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株式会社ispace9348

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CEOメッセージ

袴田武史氏(以下、袴田):こんにちは。株式会社ispace、代表取締役CEO & Founderの袴田です。当社の2026年3月期通期決算発表をご覧いただき、誠にありがとうございます。

現在、私は米国のコロラドスプリングスで開催されている、最大級の宇宙カンファレンス「Space Symposium」に、ispace-U.S.のCEOであるエリザベス・クリストと、ispace EUROPE S.A.のCEOであるジュリアン・アレクサンドル・ラマミと共に参加しています。

2026年3月期を振り返ると、前半は「Mission 2の挑戦」、後半は「次なる飛躍に向けた基礎固め」の一年であったと言えます。

昨年の「Mission 2」は2025年1月に打ち上げられ、多くの貴重なデータを獲得しましたが、残念ながら同年6月の着陸は実現できませんでした。

後半には、私たちが超えなければならない課題が明確になり、第三者の専門家による改善タスクフォースを立ち上げ、会社として改善策の検討を何度も重ねてきました。

一方で、宇宙戦略基金200億円の獲得や欧州宇宙機関からの100億円以上の予算確保など、政府やお客さまからの揺るぎない信頼をいただくことができています。

昨年秋には、公募増資による財務的な支援を多くの株主のみなさまからいただきました。これらはすべて、次なる飛躍に向けた基礎固めであると言えます。

世界中の宇宙開発のリーダーたちが集まるこの場所は、これまでにない熱気に包まれています。

その熱気の中心は、NASAです。3月に行われた「IGNITION」と題したイベントで、NASAは2030年までの月面基地構築に向けて明確に舵を切るとともに、「有人および無人を含む計画で2028年までに20回を超える月面着陸を目指す」という大胆な方針を示しました。

4月には53年ぶりに人類が月の周回を回り、無事地球に帰還するという「アルテミスⅡ」のミッションも大成功を収めました。当社のビジョンであるシスルナ経済圏の構築も一気に加速することが期待されており、私たちも胸を高鳴らせる毎日を過ごしています。

先日発表した、これまで日本と米国それぞれで開発を進めていたランダーを統合した新ランダーモデル「ULTRA」の発表は、この市場ニーズの盛り上がりに応えることを最大の目的としています。

月面への輸送が単なる実験から高頻度なインフラへと移行する時代が、いよいよ到来します。当社は、商業化水準の月面着陸技術の確立にしっかりと取り組んでいきます。

エリザベス、ジュリアン。2人が感じているこの熱気を、視聴しているみなさまにぜひお伝えください。

エリザベス・クリスト氏:もちろんです、袴田さん。みなさま、こんにちは。ここスペースシンポジウムでの熱気は、先月のNASAのイグニッション・イベントを受けて、信じられないほど高まっています。

私たちUSチームは、この追い風を最大限に活用することに全力を注いでいます。新しい「ULTRA」ランダーに向けて、日米のエンジニアリングの専門知識を集約し、今後の巨大な需要に応えるための信頼性の高い着陸能力を構築していきます。

ジュリアン・アレクサンドル・ラマミ氏:こんにちは。欧州にとっても、非常にエキサイティングな時期を迎えています。

現在、「MAGPIE(マクパイ)」ミッションの実施に向けて、欧州宇宙機構(ESA)とispace Europe S.A.は、欧州法人として史上最大の契約を締結しようとしています。このミッションを通じて、ispaceは新技術を開発し、欧州による月面探査で主導的な役割を果たします。

私たちは、欧州のさらなる月探査を可能にし、欧州と日本の関係をより緊密にするための戦略的パートナーとなることを目指しています。

袴田:このように、当社は強力なグローバル体制で直面する壁を乗り越え、より強靭な組織へと進化しています。

「WE-GO-BEYOND」のカルチャーのもと、希望と確信を持って歩みを進めていきます。それでは、当社の2026年3月期決算発表をご覧ください。野﨑さん、よろしくお願いします。

FY2025の振り返り

野﨑順平氏(以下、野﨑):みなさま、こんにちは。取締役CFO 兼 事業統括エグゼクティブの野﨑です。本日は、当社2026年3月期通期決算説明会をご覧いただき、誠にありがとうございます。

2026年3月期通年を振り返ると、当社にとっても、月面ビジネス全体にとっても大きな転換点となる一年となりました。本日はこの一年を振り返りながら、当社の進捗と通期の財務結果について詳しくご説明します。

まず、一年を振り返ります。当社では、主に4つの大きなイベントがありました。

1つ目は、Mission 2「RESILIENCE」による月面着陸への挑戦です。月面着陸自体は未達でしたが、着陸直前までの貴重な飛行データを取得し、ランダーの課題を明確に特定できたことは、民間企業として大きな収穫であったと考えています。

2つ目は、約180億円の公募増資の完了です。第三者割当先のみなさまをはじめ、多くの個人投資家や機関投資家のみなさまから、当社の将来戦略に対する強い信任をいただくことができました。

3つ目は、宇宙戦略基金第2期への採択とESA(欧州宇宙機関)の予算確保です。それぞれ最大200億円、119億円という大規模な金額を確保し、日本や欧州の政府との強固な関係構築を実現しています。

4つ目は、3月に発表したランダーのモデル統合および米国ミッションのスケジュール変更です。

このように、2026年3月期の一年間は「Mission 2の挑戦」、そしてそれに続く「次なる飛躍に向けた基盤固め」の一年間だったと言えます。

また、各国においても月面政策に大きな進展がありました。特に注目すべきは、昨年末にトランプ大統領が発令した月面開発を加速化させる大統領令と、それを受けた3月末のNASAによる「IGNITION」の発表です。

FY2025の振り返り:NASA - THE MOON BASE

「IGNITION」の日本語訳は、「点火」です。この意味のとおり、私たち月関連事業者に非常に大きな衝撃を与えています。

まず、これまで推進されていた月周回軌道に新たな国際宇宙ステーションを作るという「ゲートウェイ」プロジェクトが凍結され、その予算を月面開発に集中させること、またそれに向けて民間企業の活用を拡大することが発表されています。

