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竹内栄一郎氏(以下、竹内):リンテック株式会社執行役員広報・IR室長の竹内です。この度は当社の説明会をご視聴いただき、誠にありがとうございます。今回の当社の概要説明を通して、みなさまの投資に少しでもお役に立てれば幸いです。

スライドは本日のプレゼンテーションの内容です。当社の概要、製品・技術、各事業部門の概要、2026年3月期の連結業績予想をご説明します。

会社概要

竹内:会社概要をご説明します。当社は東京都板橋区に本社を構えており、連結従業員数は約5,300人です。連結売上高は約3,000億円で、東証プライム市場に上場しています。

当社を一言で表すと、粘着製品や特殊紙のリーディングカンパニーです。日用品など身の回りにあるさまざまなものに貼られるシール・ラベル用をはじめ、半導体や電子・光学関連製品などに使用される各種粘着製品、関連機器、さらには特殊紙、剥離紙・剥離フィルムなどの開発・製造・販売を手がけています。

それぞれの分野において、日本を代表する会社であるといえるかと思います。事業拠点として、連結子会社を国内に3社、海外には北米とアジア地域を中心に37社を有しています。

沿革①

竹内:当社の沿革についてご説明します。当社は1927年に、ダンボールなどに貼る包装用ガムテープの製造を開始し、1934年に現在本社を構える東京板橋の地に「不二紙工株式会社」を設立しました。

その後、1960年にシールやラベルの素材となる粘着紙・粘着フィルムの生産を開始し、以降も粘着製品の用途拡大を図りながら成長を遂げてきました。

1986年には、当時世界初の紫外線を使って粘着力をコントロールする「UV硬化型ダイシングテープ」を開発し、半導体関連分野に本格参入しました。

大きな変化点として、1990年にそれまで剥離紙の仕入先であった特殊紙メーカーの四国製紙、剥離紙・剥離フィルムおよび粘着紙・粘着フィルムのメーカーであった創研化工と3社合併し、商号を「リンテック株式会社」に変更しました。今年で36年目を迎えています。

沿革②

竹内:当社では1990年代以降、海外進出を本格化させており、インドネシアやマレーシア、中国、韓国、台湾、タイなど、アジア地域を中心にラベル関連製品や粘着紙、半導体・電子部品関連製品などの生産・販売拠点を相次いで設立しました。

当社では、「市場のあるところで生産し、その市場で販売する」という、いわゆる地産地消の「メード・イン・マーケット」の考え方で事業のグローバル化を推し進めています。

2016年には北米ラベル関連市場第3位のマックタック・アメリカ社を買収したことで、それまでは難しかった北米市場への本格参入を果たしました。その後、マックタック・アメリカ社で複数社のM&Aを実施するなど、グローバル展開を一層加速させています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):御社は現在までテープ関連事業に取り組んでおり、生産拠点を増やすなど海外展開も行って成長しています。創業のきっかけについて教えてください。

竹内:1927年4月の創業とともに、ガムテープの製造を開始しています。ガムテープというと、みなさまが一般にイメージするのはダンボールに貼られる粘着テープだと思いますが、それではありません。

本来は茶色いクラフト紙に水溶性の接着剤をコーティングしたもので、使用時に切手のように水をつけて貼るテープのことを指します。当時、木箱に代わってダンボールケースが普及するのに伴い、急速に需要が伸長しました。

業績推移/売上高、営業利益

竹内:当社の業績推移についてご説明します。過去の経済危機のほか、2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大や米中貿易摩擦など、不安定な経済市況に直面してきましたが、当社の業績はその際も営業赤字に陥ることなく推移してきました。

直近の2025年3月期は、原燃料価格や物流コストが上昇傾向にありましたが、半導体・電子部品関連製品が好調な需要に支えられたこともあり、売上高、営業利益ともに過去最高となりました。

当社の製品は、食品や日用品、医療・医薬関連から半導体・光学関連分野まで非常に多岐にわたります。これは1つの業界の市況に左右されることなく、安定的な収益を確保できるという当社の強みにもなっています。

