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春田善和氏(以下、春田):みなさまこんにちは。冨士ダイスの春田です。本日はお忙しい中、当社の会社説明会にご参加いただき、誠にありがとうございます。
本日は、こちらの次第に従って進めていきます。まずは事業概要と特徴、続いて中期経営計画における成長戦略、株主還元についてご説明したいと思います。
会社概要(2023年3月現在)
それでは、当社の事業概要と特徴について説明します。まずは、当社のムービーをご覧ください。
(動画流れる)
先ほどの動画内で説明がありましたが、当社は今年75年目を迎えます。ものづくりに必要な金型や工具などの超硬耐摩耗工具で30パーセント以上のシェアを誇るトップメーカーです。
耐摩耗工具とは、金属などに力を加えて形を作る加工に用いられる工具のことです。切りくずを出さないという意味では、環境に優しい工具と言えるのではないでしょうか。摩耗に強いことが求められるため、超硬合金が材料として適しています。
当社は超硬金型・工具の素材開発力、精密加工技術に強みを持ち、国内のみならず、海外に2つの生産拠点を持ち、5ヶ国に営業拠点を展開しています。従業員数はグループ全体で約1,100名です。
冨士ダイスの企業理念・大切にする価値観・長期ビジョン
先ほどのムービーにもありましたが、当社は企業理念として、「事業を通じて広く社会に貢献し、幸せな人を育てる」「人間尊重、人間中心の経営」を掲げています。
また、長期ビジョンにあるとおり、「世界のものづくり界のリーディングカンパニー」「品性ある企業グループ並びに企業人」を掲げ、持続的な成長を目指しています。
超硬合金とは
ここであらためて超硬合金について簡単にご説明したいと思います。超硬合金は、高耐熱性のタングステンやチタンなどに、粘り強さの大きい金属であるコバルトやニッケルを結合剤として混ぜ合わせ焼き固める「粉末冶金法」という製造方法で作る、文字どおり硬い合金のことです。
スライドの図にあるとおり、超硬合金で作る工具・金型は、工業生産される金属材料の一番の中心である鋼を、硬さ、靭性で上回っています。セラミックスよりは若干下回っていますが、非常に広い範囲で工業製品の製造過程に用いられています。
モノづくりを土台から支える「生命工具」
このような工具を使って世の中に生み出されるものとして、自動車の各種部品、飲料缶、カメラレンズ、鉄道架線・タイヤ・エアコン、インフラ関連の設備、また人工ダイヤモンドのようなものもあります。
ものづくりを行う企業の製品に命を組み込む存在であるため、当社ではこれを「生命工具」と呼んでいます。
代表的な製品例
当社が製造している代表的な製品例です。当社が作っているものはダイス・プラグやロールですが、それを成形部材としてパイプ、線材、異形管(四角い形のパイプ)ができあがり、最終的には図の右側に示されているように、タイヤ・エアコン・鉄道の架線やインフラの設備に使われています。
代表的な製品例
他には、飲料缶や光学素子を製造する金型もあります。製缶はビール缶や飲料缶を作る金型です。光学素子は現在よく使われているスマートフォンやカメラのレンズ、または監視カメラ等の製造に利用されています。
代表的な製品例
続いて、鍛造用の工具・金型です。鍛造金型は自動車の部品の製造に使われることが多いです。
高圧工具は人工ダイヤモンドを製造したり、新素材を開発したりするのに使われます。また、地球物理学研究にも使われているとうかがっています。
当社の特長
当社には4つの大きな特長があります。
1つ目は、国内の超硬耐摩耗工具業界でシェア30パーセント以上というトップシェアを長年にわたって維持していることです。
2つ目は、当社は開発力と技術力と営業力、これらを掛け合わせて競争力の源泉としていることです。三位一体となった競争力により、非常にさまざまな場面で、多くのお客さまと取引ができるようになっています。
3つ目は、「粉末冶金技術」と「超精密加工技術」の2つをコア技術とし、長期的成長を担っていることです。
4つ目は、今まで築いてきた創業以来の黒字経営のおかげで、基本的に安定した経営ができており、不況などにも十分な対応力があることです。
超硬工具の国内市場規模(日本機械工具工業会調べ)
