挑戦的マーケティングIR−コロナ禍の中でも躍進するIRとは−

一瀬龍太朗氏(以下、一瀬):それでは「挑戦的マーケティングIR−コロナ禍の中でも躍進するIRとは−」ということで、セミナーを始めたいと思います。

全国のIR担当のみなさま、こんばんは。リンクコーポレイトコミュニケーションズの一瀬と申します。お忙しい中、当社、ログミーFinanceとの共催セミナーにご参加いただきましてありがとうございます。

1時間の短い時間ではございますが、今回サーバーワークスの大塩さまを登壇者としてご招待していますので、大塩さまとのセッションを中心に進行してまいりたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

本日は、まず私から本企画の背景のイントロダクション、その後サーバーワークスの大塩さまのセッション、そしてQ&A、最後は振り返りという流れになります。では、冒頭は簡単にこのセミナーの背景をご説明したいと思います。司会は私、リンクコーポレイトコミュニケーションズの一瀬が担当させていただきます。

自己紹介(ファシリテーター)

私はもともと、当社の親会社であるリンクアンドモチベーションで、コーポレート部門に在籍していました。そこでIRチームの立ち上げ、マネジャーを担当し、2019年からリンクコーポレイトコミュニケーションズという会社に異動してマネジャーをしています。リンクコーポレイトコミュニケーションズでは、IR支援を行なっており、近年ではIRレポートや統合報告書の制作、あるいは決算説明会の動画配信、ライブ配信の制作を担当しています。よろしくお願いします。

IRの世界に触れて感じてきたこと①

私のキャリアのスタートは経理や財務でしたが、IRに携わるようになって、もう5年ほどになります。その中で私が強く感じてきたことが、今回のセミナーでもある「IRは全然アップデートされていない」ということです。

会社の中にはいろいろな活動があります。お客さまとの関係構築であるカスタマー・リレーションズ、従業員や採用応募者との関係構築であるエンプロイー・リレーションズ。ほかの活動は進化しているのにIR(インベスター・リレーションズ)は進化していないと感じています。

IRの世界に触れて感じてきたこと②

CRの領域は、ただただアポを取って提案するだけではなく、リードを作ってナーチャリングを行なうインサイド・セールスやマーケティングオートメーションの世界が発展していますし、カスタマー・サクセスの領域が進化しています。

IRの世界に触れて感じてきたこと③

従業員に対しても同じです。採用するだけでなく、その前に採用マーケティングを行なったりインターンシップを行なったり、内定後もキャリア支援、モチベーション・マネジメント、リファラル採用などいろいろあります。

IRの世界に触れて感じてきたこと④

IRはいかがでしょうか? IRの仕事というと、スライド制作などがよくある仕事かなと思います。みなさまも多くの時間を費やしていらっしゃると思いますが、他の活動を見渡すとまだまだ進化できるはずで、もっとアップデートできるのではないかと感じています。

そのようなことをログミーFinanceさんにお話ししたところ「そのようなメッセージをどんどん出していきましょう」ということで意気投合して、今回このようなメッセージを発信する場を持ち、もっとパブリックに展開していこうということで、セミナーを企画させていただきました。

その中で、サーバーワークスの取り組みが、アップデートのヒントになる部分が非常に多くあると感じましたので、大塩さまをお呼びしてセッションをさせていただきます。では、ここからは第2部ということで、大塩さまと秋元さまをお呼びして、セッションをスタートさせていきたいと思います。

登壇者紹介(ゲストスピーカー)

大塩啓行氏(大塩):サーバーワークスの大塩と申します。本日はよろしくお願いします。現在は、「AWS」というAmazonが提供しているパブリッククラウドのサービスを中心に、お客さまにクラウドを提供している会社、サーバーワークスにてバックオフィス全般の統括を担当しています。

登壇者紹介(ファシリテーター)

秋元洋平(以下、秋元):私も自己紹介します。ログミー株式会社の中の「ログミーFinance」という決算説明会の全文書き起こしメディアの立ち上げから3年程度、ずっと責任者として関わっています。

目指す世界としては、個人投資家と機関投資家の情報格差をなくして、誰でも公平に株の取引ができる世界を目指しています。その中で、個人投資家のコミュニティを支援したり、IR関係者のコミュニティを作っていったりといったことを行なっています。今日はどうぞよろしくお願いします。

上場来の株価チャート

秋元:さっそくお話を聞いていきたいと思います。サーバーワークスの上場から今までの株価のチャートですが、これはすごいですね。きれいに上がっていますが、大塩さんは、株価の上昇について実感はありますか?

