ビジョン

上野太郎氏(以下、上野):サスメド株式会社 代表取締役社長の上野です。資料に基づき、2025年6月期の決算説明を行います。

まず、当社のビジョンです。「ICTの活用で『持続可能な医療』を目指す」という理念を掲げ、「SUStainable MEDicine」を略して「サスメド」と称しています。

事業領域概要

具体的な取り組み内容としては、治療用アプリの開発に加え、当社が「デジタル医療プラットフォーム」と呼ぶ臨床試験システムや医療ビッグデータ分析に関連する取り組みを行っています。

QDTx:治療用アプリ開発プラットフォーム

それぞれについて簡単にご紹介します。当社では、治療用アプリを簡便に開発するためのプラットフォームを有しており、こちらを「QDTx」と呼んでいます。また、後ほどご紹介しますが、当社は多数の治療用アプリのパイプラインを保有しています。

これらのパイプラインを少数精鋭で構築できる背景には、治療用アプリ開発プラットフォームの存在があります。このプラットフォームにより、少人数ながらもパイプラインの開発が同時に複数可能となっており、外部の製薬企業との共同開発においても、「QDTx」を最大限に活用しながら進めています。

SUSMED SourceDataSync:臨床試験システム

臨床試験システム「SUSMED SourceDataSync」についてご説明します。このシステムは「SDS」と略されることもあり、ブロックチェーン技術を実装した臨床試験システムです。

臨床試験で求められる規制対応を、従来は人力で行っていましたが、省庁からお墨付きをいただいたブロックチェーン技術を用いることで、効率的に実施できるようにしています。このシステムを活用することで、他社の臨床試験の効率化に貢献する一方で、当社の治療用アプリの開発もコストを抑えながら効率的に行っています。

治療用アプリだけでなく、医薬品や医療機器の臨床試験においても外部に提供できます。これにより、製薬企業の医薬品開発を効率化し、ドラッグロスの解消などの取り組みにも貢献するシステムとなっています。

Awesome Intelligence:機械学習自動分析システム

当社は、機械学習による自動分析システムも保有しています。治療用アプリが上市され、医療ビッグデータが収集された後の段階で、特に力を発揮する場面が増えてくると考えています。

現在も、機械学習自動分析システムを活用して、医薬品卸の方々との共同事業を行ったり、診断用の医療機器を開発するためのアルゴリズム開発に利用したりと、すでに取り組みを進めています。

治療用アプリの提供の流れ

治療用アプリの取り組みについてご説明します。治療用アプリは医療機器として扱われ、医師が処方することで初めて利用可能となります。従来は医薬品の処方箋を発行していたところを、治療用アプリのアカウントを処方するかたちになります。

患者は自宅で自身のスマートフォンを用いて治療用アプリにログインすることで、在宅で治療を受けることができます。また、日々スマートフォンを通じて患者データがサーバーに集積される仕組みになっており、医師はそのデータを確認しながら治療方針の策定や精緻化を行えるようになっています。

ヘルスケアアプリと治療用アプリの違い

世の中に多数存在するヘルスケアアプリと治療用アプリの主な違いは、治療を行うものであるかどうかです。そのため、治療用アプリは厚生労働省の承認を受けた上で、医療機器として処方する必要があります。

一方、ヘルスケアアプリは健康増進を目的とするものであり、治療を謳うことはできません。また、国民皆保険制度を活用することで、保険収載された場合には患者負担が3割ほどで治療に利用できる点が大きな利点となっています。

開発パイプライン①(2025年8月8日現在)

実際の取り組みについては、スライドのとおりです。パイプラインとしては、不眠障害治療用アプリにおいて一部変更承認を申請していましたが、了承を得られた状況です。それ以外にも、がん領域や腎臓病、さらには杏林製薬と実施している耳鳴の治療用アプリなどの開発を進めています。

開発パイプライン②(2025年8月8日現在)

ほかにも、疼痛に対する治療用アプリや、産婦人科領域に強みを持つあすか製薬と取り組んでいる産婦人科領域の治療用アプリ、めまいの治療用アプリなどの開発を進めています。ここまでが治療用アプリに関する取り組みですが、それ以外にも、先ほど少し触れた診断用プログラム医療機器の開発も進めています。

2025年6月期 重点施策

こちらのスライドは、2025年6月期の期初時点で掲げていた重点施策です。1つ目は、不眠障害治療用アプリの保険収載、2つ目は後続のパイプラインの開発進捗です。これらはいずれも治療用アプリに関する施策となります。

3つ目と4つ目は、特に臨床試験システムに関する重点施策です。複数試験での稼働を目指すこと、そして、これまでの治験や臨床試験だけでなく、レジストリという分野でもブロックチェーンシステムの実績を上げることを目標としています。

重点施策①不眠障害治療用アプリの保険収載

それぞれの重点施策をご説明します。まず、不眠障害治療用アプリの保険収載についてです。

先日リリースしましたが、昨年8月に一部変更申請を行い、厚生労働省の薬事審議会プログラム医療機器調査会で変更承認の了承を得ることができました。今後は保険収載の手続きを進めていきます。

