エグゼクティブサマリー
上田桂司氏(以下、上田):株式会社ASNOVA代表取締役社長の上田です。本日は、2025年3月期の決算についてご報告します。
本年4月1日に、シンガポールの仮設トイレレンタル会社のM&Aをしました。2026年3月期にはこちらのM&Aが寄与し、大幅な増収増益を見込んでいます。
今期からはM&Aを積極的に展開し、連続的な非連続的成長を実現していきたいと考えています。2025年3月期についても、売上高および調整後の償却前営業利益は過去最高となりました。
業績ハイライト
2025年3月期の業績についてご説明します。売上高は前年同期比プラス4億8,000万円で、12.7パーセント増の42億6,600万円で着地しました。
シンガポールのトイレレンタル会社Qool社のM&Aに関する費用計上を足し戻した調整後償却前営業利益は、前年同期比で1億2,700万円増の約20億円となり、売上高とともに過去最高値で着地しています。
損益計算書(前年同期比)
損益計算書です。調整後償却前営業利益率は前年同期比で2.6パーセント低下しましたが、依然として46.8パーセントと高い水準で推移しています。
連結償却前営業利益増減要因分析(前年同期比)
連結償却前営業利益の増減要因分析です。M&Aに関する調査費用・仲介手数料等により販売費及び一般管理費が大きく増加し、償却前営業利益は微減となりました。しかし、前述のとおり一過性のM&A関連費用を調整すると、19億9,800万円と過去最高値を更新しています。
業績推移
業績推移です。売上高は順調に推移しています。先ほどもお伝えしたとおり、償却前営業利益はM&A関連費用により、前年比で減少となりました。しかし、依然として高い水準で推移しています。
貸借対照表
貸借対照表です。現金が大きく増えていますが、翌月4月1日のQool社の買収資金の借入が要因で、一時的な増加です。
2026年3月期の業績予想
2026年3月期の業績見通しについてご説明します。今期の業績予想は、Qool社のM&Aが寄与して大幅な増収増益を見込んでいます。
売上高は前期比23.4パーセント増の52億6,500万円、重要な指標である償却前営業利益は前年比31.5パーセント増の24億5,300万円です。営業利益は、731.3パーセント増の4億500万円を見込んでいます。
2026年3月期の業績予想(グループ会社別)
スライドには、事業会社ごとに分けた業績予想を掲載しています。ASNOVA社およびQool社は非常に収益力が高い事業となっています。今後のM&Aの展開に向けての収益基盤となっています。
「ASNOVA Vietnam」はまだ投資フェーズのため、利益を出すには時間がかかります。2030年の営業利益黒字化に向けて、ベトナムで大きくシェアを取れるよう、今後認知度の向上に努めていきます。
M&Aが連結業績に与える影響について
M&Aが業績に与える影響についてご説明します。2026年3月期に計上予定のM&A関連費用は、2,500万円となります。Qool社の業績への寄与は2026年3月期第2四半期からとなり、4月から12月までの9ヶ月分の業績が、今期の連結業績へ反映されます。
経営計画と戦略開示の考え方
今後の成長戦略についてご説明します。当社はこれまで、中期経営計画として3ヶ年の事業計画を策定し公表してきました。しかし、昨今はVUCAの時代とも呼ばれ、変化が激しく先行きが非常に不透明な状況が続いています。
このような状況に加え、当社は今期から重要な戦略として、M&Aを通じた非連続的な成長を掲げています。M&Aの成否によって数値の目標が大きく変わることから、3年後の目標値を設定することは、かえって投資家のみなさまを混乱させてしまうことになると考えています。
したがって、より長期的な目線で「2030年のありたい姿」を策定し、そちらに向けたバックキャスト型に思考をシフトし、今後は、単年の業績目標を設定し発表する方針にしていきたいと考えています。
また、当社はこれまでマンスリーレポートで月次の業績と前年同月比率を公表していましたが、今後も計画しているM&Aにより海外売上比率が高くなっていくと想定できることや、足場の投資を抑えて回収フェーズへと移行するため、今後は発表を中止します。
2030年のありたい姿
