オープニング

分林里佳氏(以下、分林):「ログミーFinanceの株式投資ラジオ」をご視聴いただきありがとうございます。今回の放送の進行を担当します、分林里佳です。この番組は、個人投資家、アナリスト、ストラテジストなどのインタビュー・対談などを通して、みなさまとともに投資の知見を深めていくための、ログミーFinance主催のラジオ番組です。

今回の「ログミーFinanceの株式投資ラジオ」では、ニッセイ基礎研究所所属 金融研究部主席研究員 チーフ株式ストラテジストの井出真吾さんをゲストとしてお招きし、2025年の経済見通しについても触れつつ、2025年の投資戦略について、2回の放送を通してうかがっていこうと思います。それでは、放送スタートです。

ゲスト・井出真吾氏の自己紹介

あらためまして、今回のゲストの紹介をさせていただきます。ニッセイ基礎研究所所属 金融研究部主席研究員 チーフ株式ストラテジストの井出真吾さんです。井出さん、よろしくお願いします。

井出真吾氏(以下、井出):はい。よろしくお願いいたします。

分林:井出さんはもう各方面でご活躍中ですので、メディアなんかでもお顔をご覧になった方が多いと思いますが、井出さん自身、2024年は本当にお忙しかったんじゃないですかね。

井出:そうですね。テレビとかラジオにも出させていただきましたけれども、それ以上に講演が多くて。もう北海道から九州まで、あちこち行っていました。感覚的には1ヶ月の半分ぐらい出張していた感じで、2024年はそれこそ駅弁とコンビニ弁当ばかり食べてました。

分林:それぐらいマーケットも盛り上がってましたし、みなさんの投資への注目も集まっていたからだとは思うんですが、今回の「ログミーFinanceの株式投資ラジオ」へは初出演ということなので、まずは井出さんご自身について、ここまでのご経歴や活動などについて教えていただけますか?

井出:私自身は1993年に大学を卒業して、日本生命(日本生命保険相互会社)に入ったんですね。最初の5、6年は日本生命で働いたんですが、その後、今の研究所に出向して、もうかれこれ出向歴が20年を超えてきて。「一体僕はどっちの会社に入ったんだろうか」と、そんな状況です。

投資とか株式市場に関わっているのは、もう20年ぐらいになりますかね。いろいろなデータ分析を主にやっていまして、教科書に書かれていないようなことを分析して、世の中に発信していく。しかも、私の本籍地は日本生命ですから、証券会社とは違って、投資家の視点で株式市場もしくは証券市場を分析していると。こういうことを続けてきています。

分林:『40代から始める 攻めと守りの資産形成 人生GDPの増やし方』という本を出されて……。

井出:ありがとうございます。

分林:大変好評だということなんですが、やはりデータに注目されるということは、実際にみなさんが見ている経済と、データで見てみるのとでは「違うな」と感じるところがあったりするということですよね。

井出:巷で言われていることと、実際に分析したデータとがぜんぜん違ったり、まったく逆だったりとかね。いわゆる都市伝説みたいなものが、データ分析からいろいろ見えてくるんですよ。

投資する上では経験と勘も大事ですけどね。でもやはり「データに勝るものはない」というのが私の信念でして。なので、まだ世の中で言われていないようなこと、もしくはみんなが思い込んでいること、勘違いしていることをデータ分析で明らかにしていくといったようなことを何冊か本にもまとめています。

今紹介してくださった『攻めと守りの資産形成』という本は、発売からもう2年半以上経っているんですが、実は2024年に入ってからもまた増刷がかかりまして。やはり新NISAの影響とかインフレが背景にあったり、世の中で資産形成もしくは投資に対する熱がものすごく上がってるなということを感じます。

それこそ、最近講演をしていても、けっこう若い世代の方が参加してくださるんですよ。もちろん単身の方もですが、若いお母さんが赤ちゃん連れて参加したりとか、ご夫婦と小さいお子さんで参加してくれたりとか、そんな光景もよく目にするようになってきました。

分林:やはり「何かしないと」「ちょっと大丈夫かな」という不安感も出てきて、よりそういうところに注目が集まってきたのかもしれないですね。

井出:そうなんでしょうね。やはりインフレが人々のマインドを変えたんでしょうね。

分林:そんな感じで、井出さんは経済のデータをたくさん分析されているということですので、ここから先、どうなっていくのか。井出さんの視点をうかがおうと思います。

2025年の世界経済見通し

2024年はアメリカ大統領選挙イヤーということもありましたし、さまざまな選挙が行われて、いろいろなことがあった年でした。ではその先、2025年の経済はどうなっていくのか、井出さんはどうご覧になってますか?