超硬工具とはどのようなマーケットかについてお話しします。当社は日本機械工具工業会に所属していますが、超硬工具の国内市場規模は昨年度で約5,000億円でした。
私どもが対応できるのは、その中で7パーセントから8パーセントを占める耐摩耗工具という分野です。残りの約90パーセントは切削工具で、我々のマーケットではありません。
耐摩耗というニッチなマーケットを狙い、その中でトップシェアとして約30パーセントを占めており、日次お客さまに製品をお届けしています。
耐摩耗工具専業国内トップメーカー
当社が耐摩耗工具で30パーセント強のシェアを堅持できているのは、技術力に加えて、素材を加工し付加価値をもたせてお客さまにお渡ししているところにあると考えています。そのため、業界平均の3倍から4倍の値段で販売することができます。
工具業界 ポジショニングマップ(上場企業)
当社のような会社は、基本的にプライム市場や大手の会社にはなく、耐摩耗工具では当社が最大手となっています。スライドの図には出ていませんが、中小の会社とは日夜競争しているかたちになります。
受注生産・直販体制、取引先は約3千社に上る
付加価値が高い完成品を販売するため、当社は受注生産・直販体制を取っています。
一貫生産体制により様々なオーダーに対応
原料粉末の調製、焼結、機械加工、製品検査まで一貫生産する体制を取っており、幅広い業種の約3,000社とお取引しているため、特定の業界に影響されない安定性が当社の強みになっています。
一貫生産体制と呼んでいますが、基本的には受注設計、金属の原料を調整する調粉、金属の粉末を金型に入れ、圧縮して固め高温で焼結する冶金、できあがった冶金の素材を超精密に加工する製造の工程があります。当社の高度な冶金技術と加工技術によって、さまざまなオーダーへ柔軟に対応することが可能になっています。
高い評価を受ける技術力
また、このような技術を誇れるのは、材料の開発や機械加工で新しいことに毎年取り組んでいるためです。
2023年度は「日本機械工具工業会賞」で最高栄誉の「技術功績大賞」を受賞することができました。同時に、環境に優しい取り組みをしてきたおかげで、「環境特別賞」も受賞しました。
また、レアメタル使用量を9割削減した「サステロイ」という材料が、「2023年度超モノづくり部品大賞」において「奨励賞」を受賞しています。
高い評価を受ける技術力
こちらは、今年1月に日刊工業新聞社主催の「2023年第66回十大新製品賞」において、「モノづくり賞」を受賞した時の写真です。
拠点ネットワーク(国内)(2024年3月1日時点)
私どもの拠点ネットワークです。国内には生産拠点が7ヶ所、営業拠点が10ヶ所あり、お客さまとの強固なネットワークを構築しています。
拠点ネットワーク(海外)(2024年3月1日時点)
海外には、5ヶ国に拠点があります。製造・営業拠点を併せ持っているのが、タイとインドネシア、営業拠点が中国・マレーシア・インドです。タイは昨年11月に設立20周年を迎えており、まだまだ元気に継続しています。
重点施策 ④海外事業の展開
今年3月1日に中国の子会社が東莞分公司という新しい営業所を開設しました。華南エリアは、電子部品や自動車大手メーカーが集積していますが、子会社のある上海からはかなり遠いため、東莞に分公司を作ることで、さらなる売上拡大を目指していきたいと考えています。
主な沿革と売上高推移
続いて、こちらは当社の主な沿革と売上高推移です。創業以来黒字経営を継続してきた姿が出ていますが、リーマンショックやコロナ禍を乗り越え、基本的には黒字経営を続けられています。
堅固な財務基盤
また、上場前はなるべく無借金で経営していくことを目標にしてきました。そのため自己資本比率は高く、70パーセントを超えています。手元の資金も少なからず、ある程度持っているため、堅固な財政基盤と言っても問題ないと思います。
中期経営計画(2022年3月期-2024年3月期)の位置づけ《連結》
ここからは、中期経営計画における成長戦略についてご説明します。スライドの図は中期経営計画の内容と進捗に加え、2027年3月期に設定したターゲットの数値を示したものになります。
少々雑然として数字がわかりにくいですが、フェーズ1の1年目、2年目は、非常に順調に売上目標を達成してきました。