当社は、「2030年のありたい姿」として、「足場レンタル事業が確固たる収益基盤となり新規事業が成長エンジンとして一層の収益拡大を牽引する高収益のグローバルな循環型ビジネスのエクセレントカンパニーでありたい」と、掲げました。
収益力の高い国内レンタル事業は確固たる収益基盤となり、M&A戦略による海外レンタル事業の展開、レンタル事業以外の循環型ビジネスを模索し、連続的な「非連続的な成長」を実現していきたいと考えています。
今後の成⻑戦略
今後は、足場レンタル事業は今後も磨き上げを続けながらも、これまでのような大きな投資を足場レンタルに集中させず、その他の事業のM&Aに力を入れていきます。
特にASEANを中心とした海外のレンタル事業会社のM&Aを加速し、2030年のありたい姿の実現を目指していきたいと思っています。一方、進出しない領域も明確にして、M&Aに対するポリシーを大切にしながら、投資を実行していきます。
当社のこれまでの足場レンタル事業と収益構造
当社は2013年に足場レンタル事業を開始し、旺盛な市場ニーズに加え、ニッチな産業であるくさび式足場のレンタルに特化することで、事業を成長させてきました。特に売上高や収益力を表す償却前営業利益は、直近でも過去最高値を記録しています。
足場レンタルの需要は非常に旺盛で、まだ成長していくと認識しています。しかし、これまでの投資フェーズでは足場投資のみに特化し、足場の償却負担が重くなかなか利益が上がらない収益構造となっていました。
一方、5年の足場の減価償却期間に対して、使用期間は20年〜30年と長く使用することができています。したがって、回収フェーズに入り足場への投資を抑制すれば、償却が終わり減価償却費が減少していくことで営業利益率は飛躍的に向上し、営業キャッシュも大幅に増えます。
足場レンタル事業が10年を超えたこともあり、これからは足場レンタル事業のみに大きく投資することなく、回収フェーズへ舵を切っていきたいと考えています。今後は足場レンタル事業が確固たる収益基盤となり、新規事業へ大きく投資ができるフェーズへと切り替えていきます。
M&A戦略におけるM&Aポリシー
これからM&Aを加速するにあたって、M&A戦略におけるポリシーを策定しました。こちらを遵守しながら、スピード感を持って非連続的な成長を実現していきます。
なぜASEANへ進出(M&A)するのか
この度、シンガポールにあるトイレレンタル会社を買収しましたが、ASEANへ進出した理由についてご説明します。
スライドにも記載しているとおり、国土面積、人口、名目GDPの成長率どれを見ても、日本と比較にならないほどであり、今後も大きく成長が期待される市場となっています。一説によれば、2050年にはASEAN全体のGDPは、日本に比べて3倍以上の開きになると予想されるほど、大きく成長が見込まれる市場です。
人口が減少していく日本に対し、人口も経済も拡大していくASEANへの進出は、今後企業価値をスピード感を持って成長させるためにも重要な戦略であると考え、ASEANでM&Aを含む新規事業に投資していくことを決断しました。
なぜシンガポールの会社をM&Aしたのか(1)
ASEANの中でも、なぜシンガポールの会社をM&Aしようと考えたのかについてもご説明します。シンガポールは、周辺のASEAN諸国へ2時間30分程度で移動ができるため、アクセスが非常に良く、今後ASEANに展開していく上でハブとなる国だと考えています。
将来的にはシンガポールに地域統括会社を構え、ASEANでのM&Aのスピード感を上げていきたいと考えています。
なぜシンガポールの会社をM&Aしたのか(2)
シンガポールでは、今後10年で高齢化や後継者不在問題などさまざまな理由によってM&Aが増えてくると予測されています。今後増加することが見込まれるM&Aに、今から経験値をしっかり積み重ね、本格化する事業承継のM&Aに備えていきたいと考えています。
なぜシンガポールの会社をM&Aしたのか(3)
シンガポールは税制面でも非常に優遇されており、日本やアメリカ、ASEAN諸国と比較しても大きく優位性があります。これまでご説明した成長性やASEAN諸国へのアクセス、今後の事業承継のM&Aや税制面を考慮しても、大変優位性のある国だと考えています。
なぜトイレレンタル事業をM&Aしたのか(1)
