすごく大事ですね。
金谷:特に経営側は売上を上げたり生産性を上げたり、もしくは真面目に仕事してほしいといった価値観を持っていると思います。テレワークでは、社員の行動への抑止力が働いている本人に依存してしまいますので、オフィスに出社して仕事をする流れに戻ってきています。それこそアメリカのAmazonやGoogleでも「Return to Office」が叫ばれています。
morich:出社に戻す動きが激しくなっています。
金谷:ただし、実態としてはまだ戻り切っておらず、平日でだいたい5割強がオフィスに出社している状況です。
morich:ハイブリッド勤務ですね。
金谷:そうですね。金曜日だけで見ると出社率は30パーセント強ですので、曜日ごとに選択しているわけです。特に金曜日は、土日週末を絡めて、福利厚生的にテレワークを使うことが定着してきています。
経営側としては、もっとオフィスに引っ張り出したいと考えている状況ですが、働く側は「家でも生産性を落とさずに働けている」と主張しており、そこが二極化していると言いますか、対立しているような状態です。
そこで当社に対しても、無理やりオフィスに出社させるルールを作るのではなく、働く側が出社したくなるような場所、価値体験が生まれ、仲間からの刺激が受けられるような場所を作ってほしいというオーダーが非常に増えました。
morich:確かに、日常の何となくの会話がきっかけになって、イノベーティブなものが生み出されることもあると思います。それに比べて、リモートワークではそのようなものが生まれないという声も聞きます。
金谷:多くの会社がそのことに悩んでいます。
WORK DESIGN PLATFORM
morich:ヴィスには「WORK DESIGN PLATFORM」という構想があると、どこかで拝見しました。
金谷:先ほどお伝えした「PROGRAMMING」、そして「DESIGN」「CREATE」「UPDATE」というワークデザインのフローで繰り返し、定期的にお客さまに価値提供をしていきたいと考えています。
それを実現させるために「WORK DESIGN PLATFORM」というツールを開発して、働いている方々のワークスタイルやワークプレイス、エンゲージメントカルチャー、やりがい、ウェルビーイングなどのワークデザインスコアを可視化します。
morich:そのような定性情報を可視化していくのですね。
金谷:定性と定量の両方を可視化します。それによって、経営側が現状を分析・把握し、それに対して次のコミュニケーションの質を変えていくためのツールになっています。
morich:これから先、ヴィスとしてはワークデザインをどのように推し進めていきたいのでしょうか?
金谷:もともとオフィスデザインに取り組んでいた時に生み出されたパーパスが、「はたらく人々を幸せに。」なのですが、この言葉はすごく大きなものです。
morich:壮大ですね。
金谷:この言葉を見つけた時に、オーナーもそうですし、僕も含めた幹部たちが、この言葉を実現するために会社を経営していこうという思いになりました。
オフィスデザインだけを行っている間は、オフィスを引き渡した時点で、僕らは「間に合ったね」「喜んでもらえたね」と肩荷を降ろしていました。しかし、1社1社の裏側を見てみると、かっこいいオフィスを作ったところで、上司と馬が合わずに従業員が離職したり、業務過多でストレスを抱えてしまったりといった状況は後を絶たないと考えました。
「はたらく人々を幸せに。」というパーパスをどこまで実現できているのか考えた時に、モノを作ったその先の部分、最近のトレンドで言うところの人的資本経営の考えに行き着きました。
私のファーストキャリアは、もともとヒューマンリソース(HR)の仕事でしたので、自分が経験してきて、関心がある部分をうまく融合させて、次のかたちに持っていきたいと考えているのがワークデザインです。
お客さまのナラティブに寄り添う
morich:ここまでお話をうかがってきて、金谷社長はオフィスを引き渡した後もお客さまとけっこう対話されていると感じましたが、いかがでしょうか?