大塩:直近で新型コロナウイルスの件があり、意図せずリモートワーク銘柄、コロナ銘柄のようなかたちで取り沙汰されているという印象です。9月ぐらいに一旦底を打って、ジワジワと上がっている状況で、直近はアンコントローラブルな要因が大きいと思います。株価がなだらかな部分は、これまで取り組んできたことが功を奏しているという気はしています。

秋元:わかりました。今回のイベントとは関係ないかもしれないのですが、新型コロナウイルスの影響の中、どういった働き方をされていますか?

大塩:当社は完全リモートワークです、2月17日くらいだったと思いますが、そこから段階的にリモートワークの強度を高めていき、とにかく感染リスクを減らそうということで、原則会社には来てはいけないという流れになっています。仕事柄、ネットワークと端末があればどこでも仕事ができるため、いまだにリモートワークです。

秋元:機関投資家との「1on1」もすべてリモートでしょうか?

大塩:今はリモートです。これまでは必ず先方にうかがってお話をして、また次の場所に行くということをしてきたわけですが、それがリモートでできるというのは、少し驚きでもあります。

【I.上場時】Q.上場時、IRのミッションやKPIは?

秋元:それでは、本題に入らせていただきます。時系列にお話をうかがいたいと思うのですが、上場の際、多くの会社は上場直後に株価が下がっていくと思います。上場された直後は、IRのミッションやKPIはありましたか?

大塩:実を言うと、右も左もわかりませんでした。どの会社もそうだと思うのですが、上場直後に東証に呼ばれ、分厚い「適時開示マニュアル」を渡されて説明を受けます。私は本当に素人だったため、その開示マニュアルに実直に沿って、法令に遵守したかたちで情報発信をしていかなければいけないと考え、とにかく適時開示体制をきちんと作らなければと思っていました。

秋元:そのときには、特別にミッションを掲げていたり、そのための数値を追っていたりというのはなかったでしょうか?

大塩:最初はまったくなかったです。

秋元:作りようがなかったのは、そもそもIRのキャリアがなかったからでしょうか?

大塩:それもそうですし、また上場直後はいろいろなところから提案をいただくものの、果たしてどれにどういう効果があるのかがわからず、選びようがなかったのが正直なところです。

秋元:ちょうどそのころ、私もおうかがいしましたよね。

大塩:そうですね、ログミーFinanceとはそのころからの関係ですね。

【Ⅱ.転換期】Q.株価反発のきっかけは?

秋元:転換期ということで、9月に底を打って、そこから右肩上がりで株価が上がっていきました。上がり始めた転換期は、IRとして何か特別なアクションを起こしたり、きっかけのようなものはありましたか?

大塩:とくにないですね。上場直後から6月に行なった証券会社主催の個人投資家向け説明会までは、代表の大石が中心になって私はサポート役を務めていました。IR担当者であればわかると思うのですが、同じことを毎回毎回繰り返して話をしなければいけません。

代表の時間も限られていますので、ルーティンなものは我々が担当しようということで、半期に1回の決算説明に関しては代表の大石がステークホルダーの前に立って話をして、それ以外の「1on1」や細かい施策は私が中心になって進めていこうと決めました。

7月上旬に第1四半期の決算発表がありまして、「業績が一番大事だろう」ということで決算説明資料の拡充を図り、4月11日に発表したのですが、よい決算だったのにもかかわらず、株価はどんどん下がっていき、出来高もどんどん細っていきました。

何をすればよいのかわからない中、他社は何に取り組んでいるのか、複数社のIR担当の方にお話を聞きに行きました。またログミーFinance主催の「IR3.0」といったイベントに参加させていただき、会社としてのIRの方針を模索していました。

秋元:そこで、糸口みたいなものが見えましたか?