坂本:2023年3月期と2024年3月期の営業利益が落ち込んでいる理由を教えてください。

竹内:2022年3月期は、半導体・電子部品関連製品が非常に好調な需要に支えられて伸長したことで好業績を達成しました。

しかし、2023年3月期は一転して、コロナ禍の巣ごもり特需の剥落などにより、業績を牽引していた利益率の高い電子・光学関連製品の需要が減少しました。そのほかにも原燃料価格の上昇の影響を大きく受けたことなどもあり、大幅な減益となりました。

2024年3月期においては、価格改定や円安効果に加え、半導体・電子部品関連やシール・ラベル用粘着製品を中心に受注が回復するといったポジティブな面もありましたが、上期の不振をカバーするまでには至らず、減収減益となっています。

業績推移/海外売上高

竹内:スライドは海外売上高の推移を示したグラフです。当社は1990年代以降、アジア地域や北米を中心に事業のグローバル化を積極的に進めてきました。

その結果、2025年3月期の海外売上高は2,018億円となり、直近の約10年間で1,287億円増加しました。連結売上高に占める海外売上高の比率は、足元で約64パーセントまで上昇しています。

坂本:海外売上高の増加が直近の業績が伸びている理由にもなると思います。海外売上高が増加している理由を教えてください。

竹内:その前に、1990年代にさかのぼりお話しします。1990年代は、当社の粘着製品の最終需要家である家電メーカー、自動車メーカーなどが東南アジアを中心に生産拠点をシフトしていきました。それに加えて電子・光学分野の海外生産も増えていった中で、当社もそれに追随するかたちで海外売上高が増えていきました。

近年さらに増えている背景としては、為替の円安効果もありますが、マックタック・アメリカ社の買収が一番大きな要因かと思います。2016年に北米のラベル関連市場で第3位の同社を買収し、その後も事業基盤の拡大を図ることを目的に、北米で複数社のM&Aを重ねて売上を伸ばしてきました。

前期においてマックタック・アメリカ社の売上高規模は約880億円となり、当社グループの海外売上高において、アジアと並び米国の割合が高くなっています。

坂本:海外の売上高比率も非常に高いのですね。

配当

竹内:当社の配当金についてご説明します。当社は、「2027年3月期までは原則として減配せず、配当性向40パーセント以上、またはDOE3パーセントを目途に配当を実施する」という配当方針を掲げています。また、過去10年以上、減配していない状況が続いています。

前期の年間配当金については、業績が好調であったことから、当初予想の88円から12円増額の100円としました。今期については通期連結業績予想を踏まえ、前期から10円増額の110円と、2期連続の増配を予定しています。これにより、配当性向は41.2パーセントとなる見込みです。

また、株主還元の一環として、今年2月に300万株または100億円を上限とする自己株式取得を決議し、6月までに取得を完了しました。

株価推移

竹内:スライドは株価の推移を示したグラフです。2023年頃は2,100円台だった株価ですが、昨年7月には上場来高値を更新する3,665円まで高まりました。しかし、昨年10月以降は株価は軟調な状態が続き、PBRは1倍を下回る水準が続いています。

この対策として、収益性や資本効率の向上、株式市場との建設的な対話、IR活動の強化などに引き続き積極的に取り組むことで、企業価値の向上と継続的なPBR1倍超えを目指していきます。

坂本:IR活動の強化について、御社はBtoBのビジネスが中心で、直接消費者に販売する製品は少ないと思います。そのため、知名度を高めるために、今回のIRセミナーへの参加も含めてIR活動を行っているのだと思います。

機関投資家を含むプロの投資家はBtoBの会社も分析するため、当然、御社のことも知っています。実際に私も機関投資家だった頃に、技術も含めて非常に注目していました。

最近は株価が上昇する時というのは、機関投資家が「いいな」と目をつけて、お話を聞いて「買おう」となるという、一方通行のイメージです。継続的な株価上昇はよく見られるところで、それは業績に起因する部分もあります。また、発信を強化することで「この会社、いいね」と買われる部分もあると思います。