しかし、図の上部に記載されているとおり、今期は連結売上高170億円、営業利益14億9,000万円の当初計画を、連結売上高165億円、営業利益8億3,000万円に修正せざるを得ない状況になっています。
自動車部品の関連金型の客先での在庫調整が進んでいるため、来期にはなんとか挽回し、良い数字で業績を上げていきたいと考えています。
中期経営計画(2022年3月期-2024年3月期): 成長戦略・重要施策
中期経営計画における大きな4つの柱をスライドに記載しています。「筋肉質な企業体質への転換」と、低成長時代においても持続的に成長し続けるための「成長基盤の構築」が一番重要だということで、ご覧の4つを掲げました。
1つ目は、自分たちが大切にしている事業の部分である「生産性向上・業務効率化」によって、さらなる利益を生み出そうということです。
2番目の「次世代自動車への対応」は、これから変化していくマーケットに対して、私どもも方向性を変えていかなければいけないという意気込みで、新しいものに挑戦していきます。
3番目の「新成長エンジンの創出」は、今までは超硬耐摩耗工具を専業として展開してきましたが、その周辺領域で力の出せそうなところを探して、さらなるエンジンを追加していきたいと考えています。こちらは3番と4番に跨る内容になると思います。
4番目として海外事業ももっと増やしていきたいと考え、この4つを中期経営計画の重要施策としました。
重点施策 ①生産部門における生産性向上・業務効率化
重点施策の1つ目である、生産性向上・業務効率化についてです。原価低減のモデル工場として、まずは生産量が一番多い郡山製造所を改善のスタートとして決め、現在は横展開を図っています。
今期は生産部門の原価低減目標を、当初設定していた3パーセントから4.4パーセントへ変更し、かなり効果が出てきていると考えています。
昨年6月には郡山製造所に自動搬送機を導入し、また、難しいと言われていた冶金作業にも自動化ロボットを導入できたため、これが今年度以降、加速度的に進めば、まだまだ改善の余地は大きいと考えています。また、環境のことを考えて熊本製造所の冶金棟を11月にリニューアルし、本格稼働しています。
その他にも、各工場のレイアウト変更などで、まだまだ改善を行っていきたいと考えています。
重点施策 ②次世代自動車への対応・拡販~ 成長分野製品への対応 ~
重点施策の2つ目は、次世代自動車への対応・拡販です。スライドには次世代自動車への対応として二次電池・モーターコア・マグネットなどのマーケットを記載していますが、これが日本の車の分野でもさらに拡大してくれば、当社としては伸びしろが大きいものになってくるだろうと考え、現在格闘中です。
重点施策 ②次世代自動車への対応・拡販~ 成長分野製品への対応 ~
次世代自動車の対応製品の中でも、欠かせないのがモーターコアです。モーターコアの金型専用として「フジロイ VG48」という材種が、電磁鋼板の抜型において非常に採用率が高くなってきています。現在は伸びしろがかなりおおきくなってきており、来年以降、期待できるのではないかという現状です。
重点施策の進捗 ③新製品開発・新技術開発
重点施策の3つ目として、今後いろいろな分野へ挑戦していく必要があるという点 において、新製品開発や新技術開発として医療・化学や環境・エネルギー、高性能レンズ、積層造形、3Dプリントなどを手がけています。
こちらについては、世の中に出るまでなかなか公表しにくいこともあるため、お話しできる範囲で、ご説明したいと思います。
重点施策 ③新製品開発・新技術開発
まずは、ガラスレンズ用金型の新材種である「フジロイ TR05・TR30」です。近年、自動車・ドローン監視システムなどの自動化機器の実用化に伴い、赤外線透過レンズなどの高性能レンズの需要が高まっています。
高性能レンズ用のガラスは、一般のガラスより熱で膨張するため、従来の金型材料では、プレス成型する際に割れやすいなどの課題がありました。私どもが開発したこの材種は、ガラスと同じくらいに膨張し、プレス成型時に割れを抑制することで、大きく膨張するガラスレンズの安定的な量産を可能にしたことが高く評価されています。