販売に関しては、パートナーである塩野義製薬と共に、保険収載後の各種計画の立案を進めている状況です。

重点施策②パイプラインの開発進捗(再掲)

後続のパイプラインの開発進捗についてです。こちらのスライドは再掲となりますが、めまいに対する臨床研究を新潟大学とともに進めています。

重点施策②パイプラインの開発進捗(再掲)

こちらのスライドも前回までにご報告している内容ですが、あすか製薬とPMS/PMDDといった産婦人科領域の疾患に対する治療用アプリの共同開発を行っています。

今年1月から特定臨床研究を開始し、2月に最初の被験者が登録されました。これに伴いマイルストンが達成され、1億円を受領しました。契約一時金と併せて、第3四半期に収益として計上しています。

重点施策②パイプラインの開発進捗(再掲)

今年4月にリリースした内容として、進行・再発期のがん患者向け治療用アプリの企業治験を開始しました。

重点施策②パイプラインの開発進捗

今回初めてご報告する内容となりますが、杏林製薬と共同で実施していた耳鳴治療用アプリの特定臨床研究を完了しました。

結果については非常にポジティブなもので、今後の開発に期待が持てる内容となっています。また、研究代表医師の先生が今年10月に開催される学会で、この特定臨床研究の内容と結果を公表する予定とうかがっています。

重点施策③臨床試験システムの複数試験での稼働(再掲)

臨床試験システムについては、国立精神・神経医療研究センターで実施されている抗体医薬品の医師主導治験において、実際に活用が開始されました。

重点施策④静脈疾患レジストリシステムの稼働(再掲)

これまでの医師主導治験や臨床試験だけでなく、レジストリと呼ばれるリアルワールドデータにブロックチェーン技術を活用する取り組みとして、静脈疾患レジストリシステムの稼働を開始しました。こちらは、前向き試験を行わずに適用拡大などにデータを活用することを目指した取り組みとなっています。

2025年6月期 重点施策の達成状況

重点施策の達成状況をまとめます。不眠障害治療用アプリについては、保険収載には至っていませんが、一部変更承認の了承をプログラム医療機器調査会で得ている状況です。

パイプラインの開発進捗については、複数の臨床試験を開始したほか、耳鳴治療用アプリの開発において、杏林製薬と実施していた特定臨床研究を無事に完了しました。その結果はポジティブなものであり、次のステップに進むことができそうです。

また、臨床試験システムについては、アキュリスファーマでの試験に続き、複数の試験が稼働を開始しました。さらに、臨床試験以外の分野でも稼働が進んでいます。

業績ハイライト

2025年6月期の業績です。今期の事業収益は4億6,200万円で、営業利益はマイナス2億9,900万円の赤字となっています。研究開発費については、プラットフォームを活用することで効率化を進め、2億7,300万円となりました。

セグメント業績

セグメントごとの業績です。DTxプロダクト事業では、あすか製薬とのマイルストンによる事業収益が3億円となり、セグメント利益は1億1,800万円となっています。

臨床試験システムなどを含むDTxプラットフォーム事業については、事業収益が1億6,200万円となり、セグメント利益は3,300万円を計上しています。

財務状況

財務状況についてです。これまで同様、財務基盤は強固な状態を維持しており、期末時点では現預金が44億円ほどあります。そのため、直近で資金調達が必要な状況にはないと考えています。

2026年6月期 重点施策

2026年6月期の重点施策についてご説明します。1つ目に、不眠障害治療用アプリを保険収載した上で販売を開始する方針を掲げています。ただし、保険点数や保険収載の時期については現時点ではお伝えできず、未確定となっています。そのため、このタイミングでの業績予想の開示は控えます。

2つ目のパイプラインの開発進捗については、複数のパイプラインの進捗が控えています。これらの試験の開始や、特定臨床研究の結果の公表、あるいは完了を目指して進めていきます。

3つ目の臨床試験システムについては、稼働実績をさらに積み上げることで、DTxプラットフォーム事業の売上向上を掲げています。ご説明は以上です。

質疑応答:不眠障害治療用アプリの保険償還と販売開始時期について

質問者:不眠障害治療用アプリについて、保険償還時期や保険点数など、現時点で詳細をお話しいただけないことは承知していますが、一般論として、承認後の書類のやりとりは終了しているのでしょうか? また、手続きが完了した段階で保険適用希望書を提出すると思いますが、その時期はいつ頃を予定していますか? 今期中の保険償還および販売開始の確度について、あらためて教えてください。

上野:すでにプログラム医療機器調査会で承認の了承をいただいています。しかし、一部の記事等でも指摘されているように、使用目的を明確にすることに関しては、厚生労働省に書面で対応していただくことになると聞いています。我々としては、これが完了し、正式な承認となり次第、極力早く保険適用希望書を提出できればと考えています。