大塩:上場企業でIRを担当したのが初めてだったため、証券会社や東証が言っていることを「鵜呑み」にしていたところもありました。

まわりの方も「とにかく機関投資家とのパイプラインを太くすることが大事だ」と言っていたため、機関投資家とのパイプを作ろう作ろうと動いていたのですが、その中で、まだ我々の規模感からすると、機関投資家が当社の株を買う規模には達していないということに気づきました。

そこで、個人投資家との対話を通じて個人投資家の方に興味を持ってもらうのが大事なのではないかと思った矢先にサイボウズやエボラブルアジア(現・エアトリ)のお話を聞いて、実はそれまで避けていた個人投資家が大事だと思い、何かやらなければと思い始めました。

秋元:サイボウズの取り組みで何かヒントはありましたか?

大塩:「株主のから騒ぎ」という取り組みが衝撃的でした。それを拝見して、当社の社長もあのように壇上に立たせて、ひな壇に株主をお呼びして実施してみたいと思いました。

秋元:視聴者のみなさまにも説明させていただくと、サイボウズは株主総会のときに、株主の方に「株主のから騒ぎ」に登壇しないかとオファーを出します。そこでオファーを受けていただいた方には、株主総会で「会社からの一方的」なイベントが終わったあとに株主に壇上に上がっていただき、テレビ番組「恋のから騒ぎ」のようなかたちで、社長が株主に対してどんどん質問をぶつけていくようなイベントです。

大塩:そうですね。司会の方は副社長ですか?

秋元:そうですね、山田さまです。

大塩:あれは素晴らしい掛け合いだなと思いながら拝見していました。

秋元:みなさまも、よろしければサイボウズのIRページなどに載っていると思いますので、ご覧いただければと思いますが、そのような株主を巻き込んだコミュニケーションがヒントになったということでしょうか?

大塩:おっしゃるとおりです。

秋元:エアトリさまについてはいかがでしょうか?

大塩:エアトリは、そこまでのイベントではないですが、とにかく発信数を増やすとおっしゃっており、過去に発信したPRが「今、どうなっているか」をとにかく発信していました。

秋元:確か、1日1回はIRを打つといったKPIを掲げられていましたよね?

大塩:そうですね。さすがにそれは難しいですが、すごいと思いました。

【Ⅱ.転換期】Q.どのようなアクションを起こした?

秋元:ちょうどその頃、かなり多くのアクションを起こされていますよね? イベントであったりラジオに出られたりしていたかと思います。依頼を受けるものはすべてポジティブに受け取ってチャレンジしたということですが、それらのイベントでどれがよかったのか、またよかったものをどう効果測定していたのかのお話をお聞きしてもよろしいですか?

参考:サーバーワークスの施策⼀覧(抜粋)

大塩:まず、機関投資家向けのイベントについて、決算説明会はみなさまも定期的に実施していると思いますが、その他、証券会社が主催してるイベント……とくに主幹事である大和証券からお誘いいただいた投資家向けのイベントは基本的に受けるようにしていました。

個人投資家向けについては、まずログミーFinanceのイベントを上場直後に利用して、代表の大石が出たのですが、質疑応答も含めて反応がよかったです。ですので、ログミーFinanceのイベントは必ず代表の大石が出ると決めています。個人投資家との接点はそこを中心に作ろうと思っていたところに、名古屋の個人投資家コミュニティ「Kabu Berry」や、そこと繋がっている「神戸投資勉強会」という個人の集まりにも呼ばれるようになり、会場に出向いてお話をしたりしていました。

最も衝撃的だったのは「Kabu Berry」のイベントです。100名くらいいらっしゃったと思うのですが、私とIR責任者の2名でうかがったときに、すごく活発に議論されているコミュニティではあるのですが、100名のうち何名かは、ほとんど我々のビジネスモデルを理解していないことに驚きました。

決算説明資料をリバイズしながらわかりやすく作っているつもりなのですが、まったくもって理解されていなかった。クラウドや「Amazon」「AWS」という言葉は知っているけれど、言葉を知っているくらいで、実は事業に興味を持っていただいている人はものすごく少数ということがわかりました。そこで、「これは、なんとかしないといけないな」と痛感したイベントになりました。

秋元:参加者の方は、ビジネスモデルを理解していなくても「理解したい」という気持ちは強かったのでしょうか?