井出:やはり経済の中心がアメリカというのは変わらないと思うんですね。もちろん中国経済とか日本経済も大事なんですが、肝心要のアメリカ経済自体は順調に進んでいくと思っています。

アメリカが3年ほど前から利上げをして、いつ景気後退に陥るんだろうと。リセッション、もしくはスタグフレーションの懸念も一時はありましたが、最近のアメリカの経済状況を見ていると、まあ強い強い。腰折れするどころか、少しスピードアップしてるようなところも見られますからね。

2025年、トランプ政権が発足します。いろいろな不安は渦巻いてはいるんですが、私はそんなに心配していなくて。というのも、トランプ(ドナルド・トランプ)さんのやり方には賛否があると思います。乱暴なやり方もするかもしれませんが、基本的にはアメリカを強くするんだと。「Make America Great Again」を最優先に掲げているわけですから、基本的にアメリカ経済は強くなるんだろうと。

ただその過程で、例えば関税を引き上げるとか。これはまだ先行き不透明感が高いですが、実際に関税を引き上げれば、一時的には世界全体の貿易量が減ってしまったり、当然、金融市場も上に下に大きく振り回される場面は増えるんだと思います。

なので、全体的にはボラティリティ、変動率が高い。これはマーケットだけではなくて経済そのものもだし、政治っていう意味でも大きく揺さぶられる場面は増えるんだと思います。ただそういう中でも、アメリカ経済は基本的には強くなっていく。成長していく。同盟国の日本にとっても、一定の恩恵があると思います。

じゃあもう1つの大事な経済圏である中国ですよね。中国については正直、私は楽観していません。中国の消費は減る一方です。これが簡単に反転して回復に向かうかというと、正直難しいと思います。よく言われているように、中国では失業率が非常に高いですし、住宅市場の処理もまだ全然終わっていないんですよね。

最近では中国がデフレを輸出しているような状況です。これは言葉を選ばずに言えば、習近平さんが4期目を諦めるとか、そういった大転換、コペルニクス的な大転換でも起きない限り、中国経済が回復に向かうのはちょっと難しいんじゃないかなと思ってます。

分林:対アメリカ、米中の対立というところでも影響を受けそうですし、世界全体で見て、アメリカはいいとしても、中国とかヨーロッパはどうなるのか。直近のIMF(International Monetary Fund)の経済見通しを見ても成長率は2024年と変わらないということだったんですが、その地域差、国での差はちょっと出てきそうかなという感じがしますね。

井出:そうですね。今申し上げなかったところでいうと、ヨーロッパは厳しいでしょうね。ドイツはEUの中でも最大の経済大国ですが、そのドイツは今、ヨーロッパの病人といわれていますよね。

結局、ドイツ経済はこれまで中国に頼りすぎていたわけです。エネルギーに関しては、ロシアに頼りすぎていたわけですね。フォルクスワーゲンなんて一時期は中国でものすごく売れていましたが、今は電気自動車、BYDやテスラに押されちゃって、二進も三進もいかなくなっていると。ですから、ヨーロッパは2025年も厳しいんだろうと思います。

分林:政治的にも経済的にも、ちょっと不安なところがありますよね。

井出:そうですね。世界経済全体としては成長するんでしょうけれど、その中で濃淡は出てくると思います。

2025年の日本経済の見通し

分林:それらの影響をじゃあ日本はどう受けるのかというところですが、2025年の日本経済はどう見ていますか?

