~新morichの部屋 Vol.20 株式会社インフォマート 代表取締役社長 中島健氏~
福谷学氏(以下、福谷):本日も、「新morichの部屋」にやってきました。今日はとても楽しみにしてきました。
森本千賀子氏(以下、morich):実は私もです! 本当に鼻血が出そうです。
福谷:そうなんですか? なにかあったのですか?
morich:実は、今日でお会いするのは2回目ですが、1回目で雷のようにビビビと惚れてしまいました。
福谷:恋ですか?
morich:本当に恋と言いたいくらいです。
福谷:そうなんですか?
morich:「リーダーとはこの人」というくらい、トップオブトップのリーダーです。最近は、そのような人が少ないと思います。
福谷:そうですね。
morich:フォロワーシップ型のリーダーが多いと思います。
福谷:男の中の男ですね。
morich:ダイバーシティ的にはNGな表現ですが(笑)。本当のリーダーシップだと思います。おそらく最初の0.3秒くらいで感じました。オーラが違います。
福谷:確かにオーラがすごいですね。今回も、素敵なゲストをお呼びしているのですが、その前に、なんと、morichの部屋は、20回を迎えることができました。
morich:3回くらいで終わってしまうかと思いましたが(笑)。ここまで続きました。本当に、みなさまのおかげです。
福谷:2025年の8月には2周年を迎えます。
morich:2周年記念を行うため、みなさまぜひ8月27日は空けておいてください。
福谷:大がかりなかたちで、何百人も呼ぶ予定です。
morich:素敵なゲストもたくさんお呼びする予定です。
福谷:さっそく、ゲストをお招きしましょう。
morich:株式会社インフォマート代表取締役社長の中島健さんです。ようこそ、いらっしゃいました。
中島健氏(以下、中島):こんにちは! 本日はとにかく抑え気味にいこうと思います。
morich:簡単に自己紹介をお願いします。
中島社長の自己紹介
中島:現在59歳の、中島健です。子どもの頃はわんぱくで、スポーツが大好きな少年でした。すくすくと育ち、大学卒業後は銀行員として働きました。「最も銀行員らしくない銀行員」とよく言われていました。私にとっては一番うれしい言葉でした。
22歳から43歳までの21年間、銀行に勤めた後、思い切って転職しました。転職先が今在籍している、株式会社インフォマートです。2010年から2025年と、インフォマートには15年います。2022年から、代表取締役社長を務めています。
morich:普段は健さんと呼んでいますが、本日も健さんでよろしいでしょうか?
中島:健さん以外の呼び名では呼ばれません。社員も全員、健さんと呼んでいます。
morich:本当ですか?
中島:中島社長と呼ばれたら、注意をします(笑)。こちらはリーダーにとって大切なことです。詳細は後ほどお伝えします。
morich:今日は本当に健さんのシャワーを浴びています。もともと知っていた気でいましたが、直近の1週間でさらによく見ています。わんぱく少年ということでしたが、お父さまの影響が大きいと聞きました。小さい頃、お父さまはラグビーをしてほしいと考えていたのですか?
中島:そうですね。父親はラグビーを勧めていました。3歳から、「ラグビーをしろ」とずっと言われていました。
morich:しかし、ラグビーは行わなかったのですね。
中島:ずっと「ラグビーなんてやるもんか」と思い、水泳やサッカーに打ち込んでいました。特に水泳は、中学の時に一生懸命取り組んでいました。
morich:中学校の時は水泳部でしたか?
中島:そうです。スイミングスクールにも通っていました。鈴木大地選手が私の1歳下で、一緒に泳いでいましたが、とても速かったのを覚えています。セントラルスポーツのスイミングスクールの選手コースに所属して、気合を入れて、相当速い記録を出していました。東京都世田谷区の中学生の50メートル自由形で、半年くらい破られなかった新記録を持っていました。
人生を変えたラグビーとの出会い
morich:普通はそのまま水泳に進みそうなところですが、ターニングポイントは何でしたか?
中島:ラグビーを始めたのは高校1年生でしたが、その理由は、2つあります。
実は、父親の影響ではありません。父親からは、ずっと「ラグビーをしろ」と言われていましたが、興味はないと返していました。行こうと言われても、「つまらない」と言ってあまり行きませんでした。「なんでもいいから、俺は水泳をするのだ。もう諦めてくれ」と伝えていたので、中学時代は父親も諦めていました。
しかし、高校1年でラグビー部に入ることにしました。1つ目の理由は、当時、セントラルスポーツのコーチには、「セントラルスポーツをやめるな。高校の部活では駄目だ。セントラルスポーツのほうが速くなる」と言われていました。しかし私は、「自分の学校を強くしたいから、部活に入る」と言いました。いざ早稲田実業高等部の水泳部に入部すると、当時の水泳部は若干緩い部活でした。せっかく厳しいところをやめて入部したのに、と残念な気持ちになってしまいました。
2つ目の理由は、クラスメイトからラグビー部の勧誘があったことです。クラスメイトは中等部からずっとラグビー部に所属していた、タコジマという人物です。「中島くん、オールブラックスのバッグを持っているじゃん」と言われました。オールブラックスは、羽のマークです。知っていますか?
morich:はい。私はラグビー部のマネージャーだったので、オールブラックスを知っています。今日は会場に私が大学1年生の時に、主将をしていた方もいらっしゃっているんです。
中島:ナガタさんでしょう? 私が大好きな男です。ナガタさんとの話も後ほどします。私はおもしろいマークだなと思い、自宅に置いてあったバッグを担いで行ったら、ラグビーだと気づかれて、勧誘を受けました。
この2つの理由により、ラグビー部に入ってみようと思いました。その日の晩に、父に「ラグビー部に入ったよ」と伝えたら、当初は諦めていたため、見たことがないくらい喜んでいました。その姿は、今でも鮮明に覚えています。
そのような理由で、たまたまラグビーを始めました。ラグビーを始めて本当に良かったです。今の私の6割は、ラグビーのおかげでできています。
morich:中等部から続けている選手もたくさんいて、差があるのではないですか?
中島:ラグビーは、だいたい高校から始める方が多いです。差はもう、あっという間に埋まります。逆に他のスポーツの経験があったほうが、横の動きがよりできるからということで、高校から始めても十分間に合うのがラグビーです。今はわかりませんが、当時はそのような状況でした。
morich:少しさかのぼると、早稲田実業ということは中学校受験をされたのですか?