金谷:マインドとしては、時間が許す限り対話したいと思っています。引き渡した後は機会がないとお客さまとの対話は減っていくのですが、オフィスを作っている段階で「どの内装材を使いますか?」「どのデザインを入れますか?」「どのような家具を入れましょうか?」といった空間についての会話はもちろんします。
加えて、「この部署とこの部署の方々のコミュニケーションは取れていますか?」といったようなことまで踏み込んで聞き、会話を発生させたり、人と人とが自然に触れ合ったりできるコンテンツにも注意を払って、プロジェクトを進めていきます。
例えば、お客さまから「バリスタがいるようなカフェパントリーを作ってほしい」というリクエストを受けたこともあります。
morich:そのようなものまであるのですね。
金谷:ベンチャー企業ではわりとあるリクエストで、「かっこいいカフェを作りましょう」ということでデザインから入るのですが、仕事中にカフェに行きたい人が多い時間帯は、朝イチかランチの後ですよね。
morich:みなさまだいたいそうですよね。
金谷:朝はけっこう客足がバラバラで、早く出勤した人しか来ないため、早い人だけのコミュニティになります。
しかし、ランチ後のカフェにはわりとみんな並ぶため、スターバックスに行かずに、オフィスのカフェに寄るわけです。とてもおいしいですし。
morich:なるほど、そうですね。
金谷:そして並んだ結果、仕事ではまったく絡まないような人たちが列の前後になります。そこで話していると、「趣味が何だ」「休みの日に何をしてきた」などの話で盛り上がります。
morich:確かにそうなりますね。
金谷:そして、「今度遊びに行こう」「飲みに行こう」などの話になります。
morich:列の前後で話しますよね。
金谷:このような機会によって、同じ部署、同じチームに偏りがちな人間関係を広げていくことで、横串が刺さっていきます。
morich:コミュニケーションツールになっているのですね。
金谷:そうですね。今のは一例ですが、そのようなことは、きっとたくさんあると思うのです。オフィスは学校に近いと思っています。僕もそれまで、「会社に行きたくないな」と思うこともありました。
morich:そのような時期がありますよね。
金谷:僕は木・金・土・日と、国内ですが東京ではない所に遠征して、人間性を回復してきたわけです。そのような中でも、今日のような月曜日の朝はやはり「月曜日か」という気持ちになることがあります。
morich:世の中の人たちは、大半そうですよね。
金谷:その気持ちを少しでも「行きたくなる」ように、僕たちは事業を行っています。そこには空間だけではなくて、その他の要因があります。例えば、今は気合いが入っていないが、「あそこに行けば仲間がいる」「自分が元気をもらえる」などです。ラグビーW杯の試合も勝ちましたし。
morich:テンションが上がりますね。
金谷:野球のU-18日本代表も世界一になりました。
morich:今、日本人はみんな大活躍していますね。
金谷:このような状況ですので、「オフィスに行って、また元気をもらう」、そのためのツールにしていきたいという気持ちはあります。
morich:リピート率が58パーセントというのをどこかで見かけました。
金谷:よく見ていますね。
morich:チェックしています。
金谷:ふだん聞けない話を掘り下げる場なのですね。
morich:IRなども見ていますよ。
福谷:「morichの部屋」は、ふだん聞かれないことも聞かれてしまい、公にされてしまう番組です。
金谷:リピートのお客さまに本当に恵まれています。その源として、当社にはCREDO(クレド)という行動指針があり、存在意義を示すPURPOSE(パーパス)があり、ワークデザインを広げていくというAMBITION(アンビション)、そして価値観を示すVALUES(バリューズ)があるのですが、それらが社員一人ひとりに浸透しています。
morich:これを朝の朝礼などで振り返るのですよね?
金谷:毎朝、唱和しています。
morich:それを聞いて感銘を受けました。
金谷:少しウェットですよね。ただ、この取り組みを10年以上行っています。
morich:もう、みんなそらで言えるのですか?
金谷:入社して1週間もすれば言えるようになります。涓滴(けんてき)岩を穿つと言いますが、岩に穴が開けるかのごとく、毎日のように行っていることは勝手に入ってくるのです。
会社の掲げる行動指針や、お客さまのために深く寄り添う姿勢などが、社員に浸透していっています。
morich:パーパスもそうですが、クレドなどは机上の空論になっている会社も多いですよね。
金谷:そうですね。当社はデザイン会社ですので、デザイナーや、特にキャリア入社の方の中には、「こんなことをやっているの?」と言われることもあります。
morich:そうですよね。
金谷:しかしながら、やはりそこもカルチャーと言うか、それも含んでの人材育成だと思います。
「ただデザインできるだけ」という人材は世の中に多くいると思いますが、本当にお客さまのナラティブ、叶えてほしいことに寄り添いつつ、そこに表現したいデザインをうまく乗せて、ソリューションしていくデザイナーを育成しています。
morich:非常に良い会社ですね。
福谷:これはすごいですね。
金谷社長とヴィスの出会い
morich:金谷社長は、自らがプラクティスして、環境改善や、社内エンゲージメントも高めるなど、いろいろなことを行っていらっしゃいますが、もともとそのような会社だったのですか?
金谷:もともとは、比較的ちゃらんぽらんな会社でした。
morich:いつから、どのように変わったのですか?
金谷:僕は2004年に入社して、クレドができたのが2008年だったと思います。制作に入ったのは2007年くらいです。幹部たちが約1年かけて作りました。
morich:転職された当初は、金谷社長は経営幹部ではなく現場にいらっしゃったのですよね?
