株価と営業利益の推移

富田真司氏(以下、富田):みなさま、こんにちは。デクセリアルズの富田でございます。本日はご視聴いただき、ありがとうございます。お時間が限られていますが、このプレゼンテーションが、少しでも当社に対する関心を持っていただくきっかけになればと思っていますので、よろしくお願いいたします。

当社の現状についてです。2015年7月の上場から、現在までの株価と、毎年の営業利益をチャートにしたものです。パッと見ておわかりいただけますように、株価と業績がリンクしていますが、ご注目いただきたいのは2019年、2020年です。

これは当社の「中期経営計画2023」が始まった2年間ですが、この直前の2019年2月に社長の世代交代を行い、経営体制を刷新しました。そうした新体制の下、この「中期経営計画2023」をスタートして約2年が経ちます。みなさまもご存知のとおり、この間にものすごく大きな、想定もしていなかったような変化がたくさん起きていますが、我々はこの中期経営計画で立てた戦略に基づき、2年目に入った今年も取り組みを続け、その結果として、業績は回復基調が続き、株価も2019年3月末からここまでは約8割のリターンで、新型コロナウイルス前を上回る水準にあります。

本日は、当社の事業概要に加えて、回復の背景にある我々の中期経営計画や取り組みといったところもご説明させていただければと思います。

当社概要

富田:本日は、当社の概要、中期の取り組み、そして株主還元についてお伝えします。当社の概要についてですが、一言で言うと、市場はニッチですが、世界的に見て高いシェアを持つ電子材料、光学材料、我々はそれらを機能性材料と呼んでいますが、これらを製造・販売しているメーカーです。

スライドの左側をご覧ください。当社は売上が約600億円、資本金が約160億円で、東証一部に上場しており、時価総額にして800億円強の会社です。

スライドの右側をご覧ください。当社の経営理念は「Integrity(インテグリティ) 誠心誠意・真摯であれ」です。お客さまから信頼されるパートナーとして、何ごとにも一生懸命、真摯に対応するという、我々の心のよりどころのような言葉で、社員一人ひとりが大切にしているものです。

また企業ビジョンは「Value Matters 今までなかったものを。世界の価値になるものを。」です。常に新しいもの、新しい価値を作り続け、さらにお客さまの期待を超えるような価値、製品をお届けしたいという、我々のありたい姿を示しています。

社名についてですが「Dexerials(デクセリアルズ)」という、少しわかりにくい、聞き慣れない言葉です。前半の「Dexterous(デクスタラス)」は、「巧みな、機敏な」という意味の言葉で、後半の「Materials(マテリアルズ)」は、「材料・素材」を表しており、この2つの英単語から作られた造語です。

言い換えると、お客さまの課題やニーズを一生懸命考えて、高い技術力に基づいた解決策をスピーディーに提供し、お客さまの期待を超えるような製品・価値を提供する会社でありたいということです。

沿革

富田:当社の沿革を示しています。設立は1962年で、もともとはソニーの化学材料を担当する子会社として設立されました。以降、ソニー内外に化学材料部品を製造・販売するようになり、1987年にはソニーケミカルの名前で東証二部に上場していました。

そのあと、ソニーの判断で一旦100パーセント子会社に戻って上場廃止となりましたが、2012年にソニーから独立して、社名も今のデクセリアルズに変えて事業を開始しています。その3年後の2015年に東証一部に上場しています。

デクセリアルズとしては8年目の会社にすぎませんが、実際には50年以上にわたり、スライドの下にも記載のとおり、ユニークで特徴のある製品をいくつも生み出しながら成長を続けてきました。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):2002年以降、今は主力になっている商品を開発されているということで、ソニーの判断で一度は上場廃止されていますが、その頃の事業環境の変化はどのようなものだったのでしょうか? おそらく、その変化に合わせて商品を開発されたと思いますので、そのあたりを教えてください。

富田:もともとソニーの子会社として始まりましたので、昔の小さなラジオ、薄いラジオなど、いわゆる日本の電化製品を象徴するような製品に使われる電子材料を作るのが我々の役目でした。

