「『SNS担当者を育成するプロ』が教える、IR✕Twitter運用術」

秋元洋平(以下、秋元):みなさん、こんにちは。これより「『SNS担当者を育成するプロ』が教える、IR✕Twitter運用術」を始めさせていただきます。

まず、本日の企画説明です。IR情報はコーポレートサイトに公開するだけでなく、SNSも活用しながらより多くの投資家に発信し、認知獲得や相互交流する時代です。しかし、そのような状況にありながら、Twitterなどの運用に関心はあってもノウハウやリソースの不足から実行できていない企業が圧倒的多数です。

そこで本イベントでは、SNS担当者を育成するプロと企業のIR担当者にご出演いただき、Twitter運用についてディスカッションすることで、IR担当者のTwitter運用のレベルアップやチャレンジ開始のきっかけになることを目的としています。

あらためまして、私は秋元と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介させていただきます。2016年にログミー株式会社に入社し、その後、このログミーファイナンスを立ち上げました。

現在は、事業部長をしながら、個人投資家やIR担当者向けのリアルイベントを企画し、機関投資家と個人投資家の情報格差を解消するための仕組みづくりに注力しております。みなさまのお役に立てればと思っています。

Twitterが持つ「即時性・共感性・意外性」の3つの特徴

秋元:ではさっそく、第一部「IRにおけるTwitter運用のイロハ」に移ります。まずはスピーカーを紹介いたします。株式会社BESW代表取締役の田中さんです。

田中千晶氏(以下、田中):みなさん、本日はよろしくお願いいたします。BESW代表の田中と申します。私は2009年の大学在学中に会社を作り、その時からSNS支援をしていました。全国各地でSNSのセミナーをしており、SNSの本社が集まるアメリカのシリコンバレーに直接出向いて、新しく正しい情報を仕入れ、日本の企業に提供しています。

ではまず、IR担当者がTwitterをどのように活用して、広報に効果的な活用をしているか? について、ご説明します。SNSは(サービスごとに)それぞれ特徴が違いますが、我々はTwitterには「即時性」「共感性」「意外性」の3つの特徴があると考えています。

「即時性」を意識した、ハッシュタグの活用手法

田中:具体的にご説明しますと、まず「即時性」とは言葉のとおり、最近注目されている話題や、流行り(トレンド)に合わせた話題です。緊急地震速報などもトレンド、即時性の話題になります。最近流行っている曲なども、ハッシュタグ化することで即時性というポイントになるため、この数字が上がりやすくなります。

今、上場企業や上場計画中企業の社長(の多く)が個人アカウントを持ち、Twitterを動かしています。

(スライドを指して)これも今お伝えした「即時性」を意識して、箱根駅伝が開催されている時に「#箱根駅伝」「#箱根駅伝2021」などのハッシュタグを活用し、SNS内、Twitter内での検索順位を上げています。

時期的に3月末だったため、(スライドを指して)こちらの方のTwitterアカウントでは、花粉症の話題を出していました。これも即時性を意識して、こういったワードを取り入れています。

中でも、季節のトレンド系ツイートは共感されやすいため、(スライドを指して)この社長やIR担当者などのアカウントでは、あえてシーズンに合わせたワードを取り入れています。

他の人が言語化できなかった“あるあるネタ”が生む「共感性」

田中:2つ目のポイントは「共感性」です。“あるあるネタ”など、他の人が言語化できなかったことを言語化した投稿、実用的な内容。これらを「共感性」と言っています。

「ランナーあるある」といった「〇〇あるある」は、他の人が「それ言いたかったんだよな」と思っていたことを代弁しているかたちになり、このように数字が上がりやすくなっています。

(スライドを指して)上場企業の人事であるこちらの方のTwitterアカウントも、やはり共感性を意識しています。人事という所属部署柄、Twitter上でのターゲットは求職者ですが、このように自身が共感したことを発信すると、この方の考えられているビジョンや考え方に共感されて反応が上がっています。誰もが共感しやすい投稿で、インプレッション数や表示回数も上がっているということです。

親近感を生み、「意外性」を突く、ツッコミどころのある投稿

田中:(スライドを指して)こちらも、とある企業のTwitterアカウントですが、他の人が思いつかないようなネタの中でも「意外性」のあるツイートです。「#あれ実は私なんです」と、ちょっとツッコミどころがあるような投稿で意外性を突いています。

Twitterの場合、やはりコミュニケーションを取る時の親近感も重要ですので、なるべくフランクに、トーンを落としてあげて。新聞などで書かれるような記述ではなく、本当に「友だちに呼びかけるようなかたち」のネタが作られるのもポイントです。