ガラスレンズの他に、医療分野向けガラス精密加工製品への応用として、ガラスモールド工法によるマイクロ流路チップ金型に「TR30」が使用されています。こちらは来年度に、1億円以上の売上が期待できるのではないかと考えています。
重点施策 ③新製品開発・新技術開発
続いて、超硬合金というのはレアメタルのため、レアメタルをなんとか少なくできないかという課題と、超硬合金が非常に重く扱いづらい点を改善してほしいというお客さまからの要望があったため、その2点を解決できないかと考えて作ったのが、「サステロイ ST60」です。
こちらに関しては話題がやや先行したところもあるものの、お客さまからいろいろな引き合いをいただいています。現在は試作品をお届けしており、お客さまの評価をいただいているところです。
しかし、当初に描いていたような数字やお客さまのほうでの耐摩耗性などがなかなか出ていないため、現在は新しいラインナップを増やそうということで、再びお客さまと一緒になって取り組んでいます。
重点施策の進捗 ③新製品開発・新技術開発
続いて、3D造形です。3D造形については、当社の超硬材料を新しい3Dの方法で作ることができないかということで、それなりにかたちにはなってきています。
これを製造ラインに通すことによって、加工方法・加工時間の短縮や、複雑なものを作ることができるといった可能性が期待できるものの、焼結条件や積層条件といったところに苦労しており、なかなか市場投入まで到達しきれていません。
重点施策 ④海外事業の展開
4つ目の重点施策である、海外事業の展開です。スライドに描いてあるとおり、2023年7月1日付で海外事業本部に組織改編し、機動的な施策実施体制を構築しました。
今までは営業本部の中にあったため、機動的に海外だけで動くといった意思が早く決まらないことがありましたが、そうした課題を克服するために新しい組織体制を作り、海外子会社と日本からの直接輸出の両輪で売上拡大を図っていきたいと考えています。
現在、売上比率は20パーセントですが、30パーセント以上か、少し言い過ぎかもしれませんが40パーセントまで伸ばしていきたいと思っており、海外についてはまだまだ伸びしろがあると考えています。
ESGの取り組み
続いて、当社グループが継続的に実施しているESG活動の概要についてご説明します。
環境活動については、昨年の5月にサステナビリティ基本方針を発表し、8月にはサステナビリティ委員会を設置しました。若干遅いものの、これからはESGへの取り組みも1つずつ、しっかりとした足取りを取っていきたいと考えています。
先ほどご説明したレアメタルの使用量を9割削減した「サステロイ ST60」の開発なども、このような発想から出てきているところもあります。フジロイ・タイランドによる緑化活動などの取り組みを実施したことは、スライドの写真に出ているとおりです。
ESGの取り組み
同じように、ESGの取り組みとして行ったことが記載されています。当社グループは、「事業を通じて広く社会に貢献し、幸せな人を育てる」という企業理念に基づいて環境負荷軽減や地域との共生など、持続可能な社会の実現に向けた企業統治や諸活動を行っています。
中期経営計画の成長戦略
当社は成長戦略として、中期経営計画の重点施策の推進と経営基盤の強化を両輪として企業価値向上に取り組んでいくことで、ROEの持続的向上と、現在1倍を割っているPBRの改善を目指しています。
株主還元・配当
株主還元・配当についてです。当社は安定配当の継続を重要な経営課題の1つとして考えています。利益の状況や将来の事業展開、財政状態および経営成績を勘案して、今のところは配当性向50パーセントを目処に還元することを経営基本方針としています。
2024年3月期の年間配当金は、22円を予想しています。2023年3月期は32円と高くなっていましたが、固定資産の売却に伴う特別利益を計上し、大幅な増益となったために増配しています。今期は例年並みとなる予定ではあるものの、配当の還元を含めて今後の課題だと思っています。
当社IRサイトのご紹介
当社のIRサイトをご紹介します。当社サイト内の投資家情報のページでは、業績や説明会資料・開示資料などを掲載していますので、ぜひご覧いただければと思います。
以上で、発表を終わります。ありがとうございました。
質疑応答:中国産レアメタルの調達リスクについて