機関投資家との対話は株価の上昇において非常に重要ですが、国内と海外の機関投資家も含めた、最近のミーティングの状況を教えてください。

竹内:現在の状況として、ミーティング件数は確かに増えています。2025年3月期における証券アナリスト・機関投資家との個別ミーティングの回数は、延べ311社です。

坂本:営業日から考えると、1日1件以上ですね。

竹内:その前の年が221社だったため、件数は非常に増えています。生成AIの需要拡大に伴い、当社の半導体関連製品への注目が高まっていることが一番大きな要因ではないかと思っています。

海外投資家とのミーティング割合は、全体の約2割です。また、アナリストカバレッジも2025年3月期に2人増えて、現在6人となっています。

坂本:アナリストカバレッジが増えてくると、定期的にレポートが出て、機関投資家の目に触れる機会が増えるため、意外と大事な着目点かと思います。

会社案内動画

竹内:当社の製品や技術、各事業部門の概要についてご説明します。まずは当社の製品や技術を簡単にご紹介した会社案内の動画をご覧ください。

(動画流れる)

竹内:この動画は当社の知名度向上の一環として、主に若年層をターゲットとして、今年4月に「YouTube」へアップしたものです。

粘着製品の基本構成

竹内:当社の主力製品であるラベル用粘着製品の基本構成についてご説明します。

当社の粘着製品は、一般的に表面基材である紙・フィルム、粘着剤、それを保護するための剥離紙または剥離フィルムの3層構造になっています。シールやラベルの用途によっては、表面の紙やフィルムに印刷・印字適性や耐久性などの機能性を付与するための表面加工が施されます。

手元にあるシャンプーボトルと洗剤に貼られているラベルが、当社製品の実物を使ったサンプルです。

坂本:濡れても剥がれにくいなどの特性がいろいろあるのですね。

竹内:実際に当社から出荷される際の粘着紙のサンプルがこちらです。

坂本:こちらは印字もするのですか? 

竹内:用途によって、印字も印刷もされます。

坂本:適宜切断していくのですね。

荒井沙織氏(以下、荒井):身の回りに絶対にあるものですね。

坂本:持ち歩き用のウェットティッシュもあるのですね。

荒井:ウェットティッシュ、除菌ティッシュなどのフタの部分です。

坂本:何回も貼れるようになっているものですね。

竹内:繰り返し貼って剥がす部分が当社の製品で、みなさまも日頃使っているものです。

荒井:この粘着力は本当に大事ですよね。

坂本:これがないと何回も使えません。

竹内:何気ない製品のように見えますが、当社の技術が詰まっています。

粘着製品の一貫生産体制

竹内:当社は1990年に3社合併し、これにより剥離紙・剥離フィルムの製造も可能になり、粘着製品の一貫生産体制が実現しました。

また、粘着製品の特徴を最大限に引き出すために、製品を貼り付けたり剥がしたりする関連装置も開発・生産しています。素材と装置をあわせて提供できる点も、当社の大きな強みの1つかと思います。

基盤技術に基づく3つの事業セグメント

竹内:これまでの歴史の中で培ってきた当社の主な技術は、4つの基盤技術に集約されます。具体的には、「粘着応用技術」「表面改質技術」「システム化技術」「特殊紙・剥離材製造技術」です。これらの技術を応用・融合し、数多くの製品を開発・提供しています。

これらの幅広い事業領域を、製品や技術、市場の類似性に基づき、3つの事業セグメントに分けています。各セグメントには2つの事業部門があり、合計6事業部門という体制で展開しています。

印刷情報材事業部門

竹内:各事業部門の概要をご説明します。まず印刷情報材事業部門は、当社の主力製品であるラベル用粘着紙・粘着フィルムを製造・販売しています。2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の46.4パーセントの1,467億円です。

当社で製造した粘着紙・粘着フィルムをシール・ラベル印刷加工会社さまに販売し、そこで印刷・加工されたものがエンドユーザーに納品されます。最終的な用途は非常に幅広く、みなさまの日常生活のさまざまなシーンで目にするラベルが、実は当社製ということも珍しくはないかと思います。

印刷情報材事業部門

竹内:当社の粘着紙・粘着フィルムは、例えば食品などのパッケージに貼られるラベルや、宅配便の伝票、あるいは自動車内部や家電製品自体に貼られるラベルなど、さまざまなところで使用されており、それぞれ耐水性や耐熱性など用途に応じた性能を持っています。