金谷:個人名を出していますが、この「morichの部屋」を紹介してくれた近藤真生という人物がいます。morichさんの後輩にあたる、元リクルートの方です。
morich:コンちゃんですね。
金谷:彼がリクルートでヴィスの担当だった時代があるのです。その当時に、僕は「リクナビ」の原稿を見て「この文章はわかりにくい」と言いました。
morich:時々クレームもあります。
金谷:「この文章で人は来ていますか?」と。
morich:「本気で採用しようと思っていますか?」ということですね。
金谷:僕は当時、すでにHRの仕事をしていましたので、ご縁のあった先輩に「この文章で人は来ていますか?」と聞いたら、「全然来ない」との返答でしたので、「来ないのなら、僕が行きましょうか?」ということになりました。
当時28歳で、「この次のキャリアをどのようにしていこうか」と迷っており、「今いる会社に残って上を目指すか、ゼロイチを作るか」、そのどちらかだと思っていました。
morich:起業という道もありますしね。
金谷:おっしゃるとおりです。もちろん、転職という道もありました。その中で、自分がお客さまに本当に価値提供できる仕事は、やはり自分で作っていくしかないと思いました。つまり、「ゼロイチの方向で」ということです。
その頃、ヴィスはまだ数名の社員しかいない会社でした。
morich:数名ですか?
金谷:はい、数名です。僕がヴィスに入社したタイミングは、東京オフィスを立ち上げて、メンバーを募集している時でした。先ほどの「リクナビ」の記事は、東京オフィスメンバーの募集記事だったのです。
morich:なるほど。それがイマイチな記事だったのですね。
金谷:そのようなわけでご縁がありました。「リクナビ」の募集に100人くらいのエントリーがあったら、「僕が行きましょうか?」とは言っていませんでした。
morich:イマイチな原稿だったから、ご縁がつながったのですね。
金谷:そのとおりです。
morich:当時は、会社としてはまだクレドなどもなかったのですよね?
金谷:ないない尽くしです。もっと言えば、入社初日にテーブルもチェアもありませんでした。
morich:ダメな会社の典型ですね。
金谷:スタートアップですので、追いつかないのです。
morich:あるあるですね。
金谷:ないことが当たり前です。僕はそれまで150名くらいの会社にいました。その会社は、僕が辞める頃には一部上場されており、その時になって初めて、恵まれた環境だったことに気づきました。
金谷:ヴィスでは、初日から床であぐらをかいてテレアポをするわけです。
morich:本当ですか?
金谷:僕はもうフルベットして来ているため、「テーブルもチェアもないのか、それなら売上を上げよう」と思って営業を始めたのです。
ただ、タイルカーペットの上にあぐらをかいていると、3時間くらいで、スーツの上からでも足がかゆくなるのですよ。
morich:椅子もないのですし、そうですよね。
金谷:正座したり、いろいろ試しましたが、あぐらが一番楽でした。しかし、ふくらはぎがかゆくなりました。
仕方がないので、「すみません、新橋の近くに『ドン・キホーテ』がありますので」と社長に連絡しました。
morich:椅子を買いたいとお願いしたのですね。
金谷:「椅子を買ってきてもいいですか?」と言いました。それが僕の初仕事です。
金谷社長就任までの道筋
morich:当時は、事業としてはいわゆるワークデザインをされていたのですよね?
金谷:オフィスデザインの仕事です。
morich:オフィスデザインの仕事でしたが、自社のオフィスは、ということですね。
金谷:追いついていないわけです。その余裕もありませんでした。
morich:灯台下暗しというわけですね。
金谷:大阪に本社があり、東京にオフィスを出すタイミングでした。まだ採用もおぼつかず、僕ともう1人がゼロから立ち上げていく状況でした。
morich:その時に、「いつか社長になってやる」という思いはあったのですか?
金谷:もちろんです。自分で起業して、社長をしたいと思って転職しました。ゼロイチを経験して、事業を伸ばしていくことを経験したいと思っていました。
morich:その時、金谷社長には最初から起業するという道もあったと思います。しかし、ヴィスに入社されて、ヴィスの社長になろうと思ったのですか?
金谷:いえ、もともとは自分で起業しようと思っていました。
morich:おそらく、世の中の人にはそのような選択肢が多いと思います。
福谷:多いですよね。
morich:結果として、ヴィスの社長になられています。社長になられるまでの道筋は、どのようなものだったのですか?