そして、このNASAのスライドが示すように、2026年から2028年までの3年間で21回もの月面着陸ミッションを実施し、そのために100億米ドル、日本円でおよそ1兆5,000億円もの予算を投下するという非常に大胆な計画です。

NASAは、以前から民間企業に委託して荷物を月面に届けるCLPSプログラムを実施していますが、このプログラムを大幅に拡張する方針も併せて発表しています。これは、当社のような民間企業にとって大きなビジネス機会となることが期待されます。

FY2025の振り返り:Artemis 計画の進捗

さらに追い風となったのが、4月に成功した「アルテミスⅡミッション」です。約半世紀ぶりの有人の月周回飛行は世界的に大きな話題を呼び、月面開発の機運が一層高まっています。

このような環境の中で、当社は3月末に極めて重要な経営判断を行いました。それがランダーの統合、およびそれに伴う米国ミッションのスケジュールの再設定です。

FY2025の振り返り:新ランダーモデル

月面開発需要の高まりを受け、ミッションのクオリティと開発効率の向上を求めるお客さまの声がより一層高まっています。

これに対応するため、当社は日本と米国それぞれの拠点におけるランダーの開発を統合し、共通プラットフォームによる最大限の効率化を図るという判断をしました。

それが、新モデル「ULTRA」ランダーです。この「ULTRA」ランダーの最大の特徴は、日米それぞれの「知見」や「経験」を統合している点にあります。

Mission 1とMission 2で培った日本拠点の経験、米国拠点が先行して持つ大型ランダー開発の知見、さらに宇宙戦略基金を通じて承継いただくJAXAのSLIM技術等を統合することで、今後のミッションにおいて高精度かつ高頻度な着陸を目指していきます。

また、エンジンもより信頼性の高いものを再選定し、さらなる品質向上を目指した開発を進めています。

FY2025の振り返り:開発人員体制の変更

このランダーのモデル統合に伴い、組織体制もグローバルで再編しました。

設計チームをグローバルで統一し、CTO直下の管理体制に変更することで、ランダーの品質を最大化し、全社的なコストの低減を目指していきます。

FY2025の振り返り:ミッションスケジュールの変更

こちらのスライドには、3月27日の発表資料を参考として掲載しています。

米国ミッションのスケジュール変更に伴い、全体的にミッションのナンバリングが前回の第3四半期決算時から変更されているため、ご注意ください。

次回の月面着陸ミッションは、日本で2028年に打ち上げ予定の新Mission 3となります。

FY2025の振り返り:ミッションスケジュールと NASA への貢献

ランダーのモデル統合やエンジン変更に伴い、次の米国ミッションのスケジュールを2030年に変更することも、3月に発表しました。この点だけを切り取ると、短期的にはマイナスに映るかもしれません。

しかし、私たちはこれを中長期的なプラスだと捉えています。ランダー統合による「ULTRA」の導入やエンジン変更は、より高度な品質と開発効率を求める顧客のニーズに応えるために必要な改善であり、本質的にはNASAによる月面開発の実現にも貢献するものです。

また、日本のSBIR補助金や宇宙戦略基金を活用して進める2つのミッション(新Mission3および新Mission4)については、それぞれ2028年、2029年に実現する計画に変更はありません。2030年の米国ミッション(新Mission5)に先行して、「ULTRA」の量産効果による高品質化を達成することが可能です。

新たにMission 2.5として、最速で2027年にも当社の衛星を月周回に投入するミッションを実施することが決定しています。月周回の通信・測位インフラを早期に確立することは、NASAが推進する月面開発を促進するうえで重要なインフラとなり得ます。

このように、今回の当社の変更は、中長期的に事業優位性を高めるうえではプラスの意思決定であると考えています。

ミッション3の概要

先ほどお伝えしたとおり、当社の次の月面着陸ミッションとなる2028年打ち上げ予定の新Mission 3は、経済産業省のSBIR補助金を活用した日本のミッションです。

2030年に変更となった次期米国ミッションに搭載予定であった、NASA以外の顧客であるMagna Petra社には、2028年の新Mission 3のペイロード顧客として移行していただくことになっています。その他のお客さまについても、今後移行していただく方向で調整しています。

ミッション3の進捗

ランダー開発については、6月中旬から構造モデルによる振動試験を予定しており、それに向けた組み立てを進めている状況です。今後、構造系試験を完了した後、フライトモデルの製造へと移行します。進捗は非常に順調です。

ミッション4-5の概要

Mission 4は宇宙戦略基金第2期に採択され、現在、初期デザイン作業を進めています。ESAとの「MAGPIEプロジェクト」についても、契約化に向けた調整が順調に進んでいます。

Mission 5は、米国ミッションです。こちらも新しいスケジュールに向けて、適宜準備を進めていきます。

ミッション2.5の概要

先ほどお伝えしたとおり、最速で2027年を目指し、新たにMission 2.5として、米国のArgo Space社が提供する輸送インフラを使用し、当社の月周回衛星を月軌道に投入するミッションを予定しています。

月面開発の本格化に伴い、通信や測位のニーズが高まることを見込み、月周回衛星インフラへの対応を急ぐものです。

将来ミッションの進捗 – グローバル

営業面での事業進捗です。まず、4月に米国で開催された「Space Symposium」に参加しました。NASAの「IGNITION」の発表直後であり、大変な盛り上がりを見せていました。

また、当社のランダーモデルの統合についても各国の宇宙機関と多くの議論を行い、理解を得ることができました。

将来ミッションの進捗

グローバルの顧客として、以前より協議を進めていた韓国の月面探査ローバーの開発企業であるUEL社、ならびに英国のレスター大学と正式なペイロードサービス契約を締結しました。