中島:そうです。
morich:スポーツだけではなく、勉強にも打ち込んでいたのですか?
中島:おっしゃるとおりです。
morich:意外ですね。
中島:ガリ勉かつスポーツも取り組み、1日48時間くらいある感覚で生きていました。
morich:小学校からですか?
中島:小学校の終わりから中学校は、水泳に夢中になりました。ちなみに早稲田実業の中等部を受験しましたが、落ちました。その後地元の中学校に進学し、高校受験でもう1回挑戦して合格しました。
中学生の時にひのき進学教室という学習塾に通いながら、毎日6,000メートルくらい泳いでいました。半端ではありません。ラグビーよりも水泳のほうが、10倍きつかったです。なぜかはわかりませんが、がんばっていました。
morich:おそらく高校受験のほうが難しいため、地頭がよかったということですね?
中島:私の口からは言えません(笑)。
ラグビーにおける葛藤、感動
morich:高校時代はラグビーにはまり、そのまま大学に進学したのですか?
中島:今はほとんどの方が早稲田大学に進学できますが、当時は、3割は進学できませんでした。7割に入るのに必死でしたが、ギリギリで進学できました。大学でもラグビーを続けました。
morich:ラグビーといえば、早稲田大学です。迷わず入部しましたか?
中島:迷いませんでした。なぜかというと、早稲田実業のラグビー部出身で早稲田大学に進学したら、ラグビーを続けるに決まっていると思っていたからです。
それに高校時代に味わった、言葉を100万語並べてもおそらく説明しきれないくらいの感動と達成感と同じくらい、もしくはそれ以上を味わいたいという思いもありました。それは、高校2年生の時、本郷高等学校という強豪の高校に弱小の早稲田実業が勝ったという経験なんですけれど、涙が1リットルも出ました。
morich:本当ですか(笑)。すごいことですね。
中島:私の7年間のラグビー生活の中で、一番感動した試合は何かと聞かれたら、1位に挙げられます。同率1位で、大学の時の早稲田大学と明治大学の、雪が降った試合が挙げられます。
morich:超有名な早明戦と並ぶのですね。
中島:同率です。大学時代の2位から4位に挙げられる、同志社大学や慶應義塾大学との試合や、秩父宮ラグビー場などのかっこいいラグビー場での試合よりも、高校の東京都大会の2回戦でオーディエンスが3人くらいしかいない土のグラウンドでの試合のほうがぜんぜん上で、雪の早明戦に並びます。こちらが7年間でトップ2です。
morich:レギュラーだったのですか?
中島:一応試合に出させてもらっていました。私はけっこうラッキーで、1本目になりました。ラグビーは、1軍のことを1本目と言います。早稲田大学は部員がたくさんいて、全部で160人いますが、そのうち15人くらいしか出られません。1年生は、最初100人くらい入部します。
しかしキャパシティが足りないため、減らさなくてはいけませんが、部側から「やめろ」と言えないので、「40人程度に減るまでほぼ毎日先輩に絞られる」ということになります。「絞る」とは、気がおかしくなりそうなくらいキツイ練習を、全体練習が終わった後に1年生だけ集めてやることなのです。1年生同士でも、「お前やめろ。お前がいるからだ」と争いがあります。このような世界をくぐり抜けた40人が残り、4学年で160人というのが、だいたいのセオリーです。
早稲田大学も明治大学も慶應義塾大学も、そのような感じだと思います。しかし、これは昔の話で、今は違います。今はそのようなことは絶対にしません。
morich:今は問題になりますからね。1年生の超ハードシングスな練習を耐えたのですね?
中島:そうですね。そのような感じでした。
morich:強豪がたくさんいる中でのレギュラー獲得は、なかなか難しいですね?
中島:もちろん大変です。運もいっぱいありますが、例えば早稲田大学の15人の1本目のうち、5人は不動のレギュラーです。とてもうまくて、絶対に変わりません。
10人は2本目と紙一重で、2本目と3本目が紙一重、4本目でも同じで、つまり1本目だけれど4本目まで紙一重というような状況が10人です。私はそこにいました。たまたま、ラッキーで1本目になれていたという感じです。
morich:怪我とか、運とか。
中島:そう、運とかですね。あとは、タックルだけが私の得意技でした。バックスのくせに、足も遅かったです。
morich:本当ですか(笑)?
雪の早明戦を超える、本気のタックルの快感
中島:早稲田大学のバックスなのに足が遅かったため、私はもうタックルしかありません。その代わりに、タックルだけなら、おそらく日本でこのようなすごいタックルをできる人はいないというくらい、自信があります。
morich:たしかにフォワードでタックルはなかなかいないですよね。
中島:私のように体がそこまで大きくない人間にとって、一番の快感は何かをご説明します。例えば1.5倍くらいの大きな人が前から突進してきます。正面から入るタックルが、一番恐怖を感じます。逃げないだけでも立派です。
逃げないどころか、上に入るタックルではなく下に入るタックルはすごく勇気がいります。止まっていて下に入っていてもものすごい拍手なのに、こちらから走り込んで行くことは、人間には恐怖心があるので普通はできないのですが、私にはできてしまうんです。
morich:なぜですか?
中島:タックルが入ってみぞおちに刺さり、大きい人が「フーン」と言って嘆いているのを上から見下ろす瞬間が、ラグビーにおいて一番手ごたえを感じる瞬間です。トライをする時ではありません。走って抜いた時の快感も、関係ありません。タックルが入った瞬間です。
morich:勇気がいりますか?
中島:とてもいります。怖くて、人間にはできません。私がなぜできたかといいますと、マインドコントロールです。少しだけお伝えすると、気持ちが高くなければできないため、気持ちを高める方法が、早稲田大学の場合は2つあります。他の大学も同様だと思いますが、1つ目は個々の方法で、2つ目は共通の方法です。
個々の方法としては、自分の対面、センターの対面にいる人の顔をずっと見て、「あの人は自分の大切な人にひどいことをした」と思うんです。実際はそのような人ではなく、すごくいい人なんだと思います。でもそんな風に思うんです。
morich:思い込みですね。
中島:今日初めて会った人だからもちろん違うんですが、もし万が一その人が本当にひどい人だったとしたら、福谷さん、想像してみてください。自分の骨が折れるのが、怖いと思います?