金谷:やはり、人生にはいろいろありますよね。
morich:ありますよね。私も53年生きていますから、あります。
金谷:仕事を続けていく中で、自分の天職かと思うくらいに、事業にのめり込んでいきました。お客さまに本当に喜んでいただけるし、自分の提案やソリューションが、お客さまが変わっていく様子に色濃く反映されるわけです。また、ディレクターとして動けるという部分もありました。
お客さまにも恵まれ、成果もどんどん出て、働けば働くだけ自分の身になっていくという感覚がありました。
加えて、もともとHRの仕事をしていたため、社長と二人三脚でヴィスの採用や会社のホームページ制作、営業ツールの構築などいろいろなものに携わって、経験を積んでいきました。
morich:営業もして、人事もして、というわけですね。
金谷:わりと器用なほうで、サッカーでボランチというポジションがありますが、そのようなタイプです。
morich:先ほどのサッカーのお話がここに通じるわけですね。
金谷:社長と二人三脚で事業をしていくと、自分の下のメンバーがどんどん会社に入ってきます。自分が採用して育てていますので、やはり感情が入っていきます。
morich:そうですよね。
金谷:そのような中で、リーマンショックが来ました。その頃には名古屋にもオフィスを立ち上げるなど、人も順調に増えていました。
morich:右肩上がりですね。
金谷:会社は50人規模になりました。当時は、内定者を旅行でバリ島に連れていくなど、そのようなノリの会社でした。
morich:業績が良かったのですね。
金谷:ただ、リーマンショックの爪痕がけっこう深く、ダメージもあって、少し低迷した時期があり、そこでいろいろありました。
morich:コスト削減の1つとして、やはりオフィスに、ということですよね。
金谷:そのとおりです。それまで順調に来ていたファミリーの中でも、離脱していくメンバーもいました。そこで、「この火は絶やしたらいけない」と自分自身で思いました。それが32歳くらいの時です。
その頃から、この会社で社長をするなら自分かな、と思うようになりました。
morich:そうだったのですね。
金谷:少し使命感のようなものを感じるようになっていきました。
morich:そのような約束をしていたわけではなかったのですね?
金谷:約束はしていないです。立ち飲みで目線が合ったくらいですかね。
morich:なるほど。
金谷:自分で勝手に思っていました。
morich:ただ、やはりどこかのタイミングで、例えばオーナーから「お前に任せる」という日が来るわけですよね? 何となく、予感めいたものがあったのでしょうか?
金谷:「自分だろうな」という気はしていましたが、実際はわかりませんでした。しかしながら、「そのように考えているよ」とオーナーからお話がありました。その時に、正直に言って、本当に自分がするべきなのかと、頭をよぎりました。ただ、32歳から社長になりたいというか、自分の使命のようなかたちで、そう考えてきました。
そのため、先ほどの近藤真生にしても、彼のことは大好きですが、やはり厳しく怒る時は怒りますよ。
morich:愛ある叱咤は、今はなかなかできないですよ。
金谷:そのような思いを持ってヴィスにいましたので、社長になるお話も、そこで「はい、わかりました」ということで受けました。
morich:同じように、オーナーからも厳しく教えていただいていたわけですね?
金谷:おっしゃるとおりです。自分はオーナーに育てていただいたわけですし、裏を返せば、いろいろな経験をさせていただいて、そのおかげで力を身につけられたと思っています。血のつながっていない「親子」と言えるくらい仲も良いですし、一方で「合わへん時は合わへん」という感じです。
morich:理想的な関係ですね。今、日本では、事業承継が本当に課題になっており、それが倒産のきっかけの1つにもなっています。
そのような中で、先ほどのお話のよう、次にバトンタッチしていくような理想の経営、事業承継が行われると、おそらく日本はもっと活性化すると思います。やはり、世の中のすべてが起業家の力だけでうまくいくわけではありません。
金谷:おっしゃるとおりです。morichさんと同じ思いを持った方も増えてきています。
morich:とても多いです。
金谷:自分も同じように考えています。少しおこがましいですが、「この会社から自分がいなくなったら、残されたみんなはどうなるのだろう?」ということも含めて、そのような思いから社長になろうとスタートしました。
オーナーと後継者候補のコミュニケーション
morich:私は先日、「PIVOT」という番組で、「経営者への道」というテーマでお話ししました。すると、経営者になりたい人たちが殺到して、問い合わせをいただいたのです。
起業家ではなくて、経営者になりたいということです。そのような方々に、どうしたらそこの道にたどり着くのか、金谷社長から何かアドバイスはありますか?
金谷:やはり、コミュニケーションですね。
morich:オーナーとのコミュニケーションですか?
金谷:そのとおりです。心と心だけでいくと、トップとナンバー2はどうしても衝突します。
morich:おそらく、そのようなケースのほうが圧倒的に多いです。たくさん見てきました。
金谷:図式的にはトップのほうが偉いわけですから、衝突した結果、「自分の替えは利く」と思ってナンバー2が辞めていくわけです。
そして、また同じポジションの人を採用し、イチから育てて、良いところまでいって、喧嘩して別れる、この繰り返しなのです。
morich:繰り返しですね。そのような会社もたくさん見てきました。
福谷:多いですよね。
morich:有名な会社でも多いです。
金谷:そのような意味では、ヴィスとしては当時、僕は常務でしたが、社長とよくコミュニケーションをとっていたなと思います。
morich:公私ともに、ではないですが、一緒にいることが多かったのですか?
