第64回 個人投資家向けIRセミナー

古川保典氏(以下、古川):株式会社オキサイド代表取締役社長の古川です。よろしくお願いします。先月、第2四半期の決算発表会を行いました。本日は、当社に関心を持ちのみなさま、すでにご出資いただいているみなさま、ご出資を検討していただいているみなさま向けに、当社の概要と、どのようなところに注力して経営を進めているかなどを詳しくご説明します。

会社概要

古川:まず、会社概要です。私どもは、2000年につくばの国立研究所(NIMS)の第1号ベンチャーとして設立し、2021年4月に東証マザーズに上場しました。

創業以来、本社は山梨県北杜市にあります。山梨には、第1工場から第6工場まであり、主に単結晶を製造しています。山梨以外では神奈川県横浜市に拠点があります。横浜事業所ではレーザを製造しています。

従業員数は単体で296名です。2023年2月期の売上高は57億5,200万円、営業利益は5億3,700万円となっています。

私たちの会社の特徴的なところは、大手企業であるNTT-AT、アメリカのKLA、ニコン、レーザーテック、島津製作所などが株主になっていることです。合わせて27パーセント近くの株式を保有いただいております。

経営理念

古川:経営理念についてご紹介いたします。私どもは、つくばの国立研究所(NIMS)の成果を活用してビジネスを創業いたしました。単結晶とレーザのグローバルニッチトップカンパニーを目指しています。

私どもの強みは、「原料連続供給二重坩堝回転引き上げ法」をオリジナル技術として保有していることです。世の中では、現在さまざまな単結晶が作られていますが、通常ほとんどが回転引き上げ法で作られています。ですが、すべての単結晶が回転引き上げ法で作ることができるわけではありません。そういった通常の方法では作るのが難しい単結晶や高品質な単結晶を作ることができる技術を持っていることが当社の特徴です。

この技術をもとに、「研究成果を社会に還元し、キーマテリアルを世界に向けて発信する」「顧客へマテリアルソリューションを提供し、社会の発展に貢献する」「単結晶を核とした製品を開発し、未来の市場機会を創造し続ける」ということを理念に創業しました。この理念は、創業から23年経った今でも変わりません。

事業別売上高構成 2023年2月期

古川:事業別の売上高構成です。「単結晶とレーザのグローバルニッチトップカンパニーを目指す」とお話ししたように、現在は当社売上の約75パーセントが海外の売上比率となっています。

事業別に見ますと、売上が一番大きいのは半導体事業です。半導体の製造工程における、シリコンウエハの表面欠陥を検査する装置の中で使われる単結晶と深紫外レーザを製造・販売しており、売上の約56パーセントを占めています。

2番目に大きなビジネスは、ヘルスケア事業です。がんやアルツハイマー型認知症の検査装置に搭載されるシンチレータ単結晶を製造・販売しており、売上の約31パーセントを占めています。また、新領域事業では、さまざまな研究開発にも取り組んでおり、売上全体の約13パーセントを占めています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):御社のご説明をしていただき、半導体とヘルスケアを主力事業としていることがよくわかりました。将来の展望を教えてください。

中長期事業ポートフォリオ

古川:主力の半導体とヘルスケアに加えて、新領域事業においてさまざまな応用分野が期待される開発テーマに取り組んでおります。そして、今年3月にはライコル社を子会社化しました。

ライコル社は、私どもと同じような結晶の技術を持っている会社なのですが、その結晶製品の応用分野は、私たちの応用分野とはまったく異なっています。ライコル社売上の約50パーセントは、宇宙・防衛やセキュリティなどの分野で使用されている製品です。さらに、今注目されている量子や、グリーンエネルギー、美容分野などにも使用されています。

オキサイドとライコル社の事業を統合し、3年後には半導体やヘルスケアといった既存の主力事業をさらに大きくするとともに、新領域事業にも注力していき、いろいろな開発テーマの中から半導体事業やヘルスケア事業に続く3つ目、4つ目の大きなビジネスを育てていきたいと考えております。

中期(2024年2月期~2026年2月期)経営計画(連結)

古川:次に、中期経営計画についてご説明します。2021年2月期の上場以降、売上高は順調に伸びています。

グラフの赤色の部分が半導体事業です。過去約2年間、積極的に工場などに設備投資してきており、今後も増収が期待されています。

青色の部分はヘルスケア事業で、安定的に成長しています。後ほど詳しくご説明しますが、がん診断PETの用途以外にも認知症診断PET分野での成長を期待しています。

グレーの部分は新領域事業です。先ほどご説明したように、こちらの事業もこれから伸ばしていきたいと考えています。

営業利益率は、10パーセントを目指しています。今期はM&Aの関連費用で低下していますが、2026年2月期には再び10パーセントを超える計画を立てています。

当社における半導体事業(単結晶・レーザ)の歩み

古川:ここから、半導体事業についてご説明します。こちらは、2000年の創立以来の歩みを示した年表です。青色の線がM&A、グレーの線が業務提携、緑色の線が資本業務提携、赤色の線が半導体事業関連の提携です。大学発のベンチャー企業としては、M&Aや業務提携をかなり進めてきたと思っています。