その製品が進化してきました。最初はラジオという「音」を扱うものでしたが、次に「映像」が入ってきて、その中で、求められる部材もどんどん変わってきました。現在、我々はディスプレイに使われる光学材料を多く扱っていますが、「音から映像へ」となった時に、我々の活躍の場も大きく広がったと考えています。

事業内容

富田:現在の当社の事業概要をご説明します。円グラフで2つに分けていますが、左側の電子材料部品、右側の光学材料部品という2セグメントで開示しています。

ご覧いただいている製品は、それぞれのセグメントで代表的なものをあげていますが、このほかに多種多様な製品を製造・販売しています。

我々の製品は、スマートフォン、タブレット、パソコンといったコンシューマーIT製品向けに多く使われています。これらの製品の製造が、今はほとんど海外で行われているため、我々の海外売上高も全体の6割強となっており、海外に多くの拠点を持ってグローバルに事業を展開しています。

こんなところに、デクセリアルズ

富田:我々の製品がどういったものに使われているかをご説明します。スライドの左側に「オフィス・学校」とありますが、例えばノートパソコン、タブレット、スマートフォン、もしくはプロジェクターといったところに我々の製品がたくさん使われています。

スライドの右にある「住まい」では、今お伝えしたようなコンシューマーIT製品やテレビに加え、日曜大工で使う電動工具、コードレス掃除機や自走式の掃除機などにも入っています。また、洗面化粧台の鏡の表面に塗られる樹脂なども我々の製品です。

坂本:その樹脂は、鏡が曇らないようになるというものですか?

富田:はい、曇りにくく、汚れが付きにくいという特長を持っています。またスライドに「自動車」とありますが、ここはご覧のとおり、メーター部分です。これまでの針のものから、徐々に液晶ディスプレイに変わってきていますが、そのディスプレイ周りのものです。

また最近のカーナビは、カーナビ機能だけでなく、画面も大きくなってきていろいろな情報が載るようになってきていますが、我々の製品もそこで多く使われるようになってきています。

さらに「医療関係施設」とありますが、医療に従事されている方々を守るアイシールドの材料などを提供しています。まだまだたくさんあるのですが、当社の製品・技術はさまざまなシーンでみなさまの暮らしや産業をしっかり支えています。

デクセリアルズのこだわり − 1

富田:こうしたビジネスを展開する上で、我々が特にこだわっている点がいくつかありまして、ここで紹介させていただきたいと思います。

「デクセリアルズのこだわり」と記載していますが、1つ目として、主力製品はニッチな市場で世界シェアNo.1ということです。我々は、変化の激しい世の中で、お客さまの課題を解決するために一生懸命考えて、高い技術力で機能性材料を生み出し、スピーディーに提供してお客さまに喜んでいただくことによって、世界シェアNo.1のユニークな製品をいくつも生み出す、ということにこだわっています。

スライドでご覧いただいているものは代表例ですが、左側が液晶、もしくは有機ELなどのいわゆるディスプレイの絵を動かす駆動ICという半導体の実装材料「異方性導電膜(ACF)」で、業界のデファクト・スタンダード製品として、世界中でこの材料が使われています。

また、極めて反射率の低い反射防止フィルムも作っています。例えばこれが自動車に入ると、ディスプレイに当たる朝日や西日を抑制してしっかり見えるという効果はもちろん、さらにはスライドの右側にある、光の映り込みも抑えながらディスプレイの貼り合わせを行う粘着剤「光学弾性樹脂」という製品でも、世界シェアでNo.1を維持しています。

ご参考までに、この3製品の売上の合計が全体の6割を占めており、比較的安定した売上を維持できていると考えています。

デクセリアルズのこだわり − 2

富田:こだわりの2つ目についてです。こうした世界シェアNo.1の製品を作り出すために我々がこだわっていることをご説明します。ポイントとしては、スライド左側の「ユニークな顧客アプローチ」「対話力×提案力」「技術力×分析力」「スピーディーな顧客対応」の4点です。