当社は、主に食品や流通、通販関連などに使われる粘着紙で国内市場において約30パーセントのシェア、自動車や家電製品などに使われる粘着フィルムでは約60パーセントのシェアを誇る国内のトップメーカーです。

さらに海外市場においては、中国やタイ、シンガポールなどの生産および販売拠点を軸に事業展開を図っているほか、北米市場での拡販にも注力しており、当事業部門の海外売上高比率は71.6パーセントになっています。

マックタック・アメリカ社について

竹内:米国のマックタック・アメリカ社は、印刷情報材事業部門の主力グループ会社です。同社は米国オハイオ州にて1959年に創業した、ラベル用粘着紙・粘着フィルムなどの製造・販売を行う、従業員数1,000人を超える会社です。

世界のラベル用粘着紙・粘着フィルム市場の約2割を占める北米市場において、マックタック・アメリカ社は第3位のメーカーです。同市場への本格参入を目的に、当社が2016年に約340億円で買収しました。

さらに2024年までに追加で累計約180億円を投じ、マックタックグループの生産能力や販売網の拡充などを主眼に、積極的なM&Aを実施してきました。

坂本:マックタック・アメリカ社は、御社の海外戦略の中でもかなり大きな会社だと思っています。こちらの買収の理由を教えてください。

竹内:当社は経済発展が見込まれる国や地域で事業規模を拡大する戦略を志向しており、世界有数のシール・ラベル市場である北米地域への本格参入の機会を過去より探っていました。

マックタック・アメリカ社は、ホットメルトと呼ばれる独自の粘着剤処方や高速塗工技術を用いた製品展開により、米国市場において確固たる地位を築いています。同社を通じてリンテック固有の技術開発力を用いた高付加価値なオリジナル製品を北米市場に積極的に展開する一方で、環境対応に適したマックタック・アメリカ社のホットメルト製品を日本国内で展開する相乗効果も生まれると判断しました。

坂本:マックタック・アメリカ社の製品を日本で売るというシナジーは、すでに生まれているのですね。

加えて、のれんが約300億円で10年償却です。有望な会社ではありますが、見方によってはのれんが非常に大きく、割高とも言えます。こちらについて戦略的な考えがあったのでしょうか?

竹内:2016年12月に約340億円で買収しましたが、のれん代が当時の為替で約300億円と、非常に大きくなりました。償却が10年続き、その負担が非常に大きいのは事実です。

しかし、米国の市場は日本と違ってまだ発展する余地があります。償却は残り2年ほどですが、償却が終わればしっかりとした黒字体制に持っていけるのではないかと思っています。

坂本:マックタック・アメリカ社を買収後、さらに米国で3社を買収しています。こちらはマックタック・アメリカ社とのシナジーや全体の最適化を求めて買収したのでしょうか?

竹内:最初に買収したデュラマーク社は、最新鋭の生産設備を持っていた会社で、生産能力を増強するためです。2つ目のスピネカー社は、マックタック・アメリカ社が従来持っていた製品とは違うものを持っていたため、事業領域の拡大が目的です。3つ目のカナダのラベルサプライ社は、カナダ市場の販売網を拡大するという目的でM&Aを実行しています。

産業工材事業部門

竹内:同じセグメントの産業工材事業部門についてご説明します。当事業部門では、建物や自動車の窓ガラスに貼ることによって、ガラス飛散防止効果や遮熱機能による省エネ効果などを発揮するウインドーフィルムのほか、耐久性に優れた屋外看板・広告用フィルム、内装用化粧フィルムといったさまざまな粘着製品を製造・販売しています。

2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の12パーセントの380億円です。

産業工材事業部門

竹内:産業工材事業部門は、建物用や自動車用のウインドーフィルムのほか、街中で見かけるサイン・広告看板用フィルムや建物内装用の化粧フィルム、自動車用などの工業分野を中心に幅広い市場に粘着製品を展開しています。