大川智宏(以下、大川):春田社長、ご講演ありがとうございました。
春田:どうもありがとうございます。
大川:ここからは説明会をご覧の方からの質問と、事前にいただいた質問を含めてのQ&Aということで、お話をいろいろとおうかがいできればと思っています。
春田:お手柔らかにお願いします。
大川:とんでもありません。
一般的な視点からすると、工具などを扱う御社のビジネスは理解が難しいところもあると思います。やはり御社としても、そのようなビジネスの内容を投資家に理解してもらいたいところがありますよね。
春田:そうですね。
大川:実際に、御社が今具体的に展開されている中で、質問が多かったのが中国関連のところです。
それこそ、最近の中国は景気後退などのいろいろな問題が出てきていると思うのですが、御社の中ではタングステンやコバルトといった希少性の高い、レアメタルと言われるような材料を使っています。おそらく中国が主要な産出国の1つであると思うのですが、それにおいて調達リスクはあるのかという質問が来ています。
春田:よく聞かれる質問でもありますが、ないとは言い切れません。ただし、我が社はさまざまなことを考えており、中国に加えて、国内、欧米という3つのカテゴリから調達しています。
基本的に日本のメーカーは、中国以外のところからタングステンを仕入れていると聞いています。加えて、もともと欧米からも輸入しているため、調達に問題があるかというと、そこまでリスクとは考えておらず、きちんとヘッジしているつもりです。
質疑応答:中国経済の失速が与える影響について
大川:調達については、おそらくいろいろなヘッジや、先ほどの製品説明でもあったように、レアメタルの割合を下げるなどのいろいろな取り組みをされているとは思うのですが、中国は現在経済的な失速や回復できないような状況が続いています。
そのような面でのリスクというのは、例えば御社の製品の買い手として、中国というのはけっこう重要な存在でもあるのでしょうか?
春田:はい、そうですね。
大川:その中国経済が、このままなかなか回復しないとなってくると、それはリスクの1つになってくるのでしょうか?
春田:そちらのリスクとしては、先ほどもお話ししたとおり、当社は3月に東莞分公司を開所しており、私も実際に見てきました。
上海に行くのは約20年ぶりでしたが、当時と今とを比べると、自動車の数も大きく増えています。また、私の感覚ですが、電気自動車が半分、ガソリン車が半分といった具合に、どんどん電気自動車が増えていっているため、まだまだ増えていくマーケットがあると考えています。
経済的な話を教えていただいているコンサルの方によりますと、確かに、日本企業は優勝劣敗が決まっていて、強気に出ている企業と撤退しなければいけない企業が半々になっているとお聞きします。しかし、当社が行っている素材の供給という意味では、自動車の車載用レンズや監視用カメラの領域については、今後もまだ広がっていく余地があるということです。
さらに、欧米や日本と比較しても、中国のメーカーは一番強いと言われていますので、中国を含め、私どもがターゲットとするマーケットについては、事業を拡大する余地はまだ十分あると考えています。
当社の名前はまだ知られていませんので、当社の知名度や認知度をさらに高めることで、多くの企業にご購入いただく機会を作っていきたいと考えています。リスクよりもチャンスを取りたいと思い、気持ちよく帰ってきたというのが3月の話です。
大川:過去10年、20年で見ると、現在の中国の景気は非常に悪いわけですが、そうであったとしても、まだ開拓余地はあり、これ以上中国経済が悪化しないのであれば、リスクよりも得られるリターンのほうが大きい可能性があると判断されたということですね。
春田:そうですね。
大川:さらに、今年11月にあるアメリカ大統領選でトランプ氏が当選すれば、中国にとっては再び大変な状況になることが予想されます。そのような状況であっても、やはりポテンシャルはあり、そこまでリスクについて心配する必要はないと判断されたということですね。
春田:そう思っています。
質疑応答:海外売上高比率について
大川:加えて、現状は海外売上高比率20パーセントということですが、中国の拡大も含めて、今後はこの比率も伸ばしていくということですね?