金谷:よく飲みに行っていました。
morich:世の中のオーナーと、その後継候補の方は、実は意外と公私を分けています。
金谷:そうですよね。しかし、仕事ではチームワークを良くしていると言いますが、公私を分けながらチームワークだけ良くするというのは難しいです。
morich:意外と話せていなかったということも多いために、別れ際になって、お互いに「そんなことを思っていたのか」となることが多いのです。
金谷:自分もナンバー2から社長になってみて、いろいろなコンサルの会社から「勉強会を実施してほしい」という声をいただいたり、ベンチャー企業のナンバー2の方と壁打ちさせていただいたりすのですが、話の中で「社長と飲みに行ってますか?」と聞いても、「いや、サシ飲みしたことないです」と返事がきます。
morich:意外と多いです。「わかっているつもり」のようなこともあります。
金谷:しかし、やはり先ほど言った感情と、言葉、さらにビジョンでつながっていかないと、なかなか強固なつながりにはならないと思います。
トップとナンバー2、それぞれの視界
morich:金谷社長はもともとナンバー2だったわけですが、ナンバー2とトップでは、視界がやはり違いますか?
金谷:全然違いました。
morich:どのような違いがありますか?
金谷:社長の仕事は、いわゆる「決める」ことですので、方針決定やビジョンも含めて、いろいろなことが自分のところに来るわけです。今、ヴィスは250人ほどの会社ですが、良いことばかりならいいのですが、だいたいが何かしらの問題を抱えています。
morich:ネガティブなこともありますよね。
金谷:その中で、ビジョンや方針、自分のポリシー、社員への配慮、このような事柄を複合的に考えながら決めていくこと、これも社長の仕事です。
一方、ナンバー2は、その材料を用意して「決めてもらう」ことが仕事なのです。
morich:なるほど。
金谷:社長に対して「これでどうですか?」と、判断しやすいようにするまでが仕事だったわけです。その点が圧倒的に違います。
今は、もともとはいた「金谷」のようなナンバー2が、組織を作っている最中です。ほかにも、よく手伝ってくれるメンバーが数人おり、彼らは今、本当に成長してきているなと感じます。
morich:もう1つの仕事と、ミッションとしては、さらに後継者を育てるということですね。
金谷:そうですね。社長になった日から、「次は誰に任そう」と考えています。
morich:やはり、そこが社長の、次の大きな仕事ですからね。
福谷:今、そのナンバー2となりえる人材はいらっしゃるのですか?
金谷:もちろんいますが、同世代の子たちも多いですし、自分も含めて、採用して育ててきたメンバーが多いため、いろいろ考えながら、この人とこの人、そしてこの人、という状態です。
福谷:なるほど。
相手のインサイトを抱きしめる
morich:リーマンショックの時は、業績としては少し苦しかったようですが、それでも順風満帆に右肩上がりで伸びていらっしゃるように見受けます。金谷社長がナンバー2の時代も含めて、「これが辛かった」「苦しかったな」と思ったのは、どんな時でしたか?
金谷:辛かった時は、先ほどお話ししましたが、主要メンバーが一斉に抜けた時です。
morich:リーマンショックの後ですか?
金谷:タイミングとしてはそうですね。独立していくなどの要因もあり、時々、エース級が抜けてしまうこともあります。
morich:前向きな新陳代謝はある意味必要なのかもしれませんが、そういうこともありますよね。
金谷:それはもちろん良いのですが、本当に、家族同然の気持ちと、スキルを持っている人材です。
morich:やはり、思い入れを持って接していれば、より強くそう思いますよね。
金谷:そのようなメンバーが抜ける時は、やはり辛いです。
morich:それでも、その時はもう「応援するぜ」という気持ちですか?
金谷:もちろん「応援するぜ」ですし、その分、自分も恥じないようにがんばるというのが、自分のもともとの性格です。
最近は、ある一定のスキルを持った社員に業務委託で仕事を手伝ってもらう「サークルズ」というアルムナイの仕組みを作りましたので、退職した社員とも関係を築けるようになっています。
まだ始まったところですが、実際に稼働しており、それによって残った社員の業務過多の改善につながっています。
辞めていったメンバーからは、フリーになってすぐに仕事がない中で、「助かります」という声も聞いているので、取り入れて良かったと思いました。
morich:素敵です。
福谷:すごいです。
morich:X(旧Twitter)でも、3年目の社員の方が辞められた時に「本当にファミリーのように接していた社員が辞めるのは非常につらいが、この3年間に積み上げられたいろいろな経験値というのはムダにはならない。活きる」という投稿がありました。
金谷:そうですね。もともと僕も28歳の時に離職しているので、転職ということに対しては、いずれ必ず訪れる選択肢だと思います。
実際に転職するかどうかは別にしても、そのような願望は持つだろうという中で、自分で「この人生を行こう」と決めたことに対して、金谷個人としてはきちんと応援してあげたいと思っています。
ただ、社長という立場からすると、これはもう大変な損失です。「あなたに投資した3年間、新卒からも含めたら4年半をどうしてくれんねん」という気持ちは、率直に言ってあります。
morich:そうですよね。まだ回収できていませんよね。
金谷:だからこそ、そこで四の五の言ってもがいても結果が変わらないのであれば、どんどん労働人口が減ってきていますので、みんなが力を合わせて事業運営していくしかありません。
人材はご縁つなぎだと思っています。辞めた方がひょんな拍子で、また当社に来るかもしれませんし、外部で当社の仕事をしてくれるかもしれません。そのようなことも一応打算的には考えながら、応援しています。
morich:金谷社長のX(旧Twitter)はまるで「言霊のシャワー」だと思っています。私は2週間ずっと浴び続けていて、すでにファンになっており、今日はハートの目をしてお話しさせていただいています。
「ヴィスのクレドで『傾聴傾心』が好きだ」という投稿があり、そのくだりが非常に素敵だったのでご紹介します。
「聴く」というのは、その字の構成が表すように「十四の心で耳を傾ける」ことで、相手のことを理解しようというコミュニケーションが非常に大事だと語ってらっしゃいます。最後には、「心で寄り添い、相手のインサイトを抱きしめることがもっとも大切なんだ」と書いてありました。
福谷さんは、「相手のインサイトを抱きしめる」という表現をしますか?