特に、赤色で示している半導体事業関連の提携を見ていきますと、2006年にニコンやアメリカのKLA-Tencor Corporation(現・KLA Corporation)、2008年にレーザーテックが株主となりました。また、2010年にソニーの子会社であるマグネスケールで行っていた深紫外レーザ事業を引き受けたところから、私どもの半導体事業におけるレーザ製造が始まりました。

2016年には日立ハイテクノロジーズ(現・日立ハイテク)が株主になり、2018年にはアメリカのLumerasからの事業譲受、2019年にはデンマークのNKT Photonics、2021年には名古屋大学発のベンチャーであるUJ-Crystalと資本提携しました。さらに、今年はアメリカのHTCSと提携しました。このようにして、業務提携や資本提携を行いながら、半導体事業を伸ばしてきました。

【半導体】半導体製造工程で活躍するオキサイド製品

古川:次に、私たちの半導体事業の製品がどのようなところで世の中の役に立っているか、もう少し詳しくご説明します。このスライドは、半導体がシリコンウエハから最終的な製品になるまでの前工程・後工程を示したものです。

みなさんご存知のようにシリコンウエハは信越化学工業が世界のトップシェアを占めています。そのシリコンウエハに成膜やパターニング、エッチングを行います。その後、ダイシングとパッケージングを行い、最終的に半導体素子が出来上がります。携帯電話やパソコン、データセンターで使用されたり、最近話題の生成AIにも使用されます。Intelのように設計から製造まで一貫して実施している企業や、NVIDIAのように設計に特化した企業、台湾積体電路製造(以下、TSMC)のように製造に特化した企業が半導体の供給を支えています。

シリコンウエハに欠陥やごみがあると良い製品ができないため検査を行うのですが、私どもの株主であるKLAやレーザーテック、そして日立ハイテクの検査装置がこの検査工程で使用されています。こういった検査工程で私どもの製品であるレーザや結晶が使われています。

【半導体】ウエハ検査装置分野での高い市場シェア

古川:私どもの結晶と深紫外レーザは、高品質・長寿命であることが特徴です。欠陥検査装置はIntel、Samsung、TSMCなどの世界各地の半導体工場で稼働しています。

半導体工場で、これらの装置は24時間365日ずっと稼働しているのですが、その半導体の製造プロセスでウエハの検査装置が使われています。

半導体はいろいろなジェネレーションがありますが、50ナノメートルくらいのプロセスノードに対しては、検査のために波長532ナノメートルの可視光レーザが使われていました。その後、プロセスノードが28ナノメートルくらいになると、波長が355ナノメートルの紫外レーザが使われるようになりました。

最近は微細化がどんどん進み、355ナノメートルの紫外レーザでは分解能が不十分になり、ほとんどの最先端のウエハ検査装置では波長が266ナノメートルの深紫外レーザが使われています。

私どもが深紫外レーザの開発に着手した時は波長355ナノメートルの紫外レーザが使われていたのですが、266ナノメートルの深紫外レーザが必要とされた時に、タイミング良く私どもの製品をリリースできました。私どもが参入する前は、アメリカのCoherent社など海外の大手レーザメーカーがほぼ100パーセントのシェアでしたが、今は私どもが約30パーセントのシェアまで伸ばしてきています。

紫外レーザは非常にエネルギーが高いため、人間も紫外線に当たると日焼けするように、深紫外レーザを発生する結晶自体が劣化してしまいます。そこで深紫外レーザを発生しても劣化しにくい、非常に品質の高い結晶を作ることができるのが、私たちの強みです。

また、BBO結晶、CLBO結晶などの深紫外レーザを出す波長変換結晶では、世界シェアの約90パーセントを獲得しています。先ほど、いろいろな大手メーカーが私どもの株主になっているとお話ししましたが、それは当社がこのような重要な結晶やレーザを製造・販売していることが理由です。

坂本:世界シェアが非常に高いとご説明いただきました。その高いシェアを確保するために、御社はかなりがんばっていると思うのですが、技術面での参入障壁など、御社の強い技術についてもう少し教えてください。

古川:半導体製造工場では、検査装置で使うレーザがいったん決まると、なかなか変えることができません。リリースされてから最低でも5年、実際は10年以上使いますので、非常に高い信頼性が必要とされます。

先ほどお伝えしたように、TSMCなどの半導体工場では装置を止めることなくフル稼働していますので、安定して使える結晶やレーザを製造し提供していることが私どもの強みです。他社が参入するのは難しい状況になっていると思います。

坂本:高品質・長寿命ということですが、一度組み込んだらずっと使えるのですか? メンテナンスについてはいかがでしょうか?