両者ともに「Interim PSA」というペイロードサービス中間契約を事前に締結しており、段階を追って丁寧にコミュニケーションを続けた結果、契約に至っています。

また、国内においては、清水建設社と将来の月面インフラの要となる月面データセンターの建設を見据えた共同検討を新たに開始しました。今後も、国内外のペイロード顧客獲得に向けた積極的な営業活動を続けていきます。

当社KPI (営業面)

営業KPIについては、米国ミッションスケジュールの再設定による売上計上時期の変更はあるものの、獲得済・採択済の契約によるプロジェクト収益の合計として、562億円の売上パイプラインを確保しています。

また、今後ペイロード契約へつながると期待される984億円の潜在需要も確認しています。今回、UEL社やレスター大学が中間契約から本契約に移行したように、これらの潜在需要を着実に契約へとつなげていきたいと考えています。

ミッション計画

これまでのアップデートを反映し、新たに設定されたミッション計画はスライドに記載のとおりです。

着実に開発を進めるとともに、統合された「ULTRA」ランダーの開発によりフィードバックサイクルを短縮し、量産化による効率化をより早期に実現していきます。

2026/3期 損益計算書

続いて、財務ハイライトです。まずは通期の財務結果です。

2026年3月期のプロジェクト収益は、売上高と補助金収入を合計したものです。米国ミッションの開発遅延による減収があった一方、日本ミッションの開発進捗に伴う補助金収入の増加により、前年比18.5パーセント増の58億9,000万円となりました。

営業損失は115億8,000万円となり、前年より若干拡大しています。当期純損失は補助金収入によって81億5,200万円となり、前年比で改善する結果となりました。

なお、2026年2月に発表していた通期予想に対して売上総利益が減収という着地となりましたが、これは3月に発表したエンジン変更およびスケジュール変更に伴う損失を追加で計上したことが背景です。

また、米国子会社におけるランダーモデル統合による減損等の影響は、2027年3月期第1四半期決算にも追加で計上する予定です。

損益計算書 - 販売管理費の内訳

次に、販売管理費の内訳です。販売管理費は前年同期比27.5パーセント減少し、87億2,600万円となりました。

前年度は研究開発フェーズであるMission 2のコストについて、打ち上げ費用を含めた大部分が研究開発費として計上されていましたが、今年度は開発費用の対象が商業化を目指すMission 3以降に限定されるため、監査法人との検討の結果、ミッション費用の多くを売上原価として計上するかたちに変更したことが、販売管理費減少の主な要因となっています。

貸借対照表

バランスシートです。前年度第3四半期に実施した合計182億円の公募増資および第三者割当増資の影響によって期末の現預金は296億9,000万円となり、純資産も151億7,300万円に増加しました。事業進捗に必要な財務基盤を一定水準しっかりと確保しています。

また、3月末時点のバランスシートには反映されていませんが、4月には朝日信用金庫から借換を含む10億円の新規借入を実施しました。引き続き、安定的な財務基盤構築のための活動を続けていきます。

キャッシュフロー計算書

最後に、キャッシュフロー計算書です。開発の進捗に伴い、営業キャッシュフローおよび投資キャッシュフローは前年同水準で着地しました。

営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローによるマイナスを公募増資および新規借入などによる財務キャッシュフローで補い、現預金は前期末から165億7,300万円増の296億9,000万円となっています。

2027/3期 通期業績予想

続いて、2027年3月期の業績予想についてご説明します。

まず、当社の本質的な稼ぐ力を示す指標として定義している、売上高と補助金の合計である「プロジェクト収益」についてご説明します。

2027年3月期のプロジェクト収益は、前年対比52.8パーセント増の90億円を見込んでいます。売上総利益は2026年3月期から31億円減少し、60億円の赤字を見込んでいます。

主な要因は、米国子会社においてランダーモデル統合およびエンジン変更に関する減損36億円を、米国会計基準に基づき売上原価で計上するためです。当期純損失は、130億円を見込んでいます。

2027/3期 通期業績予想 – プロジェクト収益の変化

2027年3月期のプロジェクト収益予想について、前年度からの変動要因をフローチャートで確認していきます。

2026年3月期のプロジェクト収益は58億円でした。日本ミッションであるMission 3およびMission 4で獲得予定のSBIR補助金および宇宙戦略基金が増収のドライバーとなり、2027年3月期の増収を見込んでいます。

一方、米国ミッションであるMission 5については、スケジュール変更の影響で減収となる見込みです。

2027/3期 通期業績予想 - 当期純損失の変化

次に、2027年3月期の最終利益予想について、前年度からの変動要因を見ていきます。

2026年3月期の為替差益を控除した当期純損失は、108億円です。Mission 3は開発費用の増加により、利益貢献度合いが前年度比で減少する見込みです。

また、米国Mission 5についても、先ほどご説明したとおり、ランダーモデルの統合およびエンジン変更に伴う損失の影響で、前年度比で減益を見込んでいます。

一方、Mission 4に関しては、宇宙戦略基金の受領により黒字化を見込んでいます。この黒字化についてはご留意いただく必要があるため、次のスライドでご説明します。

2027/3期 通期業績予想 - 補助金とコストの関係性

こちらはSBIRや宇宙戦略基金などの補助金と開発費用の関係について、イメージ図でご説明するものです。

当社のランダーに使用されるエンジンなどの大型部品は、いわゆる「長納期品」として、納期までに複数回にわたる支払いが長期的に発生します。ここで支払われた金額は、その都度バランスシート上の前渡金として資産計上され、最終納品時に一括で費用計上されます。

一方、SBIRや宇宙戦略基金などの補助金は、開発支出に連動して補助金を受領し、各年度末にその年度内で受領した金額の合計が営業外収入として計上されます。

納期が複数年にまたがる場合は、スライド最下部の利益影響の欄をご覧いただくとわかるように、例えば2年間全体では収支が均衡するものの、初年度、特に開発初期においては収益のみがコストに先行して発生する傾向があります。

