主要指標
中山博登氏(以下、中山):アシロ代表の中山でございます。今回初めて個人投資家向けに通期の決算説明会を実施します。貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。
通期の決算についてです。まずは主要指標です。2021年10月期の売上収益は15億5,300万円でした。直近3年間のCAGRは23.1パーセントで成長は鈍化しましたが、営業利益率は20パーセント台を確保することができました。
スライド下部は、弊社の主要事業であるリーガルメディア事業の主要指標です。収益は記載のとおりです。
ストック収益比率に関してですが、リーガルメディアは月額固定の定額料金をいただいているため、弊社ではストックビジネスと呼んでいます。契約初月に初期費用をいただくケースや、別の提携先サービスに送客するケースがありますので、比率としては95.5パーセントとなっていますが、基本的には月次のストック比率は100パーセントと言ってよいと思います。
平均月次解約率(チャーンレート)は、今年の第3四半期には3パーセントほどでしたが、通期で見ると2パーセントとなっています。解約率については、後ほど詳しくご説明させていただきたいと思います。
成長曲線イメージ
当社の今後の成長曲線についてです。これまでもリーガルメディアは年率20パーセントほどの成長を続けており、今後も同程度の成長を継続していきたいと思っています。
派生メディアは新型コロナウイルスによる影響を最も受けましたが、コロナ禍前の水準まで戻ってきています。こちらもしっかりと伸ばしていきたいと考えています。また、1年ほど前から新しく開始したリーガルHR事業についても伸びる余地は大きいと感じています。
そして、新規事業に関して、我々はこれまで主に法律事務所に対するプロダクトを提供してきましたが、今後はリーガル領域で培ったネットワークやノウハウを活かして、法律事務所ではない、対事業会社さまに対してリーガルテックと言われるようなプロダクトを提供していきたいと考えています。
事業内容
事業概要についてです。当社では大きく3つの事業を展開しています。
1つ目はリーガルメディアです。事件分野ごとにサイトを切り分けているのが特徴です。現在は9種類の事件分野を取り扱っており、それらを1つにまとめた「あなたの弁護士」という総合ポータルサイトも運営しています。
2つ目は派生メディアです。リーガルメディアから派生したサービスですので、弊社では派生メディアと呼んでいます。例えば、探偵事務所を紹介するサービス「浮気調査ナビ」は、リーガルメディアの「離婚弁護士ナビ」から派生しています。
「離婚弁護士ナビ」のユーザーの中には、パートナーの不貞行為によって離婚を検討している方もいます。そのため、浮気調査まで一気通貫で対応できたほうがよいと考え、離婚分野から派生して「浮気調査ナビ」を作った経緯があります。
他にも、「キャリズム」という転職支援サービスは「労働問題弁護士ナビ」から派生しています。労働問題で悩みを抱えている方は転職するケースが多いため、転職エージェントを紹介できたほうがユーザーにとってもスムーズだと考え、「キャリズム」を作りました。
3つ目はリーガルHR事業です。これは弁護士の転職支援サービスです。主要事業であるリーガルメディアの顧客には成長意欲の強い法律事務所が多く、送客支援・集客支援をした結果、「弁護士の数が足りない」というお声をいただくケースが多々ありました。そのため、弁護士をご紹介し、一気通貫の成長支援を行うために立ち上げたのがリーガルHR事業です。
弁護士紹介サービス「NO-LIMIT」の他に、直近で「ExE」を新しくリリースしました。これは、社外取締役や社外監査役といったポジションに、弁護士に限らずさまざまな専門家を活用していただくためのサービスです。「ExE」の規模はまだ小さいため、リーガルHR事業は弁護士転職支援だとご理解ください。
スライド右上にある売上収益構成について、2020年度から2021年度にかけて、リーガルメディアは引き続き成長を確保できました。しかし、派生メディアは新型コロナウイルスの影響を受け、減収となりました。
通期の全社実績では増収となっており、創業以来最も辛かったと言っても過言ではない年ではありましたが、全社的にはそういった環境でも何とか成長を確保できた年でもありました。
ビジネスモデル