スライド右側が我々のビジネスモデルでして、大まかには我々が原材料を買ってきて、お客さまにアプローチして、最後に使っていただくといった流れなのですが、これを使ってご説明します。

まず、「ユニークな顧客アプローチ」についてです。通常、我々のお客さまは、我々の製品を購入して使っていただく、いわゆる「直接顧客」です。スライドにあるようなディスプレイメーカーさま、組み立てメーカーさま、また自動車業界では電装品メーカーさまが直接顧客です。

我々の特徴は、その先にある完成品、最終製品メーカーにも伺って、お客さまのニーズや課題を聞き出すことです。そこから我々が新しい製品を開発して提案し、お客さまに評価をいただいて、結果として実際に製品を量産する時に、最終のお客さまから当社の部材を使用するよう指定していただけるわけです。

直接のお客さまに喜んでいただくということは行っていますが、それだけではなく、その先のお客さまから「当社製品を使ってください」という指示をいただくことが、我々のビジネスをより確かなものにしているのです。

坂本:最近の化学品も半導体も、徐々に高性能化しているため、材料が変わるだけで最終製品が変わるということもあるのですか?

富田:そうですね。またその逆も然りで、製品が変わるたびに新しい素材を使って試したいということで、それに合わせた材料を考えて提供することにしています。

坂本:企画といいますか、製品を作る前から一緒に取り組まれているということなのですね。

富田:そうなのです。最終のお客さまの企画段階から入り込み、どういったものを作りたいのかを聞き出して、それを社内に持ち帰ります。そうすると、そのお客さまでさえも気がつかないような技術的課題が出てきます。我々は、それを解決するものを製品として提案するわけです。

ここまでさせていただくことで、お客さまからは「これは気がつきませんでした」ということで「いいね」をいただける、という仕組みになっています。

もちろん、直接のお客さまに対しても同様です。一度提供したものは「それで終わり」ではありません。お客さまが使いやすいように、当社の製品を使った作り方を提案し、さらにはお客さまの製造工程での生産性を向上させるような改良品、例えば歩留まりを高めたり、もしくは製造時間を短くするような改良ポイントがいくつもあります。

私たちは、お客さまの工場に行き、製造工程をきっちり調べ上げて、どういうところが改善ポイントなのかを踏まえた上で提案して、直接のお客さまにも「いいね」をいただく、つまり両方のお客さまから信頼をいただくようなビジネスの仕方です。これが「対話力×提案力」です。

次が、このような対話や提案をするのに不可欠な技術力の部分である「技術力×分析力」です。我々も材料メーカーとして、新しいものを作り出すための材料技術や、それを作るためのプロセス技術はもちろん、それを実際に作ってみて、しっかりできているかという分析、解析の技術です。

もしくは、「それを行ったらどうなるのだろう」というシミュレーションや評価技術も自前で持っており、すべてのプロセスを内部で完結できるようになっています。こうした技術力の結集が、スムーズかつスピーディーなお客さま対応の肝の1つになっています。

我々のエンジニア部隊の約8割は栃木の事業所に集結して、カテゴリの枠を超えて連携してスムーズに対応できるような仕組みにしています。

そして「スピーディーな顧客対応」についてです。お話ししたとおり、カテゴリを超えた部門間の連携はもちろん、海外にいるお客さまへの対応も「1秒でも早く」というニーズが常にあります。そこで、我々は国内だけではなく海外にも営業やエンジニアリングの拠点を設けています。お客さまの声や要望をタイムリーに、お客さまのそばで聞き出して、現地で対応可能なものは即時に対応することも徹底しています。

このような4つの重要なポイント、こだわりによって我々のビジネスモデルができあがっています。冒頭にお話しした「Integrity」という経営理念に基づき、お客さまのために徹底的に「顧客密着」で取り組み、高い技術力を持ってスピーディーに新しいものを提案、提供するという考えに沿った仕事の進め方がその核になります。

中期経営計画2023「進化への挑戦」(2020年10月29日現在)

富田:続いて、我々の中期経営計画と、その取り組みについてご説明します。スライドは、去年の4月に公表した中期経営計画の全体像です。2019年度から2023年度までの5ヶ年計画となっており、すでに2年目に入っています。