トイレレンタル事業のQool社をM&Aした理由について、ご説明します。理由の1つ目は、当社は足場レンタル事業に長年携わってきたため、レンタル事業の収益性や管理ノウハウの知見、経験が豊富であることが挙げられます。
レンタル事業においては、在庫管理や品質管理が非常に重要です。特に足場レンタルは管理が非常に難しく、今までの事業で得た当社独自の管理ノウハウを、今回のトイレレンタル事業でも大いに活かせると考えています。
なぜトイレレンタル事業をM&Aしたのか(2)
2つ目の理由は、収益性が非常に良い点です。足場レンタル事業と同様、仮設トイレの減価償却期間は5年ですが、10年以上の利用が可能です。また、仮設トイレは一部の部品が壊れても部品を取り替えて修理が可能なため、長期間のレンタルが可能です。足場レンタル事業と同様に、非常に高い収益力があるのが特徴となっています。
Qool社 特⻑:収益性の高さと安定した顧客基盤
Qool社を買収先として選定した理由について、ご説明します。理由は大きく2つあり、1つ目は収益性の高さです。先ほどもお伝えしたとおり、レンタル事業は適切に在庫を管理することで、償却期間を超えても長期間のレンタルが可能です。
Qool社では、実際に現存するトイレで最も古いものは16年程度経過しており、創業期から利用されているものになります。直近の償却前営業利益率は38パーセントで、売上高純利益率は22.6パーセントと非常に高収益なビジネスモデルとなっています。
また、Qool社は2006年の創業以降、約600社との取引実績があり、安定した顧客基盤を作っています。全体の売上の約8割を長期レンタルが占めており、安定した業績につながっています。以上がQool社を買収先として選定した理由です。
想定されるシナジー
今回のM&Aによって予想されるシナジーとしては、仮設機材の中でも最も在庫管理が難しいとされる、足場レンタル事業によって培ってきた在庫管理ノウハウをQool社と共有することで、仮設トイレレンタル事業における商品の高寿命化や業務の効率化を図っていきます。
また、ASEANのハブ機能を獲得したことで、M&A戦略が力強く加速することを期待しています。
今後のM&A投資戦略の方向性
最後に、今後のM&A戦略についてご説明します。今後3年間は、特にレンタル事業を軸にASEANでM&Aに投資し、成長を加速させたいと考えています。投資額は、営業キャッシュ・フローをもとに3年で約60億円と想定しています。
「2030年のありたい姿」に向けて、足場レンタル事業が確固たる収益基盤となることで得られる収益を、新規事業やM&Aへ投資を配分し、新規事業が成長エンジンとして非連続的な成長を実現していきたいと考えています。
質疑応答:借入の追加について
司会者:「今期から足場レンタル事業は回収フェーズに入るとのことですが、すぐにフリー・キャッシュ・フローが増えるわけではないと思います。その間に進めるM&Aについて、借入の追加も考えていますか?」というご質問です。
上田:例年、足場レンタル事業では20億円から30億円の投資をしてきました。そのため、営業キャッシュ・フローとしては約20億円のキャッシュを生み出すことができると考えています。しかしながら、主な借入先として金融機関からの調達を主としながら、必要に応じて借入をしていきたいと考えています。
質疑応答:足場の会社のM&Aについて
司会者:「今回はトイレレンタル事業でしたが、東南アジアでは買収できる足場の会社は存在していないのでしょうか?」というご質問です。
上田:もちろん、そのような会社があれば積極的に検討していきたいと考えています。少しずつ興味のある会社について、実際に案件が届いています。今後、「M&Aポリシー」を大切にしながら、適切なバリエーションで取引ができるよう慎重にM&Aを検討していきたいと考えています。
質疑応答:日本での仮設トイレレンタル事業について
司会者:「日本の仮設トイレ市場に参入するメリットはないのでしょうか? 競合環境、差別化要因を教えてください」というご質問です。
上田:日本で仮設トイレレンタル事業に進出する考えはありません。すでに過当競争が始まっており、現状でそのような考えはありません。
質疑応答:シナジーによりアップする利益率について
