バフェット氏は今後、どのような投資戦略を考えているのか

岡元兵八郎氏(以下、岡元):マネックス証券株式会社の岡元兵八郎です。昨日のバークシャー・ハサウェイ社の株主総会に参加し、あらためてウォーレン・バフェット氏の言葉を噛み締めています。

本日はその内容を振り返りながら、バークシャーの子会社であるブルックス社主催の「インベスト・イン・ユアセルフ」の5キロメートルマラソンにも参加してみようと思います。「長期投資は持久戦のようなもの」そんな彼の哲学を、身体でも感じてみようと思います。

バフェット氏は株主総会の最後に、今年の年末にバークシャーのCEOを引退するというサプライズ発表をされたわけですが、今回はバフェット氏のお話の中で、みなさんに興味を持っていただけそうなものを共有したいと思います。

ここ最近のアメリカでのトランプ関税に関わる話ですが、バフェット氏は名指しではないものの、批判的なコメントをしています。はっきり言っているのは「貿易を武器にしてはいけない」ということです。

アメリカという国は250年前に0からスタートした国で、そして今、信じられないほど重要な国になってしまいました。「これは歴史的に見て他に類を見ない奇跡です」とバフェット氏は断言しています。

そのため、バフェット氏は75億人の人々にあまり好かれていない中で、3億人のアメリカ人だけが「よくやった」と胸を張っているような状況に対し、「正しいとも賢いとも思わない」とお話ししています。貿易というのは戦争の手段にもなり得るということで、実際アメリカ国内には良くない空気を生んでいるとおっしゃっています。

アメリカは世界と自由な貿易を行い、自分たちが得意なことに集中し、相手国もまた得意なことをやればいいのではないかというのがバフェット氏の主張です。彼は「これが本来あるべき姿だ」と発言しています。

日本株投資に対する信頼と展望

「今後日銀が予定どおり利上げを進めた場合、日本株への追加投資に消極的になったり、現在の投資を利益確定するために売却する可能性はありますか?」という質問が出ました。

これに対しバフェット氏は、「経済において最善の道を決めるのは、日本人の問題である。自分は意見を言う立場ではない」と発言していました。バークシャーが日本に投資を始めたのは今から約6年前です。その時に日本の5大商社を発見しました。その時の商社の株は、信じられないほど割安だったそうです。

そこでバフェット氏は調査を始め、明らかに魅力的な投資先だと感じたそうです。その後、グレッグ・アベル氏と2人で商社のことをより勉強し、知れば知るほど好きになってしまったとお話ししていました。

しかし、投資をするにあたって、10パーセント以上は保有しないことを会社側と約束しており、保有比率はその上限近くでとどめていたそうです。ただ、最近その上限を少し緩和できないかと丁寧に会社側にお願いし、現在そのプロセスが進んでいる段階だということです。

バフェット氏は、個人の見解として、「僕がいなくなって50年後に、グレッグ氏がバークシャーを率いていたとしても同じことを言うと思う。我々バークシャーはこの日本株の投資について、なにも懸念していない」と発言されていました。日本の商社について、とても信頼を寄せているということです。

日本の商社への投資が大好きで、現在約200億ドルの規模の投資ですが、できることなら1,000億ドル程度にしていきたいというのが本音だそうです。

バフェット氏の投資哲学

投資家の懸念についてご説明します。現在バークシャーは現金および短期証券で3,000億ドルを超えるキャッシュを持っており、これは総資産の約27パーセントを占めているということです。

過去25年間の平均は約13パーセントですが、それと比べて非常に高い比率になっています。その理由について、「マーケットが高いためキャッシュを増やしているのではないか?」と質問が挙がりました。

それに対してバフェット氏は、実際最近も約100億ドル程度の規模の投資を非常に真剣に検討し、投資をするには至らなかったと回答されています。

バフェット氏は、自分たちで理解でき、価値があると判断できて、損を心配せずに済む案件に投資したいとおっしゃっています。そのような案件が来た時だけ動くということです。問題は、そんな案件が都合よく毎日やってくるわけではないことです。

投資の世界というのは、規則正しいリズムでチャンスが訪れるようなものではないです。いつでもできる、ギャンブルとは違います。投資には、そう簡単にチャンスは来ません。

バークシャーの投資は非常にオポチュニスティック(opportunistic)、つまり機会主義的で不規則なんだということを力説していました。彼らは、投資のチャンスが訪れれば実行します。チャンスが来なかったら、訪れるまで待つということです。それが彼らのスタイルだということです。

現在バークシャーは約3,350億ドルもの現金・短期証券を保有していますが、もし良い投資条件が揃うなら、現金比率を現在の3,350億ドルから500億ドルまでに減らしてもいいということです。ただ、実際はそうではありません。これがビジネスの現実です。

バフェット氏は、バークシャーがこれまで大きな利益を得て成功するために、常にフルインベスト(全額投資)したわけではないとご説明しています。みなさんは「バフェット氏が現金を使って全額投資することは、バークシャーにとっていい話なんでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、バフェット氏はそうではないと言っています。