このような投稿をしていくと、Twitter上でユーザーがコメントしてくれたり、シェアしてくれたりして、そこから口コミが拡散していきます。

3つ目は「意外性」です。(スライドを指して)こちらはマザーズ上場企業の、とある方のTwitterアカウントです。会社設立15周年のお祝い&感謝のツイートですが、15周年限定の画像を挿入されており、これも投稿のインプレッション数、エンゲージメント率を上げるポイントとして使われています。

ですので、SNSの運用では、どのような投稿をすれば数字が跳ねるのか? 日々、壁に当たっている方もいらっしゃると思いますが、Twitterの場合は、今お伝えした3つの特徴を意識しながら投稿していただければと思います。

やりがちな「いきなり投稿から始めて、数字に一喜一憂してしまうパターン」

田中:このようにSNS運用をしていく前に、我々の中で戦略を決めています。スライド13ページの①から③までを戦略といい「何を目的にSNSを動かすのか?」というように、IRのTwitterアカウントだったとしても、目的をさらに細かく決めていきます。

続いては「(ターゲットは)投資家なのか、従業員なのか?」といった、ペルソナを決め、その次に目標値です。フォロワーに関してもエンゲージメントに関しても、この反応数を数値化していきます。

その後、ようやく投稿が始まるわけです。みなさまがやってしまいがちなことで、いきなり投稿から始めて「今月は数字がよかった・悪かった」と一喜一憂されているところが多いのですが、まず、この戦略①から③までのフェーズを介していただく必要があります。

「無視される」と分かっているアカウントに、ユーザーは反応しない

田中:また、今日みなさまに絶対に伝えたかったのが「SNSはコミュニケーションツールである」ということです。(スライドを指して)このように、ある会社のIR担当者が投稿されているものに対して、ユーザーがコミュニケーションを取っています。これは(担当者が)「Twitterはコミュニケーションツールである」とわかっていて、コメントが来るような形式の投稿を意識しているために、このように返信が入るわけです。

「(ユーザーが該当アカウントにリプライを送っても)無視される」とわかっているとコメントが入らないため、発信する側が「(SNSは)コミュニケーションツールである」と念頭に置いていただくと、その後のコミュニケーションにもつながっていき、結果、目標値として定められているものが達成しやすくなっていきます。

ありがちな誤りが「ホームページと同じような使い方をしている企業」です。つまり「一方的な発信のみで終わってしまうパターン」が多いです。

「プレスリリースなどで掲載されている情報をTwitterで発信するだけ」になってしまうと、やはりユーザーからはあまり面白くないなと思われてしまうため、この「コミュニケーションを取る」という概念を持っていただく必要があります。

まず「いいね」、次に「RT・リプライ」、そしてようやく「フォロー」の順番

田中:我々が「コミュニケーション」と呼ぶ各々の機能に対しては、それぞれ(企業担当者が実行するまでの)ハードルが違います。例えばTwitterの場合だと、ハードルが一番低いのが「いいね」です。自社の事業、サービスに関連している(一般ユーザーの)投稿に、企業から「いいね」をしていきます。

次に「リツイート・シェア」で、他の人にも知ってほしい内容をシェアしていきます。その次に「リプライ・コメント」です。自社の事業、サービスに関連しているもの(一般ユーザーの投稿)にコメントします。次でようやく「フォロー」です。

よくやってしまいがちな失敗で、いきなりフォローしてしまう会社がかなり多いのですが、絡まれたユーザー側は驚いてしまいます。フォローの前に、このようなコミュニケーション機能があるということを、みなさんに意識していただければと思います。

ただ、中にはアクションしてはいけないユーザーもいます。(スライドを指して)この方のTwitterアカウントでは、政治的な情報をネガティブに発信されています。こういった人の投稿に「いいね」やコメントしてしまうと炎上の可能性があるため、政治的なことを発信している人とは、なるべくコミュニケーションしないようにしていきましょう。以上です。

秋元:ありがとうございました。「まず目的を明確にして、次に目標設定・KPI設定を行い、そしてようやく投稿を始める」ということができている企業は、なかなか少ないのではないかと思いました。この後、永山さんにもそのあたりをうかがっていきたいと思います。

会社の「もし炎上したら?」という心配を説き伏せた、永山氏のひと言

秋元:では第二部に移ります。ここからご参加いただく、株式会社アピリッツ取締役執行役員CFOの永山さんです。

永山亨氏(以下、永山):株式会社アピリッツCFOの永山と申します。昨年(2021年)2月に上場したばかりで、コロナ禍においては個人投資家へ対面でアプローチする方法もなく、Twitterを始めた経緯があります。本イベントを通じて、いろいろ学びたいと思います。よろしくお願いします。

秋元:よろしくお願いします。ではまず私から、永山さんにいくつか質問させていただきたいと思います。

永山さんはTwitter運用をされていますが、多くの企業にお話をうかがうと、社内で必ず「そんなことやっていいの?」という議論になるそうです。永山さんは、どのように社内の許可を得ていったんでしょうか?

