はじめに

司会者:パネルディスカッションに移ります。パネリストは、引き続き当社代表取締役社長CEOの堀健一、社外取締役の内山田竹志、社外監査役の玉井裕子、代表取締役副社長執行役員CHROの竹増喜明、ファシリテーターはダイバーシティ推進委員の千歳敦子です。では、千歳さん、よろしくお願いします。

千歳敦子氏(以下、千歳):みなさま、こんにちは。ファシリテーターを務めます、ダイバーシティ推進委員の千歳です。ここからは、人材マネジメントをテーマに、パネルディスカッションを進めたいと思います。パネリストのみなさま、どうぞよろしくお願いします。

当社では、今年9月に当社初となる人的資本レポート『「未来をつくる」人をつくる』を発刊しました。はじめに、今般のレポート発刊にあたって込めた思いや、当社の人材戦略の概要について、竹増CHROからご説明いただきたいと思います。

人材戦略の概要

竹増喜明氏(以下、竹増):はじめに、あらためてお話ししたいのは、当社が長い歴史を通じて、人を本当に大切にしてきた会社であるということです。当社にとって人を大切にすることとは、人を絶えず経営の中心に置いているということです。

みなさまもご案内のとおり、当社は非常に幅広い産業領域で、多種多様な事業展開をグローバルに行っています。その結果、どうしても当社の活動は、外から総体として見た時に、少しわかりにくい部分があると思います。

したがって、今回のレポートの発刊に際しては、幅広いステークホルダーに対して、人材・人的資本という切り口で、当社への包括的な理解を少しでも深めていただくことを第一に考え、工夫を凝らしました。

その上で、このレポートが投資家のみなさまにとって、当社が連綿と続けている人材への傾注が、当社の持続的な企業価値の向上とどのように結びついているのかについて、より深く理解していただくための1つの契機、一助となればと願っています。

レポートの作成にあたり、当社で実際に活躍している多様な社員を取り上げ、当社が過去数年にわたって注力してきた社内外の研修制度の充実や、来年に実行する予定の大幅な人事制度の改定、働き方改革のためのさまざまな人事施策など、当社の現状と向かうべき方向を理解していただくために、経営データを示して、可能な限りわかりやすくご紹介するように意識しました。

数度にわたる経営会議での議論を経て、最終的には取締役会で内容の確認を得て、レポート発刊の運びとなっています。一方で、発刊の準備を通じて、改善点もいくつか見えてきました。こちらについては今後、読者からの指摘や要望事項も踏まえて、内容のさらなる充実に努めていきたいと思います。

今回は率直なところ、「まずはこのようなレポートを出してみよう」という考えから、発刊の運びに至りました。種々の改善点については、それをもとに、みなさまと双方向的なコミュニケーションを行う1つのきっかけになればと考えています。

当社は2026年3月期を最終年度とする中期経営計画の中で、グループ経営力の強化を掲げています。この実現のために具体的な人材戦略を、3つ挙げています。第一に、多様な強い「個」の育成、第二に、このために必要となるインクルージョンの実践、そして最後に、グローバルでの適切な人材配置の徹底です。

当社において、まず人材の価値を最大限に引き出し、それをさらに高めることを通じて、持続的な企業価値の向上を図っていくことは、最重要経営課題です。

人材への投資を通じて社員の成長が促され、成長した社員には、持続的な企業価値の向上に大いに貢献していただき、企業価値の向上を通じて、さらに人材への投資を力強く継続することができるという好循環を、このレポートのアップデートを通じて、今後も引き続き、みなさまにわかりやすく示していきたいと思っています。

千歳:竹増さん、ありがとうございました。

人材戦略の特徴、当社の課題

千歳:内山田取締役、玉井監査役は、これまで他社でも役員を務めた経験をお持ちです。社外役員の立場から、当社の人や人材戦略の特徴、当社の課題について、それぞれのお考えをお聞かせください。まずは内山田さん、よろしくお願いします。

内山田竹志氏(以下、内山田):三井物産を外から見ていた時には、よく「人の三井」という評判を聞いていました。実際に自分が会社の中に入ってみると、本当に人材育成と人材活用を重視している会社だと知ることができました。