司会者:「共通のノウハウによるシナジーによって、足場レンタル事業とトイレレンタル事業の、それぞれの利益率は何パーセントくらいの上昇効果があるのでしょうか?」というご質問です。
上田:具体的な相乗効果はまだこれからだと思います。これまで当社は足場レンタル事業をずっと行ってきましたが、レンタル事業の中でも足場レンタルは非常に在庫管理が難しいといわれています。
一方、Qool社が保有するトイレは約3,000棟のため、管理が足場レンタル事業と比べて、非常に易しいと考えています。しかし、まだまだ改善する点があるため、今後当社が持つ管理ノウハウを活かしていきます。具体的な利益率はまだ見えませんが、向上できると考えています。
質疑応答:売上原価が減少する年について
司会者:「スライド18ページの右側のチャートによると、現在のフェーズが売上原価が減少し始めるタイミングにあります。しかし、2026年3月期の国内事業の損益予想では、まだそのフェーズではないように見えます。現状の投資計画だと、売上原価が減少する年は2027年3月期でしょうか?」というご質問です。
上田:おっしゃるとおりです。今期に投資額をぐっと抑えたため、影響が出始めるのは来期からになります。
質疑応答:ベトナムの足場市場の状況について
司会者:「ベトナムの足場市場の状況を教えてください。レンタル足場が使用されるような現場環境になっているのでしょうか? 現状は何名で運営されているのでしょうか?」というご質問です。
上田:「ASNOVA Vietnam」でのレンタル事業は、機材センターのスタッフを含めて10名で運営しています。当社のくさび式足場の認知度は、まだ低いと考えています。しかし、非常に品質が良いため、一度使っていただくと次回につながるお客さまが非常に多くいます。
とはいえ、現在はまだ投資フェーズであり、営業利益の黒字化はまだ遠いと考えています。2030年の営業利益の黒字化に向けて、認知度向上に努めているところです。
質疑応答:海外事業展開の知見や人的資本を牽引するためのバックグラウンドについて
司会者:「ベトナムや今回のシンガポールでのM&Aなど、ASEANに積極的に展開されています。海外展開を行う中で、御社の海外事業展開の知見や人的資本を牽引するためのバックグラウンドには、どのようなものがありますか?」というご質問です。
上田:正直に申し上げると、今回のクロスボーダーのM&Aは初めての経験です。当然シンガポールの会社のM&Aも初めてのため、まだ知見も経験もありません。これから、多少失敗もするかもしれませんが、人材も含めて知見や経験を豊富に積み重ねていきます。
シンガポールも、10年後には事業承継問題が始まるといわれています。また日本と同様に、すでに後継者問題が始まっています。その時に備えて、今はしっかりと人材や経験値を積み重ねる期間だと考えています。いずれは、年間に3社から5社くらいのペースでM&Aができる体制にしていきたいと考えています。
質疑応答:「ASNOVA Vietnam」の投資計画について
司会者:「『ASNOVA Vietnam』はまだ投資フェーズが継続していますが、1拠点しかないことが原因とのことです。2030年度には投資フェーズから脱するとのことですが、どのような投資計画を考えていますか?」というご質問です。
上田:「ASNOVA Vietnam」での足場投資は、基本的には日本から足場を輸送し拡大しています。投資配分としては、「ASNOVA Vietnam」への投資を大きく加速させるよりは、どちらかと言いますとM&Aなどに振り分けたいと考えています。
足場レンタルは管理が非常に難しいため、現地スタッフの教育が必要になります。じっくりと着実に投資を増やし、お客さまを増やしながら、2030年の営業利益の黒字化に向けて着実に積み重ねていきます。日本の足場レンタル事業が生み出す収益は、M&Aなどの新規事業に振り分けていきたいと考えています。
質疑応答:収益性の回復について
司会者:「国内事業のEBITDAは、当初の中期経営計画では2025年3月期は22億円、2026年3月期は26億円でしたが、2025年3月期実績で20億6,000万円、2026年3月期予想は22億4,000万円と、だんだん劣化しています。