前のスライドでもお伝えしたとおり、今年度のMission 4で黒字化を見込んでいる背景は、この構造によるものです。

以上が、2026年3月期の通期決算説明となります。

ランダー統合による「ULTRA」の導入やエンジン変更は、より高度な品質と開発効率を求める顧客のニーズに応えるために必要な改善であり、本質的にはNASAによる月面開発の実現にも貢献するものと考えています。

引き続き、中長期的に当社の事業優位性をさらに高めていけるよう努めていきます。それでは、ファイヤーサイドチャットおよびQ&Aセッションに移ります。本日はご視聴いただき、ありがとうございました。

質疑応答:「ULTRA」ランダー統合の背景について

原田皓平氏(以下、原田):Finance Officerの原田です。ここからはみなさまからのご質問を受け付けながら、四半期アップデートの内容をより深掘りするディスカッションを進めていきます。

野﨑:その前に、今回投影している背景について、少し話したいと思います。

袴田:そうですね。せっかくこのような機会を作りましたから。

野﨑:これは初めての試みですから、Q&Aに進む前に少しご説明したいと思います。ご覧のとおり、この背景は、「ULTRA」ランダーが着陸している状況を示した月面の様子です。

今回エンジニアの力も借りて、広報部が開発したソフトウェアを使用しています。今後、さまざまな用途で活用する予定です。

このようなプレゼンの場だけでなく、今後はお客さまにランダーの動作や「このようなところに荷物が載りますよ」といった情報をお見せする際にも活用できるものです。

非常に多くの活用余地があるため、これからを楽しみにしています。せっかくですので、月に着陸したつもりで進めていきましょう。

袴田:「月からお伝えします」ということですね。

原田:背景にあるのがより大型の「ULTRA」ランダーです。

この「ULTRA」ランダーについて、これまで当社では「APEX1.0」と「Series 3」という2つのランダーを開発してきましたが、今回、それらを統合するという決定を下しました。これはなかなか苦渋の決断だったのではないでしょうか? 

袴田:そうですね。「苦渋」と表現されましたが、まず、私たちは日本と米国でそれぞれ着陸船(ランダー)を開発してきました。ただ、経営効率化の観点から、統合することは合理的だと以前から考えていました。

それにより、お客さまに対しても、過去の知見を活用してより高品質なサービスを継続的に提供できるランダーや輸送システムを実現することが可能になります。

しかし、NASAや日本政府それぞれのニーズに対応する必要があるため、別の着陸船を開発してきたという経緯があります。今回はお客さまと議論を重ねた上で、このようなランダーモデルの統合を実施しました。

ただし、それぞれのエンジニアがそれぞれの思いを持って、これまで米国では「APEX 1.0」を、日本では「Series 3」ランダーを開発してきたこともあります。統合に対し、複雑な気持ちを抱いた方もいたかもしれません。

しかし我々としては、エンジニアはもちろんのこと、お客さまや株主に対しても、継続的に質の高いサービスを提供し続けることが、企業として成長していくうえで重要だと考えています。

また、この統合がエンジニアに新たな機会を提供することにもつながるのではないかと期待しています。

野﨑:「APEX」という名称は、確か米国デンバーで「山の頂」のような意味を込めて付けられた名前です。

袴田:そうですね。

野﨑:米国には何十名ものエンジニアがいますが、彼ら、彼女たちも開発期間中ずっと取り組んできたことを考えると、この開発を終息させる判断はとても大きなものでした。

1ヶ月から2ヶ月は本当に苦渋の議論を続けてきたことから、「苦渋」という表現は適切だと感じています。

結果として、私たちがお伝えする発表は淡々としたものにならざるを得ませんが、実際には3月を中心に、非常に辛い議論が米国を含めて毎晩のように続いた状況でした。

袴田:そうですね。最終的には、日本と米国の経営陣やチームがしっかりと納得した上で意思決定を実施し、現在は「ULTRA」ランダーに集中して取り組んでいる状況です。

野﨑:先ほど袴田さんがおっしゃったように、国ごとにニーズに合わせて、「APEX1.0」のほか、日本では「Series 3」を進めていましたよね。現在ではお客さまの要望が非常に高まったことで、1つのランダーに統合するという判断をしました。

数年前を振り返ると、先ほど袴田さんがおっしゃったとおり「いずれランダーモデルの統合は起きるだろう」と考えられていたものの、「とはいえもう少し先ではないか」とも思われていましたよね。

袴田:そうですね。「どこかの時点では来るだろう」という考えはありました。

我々の今回の判断は「IGNITION」の発表前の段階で行ったものですが、やはり時代の潮流が来始めていたのだと思います。

野﨑:今日の決算説明にもありましたが、「IGNITION」が発表された際、NASAの「従来とは桁違いのペースで月のミッションを実施していく」という発表には、非常に衝撃を受けました。

私たちのミッションスケジュールを見てもわかるように、2028年、2029年、2030年と、毎年次々にミッションが実施される状況が現実味を帯びてきています。

以前は「米国でこれをやって、日本でこれをやって」程度の計画で考えていればよかったのですが、今では「1回実施して、次はどれだけ良くして」というような急速な加速化についての議論が、自分たちの想像をはるかに超える速度で進んでいると感じます。

「1つのランダーに統合するのはもう少し先かな」と正直思っていましたが、結果的に、予想以上に早く訪れたという感覚もあります。

袴田:そうですね。

原田:「ULTRA」という名前には、どのような思いが込められているのですか? 

袴田:「ULTRA」という名前は、社内でさまざまなアイデアを出してもらい、その中から我々が選んだものです。「最高の品質を届けていきたい」という思いが込められています。

野﨑:「ULTRA」という言葉は、ラテン語で「超越」という意味を持っています。最近、袴田さんがよく「GO BEYOND」とおっしゃっていますし、社内でも「GO BEYONDで限界を超えてがんばっていこう」と言っています。

Mission 1とMission 2は「RESILIENCE」で行われましたが、この「RESILIENCE」には「回復」や「復活」という意味があります。

「『RESILIENCE』でMission 1、Mission 2を実施し、Mission 3ではさらにそれを超えて、良いものを届けていこう」という思いの表れだと思います。

袴田:「RESILIENCE」を超えて、さらに良いものを作っていこうということですね。

原田:「ULTRA」は日本人にとって非常に馴染み深い単語であることから、覚えやすくなったと感じています。

野﨑:「ヒーロー」のことを言っていますね。

袴田:日本だけでなく、世界中で使われる単語だと思います。

質疑応答:NASA「CP-12」のスケジュール変更について

原田:同じく3月の記者会見では、大きなトピックの1つとしてNASAの「CP-12」が取り上げられ、2027年に予定されていたものが2030年に変更となるというお話がありました。NASAとの関係性などに影響はあるのでしょうか?