先ほど竹増副社長から説明があったように、人材戦略の3本柱である人材育成、インクルージョン、適切な人材配置による人材の活用が、非常に上手く回っているという実感があります。人材戦略に関する社内の議論は、非常にオープンなかたちで行われており、その結果を単なる職制レベルにだけではなく、社員全員で共有していく努力が日々行われています。

人材という面に限らず、経営トップと若い社員との直接的なコミュニケーションがさまざまな機会で積極的に行われています。人材育成に関する考え方はもちろんですが、俯瞰的な高い視点での経営トップの話を、若い社員が直接聞けるチャンスを設けることを、現在、堀社長がとても積極的に進めています。

その結果、多くの若い社員にいろいろなチャンスを仕事として提供することができ、また若い社員たちの多様な場面での活躍の様子を、社内報でも昔と比べてかなり頻繁に目にしています。

このように、人材については非常に重要視している会社ですが、あえてこれからの課題を挙げるなら、さらなるダイバーシティの向上です。具体的には、女性社員の活躍、あるいは外国籍の社員の活躍の機会については、今まで以上にダイバーシティを進めていく余地が、まだまだあると感じています。

千歳:内山田さん、ありがとうございます。続いて玉井さん、よろしくお願いします。

玉井裕子氏(以下、玉井):内山田取締役から適切にご指摘とご説明をいただきましたので、私からは補足的な観点でお話しします。まず、人材戦略あるいは人に関する当社の特徴として、私自身が非常によく思っているのは、インクルージョンに関するものです。

人材戦略の「Diversity & Inclusion(D&I)」の内、ダイバーシティについては、推進していくための目標を、各社がしっかり掲げて進めていると思います。三井物産の特徴は、そのうちのインクルージョンを取り出して強調していることにあると思います。

それを支えるものとして、先ほど内山田取締役もお話ししていましたが、社内のコミュニケーションを非常に大事にしていることが挙げられます。これは本社の中に限らず、グループ会社との間でも同じことが言えると思います。

グループ会社でよく聞くのが「車座ミーティング」というワードです。日本人だけではなく、外国籍の社員も「クルマザ、クルマザ」と言っています。コミュニケーションを活発に図ることに、非常に注意を払っていることがよくわかります。

課題として考えられることとして、当社に限らず、より広い意味での問題かもしれませんが、ジェネレーション間のダイバーシティが、非常に難しい課題ではないかと思います。

ジェネレーションによって、生活のスタイルや考え方、会社や仕事に対する期待も異なります。それを上手く取り込みながら、人材戦略を練っていく必要があると思います。特にマネジメント層はどうしても特定の年代に限られるため、その中に幅広い年代の意見を上手く吸い上げていくことが、大切であり重要な課題だと思っています。

千歳:玉井さん、ありがとうございました。

当社におけるD&Iの進捗

千歳:昨年のインベスターデイで社外取締役パネルディスカッションの質疑応答を行った際に、小林前社外取締役から当社の改善点として、ダイバーシティに関して、「当社の女性社員や外国人社員には優秀な人がたくさんいるものの、残念ながらまだ執行側のトップマネジメントのレベルに上がってきていないため、さらに努力してもらいたい」とのご指摘がありました。

昨年のインベスターデイ以降、当社におけるD&Iにどのような進捗があったか、堀社長におうかがいしたいと思います。堀さん、よろしくお願いします。

:小林前取締役を含めて、当社の社外取締役のみなさまから、ダイバーシティとインクルージョンの進捗について、非常に高いレベルでのサポートとガイダンスをいただいています。我々経営陣もまったく同じ方向を向いており、一つひとつのケースを着実に積み上げて進めていきたいと思っています。

この1年間では、特に女性幹部候補者に対する経営会議メンバーによるメンタリングが進みました。この活動はかなり功を奏しており、今でも累計で20数名の個人が、そのプログラムに入っています。そのうち9名が部長職として活躍しています。

また今年は、当社に新卒入社された方の中から、女性初の執行役員が誕生しました。このように一定の進捗はあるものの、さらにそのタレントプールを広げて、層を厚くしていく活動を丁寧に積み上げていきたいと思います。

グローバル社員の活躍も同様で、当社の場合、日本で採用された社員が海外駐在として異動するケースが歴史的に多くなっています。しかし現在は、世界中のさまざまな国で採用された方が、エキスパートや駐在員としてほかの国に行くというケースが実際に増えています。こちらは現在、制度化もされています。