福谷:思いません。
中島:骨なんて何本折れたってかまわないと思うと思います。このようなマインドコントロールで、自分を高めます。徐々に自然にできるようになりました。
morich:それを毎回。
中島:毎回です。
もう1つ、早稲田大学のラグビー部全員に共通することで、この方法の方が10倍気持ちが高まります。例えば、秩父宮ラグビー場や国立競技場のロッカールームで、試合前に集中して紐を結びます。気持ちが高まっている中で、ロッカールームに貼ってある模造紙を見るのです。何が書いてあるかというと、出場できない145人の寄せ書きが書いてありました。
それをじっと見るんです。そして全部読みます。私は大学3年生の時に憧れの早明戦に初めて出場しました。すると、その時に、同じポジションのセンターの1つ上の先輩から「健、お前が今から行おうとしていることは、俺の夢だ。だから頼む」と書いてありました。morichさんはわかると思いますが、読んでいると、ぶわーっと涙が出てきます。
今も泣きそうになりましたが、思い出すといつも泣いてしまいます。こちらの話をすること自体が、相当久しぶりです。そのメッセージを読んで、スタンドで見ている先輩の思いに報いなければいけないと思うわけです。
この人に「今のは怖気づいているプレーだ」と思われるなんて絶対にありえないと思って涙が出てきたんですよね。気合いが入ると、不思議と人間は涙が出るもので、ラグビー選手がなぜ泣いているのか、私はその時初めて気づきました。
morich:チームメイト同士で泣いていますね。
中島:よくラグビー選手ってなぜ泣いているのだと聞かれて、解説者が答えていますが、誰も正しいことは言っていません。「日の丸を背負うと感じているからではないか」と言っていましたが、私は違うと思います。出られない仲間を背負っているからです。「北風」という部歌を叫ぶように歌い、全員で泣きながらグランドを走っている時に、仲間のことを想って涙しているんです。
morich:今日は来てよかったです。
中島:今日は終わりにしましょうか?
morich:十分、お腹いっぱいです。
中島:それがラグビーというスポーツです。他のスポーツは、あまりないと思います。
morich:寄せ書きは、毎回あるのですか?
中島:メリハリをつけて、ビッグゲームだけです。寄せ書きがなくても、気持ちを高められるようにしなければいけないので、毎回ではないんです。しかし、ここぞという時に行う感じです。
大学の4年間で一番大きかった学び
morich:大学の4年間でいろいろなことを学んだと思います。今、リーダーとしてのあり方や生き方そのものにたくさん学びが活きていると思います。私も「ラグ女」と自称しています。ラグビーから学んだことやラグビーの世界観をみなさまに伝えたいのですが、私はマネージャーとして関わっただけだったため、当事者として、どのような学びがあったのか教えてください。
中島:たくさんの学びの中で、一番の学びは何かといった話ですか? 多数ありますが、人生において一番大きいのは何か、最初に教えます。1個だけ挙げるなら、「本気サイクル」を学びました。
本気のすばらしさを学びました。私がラグビーをプレーしていた当時は、本気サイクルについては思いついていなくて、本気サイクルについて整理できたのは、35歳の時です。
35歳に気づきがあって、これが「本気サイクル」なのだと気づきましたが、元になったのは、ラグビー時代に学んでいたことだと思います。そもそも本気サイクルとは、グッドサイクルです。本気サイクルのグッドサイクルを回っていれば何がいいかといいますと、個人も集団も成長します。
例えば、本気でがんばることからスタートします。ラグビーやスポーツにしか通用しないものではありません。人生のすべてに通用します。スポーツのほうがわかりやすいため、スポーツで例をいいます。本気でがんばると上手になります。その次に試します。つまり、試合をしたり、大会に出場したりします。
その後は2つに分岐します。試した後に、勝つか負けます。達成するかしないかということです。勝つと感動します。本気で取り組んでいると感動します。
morich:体感できるのですね。
中島:morichさんや福谷さんはわかると思いますが、経験していない人に感動がどのくらいいいものか説明できません。感動の達成感は、ものすごく気持ちいいということです。
達成感を味わってしまうと、人間はどのようになりますか? 絶対にもう1回味わいたくなります。できればそれよりも高いレベルで、です。味わってしまうと、もう一度経験したくなるんです。
したがって、もっと本気でがんばるというサイクルです。次に負けたらどのようになりますか? 負けるととても悔しい思いをします。真の悔しさを味わいます。真というのが大事で、ただ悔しいだけではありません。
例えば、負けてヘラヘラ笑っている人がいたとしたら、なぜヘラヘラ笑っているかといいますと、本気ではないからです。本気で取り組んでいたら、絶対に悔しいと感じるはずです。
悔しさは嫌な気持ちです。このような嫌な気持ちは、二度と味わいたくありません。二度と味わいたくないとなるため、もっと本気でがんばります。こちらが、本気サイクルです。仕事でも味わえるものです。まったく同じで、感動を味わうための感動の3要件を、35歳で気づきました。「困難・本気・達成」です。これらの3つが揃ったら、人間は感動します。
35歳の時に、生まれて初めて「私もいつか死ぬのだ。死ぬ瞬間に幸せだと感じたい」と思いました。それをどのようにしたら実現できるか、生まれて初めて真面目に考えてみました。それまでは、私は一生死なないと思っていたんです。
福谷:私は思っています(笑)。
morich:何か原体験があったのですか?
「本気サイクル」がもたらす人生哲学
中島:私が35歳の時に父が亡くなったので、それがきっかけかもしれません。1回考えてみましたが、あまりイメージが湧かなかったため、本気で考えるために擬似的に死んでみました。マインドコントロールで、死ぬことを本気で考えました。
すると、人生が走馬灯のように流れてきて、最初に思い出したのが、雪の早明戦で勝った瞬間、もしくは、高校時代の本郷高等学校との試合の瞬間でした。
2番目、3番目もありましたが、何回やり直してもこちらが一番でした。このことから何がいえるか考えた時に、私が最期に幸せを感じるための1つの要素が「感動」なのだと感じました。例えば90歳くらいでもう来週死ぬとなった時に、人間は必ず、人生が幸せだったか振り返ります。その時、おそらくイメージですが、測定する物差しがいくつかあるように思うんです。
お金は、ないよりはあったほうがいいに決まっています。お金や地位、家族、健康など、これら全部が100点満点で死ねたらおそらく一番幸せです。しかし、おそらくそのようなことにはなりません。
では、一番大事なのは何か、答えが見つかりました。お金は嫌いではないですし、社会的地位も嫌いではありません。しかし、一番かというと違います。感動量・達成感が、私にとって一番大事なものだと気づきました。
次の瞬間、暗い気持ちになりました。なぜだかわかりますか? 私は、もうラグビーを行っていないんです。感動をもう一度味わうためには、ラグビーをしていないのに、どのように生きていったらいいのだろうかと思いました。
ラグビーが私の人生の一番の幸せ軸なのに、どのようにしたらいいのだろうと暗くなった次の瞬間、思いついたのが、「感動の3要件」です。困難をきたせ、つまり難しいことに本気で取り組んできた時に、人間は感動します。雪の早明戦は早稲田大学に不利でした。早稲田大学が有利だったら、感動していません。
本郷高等学校も同様です。早稲田実業が不利で、本気でなくたまたま勝ってしまったとします。
morich:「ラッキーだった」となりますね。
中島:本気で取り組んで難しいことを、本気でやっても勝たなかったら感動しません。「感動の3要件」には、ラグビーでなければいけないわけではありません。そのような条件がないならば、仕事でもできるかもしれないというのが気づきで、翌日から私は物事に挑戦的に取り組むようになりました。
morich:変わったのですか?