永山:それに関しては、僕はCFOであってIRに関しては諸々と任されているので「やりたいようにやっていいよ」とは言われていたんですけど、やはり「炎上したらどうするの?」「変な人に絡まれたらどうするの?」と心配されました。

その時に一番強く言ったのは「個人投資家へアプローチしていくには、ウェビナーなどの手段だけでは、もうどうにもできない」ということです。「他社さんがうまく運用しているTwitterを(自分たちも)使わないと、出来高も醸成されず、知られることもなく、どんなによいニュースを出しても反応してもらえない」というデメリットを伝えて、許可を得ましたね。

秋元:ありがとうございます。永山さんは前職でもIRに関わられていましたが、規模感などは今とは違うと思います。例えば前職で、今と同じように「Twitterなどで投資家とコミュニケーションを取ることがスタンダードになり始めている状況」で、会社にSNS運用の話を持っていったとしたら、素直に通るイメージですか?

永山:前職だと、たぶん通らないかもしれません(笑)。事業規模はおっしゃるとおりで、前職の企業はもう1,000億〜2,000億円近くになり、究極的に言うと、個人の方や機関投資家にも名前が知られているため「あえてリスクを取ってまで、さらに拡散する必要はないだろう」と言われるんじゃないかと思ってます。

秋元:ありがとうございます。ちなみに前職の規模だったとしても、Twitter運用はしたほうがいいと思われますか?

永山:個人的には、絶対にやったほうがいいと思います。

「ゲームの世界に資本主義を持ち込むな!」という、意外なリアクション

秋元:ありがとうございます。次の質問です。(SNSを)運用されていく中で、どのような進め方をされていったのか? どのような失敗や気づきがあったか? など、教えていただけますでしょうか。

永山:運用に関しては、(当時は)まだコロナ禍が始まった頃で「個人投資家向けの対面での説明会がない」と主幹事から言われてしまい、それ(SNS運用)以外に手法がない。さらに、上場したばかりで(会社の)名前も知られていない。

そんな中で藁にもすがる思いで情報収集している時に、すでに上場されていてTwitterを使ってIRをされている方々に出会い、まずは効果や意味合いを模索しながら始めました。

先ほど田中さんが説明されていたように、まさに最初はペルソナも何も考えずに始めてしまっていて(笑)。「とにかく始めよう!」ということで始めて、その後は「あれやこれや」と試行錯誤し、他社さんのいいところを真似たりするのを継続してきました。

失敗談としては、当社はゲームも展開しているため、当然、ゲームのことをつぶやいたりするのですが。つぶやき方について「ゲームの世界に資本主義を持ち込むな!」と版権元から怒られたことがありました(笑)。

秋元:予想だにしないリアクションがあったわけですね(笑)。

永山:そのとおりです。やはりそういった権利とか「(IRとは)別の世界のものに関しては、ちょっと注意しなければいけない」という、いい事例でした。

Twitter運用で得られた、いい効果とは?

秋元:ほかに何か気づきや失敗ってありましたか?

永山:気づきでいうと「今、個人投資家の方はTwitterで情報収集しており、そこでのつながりもある」とは聞いていましたが、最初は私も半信半疑だったんです。(SNS運用が)うまくいっている会社はたぶん「その発信者の方ご本人に魅力があるから」とか「その会社がとても面白みのあることをしているから」ではないか? と思っていて。

でも実際にやってみると、意外と私が発信する情報を元に「株を買いましたよ」と言ってくれたりして、効果はだんだん出てきているなと実感しています。

ほかには、先ほど田中さんがおっしゃっていたように、やはりネガティブなツイートに「いいね」などはしないようにしていました。なので、今のところ大炎上はしていません(笑)。

秋元:ありがとうございます。次の質問は、まさしく今お答えいただいた部分でもあります。実際に投資家からリアクションがあったとか、株を買ったとコメントもいただけたそうですが、ほかに何かいい効果ってありましたか?