希望書提出までの期間はそれほどかからないのではないかと思いますが、厚生労働省が公表しているデータでは、保険適用希望書を提出してから実際に保険収載されるまでの期間は平均4ヶ月から5ヶ月程度です。保険収載され次第発売できれば、今期中の売上計上については十分可能であると想定しています。

質疑応答:不眠障害治療用アプリの保険収載のハードルについて

質問者:不眠障害治療用アプリについて、前回のお話では、対面でのCBT-I(認知行動療法)を踏襲するかたちで申請を行ったものの、不承認となったとのことでした。今回は名称も変更され、おそらくCBT-Iという言葉も用いず、単体での価値を高めるために睡眠薬との比較データなどを提出していると認識しています。つまり、アプリ自体の価値が評価されるように保険収載承認の枠組みを工夫して進めているのではないかと思います。

この点について、当局との話し合いである程度筋道はついているのでしょうか? 保険収載に向けて、現在の課題やハードルをお聞かせください。

上野:前回、私たちが保険適用希望書を取り下げたのは、認知行動療法を支援するという位置付けや使用目的となっており、対面で行われる認知行動療法の技術料が不眠症に対して承認されなかったことから、私たちの保険適用も見送られる結果となったためです。この点に対応することが、今回の一部変更承認申請の目的となっています。

また、2024年度の診療報酬改定において、プログラム医療機器の保険上の評価方法が変更されました。それにより、診療報酬の技術料を準用するのではなく、原則として、医療機器そのものを特定保険医療材料と捉え、保険点数を評価する枠組みになりました。したがって、その枠組みに沿った対応も進めてきています。

いくつか報道でも取り上げられましたが、今回の一部変更承認申請に関する部会や調査会の中では、我々は不眠障害の治療支援としての位置付けで審議を受けました。その結果、使用目的を明確にするようにとのコメントはありましたが、対面での認知行動療法を支援するのではなく、単体で不眠障害の治療を支援するものとして承認手続きが進むことになります。

おっしゃっていただいたように、これまでの治療用アプリにはなかった睡眠薬などの医薬品との比較データも提示した上で、一部変更承認の了承を得るところまで来ました。したがって、前回のような技術料に点数が付くかどうかという議論とは無関係に、プログラム医療機器として評価を受けられる状況が、今回の一部変更承認の了承によって整ったと考えています。

質疑応答:不眠障害治療用アプリの研究開発費について

質問者:不眠障害治療用アプリについて、承認や保険適用が未定であるため、業績開示を控えていると思いますが、会社計画として研究開発費が前期に対してどの程度になるのか教えてください。

上野:今期の業績予想は、不眠障害治療用アプリの保険収載のタイミングと点数がまだ確定していないため、非開示としています。

4月にはSMD402の企業治験を開始しており、今期の重点施策の中で後続のパイプライン開発を進めることも掲げています。そのため、研究開発費は前期の2億7,300万円と比較して増加すると見込んでいます。後続のパイプラインの開発進捗を着実に進めることを想定しています。

質疑応答:不眠障害治療用アプリの海外売上高について

質問者:日本では治療用アプリの売上が伸びていない現状があると認識しています。不眠障害治療用アプリについて、ドイツやイギリスなど海外ではすでに販売されていると思いますが、それらの国での売上規模がわかれば教えてください。

上野:ご指摘のとおり、ドイツなどでは日本よりも早い段階から不眠障害治療用アプリが上市されています。特にヨーロッパの不眠症ガイドラインでは、スライドにあるとおり、「睡眠薬よりも治療用アプリを推奨する」とされており、不眠障害治療用アプリは実臨床で使用されていると認識しています。

ただし、売上規模については、事業者が未上場企業であるという背景もあり、把握できていない状況です。

金額的な話ではありませんが、最近では、海外で治療用アプリの実臨床に関する論文が複数発表されています。例えば、ドイツでは2020年頃から実際に不眠障害治療用アプリが使用されており、2021年から2023年にかけて数千人規模の患者の実臨床データが集約され、2025年にはそれに基づく論文が発表されています。このことから、実臨床においては少なくとも普及が進んでいる状況と認識しています。

なお、ドイツで保険収載されている不眠障害治療用アプリの価格は4万円前後なので、それなりの売上規模があると考えています。

治療用アプリの普及は疾患領域の特性によるところも大きく、不眠障害ではおそらく睡眠薬の過剰処方の問題があるため、治療用アプリが推奨されるガイドラインが制定されているものと捉えています。日本でも同じように、不眠障害の治療において治療用アプリを普及していければと考えています。

質疑応答:中期経営計画を開示する可能性について

質問者:不眠障害治療用アプリが保険収載され、業績予想が立てやすくなった段階で、短期の業績だけでなく、中期的な見通しを含めた中期経営計画を示していただけると、投資家として非常に安心できます。ぜひそのような対応をご検討いただければ幸いです。

上野:不眠障害治療用アプリを上市し、塩野義製薬と共同で販売を行うことで、将来的な売上規模が見えやすくなってくるのはおっしゃる通りかと思います。今後は複数年先の見通しなども立てやすくなると思いますので、中期経営計画の開示についても検討していきたいと考えています。