近年は米国や東南アジアを中心に建物用や自動車用のウインドーフィルムなどの販売が好調に推移しており、この分野におけるビジネス領域を年々拡大させています。

昨今、国内においては闇バイトによる強盗事件が社会問題となっていますが、当社の建物用ウインドーフィルムでは防犯対策効果のある製品が注目されています。

そのほか、物流の現場などで配送ラベルを自動で貼り付けるラベリングマシンなども手がけており、インターネット通販市場の拡大のほか、労働力不足の解決や生産効率向上を目指した需要が増加しています。

なお、当事業部門の海外売上高比率は52.6パーセントです。

坂本:ウインドーフィルムの販売について、特に米国が伸びていると思います。その理由について教えてください。

竹内:米国においては学校での銃撃事件がニュースで度々、報じられています。こうした事情もあって、各州が補助金を支給して学校に防犯対策を促しています。

当社の子会社であるマディコ社はセーフティーフィルムを製造しており、米国の5つの州から採用されたことで、防犯対策用途として販売数量が伸びています。

アドバンストマテリアルズ事業部門

竹内:電子・光学関連のアドバンストマテリアルズ事業部門についてご説明します。

当事業部門では、半導体チップの製造工程で使われる特殊粘着テープと半導体関連装置、そして積層セラミックコンデンサ関連テープなどの開発・製造・販売を行っています。近年の当社の成長を牽引する部門です。

2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の26.9パーセントの850億円です。

アドバンストマテリアルズ事業部門

竹内:半導体の製造工程は大きく前工程と後工程に分かれています。当社の半導体関連製品が使用されるのは主に後工程です。

スライドの図の濃い青色で示した部分が、当社製品が関わる主な工程です。例えば、ウェハ裏面を研削して薄型化する工程や、ウェハを切断して個片化する工程などにおいて、当社の粘着テープや装置が使用されています。

世界の半導体市場はAI需要が牽引するかたちで安定成長が予測されており、アドバンストマテリアルズ事業部門としても成長が期待されています。

坂本:半導体の製造工程において、テープを使うイメージがあまりありませんでした。半導体関連粘着テープにはどのようなものがあるのでしょうか?

竹内:半導体製造の後工程に沿ってご紹介します。まず、ウェハ裏面を薄く削る工程において、表の回路面を保護する役割を担う表面保護テープがあります。

坂本:テープを貼ることで保護するのですね。

竹内:また、ウェハ裏面を研削して薄くした後、ウェハをチップに切断する時に使用されるのが、当社のダイシングテープです。スライド図で「ダイシングテープ貼付」とある部分が当社の粘着テープです。

ダイシング工程ではしっかりとウェハが保持されている、つまり粘着テープにくっついていなければならないのですが、個片化した後のピックアップ工程では粘着力は不要になります。そこで、UVを照射することによって粘着力を低下させることができる当社技術を用いることで、ピックアップも容易にできるようになっています。

これにより歩留まり向上に大きく貢献しています。

坂本:半導体を作る際にテープは必要なのですか?

竹内:必ずではないと思いますが、半導体を作る非常に長い工程の中で、最後に行けば行くほど付加価値が高くなっていきます。最後の最後で傷がついたり、破損したりしてしまうと大変な損害になります。

歩留まりに大きく影響する分野で、当社のテープを使うことによって歩留まりの向上が実現できると判断されているため、ご使用いただいているのだと思います。

坂本:表面保護テープやダイシングテープなどのシェアの状況を教えてください。

竹内:UV硬化型ダイシングテープに関しては当社が一番最初に参入しており、トップシェアとなっています。また、表面保護テープについても非常に高いシェアを持っています。

坂本:おそらく半導体の製造工程では、昔からテープを使っていて、今後、半導体の作り方自体が変わったら別ですが、代替の技術がいきなり出てくることはないかと思います。今であればAIや自動運転など、いろいろな半導体の需要が増えています。それが増えれば御社の製品の活用・販売が増えるというイメージで合っていますか? 

