logmi Finance
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経営者(陣)の悩ましい心理

派手な急成長や旬で話題性のある銘柄(企業)は、いつの時代も株式市場で人気化しやすいものです。しかし、そうした銘柄が持っていないこともある、企業の性格のようなものが今回のテーマからは見えてきます。
そもそも配当の増額自体、実は思っているよりも心理構造的に難しいという点にまず触れておきます。昨今は、東証の市場改革の影響もあって、企業価値を上げるという企業側の意識も強まってきましたが、少し前までは成長しても無難な「配当維持」を平気で続けるような企業も多かったのです。また、業績が結果的に良くなる確度が相当高まってから配当を増やすというのも場当たり的で簡単です。大前提として、景気の波を乗りこなして利益を稼がなければなりませんし、人材や設備などへの投資資金も確保しなければなりません。将来もそう簡単に見通せなくなってきている難しい変化の時代ですから、経営者(陣)が安心できる判断に逃げたくなる気持ちもわかります。

連続増配と累進配当が示す「信頼構築」 中長期で報いる経営の姿勢

一方で、その構造的に難しい増配を「連続」で行っている企業は、単純に業績成長が続いている場合もありますが、経営陣が様々な不安を飲み込んで、中長期の信頼構築を優先していると見ることができます。特に、期初計画を発表した段階で連続増配を打ち出していると、よりその性格は強まるでしょう。その最上級の例が昨今人気の「累進配当」ですね。
これは、どんなに苦しくても、減配しないという宣言ですから、字面以上に信念ある経営陣の重い決意というわけです。爆益が狙えるわけでもない、一見地味な配当ですが、企業の安心感のバロメーターの一種だと捉えると、長期目線で付き合う銘柄を探すにはうってつけと言えるのかもしれません。そこで参考までに、今回はテーマ「連続増配」に属する銘柄の一部を紹介します。他にもたくさんの銘柄があるので、ぜひ調べてみてください。

1.三菱HCキャピタル(8593)

三菱HCキャピタル(8593)は、三菱UFJリースと日立キャピタルが合併し、2021年に誕生した企業です。リース企業のため、法人・官公庁向けリースのほか、エネルギー、航空、ロジスティクス、不動産、モビリティと事業範囲は多岐にわたります。2026年3月期の1株配当は前期比5円増の45円/年で、会社側によれば27期連続の増配見込みとなっています(※2021年3月期以前は旧三菱UFJリース、2007年3月期以前は旧ダイヤモンドリースの実績)。
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2.沖縄セルラー電話(9436)

沖縄セルラー電話(9436)は、沖縄を地盤とした総合通信事業会社でKDDIグループの一員です。「通信×〇〇」で様々な新規事業にも取り組んでおり、例えば「通信×ヘルスケア」ということで、長寿県沖縄を取り戻す目的で2019年春にパートナー企業の協力のもと、ヘルスケア事業領域へ参入したりしています。2026年3月期の1株配当は前期比2円増の64円/年(2025年10月1日付の1対2の株式分割を考慮した実質)で、25期連続増配の見込みです。
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3.ロート製薬(4527)

ロート製薬(4527)は、目薬を中心としたアイケア事業のほか、スキンケア事業や内服・食品事業、メディカル事業なども手掛けています。また、国内だけでなくアジアや欧州などのグローバル市場へも展開しています。2026年3月期の1株配当は前期比6円増の42円/年で、22期連続増配の見込みです。
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4.豊田通商(8015)

豊田通商(8015)は、総合商社の一角で、三菱商事を筆頭とするいわゆる「5大商社」に次ぐ規模ですね。名前でピンとくる方もいるかもしれませんが、トヨタグループに属しており、アフリカビジネスに強みを持っています。2026年3月期の1株配当は前期比11円増の116円/年で、16期連続増配の見込みです。
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「絶対はない」を前提に見る 連続増配の限界と投資判断の視野

真逆のことを言うように感じるかもしれませんが、連続増配という実績はどれだけ長くても、累進配当を導入していない限り、必ずしも今後の未来(=継続的な増配継続)を約束するわけではありません。また、累進配当を導入していても、方針を取り下げる可能性もゼロではありません。「絶対はない」、ここは非常に重要な点です。
ただし、常に株主への意識を忘れなかったという事実を示しているように思いますし、その自分たちが積み重ねた実績自体を各社誇りに思って、さらに継続しようと努力するはずです。他方で、現時点の連続増配を過度に重視すると、今度は未来の連続増配企業を取り逃がすことになるかもしれません。さらに、連続増配株は人気化して株価が上昇している場合もあるので、配当利回りで判断するとタイミングによってはあまり魅力的に見えない一面もあります。そういった意味で、人生全般にも共通しますが、1つの考えや思想に固執することなく、視野を広くもって株式市場や個社を眺める必要があるでしょう。

(※2025年12月17日執筆)

執筆:RAKAN RICERCA株式会社
国内株式を中心とした投資関連のコンテンツ作成・情報配信、企業分析などを主な事業内容としている。日経CNBCなど各種メディアへの出演、『ダイヤモンドZAi』をはじめとしたマネー誌への寄稿も多数。


※記事内容、企業情報は2025年12月10日時点の情報です。
※当記事内容に関連して投資等に関する決定を行う場合は、ご自身の判断で行うものとし、当該判断について当社は一切の責任を負わないものとします。なお、文中に特定の銘柄の投資を推奨するように読み取れる内容がある可能性がございますが、当社および執筆者が投資を推奨するものではありません。

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