福谷:いや、なかなか難しいですね。
morich:なかなか、こんなこと言えないですよね。
金谷:確かに、抱きしめ世代ですからね。
morich:抱きしめ世代ですよ。本当に言われたいです。
金谷:当社では今、クリエイティブに関する勉強会を開いています。
広告やこのようなクリエイティブの業界は、「インサイト」に対してしっかりとリーチができて、そこにマッチした提案をして、クライアントニーズを引き出すことが非常に大事だと思っています。
営業であっても同じで、クリエイティブの事業を運営している中で、とある社員が、「インサイトを抱きしめる」というのを口ぐせのように言い出したのです。
morich:金谷社長の語録ではなかったのですね?
金谷:もともとは、その勉強会で教えてくれていた講師の方の言葉が心の琴線に触れて、使い始めたのがきっかけでした。
morich:私も使わせてもらおうと思ってメモしました。
金谷:ぜひ使ってください。インサイトを抱きしめながら仕事を進めたら、本当にクライアントに飛びこんでいけますから。
morich:社員にもクライアントにも、家族や友人に対しても、本当にすべてに当てはまりますね。
金谷社長のプライベート
morich:金谷社長のビジネスパーソンとしての魅力は十分に理解できたので、ここからはプライベートも少しのぞいてみたいと思います。
X(旧Twitter)にも書いてありましたが、ゴルフのベストスコアは76だったでしょうか?
金谷:78です。
morich:78というスコアは、普通の人は出ないです。実は、私の大学生の息子は、中学、高校、大学とゴルフをしており、毎日毎日死ぬ思いで打ち込んでいます。それでも70台です。金谷社長は、ビジネスをしながら70台です。
金谷:いえ、上には上がいます。
morich:ゴルフから学ぶものはあるのでしょうか?
金谷:たくさんあります。僕自身は、もともとスコアを追い求めるというよりは、ゴルフというツールでいろいろな経営者をお誘いする中で、その方々と半日一緒に遊んでもらいながらゴルフを覚えていきました。
その中で、いろいろな社会的な地位やそれこそ時価総額や年収など関係なく、ゴルフスコアの良い人は、マウントが取れると思ったのです。基本的にエンジョイする場なので、実際にマウントを取ることはしませんよ。
morich:ただ、スコアが良いとリスペクトされるのですね。
金谷:そうです。「ゴルフ上手だね」もしくは「ドライバーよく飛ぶね」「アプローチ上手だね」「パター上手だね」と、ゴルフスキルのことだけでいろいろな話に広がっていることに気づきました。
そこから「ゴルフちゃんとしなあかんな」と思って打ち込むようになりましたが、それでも100を切れるかどうかの瀬戸際でした。
金谷:ある時、僕は九死に一生を得るような病気になりました。2019年5月16日のことです。
morich:突然病気に罹ったのですか?
金谷:突然ではなく、少し頭が重かったのでMRIを撮ったら、頭の病気というか血管に傷があり、その日に入院しました。3日後に、その血管が割れたのです。
morich:もし検査をそのタイミングでしていなかったらと考えると、非常に怖いですね。
金谷:夜の10時半ぐらいでしたから、普段ならお酒を飲んでいる時間なので、危なかったです。
その大きな病気があり、入院や自宅療養で1ヶ月半ほど戦線離脱するわけです。当時のメンバーには大変感謝していますが、その時は10日ほど寝たきりで集中治療室にいました。
morich:10日間もじっとしているような経験はなかなかないですね。
金谷:僕もありません。だからお尻も小さくなりましたし、人は10日寝たきりになると、歩けなくなります。
リハビリしながらも、暇なので「YouTube」のゴルフをずっと観ていたのです。だから「金谷さん、入院しているのに、社員の誰よりパケット使用量が一番多いな」と思われていたと思います。
morich:「なにしてはるんやろ?」と思われていたでしょうね。
金谷:実はゴルフの勉強でした。そこから復帰して、2ラウンド目か3ラウンド目で79を出したのです。
morich:まったく練習せずですか?