井出:日本経済も緩やかな成長が維持されるとみています。GDPの伸び率でいうと、実質1パーセントぐらいでしょうかね。ですから、我々の生活実感としても、「良くはないけど悪くもない」かなと。そんな感じだと思うんですね。我々に直結する賃上げ、2025年春の賃上げは一定程度なされるでしょう。ただ2024年と比べると、賃上げ率は少し下がるかもしれませんね。

その一方で、インフレ率も徐々に落ち着いてきました。2025年も少しずつ落ち着いていって、2025年の後半にはおそらく2パーセントを切ってくると思うので、そういう意味では、実質賃金がプラスの状態を維持できる可能性が出てきていると思います。

2024年は年の前半途中までは実質賃金マイナスの状態が続いていたんですが、2025年は、場合によっては実質賃金プラスがわずかですが維持されることになりそうですから、生活実感としては2024年よりも2025年のほうが少し良いかもしれません。

それこそ最近議論になっている103万円の壁ですよね。あれは金額がどこになるかはまだわかりませんが、多少なりとも壁が引き上がる、すなわち実質減税ということになるわけですから、年収が変わらなければ手取りは多少増えるということですよね。

注視しておきたい2025年の物事や動き

分林:「そこで消費が促進されていくかどうか」というところになると思うんですが、ではそれら世界経済見通しや日本の経済見通しの中で、井出さんが「ちょっとここは注視しておきたいな」「なにかネックになってきそうだな」と見ているところってありますか?

井出:やはりトランプ政権の動向が一番だと思います。特に「移民を排除する」「不法移民を追い返す」とか言っていますよね。あと関税の引き上げのところですね。この2つが鍵になるかと思います。

まず移民を排除してしまうと、アメリカの国内では人手不足になる。そうするとアメリカの企業は賃上げをしなければならない。そうすると、アメリカの企業は賃上げした分を価格転嫁しなきゃいけないですよね。結果、インフレになってしまうかもしれない。

せっかく落ち着いてきたアメリカのインフレが、再燃してしまうリスクが出てきます。トランプさんが選挙戦の時は「不法移民1,100万人を追い出す」って威勢のいいこと言っていましたが、実際は不法移民だろうが正当な移民であろうが、彼らって、いわゆるエッセンシャルワーカーが多いんですよ。建設業であったり、ヘルスケアであったり。なので、彼らを本当に追い出すことができるかというと、そんな簡単な話ではないでしょう。

例えばトランプさんが演説で話したり、もしくは日本時間の夜中にSNSで何を言い出すかわからない、そういう怖さはありますが、そのすべてが実行されるとは限らないというところは、我々は冷静に見ておく必要があるんでしょうね。

それから関税については、おそらく2025年の夏かそれ以降ぐらいに本格化してくると思います。ただ関税も本当に引き上げるかどうかというと、単なる交渉の材料として、相手国から譲歩を引き出すだけの材料かもしれません。

実際、前回のトランプ政権の時は、日本に対しても「自動車の関税を引き上げる」とか、かなり高めのボールを投げてきたんですが、最終的にはさほど関税率は上がらずに決着したという前例もあります。

そういう意味では、トランプさん、もしくは周辺要人の発言を巡って一喜一憂する場面は増えるとは思いますが、投資する観点からは、そこは冷静に見ておくことが大事になると思います。

分林:まだまだお話うかがっていたいんですが、残念ながらお時間となってしまいましたので、今回の放送はこちらで締めたいと思います。次回も井出さんにお話をうかがっていければと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

エンディング

今回は、ニッセイ基礎研究所所属 金融研究部主席研究員 チーフ株式ストラテジストの井出真吾さんをゲストにお招きして、2025年の経済の見通しについてお話をうかがってきました。みなさま、いかがでしたでしょうか? 次回の放送では2025年の投資戦略についてうかがっていく予定です。お楽しみに。

なお、この放送については書き起こし記事も公開されますので、気になる方はログミーFinanceのWebサイトをぜひご覧ください。この放送の書き起こし記事内では、次の放送のテーマや出演者の募集を行う予定です。「こんなテーマを聞いてみたい」「この人に出演してほしい」など希望がありましたら、ぜひご意見をいただければと思います。

では今回は以上になります。また次回の放送でお会いしましょう。さようなら。