袴田:今回「CP-12」は、もともと2027年に打ち上げを予定していたものを2030年に変更しました。

我々としては、NASAが求めている「CP-12」の要件を確実に実現するために、このような判断が必要だと考えました。そこには、エンジンや「ULTRA」ランダーを統合するという要素も含まれています。

NASAとの話し合いの中で、必要な論点を我々自身で理解してきたと考えています。ただし現在は「IGNITION」への対応もあるため、「CP-12」は当然ながら少し後ろ倒しになります。

一方でNASAとしては、ミッションを全体的にいかに増やしていくかに注力しています。簡単なミッションから難易度が高いミッションへ、段階的にステップアップしながら、ミッション数を増やしていくという考え方です。

「CP-12」のペイロードはサイエンス的にも価値があるため、確実に運んでほしいという要望があります。その一方で、「IGNITION」によってこれから募集される案件については頻度を高め、まずは着陸を行い、それを繰り返すという方向性が示されています。

この全体像について、NASAはこれから総合的に判断していくのではないかと考えています。

質疑応答:NASA「IGNITION」を踏まえた今後のミッション展開について

原田:「IGNITION」で月面着陸の頻度をさらに増やしていく方針の中で、「CP-12」は2030年になると理解していますが、その前に追加のミッションがあることも想定されているのでしょうか?

袴田:現在公表しているものでは、これから実施予定のミッションが3つあります。

NASAの「IGNITION」の資料によると、2028年までに21ミッションが予定されており、さらに2029年以降にも数十のミッションが追加されていく予定です。

それに伴い、我々も2030年までにミッションを増やし、NASAの「IGNITION」の実現に貢献していきたいと考えています。このような案件やタスクオーダーが、今後数多く発生することを期待しています。

野﨑:先ほど袴田さんが「タスクオーダーが出てくる」と述べましたが、NASAは「たくさんミッションをやるよ」という考え方を示しています。ただし、これらすべてをNASAが自前で行うというわけではありません。

一部のプロジェクトは確かにそうかもしれませんが、例えば我々の「CP-12」や「CLPS」などのプログラムでは、NASAが我々のペイロードサービスを利用するお客さまになります。

つまり、NASAが「これだけサービスを買いたいですよ」という方針を掲げている部分もあるのです。

もちろん我々だけでなく、他にも多くのプレイヤーが存在しますが、今後NASAからのタスクオーダーや発注があれば、それを確実に取りに行きたいと考えています。

我々のオフィシャルなミッションとしては、2028年および2029年に日本のミッションを行い、2030年には米国のミッションを実施する予定となっています。

この計画自体は、とても良い流れだと思います。2回のミッションを確実に成功させ、その成果をもとにより良い製品を作り、満を持して2030年のミッションを迎えられることは、大量生産の効果を活用して良い結果を生み出す機会だと言えるからです。

また、我々はお客さまとさまざまなブレーンストーミングやディスカッションを行っています。これはNASAに限らず、他の宇宙機関とも積極的に行っています。

そのような中で、「火をつける」や「点火」を意味するNASAの「IGNITION」は、非常によく考えられた名前だと思います。この「火をつける」取り組みが他の宇宙機関との議論のスピードが大きく変わり、議論が活発化しているためです。

議論が活発化する中、議論の前提には「2028年までに21ミッションを目指す」というNASAの数字があり、それに向けて何をすべきかが考えられています。

当社においても、「このような環境の中でどれだけ早くミッションを実行できるか」という議論が自然と生まれてきています。

もちろん、それを達成するには資金や人材が必要であることから、手放しで「どんどんミッションを行います」と言うことは難しいですが、そのような議論が自然に生まれ、まさに「Ignite(点火)」している状況であることは間違いありません。

このテーマについて、我々も非常に難しい議論を日々重ねている現状です。

質疑応答:エンジン変更の背景と選定理由について

原田:そのような観点からも、我々は着実にミッションを成功させていく必要があります。

そのような中、3月の発表ではエンジンの変更がありました。今回、これまで開発してきたエンジンから変更することは非常に大きな決断だったと思います。

どのようなエンジンを選定したのか、また、今後これまでのような開発の遅延が起こらないかについてお話しいただけますでしょうか?

袴田:前回選定していた新規開発のエンジンが、残念ながら我々の求めていた性能を見込めないことが判明したため、変更することにしました。

我々の経験を踏まえ、確実に使用可能なエンジンを選定しようと考えました。そこで、宇宙業界では「Flight Heritage(フライトヘリテージ)」と呼ばれる、すでにミッションで使用実績のあるスラスターやエンジンを採用することにしました。

既存製品のため、新規開発は不要です。こうして採用したスラスターやエンジンを基盤に、大規模な設計変更は必要ありませんが、我々の「ULTRA」に確実に適合するように設計を進めています。

野﨑:確かにここは難しい部分のため、きちんとご説明したほうがよいと思っています。

今回選定したエンジンは、すでに他社にて開発済みの製品です。これまで我々が取り組んできたのは、未完成の製品を開発しようというものでした。そのため、今回は「開発が遅延する」というリスクはありません。