大塩:その気持ちが強い人はあまりいらっしゃらなかった気がします。

秋元:やはりそこが難しいところですよね。いかに、わかりやすく伝えるかということですね。

大塩:サイボウズは当社と同じ「BtoB」のサービスで、個人の方が普段は触ることがありません。お仕事で使われている場合は別ですが、個人の方でサイボウズの「kintone」を使う機会がない中で、あれだけのコミュニティを作れるのはすごいですし、我々にも何かできるのではないかと感じました。

秋元:サイボウズは、サービスの理解を求めるというよりも、自分たちが成し遂げたい世界を共感してもらおうといったメッセージがすごく強いですよね。御社は、クラウドを使ってもっと働きやすい世界を作るといった理念を掲げていると思うのですが、そのあたりの理解を深めていくようにするのが今後の課題でしょうか。

大塩:目に見えないソフトウェアのため、説明や資料作りも難しいところはあるのですが、そのビジョンに沿って、我々が何を進めていくのか、どういう世界を作りたいのかを、もっとかみ砕いて伝えていく必要性を感じています。また、そのような機会は1回作って終わりではなく、継続的に実施することでどんどん理解を増やしていき、それに共感する人を増やしていくという積み重ねだと思います。

一瀬:大塩さんに質問です。「投資家の方々がビジネスモデルを理解されていない」という点に気付かれたわけですが、これまでも機関投資家向け、個人投資家向けにいろいろとIR活動をされてきたと思います。

そこで、なぜ「Kabu Berry」のセミナーに登壇されて気付けたのか、逆に言うと、なぜそれまでは気付けなかったのでしょうか?

大塩:まず、機関投資家との「1on1」で、それなりに市場調査やマーケット分析をされている方が多い中でも、「AWS」のビジネスや我々のビジネスを理解されていない方がけっこういらっしゃいました。

継続的に「1on1」をしていただける方は、すべてをお話ししなくても「当社はいかがですか?」で終わるのですが、新しいお問い合わせをいただいてお話をする際に、まずビジネスモデルの概要から説明して、どういう収益構造になっているのか、今後どうなっていくのかを全部説明します。そのようなことが多く、「1on1」を実施すればするほど、「まだわかっていない方がたくさんいらっしゃるのか」ということに、まずは機関投資家との「1on1」で気付きました。

当然ながら個人投資家にリーチする機会がない中で、それであれば余計にわからないだろうという仮説を持っていました。そして「Kabu Berry」のイベントに行ってみて、「まったくわかっていただけていない」ということが立証できたわけです。

一瀬:投資家のみなさまの理解がないということは、興味にも繋がらないということだと思うのですが、そこの理解のギャップをどのようにして埋めていったのでしょうか? 株価がずっと上がっているということは、理解が浸透してきたということだと思うのですが、いかがでしょうか?

大塩:キードライバーは、実はありません。いろいろとKPI分析していますが、情報発信数を増やせば株価が上がったり出来高が増えるかというと、まったく相関がありませんでした。唯一、相関が高いのは「1on1」の回数と出来高です。株価に関しては我々ではなんともしようがないのですが、出来高は「1on1」を重ねるにつれて増えていきました。

また、会社のビジョンとして「クラウドで、世界を、もっと、働きやすく」というビジョンを掲げていますが、そこに働き方改革の追い風もあり、メディアにも取り上げていただけるようになりました。読者の多い媒体に取り上げられることで注目を浴びて「ちょっと株を買ってみようかな」と思っていただいたところもあるかもしれません。

一瀬:つまり、興味を持ってくださった方なりメディアの方なりが、さらに拡散を助けてくれた部分があったかもしれないということですね。発信するというよりは、理解促進のための双方向のコミュニケーションに意味があったというのが実感でしょうか?

大塩:そうですね。とにかく発信数を増やすというよりも、コンテンツが重要だと思います。会社が何に取り組んでいるのかがわかって「この会社の株を買ってみようかな」と思えるような内容で、きちんと「腹落ち」できる内容かどうかだと思います。発信数が少なくてもだめで、「相関がないから発信するのは意味がない」という話ではありません。発信し続けなければいけないと思うのですが、発信していく内容は非常に重要だと思います。

一瀬:質的観点ですね。

秋元:発信していく内容なのですが、投資家のレイヤーによって変わってくると思います。例えば「まだ認知していない人向けにはこのような発信をしていこう」「もう認知はしてもらっていて、なんとなく会社を知ってもらっている人には、違う発信の仕方で、コンテンツを変えていこう」「もう比較検討まできてもらっている投資家に対しては、最後の背中を押すようなコンテンツを発信していこう」といったかたちで、そのような部分までは考えられていますか?