中期的な国内事業の収益性の見通しを以前よりも下方に見ておいたほうがいいでしょうか? 2025年3月期はレンタルより販売へシフトしたためとご説明がありましたが、2026年も収益性が回復しない背景を教えてください」というご質問です。
上田:おっしゃるとおり、直近の数年間はレンタルの需要が旺盛でありながらも、レンタルよりも販売の需要が特に前期は多かった印象です。今期はお客さまに値上げにご協力いただきましたが、収益性も以前と比べ、少しずつですが悪化しているのは否めないと思っています。
今後は物価上昇に合わせて適正価格に値上げし、収益性を高めていきたいと考えています。また、機材センターの出店を、あと1年か2年くらいは年に1ヶ所程度新規オープンしたいと思っていますが、今後はそれ以上の大きな機材センターの出店は考えていません。
そうすれば機材センターに関わる減価償却もどんどん終わっていくため、より収益性が高まると考えています。今後の課題は、レンタル価格の見直しと、機材センターの出店を早く終わらせ、より収益を高めるところがポイントだと考えています。
質疑応答:レンタル事業の減益要因と今後の成長方針について
司会者:「2025年3月期決算短信を見ると、仮設機材レンタル事業は前年比9.3パーセント増、仮設機材販売は44.4パーセント増と、確かに販売が大幅に増えています。レンタル事業も2桁に近い伸びを達成しましたが、一方で個別業績の営業利益が減益となった理由は何でしょうか?
また、営業利益の増益を確保するためには、レンタル事業は今後どの程度の成長が必要とお考えでしょうか?」というご質問です。
上田:今後は、足場への投資をぐっと抑える方針のため、レンタル売上の大きな増収は、正直見込んでいません。どちらかと言えば、収益力を高めるために、レンタル価格の適正化や稼働率を上げる方向へ舵を切りたいと考えています。
前期において大きく営業利益が下がった要因は、やはりM&Aに関連する費用が大きかったと考えています。初めてのM&Aということもあり、さまざまな有識者の方にDDなどのコンサル費用が大きく発生しました。
また、今回のM&Aは1件にとどまりましたが、数件のM&Aを検討していたため、そのM&A関連費用が大きかったことも営業利益の抑制につながりました。さらに、仲介会社への成功報酬が発生しています。そのようなM&A関連費用が、前期において営業利益が減益となった1番の大きな影響だと考えています。
質疑応答:M&A関連費用の会計処理と今期への影響について
司会者:「前期のM&A関連費用1億3,200万円は販管費に計上されたのでしょうか? また、今期にM&A費用がまたがる理由を教えてください」というご質問です。
上田:はい、販管費に含まれています。それから、今期に計上するM&A関連費用2,500万円については、いわゆる成功報酬等を含んでいません。DDないしPMIに係るM&A関連費用となっています。
質疑応答:営業外費用の内訳と主な要因について
司会者:「今期の営業外費用が大きいように見受けられます。具体的にどのような項目が含まれているのか教えてください」というご質問です。
上田:1番の大きな要因は銀行からの借入にかかる借入金利です。今回、4月1日に買収した大きなM&Aに伴い、金融機関から借入を行いました。そこにかかる金利が、最も大きな要因です。
質疑応答:国内レンタル分野におけるM&Aの可能性について
司会者:「国内で他社の足場や広くレンタル分野としてのM&Aのチャンスは現状ありませんか?」というご質問です。
上田:具体的なことは申し上げにくいですが、ないこともありません。とはいえ、「M&Aポリシー」にもあるように、収益力の高いレンタル会社にこだわっています。そのため、当社のビジネスとシナジーがあり、収益力の高い会社があれば、国内でも積極的に検討していきたいと考えています。
質疑応答:くさび式足場レンタルの市場シェアと競合環境について
司会者:「足場レンタルは管理などを含めて難易度が高いとのお話でした。これが御社事業への参入障壁になっていると思います。御社の市場シェアは現状どのくらいありますか? また市場での競合状況についても教えてください」というご質問です。