古川:お客さまの使う頻度やパワーにもよりますが、重要な部品や劣化しやすい部品は、概ね1年半ごとにメンテナンスを行います。最初にレーザを販売した後も、リカーリングビジネスとして車検のようなかたちでメンテナンスが続きますので非常に良い収益源になっています。

【半導体】事業発展の展望

古川:半導体事業は、28ナノメートルから微細化するタイミングでうまく参入し、2020年以降は年率30パーセント超で事業成長しています。足元では、特に、スマホやPCに利用されるロジック半導体や生成AIで必要とされるGPUと呼ばれる半導体の市場が拡大しており、半導体の高性能化・微細化が進んでいますので、当社の製品は今後も出荷台数が増加し、半導体事業は継続的な成長が見込まれています。

今期(2024年2月期)の半導体事業の売上は、当初は昨年に比べて53.7パーセント成長の49億7,800万円を見込んでいました。しかし、第2四半期の決算説明会でもご説明したように、部材の問題が出ており、通期の見通しは、現時点で昨年に比べて38.6パーセント成長の44億9,000万円として開示しています。

【ヘルスケア】がん診断用PET検査装置とシンチレータ単結晶

古川:次に、2つ目の重要なビジネスである、ヘルスケア事業についてご説明します。この写真はがんの診断に使うPET検査装置です。ご存じのように、日本人の約2人に1人が生涯でがんになると言われています。がんも最近はいろいろな治療が進んでおり、亡くなるのは男性が4人に1人、女性が6人に1人くらいです。

したがって、がん細胞が小さい時に、いかに早く発見して治療するかが大切になります。がんを発見する方法として、例えば、人間ドックで血液の腫瘍マーカーがありますが、この方法ですと、体内のどこかにがんがあることはわかっても、どこにあるかまではわかりません。一方、がん診断用PET検査装置では、どの部分にがんがあるかまでわかります。

このPET検査装置には、シンチレータという結晶を使います。人がベッドに横たわり、ドームの中でスキャンすることでがんの検診を行います。そのセンサー部分の検出器のところに、私どものシンチレータ単結晶が使われています。

私どもはビール瓶よりも大きい結晶のインゴットを作り、そこから25ミリ×5ミリ角ほどのマッチ棒ぐらいの大きさの素子を切り出し、これが製品となります。

1台のがん診断用PET検査装置に、このマッチ棒のような結晶素子が2万個から3万個ほど入ります。素子1個の価格は約2,000円ですので、1台のがん診断用PET検査装置が売れると、4,000万円から6,000万円の売上になります。

競合他社もありますが、私どものシンチレータ単結晶は世界最高レベルの性能と品質を持っており、現在、世界シェアの約20パーセントを占めています。

【ヘルスケア】頭部専用PETの動向

古川:もう1つヘルスケア事業で非常に注目しているのが、頭部専用PETへの応用です。この装置で頭部を検査することで、アルツハイマーの原因であるアミロイドβが、脳の中にどのぐらいの量でどのように分布しているかがわかります。

みなさんニュースでもご存じのように、エーザイ社がアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」の販売を開始しました。この治療薬がアメリカや日本で承認されたことにより、検査をしたいという需要も増えてきており、当社の頭部専用PETにおいても、昨年から引き合いが増えています。

中長期事業ポートフォリオ

古川:次に、中長期事業ポートフォリオについてです。先ほどご説明したように、半導体とヘルスケアに続く3つ目、4つ目の事業を新領域から創出しようと取り組んでいます。

【新領域】新事業への取り組み

古川:新領域の事業として、現在10を超える研究開発テーマの社会実装に取り組んでいます。その中でも、みなさまからの問い合わせが多く、私どもも力を入れているのが、パワー半導体のSiC単結晶、そして量子分野の量子もつれ光源モジュールです。本日はこちらについて、もう少し詳しくご説明します。

【SiC】カーボンニュートラルを実現する次世代パワー半導体

古川:最近、日本経済新聞などさまざまなところでSiC単結晶の記事を目にしない日はありません。次世代パワー半導体は、シリコンの単結晶に比べて非常に高い電圧でも使うことができます。また、わずかなロスのみでエネルギーを変換できることから、電気自動車での需要が非常に伸びています。