もちろん、エンジンを購入して調達するにはある程度時間がかかりますが、少なくとも「製品自体が未完成である」というリスクは解消されています。

ただし1つ、誤解を避けたい点として、もともと我々が作っていたエンジンが問題のあるものだったかというと、そうではありません。

原田:確かに、そのように思われた方もいるかもしれませんね。

野﨑:我々は、ランダーの統合だけでなく、エンジンについても今回非常に難しい判断をしました。

専門用語で言うと、「比推力」の話です。エンジンの開発を進める中で、きちんと良い効果が出ている部分もありました。ただ、いわゆる燃費においては、我々の求める基準に完全には届いていない状況がありました。

そのまま開発中のエンジンを使い続けた場合、「よりたくさんの燃料を持っていかなければならない」など、さまざまな影響が考えられました。そのため、エンジンを使い続けるという判断を見直したのです。

袴田:以前のエンジンも、非常に優れた性能を目指して設計していました。開発自体はかなり良いところまで進んでいましたが、最終的にはまだ解決できていない課題がありました。

ただ、共同でエンジンを開発していた会社の強みとして、3Dプリンティングなどを活用し、試験サイクルを短縮できる点が挙げられます。もう少し時間の余裕があり、我々もそれを許容できていれば、さらに成果を上げられたかもしれません。

野﨑:今後も関係を継続しつつ、エンジンの調達先が複数あることは良いことだと考えています。十分な成果が出れば、非常に優れたエンジンになると期待しています。

また、この背景にはお客さまの声もありましたよね。今回の「IGNITION」の動向を踏まえると、業界全体がますます加速する中で、より早く、より良い製品を求める傾向が年明け以降急速に高まってくるなど、非常に大きな変化が起きていました。

昨年末にはトランプ大統領が月面基地・原子炉建設の大統領令を発令し、それ以降、米国が非常にスピーディに変化したことも影響しています。

原田:そのような意味では、投資家のみなさまは「はじめからそのようなエンジンを選べばよかったのではないか?」と考えるのではないかと思いますが、いかがですか?

袴田:正直に言うと、当時も選択肢としては挙がっていました。ただ、その時は実績がなかったのです。

野﨑:当時は、その時に採用したエンジンも次に乗り換えるエンジンも、どちらも開発中でした。

原田:つまり当時の選択肢として、そもそも開発済みで実績のあるものがなかったという点が、大きな要因ですね。

野﨑:もう1点、よく聞かれることとして、我々は「RESILIENCE」でMission 1、Mission 2で採用したエンジンがあるため「あれを使えば良いのではないか?」という声は多くありました。

しかし、「RESILIENCE」に比べて当時の「Series3」、あるいは「APEX1.0」は、ランダーが大型化しています。この大型化により、「RESILIENCE」で使用していたエンジンをそのまま用いることはできませんでした。

袴田:そうですね。推力が少し小さすぎました。

野﨑:そのため、月に到達するランダーのあのサイズのエンジンは、我々だけでなく、他の会社も含め、すべて新たに開発する必要があったのです。

質疑応答:NASA「IGNITION」が無人ランダー需要に与える影響について

原田:何度も名前が挙がっていますが、NASAの「IGNITION」に関連するお話です。ニュースなどでは、「アルテミスⅡ」もそうですが、有人飛行が非常に注目を集めていると思います。

これが無人ランダーを製造しているispaceに与える影響については、どのようにお考えですか? 

袴田:非常に大きいと思います。有人飛行は多くの注目を集め、象徴的です。「有人飛行が増えることで無人がなくなるのではないか?」というリスクを感じる方もいるかもしれませんが、私は逆に考えています。

人が月に多く行くようになると、それに伴い活動したい領域も増加すると思います。その結果、無人機をさらに活用するニーズが高まると考えています。人が月に行けば行くほど、当社が担う領域も増加するのではないかと期待しています。

野﨑:「アルテミスⅡ」は、アルテミス計画の有人飛行において、段階を踏みながら非常に慎重に進められています。今回は、月の周回軌道を4名の宇宙飛行士が周回している状況です。

今後は着陸を成功させる必要がありますが、その際にミスが起きることは人命安全上、絶対に許されません。NASAは、2028年中に有人着陸を実現するとしています。そのためには、着陸時のデータが事前に必要になります。

我々がMission 1やMission 2で取得したデータに加え、Mission 3以降でも無人機を用い、安全性に影響しない環境で「着陸時にどのようなことが起きるのか?」ということはじめとした、各種データを収集していく必要があります。

そのような観点からも、有人着陸の成功には、無人機による事前のデータ収集が重要な第一歩となります。

袴田:そのために、NASAの「IGNITION」では、2028年の有人着陸に先立って数多くの無人ミッションを実施することが大きな役割を果たすと考えています。

原田:ちなみに、3月に「Mission 2.5」というかたちでデータビジネスを立ち上げると発表されています。そちらも、この内容に関係しているのでしょうか? 

袴田:そうです。まずデータビジネスではなく、「ルナ・コネクトサービス」と呼びます。

「ルナ・コネクトサービス」はデータビジネスに似た印象を持たれるかもしれませんが、通信や測位のサービスとなっていく予定です。Mission 2.5では通信衛星を打ち上げ、通信サービスを早期に確立したいと考えています。

今後は有人ミッションを含め、「IGNITION」を利用して20ミッション以上が月面に降り立ちます。その際には、月面での活動には欠かせない通信を当社が担っていきます。

また、測位の機能も追加していきたいと考えています。月面に降りた後、移動や物の位置の把握には測位情報が非常に重要です。そのため、こちらも実現していきたいと考えています。

さらに、当社は通信衛星を保有することで、その衛星を当社資産として最大限活用していきます。加えて、カメラなどを搭載し、月面の状況認識を行うことも検討しています。

また、月と地球の間の「シスルナ」と呼ばれる空間において、飛行している宇宙船などの状況を把握することも計画しています。これは宇宙管制にもつながる可能性があります。

さらに、リモートセンシングと呼ばれる月の地図情報などを取得し、これをデータサービスとして展開することも目指しています。このような取り組みを通じて、当社のデータサービスをさらに拡大していけるのではないかと期待しています。

野﨑:「測位」という概念については、ご存知ですか?