ビジネスモデルについてです。スライド右側のユーザーは、インターネットから当社サイトに流入してくる一般ユーザーとなります。リーガルメディアにおいては、記事の閲覧や弁護士への相談などのほとんどのサービスを無料で使うことができます。
スライド左側は弊社の顧客です。リーガルメディアでは、初期手数料を頂いていますが、基本的には月額定額の掲載料収入で構成されています。露出量や問い合わせ数などにかかわらず、月額固定金額をいただくのがリーガルメディアのビジネスモデルの特徴です。
派生メディアについては、ユーザーが無料で使える点は同じですが、収入は成果報酬制です。例えば転職エージェントを紹介する場合は、その会社にユーザーが登録して初めて弊社へのフィーが発生します。そのため、登録が発生しない限りフィーが発生しない成果報酬モデルである点が、リーガルメディア事業と大きく異なります。
リーガルHR事業は人材紹介事業、転職エージェント事業ですので、弊社サービスに登録いただいた方を企業や法律事務所へご紹介して、入社までフォローしています。入社した時点で、転職者の方の年収の何割かをフィーとしていただくモデルになっています。
リーガルメディアの高い参入障壁
主要事業であるリーガルメディアについて、2つの点で非常に高い参入障壁があるのではないかと思っています。1点目は、法律の規制があるため成果報酬モデルを採用できない点です。
成果報酬モデルであれば、「成果が出るまでは掲載は無料ですので載せませんか?」と営業をかけられるため、顧客獲得の難易度はあまり高くありません。しかし、月々の固定料金がかかるビジネスモデルでは、一定レベルの信用がなければ掲載まで持っていくのは困難です。また、1件ずつ開拓していく必要があるため、一気にビジネスを拡大し、参入するのは非常に難しい領域です。
2点目は、開発コストが非常に高い点です。法律に関するコンテンツを掲載しているため、しっかりとした体制でリーガルチェックを入れる必要があります。そのため、マーケティングの観点から見ても、一つひとつのコンテンツを開発するのに非常に大きなコストがかかっています。これらの営業やマーケティングといった観点のどちらから見ても、リーガルメディアの参入障壁は高いと考えています。
当社顧客基盤及び市場のポテンシャル
リーガルメディアの市場規模とポテンシャルについてです。前期末の時点で、596件の法律事務所と契約を結んでいます。しかし、全国には1万7,417件の法律事務所があり、我々と取り引きがあるのは全体の3パーセントほどです。そのため、開拓の余地はまだまだあると考えています。
スライド右側には、弁護士報酬の推移を記載しています。弁護士数の増加とともに弁護士報酬市場も上がっているため、市場規模の観点から見ても追い風が続いていくと考えています。
弁護士数の増加基調の継続
先ほどお伝えしたとおり、弁護士の数は増え続けています。プレーヤーの数が増えるということは、競争が激化することでもあり、弁護士に相談したいという相談者の獲得にかかるコストが増加します。そのため、当社にとっては追い風の事業環境が続くことになります。
企業内弁護士数の増加
また、常に一定の割合で転職される方がいらっしゃると考えると、弁護士の総数が増えれば増えるほど転職する弁護士の数も増えます。そのため、転職支援という観点で見ても、当社にとって追い風が続くと思っています。
競合他社との比較 〜定性・定量比較〜
競合他社と比較した、我々の特徴をご説明したいと思います。我々のサービスは、基本的にGoogleの自然検索や広告からの流入が非常に多くなっています。逆に言いますと、ニュース記事などから我々のサイトに来る方は少なく、能動的に法律家を探している方が多いと想定しています。そのため、ユーザー特性としては、法律問題の関心が高い傾向にあります。
掲載単位は弁護士個人ではなく、法律事務所単位となっています。平均顧客単価は17.8万円で、ARPUが高い点も特徴です。
サイト数に関しては、事件分野ごとに区分した9つのサイトと1つの総合ポータルサイトの全10サイトあります。このようにサイトを分散させて作っている点も、競合と比べて非常に特徴的な部分だと思っています。
競合他社との比較 〜掲載顧客数の増加率比較〜
スライドの折れ線グラフでは競合A社との比較を記載しています。コロナ禍において若干苦戦したものの、当社が掲載顧客数を伸ばし続けていることがご理解いただけるかと思います。
21年10月期 通期決算サマリー
通期決算のサマリーについてです。通期では増収・増益で着地できました。