残りは3年間ありますが、最終年度は売上800億円、営業利益100億円、ROE10パーセント以上を達成するという目標を掲げています。その中で、我々としてはコンシューマーIT製品を中心としている既存の売上高だけではなく、それ以外の新規領域の売上を大きく増やして、業績を伸ばしていく計画です。

スライド上部にあるとおり、前半で事業の選択と集中を含めたリソースシフトを行い、そこから新しい領域にリソースをシフトし、領域ポートフォリオの転換を実現するというプランを立てています。

この中期経営計画をご説明しますが、前段として我々の環境認識についてご説明します。

社会課題の解決が新たな成長のチャンス

富田:今回の中期経営計画を立てるにあたって考えた、我々の成長機会です。みなさまもご承知のとおり、高齢化社会や都市化の進行によって、交通インフラ、もしくは交通事故の問題が多々起きています。もしくは、新型コロナウイルスのように我々が知らなかった病気も出てきており、医療の高度化のニーズの高まりといったところもございます。

こうした社会課題は今後もますます大きくなり、さらには新しいものも出てくるだろうと考えています。それに対する解決の鍵のひとつと考えているのが、自動運転技術や再生医療、医療のIT・AI化といった技術革新です。もっと言えば社会全体がIoT化することによって、それらの課題を少しずつ解決していけるのではないかと考えています。

こうしたところに、我々が提供しているディスプレイやセンサーの関連材料が大いに貢献できるのではないかと考えています。これらを使って、今まで取り組んできたコンシューマーIT製品から新しい分野に出ていき、まさに社会課題の解決に貢献できるようなビジネス展開ができると考えています。

潜在的なリスク要因

富田:一方で、リスク要因についてです。今回の中期経営計画においては、コンシューマーIT製品であるスマートフォン、パソコン、タブレットといった製品は普及して行き渡り、これからの大きな成長がなかなか見込みにくいだろうという考えの下、もともと数量前提は厳しく想定していました。

それだけではなく、我々が想定もしないようなリスクで外部環境がもっともっと悪くなるのではないかというリスクも想定していました。まさに今、そのとおりになっていますが、それでも大丈夫なように、自分たちでコントロールできることはしっかりできるようにしたいと考えており、今回の中期経営計画では事業体制の強化も重点施策として織り込んでいます。

基本方針

富田:これらを踏まえた今回の中期経営計画の基本方針は、大きくは3点になります。1点目は「新規領域での事業成長加速」、2点目は「既存領域における事業の質的転換」です。そして、既存領域の事業の質的転換を通じて出てきた社内のリソースを新しい領域にシフトする、もしくは既存領域で生んだキャッシュを使って新規領域を攻める、といったことを考えています。

そして3点目が、これらを支える「経営基盤の強化」です。どのような環境変化が来ても耐えられるような強靭な企業体質を作るといったことを施策としています。ここから、1番目と2番目の施策についてご説明します。

自動車領域が新たな成長の柱

富田:最初に、新規領域での事業成長の加速です。新規領域に関しては、特に自動車領域を新たな成長の柱として重点的にリソースを集中し、新規領域全体の成長を牽引したいと考えています。

先ほどお話ししましたが、特に自動車では液晶ディスプレイが増えており、メーターやカーナビの部分だけではなく、電子ミラーなども出てきており、鏡ではなくカメラで撮ったサイドやバックの映像を液晶ディスプレイに映すようになってきています。

さらに、これから自動運転が広がってくると、運転しない間は何をするのかというところで、別にディスプレイを置いて社内でエンタテインメントを楽しむといった機会も生まれてきます。よって、自動車の中で使われるディスプレイの枚数が増えていくのではないかと考えています。それに応じて、世界シェアの高い我々のディスプレイ関連材料が大きく伸びるチャンスがあると期待しています。

スライドの左の表をご覧ください。残念ながら、今期は新型コロナウイルスの影響で、自動車の世界生産そのものが停滞気味でした。ただし夏以降、自動車の生産は世界的に回復しています。