原田:「観測」のようなイメージですかね。

野﨑:観測とは異なり、通信・測位の「測位」は、簡単に言えばGPSです。地球でも、GPSは非常に広く利用されています。カーナビなどもその一例です。

これらのサービスは、GPS衛星が存在するからこそ実現できています。GPS衛星があることで、非常に便利な環境が整うのです。

月面においても、今回の「IGNITION」によって多くの着陸船が月に向かうことになります。月面にさまざまな物資を持ち込むという議論も進んでいる最中です。それに伴って、月面での活動量が増加すると予想されます。

当然ながら、活動が増えれば、その情報を地球に送信するために通信量の拡大が必要になります。つまり、通信の必要性がさらに高まるのです。そのため、我々は衛星を使用して「月と地球をつなぐ」通信サービスを提供します。

さらに、月面での活動においては、GPS機能がなければ不便な場面が多々発生します。そのため、GPS機能を適切に提供できる体制を構築することが重要です。

我々にはすでに衛星があり、2027年にはその衛星を打ち上げる計画を立てています。これは月面着陸ミッションではありませんが、今後月面の世界を築く上で非常に重要な役割を果たすことになるでしょう。

袴田:月の周回軌道には、現在はまだ衛星が10機弱しか存在していません。一方、地球では数万機規模で衛星が稼働を始めている中、月にはまだ多くの拡大の余地があると考えています。

野﨑:我々のお客さまの中でも、衛星の運用が増えてきています。米国やヨーロッパでも「月の周回に衛星を持っていきたい」という計画の話題が挙がっており、2028年から2030年にかけても、このようなニーズが拡大していくと考えています。

質疑応答:「Mission 2.5」の売上・財務への影響について

原田:野﨑さんにお聞きします。「Mission 2.5」や「ルナ・コネクトサービス」が、売上や財務的にどのように影響してくるのでしょうか? みなさまが気になっている点かと思います。

野﨑:3月末時点で、我々は事業構想を発表しています。とはいえ、正式なサービスローンチにはまだ至っていません。理由としては、衛星がまだないためです。そのため、2027年を目標に最速でサービスを開始したいと考えており、そのための投資はすでに始めています。

先ほどのNASAの「CP-12」に関する話題にも関連しますが、我々はもともと2基のリレー衛星を導入するという計画を掲げています。

これまでにもリレー衛星の製造を行ってきましたし、日本のミッションにおいても衛星を持ち込むことを前提に予算を策定しています。そのため、投資に関しては問題ないと考えています。

2030年までに、最低でも当社所有の衛星を5機月周回に投入する予定です。現在、月の周回軌道には数機しかない状況ですが、この取り組みを進められれば、非常に大きなインパクトをもたらすことができると考えており、このチャレンジを実現したいと思っています。

では、それに伴うリターンですが、2040年代には4,500億円規模の市場が形成されると見込まれています。市場の規模は十分に大きく、参入できる企業も限られています。

その市場シェアをどの程度確保できるかについては、今後さらに詳細な計画を練る必要があります。しかし、世界中でお客さまが動き始めているという先ほどの話が、その重要な兆候を示していると考えています。

我々が衛星を導入すれば、「通信を利用したい」というニーズが出てくるでしょう。また、先ほど袴田さんが触れたように、月と地球の間に広がるシスルナ空間は、現在はなにもない状態ですが、往来が増えることで監視用のモニタリングカメラの需要が高まると予想されます。

地球上の生活と同様に、衛星カメラで状況を把握したいというニーズは劇的に増加していくと考えています。そのため、このようなポテンシャルを活かした議論を積極的に進めています。

質疑応答:増資とミッション変更に関する財務戦略の変化について

原田:「資本面のお話について教えてください。昨年のエクイティファイナンスで、旧Mission 3、Mission 4までの資金を確保したというお話でした。

今期の計画を見ると、昨年調達した資本は今期末で大部分を使ってしまうため、Mission 3を実行するにはさらなる資本の充実が必要に見えます。予定されるミッションを実現していくための資本戦略を教えてください」というご質問です。

野﨑:ご質問のとおり、昨年10月に増資を行いました。基本的には、当時のMission 3およびMission 4に基づくものです。2回分のミッションの資金をカバーできるように計画し、増資を行ったという背景があります。

そこからの変化として、1つは旧Mission 3が大幅に後ろ倒しとなった点です。現在は新Mission 5と呼んでいますが、米国のミッションは大幅に時期が変更されるかたちになりました。

そのため、資金の使い方としては焦点が以前と変わり、次の2回の日本のミッションとなります。この2回のミッションの資金をどのように工面するかが、新たなポイントとなっています。

さらにもう1つの変化として、米国のミッションに関するモデル変更やエンジン変更により、追加の資金が必要となっている点が挙げられます。

3月末の記者発表でも、数十億円が必要になる可能性について触れました。この資金はキャッシュとして必要になる点も指摘されていますが、もう1つ重要なのは、ご質問いただいたエクイティに関する部分です。ミッションやランダーモデルの変更に伴い減損が生じることは、避けられません。

今回、我々は2027年3月期に約36億円の減損費用を見込んでおり、これによるエクイティの毀損が発生します。そのため、当初の計画から変更が生じてしまっていることは事実だと考えています。

2027年3月期の業績予想は、獲得可能性のある案件を一部含めず、保守的に見ている部分があります。したがって、現在の数値をもってすぐに追加の増資が必要だと断定することは適切ではないと思っているものの、四半期ごとに状況を慎重に見極める必要があると考えています。

現在、追加でいつおよびいくら必要か、といった具体的な話をする状況にはなく、確定したこともありません。とはいえ財務戦略に関して変化が生じているのは確かであり、慎重に進めていく必要がある状況にあると認識しています。

質疑応答:「MAGPIE」案件にのける予算の大幅な増額について

原田:ここまでは米国の話が中心となっているため、少し欧州の話もうかがいたいと思います。特に「MAGPIE」案件では、これまで70億円とされていたものが119億円と、大幅に増額されています。この状況について、野﨑さんに詳細をうかがってもよろしいでしょうか?