それ以外にもパワー半導体は、鉄道や送電線設備、電力・風力発電、工場設備などの社会インフラでも使われています。私どもはこのような社会インフラへの応用をメインターゲットにしたSiC単結晶の開発に取り組んでいます。

【SiC】急成長する次世代パワー半導体市場

古川:次世代パワー半導体のマーケットについてご説明します。これまで用いられてきた通常のパワー半導体はシリコンですが、次世代パワー半導体として注目されているのは、SiCとガリウムナイトライド(GaN)、ガリウムオキサイド(Ga2O3)です。

スライドのグラフは、この3つのパワー半導体の市場規模を示しています。2019年に富士経済研究所から発表された時は、当時493億円だったSiCが、2022年、2030年にグラフのように伸びるだろうと言われていました。しかし2022年に発表された予想では、2030年の市場規模は2019年予想の5.2倍もの大幅な成長が見込まれており、当初の予想を大きく上回ってマーケットが拡大しています。

【SiC】期待される日本製SiC単結晶ウエハ

古川:このパワー半導体のデバイスのマーケットシェアはスライド右側のグラフに示すとおりです。1位はドイツ、2位はアメリカですが、日本の三菱電機、富士電機、東芝、ルネサス エレクトロニクスも高いシェアを持っています。

一方、デバイスを作るために必要なSiC単結晶はアメリカやドイツ、中国などの海外で、ほぼ100パーセント作られています。

ローム社が2009年にドイツのSiCrystal社を子会社化しましたので、その部分は国内メーカーと言えますが、最近では中国メーカーがさらに増産しており、国内メーカーが結晶のシェアを取っていくのは最終的にはかなり厳しい状況になると思っています。

現在使われているSiC単結晶ウエハのほぼ100パーセントは、昇華法という方法で作られています。中国やアメリカのさまざまな企業が設備投資をしており、そのほぼ100パーセントが昇華法で作られていると言ってもいいと思います。

【SiC】溶液法によるSiC単結晶育成のメリット

古川:そのような中でオキサイドがどのようにして勝つか、真剣に考えています。今後、SiCの市場は成長して1兆円規模のビジネスになると言われています。後発メーカーの私たちが今から昇華法に取り組んで勝てるとは思っていません。私たちがここで挑戦するのは、溶液法という方法です。

溶液法は名古屋大学で研究開発された方法です。現在、経済産業省のグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」というプロジェクトを活用し、名古屋大学、UJ-Crystal社、アイクリスタル社、産業技術総合研究所、Mipox社、そしてオキサイドがコンソーシアムを作り、超高品質・8インチのSiCウエハのn型、p型の結晶を作ろうと取り組んでいます。

【SiC】溶液法p型SiC基板が期待される市場分野

古川:溶液法のメリットについてご説明します。今、世界で作られている昇華法は、温度を上げてSiCを気化して飛ばし、気体から直接結晶を作る方法です。通常、気体から液体になり、そして固体になりますので、気体から直接結晶を作ることは難しいとされています。

私どもが取り組む溶液法は、液体から直接結晶を作る方法です。この方法ですと、温度勾配が小さく歪の少ない環境で作るため、欠陥が少ない結晶ができるということが名古屋大学の研究で報告されています。この欠陥の少ない高品質結晶を作れることが1つのメリットです。

また、昇華法で作るSiC単結晶はn型となります。しかし、溶液法ではn型とp型の両方を製造できます。私たちは特にp型でのビジネスに関心を持っています。

坂本:このSiC単結晶のサンプルの引き合いはどのくらいあるのでしょうか? また、実際にはどのような用途で引き合いがあるのか教えてください。

古川:電気自動車向けもありますが、送電線や電力向けなど、特に電圧が高い社会インフラ用デバイスを作っている国内外のメーカーから、当初想定した以上の引き合いをいただいています。

【SiC】大型国プロを活用したSiC事業への参入

古川:溶液法p型SiC基板の用途です。スライドの図は、縦軸を耐電圧に、シリコンとSiCを比較したものです。シリコンデバイスは、MOSFETとIGBTの構造で、スマホやパソコン、電気自動車、鉄道、あるいは送電線まで、ほとんどの領域をカバーしています。

しかし、SiCはさらに高い耐電圧で効率良く電気を変換することが可能ですから、特に電気自動車で注目されています。逆にスマホやパソコンの低電圧の用途では使うメリットがありません。

電気自動車でメリットがあるということで使われていますが、昇華法で得られるn型の結晶が得意とするのは3.3キロボルトあたりまであり、さらに高い電圧の6.5キロボルトあたりになると、品質の良いp型の結晶を作ることができる溶液法が得意な範囲となります。私どもが狙うのは、まさにこの応用領域です。