また、スライドの右にあるとおり、実は2021年度後半から、我々はグローバルのとある自動車メーカーからの受注案件が確定しており、来年度後半からしっかりと業績に寄与し始めます。

この大型案件が2021年後半から2022年、2023年と大きく伸びていくことがほぼ見えているため、我々としては、かなり高い確度をもって自動車事業を成長させることができるだろうと期待しています。

車載ディスプレイの需要増・大型化が追い風

富田:「なぜ自動車なのか?」について補足します。これまで私がご説明したところと重複しますが、まず、1台あたりの自動車が搭載するディスプレイの数はこれからどんどん増えていきます。

もともと針だったメーターがディスプレイになるといったところもあり、それに加えて電子ミラーが増える、もしくは今後エンタテインメントディスプレイも導入されることを考えると、自動車で使われるディスプレイの枚数はますます増えていくと考えています。さらに、ディスプレイそのもののサイズ、面積も大きくなっていくだろうと思います。

みなさまもいろいろなところでお聞きになっているかもしれませんが、これから自動車の電動化、もしくはEV化が進んだ時に、さまざまなセンサーが自動車の中に入ってきます。そのセンサーで得た情報を、最終的にはデータとしてコントロールセンターに送り、ビッグデータとして処理して、例えば交通渋滞の緩和に役立てるといったことも可能になると思います。

センサーが捉えた情報は運転手も見られるようになりますが、情報量が増えていくとそれを見せるディスプレイのサイズも大きくなってくるでしょう。実際、いくつかの自動車メーカーの中では、すでにそのような動きが出てきているかと思います。

坂本:確かに、自動車に使うディスプレイ枚数は増えます。特に、中価格帯以上の外車を中心にパネルが電動と言いますか、ディスプレイに変わりつつあります。また、お話にあったミラーはかなり期待しますよね。ミラーは自動車の脇に出ているため、空力が働いて燃費が悪くなるわけです。それを小さなカメラにすることで燃費がよくなる部分もあるため、そのあたりも増えるだろうと思います。

外車メーカーに採用ということなのですが、日系企業との取引も増えていますか?

富田:電装化などの動きは主に欧州のメーカーから始まり、そのあとに北米、中国、韓国、日本もしっかりと進んでいます。我々のお客さまの中には、すでに我々の反射防止フィルムを使ってくださっている日系メーカーも多々いらっしゃいます。

坂本:個人投資家からも質問が来ると思うのですが、EV関連で勝ち残っている企業が、自動車メーカーないし素材メーカーとして生き残れるというお話でした。そのEV絡みで、御社でも今後どのようなものが増えてくるのか、素材なども含めて教えてください。

富田:もちろん、ディスプレイの部分については我々も世界シェアNo.1の製品をいくつも持っていますので、そこでしっかり取るのは当然なのですが、それに加えて、例えば自動車自体がIoTのアプリケーションのようなものになっていくような中で、そこに搭載されるセンサーの材料でも高いシェアを持っています。

それを中央のコントロールセンターに届けるには、高速通信技術が必要になりますが、実は通信技術のところでも、我々はいわゆる5G関連の商材も持っています。

5G関連製品の実績としてすでに通信の基地局等で使われていますが、これが今後は自動車でも使われることも期待しています。

坂本:ありがとうございます。

既存領域における事業の質的転換

富田:方針の2番目で、既存領域における事業の質的転換についてです。我々が注力している主力製品、これを差異化技術製品と呼んでいますが、その中の1つ「粒子整列型異方性導電膜」について、簡単にご説明します。

異方性導電膜は、先ほどお伝えしたとおり、ディスプレイの絵を動かすための半導体を駆動ICを基板に実装するために使われる、世界でもデファクトスタンダードになっている実装材料です。その中で、駆動ICのサイズがどんどん小さくなり、通常の異方性導電膜では難しくなってきている状況でした。

製品を使ってご説明します。駆動ICはスマホのガラス基板に直接実装されています。以前は相応の幅があったのですが、現在はみなさまもご存知のとおり、その幅、いわゆる額縁が圧倒的に細くなってしまっています。