これは会社全体の盛り上がりにもつながっており、そのような多様性のあるチームを作っていこうという、会社構成員みなさまの共通の意思につながっています。この具体例を広げていくことを進めていきます。また、グループ会社から親会社単体に異動する幹部社員が、国内・海外両方のケースで起きています。

このようなケースを丹念に拾い上げ、人材のパイプラインを厚くして、D&Iを三井物産流に、大きな視点で進めていきたいと思っています。

千歳:堀さん、ありがとうございました。

取締役会におけるD&Iの経営への寄与

千歳:今年の株主総会以降、石黒さん、カサノバさん、タンさんの3名が新たに社外取締役に就任し、取締役会の女性・外国籍役員比率が向上しました。取締役会におけるD&Iは経営へどのように寄与しているとお考えか、指名委員会委員長の内山田取締役からコメントをいただきたいと思います。内山田さん、お願いします。

内山田:現在当社には6名の社外取締役がおり、そのうち4名が女性、2名が男性です。また、私を除いた5名の社外取締役は外国籍、あるいは海外で生活や仕事をした経験のある人ばかりで、私だけが純ローカルです。6月以降すぐに変わったこととして、取締役会の前後にみんなで立ち話をするのですが、それがほとんど英語になってしまい、個人的に苦労しています。

冗談はさておき、6月以降の取締役会では、社外取締役のダイバーシティが向上したことで議論の幅が広がっていると実感しています。例えば、サステナビリティや、将来ポートフォリオの組替え、人材活用、女性や外国籍従業員のさらなる活躍など、さまざまな議論の場で多様な意見が交わされるようになったと感じています。

ダイバーシティの向上は、かねてより指名委員会から執行部側に依頼していました。まず社外取締役から積極的にダイバーシティが向上していますが、今後は社内役員にも広げていく必要があると思います。

千歳:内山田さん、ありがとうございました。

女性社員が活躍できる職場作りに必要なポイント

千歳:D&Iの足元の課題の1つとして女性活躍推進の加速が挙げられていましたが、玉井監査役が当社をご覧になって、女性社員が活躍できる職場作りに向けてどのような取り組みが必要か、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。

玉井:職場環境を整えるという意味で、2つのポイントがあると思います。1つは、不必要なストレスのない職場環境の確保です。特に育児をしながら働く女性は、限られた時間を最大限に活用して仕事の成果を出すことが求められると思います。

その点において、まずは無用なストレスを感じない職場であることが大切です。三井物産ではさまざまな仕組みや制度が非常に整っているため、あとは運用面と意識の問題だと思います。社員のみなさまが制度を気持ちよく活用し、それがパフォーマンスの向上につながるという好循環を作ることが大切だと考えています。

もう1つは、よりポジティブな話ですが、実際に従事する仕事の中で、社員がやりがいや成長を感じられる機会を会社がきちんと提供することも、非常に大切ではないかと思います。

千歳:玉井さん、ありがとうございました。

人事施策の浸透度

千歳:続いて、竹増CHROにおうかがいします。当社には人材戦略を踏まえ、現在さまざまな人事施策が設けられていますが、運用面においては社内へどの程度浸透しているとお考えでしょうか。また、社員の各種施策に対する意識や理解については、どのように捉えていますでしょうか。

竹増:当社は来年に大きな人事制度改定を予定しています。大きな変化に対しては、多くの方がまず慎重になり、不安を感じる方もいると思います。

そこで、人事総務部を中心として、すでに相当数の社員説明会を実施しています。タウンホールミーティングというかたちでいろいろな趣向を凝らし、社員との双方向のコミュニケーションを通じて、制度趣旨の理解の徹底に努めています。

一方、トーン・アット・ザ・トップ(経営者が社員に見せる姿勢)も非常に大事です。すでに堀社長から人事制度改定に関するメッセージを複数回出していただいています。こうしたきめ細かいアプローチを今後も継続していく予定です。

さらに、新制度を現場で浸透させるための鍵は現場のライン長や管理職であると考え、このような方々への研修にも意を尽くしたいと思っています。

人事制度改定は、社員に対してより幅広いキャリアの選択肢を提供するものです。一方で会社としては、制度改定を通じて社員一人ひとりがより付加価値の高い仕事を積み上げ、組織として一層生産性の高い仕事に、働き方そのものをシフトすることを期待しています。