先ほどお伝えしたとおり、リーガルメディア事業は若干の増収となり、派生メディア事業は新型コロナウイルスの影響を受けて前期比26パーセント減となりました。リーガルHR事業は前年の事業規模が小さかったため、非常に大きな成長率となっています。全社では上場費用などがかさみ、一時的なコストが増加しました。
21年10月期 通期予算進捗率
17ページは、予算に対する達成率です。成長しづらい1年ではありましたが、予算以上の数字で着地することができています。
事業別売上収益(四半期推移)
四半期の事業別売上についてです。リーガルメディアがしっかり伸びている点が特徴的かと思っています。
派生メディアの推移をご覧ください。2021年の第1四半期の売上収益は6,900万円でしたが、2021年の第4四半期には1億900万円となっており、コロナ禍以前の水準に戻りつつあります。
また、営業利益ベースで見ると、派生メディア事業は過去最高益となりました。コロナ禍の中にあっても、筋肉質なサイト、プロダクトにすることができた年でもあったと思います。
ストック収益/ストック収益比率(月次推移)
ストック収益比率についてですが、リーガルメディアの月額定額の掲載料収入が弊社にとってのストック収入となります。ストックが伸び、派生メディアも若干戻りつつある結果、ストック収益比率はそこまで大きく変わらず65.7パーセントとなっており、非常に安定的な収益構造になっているとご理解いただけると思います。
コスト構造(四半期推移)
コスト構造について、特にご覧いただきたいのが2021年第4四半期の外注関連費用です。同費用は5,600万円ほどで、通期で見ても非常に高い数字となっています。この内訳ですが、すでにリリースしているカイラス少額短期保険会社の子会社化に向けたデューデリジェンス費用が一時的に伸びたということと、リーガルメディアのブランディングマーケティング戦略における一時的な投資、コストとなります。
ただし、これらは一過性のコストですので、今期の第1四半期については、平常時の2021年の第3四半期や第2四半期のコスト感に戻るのではないかと考えています。
営業利益(四半期推移)
営業利益に関してですが、2021年の第4四半期は外注費をかなり増やすなど、戦略的に投資した四半期となりました。それでも営業利益率22パーセントを確保しているというのは、より強い利益体質になっているとご理解いただけると思います。
事業別営業利益(四半期推移)
先ほどもお伝えしましたが、営業利益については、通期で見ると派生メディアが過去最高を達成しましたが、四半期単位で見ても、第4四半期の営業利益が過去最高となっており、今期に向けて非常に強い滑り出しと、よい締め方となりました。滑り出しからの好影響を受けて、よい数字感でいけるのではないかと考えています。
21年10月期 4Q事業ハイライト
2021年10月期のハイライトですが、リーガルメディアは比較的順調です。しかし、認知度を高めるブランディングにまだまだ課題があると感じており、そこに対する投資を第4四半期で行いました。
派生メディアに関しては、市場が戻ってきたところで、我々がより筋肉質なプロダクトをしっかり作り上げながら、今年はマイナス分を取り戻す1年になると思います。
リーガルHRについては、登録者数が前年同期比で約2倍弱となっており、非常に順調と言えます。前期に関しては、通期で黒字というわけにはいかなかったのですが、今期は、単体の事業でも黒字を狙っていけるほどの規模になってきていると考えています。
【リーガルメディア】顧客数及び解約率
リーガルメディアの解約率に関してです。ストックビジネスですので、チャーンが発生します。第3四半期は3.1パーセントという非常に高い解約率が出たため、既存の株主にはご心配をおかけしてしまいました。しかし通期で見ると解約率は2パーセントですので、第3四半期を除くと平時は1パーセント台の解約率です。顧客満足度を意識しながら運営した結果、解約率を2パーセント以下にできたのだと考えています。
第3四半期の解約率3.1パーセントがイレギュラーな数字ですので、通常は1パーセント台の解約率というのが弊社のサービスと考えていただけたらと思います。
【リーガルメディア】掲載枠数(各四半期末時点)