上田:くさび式足場のレンタルに特化して言うと、国内シェアは過半数を占めていると考えています。各地域には、その地域のみでレンタルを行っているくさび式足場のレンタル会社が多数あります。しかし、当社は全国に39拠点の機材センターを展開しています。そのように多拠点展開をしているくさび式足場のレンタル会社は、非常に少ない状況です。
そのため、あくまでもくさび式足場のレンタルに関しては、トップシェアを占めているという認識です。
質疑応答:直営拠点とASNOVA STATIONのすみ分けおよび収益配分について
司会者:「全国各地での足場のレンタル環境整備では、拠点網の拡大が重要というお話です。直営の機材センターとASNOVA STATIONとのすみ分け、およびパートナー拠点への収益配分はどのようになっていますか?」というご質問です。
上田:市場が大きなところです。1拠点で5億円から約10億円の足場を保有しても、しっかり稼働が見込める地域に関しては、自拠点で機材センターを展開しています。
一方で、そこまで大きくない小さな市場で、5,000万円から1億5,000万円、多くても2億円程度の足場保有でそれなりの稼働が見込める市場が小さな地域に関しては、ASNOVA STATIONのパートナーに足場の管理をお願いしてレンタルを行っています。
ステーションへの収益配分について、現状ではパートナーがエンドユーザーに提供するレンタル売上の約半分が、レンタルしたと同時に当社のレンタル売上になるというイメージです。売上収益は直営店と比べて約半分程度になるような売上構成です。
質疑応答:今後の投資規模と財務戦略の考え方について
司会者:「連続的な非連続的成長ということですが、御社の財務状況や足元の景気動向に鑑みると、投資を抑えてキャッシュを積み上げ、財務状況を改善させる時期ではないかと考えています。それを踏まえて、今期から来期にかけての投資規模感およびその中身を教えてください」というご質問です。
上田:M&Aに関する投資額として、今後3年間で約60億円を想定しています。一方で、足場投資に関しては、年間で1億円から1億5,000万円、多くても3億円程度を見込んでいます。
また、機材センターの出店は、1センターを出店すると1億円から2億円の幅での投資になります。仮に今後3年間、年に1ヶ所程度の機材センターの出店を想定すると1億円から2億円、足場では1億円から3億円、M&Aでは年間約20億円の投資だと考えています。
その程度の投資であれば、生み出すキャッシュや金融機関からの借入で十分まかなえると考えています。
質疑応答:拠点数計画の見直しと中期戦略の変更背景について
司会者:「昨年の中期経営計画では、拠点数は2027年3月期57拠点へ毎年増やす予定となっています。先ほどのご説明では現在の数字から1拠点程度増やす方針だとのことでした。こちらは方針が変わったのでしょうか? それとも前提が変わったのでしょうか? 変更の背景を教えてください」というご質問です。
上田:方針を変えました。これまでは、既存の足場レンタル事業を成長させる方向で進んできました。当社は2013年の12月に設立し、実態としてはこの事業は2014年からスタートしておよそ10年経過しました。
私自身この既存事業を磨き上げて大きく投資するフェーズは約10年で終わらせたいと考えていました。この足場レンタル事業も10年ほど経過して、なによりこの事業がしっかりと収益を生み出す基盤となったと確信しています。
そして、今後より大きく企業価値を上げるためには、既存事業の磨き上げの延長よりも別の事業をしっかりミックスさせて非連続的な成長をすることが、より大きな企業価値の向上につながると考えました。
そのため、ここで一気に経営戦略を見直して、これまでの既存事業への大きな投資ではなく、M&A戦略を通じた非連続的な成長をこれからは加速させていきたい、そのような理由から、思い切って営業戦略を切り替えました。
質疑応答:上場維持基準の見直しと今後の成長方針への影響について
司会者:「東証より、上場5年以内に時価総額が100億円以下の企業は上場廃止するとの措置が発表されました。これにより、御社の今後の投資計画や利益の出し方の方針などに変化はあるのでしょうか?」というご質問です。
上田:東証の上場維持基準引き上げは、私にとって非常に追い風となっています。先月末にその発表があった前から、この既存事業の成長のみでは、時価総額を100億円、200億円、300億円へと高め、さらに次の東証プライム市場に向けたステップは、たとえ売上収益が上がっても、既存事業の延長線上だけではそこまで時価総額を上げられないと考えていました。