大塩:まだそこまではできていません。

一瀬:「どのようなコンテンツが響くのか」といった手応えはありますか?

大塩:わかりやすさかなと思うのですが、そう思ったきっかけとして、4月に「四季報オンライン」で在宅勤務関連で取り上げていただいたことです。直近では「日経新聞」で在宅勤務やテレワーク関連で取り上げられ、みなさまが身近に接するキーワードと会社の事業がリンクしたとたんに出来高が増える、興味を持っていただけるということがけっこうあると思います。

カタカナ、横文字、アルファベットで「クラウドサービス」と言いたくなるのですが、そうではなく、もっと寄り添ったかたちで、わかりやすいキーワードで伝えていくことができれば、個人の方にも響くと思います。

一瀬:個人投資家の方が理解できる、共感できる言葉を意識してコンテンツを発信されたというところでしょうか。

大塩:取り上げていただいた、というかたちですね。

秋元:ここまで、よかったところはお話しいただいたのですが、逆に効果が見えず、1回だけ実施してみて、もうやめようといったものはありますか?

大塩:ちょっと言いづらいところもありますが、証券会社に、当時は富裕層の方々を集めていただいて、証券会社の会場を借りて個人投資家向け説明会を実施したことが2回あるのですが、富裕層は年配の方が多く、我々の事業を理解いただくのが難しいと感じました。

社長の大石が、カタカナを使わず、とにかくわかりやすく説明したつもりなのですが、無反応で、ターゲティングを間違えていると気付きました。それこそ、「IR3.0」のように、ログミーFinanceで「Peatix」などを使って申し込むような方でないと、「AWS」は理解してもらえない。つまり、我々のターゲットはお金を持っている年配の富裕層ではないということはわかりました。

個人投資家を対象にする際には、お金を持っていてもITに興味がない、ITリテラシーが低い方にはあまりリーチできないと感じました。

一瀬:「うまくはまっていない」というのは、何か指標を見られて気付かれたのでしょうか?

大塩:アンケート結果を見ると、「まったく意味がわからなかった」といった意見がありました。衝撃的で、社長もがっかりしていました。

一瀬:出来高にも反応がなかったですか?

大塩:反応がなかったですね。

上場後の、スライドの「下り坂」のところで実施しているのですが、まったくもって反応しなかったです。

【Ⅱ.転換期】Q.社内の反応は?

秋元:社内の反応についてお聞きします。IR情報を積極的に出されていた時期に、社内からフィードバックがあったり、ポジティブ、もしくはネガティブな反応はありましたか?

大塩:目に見えた反応はあまりありません。確実に言えることは、IRは社内でやや特殊なものだという目で見られていると思います。「TDnet」などもそうですが、お作法にのっとって進めなければいけないことも多く、分厚いマニュアルを見ながら小難しいことをしなければならないという印象があり、「何をやっているかよくわからない」といったところはあると思っています。

IRは「インベスター・リレーションズ」の略で、ステークホルダーや株主との対話を通じてリレーションをはることだと思うのですが、今、我々に生じていることは、IRがうまく進むことによって会社への応募者数が増えたり、それが採用にうまく働いたり、また「四季報オンライン」や「日経新聞」などに取り上げていただくことによってリードのパイプラインが増えたりと、営業やマーケティングにも生きているため、実はいろいろなところに関係性が生まれているわけです。

マーケティング担当者も「念願の日経新聞に取り上げていただいた」ということで喜んでくれましたし、新卒を含めて採用の応募が増えたりしており、そのような波及効果があると思います。

一瀬:社員と特別なコミュニケーションをとるなど、IR情報を知ってもらうためのインナーコミュニケーションはされましたか? それとも、外部のメディアに取り上げられる中で、「なんか、うちの会社いいぞ」ということで社員は外から知るかたちでしょうか? どういった流れで社員は情報を知っていったのでしょう?

大塩:インサイダーの問題もありますので、社内も社外も同時です。関係者以外は、ほぼ同時に見ていると思います。本当は、「こんなことをやっている」ということをもっと知ってほしいとは思うのですが、そこは課題感として持っています。

またこれからは、どんどん現場を巻き込んで、この会社を知ってもらうコミュニティ作りを全社一丸で「ONE TEAM」で進めていきたいですね。IRにおいて、我々が定量的なことを発信するのは当然ですが、定性的なところはIR担当者が言うよりも現場の生の声を伝えたほうがわかりやすいため、そのようなところは巻き込んでいきたいと思っています。

一瀬:社内でも、IRの注目度は高まっていますか? 社員が自社のIR情報を知らないと言っている上場会社も、残念ながらいらっしゃいますよね。

大塩:一生懸命「宣教師」をしています。自社サイトの「IR」のタブを押すと情報がたくさんあるということは、事あるごとに言っていますね。

一瀬:社内の注目、リテラシーも上がってきている手応えはありますか?