ここに半導体を載せたいというニーズが出てきました。実際には、半導体そのものはここに載り切らないのですが、ここに配線して基板を付けて、基板の上にチップを載せます。この細さは0.5ミリくらいで、まるでシャーペンの芯ですが、この実装材料として当社のACFが使われています。

これを実現したのが当社の粒子整列型ACFです。ほかにはない高精細を実現する実装材料として、世界中のデファクト・スタンダードとなり、ハイエンドのスマートフォンに使われて現在大きく売上を伸ばしています。

また、これを使うと接続の信頼性が高まるといったことから、スマートフォンだけではなく、例えば自動車のディスプレイでも使いたいというお声をいただき、自動車向けでも売上を伸ばしています。

坂本:この粒子が整列することによって精細に映るということでしょうか?

富田:イメージとして、半導体の電極を基板に付ける時に、ものすごく細い電極の足を、ものすごく狭い中で付けて電気を通すのですが、分散している通常のタイプでは、技術的に難しくなってきているため、逆に粒子を整列させることで確実に電極同士を付けて電気を通す、信頼性の高い接続を実現するという考えです。

坂本:すごくわかりやすかったです。ありがとうございます。

富田:粒子整列型のACFは、ものすごく勢いのある製品です。我々としては、ACF業界のデファクト商品として、最終年度には100億円を超す規模の売上に育てていきたいと考えています。

新型コロナウイルス感染症への対応(2020年12月現在)

富田:このようなかたちでスタートした中期経営計画ですが、今年で2年目に入りました。その中での新型コロナウイルス感染症の拡大は、我々にとっても大きなインパクトがありましたので、少し触れさせていただきます。

感染症が広がり始めた2020年1月末に、当社は全社レベルで対策本部を立ち上げ、各国の政策や指示の下、従業員の安全確保と事業の継続、お客さまへの供給責任を最優先とした対策を開始しました。

今もなお、ご覧の感染予防対策を取りながら、お客さまに供給責任を果たしているところです。その中で、スライドの右にあるように、当社技術を使ったフェイスシールド1万セットを、我々の事業と関連がある、または事業を展開している自治体および医療機関に寄贈させていただきました。

今後も、新型コロナウイルス感染症の収束への貢献を、全社一丸となって進めたいと考えています。

FY20 連結業績見通し

富田:中期経営計画から少し離れて、今期の業績見通しについてご説明します。ご覧のとおり、2020年の10月末に、業績見通しを上方修正しました。これは在宅・リモート需要によるプラス影響もありますが、先ほどお伝えした差異化技術製品がしっかり伸びているといったところが理由です。また、下期も差異化技術製品の拡大および在宅・リモート需要が継続する見通しです。

一方、当期純利益のところをご覧ください。昨年から少し弱いような数字になっていますが、中期経営計画の中で、もともと決めていた施策を実行するための一時的費用を中心に、特別損失として約28億円を計上していることによるものです。

また、スライドの右下に新型コロナウイルス感染症の影響をまとめていますが、プラスとマイナスの両方の影響が出ています。プラスについては、今申し上げた在宅・リモート需要といったところから、ノートパソコン、タブレット、テレビ、あるいは園芸機器向けの製品需要増がありました。

八木:園芸機器ですか?

富田:在宅勤務になり、家にいる時間が長くなりました。家で過ごす時にすることの1つとして、ガーデニングといった需要が出てきたのですが、こうした園芸機器を扱っているメーカーの需要もかなり強いと伺っています。そのような製品にも当社の製品を使っていただいていますので、その恩恵を受けています。

さらには、外出制限を受けたこともあり、我々もリモート勤務を現在も展開しています。結果として、出張等の活動費が一部抑制され、経費が削減される効果も出ています。

逆にマイナスの影響ですが、自動車の生産が滞っていたことに加え、人が集まる機会が減ってきていることから、プロジェクターの需要が少し弱くなっており、関連製品の売上は減少しています。ただし、プラスとマイナスの影響を見てみると、我々にとってはプラスの影響が若干大きいのかなと思っています。