金谷:いえ、リハビリで少しだけ練習しました。
morich:むしろブランクがあったのに、イメージトレーニングは大事ですね。
金谷:いえ、勉強したのはイメージトレーニングというよりは、理論です。「どのようにマネジメントするか」「この時はどのように判断するか」「この傾斜はどうか」というような知識がたくさん入ってきました。それを実践してみたら、本当におっしゃるとおりでした。
morich:では、状況把握とその時にどのような戦略を取るかという、まさにビジネスと共通することだったのですね。
金谷:「知っていること」が活きてスコアに出ましたが、まだ技術が追いついていないので78どまりです。
morich:なるほど、残すは技術だけですね。
金谷:ゴルフボールには番号がいろいろ書いてあるので、残っていれば絶対に77を買うという、少しチャーミングなところもあります。
morich:チャレンジの意味も込めているのですね。そのほか、休日はどんなことをしていますか?
金谷:旅行も好きです。今回は南の島のほうに行ってきました。そこで年甲斐もなくパラセーリングやシュノーケリングもしました。
morich:好奇心旺盛ですね。
金谷:そうですね。釣りも好きです。それも経営者の方を集めて、これも半日一緒に遊んで、釣った魚をさばいていただいて、そこで食べます。このような「体験する」ということに非常に価値を感じています。
morich:お仲間は経営者や起業家の方でしょうか?
金谷:どちらともです。同世代の方が多いですし、ゴルフは年上の方もいらっしゃいます。釣りに行く時は自分より年下の子たちを連れていき、いろいろ経験してもらおうという感じです。
本当に、全方位に動けるボランチで、「行くぜ」というような気持ちでいます。僕がフォーメーションの真ん中にいるので、逆に「俺、どっち向いてんのやろ?」と思うこともあります。
morich:金谷社長をよく知っている方に聞くと「本当に金谷さんがいることによって、いろいろな潤滑油になります」と言っていました。
金谷:本当ですか? それだったらうれしいです。
影響を受けた思想や人物
morich:経営思想や日常の価値観について、金谷社長が影響を受けた方はいらっしゃいますか? 今のオーナーもそうかもしれませんが、どのような方がいらっしゃいますか?
金谷:尊敬する経営者は、稲盛和夫さんです。
morich:私も大好きです。
金谷:稲盛さんと言うとけっこうベタですが、当社のトップも稲盛さんが好きで、まずそこで価値観が合いました。
morich:フィロソフィという面ですね。
金谷:非常に大事です。僕は25歳か26歳くらいの時に稲盛さんの著作に出会いました。とある会社の70歳の人事部長の方が、僕に稲盛さんを教えてくれたのです。
その方は定年を迎えても、その会社の社長から「ずっと残ってくれ」と言われるくらいパワフルな方です。僕が結婚した時にも、個人的にお祝いもしてくれました。
すでに出会いから20数年が経っているのですが、いまだに間違ってLINEを送ってきてくれるくらい、90歳を過ぎても本当に元気な方です。
当時、ある月末の営業日に、その人事部長のところへ広告の企画を売りにいきました。広告を展開していたので、簡単に言えば枠を埋めなければならず、その方にかわいがられていたこともあり、「お願いして決裁をもらうしかない」という思いだったのです。
ただ、20代半ばの僕に対して相手は70歳ですので、僕の考えはすでに見透かされているのです。人事部長は「君のことは好きやけど、君が持ってきたこの商品はまったく好きちゃう」とおっしゃいました。
morich:数字のための営業だったわけですからね。
金谷:そうですね。「数字のためやろ」「ちゃいます、部長のためです」「部長のためって、何のためやねん」「ここで出稿したらボケませんよ」などと、適当なことを言い募りました。そうまでして、僕は広告枠が欲しかったのです。
朝イチで営業に行き、その人事部長から印鑑をもらえたら僕の仕事は終わりなのですが、承諾をもらえずに怒られました。
「ほか行ったんか、君」「行ってないです」「行ってこい」と言われました。結局、広告の申し込み目標数は取れず、夕方18時ごろにまたその人事部長のところに行ったのです。
「すみません、無理でした」と言うと、人事部長は「わかった。じゃあ印鑑押すから、説教する」とおっしゃいました。
そこからは「お前は何のために仕事をしとるんじゃ」と、教えてくれるのです。最初は「何やもう、はよ帰りたいな」と思っていたのですが、本当に、ひたむきに叱ってくれました。
そして、「君はこれを読め」と言って渡されたのが、稲盛和夫さんの『成功への情熱 PASSION』という本でした。京セラを立ち上げて、時流に乗っていく時の物語です。
それを読んだ時に、自分の目標達成や人よりも売上を作ること、ボーナスはいくらになるかなど、そのようなことばかり考えて仕事をしていたことに気づかされました。
morich:20代半ばと言えば、そのように考える年頃ですよね。