野﨑:冒頭のムービーでジュリアンがお話ししていたと思いますが、当社の欧州法人では史上最大の契約となるのではないかと考えています。予算は確保されており、現在、契約化に向けて進めているところです。

なぜこれほど金額が大きいかというと、まず、この「MAGPIE」という案件は、我々のMission 4に関連する案件です。欧州宇宙機関(ESA)が月面探査車(ローバー)を月に送りたいという要望があり、その輸送を我々が担うことになります。また、「開発もしてほしい」という案件も我々の欧州法人に発注されているために、このような規模になっています。

金額については我々も慎重に様子を見ていましたが、昨年末のESAとの会議などを踏まえ、最終的に119億円という数字が見えてきました。

これはヨーロッパにおいても、先ほどの「IGNITION」にも関連するものです。先ほどの119億円という数字が決まったのは「IGNITION」の発表前ですが、トレンドとしては、米国が動きを活発化させたことにより、他の宇宙機関もその影響を受けています。

ヨーロッパはヨーロッパとして、月をどのようにしていくのかを非常に真剣に考えている背景があります。

ispace EUROPE S.A.の強みは、ESAと長い期間をかけて協議を行ってきた点です。このような大きな案件をともに作れるという点は、我々の強みではないかと思います。

原田:現在の日本において、宇宙分野はどのような状況にあるのでしょうか?

袴田:前期の決算説明会でも少しお伝えしたかもしれませんが、日本全体として、高市政権のもと、宇宙は17の成長戦略の1つとして大きな分野になっています。

安全保障は日本として取り組まなければならない分野です。その中で宇宙が非常に重要な要素となるため、これから日本政府も宇宙に対して大きな予算を投入していくと考えています。

我々も、日本成長戦略会議でプレゼンテーションを行いました。宇宙分野の中でも、月はこれから国際社会で重要な位置を占めると考えています。

また、米国も最近、安全保障の観点から月に取り組む姿勢を明確にしています。それに対応して、日本も安全保障の一環として月を扱う方向に進んでいくと想定しています。

野﨑:よくいただくご質問の中に「他の宇宙企業は防衛ニーズが非常に多いが、ispaceには防衛ニーズはないのか?」というものがあります。そこはこの安全保障の話にも関連してくると思いますが、防衛ニーズについてはいかがでしょうか? 

袴田:現時点では、防衛分野において月に対する予算が明確に設定されているわけではありません。ただ、高市政権の中で、月は重要な要素になっていくと考えています。

特に米国がなぜ安全保障の観点から月をこれほど重要視しているのかと言うと、やはり中国との関係があります。

中国と米国の間では、月面の主権や覇権をどちらが先に確立するかという競争が始まっています。この競争を遂行するには、米国一国では難しいでしょう。そのため、同盟国である日本が協力する可能性は十分にあると考えられます。

野﨑:なぜ米国ではこのようなかたちで月に関する防衛意識が広がっているかといえば、地球と月の間の関係に理由があります。「ゴールデン・ドーム」構想なども踏まえ、地球から防衛の領域が拡大し、地球と月の間には重要な衛星が存在しています。

したがって、それを単に地球から監視するのではなく、月からも見て対処する必要があり、防衛の観点がこうしたかたちで進化しているのだと思います。

袴田:最近、非常に象徴的な動きがありました。米国宇宙軍が、シスルナ(地球と月の間)のリエゾンオフィス、つまりいわゆる連絡窓口を設置し、専属の部署を立ち上げており、この重要性が高まっています。

また、米国では月に原子炉を建設するという計画もあります。これまではNASAと米エネルギー省が共同でプロジェクトを進めていましたが、最近では「Department of War」、つまり米国防総省も予算を投入し進行を加速させています。

この計画はホワイトハウス内でも1つ格上げされており、その重要性が再認識されていることから、状況が大きく変わってくると考えています。

質疑応答:開発費増加の見通しと今後の投資計画について

原田:「短信上では、2027年3月期について「研究開発費の増加に加えて、人員増による販売管理費の増加」という記載がありました。開発の本格化など、費用部分の拡大について、今後の見通しをより詳しく教えてください」というご質問です。

野﨑:開発費の増加についてお答えするということでしょうか?

原田:開発本格化に伴う費用の拡大見通しに関するご質問です。

野﨑:「具体的にいくら使うのか?」という、全体の規模感についてのお話かと思います。

昨年度と今年度を比較すると、ランダーの数を比べるとわかりやすいかと思います。昨年度は売上も含め、米国で進めていた「APEX1.0」において、現在はMission 5となっている旧Mission 3がかなり大きな部分を占めていました。次のミッションということで開発が本格化し、支出が多くなったのもその影響です。

今期について言えば、当初の予定では、この米国のミッションに加え、日本のSBIRミッションも本格化し、この2つが重なることを想定していました。

ただ、3月末の発表を受け、米国のミッションが後ろ倒しになったため、その分の投資がゆっくり進むかたちになります。すると、中心的に進んでいくのは先ほどお話ししたSBIRのMission 3です。

そのため、進捗ペースとしては昨年に近しいペースとなり、さらにMission 4の宇宙戦略基金に関する部分が少しずつ始まっていく見込みです。したがって、昨年対比でいきなり2倍や3倍の規模に増加するイメージではないことをご理解いただければと思います。

袴田からのご挨拶

袴田:当社としては「ULTRA」ランダーの統合や「ルナ・コネクトサービス」の新たな事業の構築など、大きな一歩を踏み出し、果敢にチャレンジをしていこうと考えています。

また、「IGNITION」もあり、このマーケットは非常に大きく変化しようとしています。我々もしっかりとそれに対応し、その中で勝ち抜いていきたいと考えています。

これからもさまざまな変化があるかもしれませんが、ぜひ当社の長期的な成長をご支援・ご声援いただければ幸いです。本日は、誠にありがとうございました。

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