中期経営計画の前提の変化

富田:昨年4月に中期経営計画がスタートしたあと、米中貿易摩擦、新型コロナウイルスの影響があった中で、中計の前提条件がどう変わったのかをまとめたものです。

文字が多いため簡単にご説明します。新規領域については、自動車の生産が新型コロナウイルスの影響を受け、上半期はなかなか厳しかったものの、すでに回復が始まっています。

また、来年度後半から確定済みの新規大型案件が業績に寄与する予定であり、ここは変更ありません。既存領域についても、我々の主力の差異化技術製品の競争力や生産性が向上したことにより、業績貢献が拡大してきています。

最終的には、新型コロナウイルスの影響も若干プラスに効いていることから、我々が当初立てた計画は、方向性としては大きく変えることはないと考えています。ですので、最終年度の目標達成に向けて全社一丸となってがんばっています。

中期経営計画2023 営業利益達成状況

富田:中期経営計画の1年目の実績と今期の状況を記載しています。売上、営業利益について、もともとのプランと実績・直近の見通しと並べて書いてありますが、それぞれ当初の計画を上回るペースで来ています。

ここで油断することなく、最終年度の売上高800億円、営業利益100億円に向けて全社一丸となってがんばっていきたいと考えています。

もう1点、昨年4月時点からみなさまにお伝えしていましたが、5年間の長いスパンの中ではいろいろな環境変化が起きると考えており、当初から、来年の春頃を目処に中期計画の前提条件を見直した上で、あらためてみなさまにご説明したいと考えていました。

ですので、予定どおり、来年の春に新しく見直した中計をみなさまにご説明いたします。

株主還元

富田:株主還元についてご説明します。当社はもともと、会社としてROE10パーセント以上を出し続けていきたいと考えており、中計最終年度もROE10パーセント以上を目標に掲げています。

我々のやり方としては、事業から利益、キャッシュをしっかり生んで成長投資に回し、事業を拡大して企業価値を向上させることを優先しています。

一方で、株主のみなさまにもバランスよく還元することも並行して行っています。特に株主還元については、調整後の当期純利益の約4割を総還元性向というかたちで還元するという考え方です。

この「調整後」についてですが、年間で約18億円の「のれん償却額」を費用計上していますが、これはいわゆる会計上の費用であり、現金の支出は伴いません。よって、我々の稼ぐ力を正当に考える場合は、これを足し戻したものが正当だろうと考えています。

株主還元方針としては、この18億円を当期純利益に足し戻したものの4割を配当および自社株買いで還元するポリシーです。これらを踏まえて、配当は年間34円で、それをもとにした配当利回りが約2.5パーセントです。

PERは32.4倍ですが、さきほどお話ししたのれんを足し戻した調整後のPERは20倍弱です。実はアナリストや機関投資家のみなさまの多くはこちらをご覧になって投資判断してくださっています。我々の比較対象会社は、いわゆる国際会計基準を採用されている会社が多く、それと比較するために、のれんを足し戻した「調整後」のPERを見ている方が多いわけです。

坂本:僕もそのような見方をしますし、それでよいと思います。また、日本の会計上、のれんは仕方がない部分もありますからね。

富田:のれんの償却がキャッシュの流出を伴わない費用であることを考えると、やはりここは足し戻すのが、我々の会社の稼ぐ力を測るには適切だと考えています。

坂本:おっしゃるとおりですね。

持続可能な成長を続ける企業へ

富田:まとめになります。私どもは、経営理念「Integrity」に基づき、お客さまのために真摯に一生懸命に考え、独自の技術で今までなかったような価値を作る会社として、さらにはスライドのとおり、社会課題の解決を実現し、いわゆる「SDGs」に目を配りながら、持続的な成長を果たす会社でありたいと考えています。

以上がご説明になります。もっともっとお伝えしたいことがあるのですが、残念ながら時間の関係ですべては紹介しきれませんので、ぜひ当社ホームページをご覧ください。

IR情報のトップページに「個人投資家のみなさまへ」という専用ページへのリンクもあります。私がお話しした内容も含め、もっと多くの情報が入っていますので、ぜひご覧いただければと思います。

12月中にはページもリニューアルする予定ですので、内容を濃くしてみなさまをお待ちしています。駆け足でしたが、私からのメッセージは以上です。

質疑応答:中計における成長のイメージについて

八木:それでは、会場の質問として坂本さんが気になったものはありますか?