竹内:そのとおりです。特に当社はUV照射技術という、UVを照射することによって粘着力をコントロールする技術が強みです。シリコンウェハが薄くなれば薄くなるほど、割れやすくなり、それを保護するという需要が高まります。

また、当社製品はハイエンド向けで多く使われている状況です。これからさらに半導体の薄膜化、微細化が進む中で、当社の製品に求められる期待は高いと見ており、これからも成長すると考えています。

EUV露光機用CNTペリクル

竹内:半導体製造の後工程で使用される当社製品を紹介してきましたが、前工程で使われる新しい部材についてもお話しします。

当社は、かねてより米国の研究開発拠点において、カーボンナノチューブ(CNT)のシート化技術と用途展開について研究してきました。そのカーボンナノチューブを用いて、半導体製造の前工程でフォトマスクの防塵膜として使われる材料であるEUV露光機用CNTペリクルの研究開発に成功しました。

このEUV露光機用CNTペリクルは、微細化が進む回路の露光時に求められる高い耐久性能を満たしており、現在、当社ではこの量産化の確立に向けた取り組みを進めているところです。

坂本:EUV露光機用CNTペリクルの量産化ができるようになる時期や、収益の貢献度合いのイメージがあれば教えてください。

竹内:EUV露光機用CNTペリクルは現在、2025年度中の量産体制確立に向けて取り組んでいます。お客さまへサンプルを提供して評価を仰いでいるところで、うまくいけば2026年度以降に売上が立つのではないかと見込んでいます。業績への貢献度合いは現在、開示していません。

アドバンストマテリアルズ事業部門

竹内:そのほか、当事業部門では、高機能スマートフォンやパソコンといった電子機器などに搭載される積層セラミックコンデンサという、電子部品の製造工程でも使われる高品質な剥離フィルムも提供しています。

先ほどお話しした半導体関連製品とあわせて、今後も需要の増加を見込んでいます。最近では特にAIデータサーバー用途の需要が高く、当社製品の出荷量が増加しています。

なお、当事業部門には海外の販売子会社が多くあり、海外売上高比率は74.5パーセントと高水準です。

オプティカル材事業部門

竹内:同じく電子・光学関連のオプティカル材事業部門についてご説明します。当事業部門では、スマートフォンやタブレット、テレビなどの光学ディスプレイ向けの粘着製品や、車載用タッチパネル向けの粘着製品などを手がけています。

2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の3.6パーセントの113億円です。

オプティカル材事業部門

竹内:当事業部門では、ディスプレイを構成する各フィルムを貼り合わせるための光学ディスプレイ関連粘着製品を展開しています。

また、ディスプレイ表面の反射防止や傷を付きにくくするための表面加工なども行っており、これらの製品には当社独自の精密コーティング技術と先端のクリーンルーム設備が最大限に生かされています。

オプティカル材事業部門

竹内:当事業部門では、ほかにも自動車のタッチパネルの貼り合わせに使用される高機能光学両面粘着シートを展開しているほか、スマートウォッチなどに使用される光拡散フィルムなど、高品質・高性能なデジタル機器の生産に貢献する製品の拡販にも注力しています。

また、電子ペーパーに使われるガスバリアフィルムも手がけており、現在、次世代太陽電池への採用に向けた開発も進めているところです。

洋紙事業部門

竹内:洋紙・加工材関連の洋紙事業部門についてご説明します。2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の4.7パーセントの149億円です。当事業部門では、豊富な色数が特徴のカラー封筒用紙や色画用紙、高級印刷用紙など、数多くの特殊紙製品をラインアップしています。

近年ではデジタル化やペーパーレス化、郵便料金の値上げなどにより、この事業の市場環境は大変厳しい状況となっています。その一方で、昨今の環境配慮意識の高まりから食品包装資材や文具、日用品など、さまざまな用途で脱プラスチック・減プラスチック需要が拡大しており、当社特有の製紙技術による製品の可能性も高まっています。

当社では耐油性や耐水性、透明性などにおいて、プラスチックやフィルムに近い性能・機能を備えた特殊機能紙を各種開発し、プラスチック代替製品として提案を強化しています。

加工材事業部門

竹内:加工材事業部門についてご説明します。2025年3月期の当事業部門の売上高は全体の6.4パーセントで、201億円です。当事業部門では、剥がす技術を応用した各種製品を展開しています。

具体的には、シール・ラベル用の各種粘着製品の粘着剤面を保護するための剥離紙や、液晶ディスプレイなどの光学関連製品に使われる剥離フィルム、電子材料用途として配線基板であるFPCの表面を保護するカバーレイと呼ばれる絶縁フィルムの剥離紙などです。