人的資本についてもコメントします。人的資本を十分に発揮するのは社員自身です。そのためには、社員エンゲージメントの向上がこれまで以上に大事になると考えています。そして人的資本そのものは、基本的に社員に帰属するものであり、決して無条件に会社に帰属するわけではありません。

したがって、会社は社員のリテンション向上にも一層意を尽くして取り組んでいかなければいけないと考えています。

人材の流動化やグローバル化がますます進む中で、当社においても人材を引きつけるためにより魅力的な職場環境の整備が必要です。人事制度の改定についても、そのような趣旨に沿って実行したいと考えています。

千歳:竹増さん、ありがとうございました。

企業価値向上に対する人材戦略やD&I等の関連性、今後重視する点

千歳:最後に堀社長からコメントをいただきたいと思います。当社の人材戦略やD&Iへの取り組みは、企業価値向上にどのようにつながっているのでしょうか。また、今後さらに重視しようと考えていることについても教えてください。

:当社はさまざまな社会的課題に対してソリューションを提供していますが、それを「現実解」と呼んでいます。これは、ソリューションを提供する当社のチームが、現実的な発想ができなければ成立しないモデルです。

一番大切なのはプロフェッショナルバックグラウンドですが、そこに多様性があり、チーム内で互いに補完し合えることが重要です。人種やジェンダー、国籍、年齢を問わず、いろいろな発想ができるような多様なグループを作ることが、我々の力の源泉になると思っています。

多様性のあるグループの中で自然に、当たり前のようにお互いをリスペクトしながら働くことが、当社流のインクルージョンだと思います。例えば、先進地域と、グローバルサウスと呼ばれるマーケットの両方の視点がなければ、幅広い解決策は出てきません。そのような意味でも、いろいろな国の経験を持った人を組み合わせることが必要だと思います。機動的なチームを作り、十分に機能させることが、当社の付加価値実現にとって、ますます大切になっていきます。

そのような意味で、D&Iへの取り組みは企業価値の源泉だと思っています。本日パネリストのみなさまからお話しいただいた方針や施策に基づいて、その点を強化していきたいと思っています。

千歳:堀さん、パネリストのみなさま、ありがとうございました。

質疑応答:社員エンゲージメントの向上について

質問者:竹増さんに質問です。定性的なお話が多くありましたが、定量面についておうかがいします。

社内でエンゲージメントサーベイなどを実施されていると思いますが、さまざまな施策によるエンゲージメントの向上は見られるのでしょうか。これまでの調査で、特に社員満足度が低い項目として御社内で課題になっているポイントがあれば教えてください。

竹増:エンゲージメントサーベイの結果は、ライン長の評価に直結しています。しかし、サーベイのチェック項目は非常に広範なため、結果に一喜一憂することは避けなければいけません。前年対比でスコアがどのように変化しているかという点を特に重視しており、これが管理職、ライン長の評価に影響します。

また、当社で重要な職責を担う、経営会議付議を要する任用人事などに際しても、多面評価の結果は非常に重要な参考資料として経営会議メンバーにすべて回付し、人事案の了承を取っています。

ご質問いただいたエンゲージメントの向上については、一言で申し上げにくいのが実情です。と言いますのは、エンゲージメントサーベイのスコアには非常に地域性が表れます。まず国内と海外との違いがあります。また、例えば欧米とアジアとでは、前提条件も含めて大きく異なります。

ご質問の趣旨が日本国内における結果ということであれば、この3年の総合的なエンゲージメントサーベイのスコアは、主要な点において若干上昇しています。ただ、当社にとって一番のチャレンジと考えているのは来年のスコアです。これは、来年に大きな人事制度改定を予定しているためです。

現場が趣旨を理解し、新制度が浸透しなければ、エンゲージメントスコアに影響があると考え、現場への浸透策に注力しています。

質疑応答:社員の離職率について

質問者:竹増さんと玉井さんにうかがいます。今回の人的資本レポートを拝見すると、単体の離職率が全社で1.41パーセントとなっています。この数字の評価について、これぐらいは避けられないものなのか、まだ下げる余地はあるとお考えなのか、教えてください。