リーガルメディアにおける重要なKPIは、顧客数というよりは掲載枠数となります。1つの法律事務所が「離婚案件を手掛けたいし、相続案件も手掛けたい」という場合、1つの事務所で2枠の掲載になります。契約単位としては枠単位で販売していますので、枠と売上には相関関係があります。枠が増えれば売上は上がっていると思っていただいて問題ないため、掲載枠数が重要なKPIとなります。
(参考)リーガルメディアの掲載枠数と解約率の関係模式図
スライドは、掲載枠数と解約率の関係の模式図です。スライド中央の左側にある「1,402」という緑色の数字は、前期第2四半期末段階での掲載枠数です。3.1パーセントの解約が出たというリリースを出していますが、第3四半期末は、解約の枠数よりも我々が獲得した枠数が多かったため、3.1パーセントの解約が出ても、枠数は純増で着地しています。
解約率の若干の上下はありますが、四半期単位で枠数が伸びていることが重要です。解約率もしっかり引き下げてまいりますが、3.1パーセントといったような解約率が出たとしても掲載枠数を増やしていくことは困難ではないと考えています。
(参考)リーガルメディアの収益モデル
何度もお伝えしているとおりですが、リーガルメディアにおける一番重要なKPIは掲載枠数であるということを表しています。
【派生メディア・リーガルHR】問い合わせ数及び新規登録者数
派生メディアに関しては問い合わせ数が重要です。問い合わせ数に応じて、我々の収入も発生するためです。
2021年は減収となりましたので、問い合わせ数が下がっています。しかし第4四半期を切り抜くと、問い合わせ数は2020年より2021年のほうが増えているため、以前の状態に戻ってきているとご理解いただけるのではと思います。
リーガルHR事業に関しては、転職を希望される方の登録者数が重要です。登録者数も同じ時期で比較した場合、約1.8倍となっています。登録者が増えており、順調と言えます。
(参考)派生メディアの収益モデル
派生メディアに関する重要なKPIは問い合わせ数であるということを表しています。
(参考)リーガルHR事業の収益モデル
リーガルHR事業に関して、検索経由・広告経由の新規登録者数が重要なKPIとなります。
22年10月期業績予想①
業績予想については、今期18.6億円という数字を出しています。
2017年から2020年の実績で見ると、我々は約30パーセントの成長率を続けていますが、今回はそれより下がって成長率は20パーセントです。
こちらに関しては、オミクロン株を含め、コロナ禍の影響がまだ読み切れないため、株主の期待にしっかり応えていきたいという思いを込めて、着実に達成できるであろう数字を予算としてお出ししています。我々としては、コロナ禍前の成長率に必ず戻していきたいと思って尽力しているところです。
22年10月期業績予想②
成長の内訳ですが、リーガルHR事業の成長率79.1パーセントが目立ちますが、事業規模がまだ小さいことから高くなっています。
その他に関しては20パーセント弱で、先ほどもお伝えしたとおり、着実に達成できるであろう数字を予算として出しています。以上が当社からの説明です。
質疑応答:世界観、創業時の思い、社名について
馬渕磨理子氏(以下、馬渕):まず、私から質問させてください。今年上場されたばかりですので、初めてご覧になる方もいると思います。ぜひ御社の目指す世界観、創業時の思い、また、アシロという社名にも意味があるとうかがっていますので、そのあたりについて聞かせてください。
中山:まずアシロという社名についてですが、これは、世界の最も深い場所で生存が確認されたヨミノアシロという深海魚に由来します。これを選んだ理由は2つあります。1つは理念でもありますが、「我々に関わってくださった方に、だれよりも『深く』幸せになっていただきたい」という意味と、ビジネスモデルとしても「移り変わりの激しいビジネスモデルよりも、インフラとしてのプラットフォーム、最も『深い』部分でビジネスができるプラットフォームになるような事業を数多く展開していきたい」という思いを込めています。
質疑応答:掲載枠数と顧客数について
馬渕:御社を見る上で、投資家にとって注目すべきKPIがありました。我々はリーガルメディアにおける掲載枠数を見ればよいということでしょうか?
中山:おっしゃるとおりです。
馬渕:顧客数を拝見すると、御社は2019年から50パーセント増ですが、競合他社では10パーセントにとどまっています。このことは、競合にない御社の強みではないかと思います。顧客数が伸びている理由について、どのようにお考えですか?