金谷:それを、けっこうガツンとどつかれた思いでした。「部長、ありがとう」という感覚です。今の僕があるのは、その人のおかげです。
morich:そのような出会いがあったとしても、それを受け止められるマインドセットかどうかも大事なので、気付きを持てるだけの何かを持っていらっしゃったのだと思います。
金谷:そのほかに影響を受けた人物を挙げるとしたら、戦国武将の武田信玄が好きです。いろいろな逸話があると思うのですが、武田信玄は日本で初めてボーナスを作ったと言われています。
いわゆる「人の心をつかんで、人を動かす」を実践した人物だと思います。がんばった者には褒美を与えるという理念の下に、強いチームを作っていったとされています。
50歳ぐらいに病気で亡くなるのですが、その後天下を取ったのは徳川家康です。実は徳川家康は、武田信玄に1回も勝ったことがありません。
morich:そうなのですね。
金谷:「たられば」はないのですが、組織力を持つ武田信玄が生きていたら、もしかしたら歴史が変わっていたかもしれません。「たられば」の話ですのでまったくあり得ないわけですが、つい妄想の世界を広げて自由に考えてみたくなります。
morich:「最終的に、経営者は歴史に戻る」と言いますよね。
金谷:武田信玄は「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」という名言を残しています。それだけ人を大事にしていたところが、僕の惹かれるタイプです。
morich:武田信玄しかり、稲盛和夫さんしかり、私利私欲ではなく、利他、つまり人のために、という部分が共通していますね。
金谷社長が選ぶ次回のゲスト
福谷:お時間もそろそろ来てしまいました。本当にあっという間でした。まだまだ聞きたいことだらけです。
金谷:僕はまだウーロン茶1杯目ですよ。
福谷:確かにそうですね。
morich:私もこれからまだ聞きたいことがあるのですが、終わりなのですか?
福谷:私も聞きたいことだらけです。ゲスト出演の第2弾もお願いしたい気持ちです。金谷社長のお話をもっとうかがいたいと思います。
morich:みなさま、金谷社長のX(旧Twitter)をぜひご覧になってみてください。また、IR情報のYouTube動画でもヴィスや金谷社長の魅力が十分にわかります。絶対にファンになります。
福谷:今、日本市場の中では、オフィスデザインに留まらず、「はたらき方そのものをデザインする」というコンセプトをお持ちですが、今後はグローバル展開も狙っているとお聞きしています。
また、ヴィスのいろいろな方々とお付き合いしているのですが、本当に温かい人たちばかりです。
morich:社員の方が本当にイキイキと働いており、仕事にワクワクしている感じですので、コンセプトの説得力が強いです。「自分の会社はどうなんだ」という指摘をされた時、やはり自分たちの幸せなくして、お客さまを幸せにできないと思います。ヴィスはそこを体現されていると感じました。
福谷:本当に、聞きたいことがまだたくさんありますので、金谷社長の第2弾を楽しみにしたいと思います。
この番組は、大活躍されている上場企業の社長をお呼びするコンセプトになっています。もしよろしければ、金谷社長のお友だちやお付き合いのある方の中から、次回のゲストをお選びいただきたいと思っています。どなたかいらっしゃらないでしょうか?
金谷:僕と同じくナンバー2から社長になった同い年の経営者で、「串カツ田中」で有名な串カツ田中ホールディングスの坂本壽男社長にお願いしようかと思います。
福谷:「串カツ田中」は大好きです。
morich:近所にもあります。
金谷:「串カツ田中」はコスパがよいので、僕もたまに行きます。
morich:コスパが良すぎて、どのようにして経営されているのだろうと不思議になります。
金谷:坂本社長と知り合ってからはよく行くようになりました。外から見ているだけの印象とまったく違う、「串カツ田中」の進化など、そのあたりの話をぜひ聞いていただきたいです。
僕は事業側、営業のトップでしたが、坂本さんは管理畑、コーポレートのトップでした。僕とはキャラも違いますし頭の中身も違うので、バランスのとれた第2回目のゲストということで良いのではないかと思います。
morich:ありがとうございます。
福谷:ありがとうございます。非常に楽しみです。
本日お聞きしたような話をクローズドな環境でするのも大切ですが、オープンな環境で公にしていくことも、たくさんの人たちを幸せに近づけていくと思っています。またお付き合いいただきたいと思います。
本当にあっという間の1時間になってしまいましたが、これまで出会ったいろいろな方々、また今後出会っていく方々とのご縁の続きというものを、私たちもしっかりと大切にしていきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。
morich:ありがとうございました。楽しかったです。
金谷:ありがとうございました。