スライド右側の図は、2019年に富士経済研究所が発表したレポートを基にNEDOが作成した資料です。SiCデバイスの適用分野別市場予測として、2019年当時は、2030年におよそ4,000億円の市場規模になるだろうと言われていました。

しかし、現在は1兆円を超えるだろうと言われており、その多くの部分を自動車が占めています。自動車のEVが非常に伸びてくると予測されています。

一方で、私たちが狙っているのは、スライド左側の図の上部にあるp型SiC基板のIGBTです。価格が高く付加価値の上がる部分であり、昇華法では対応できないところを狙っています。他ではできない技術に集中しなければ、おそらく私たち、ひいては日本は、なかなか世界に勝てないだろうと考え、この技術に取り組んでいます。

坂本:御社がこのSiC単結晶を提供するサプライヤーとして進んでいく場合、ライバルとなり得る企業はあるのでしょうか? この溶液法でバルク生成を実現しようと考えている企業はありますか?

古川:私ども以外に溶液法を行っているのは、名古屋大学発のベンチャーであるUJ-Crystalです。また、NEDOの補助事業でセントラル硝子も手掛けています。したがって、国内に競合となる企業があります。

私のイメージでは、これまでにない新しい結晶ならば「オキサイドしかできない」ということで、私どもの結晶を使うしかありませんが、SiC単結晶の場合、もうすでに昇華法の結晶があります。サプライチェーンの観点からしても、ユーザーは、オキサイド1社でしか作れない結晶は怖くて使えません。

坂本:確かにそうですね。何社か作っているほうが安心ということですね。

古川:おっしゃるとおりです。2社から3社ほどは絶対に必要だと考えています。

坂本:海外にも何社かあるのでしょうか?

古川:「溶液法で作っている」とオフィシャルに話しているのは国内だけです。ただ、海外でも当然この名古屋大学の発表を聞いているため、開発に着手してもおかしくはないと思います。

坂本:将来的にはSiC単結晶の量産化をお考えだと思います。技術面や製造面のハードルがあれば教えてください。

古川:先ほど、欠陥密度が低くなるとお話ししました。SiCの結晶を作る時は、原料を結晶化させるのではなく、カーボンの坩堝にシリコンの溶液を入れて温度を上げることでカーボンを溶かし、SiCとして結晶化させます。そのため、結晶の成長スピードは、カーボンの供給量によって律速されています。

この成長速度をうまくコントロールすることが大切です。開発スピードを上げるため、私どもはAI技術「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」を使っています。

【β型酸化ガリウム(β-Ga2O3)】脱炭素社会実現への貢献

古川:実はつい最近、SiC以外にβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)の開発にも取り組んでいます。

坂本:報道がありましたね。

古川:おっしゃるとおりです。問い合わせも多数いただいているので、資料を準備しました。今回、NEDOの「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」に採択されました。

先ほどマーケットのお話をしましたが、パワー半導体にはSiC、ガリウムナイトライド、ガリウムオキサイド(酸化ガリウム)があります。その中で、私どもはガリウムオキサイドの開発も手掛けます。

そもそも社名の「オキサイド」とは、「酸素を含む化合物」を意味しています。そのような意味でガリウムオキサイドは、まさに私どもが得意とする分野です。

SiC、ガリウムナイトライド、ガリウムオキサイドは、耐電圧が非常に高く、電力変換時の損失が小さいため、パワー半導体に非常に向いています。そしてこのガリウムオキサイドの開発に関しては、日本メーカーが世界で先行しています。

そのような中で、私どもが低コストなパワー半導体用途にガリウムオキサイドの開発を提案したのは、エアコンや冷蔵庫などの汎用的な家電製品で省エネルギーに貢献するビジネスチャンスがあると考えたからです。

ご存じのとおり、エアコンではインバータのプレミアムモデルなどでSiCのパワー半導体が使われています。プレミアムインバータエアコンは、エネルギー消費量が低いため、毎月の電気代を節約でき注目されています。しかしながら、通常のエアコンよりも値段が2倍から4倍になるので、なかなか普及しないというのが実情です。

実は、家の電気代の40パーセントはエアコンと冷蔵庫です。もし、オキサイドでβ型酸化ガリウムを低価格・低コストで提供できれば、いろいろなところで社会実装が進み、脱炭素社会の実現に貢献できると考えています。

ここでの強みは、私どもが得意とする結晶製造技術を使用するということです。独自の製造方法によって、低コスト・高品質な結晶を作っていきます。

増井麻里子氏(以下、増井):β型酸化ガリウムは、一般的な酸化ガリウムとどのように違うのですか?

古川:α型やβ型などいろいろなものがあり、その中の1つがβ型です。結晶構造が違いますが、少し難しい話になりますので、またお時間のある時にご説明できればと思います。

【量子】なぜ量子暗号通信が必要か?