大塩:そうですね。とくに決算説明資料は数字もたくさん載っていますが、いかにわかりやすく会社の決算、つまりその期間の状況を伝えるかがキーですので、ぜひ社員にも見てほしいですし、自分の会社をもっとよく知ってほしいですね。

「技術の会社だから技術さえわかればいい」ということではなく、定性的なところも定量的なところも、今、どのような状況なのかをよく知ってほしいと思っています。ですので、決算説明資料はしっかりと時間をかけて作って、社内外問わず見てほしいということで注力しています。

【Ⅱ.転換期】Q.IRはどのようなことが大切?

秋元:次の質問です。「IRはどのようなことが大切?」というところで、上場直後から今まで担当されてきた中で、感じられていることをお聞かせいただきたいと思います。

大塩:繰り返しになるかもしれませんが「IR」という言葉は、実はあまり好きではありません。採用も営業もそうですが、いろいろなところに波及するものだと思っており、株を買っていただく機関投資家、個人投資家問わず、株主に対して説明責任を果たすとのは当然ですが、一定のお作法を守りつつ、もっと改善できるところはあると思っています。

秋元さんも一瀬さんも同じ思いだと思いますが、従来のIRのように凝り固まったやり方は捨てて、もっとマーケティング要素を強くして会社を知ってもらうことが大事だろうと考えています。

【Ⅲ.今後】Q.今後のIR戦略は?

秋元:そこを踏まえて、今後の戦略についてです。大塩さんの中で、「今後、IRでこのようなことにチャレンジしていこう」「活動自体をこう変えていこう」といったアイデアや計画があれば、話せる範囲でお聞かせいただけますか?

大塩:昨年の下期、社内のキックオフで「こんなことに取り組んでいく」と発表したのですが、まだ手を付けられていないのが、サイボウズにならって我々ならではの株主コミュニティを作っていくことです。

当社が携わっているのが「パブリッククラウド」と言われているもので、その「Cloud」は「雲」のほうですが、雲ではない「Crowd」を意識して、我々のファンになってもらうようなコミュニティ作りをしたいと考えており、どのように実現しようか検討しています。

【Ⅲ.今後】オフィス内のライブ配信機材

新型コロナウイルスの影響で中断しているのですが、東京オフィスに「離れ」のようなところがあるため、そこで定期的にイベントを開催しています。時にはエンジニアにも出てもらい、我々のSaaSのサービスを「このように使うんですよ」といったかたちで説明しています。「AWS」「クラウド」も含め、我々の事業を体感いただく場所が作れるといいなと思っています。

「離れ」というと怒られるのですが、「アネックス」と呼んでおり、写真は今年の株主総会の時の写真です。エンジニアが定期的にYouTubeでコンテンツを発信したりして、意外とよい機材が揃っています。

動画の編集なども社内でできるため、我々もIR関連のイベントの動画などを開示、蓄積して、会社に触れてもらえる機会をより増やしたいと思ってます。

秋元:ありがとうございました。IRにもマーケティング的な考えはあるべきで、逆になぜ今までなかったのかが不思議です。大塩さんのキャリアとしては事業側に身を置かれていたと思いますが、マーケティングはその根底にありますので、やはりそのあたりを変えられると感じていますか?