永山:1つは、個人投資家の方に情報を届けられるようになったこと。また、他社さんでもIR担当者がだんだんTwitterを始めていて、そういった方々との横のつながりができたことです。その方たちと発信をキャッチし合うことで自身の学びにもなったり、Twitterを介して情報交換の場ができたり。そういった副次的な効果がありました。

SNSでは“人間性”を出さないと、共感は得られない

秋元:ありがとうございます。次の質問からは、永山さんから田中さんにもいろいろ聞いてみたいということで、スライドをご用意させていただいています。

永山:田中さんにズバリ聞きたいと思ったのが、すでに情報がいろいろ出回っている中で「そんな発信しても意味ないよ」とか「こういうふうにやらないとダメだよ」とか言われるんですが、結局、どれが正しいのかがわからなくて。

先ほどお話したとおり、私は企業の公式IRアカウントとして発信しているため「当社がこのような開示をしましたよ」といった投稿をしがちなんですね。最初の頃は「人間味を出すと炎上が怖いな……」と思って感情を出さなかったんですが、発信の仕方として、感情を入れたほうがいいのかどうか? についてお聞きしたいです。

田中:はい、ありがとうございます。やっぱりSNS上では、人間性を出さなければ共感が得られないんです。「bot感」がある投稿は、採用の文脈からしてもそうですが、求職者が見ても個人投資家が見てもおもしろくありません。そのため最近のトレンドとしては、あえて人間性を出しています。プロフィール写真は企業の屋号やロゴではなく、個人名を出したり個人のプロフィール画像で投稿したりしています。

ユーザーは「イチローが発信するから共感する」ワケではない

田中:また「投稿に(投稿者個人の)主観のニュアンスを入れるかどうか?」については、入れたほうが共感性があります。例えば「IR担当の永山さん自身がニュースを見て、どのように感じたか?」に、人は共感するので。なのでSNSを使う以上は怖がらず、そこを意識したほうがいいと思います。

永山:なるほど。少しずつ人間味を出し始めていますが、まだちょっと炎上を怖がっていますね(笑)。

田中:(笑)。でも炎上には、必ず理由があります。炎上の可能性があるのは、例えば政治的な発信をした場合ですとか。あとは炎上を起こすのは、まったく投稿していない「空アカウント」と呼ばれるような人々であって、責任感を持ってTwitterを動かしているユーザーさんではないため「何が起こるかわからないリスク」はあります。でも炎上の理由さえ明確にすれば、怖がる必要はないと思います。

永山:なるほど。もし私が超一流であれば、自分の考えなんかを発信しますが「自分はたいしたことないのに、このつぶやきって有効なのかな……?」とか考え始めると、気軽に発信できなくなってしまうんですよね。

田中:今のユーザーさんは、例えば「イチローが発信するから共感する」のではなくて、「どこかの会社の〇〇さんの投稿」に共感するようになってきています。なので、それが「スポーツマンで超優秀な人」でなくても「会社のIR担当の永山さん」に共感するようになっています。

永山:じゃあ、怖がらなくてもいいということですね(笑)。

田中:怖がる必要はないです(笑)。

忘れがちな「リアルと同じステップを踏むべき」という、基本的な考え

永山:ありがとうございます。次にお聞きしたかったことですが、最初は個人投資家の方たちに当社のことや情報を知ってほしいという理由でSNSを始めたんです。そこでいろいろと情報収集すると「個人投資家の方はTwitterでつながっていたりするよ」というアドバイスがあって、どのようにしてリーチしようか? を考えていたんですけど、手法がまったくわからず。最初は個人投資家の方をたくさんフォローしたんですね。

ただ、フォローしたからといってフォローバックがもらえるわけではなくて。フォロワーは少しずつ増えてきていますが、分析がまだできていないため、何か正しいアプローチ方法があれば聞きたいと思いました。

田中:「つながりたい個人投資家の方をフォローする」という永山さんのアプローチ方法は、間違いではないんです。でも、先ほど「コミュニケーションのハードルには段階がありますよ」とお伝えしたとおり、いきなりフォローから入るとフォローされた側は驚いてしまうんですね。

なので段階としては、まずはハードルが低い「いいね」から始めます。ある方の投稿に対して「いいね」をしていく。ある企業アカウント・コーポレートアカウントに対して「いいね」をしていくことから始めます。

田中:つながりたい人を急いでフォローするより、「いいね」から始まり、4つ目のステップでフォローをしたほうが、結果的にその人に信用されて、永山さんの投稿を見てもらえるかたちになります。なので、あまり焦らず徐々にコミュニケーションを進めていくのがおすすめです。

永山:確かにそのとおりですね。最初のうち、一生懸命フォローしてもフォロワー数はあまり伸びなかったんですが、それほど意識せず「いいね」や投稿を繰り返すうちに伸びてきたなぁと思います。

また、統計を取ったわけではないですが、個人投資家の方の発信に共感してリツイートして意見を述べた場合にフォロワー数が伸びたので、焦らずに進めていこうと思います。

田中:そうですね。そのあたりは、リアルコミュニケーションとまったく同じだと思います(笑)。すぐに結論を言うより、徐々に関係を温めていってから一番言いたかったことを伝えるのと同じ考え方だと思いますね。

永山:忘れがちですけど「リアルと同じステップを踏んでください」ということですね。ありがとうございます。