また、男女別で見ると、女性が1.79パーセント、男性が1.25パーセントと、女性の離職率が高く、過去5年間も同じような状況になっています。このあたりの問題意識についてもお聞かせいただけますでしょうか。

竹増:まったく同様の認識と危惧を持っています。具体的には、女性の離職率、依願退職率についてです。当社は、女性活躍推進を非常に重要な経営目標・経営課題として掲げています。新卒の採用者の中でも、女性の比率は今や4割近くになっています。

一方で、当社を離れていく女性社員をしっかりと見ていかなければ、最終的に女性の管理職登用の数や比率は高まってこないと考えています。当社では、イグジットインタビューということで、依願退職するすべての社員に対して、人事総務部が面接を行っています。

その面接を通じてわかってきたことは、やはり女性の退職の理由というのは、仕事だけではなく、私が先ほど申し上げたいわゆる働き方が関係しているということです。当社の働く環境の整備がもう少し進んでいれば、この離職は避けられたのではないかと思うケースも、過去にはいくつもありました。

したがって、離職率は非常に重要な指標であると考えていますし、経営会議でもそれをできるだけ下げるための施策について、議論を続けています。

玉井:私から付け加えられることとしては、先ほど少し申し上げたこととも関連しますが、制度・仕組みの足りないところはきちんと足していくことだと思います。

また、女性が「仕事を続けようか、それとももう無理か」と思う時に、上司のちょっとしたサポートや声かけ、または同僚のカバーといったものでなんとか乗り切って、それがその後の安定につながるというような場面を、私自身は、この三井物産に限らず、いろいろなところで見ています。

離職を防ぐためには、やはり人の意識、あるいは声掛け、コミュニケーションというのがかなり重要なポイントではないかと思っており、そのようなことを社内でもたまにコメントとして申し上げることがあります。そのような観点からも、今後の推移を見守っていきたいと思っています。

質疑応答:人的資本投資効果のKPIについて

質問者:昨年経済産業省から出されて話題になった「人材版伊藤レポート2.0」でも、各企業の取り組みを評価しつつも、実態としての投資対効果の把握にどう努めるか、が課題として挙がっていたかと思います。

したがって、人的資本投資の成果としてどのようなKPIを設定して取り組むかが、さらにトラックレコードを積み上げていく中で必要になってくるかと思います。

例えば、どのような観点を考慮して目指すべきKPIを設定し、成果を把握するのでしょうか。業界内の横比較の中で優位性を出していくのか、あるいは日本を代表する企業として、上場企業の中でも確実に数字を結果として残し、企業価値に反映させるようなレベルを目指すのか、いろいろな目線がありうると思います。

そこで、今この取り組みを始めた段階から、その成果を実際に効果として刈り取るに当たっての目線をどのように置いているのかについて、社長におうかがいできたらと思います。

:我々もさまざまなKPIを考えていますが、気をつけなければならないと思っているのは、一人ひとりのアウトプット、それが競争力や生産性に表れると思いますが、それをどのように丁寧に見ていくかが大事だということです。

グループ会社の従業員は、そのグループ会社の事業モデルに合わせて設定された従業員数があります。また、例えば親会社の単体でさまざまな案件を手掛けている人たちの生産性は、他の部門の生産性とは性質が異なっているため、KPIも変えるべきだと思っています。

親会社でも、当社の場合はトレーディングオペレーションを担当する人がいますが、そこでのKPIと、全体に対するサービス提供のプロが直面すべきKPIもまた異なります。このようなものを細かく区別しながら見ていく必要があると思います。

そのため同じ産業内、あるいはトレーディング会社と言われる企業と比較するよりも、我々が仕事をしている業界ごとのベンチマークや親会社の機能と会社全体の収益性、またマネージしている資産の多寡に対するオペレーションのレバレッジが、資産が増える時にどのように効いているかといったところを丁寧に見ながら検討しています。

もちろんかなり複雑な仕組みになりますが、そこを我々が経営として見ていこうと思っています。1人当たりというかたちで出すと、大雑把すぎて全体が見えなくなるため、今申し上げたようなことに留意して確認しているのが今の状況です。