中山:いろいろな要素があると思います。まず、我々の理念に関わってくるところですが、顧客満足度を常に意識した事業運営を続けてきたことが土台にあります。具体的に何をするのかと言いますと、質の高い問い合わせを、数多く送客することが非常に重要になってくると思います。
また、我々にはカスタマーサクセスという部門があります。例えばの話ですが、長野県で法律事務所さまから、「『離婚弁護士ナビ』に載せたいんだ」と仰っていただいたケースでご説明します。
その長野県のお客さまとしてはこれまでのやり方を踏襲し、相談者さまから初回相談料を取らないわけにはいけないというご希望があったとします。営業の観点としては当然契約を取りたいと考えるのですが、カスタマーサクセスの観点としては初期費用や初回相談料をいただくといった広告の出し方ではうまくいかない可能性が高いと見込まれる場合、最初から契約しないケースもあります。
したがって、「法律事務所としてどのような経営戦略を立てたほうがよいのか?」「この分野であればどのような強みを活かしたほうがよいのか?」といった提案まで行っています。単純に、「載せればおしまいですよ」というのではなく、載せた後も「このようなところを強く出していきましょう」「この分野はこのように打ち出しましょう」と提案しています。
そのような細かい提案からフォローまで、カスタマーサクセスがしっかり対応しています。そしてお客さまの声を聞き、相談内容をマーケティングにフィードバックしています。それをマーケティングがPDCAサイクルに落とし込み、契約期間中に極力ご満足いただき、解約を抑えられるようにしています。
馬渕:単純に掲載するだけではなく、顧客がより満足できるかたちで、コンサルティング的な側面からも取り組んでいるということですね。
中山:そうですね。法律事務所さまのお邪魔にならない程度に、「マーケティングはどうすればいいのか?」「どういう体制で行わなくてはいけないのか?」といった観点で成功事例などを共有させていただき、我々と関わってよかったと言ってくださる事務所を増やしていきたいと考えています。
馬渕:信頼関係を築かれていると、数字にもよい影響が出るというわけですね。
中山:課題もありますが、我々としては、やはりお付き合いさせていただいた法律事務所さまには「アシロと付き合ってよかった」と言っていただきたいという思いがあります。これは全社員が持っている共通の価値観だと考えています。
質疑応答:解約率について
馬渕:スライド25ページの解約率についてです。私が拝見した時は、季節性のようなものなのか、波があるように感じました。このようにボラティリティが常に発生するものだと思っていたのですが、そうではなく、基本的には2パーセント以下に収まるという見方でよろしいでしょうか?
中山:そのとおりです。通常の状態であれば2パーセント以下ですが、これでも我々としては高いと感じています。3パーセント台が出た時は、季節性ではなく、一部の大口顧客の広告におけるチャネルの見直しが行われたことが影響しました。
解約の理由は主に2つあり、1つは効果不足です。我々がどれだけ広告効果が出そうだと思っても、契約期間中に相談者から依頼を受けられなかったということは当然ながらあります。
もう1つは事件数が増えすぎて、もうさばけないといったものです。一時的に広告を停止するという対応となります。その年の四半期における解約から、再び掲載を再開して戻られる枠数を除いた数字がネット解約率ですが、これを見ると、戻ってこられる事務所が多いことがわかるかと思います。
解約率が3.1パーセントとなった際は、大口の顧客が広告戦略の一環として、例えばテレビ、新聞、Googleへの直接出稿など、いろいろなチャネルを試してみたいということでいったん停止され、異なるメディアを試される中で生じた解約となっていますので、こちらの解約が再び戻ってくる可能性も十分にあると考えています。
馬渕:解約後の再契約がある程度あると理解しました。繁忙期が過ぎれば「また載せたい」となるということですね。
質疑応答:派生メディアのコロナ禍からの回復について
馬渕:派生メディアについて、今非常に筋肉質なメディアに生まれ変わっているということですが、転職メディアと探偵メディアはどちらも回復してきている認識ですか?
中山:そのとおりです。どちらも戻ってきていますが、特に強く戻ってきているのは転職メディアです。
我々のクライアントである人材紹介会社の広告出稿量がコロナ禍前の水準に戻ってきているため、特に転職メディアは強く戻ってきていると実感しています。
馬渕:コロナ禍が最悪期を脱した状況も影響していますか?
中山:人の動きは変わってきていると実感しています。
質疑応答:弁護士法第72条による規制について
馬渕:私自身の理解が及ばなかったところをお聞きします。リーガルメディアの参入障壁の高さが御社の強みの1つだと思います。普通のアフィリエイトを行うと違法になってしまうのですか?