春田:現在、当社の海外事業は、日系企業を中心に売上を拡大しているため、欧米各社やローカル企業にはまだ伸びしろがあると期待しています。これから覚悟して取り組んでいかなくてはいけないと思っていますが、そのような意味でも、半分以上のマーケットが残っているというのが私の感覚です。
質疑応答:EVの拡大について
大川:それこそ、EV化の普及によって、販売自体の裾野は広がっている訳ですよね。やはり事業の流れで見ても、EVというのは大きいのでしょうか?
春田:大きいと思います。
大川:今後は御社もEVの分野を最大限伸ばしていくような戦略があるということですね。
春田:はい。日本車がEVの世界で勝っていけば、伸びしろは莫大にあると考えています。
例えばタイでは、私がいた20年前は日本車が増え始めた時代でした。10年前には日本車がトップシェアで、街の中でもたくさんの日本車が走っていました。
しかし、昨年2度ほど訪れた間に、中国の大きい自動車が非常に増えていました。現在はタイもEVの方向に舵を切り始めていますので、そのような意味でも、中国以外のマーケットが増えている感触です。
大川:中国車が増えているのですね。
春田:増えていると思います。
大川:やはり日本車と比較して価格競争力もあるのでしょうか?
春田:あります。
大川:世界的に見ると、これからもEVが普及して成長していくことが見込まれますが、その中でも、御社の技術を活用する場というのは、新規でもあるということですよね。特に、先進国を含めて、ビジネスマーケットとしては無限大というイメージでしょうか。
春田:はい。
質疑応答:インドの経済成長について
大川:これは私の個人的な見解なのですが、現在はインドの自動車部品メーカーの受注が増えているように思います。やはりインドの経済成長というのは、 業績においても肌で感じられていますか?
春田:業績的に肌で感じるほどではないのですが、地道に増えているとは思います。一時期、経済が悪くなったときには、ぱたっと止まったことがありました。その後も爆発的に増えているわけではありませんが、インドについては当社が今後狙っていきたい市場の1つとして考えています。
大川:それこそ、インドは日本車のメーカーも多いです。ただし、製造業を誘致しているわりには停電が多く、十分に稼動できていないといった話も聞きます。そのようなインフラさえ解消できれば、人口も非常に多いですので成長が見込めそうです。
春田:確かに人口は多いです。しかしながら、地域によって制度が異なりますので、日本国内のどこでも同様の売り方をしていけば大丈夫だった点からすれば、進出当時はどのような売り方をすれば良いのか、法律の面で難しさを感じたことがあります。
そのあたりが今後どのように変化していくのかが、インドのマーケットを拡大していく上で鍵になると思います。
大川:確かに、インドはリスクが非常に大きいイメージがあります。州によって規制がまったく異なるため、進出が難しいという話をよく耳にします。そのあたりも経験からいろいろと学ばれて、これから乗り越えていくということですね。
春田:そう思っています。
質疑応答:競争優位性について
大川:海外展開の話を聞いていて、1つ思ったことがあります。御社の強みは、他社と比較して付加価値のある完成品のシェアが高いということだと思うのですが、御社が特化できていて他社ができないということは、やはり技術力の差といった明確な要因があるのでしょうか?