必ずしも全額投資をしたからといって成功するわけではないのです。明日、もしくは来週、来月、マーケットがどうなるかは、バフェット氏にもグレッグ氏にもわからないためです。しかし世の中では、明日や来週のマーケットは上がるのか下がるのか、そのような話ばかりが繰り返されています。なぜなら、話すのは簡単だからです。

しかしバフェット氏は、その会話にはまったく価値がないと断言していました。バークシャーはビジネスとして投資をしている立場のため、もっと非効率的でイレギュラーな投資活動を選んでいます。投資において魅力的な案件は時々しか見つからず、突然やってくるものです。投資のチャンスは来週来るかもしれないし、5年後かもしれないです。しかし、50年先ではないでしょう。近いうちにやってくるとは思っています。

その時に備えて、今の潤沢なキャッシュポジションがあります。要はそれだけだということです。そのため、「今のマーケットが高いことでどうなるか」ということではないのです。

投資家が世界に適応する必要がある

そして最後にバフェット氏は、ここ30日から40日、あるいは100日間で、マーケットでなにが起きたかという話をされていました。

今年に入り、ピークから安値まで約2割調整がありました。みなさんも、「米国株に投資して良かったのか?」と非常に悩まれたと思います。特に新NISAで新しく投資を始めた方の中には、米国株投資をするべきではなかったと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

これに関してバフェット氏は「今回の調整は大したことではない」とお話ししていました。

バフェット氏がバークシャー株を買収して以来、実は過去に3回も株価が50パーセント以上下落したことがあるといいます。しかも、いずれも短期間のうちに下落が起きました。しかし当時、どの時も、会社のファンダメンタルズになにか問題があったかというとそうではありません。

例えばダウ平均は、1929年9月には381ドルだったのですが、それが約42ドルまで下がりました。例えると、100が11になるというような下げ幅でした。つまり、今年の下げはこのような過去の大きな下げと比べると、なんでもないといえます。

逆にもしマーケットが15パーセント上がっていたら、人々はそれを当然のように受け入れていただろうと思います。しかし、15パーセント下がると、みなさんは非常に動揺します。バフェット氏は、もし株価が15パーセント下がったことに対して感情的な意味で耐えられない投資家がいるならば、もっと自分に合った投資をすべきだとおっしゃっていました。

世界はあなたに合わせてくれないということです。「あなた」というのは我々投資家です。我々投資家が、投資の世界に適応する必要があるんだということを発言されています。株価の下落に怯えて上昇で舞い上がってしまうようなタイプの人にとって、株式市場というのは本当に厳しい世界だということです。

人間には感情があるので、別に誰かを非難したいわけではありません。でも投資をするのであれば、感情は玄関に置いてきてからするべきだというのがバフェット氏の考え方です。

ブルックス社主催のマラソン大会に参加

(スタッフとともにマラソン大会に参加する岡元氏の映像が流れる)

バークシャーの株主総会の翌日、5キロメートルマラソンが開催されました。僕は最近、ぜんぜん走っていませんが、やってみようと思います。

スタッフ:目標はありますか?

岡元:たった5キロメートルですが、僕からしたらとても長いです。目標は、このマラソンを1時間以内に終わらせることです。

スタッフ:みなさん、かなりハイペースですね。ペースが速くない人たちは後ろにいます。すごい! ベビーカーで走っている人もいますね。手をつないで走っている人もいます。マラソンって、いろいろなあり方があっていいですね。

「インベスト・イン・ユアセルフ」自分を資本と捉える生き方

スタッフ:投資をマラソンに例えるのは、意外に面白いかもしれないですね。

岡元:人生もマラソンに例えられると思いますが、投資もそうですね。良い時もあれば悪い時もあります。だからショートタイムじゃなくて、ロングタイムなのです。マラソンは走っていて考えさせられます。

人生もそうです。良い時もあれば悪い時もあります。このマラソンのテーマは「インベスト・イン・ユアセルフ」です。自分に投資をする、つまり身体は資本と同じです。自分に投資をして、自分の価値を高めていかないといけません。

それはたぶん50メートル走ではできなくて、マラソンのように、時間をかけて人生を上手に波乗りしていく必要があります。そのためには体力も必要だし、自分の能力も向上しないといけません。

マラソンを完走して、バフェット氏が語る長期投資の意味を理解できた

5キロ走りました。走り通しました。感想は、ただ気持ちいいだけです。先ほども言いましたが、東京に戻ってから少し真面目に運動をやってみたいと思います。

「インベスト・イン・ユアセルフ」は、ブルックスというスポーツ関連の会社がスポンサーをしています。

たった5キロメートルですが、最初は慣れていないので、走っている途中で非常に大変になった時もありました。でも、少し楽になり、最後は気持ちよくゴールできました。まさに投資をすることは、マラソンをすることと同じなのかなと感じました。

今回は株主総会での学びを振り返り、加えてマラソンを完走して、バフェット氏が語っていた長期投資の意味をなんとなく理解できたような気がします。今回の旅では、自分の軸を持ち、ぶれない信念に向き合うことの大切さをあらためて感じたところです。

ご視聴どうもありがとうございました。