中島:仕事において、嫌な仕事や難しい仕事など、ストレスのある仕事ばかりを求めるようになりました。総合職だから自分で仕事を取りに行くわけですが、私の周りの友人や先輩には、「変わったな、嫌な仕事をして何をアピールしているのだ」と言われました。しかし、私は私が幸せに死ぬために行っているのです。
つまり、軸がなにか決まったんです。一番大事なものはなにか。こちらが先ほどお伝えした、本気サイクルです。こちらをうまく回せるようになれば、人生勝ったも同然だと思います。勝ったも同然というのはお金が儲かるということではないですよ。
成功は、達成感だと思っています。成功は内にあるものです。お金や地位などの外にある物差しもありますが、中にある物差しは、達成感です。達成感は、自分次第です。「できるだけ取り組んだか」という問いを自分自身にして「うん」と言えるかどうかです。
morich:すごく客観視されたのですね。三和銀行に在籍していたころでしたか?
中島:43歳で転職したため、当時は三和銀行にいました。
morich:三和銀行で行うべきことがあり、そこからいわゆる本気の仕事モードになった感じですね。周りもけっこうびっくりしますね。
中島:急に手のひら返しをしたように変わったわけではありません。私は元々がんばるのが好きで、体にも染みついていました。がんばって乗り越えたら、いい思いができると思っていました。
したがって、簡単なことを達成してうれしいというより、難しいことを成し遂げていい気持ちになるっていいことだということが、体に染みついていたから、そのように仕事をしていました。しかし、「本気サイクル」に気づいたおかげでしっかり言語化することができました。より強くなった感じで、急に変わったというほどではありませんでした。
morich:今までがんばってきたことが、構造的になりエビデンスもできたんですね。
中島:私の行為に対して、「健らしい」と言ってくれた人も、「すごいな、どうしたの」と言ってくれた人も両方いましたが、基本的な根っこの部分は変わりません。このような話を研修などですると、自分はもうできているという人たちもたくさんいます。
しかし、このように整理することがすごく大事だと思います。整理するからこそ、抽象化してもう1回現場で具体的に使い、今まで想定していない出来事によってまた抽象に戻って、バージョンアップしていきます。具体抽象をどれだけスピーディに行き来するかは、優秀なビジネスマンにとって必須だと思います。
morich:おそらくリーダーとしては、しっかり言語化したものを伝えていくということですね。
中島:おっしゃるとおりです。本気サイクルも、自分ができるようになった方がいいか、でいえば、もちろんできるようになったほうがいいです。なぜかといいますと、自分自身で回していくというより、例えば、うまく組織が回っていなくてみんなの目が死んでいるような課の課長に任命された時に、本気サイクルが回っていないバッドサイクルから、グッドサイクルに変えていかなければいけない。
このような際に、先ほどお伝えしたとおり、要素のどちらかを反転させる必要があります。どちらの要素を反転させるのか、一番難易度が低い部分にアプローチするのが鉄則ですが、そのようなものは次第にわかるようになります。
morich:気合いや根性だけではなく、サイクルですね。
中島:そう、サイクルをどのように変えていくか、なんです。私の今までの人生からいいますと、バッドサイクルが回っているのは、スポーツでは本気でがんばらない状態です。がんばらないから上手くならず、負けます。負けてもぜんぜん悔しくないため、上手くならないからまた負けます。こちらがバッドサイクルです。
どちらを反転させるのが一番簡単か? 全部難しいことです。昨日まで下手だった人を急に上手にはできません。昨日まで悔しいとまったく思わなかった人を、悔しいと思わせることはできません。しかし、中でもまだ難易度が低いのは、悔しさの調整だと思います。
山口監督の『スクール☆ウォーズ』のようですが、負けてもバッドサイクルが回っているため、ヘラヘラ笑っています。しかし、コーチは「悔しい」と大泣きします。
morich:山下真司さんが演じていました。
中島:「ばかじゃないか、この親父は」となります。まだ、「どうでもいいわ」と言っているような状況なので次の試合をやっても、まだ変わりません。しかしコーチは「悔しくないのか。俺は悔しい」と言って、泣くわけです。
だんだん1人か2人くらいが、悔しいと思わなければいけないと思うようになり、変わっていきます。そのような人がキーマンになると、一気に伝播して上がってきます。
福谷:いい話を聞きました。
morich:快感ですね。
中島:快感です。私が言っていることをどこで学んだかといいますと、ラグビーですが、高校と大学の4年間ではありません。ラグビーから学んだのに、なぜかというと、インフォマートに転職する直前の38歳から43歳までの5年間のラグビー経験が、おそらく人生で一番がんばった5年間だと思っているからなんですね。そこにいる、ナガタさんと一緒に。
morich:ナガタさんは、私にとってはリスペクトそのものです。
ラグビーを通じて得たリーダーとしての感動
中島:ワセダクラブという少年ラグビースクールで子どもたちに教えていました。ナガタさんは、私がいたチームではない神奈川県チャンピオンの田園(でんえん)ラグビースクールの先生をしていて、ある時、彼に試合を申し込みました。
あれは6月だったと記憶しています。東京では負けなしだったクラブ対、神奈川チャンピオンの田園です。試合は超ボロ負けしました。実力が1:9とも思えるくらいの差でした。
子供たちも大泣きし、僕も悔しく、「半年後にリベンジマッチをやろう」と、負けた瞬間申し込みました。そして半年後、リベンジマッチでなんとラストワンプレーでワセダクラブが逆転勝ちしたのです。その時、私のコーチとしての感動は、おそらく雪の早明戦と本郷高校との試合を超えました。
morich:超えたのですか(笑)?