古川:続いて、私どもが注力している量子分野についてご説明します。量子分野も最近は本当にいろいろなところで報道されています。特に量子コンピュータは非常に高速な処理ができるもので、なんと従来のコンピュータの1億倍速い処理ができます。

これにより、創薬の開発やビッグデータの解析、AIの開発など、いろいろな分野で社会の進歩に大きく貢献できます。

一方で非常に演算処理速度が速いため、新たな課題が生じます。現在、私たちはコンピュータで通信を行い、いろいろな重要なデータを送っています。その際、データを暗号化して送っているのですが、量子コンピュータを用いると短時間で暗号が解読されてしまいます。

特に金融の分野などで暗号が解読されるとセキュリティ上大変な問題になりますし、国家間でも暗号を解読されると機密事項の盗聴など非常に大変なことになってしまいます。

量子コンピュータにはいろいろな方式があります。どの方式が実用化されるかはまだ決まっていないのですが、一部はすでに実用化されています。量子コンピュータが実用化されると必ず必要となってくるのが量子暗号通信です。量子暗号は高い安全性を持つので、悪意を持つ第三者がどんな高速な計算機を使っても理論上は解読できないとされています。

そのため、この量子暗号通信が実用化に近い技術分野として注目されています。私どもはここをビジネスの1つのチャンスにしようと取り組んでいます。

【量子】オキサイド・ライコルの技術が光る長距離量子通信

古川:具体的にもう少し詳しくお話しします。量子暗号通信では、さまざまな光学部品や結晶を使用していますが、私どもは、量子もつれ光を発生する波長変換素子やそれをモジュール化した量子もつれ光源モジュールなどを提供して、この成長分野に貢献したいと考えています。

また、横浜国立大学発のベンチャーであるLQUOM社は、長距離の量子暗号通信を可能とする量子インターネットと呼ばれるシステム開発を目指しています。それを実現するために必要となる量子中継器の開発で世界をリードしている企業です。その量子中継器には量子メモリが必要であり、そのコアとなる量子メモリ結晶をオキサイドが開発し提供しています。私どもはLQUOM社に出資して一緒に開発に取り組んでいます。私どもは、ライコル社と共同で、結晶と実装技術を利用した量子もつれ光源モジュールを開発し、先月の「量子コンピューティングEXPO」に出展しました。まだ研究段階ではあるものの、量子分野での売上は、すでに数億円になっていますので、社会実装が進み、今後さらに大きな売上になることを期待しています。

【研究開発費・人員計画】

古川:研究開発と人員の計画についてご説明します。私どもは研究開発にはかなり投資しています。今期は10億3,900万円の計画で、売上の10パーセント超を研究開発費に投資しています。

同時に、優秀な人材確保も必要です。上場した時の従業員は160人でしたが、今は連結で394人となっています。また、オキサイド単体では296名と約倍近くとなり、優秀な人材を採用しています。

【設備投資】

古川:次に設備投資に関してご説明します。今期は26億8,400万円と、かなりの金額を投資しています。2022年2月期は、主力の半導体事業とヘルスケア事業に投資しましたが、これが今の売上に寄与しています。

2023年2月期と2024年2月期は、これから成長が期待される深紫外レーザの増産に投資しています。加えて、メンテナンスの工場として山梨に第4工場を作りました。SiCの工場として第5工場を作り、今年夏に完成して稼動を始めています。

このように、利益を確保しながら売上の20パーセント超の設備投資をしており、将来の会社の成長に大きく貢献させていただきたいと考えています。

質疑応答:ベンダーからの部材調達について

坂本:「不具合部材の歩留まりについてです。セカンドベンダーからの調達について、仕入れ価格はもともとのベンダーと特筆すべき価格差はないのでしょうか? もともとのベンダーから調達できなくなった場合、利益率が低下する恐れがあるのではないでしょうか?」というご質問です。

古川:半導体事業について先ほどご説明しましたとおり、今期は『これぐらいの売上を達成したい』と計画していたのですが、その見通しを見直しました。それは、おっしゃるとおりの部品の不具合問題が起きたからです。

どうしてそのような不具合が起こったかという物理的なメカニズムを解明して、セカンドベンダーでは、原理的には性能が劣化しない材料と構造を採用しています。そのような劣化しない材料や構造は、費用が高くなる傾向にありますが、最終的なトータルの部材コストは従来のものとあまり変わらないと考えています。なぜなら、ファーストベンダーでは、よかった時でも歩留まりは50パーセントでした。セカンドベンダーが供給する部材の価格が仮に倍になったとしても、歩留まりが高くなれば生産に投入する部材のコストは変わりませんし、不良部材を選別するコストも削減することが出来ます。さらに、これから量産部材として数量を増やしていくと調達コストは下がる可能性もあります。