そのため、今年の2月から3月に「2030年のありたい姿」を策定して、これまでの既存事業の延長上ではなく新しい事業にチャレンジすることで大きく企業価値を上げていきたいと社内で発表しました。そこに東証からの維持基準の引き上げの話があったため、個人的には非常にいいタイミングだったと考えています。
2030年に時価総額100億円という基準は当然クリアしながらも、今よりも時価総額ももっと上げて、まったく別のフェーズへこの会社のステージを上げていきたいと考えています。
質疑応答:今後の人材戦略および後継者を含めた組織体制の考え方について
司会者:「上田社長は50歳とまだまだ働き盛りであると思います。海外へのM&Aなど事業範囲が広がっている中で、後継者を含め事業展開するための人材の確保について、どのように考えていますか?」というご質問です。
上田:これまでの既存事業の延長上であれば、大きな組織体系や人員もそこまで検討していく必要はなかったかもしれません。しかし私の野望としては、今後、事業会社も10社、20社、30社、40社と増やしていくつもりです。そのため組織のあり方も含め、現状スピード感を持って見直している最中です。
それにふさわしい人材の採用、登用も今後は積極的に行います。具体的には言いづらいですが、今後は何よりも組織体系の変更を含め、事業が大きくなったとしても耐えうる人材そして組織のあり方を作っていきたいと考えています。
質疑応答:中期経営計画の見直しと営業利益拡大の見通しについて
司会者:「今回の方針変更により、昨年の中期経営計画よりも営業利益が急拡大する収益計画に変わることになります。今後の投資により、M&Aで収益事業を買収するということであれば、国内事業の収益性がそのまま、あるいはそれ以上の営業利益の拡大が見込める計画になったということでしょうか?」というご質問です。
上田:おっしゃるとおりです。足場の投資を抑えるということは、一方で営業利益が高まり利益率が高まります。
そして、今後のM&Aに関しても、のれん負けになるような会社を買収するつもりはありません。のれん償却後そのまま利益が乗るイメージになるため、今後は売上の上がり方もそれから利益の上がり方もまったく別のフェーズになると考えています。
質疑応答:「2030年のありたい姿」におけるKPIの設定方針について
司会者:「足場のレンタル事業が回収に入る前に、M&Aを含めた非連続的な成長を目指した『2030年のありたい姿』は、スライドに書かれているとおりかと思います。
では、具体的な売上高、営業利益、内外の売上規模などのKPIはどのようなものを考えていますか?」というご質問です。
上田:今回のこの説明資料にも具体的なKPIを示そうかと非常に迷いました。ただ、このM&Aによる成長は非常に数字が読みづらいため、ここで開示するのは適切ではないと考え、あえて今回は数字の開示を控えています。
とはいえ、今後はどこかの場面で具体的な数値目標やKPIを示していきたいと思っています。非連続的であるとは言いながらも、もう少しM&Aの経験値を積み重ねて、およそ再現可能な数字が見えてきた時に、あらためてわくわくするような数字を説明資料等でお見せしたいと考えています。
質疑応答:顧客属性におけるシナジーの有無とM&A方針について
司会者:「事業オペレーションにおける足場ビジネスと仮設トイレのシナジーは理解できました。お客さまの属性におけるシナジーはありますか?」というご質問です。
上田:国も違いますので、お客さまのシナジーはないと考えています。前提として、今後のM&Aにおいて、我々の管理ノウハウを共有してお互いの会社の収益力を高めていくとは言いながらも、シナジーそのものを目的としたM&Aは考えていません。
仮に、売上が横ばいないし多少下がっても、しっかりと投資回収ができるM&Aであることを前提に今後も進めていきたいと考えています。
質疑応答:顧客属性におけるシナジーとM&Aの基本方針について