これは非常に大事なテーマであるため、引き続きいろいろな場面のエンゲージメントの中で対応させていただければと思います。

質疑応答:来年実施する人事制度改定の目的について

質問者:竹増さんに質問します。来年、人事制度を大幅に変えるとのお話でした。制度の内容はリリースで公表されており、その主なポイントとして担当職、業務職の区分を無くすと書かれています。この内容だけでは、社員と多くのコミュニケーションを取ることで理解してもらう、あるいはエンゲージしていくことが、なぜそこまで必要なのかが伝わってきません。

人材も含めて、御社の人事制度は、今までも相対的にかなりうまくいっていたと、客観的に思っています。それでもあえて大きな改革をし、それが一部の社員にはまだ納得されておらず、そこを説得していく過程だとのご説明でした。

そこまでして来年の人事制度ではどのようなことを変えようとしているのでしょうか。おそらくこのリリースにある以上のことを考えておられるのではないかと思いますので、そこを教えてください。

竹増:リリースに書いてある以上のことと言われると、どのようなことからお話ししていいのか、少し迷うところがありますが、少し力が入っているとお感じになったことが背景にあるとすれば、それは少なくとも私が、この制度改定が来年の全社のエンゲージメントスコアにも大きな影響を及ぼすのではないかと考えているからだと思います。なぜならこれは、社員の意識の変革を求めていくものだからです。

ご案内のとおり、当社は総合職掌の中に担当職と業務職という2つの区分があります。業務職と言われる区分は、管理職へのパスが開かれておらず、転勤は限定的です。これは古くは男女雇用均等法が成立する以前からの、いわゆる事務職です。

ただ当社の場合は、担当職・業務職という区分はまだ残っていますが、実質的に業務職から意欲のある方が担当職へ移るという、いわゆる職掌転換を積極的に後押ししており、いろいろなかたちで両者のいわばハードルを下げてきています。

ただ、その区分が残っていることが、実は業務職の側だけなく、実は担当職の側の意識においてもネックになっています。このネックがなぜ問題かというと、会社としての生産性向上のネックになっているからです。

我々が業務職と呼んでいる方々は、すでに多くの方が非常に高いレベルでの業務プロセスを担っています。当社も商社ですから、いわゆる物流ビジネスは非常に重要です。そして、この物流ビジネスの業務プロセスの中核を担っている多くは、業務職の方々です。

この方々の経験をより活かして、能力をさらに引き出していくことにより、会社全体としての生産性が間違いなく大きく上がってくるだろうと思っています。そのための制度改定であるというのが私の認識です。

質疑応答:投資案件に関する取締役会での議論について

質問者:内山田さんにうかがいます。2019年の社外取締役の就任から足掛け4年ほどが経ちましたが、特に取締役会での、投資のゴーサインを出す・出さないに関する議論の中身が、就任当初と現在では、案件の数や議論の質などの面でも格段に変わっているのではないかと、外から見ていて思います。

そこで、投資に関する議論のところで、ご就任の当時と現在との比較で思うところやエピソードなどがあれば、ぜひお聞かせいただければと思います。

内山田:会社の性格上、取締役会に出てくる投資案件の数は、議題の中でもかなり多くなっています。もちろん数が非常に多いため、実は上程基準を見直し、取締役会でより集中的に議論を進めなければならない案件と、経営会議の執行のみなさまに任せる案件に分けています。後者については、ノーマークになることはありませんが、その投資案件がどのようなもので、投資の結果がどうなったのかといった報告は、一定のインターバルで受けています。

また、上程基準を見直したことで、取締役会においても、より高額の投資案件についていろいろな角度から時間を取って議論ができるようになり、実際、1件当たりの検討時間も増えてきています。さらに、取締役会だけでは時間が不十分ということもあり、事前に理解した上で議論を行えるよう事前説明を必ず行ってもらっています。

特に、社外取締役は日々一つひとつの案件に関わっているわけではありません。しかし取締役会では、社内の取締役の方と一緒になって決議しなければならないため、我々は、かなりの時間を使って個々の案件の勉強をしています。

また、大きな戦略が理解できていなければ、個別の案件も理解できないということで、今は特に執行部側にお願いして、会社全体のポートフォリオの戦略や各営業本部の戦略について順番に説明してもらいながら、我々のバックグラウンドを上げて、一つひとつの案件に臨んでいるという状況です。