中島:超えないか、3つが同率1位ぐらいです(笑)。
morich:それほどなのですね。
中島:私はそれまで、コーチや監督、マネージャーといった立場の感動がよくわかりませんでした。プレイヤーのほうが感動するに決まっていると思っていたのです。しかしその時、生まれて初めて「リーダーの感動とはこれか」と気づきました。三和銀行でもリーダーや課長などを務めましたが、そこではわからずにいて、本当に初めて感じたのです。
やはり、プレイヤーの感動は間違いなくあると思います。しかし、自分がプレーをしていないのになぜ感動するかというと、本気でがんばらせるからです。本気でがんばらせたい彼らに、本気でがんばるための環境を本気で作り、そして彼らが成し遂げる。その時の感動は彼らよりも絶対に大きいのです。「これがリーダーの感動か」とどハマりしたのです。
ナガタさんと一緒に、頻繁に朝まで飲みながら、子どもの指導とは何か、人材育成とは何かと、真剣に語り合っていました。
morich:現在マネージャーや部長として「なぜ、私はこれほどまでにつらい仕事をしているのだろう」と思っている方は、まだそれを体感していないのかもしれませんね。
中島:もしかしたらそうですね。リーダーの幸せは本当に別格です。その感動は、もっと上のリーダーが味わわせてあげなければいけないのです。小さくてもいいから、味わわせてあげられればわかってくれます。先ほどの本気サイクルに入れば、きっとわかります。本気サイクルに入ると「あの快感を味わいたい」となるので、嫌なことがまったく嫌ではなくなるのです。
morich:嫌ではないということですね。
中島:例えば、Mr.Childrenの大ファンの人が、今度、Mr.Childrenのライブに行くとします。セットリストを手に入れるなど、行くまでの最後の3日間は眠れずにいろいろな準備をしていれば、非常に体力を使いますよね。しかし、そのような場合は絶対にまったく疲れません。それと同じ状況なのです。
もう1つ言わせてもらうと、私のような激アツの人間でないとそこまでに至らない、ということではありません。
morich:確かに、そのような質問が来そうです。
中島:そのような質問を頻繁にいただきますが、まったく違います。静かな気合もあります。私は声を大きくして、みんなに「行くぞ」と言わなければダメだ、と言っているのではありません。
静かでもいいから、本気で熱くなり、そして達成感を味わうサイクルが大切です。静かな人に達成感は好きかと聞くと、全員「好きだ」と言います。達成感が嫌いな人はこの世にいません。私は、あれが気持ち良くないと言っていたら嘘だと思います。
morich:まだ感じていないだけかもしれませんね。
中島:そのとおりです。そのため、経験していない人には経験させてあげることが大事です。今の若い人たちは、そのような昭和的なものが好きではない、とよく言われています。しかし私は、確かに割合として、価値観は大きく変わってきていますが、現在の若い人たちでも「成長のため痛い思いをたくさんしたい」と考える人はいると思います。
大切なのは、どのような時代でも、2・6・2の法則だと思います。10人いたら、2割はすごくて、8割はそうではありません。
私が課長や部長のリーダー研修で「それは違う」とよく言っているのは、怖がって8割の人たちにあまり厳しくできないことです。私は「それはさぼっているだけだ」と言っています。私の持論として、8割の人がなぜそのようなことが好きだと言わないかというと、知らないからだと思っています。
仕事でも達成感が得られると少しでも味わわせると「あれ?」となる人たちが6割います。最後の2割は何をやっても響きません。その人たちを、無理に動かそうとするのはダメです。どちらが正しいということではありません。
6割の人たちは経験していないだけなのです。「申し訳ありませんが、私は根性論が大嫌いです。仕事で達成感なんて冗談ではありません。私とは価値が違います」とはっきり言う人たちも、知らないからだと思います。
そのため、味わわせた時に「これはすごい」となり、変わる人がたくさんいます。それを味わわせる努力をせずに、面接で「私は違いますから」と言われただけで、何もしないというマネージャーが多すぎるのです。
確かにとてもセンシティブで難しいことです。したがってやり方も非常に難しいですが、リーダーは多少のリスクをとってでも、やっていかなければならないと思います。
morich:諦めてはいけないのですね。本当に健さんの人生哲学は、勉強になることしかないです。
福谷:確かに、勉強しかないですね。
morich:健さんが今までに出会ってきた人の中で、たくさんリスペクトする人がいると思います。今のインフォマートに入社するきっかけには創業者の影響があったと思います。
中島:はい。
morich:三和銀行を退職してこちらに入るには、いろいろな理由があると思いますが、1つには社長の存在が大きかったと思っています。このような健さんをそこまでにさせたこの方は、どのような人なのだろうかと興味があります。
インフォマート創業者との出会いと転職の決意
中島:「本気」の人でした。私は、本気なら誰にも負けないと思っていたのですが、社長は私の10倍本気でした。
morich:本当ですか(笑)。
中島:はい、今まで見たことがありません。ついていきたいと思った理由であるとしたら、人間がどこまで本気になれるかという限界をみたのが一番です。他にも、彼はインフォマート創業した時に、世の中を良くすることを目的にしたのです。お金儲けを目的にしていないというのはとてもきれいだと感じましたし、それが本当だと感じたことも、この人についていきたいと思った理由でした。
それ以外にも本気さを感じたことはたくさんありましたが、転職したのはたまたま「うちに来ないか」とも言ってくれたことも理由です。そもそもの出会いは、私が転職する10年前で、少し仕事をさせてもらった時に「お前、いいね」と言ってもらっていました。というのも、彼とは同い年なのです。彼は高卒で、山口県立宇部商業高等学校の甲子園球児です。
これは大事な話なのですが、彼は、儲けたいと考えて、不動産などいろいろな仕事をやったのです。しかし、3,000万円ほど借金を抱えた28歳、29歳の時に、あることに気づきました。先ほどの話のように、お金を儲けたければ、儲けることを目的にしたら儲からない。世の中を良くすることを目的にしたら、勝手に儲かるのだと気づいたらしいのです。
弱冠28歳、29歳のときにですよ。そしてインフォマートを立ち上げました。彼がそのようなすごい男だというのが、転職した理由です。
morich:お付き合いの中でそれが見えてきたのですね。
中島:おっしゃるとおりです。私が転職した理由は2つあって、1つは故村上勝照社長が、魅力的だったということと、もう1つは彼ではなく、インフォマートに私が入社したら、世の中を変える達成感を味わえそうだと感じたためです。
morich:感じたのですか?