春田:そうだと思います。焼結では、設備の大きさにもよるのですが、どちらかというと小さいものより大きいものが難しく、なかなかでききれないという状況があります。
やはり当社は大きなものを採用いただけているため、大きなものを製造して加工していく技術については、一日の長があるとしか言えませんが、当社の特徴の1つとなっていると思います。
大川:一朝一夕に、「これから頑張ります」と言って参入できるほど甘いものではないということですね。
春田:特に、粉末冶金については、焼結という技術はかなりのノウハウが隠れており、追いつくのは難しいと言われています。大物のプレスを行うプレス条件や作業者の技能といったところは、かなり難しいのではないかと思います。
実際に技術移動をしようとお客さまと話をしたこともあるのですが、なかなかうまくいきませんでした。つまり、当社の技術には強いものがあると感じました。
大川:それは間違いなく御社の優位性ですね。
質疑応答:PBRについて
大川:PBRについては多くの企業が苦しんでおり、どうしたら良いのかわからないといった話を聞きます。PBRが1倍割れしているため、今後、PBRを上げていく御社の施策について教えてください。株主還元を含めて、そのあたりはいかがでしょうか。
春田:当社の認知度についてお話しすると、まだまだ知られていないというところがあります。こうしたIRの勉強会などを開きますと、当社を知っている方と知らなかった方の割合が7対3から6対4で、知らない方のほうが多いのが現状です。
そのため、株主還元や株価という点では、株価というよりも、まず当社の認知度を上げることが重要だと考えています。認知度を上げて土俵に立つことができれば、当社の業績や安定性、成長性については信じていただけるようになると考えています。
当社はニッチトップで取り組んでいるため、参入余地も少なく、競争力も十分にあります。そのような点も知っていただけるように、このようなIR活動を含め、地道な活動を続けていきます。
大川:今までのお話をうかがっていると、事業の成長余地や裾野のポテンシャルは非常に大きいと感じます。また、参入障壁が高いため、競合がいたとしても御社の技術には優位性があります。
さらに、配当性向50パーセントと積極的な還元も実施していますし、業績も安定しています。なぜ買われないかと言えば知名度が理由ということになります。知名度があれば買われる要素しかないというわけで、今後は知名度向上にも取り組んでいかれるということですね。
春田:はい。今後はさらに新しい分野に収益の幅を求めて拡大していきたいと思っていますので、このようなことを言って良いかわかりませんが、今が買い時です。
大川:業績が伴っていれば、基本的には「本当に買ってください」ということですね。
春田:はい。
質疑応答:カメラレンズ等の金型の需要について
大川:製品に関する質問もいただいています。「カメラレンズ等の金型は1回のみの売り切りなのですか?それとも、ある程度消耗して継続的に需要が生じるものなのでしょうか?」というご質問です。
春田:金型というのは消耗するものですので、また新しい金型を用意しないとできません。今は車にもさまざまなレンズが搭載され、自動運転や安全運転の装置がどんどん増えていくと予想されます。カメラの搭載数が増えていけばいくほど、使用されるカメラにその金型が押されて、消耗しては繰り返し新しい金型を購入いただくことになります。リピート性は非常に高いですし、そのような意味で、自動車の電動化は当社にとって頼もしい需要増の機会となると考えています。
大川:物持ちとしては長いものの、ある程度は消耗していくものなので、基本的に買替需要は継続的に発生するということですね。
質疑応答:研究開発費について
大川:ちなみに、新製品や新しいサービスの開発が日々行われていると思いますが、研究開発費はけっこう投じられているのでしょうか?
春田:研究開発費は、ごく一般的な額ではありますが、投じています。
大川:新しい技術やEVが出てきたときには、それに対応していくといったことでしょうか。
春田:お客さまのニーズに合わせて、材料や表面改質のようなコーティング、また加工技術についても、新たな加工設備の採用を検討するなどに対しての設備投入は研究の中で常日頃やっています。それほど大きくはないですが、今後もずっと取り組み続けていきます。
大川:実際の問題として、今後はエンジン車よりも新しい技術を搭載しているEV車のデザインが出てくるほうが、1台当たりの売上高や利益率は良くなっていくものなのでしょうか?
春田:当然、デザインが変わると、金型自体も新しいものに変化していきますので、世の中に新しいデザインが増えることは当社にとっては非常にうれしいことです。そのため、製品の多様化や新製品が出回ることは、この業界にとっては非常に良いことだと考えています。
質疑応答:ベースアップについて
大川:昨今、非常に話題になっていて、多くの企業の社長さまが気にされているベースアップについてお尋ねします。インフレの状況も含めて、今後の社員への還元についてはどのようにお考えでしょうか?
春田:当然、ベースアップなしに適切な人材確保はできないと考えています。
実は、当社は熊本に製造所を作っており、従業員を増員しているのですが、ある大手半導体会社の初任給の高さに非常に驚きました。必要な人材を採用できなくなることは問題ですし、当社のような工業製品を下支えしている会社がなくなると工業自体もなくなってしまうおそれがあるため、そうした社会意義も含めて、べースアップについては前向きに検討していきたいというのが今の心境です。
大川:現在の人材不足は本当に甚だしいです。そのあたりも今後は力を入れていく可能性が高いということですね。春田社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。
春田:ありがとうございました。