中山:おっしゃるとおりです。より大きなところでは、例えば弁護士に相談者を紹介して、「この相談者から弁護士が100万円を貰えたため、紹介料として30万円ください」ということは完全に違法なのです。
これは弁護士法第72条の決まりですが、弁護士以外の方が法律家に対してそのような斡旋や周旋をする行為というのが、法律でNGになります。そのため、成果報酬もその違法のニュアンスが非常に高くなりますので、「現状の法律では、成果報酬は駄目です」というのが一般的な見解です。
馬渕:そのために定額で取るかたち、つまりストック収入のビジネスモデルになっているのだと理解しました。
中山:はい、成果報酬はできないということです。
質疑応答:新たな派生メディアの可能性について
馬渕:「今後、新しく派生していく分野や、これから柱になっていく分野のイメージはありますか?」というご質問です。
中山:まず派生メディアの考え方として、基本的に「ユーザーの利便性を高めたい」という思いから派生していったことを理解いただきたいと思います。
我々のサイト上で、例えば「相続を完了された方々は、次にどのようなことに悩まれるのか?」「どのようなことが一気通貫でできればよいのか?」などと考えます。そのような分野ごとに「ユーザーは、こんなことを追加で行うケースが多い」というところから、我々が効率よく参入できる領域に派生していく可能性が非常に高いと思っています。
我々が扱う分野とはまったく関係ないメディアは、我々も競争優位性を活かしづらいため、積極的に参入していく可能性は低いと思います。
馬渕:常にシナジーが生まれるような横のマーケットを狙っていく考え方だと理解しました。
中山:そのとおりです。
質疑応答:広告などのマーケティング戦略について
馬渕:ブランディングにコストをかけられたというお話がありましたが、今後、メディアでの認知拡大やマス広告などのマーケティング戦略は考えていますか?
中山:もちろん検討しています。難しい点としては、例えば、プロモーションを行ってユーザー数が増えれば売上が上がるということがわかっていれば、基本的にはマス広告は打ちやすいものになります。
我々の事業の場合、マス広告を打てばユーザー数は増えると思いますが、ユーザー数が増えても結局は開拓しないと売上は上がっていきません。ここに若干のズレがあるため、マス広告を打つ時は「大丈夫かな、売上が付いてくるかな」といった緊張感があります。
ユーザー数と売上の相関関係が取りづらい領域になりますので、マス広告を打つことはもちろん検討し、その可能性もありますが、ある程度のデータや根拠に基づいて「いける」と判断した時になると思います。
馬渕:開拓というのは、法律事務所のことですか?
中山:そのとおりです。
馬渕:そちらはやはり足で稼ぐということですか?
中山:稼がざるを得ないです。例えば「ユーザー数が10倍になりました。だから今すぐ10倍取ってください」と言われても、営業の数が変わっていないため、一気に10倍開拓することはできません。
投資してから回収までに時間がかかるため、一気に投資するのは難しい部分もあります。もちろんやっていかなければいけないこともあるので、検討はしています。
馬渕:御社はユーザーと法律事務所のどちらも見なければならないのですが、先に法律事務所の開拓を十分にしていくと、ユーザー数も自然に付いてくるという理解でよろしいですか?
中山:おっしゃるとおりです。
質疑応答:日本人の法律問題への意識について
馬渕:「日本もアメリカのように訴訟社会になっていくことを想定されているのですか?」というご質問です。
中山:我々としては、世の中全体の流れとして法律というものをより身近にし、法律サービスを味方にしてもらいたいと考えています。
「訴訟が増えてほしい」とは思っていませんが、法律問題に悩んでいる方が、あまりハードルや敷居を感じずに、法律の専門家の方々に相談できる世の中を作っていきたいと考えています。「訴訟社会になっていくかどうか」はわかりかねますが、そのように敷居は下げていきたいと考えています。
馬渕:確かにそのとおりです。法律問題は、個人的には心理的障壁が高いイメージがありますが、簡単に使えるようになるとよいですね。
中山:自分の悩みや不満、不安を専門家に相談することで間違った判断も減るため、もっと気軽に相談できる世の中になってほしいと思っています。
馬渕:インターネット上では間違った情報などもたくさんあるため、専門家に聞ける世の中になっていくほうがよいと思います。
中山:「いったん聞いたほうが良い」ということは多いかと思います。
質疑応答:中長期的な売上成長率について
馬渕:「売上成長率について、中長期的にはどのように想定されていますか?」とのご質問です。先ほど、CAGRが約30パーセントの成長を続けているというスライドもありました。
中山:目線としては先ほどお伝えしたとおり、コロナ禍前の水準のCAGR30パーセントの目線感は社内で持ちながら、しっかりと日々チャレンジを行っていきたいと思っています。
質疑応答:上場の経緯について
馬渕:「あらためて上場の経緯を教えていただけますか?」というご質問です。
中山:2016年に投資を受けまして、株主とコミュニケーションを重ねる中で、ベストなタイミングを見計らっていました。我々としては、上場することにより、2つの大きな課題を少しずつ解決できることを期待しています。
1つ目の課題は採用です。優秀な方を採用していきたいという考えで、採用力の強化を期待しています。もう1つの課題は認知度です。リーガルメディアの認知度の向上を課題として感じていました。
これらを解決するべく、ガバナンスや内部統制などを踏まえて、「このタイミングであれば上場できるんじゃないか」というのが今回のタイミングになった経緯です。
質疑応答:リーガルHR事業における職種拡大について
馬渕:3つ目の事業としてリーガルHR事業があります。現在、こちらでは弁護士の人材紹介を行っていると思いますが、ここで取り扱う職種は増やしていく見通しですか?