中島:変えられるという確信でした。そして今でも確信していますよ。
morich:当時上場はしていないですよね?
中島:一部上場はしていません。マザーズ上場はしていた時期ですが、それでも私には確信がありました。なぜ確信があったかというと、銀行員として、そのようなベンチャーを全部見ていたためです。
当時300社ほどを見た中の3社だけ生き残っていて、そのうちの1社がインフォマートです。297社はもうつぶれてなくなってしまっています。なぜすごいのかが私は全部比較できていたので、経験的にここが成長するとわかっていたのですね。世の中を変える快感を味わえる可能性は、銀行でもゼロではありませんが、インフォマートのほうがより高いと感じたのです。
morich:そのように思ったのですね。
中島:やはりこれが一番大きな理由です。
インフォマートのユニークな価値と強み
morich:当時は「eマーケットプレイス」でしたよね。また、ソフトバンクなど本当にたくさんの企業が一気に登場してきました。ビジネスモデルが近い企業もたくさんあったと思いますが、約300社同じ同業があった中で、何が違ったのですか?
中島:いくつもありますが、敢えて3つ挙げるとすると、1つ目はやはり村上社長の本気です。これほど寝ても覚めても本気でやる男はいません。
2つ目は、徹底的な現場主義です。お客さまのところにずっと入り浸って、お客さまが何を思っているのかをここまで徹底してやる人は、見たことがありません。
福谷:確かに。
中島:私も銀行で商品開発を行っていて、お客さまの声そのものは現場に大事なものだと知っていて、やってはいたのですが、まったく比にならないのです。もう寝ても覚めても、1日の23時間50分インフォマートのことを考えている人ですから。
趣味も何もなくて、結局、亡くなるまで結婚もしない、フェラーリにも乗らない、300億円の資産を持ちながら何も遊びはしない。本当にインフォマートだけで、世の中を変えたいというそれだけです。
3つ目はテクニックです。信用を味方につけるのが上手でした。例えば日本フードサービス協会に、村上社長が行きました。当時、加藤一隆さんという重鎮の方がいらっしゃり、加藤さんに「インフォマートの『eマーケットプレイス』を日本フードサービス協会で公認してください」と言ったのです。普通はありえないでしょう。協会が民間企業を担ぐなんて、絶対やってはいけません。しかし、村上社長の熱さと熱意があり、加えて当時のフード業界向けの同様なサービスは確かにインフォマートしかありませんでした。
このビジネスモデルは、フード業界のみなさまに良いことには違いありません。そうはいっても、なかなかできないものですが、村上社長の熱意に心を打たれた協会が「よし、これがいいから、みんなやりなさい」と、公認に近いことやってくれたのです。
しがないベンチャーで、信用も何もない企業が、どれほど機能を説明したところで「いかがわしいから」「わからないから」となるところです。そのため「協会が言っているのであれば」という効果は非常に大きく、一気に伸びました。
3つほど挙げるとすれば、このあたりがすごかったです。ただし、細かくなってしまいますが、私がインフォマートに行こうと思ったビジネスモデルのすばらしさはその3つではなく、もう1つ後の、受発注システムにさらに転換する時のビジネスモデルなのです。
morich:現場主義について、今日聞いてらっしゃる方の中には「インフォマートって、一言で言うと、どのようなソリューションで社会に貢献しているのだろうか?」という印象を持たれている方もいると思います。
中島:インフォマートは、まずシステムを売っている会社です。「企業間をデジタル化するシステムで、企業と企業の間のやり取りを電話やFAXではなく、インターネットを使いましょう。例えば、請求や発注などにデジタルを用いて、さらにクラウドを活用して行いましょう」というものです。しかし、各社のフォーマットがバラバラのため、全員同じやり方を用いてクラウドで統一するのは非常に難しいのです。
クラウド標準化の困難、乗り越える工夫
morich:もう、まさに正しい論理ではありますけれども。
中島:やはり「当社は、金額は右上ではなくて、左下に書きたいんだ」などの要望があるので、なかなか難しいですよね。
morich:特にフード業界は、紙ベースのところも多いですね。
中島:フード業界もそうですし、特に現在ではあらゆる業界に展開しているため、さまざまな声をいただきます。
しかし、私は、日本のある意味悪い文化を変えていっているとも考えています。例えば、日本のクラウド利用率は非常に低いです。システム化をしている企業のうち、全部をシステム化できている会社が分母で、分子がそのうちのクラウドのサービスを使っている率だとすると、アメリカは6割、7割ですが、日本はわずか5パーセントです。
そして、クラウドを使っていない企業はどのようなシステムを使っているかというと、スクラッチ開発なのです。自分で何千万円や、時には何億円もかけて行っているのです。しかしこれを行っていると、ベンダーによるロックインが起こりやすく、抜けられなくなってしまいます。
1億円かけて作ったシステムを少し修正するだけで10万円かかったり、見積もりが50万円だったのに後から「1,000万円です」と言われて「安くして」と頼んだ時に「いいえ、1,000万円です」と言われたりすれば、もう何も言えず「はい」というしかありません。ここから抜け出さないと、2025年の崖を転がり落ちることになります。
それを防ぐためには、業務にシステムを合わせる発想ではなく、システムに業務を合わせる考え方になっていかなければいけません。日本では、業務が主で、それに合わせてシステムが組まれることが多くあります。その結果、全部個別のシステム開発が行われたのです。しかし、しなくていいことをするのはやめたほうがいいと思うんです。
銀行関係の方がいたら申し訳ありません。私がよく言うのが「銀行のATMは、他行に負けないよう全部個別に作っていますが、私たちからしたら、これは大して変わらないでしょう」ということです。
「あの銀行のATMのほうがこの銀行よりもいいから、この銀行を給与振り込み口座にしよう」という人は、1人もいないのです。しかし、銀行は他に負けないようにがんばっています。一方、アメリカの銀行は、40行の銀行が1つの機械をロゴだけ張り替えて使い回しているのです。
morich:アメリカはそのような考え方なのですね。
中島:はい。私は、ロサンゼルスに駐在している時に「なぜ他行に負けないATMを作らないのか?」と聞いたことがあります。すると「健、お前は、ばかではないか。なぜATMで競争しなければいけないのか? ATMなんて、何だって一緒なのだから、みんなで使い回すんだ。そこで無駄なコストをかけないで、そのコストは大事な競争分野に使うんだ。非競争分野にはお金はかけないんだ」というのです。これはアメリカの例ですが、私はそちらのほうが正しいと思います。
日本を悪く言っているように聞こえるかもしれず、申し訳ありません。しかし、日本はこだわりの国民性があるので、少し行き過ぎる時がたまにあります。こだわることは良いことでもありますが、行き過ぎるところだけは是正していかないと、業務をシステムに合わせざるを得ないことになってしまうのだと強く感じています。
morich:先ほどの現場主義とは、今のSaaSやSaaSのマーケットが抱えている課題だと思います。入れても使ってもらえないところから、使ってもらえる体制を作ったということですね?