さらに、合成皮革や炭素繊維複合材料の製造時に使用される工程紙と呼ばれる製品もラインアップしているほか、各種工業用にも当社独自の剥離製品がポジションを確立しています。

坂本:6つの事業部門で最近伸びている部門やその背景を教えてください。

竹内:ここ数年の当社の成長を牽引するのは、アドバンストマテリアルズ事業部門です。半導体関連粘着テープ、装置、積層セラミックコンデンサ関連テープの主要3製品すべてにおいて底堅い需要が継続しており、2025年3月期に営業利益の過去最高を更新する原動力となりました。

半導体市場は用途によって需要が二極化し、まだら模様を呈しているといわれています。そのような中でも成長できているのは、当社製品がハイエンド向けに特に強く、生成AI関連やスマートフォンの高機能モデルなどの用途で需要をキャッチできているからだと考えています。

成長分野である同事業に対しては、設備投資や研究開発費なども積極的に投下しており、数年先のデファクトスタンダードを握るべく攻勢をかけているところです。

通期連結業績の推移

竹内:2026年3月期の連結業績予想についてご説明します。

当期は、米国政府における関税政策による世界経済への影響、地政学リスクの高まり、各国の金融政策による為替変動など、取り巻く経営環境は非常に不透明な状況にあります。また、原燃料や輸送コストの上昇、人件費や新規生産設備の導入による減価償却費などの固定費増加が利益を押し下げる要因になると考えています。こうした背景から、本年度の業績はスライドのとおり、増収減益となる予想です。

坂本:御社の業績は2025年3月期と今期は高水準です。今期は若干の増収ですが、減益予想とした理由を教えてください。

竹内:一番大きな理由は為替です。今期の想定為替レートは、前期実績から7円円高の1USドル145円としています。印刷材・産業工材関連製品や電子・光学関連製品などを販売する海外子会社の業績自体は堅調に推移すると見ていますが、円換算すると減益になってしまいます。

さらに人件費や新規生産設備の導入による減価償却費なども増え、固定費が増加します。また、原燃料・輸送コストの上昇も利益を押し下げる要因となることが想定されます。

坂本:ただし、高水準の収益は維持できそうですね。

竹内:厳しい経営環境が予想されますが、全社一丸となって原価低減施策などにも取り組んでおり、利益を着実に積み上げていきたいと考えています。

本日のまとめ

竹内:本日のまとめです。特にお伝えしたかったこととして、1つ目に、前期は売上高・営業利益ともに過去最高を達成しました。今期は想定為替レートを円高に見ていることで増収減益予想ですが、前期とほぼ同水準の業績を見込んでいます。

2つ目として、事業のグローバル展開を積極的に推進しており、市場成長が見込まれる海外でグローバルネットワークを構築しています。海外売上高比率は足元で約64パーセントにまで上昇しています。

3つ目に、過去10年以上にわたって減配はしておらず、2期連続での増配を予想しています。

4つ目に、半導体関連事業が当社の成長を牽引しており、半導体製造の後工程で使用される粘着テープや装置の開発だけでなく、EUV露光機用CNTペリクルという新しい製品を引っ提げて、前工程という新規領域の開拓にもチャレンジしていきます。

IRメール配信サービスのお知らせ

竹内:当社では新製品情報や適時開示情報などをタイムリーにお届けするIRメール配信サービスも提供しています。配信を希望される方はぜひご登録ください。

坂本:本日のお話は非常におもしろかったです。まず、御社はBtoBの仕事が非常に大きな割合を占めている会社です。

「粘着関連の会社だろうな」という認識の方はいるかもしれないですが、半導体用途に展開したり、新素材を開発したり、海外展開を長らく進めていて7割ぐらいが海外での売上であったりと、具体的なデータを示していただいたことで、多くのことを知れた良い機会になったのではないかと思っています。

私も一応知っているつもりでしたが、「こんなところにも使われているの?」という新たな気付きなどもあって、おもしろかったです。

竹内:本日の説明会を通じて、当社に関心を持っていただければ幸いです。これからもどうぞよろしくお願いします。