大塩:一瀬さんや秋元さんがおっしゃっていましたが、「IRは、もっと自由でいい」というのは、まさにそのとおりだと思っています。「やってはいけないことは、やってはいけない」のですが、そのようなことはあまりないとも思っています。

一瀬:私も、上場企業のIR担当のみなさまとお話ししますが、ルールや規制の中でどうしていくかについて苦労されている方が多いです。本当は、もっともっといろいろなことができるような気がします。

もう少し自由に発想し、各社が挑戦できるポイントはいろいろあると思っていますが、大塩さまは今、サーバーワークスという会社の中でいろいろと仕掛けられている、挑戦されている方ということで、視聴いただいてるみなさまにもそのチャレンジ精神などが伝わればいいなと思っています。

質疑応答:今後の決算説明会の開催方法について

一瀬:それでは、質疑応答に入っていきたいと思います。いくつか質問をいただいていますが、「コロナ禍による新常態で、これから個人投資家向け説明会はどのように開催されるようになると推察されますか?」ということです。

大塩:会場に集まってリアルで開催するという形式は、当面はないだろうと思っており、ストリーミングやアーカイブされた動画配信といった形態になると思います。我々も7月に第1四半期の決算発表がありますが、通常であれば証券会社の会場を借りて、そこに集客しているところを、今回は機関投資家、個人投資家問わずオンラインで開催しようかを検討しています。

質疑応答:自由なIRにおける怖さについて

秋元:私からの質問なのですが、自由なIRにおける怖さはないのですか?

大塩:まだそこまで自由にやりきれていないため、言うほどでもないですが、怖さは常にあります。これからだと思いますね。

質疑応答:若い投資家向けのIR施策について

一瀬:「高齢の投資家が自社を理解してくれない中、若手の投資家にはどのようなIR施策が好評ですか?」というご質問です。

大塩:若い方で我々に興味を持っていただいている点についてです。クラウドの市場、その中のプレーヤーの相対的なポジショニングといったものは、ご自身がユーザーだったり興味を持っている方はだいたいわかっていますので、ITリテラシーの高い方についてはそこまで苦労していません。逆に、リテラシーの低い方にどうリーチしていくかがポイントになると思います。

一瀬:つまり、年齢ではなくリテラシーを1つの軸としてターゲットを見られているということですね。

大塩:おっしゃるとおりです。

質疑応答:個人投資家説明会に対する費用対効果について

秋元:個人投資家説明会に関する費用対効果はどのように考えていますか?

大塩:大きな証券会社主催のものは、もう実施しないと思います。完全にそうとは言えないですが、費用対効果がよくなかったとも思っています。以前に実施した時に参加した方が今買っているかもしれませんが、それがトレースできないため、実施を続けられないと考えており、そこは今はログミーFinanceに絞っています。

また、先ほどお伝えした個人投資家のコミュニティはお声がけいただいて実施しているため、提供するのは僕の時間だけですので、ほぼコストを掛けずにできています。

一瀬:最後に、「個人投資家向けのイベント開催の段階から、機関投資家向けへのアプローチへ移行したフェーズのお話をうかがえますか?」というご質問です。

大塩:機関投資家との「1on1」は、最初は本当に数が少なく、とにかくお声がけいただいたところにはうかがうかたちで、一切断っていません。それと並行して個人投資家向け説明会も行なわなければならないということで実施した結果、さきほどのとおり失敗に終わり、やり方を考え直しました。ログミーFinanceは書き起こしがあり、Webでいつでも代表の発言を追いかけられるため、その意味では非常によいコンテンツだということで、そこに絞っていったかたちです。

一瀬:後から追いかけられるログというところで活用いただいているわけですね。質問は多数いただいているのですが、質疑応答は一旦ここで終了とさせていただきたいと思います。

サーバーワークス様のIRから学ぶこと①

一瀬:本日のまとめになります。大塩さまからいろいろな角度でお話しいただきましたが、まとめを作ってみました。

1つは、「IRからSRへ」ということで、投資家だけを見るのではなく、この活動を通じてステークホルダー全体とのリレーション構築という視点で活動していく、というメッセージだったと思います。IR活動とその他の活動を切り分けるのではないというところは、すごく大事な観点だと思いました。

サーバーワークス様のIRから学ぶこと②

もう1つが、「共感を紡ぎあげる相手を選ぶ」ということです。考えることなく、目の前に用意されたお金のある方に広く知っていただくという方法を取りがちな部分はあるかもしれませんが、やはり最終的にはファンを作っていくことが大事だと思います。

サーバーワークスは、共感性のある方を選んで、ターゲットを絞って関係を深めていくということを意識されて活動していると感じました。

本日を振り返って、大塩さんからも何かあればお願いします。

大塩:スペシャリストでもないのに、たくさんの質問をいただいてありがとうございます。私が素人のため、逆にあまりIRの常識にとらわれずに取り組むことができている部分はあると思っています。