中島:おっしゃるとおりです。取り入れられる体制を作るために、2つの取り組みを行っています。1つ目は、使ってもらうために手取り足取り細やかな支援を行う専門部隊を150人ぐらい抱えています。このようなことをやっているシステム屋はありません。
システムは、導入したあとにうまく使えているか使えていないかで効果が10倍ほど変わります。単純なシステムの場合はあまり影響ありませんが、例えばSFAなどのように大がかりなものであれば、大きな投資を行っているにもかかわらず、導入しただけでうまく使えていない人と、使い倒している人とで差が出るでしょう。
morich:営業担当者のなかでも違いがありますよね。
中島:私たちは、これらを支援しなければいけないという思いが強いのです。なぜなら、お客さまが喜んで、世の中を変えることが目的だからです。もし単に儲けることが目的であれば、とりあえず導入はしたし、お金を払ってくれているのでほったらかしになるかもしれません。しかし、私たちは大変な手間をかけてそれをやるのです。
しかも、BtoBで企業間の仕組みのため、その会社だけではなく、取引先企業も使わなければなりません。取引先は「そちらがやりたいだけだろう」「たった1通の請求書だけのために面倒くさい」と言って、なかなか使ってくれません。そこで、活用していただくための部隊もあります。そしてここには、かなり泥臭いノウハウがたくさんあるのです。これからはAIも使おうと思っていますが、現在は特にAIを使っているわけではありません。
2つ目は、標準化機能を見極める力が大事です。私たちはクラウドを開発していて、同じものを全員で使ってもらいます。そのため、「うちの会社はカスタマイズしてほしい」と言われても、基本的に答えはノーなのです。
しかし、もしそれが全員が欲している機能であれば、カスタマイズした方がいいでしょう。ここを見極める力が重要です。例えば10社が「これをやってくれ。なぜなら、みんなが必要だよ」と言っても、そのうちの8社は個人のわがままかもしれません。
morich:その会社ならではの事情ですね。
中島:これに都度対応すると、サービスを提供している側にコストがどんどんかかってしまい、結局はシステムを安く提供できなくなってしまいます。クラウドサービスを提供する企業が離脱することはよくあります。
morich:企業がたくさん出てきてしまってという場合もありますね。
中島:そのとおりです。そこで必要最低限は何かを見極める力は重要なのです。私たちはフード業界に長く携わって、そこから見極める目を培ってきました。現在は、フード業界以外の業界に進出しようとしていますが、そこでの見極めノウハウをしっかり活用していきます。
標準化に関するノウハウは2つあります。1つは今お伝えしたそれが本当に標準化するべき機能かという見極めのノウハウです。もう1つは、誘導ノウハウです。ただし、クラウドのため必ず100点満点にはなりません。
この誘導ノウハウとは「うちのシステムに運用で合わせてください」と伝えるトークです。例えば、インフォマートの請求書システムは、承認回数が最大5回までです。「うちは6回必要だから、1回増やしてください」と言われた場合、「ほとんどの企業が5回以内でやっているわけだから、御社も本気でやればできるのではないですか」と答えるのです。
morich:優しい顔で言うのですか(笑)?
中島:もちろん「そんなことはない。法務やリスク管理部から6回やらなければいけないと言われている」「リスクは大事だ。システム屋が偉そうに言うな」と言われることもあります。しかし、それに負けてはいけません。6回確認しないとリスクがある場合は、その理由を確認して「このようにしたら5回に減るのではないですか」と提案したり、5回に減らした企業の事例について、どのような経緯で5回まで減らしたかなどを提示したりします。
非常に泥臭いですが、とても大事なノウハウです。システムに、業務をシステムに合わせていくという文化を醸成して世の中に広げるためには、文句を言われながらでも進めていくことが大事です。難しいのですが、それをやっている営業担当者は、全員矜持に満ちあふれています。
「ストレスがかかることを、なぜやらなければならないのか?」と思う担当は1人もいません。これがどれだけ日本のためになるかを説明して、文化を変えるというのは非常に大事なことです。文句を言われてもやるという感じです。
私は、2012年にインフォマートに入社したばかりの頃に詩を書いたんです。最近、それを引用することが増えてきています。
私たちは何をやっていて、それはどこと似ているかというと、昔線路を敷いていった人たちと一緒です。具体的には、江戸時代にはまだ電車が走っていませんでした。そして、町と町、村と村がつながっていないわけです。
そんな時に、ある人が「電車で世の中を全部つなげたら、みんなもっと幸せになる」と思いました。それで線路を敷き始めたのですが、すると「うるさい」と言われました。「いやいや、みんなのためにやっているのです」と返事をすると「うるさいのが嫌なんだよ」と言われたのです。
「それでも、みんなのためになります」と答えると「いや、私たちは今の村で生まれて、そして村の中だけで死んでいって幸せなんだから、余計なお世話だ」とみんなに言われるのです。それでも「絶対違う」と言って線路を敷ききったところ、今、全員が非常に幸せになっているという話です。
インフラは、世の中を変える仕組みです。現在のインターネットの世界でも、企業と企業はまだ電話、FAXが一般的です。驚きです。私たち個人はもうAmazonなどを利用していますが、これからは企業と企業を、全部つなげきりたいと考えています。いらないと言われても、説得して進めて広げていきます。おそらく面倒で手間のかかる仕事は、インフォマート以外誰もやらないと思っています。
インフォマートが目指す社会的インフラ化
morich:インフラになるとみなさま言いますが、その思いが社長はもちろん、社員にまで深く浸透しているのですね。
中島:はい。まさにその思いです。したがって私たちは、非常に特殊なポジショニングです。DX企業はたくさんありますが、インフォマートほど変なことをやっている企業はないと思います。
しかし、だからこそ、世の中を変えられると思います。おそらく、この仕事は私たちがやらなかったら、誰もやらないと思います。なぜかと言えば電話やFAXで連絡していても、企業は倒産しないからです。
本当に良いものならば、明日、日本すべての企業がインフォマートを使ってもいい状況です。それなのに、なぜインターネットに請求書や受発注システムを変更しないかというと、死活問題ではないからです。経営者は、請求書を電子化すると良いとは思っていても、やらなくても企業はつぶれないし、その前にもっとやることがあると思っているのです。
経営者は売上を伸ばすことを優先しています。だからこそ、誰かが背中を押さなければいけないと思い、私たちは取り組んでいます。
morich:でも確かに、インフォマートはサービスの導入企業と、その取引先企業の両方に取り組んでいる点が難しいですよね。よく、クラウドビジネスやSaaSの会社、契約書なども、どちらかで1社ですからね。
中島:はい。両方は難しいです。片方に大きなメリットがあって、もう片方にあまりメリットがなかったりするケースだらけです。仕方なくやり始めた人たちに何が起きるかというと、導入した他の人から請求書を出してと言われて、徐々に重なっていくのです。
100通の請求書のうち、20通ほどが重なってくると、これは本格的に使ったほうがいいと気づいて、残りも対応しようとする感じで広がります。
福谷:現在の導入数は、相当すごいですよね?