中山:弁護士以外に公認会計士の人材紹介も始めることを考えています。公認会計士と弁護士について、事業会社に転職される際にはどこに転職されるかと言いますと、弁護士であれば法務、公認会計士・税理士であれば財務もしくは経理が一般的かと思います。
この法務と財務・経理に共通するのが、管理部門となります。そのため、我々としては、「管理部門の求人ニーズ」が非常にヒアリングしやすい営業体制となっています。今後、派生していくとすれば、管理部門の職種は派生させやすい状況になっていると思っています。
馬渕:企業内弁護士というものもありますが、そちらの企業の開拓も御社は行っていますか?
中山:リーガルHR事業の売上の比率としては、8割が法律事務所から法律事務所への転職になります。残りの2割が、実は法律事務所から事業会社、一般企業へ転職されるケースとなっています。すでに事業会社との取引はかなり出てきており、年々「企業内でも弁護士を活用していこう」という動きが増えています。我々もその波に乗っているということです。
馬渕:その延長線上に管理部門があるため、公認会計士と相性がよいと考えられているのですか?
中山:そのとおりです。さらに管理部門の人事や総務は求人に関してもヒアリングしやすく、参入していく可能性はあると思っています。
質疑応答:株主還元策の検討について
馬渕:「御社はまだ上場されたばかりなのですが、今後、株主優待や配当は検討されているのでしょうか?」とのご質問です。
中山:検討していかなければいけないと思っていますし、こちらは投資家との対話が重要であるとも思っています。「事業を伸ばすところに投資をしていったほうがよい」という声もある一方、「配当や株主還元をしたほうがよい」という声もあると思います。そのような声をしっかりと聞きながら、十分に検討していきたいと思っていまして、まったく考えが無いということではありません。
質疑応答:上場後、社内の変化について
馬渕:今年上場されたばかりですが、何か上場されて変わったことはありますか?
中山:まず、上場時に株価が低迷しており、上場してから毎日胃が痛む思いをし続けているのが率直なところです。
なんとか払拭できるように、「期待に応えられるだけの事業を絶対に行おう」ということで社員一同取り組んでいます。非常に申し訳ないと思っています。
「我々に関わってくださっている方を幸せにしたい」という理念を持って事業を行っているため、なんとか株価の面でもお返ししたいと考えています。まずは事業をやりきるしかないという考えで、しっかり事業を伸ばすことに集中していますが、胃が痛い状況です。
馬渕:業績自体は着実に成長しているため、これからは認知度などが影響してくると思っています。
中山:株価が上がるのであれば、いろいろなところに出て行きます。
中山氏からご挨拶
中山:あらためまして、本日はお忙しい中ありがとうございました。
先ほどお伝えしたとおり、上場時から株価が上手く上がっていないことはありますが、事業に関しては説明どおりでございまして、派生メディアについては前期の第4四半期でコロナ禍前の水準に戻りつつあり、利益率も非常に改善してきています。
リーガルメディアに関しては、コロナ禍の影響をそこまで大きく受けずに比較的順調に成長してきています。リーガルHR事業に関しても、通年で単体での黒字も見えてきており、事業サイドとしては、しっかり成長させていきたいと思っています。
短期的に、株価はなかなか上手くいかないところもありますが、我々としては、事業を必死に行い、株主価値の最大化にしっかりと貢献していきたいと思っています。引き続き、長い目で応援していただければ嬉しいです。