「IR」という言葉が好きではないとお伝えしましたが、本当に「SR(ステークホルダーリレーション)」が大切だと思っています。「やってはいけないこと」以外はすべてやっていきたいと思っていますので、新型コロナウイルスの影響でいろいろな制約がある中でも、段階的に手を付けていきたいと思っています。

一瀬:本日はサーバーワークスの大塩さまをお招きしてセッションをさせていただきました。ありがとうございました。では最後に、当社とログミーFinanceからのお知らせで締めくくらせていただきたいと思います。

ログミーFinanceの取り組み

秋元:私どものサービスを簡単に紹介させてください。まず、ログミーFinanceでは決算説明会を全文書き起こして、タイムリーに記事を公開しています。また、機関投資家が見ているデータベースや、個人投資家が見ている投資情報サイト、そして「SmartNews」「NewsPicks」といった一般のニュースサイトなど、さまざまな媒体に同時に配信することで多くの投資家に情報を届けています。

さらに、個人投資家向けIRセミナーということで、今回のセミナーの中でも何回かお話が出てきましたが、非常にリテラシーが高く、若手で研究熱心な投資家の方にたくさんご参加いただいて、中身の濃いIRセミナーを実施しています。

ログミーFinanceの取り組み「Zoom導入無料支援」

もう1つ、この「コロナ禍」において、決算説明会や個人投資家向けイベントを開催しづらい現実があると思いますが、本日の「Zoom ウェビナー」の導入支援をすべて無料で行なっています。

内容としては、集客用のLPの作成、設定方法、また当日の運営に必要な台本のドラフト作成、そしてリハーサルに参加してフィードバックさせていただきます。さらに、本日の内容も同様ですが、そのまま録画しており、それをYouTube上にアップする際の簡単な編集作業なども支援しています。ご興味がございましたら、ぜひご連絡いただきたいと思います。

リンクコーポレイトコミュニケーションズの取り組み「ダイアログ」①

一瀬:当社からもご案内を差し上げます。当社も、個人投資家向けのオンライン説明会を支援させていただいていますが、個人投資家向けオンライン説明会で「リアクションボタン」を画面に設置して、投資家の共感度合いをデータ化、可視化するサービスも展開しています。

リンクコーポレイトコミュニケーションズの取り組み「ダイアログ」②

「対話」という意味で「ダイアログ」と呼んでおりますが、「いいねボタン」になります。先ほどのお話の中でも、「IRは情報量や数にとらわれる」といったものがありましたが、大事なのは「共感させるコンテンツ」だと思います。

どこに共感の接点があったのか、逆に何が共感を遠ざけてしまっているのかをしっかり可視化していくということは、これまでのIR活動ではあまりなかったと思っており、私たちはその部分を可視化する支援を行なっています。

これによってオンラインのプレゼンテーションを可視化して「この話が響いた」「この話はもうやめよう」「もっと言葉を変えていこう」といったことのPDCAサイクルを回すきっかけになると思っています。興味がありましたら、ぜひお声がけいただきたいと思います。

今回のセミナーの趣旨としては、IRというステレオタイプの強い業界において、これまでの慣習に風穴を開けられないかということで、そのきっかけとしてサーバーワークスの取り組みを紹介させていただきました。

このような取り組みは初めてなのですが、今後もさまざまな観点で、いろいろな登壇者を呼んでイベントを実施していこう考えています。

次回予告

次回は、「若手個人投資家が登壇」ということで、まだ「仮」ではありますが、今回もたくさんお話が上がっていたように、個人投資家の方々が何を考えているのか、その「本音」に踏み込むような内容を7月下旬に開催したいと思っています。

今後も、月に1回くらいの頻度で、この業界にメッセージングをしていきたいと思いますので、ご興味のある方はまたその時にお会いできればと思います。

秋元:次回予告についてですが、ターゲットを知るということは本当に大事だと思います。そうしなければどのような情報を発信してよいのかがわからないと思いますので、かなりヒントになるのではないかと思います。ぜひご視聴いただけたらと思います。

一瀬:それでは、これにてセミナーを終了とさせていただきたいと思います。本日はサーバーワークスの大塩さまにお越しいただき、セミナーを開催しました。大塩さん、本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

大塩:こちらこそ、どうもありがとうございました。

一瀬:ご視聴いただきましたみなさま、どうもありがとうございました。またぜひオンライン上でお会いしましょう。