中島:ありがとうございます。そうですね。
morich:100万社ですよね。
福谷:私は、7年前に上京してきましたが、その時に初めて仕事をしたのが、インフォマートなのです。
中島:7年前というと、2018年ごろですか。
福谷:「BtoBプラットフォーム」のサービスを語れるほどです。
中島:ありがとうございます。
morich:どうして今まで黙っていたのですか(笑)。
福谷:初めてリアルでお会いしたので、今日は学びとパワーをいただこうと思っていました。
実は、みんなすごく楽しみにしていて、後ろのスタッフのグループで「めちゃくちゃ楽しみだ」「パワーをいただこう」と話していました。スタッフがスタジオが壊れるのではないかと心配していました。そうしたら、なんと、後ろの席の額縁が壊れてしまったのです(笑)。
morich:本当に(笑)?
中島:やばいですね(笑)。
morich:磁力ですね。アドレナリンが出て量子的な波動が伝わってしまったのですよね。健さんの魅力は、みなさま感じられていると思うのですが、まだまだ語り尽くせず、聞ききれないところです。したがって、健さんには、世の中をもっと変えていっていただきたいのですが、最後にこれからの夢を、聞いておきたいです。
福谷:聞きたいです。
morich:健さん自身について聞きたいです。
雪の早明戦を超える感動をもう一度
中島:私自身ですか? では、2個言わせてください。1つはインフォマートで何をやりたいか、もう1つはインフォマート卒業した後に何をやりたいかです。
morich:これだけ素敵な会社になっています。
中島:まだまだですよ。これから、やっとおもしろくなるのがインフォマートです。そして、インフォマートで、私は雪の早明戦を超える感動を味わいます。どのようになったら味わえるかというと、今のところフード業界では、完全にデファクトスタンダードとして認知してもらっています。
フード業界ではすでに、みなさまが電気、ガス、水道、インフォマートと言ってくれています。なぜなら「福谷さんの家には水道がありますか?」という質問は普通しませんよね。それと同様に、フード業界の受発注は、インフォマートでやるのが当たり前になっています。
しかし、インフォマートでの私の夢は、他の業界で、あと5つくらいの業界が、電気、ガス、水道、インフォマートと言ってくれる状態を作りたいです。そうすれば、それ以外の未導入の業界でも全部認知すると思います。そうすると「世の中を変えた会社だ」と、自信を持って言えるのです。
AmazonやGoogle、Facebookは、すべて世の中を変えた会社ですよね。そのような会社の一員になり、社員と一緒に山のてっぺんから景色を見たいです。その時に私はおそらく、雪の早明戦やナガタさんが教える神奈川県チャンピオンチームとのリベンジマッチの感動を超えるのです。これがインフォマートでの夢ですね。
その後は、日本の教育改革をしたいです。
morich:やはりそこですか。
中島:やはり私は、教育が大好きです。スポーツというツールを使って、どのように日本を変えていくかです。日本の教育にいったい何が足りないのかについては、絶対誰にも負けないくらいよく考えているという自信があるため、ぜひ実現していきたいです。
morich:先ほどあった、達成感を味わっていない人たちへのきっかけ作りですよね。教育は、もちろん子どもたちという点はありますが、教える側にも、健さんの考えを注入してほしいです。そこが変わらないと、やはり日本は変わらないと思います。
教育改革への志とメッセージ
中島:当然ですよ。教育は、まず教える側が正しくビジネスを理解していなければなりません。また、伝え方ひとつで結果がまったく異なるという点も非常に重要です。したがって、教育改革は教える側も対象であり子どもだけではありません。子どももそうですし、大学も、社会人もです。
morich:ステークホルダー全部ですね。
中島:もっと言えば、40歳や50歳の人たちに一番教えたいぐらいです。私がもともといた銀行のみんなに伝えてあげたいのは「銀行員ってすごく学んでいるんだよ」「実は、君たちはすごいんだよ」ということです。
銀行はジェネラリスト養成学校のため、とがった武器がなく、「転職しても通用しないのではないか」と考える銀行員がたくさんいるのです。しかし、ぜんぜん違います。君たちが学んでいることは、自分では気づいていないすごい学びがたくさんあるということをしっかり伝え、組織コンサルか何かをやれば、日本が変わると思います。そのようなことを含めた教育改革をしたいです。
morich:そうですね。今日、本当に健さんファンやインフォマートのファンが増えて、株価が上がってしまいます。
福谷:本当に株価が上がるようなことが、起きてしまう場所ですね。
中島:それは本当にうれしいです。
morich:本当にファンになった方がたくさんいると思います。今度、別の場所で第2弾をやりましょう。
中島:本当ですか?
morich:本当です。ネタをたくさん書いていたのですが、本当に聞ききれなかったので、また第2弾をやりたいと思います。
中島:その機会を楽しみにしています。
福谷:今日も、素敵なお話とパワーをたくさんいただきました。お越しいただき、本当にありがとうございました。
morich:ありがとうございました。
中島:ありがとうございました。