坂本:化学材料はわかりにくい部分ですが、今日の資料とご説明でとてもよくわかりました。ニッチに強いところがあるというのは、1つの見どころだと思いました。それでは、中計のところでもう少しお伺いしたいと思います。

富田:21ページの中計の図ですが、「FY20」から「FY23」までの間は均等に伸びるイメージなのでしょうか? 例えば、ある企業では「アグレッシブに掲げているところは、実はそこにM&Aの予定が入っている」などといったこともあるため、イメージを含めて教えていただけたらと思います。

富田:もともとの計画の中では、2020年度以降も、営業利益ベースで10パーセント前後での成長ペースが続くというかたちであり、「最後にドカンと」ではありません。ほぼ均等に伸びていくイメージを持っています。先ほどお伝えした自動車の領域で、すでに確定している大型案件を持っていることが大きいと思います。

また、M&Aはこのプランに入っていませんが、我々も機会があればと考えていますので、もしこの期間中にM&Aが入ってくれば、純粋に上乗せになると考えてください。

坂本:均等に伸びるイメージが、とてもわかりやすくてよいと思います。「最初に種まきをして、最後に刈り取る」といったところも多い中、非常に実直な中計だと思いました。

質疑応答:医療向けの製品について

八木:私が気になっているのは、本日お持ちいただいたものです。こちらはなんでしょうか?

富田:プレゼンテーションの中で少しご説明したもので、医療関係の方々に使っていただいているアイシールドの材料で、具体的には反射防止フィルムを使ったものです。本日は2つお持ちしているのですが、1つは通常のペットフィルムで、もう1つは当社のものです。

坂本:御社のものは反射しないですね。

富田:当社が加工しているものは反射しないのです。ですので「フィルムがある」という感覚がないのです。

八木:間違えて触ってしまいそうです。

坂本:非常にクリアで、本当に裸眼みたいですね。

富田:何も付けていないときと一緒の感覚になるのです。医療の現場では、アイシールドで目を守るだけではなく、ライトの光による目の疲れを軽減する効果もあり、日本でも100以上の病院で使っていただいています。特に、新型コロナウイルスの状況の中で、この製品のニーズが非常に大きく伸びています。

八木:医療向けの製品は、ここが伸びたわけですね?

富田:それだけでなく、まったく別のもので、リチウムイオン電池の過充電を防止するヒューズも伸びました。人工呼吸器にはリチウムイオン電池が搭載されています。そうした機器は、トイレへの移動の時を考えてコードレスにする必要がありリチウムイオン電池を使うのです。リチウムイオン電池の過充電・過電流を防止するための回路としてヒューズが使われており、現在もかなり伸びています。

質疑応答:来期の業績について

坂本:来期についてもみなさまが気になるところだと思います。来期も増益を見込めるのかについて、新型コロナウイルスの影響も元に戻ってきたイメージがあるのですが、このあとの伸びについて教えてください。

富田:中期経営計画については、来年の春を目処に前提条件を中心に見直しをした上で皆さまにご説明するところですが、我々の考え方の基本としては、先ほどご説明した主力の差異化技術製品においては、製品の競争力があるためシェアを高めていけると考えています。

さらには、自分たちで生産の効率を上げて歩留まりを高めて、利益率を高めることもできます。また、本日はまったくお話ししていませんが、来期から始まる新しい新製品も控えています。それらの業績への寄与もありますし、自動車の大型案件の寄与も始まります。さらに、自助努力として、我々の中での固定費を削減していく取り組みも行っています。

その効果が来期に発現すると考えていますので、我々としてはしっかり増益を達成できるようなプランを立てて、来年、みなさまにご説明したいと思っています。