私どものレーザは、最終ユーザーで1年中使っていただきますので、万が一にもレーザが劣化すると非常に大きなご迷惑をおかけします。そのようなことになると、部品の修理などにも大きなコストがかかります。セカンドベンダーの部材が長期的に劣化しない良質なものであれば、結果的に利益率を向上させることができると期待しています。

質疑応答:下方修正と通期予想達成について

坂本:「10月の四半期決算では赤字の下方修正をしていますが、通期では下方修正はされていません。通期予想達成の自信はあるのでしょうか?」というご質問です。

古川:自信があるかというと、かなり難しいところですが、達成するように努力しているところです。部品の不具合問題の原因が原理的によくわかり、その対策をした部品がファーストベンダーから入ってくるのを待っていました。今週から、入ってきた部材をレーザに搭載し初期の性能を評価している段階です。先ほどお伝えしたように、今回改良した部品が本当に長時間使っても劣化しないかどうかの確認が必要です。今はその確認を進めながら、部材を使ったレーザ製品を組み上げています。同時に、セカンドベンダーからの調達した部材の評価も進めており、この部材を使用したレーザにおいては歩留りの改善が確認できており量産に向けた準備を進めています。新たなベンダーの部品を使用したレーザであり、お客さまでの認定が必要となります。このように、不具合部材の改良ならびにマルチベンダー化は着実に進んでおりますが、通期予想の達成は時間との戦いになります。

お客さまに非常にご迷惑をおかけしており、レーザの納品を待っていただいております。1日も早く納品できるよう、全社一丸となって製造に取り組んでおります。また、第1四半期、第2四半期で出荷できなかった部分を取り戻すため、今期の目標に向けて2月末日のギリギリまで全力で取り組んでまいります。

質疑応答:自己資本比率の強化について

坂本:「工場建設やM&Aもあり、自己資本比率がかなり低い水準になっているように思います。成長戦略としてM&Aを掲げている御社の方針であれば、自己資本比率を強化していく必要性があると感じるのですが、いかがでしょうか? また、新株発行のマネタイズが考えられるのですが、古川社長は以前から企業価値の最大化を掲げているため、それはやめてほしいと思います」というご質問と意見です。

古川:ご質問のとおり、今期はライコル社のM&A費用がかなりの金額になっていますが、これは銀行からの借り入れで対応しました。したがって、自己資本比率が下がりました。私どもは上場して2年になりますが、やはりいかに企業価値を最大化するかが私どもの使命だと思っています。

そのような意味では、先ほど、SiCや酸化ガリウム、量子の分野に売上の10パーセント超を投資しているとお話ししましたように、研究開発やそれを行う設備にも投資しますし、さらに積極的にM&Aも行っていくことが必要だと考えています。

自己資本比率を上げるためには、当然、事業の収益を上げて改善することが必要ですので、それにも取り組んでいます。同時に、経営の安定化や多様性、スピードを上げるためにできることもあります。棚卸資産の絞り込みや償却の推進、あるいは資産回転率の改善など、いろいろなことがあります。そのようなところで財務体質を強化していくことに取り組んでいますので、ぜひご理解いただければと思います。

質疑応答:有利子負債の縮小について

増井:今のお話に関連して、「有利子負債の縮小はいつ頃から、というイメージや考えがあれば教えてください」というご質問です。

古川:有利子負債の縮小は常に大きな問題だと考えています。利益を生むことが必要ですので、いつ頃かというよりは、常に有利子負債の縮小に取り組んでいる状況です。

先ほどの不具合の問題により、今期の決算が最終的にどうなるかわからない状況ではありますが、当初の予算にできるだけ近づけるよう、がんばっています。そこでは有利子負債も減らしていきたいと考えています。

質疑応答:各国の大型設備投資の影響について

坂本:「世界半導体製造装置市場における御社の半導体事業の影響について質問です。2024年はメモリの復調に加え、ロジックファウンドリも投資が回復すると考えており、各国支援のもと、大型設備投資が計画されています。好調な投資が見込まれるとされていますが、御社の半導体の事業に影響はありますか?」というご質問です。

古川:特に大型投資により新聞などで報道されたTSMCは、台湾、アメリカ、そして日本に工場を建設します。Intelもアメリカやヨーロッパに工場増設の計画がありますし、ほかの半導体メーカーも世界各国に工場の建設予定があると聞いています。

先ほどもお話ししたように、私どもの半導体の検査装置は従来の線幅の半導体にももちろん使えますが、これから工場を増設する最先端の半導体ウエハ、半導体製造装置にはどうしても必須となります。当然、そのような工場ができると検査装置が必要となりますので、私どもにとってもかなりプラスに働くと考えています。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:売上総利益率について年々改善しているものの40パーセント程度であり、古川社長が目標にされているレーザーテックとは10パーセント程度開きがある。貴社は成長分野に分散投資しているし、研究開発型ディープテックであるため利益率が下がることは理解できる面もあるが、経営的な観点で言えば「もっと儲かるところ」に重点投資されてはと思うところもある。そのバランスをどのように考えておられるでしょうか?