司会者:「現在、御社は営業キャッシュベースでは大きく成長されている一方で、利益やROEといった会計的な見た目の数字が低いせいで株価への成長が反映されていないような気がしています。この部分についてもう少しROEの目標を出すなど、会計数字を意識したIR活動行うお考えはありますか?」というご質問です。
上田:おっしゃるとおりだと思います。前々回ぐらいから重要な指標や、当社が重要な指標と考える償却前営業利益というものを開示しています。
しかし、なかなか伝わりづらいと考えています。ですので、本来の収益力を表す数字、いわゆるROEあるいはEBITDAなどのような数字をより積極的に開示して、当社の収益力の高さを、より多くのみなさまに伝えていきたいと考えています。現在IRチームとともに、そのあたりはしっかりミーティングをして議論を重ねている最中です。
質疑応答:M&A判断における投資効率と評価基準について
司会者:「『M&Aでは買収金額に負けないように』ということでした。具体的な投資効率の基準として、たとえばROICを目安にしているなどの指標はありますか? それに基づき買収に当たるもしくはやめるという部分での基準などあれば教えてください」というご質問です。
上田:私は長年足場レンタルに携わってきました。たとえば足場レンタルで言うと、5年の償却期間に対して約4年弱で投資が回収できるというビジネスになっています。
そのため、どうしても私が一番気にするところは、EBITDAマルチプルが何倍程度かということです。すなわち、いくら投資をして何年で回収できるかが非常に重要な指標だと考えています。
ただし、ここで具体的に何倍のマルチプルを検討しているかについては、まだお答えを控えたいと思っています。そしてレンタル会社ならではの収益力の高さはなかなか他社では気づきづらいですが、当社は足場レンタルをやっていますので、割安で収益力の高い会社を見つけるための知見を持っています。
私は実際に足を運んで現場を見れば、財務上のB/S上ではなかなか計り知れない魅力のあるレンタル会社を発見する自信があります。シンガポールには収益力が高く、投資回収も早い魅力のある会社が非常に多いという印象です。そのため、これからも足を運んで面談を重ね、そのような会社に投資していきたいと考えています。
質疑応答:足場機材購入需要が旺盛な理由と販売・レンタルの利益率比較について
司会者:「昨日の業績修正のリリースでは、想定よりも足場機材購入の需要が旺盛との記述がありました。足場レンタルの需要は旺盛な中で、なぜ足場機材購入の需要が旺盛なのでしょうか? レンタルと販売での利益率にはどの程度の差異がありますか?」というご質問です。
上田:新型コロナウイルス感染症の影響が数年前に収束し、市場そのものが非常に活発になっています。お客さまには、どうしてもやはり機材を保有したいというニーズも一定層あります。お客さまからすると、レンタルよりも購入したほうが利益率が高くなる傾向があるため、リフォーム現場の市場が旺盛で、お客さまの購入意欲が湧いたことが1つの大きな要因だと考えています。
利益率に関しては、なかなか簡単に比較することは難しいです。ただし、当社は足場メーカーではなく、メーカーから足場を仕入れてそこから販売するため、手数料をいただく程度の利益率しかありません。利益率で比べると、比にならないほど足場レンタルのほうが高いです。
質疑応答:Qool社の買収金額と財務指標から見た魅力度について
司会者:「Qool社の買収金額に関して、今のようなEBITDAマルチプルや他の数値指標から見た魅力度について解説をお願いします」というご質問です。
上田:Qool社の魅力は、約3,000棟のトイレを保有していて、そのうち7割強の償却がすでに終わっている点です。そのため、スライドにあるとおり利益率が非常に高いです。
また、償却前営業利益率も38パーセントと、足場レンタル事業に近いほどの利益率を誇っています。ここがやはりこのレンタル事業の魅力であり、Qool社の魅力ではないかと考えています。
質疑応答:ASEAN地域における拠点戦略の考え方について
司会者:「ASEANでの事業展開の可能性に、上田社長が注目しているとうかがいました。成長率が高いものは確かにあると思いますが、将来的に拠点をシンガポールに移すような可能性はありますか?」というご質問です。
上田:本社の拠点を移すことまでは考えていません。地域統括会社を設置したいと考えています。