回答:レーザテックさんは私たちの株主でもあり、目標とする会社さんでもあります。楠木会長、岡林社長には色々と助言もいただいて経営の参考とさせていただいております。売上総利益を高めるためには、目先の収益だけにとらわれす、成長性の高い将来性のある事業への投資が重要であることを学びました。そのような意味で、我々が現在目指すべきは、ある程度の利益を確保しながら売上に対する研究開発などの投資を継続して行っていくことだと認識しています。それが販売費および一般管理費/売上の高い比率が示していると思います。

<質問2>

質問:市場変更の選択肢はありますでしょうか?

回答:プライムを目指しております。

<質問3>

質問:配当方針と今後の見通しを教えてください。

回答:当社は株主のみなさまへの利益還元を行うことを経営上の重要課題と捉え、将来の事業展開と経営基盤の強化を図るための内部留保資金を確保しつつ、配当を行うことを基本方針としています。現在の当社の規模や成長ステージにおいては、事業拡大のための再投資を行うことが、将来的に株主の皆様の利益につながるとの判断から、当面は配当を実施せず、研究開発の推進や事業拡大のための設備及び人材投資を実施していく方針です。配当の判断の基準につきましては、財務面での安全性、キャッシュフローなどを総合的に勘案して配当の実施等を検討していきたいと考えております。

<質問4>

質問:工場が山梨に集中している理由を教えてください。BCPの観点から製造設備を日本の他の地域、海外への移転や新築は考えていますでしょうか? 事業譲り受けした会社から工場を引き継いで操業しているところもあるのでしょうか?

回答:当社は、山梨で創業し、本社を中心に拡張してきました。その後、レーザの事業を譲り受けた際に、装置や人の移動を考慮して横浜に事業所を設置いたしましたが、複数拠点での製造は行っておりませんでした。今年、山梨に第4工場が竣工し、これまで横浜でしか行えなかったレーザの製造が、山梨でもできるようになりました。これは、BCPの対策としても有効であると考えています。BCPの観点は非常に重要だと考えておりますので、今後の事業所拡大の際にはこういった点も考慮して計画していきたいと考えております。

<質問5>

質問:不具合部材の歩留まりについて、改良前は概ね50パーセントの歩留まりだったと記憶しておりますが、今回の改良版ではどの程度の歩留まりになりそうでしょうか?

回答:不具合部材の歩留まりは、当初概ね50パーセント程度でしたが、なかなか安定しない状況が続きました。そこで独自に歩留まりが低い要因の物理的メカニズムを解明し、材料と構造を見直しました。あくまでも現時点での状況をご説明いたしますと、ファーストベンダーの改良品については現在、歩留りの確認を進めている状況です。一方で、セカンドベンダーで試作した新規部材では、評価数は少ないものの歩留まりはほぼ100パーセントに改善しております。現在、評価数を増やしつつ、平行して長期信頼性を確認しているところです。安定性と信頼性が確認ができれば製造数を増やしていきたいと考えています。難しい技術課題に全力で取り組んでおりますので、ご理解いただければと思います。

<質問6>

質問:人材は順調に獲得できているのでしょうか?

回答:半導体事業の次世代レーザ、SiC単結晶および量子光源モジュールに、集中的に研究開発費と人員を投入しています。従業員数は、上場した2022年2月期の2倍に増やしております。また、今期の採用状況につきましては、期初の計画どおり進捗しております。

<質問7>

質問:万が一の際にライコル社の保有技術を確保する対策は万全でしょうか? 貴社に技術を移転する場合、100パーセント子会社であっても国を跨ぐ無形資産の移転となり、税務上の問題もあるかと思いますので、どのような対応を想定されているか、支障のない範囲でご教示頂けますと幸いです。よろしくお願いいたします。

回答:ご質問の趣旨である、技術や製造のBCP重要性は認識しています。ライコル社に関して、イスラエル現地の状況を継続して注視し慎重に対応を検討してまいります。

<質問8>

質問:酸化ガリウムは、どのような種類があるのですか?

回答:酸化ガリウムの結晶構造は、β型・α型を代表として全部で5種類が確認されています。当社が取り組むのは、β型酸化ガリウムです。