第7回 個人投資家向けIRセミナー&講演会(第3部)

田中邦裕氏(以下、田中):田中と申します。これから30分弱、私から会社の紹介、また中期経営計画等をご紹介します。

結論から申し上げますと、当社は23年、一貫してサーバを提供してきたわけなのですが、サーバというのはみなさまご存知のとおり、社会に必要不可欠なものになっています。

スマホとスマホが直接通信できないのはみなさまもご存知かと思いますが、スマホからサーバを経由して、またスマホへプッシュ通知されます。そうすることによって、片方の電源が切れていたとしても、きちんと通信が行えます。そのような仲介役としてサーバの役割がございます。

最近はAIなどが進んできましたので、サーバ側でなんらかの処理をして、またデータを新たな価値にして別の側へ届けるといったことも起こっています。

「LINE」や「Messenger」を想像いただくと、来たメッセージをそのまま転送するだけということになるのですが、例えばたくさんのデータを蓄積して、それを解析して、新たなバリューとして、例えば将来の推計値などを出すということは、サーバを経由してデータの価値を増しているということにほかならないと思っています。

とくにAIをはじめとした今のIT社会において重要な要素は3つあるのですが、1つ、当然のことながら専門性(があります)。エンジニアリングといった技術力だったり、ビジネス開発力のような部分は必要になります。

もう1つ、新たに重要になってきているのがデータで、もう1つ重要なのはコンピューティングリソースと言われるものです。例えばGoogleのようなプラットフォーマーは、エンジニアリング専門性、データ、コンピューティングリソースの3つとも持っているから非常に強いと言えるわけなのです。

昔は専門性や技術力だけで済んだものにプラスして、データとコンピューティングが必要になっているというのが今の社会です。

そのなかで、コンピューティングリソースをいかに広くお客さまに提供していくかが当社の成長の背景になっています。

当社はもともとずっとサーバを提供している会社でございまして、一部上場企業のなかではたった3社しかない「インターネット」という語が社名に入る会社です。

ほかIIJ(インターネットイニシアティブ)さまとGMOインターネットさまがインターネットという名前を冠しています。ほとんどの会社さまはインターネットやサーバを利用してなんらかの商売をされているわけなのですが、当社はサーバやインターネットそのものを提供している数少ない会社のうちの一つです。

さくらインターネットの沿革

同じ事業を23年間続けているのですが、売上の構成比にはずいぶんと入れ替わりがあります。もともとは生業として、「レンタルサーバ」という、ドメイン名を取得し個人のホームページを開くためのサービスを行っていました。(レンタルサーバ分野は)一貫して伸びてはいるものの、全体の比率としては下がってきています。

途中に非常に伸びたのが、データセンターをそのままお貸しする「ハウジング」というビジネスなのですが、これは正直なところ不動産と同じような商売ですし、資本力には勝てないというところがあります。

とくに外資系のデータセンターは非常に強く、そもそも日本では「海外のデータセンターを使ったらいいのではないか」という動きさえあります。そのため、データセンターをそのまま提供するというサービスは、どちらかというと右肩下がりの状況です。

もう1つ、「専用サーバ」という物理的なサーバをそのままお貸しするサービスがあります。実は2003~2005年あたりに、ミクシィさま、グリーさま、サイバーエージェントさま、はてなさまといったIT系の企業さまが主要顧客となって、大量にサーバを借りてくださいました。

2ちゃんねるさまなどもそうだったのですが、そのような方々に牽引されてすごく伸びた時期があります。しかし、AWSをはじめとしたクラウドが出てくるなかで、サーバを丸ごと借りるという需要も減ってきました。

ただ、ターニングポイントとして、2015年あたりからディープラーニングのブームがやってきます。いわゆるAIブームです。当社はGPUと呼ばれる高速なコンピュータは得意としているのですが、その分野が伸びてきたため、専用サーバは一転して伸び始めているという状況があります。

ただ、ベースとして伸びているのはクラウドビジネスであり、敵はすごく多いという(状況です)。Googleさまの「GCP」であったり、Amazonさまの「AWS」であったり、Microsoftさまの「Azure」であったり、とにかく世界の時価総額ランキングのトップ10に入るような会社さまがまともにライバルになってしまうという、非常に厳しい状況ではありますが、市場がそれ以上に伸びているということで、当社も専門性を活かして伸ばしています。

全体としてはこのようなかたちで、とくにここ5年に関してはトップラインも伸びてきているという状況にあります。

さくらインターネットの拠点

現在、データセンターと呼ばれる物理的な拠点を東京、大阪、北海道の3ヶ所に持っています。そのなかでも当社の基幹のデータセンターは北海道の石狩データセンターというところです。

もしかしたら2018年の北海道地震の停電の際に、発電機が60時間動いたということでご記憶の方もおられるかと思いますが、このような発電機、耐震の性能を備えたサーバラックなどを用意して、お客さまに24時間365日、安定して維持されるサーバを提供している拠点です。

さくらインターネットのサービスラインアップ

少し飛ばして11ページです。先ほど申し上げたように、当社にはデータセンターをそのままお貸しする「ハウジング」などのコロケーションと呼ばれるサービスと、そのなかにサーバを置いて、運用保守を当社が提供するホスティングと呼ばれるサービスの、2種類のサービスがございます。

ただ、先ほどのグラフのとおり、コロケーションと呼ばれるセグメント、いわゆる「ハウジング」に関してはほとんど伸びておらず、純減している状況にあります。

データセンターというのは2つの見方がありまして、現在はたくさんのデータセンターが建てられています。なので、データセンターの市況としては非常にいいのですが、ユーザーのほとんどはGAFAと呼ばれるGoogleさま、Amazonさまなど、米系の大手企業がデータセンターをそのまま借りているという状況にあります。

なので、不動産として見たデータセンターは非常に市況がいいという状況があるのですが、もう一方の見方ですると、データセンターをそのまま借りてくれるお客さまはどんどん減っています。

小規模なお客さまはどんどん減り、大きなITプラットフォーマーがデータセンターをどかんと丸ごと借りて、そのなかでサービスを展開して儲けていくという時代に変わっています。

別の言い方をすると、サブスクリプションやプラットフォームサービスといったキーワードはよくお聞きになられると思いますが、そのようなかたちでエンドユーザーがデータセンターを間接的に使っている状況にあります。

ですので、当社としても、サーバをサービスとして提供するようなホスティングサービスの部分を伸ばしているという状況にあります。

さくらインターネットグループ

最近はプロフェッショナルサービスを提供していくため、クラウドの基盤に加えて、そのクラウドを使うために人手がどうしても必要になってきます。多重請負ではなくて、それを直接自社のグループ内で行えるような体制をつくっています。

具体的に(説明します)。Purunus-Solutionsというのは、大型のGPUサーバを専門にした、いわゆる研究機関向けのスーパーコンピュータの提供会社です。

bitstarというのは、中堅中小のIT企業さまがクラウドを扱いやすくなるためのサービスを提供している会社です。

あとGEHIRNです。最近「特務機関NERV防災アプリ」というアプリをリリースした会社なのですが、こちらは防災、セキュリティ、世の中を安全にするというサービスを、インターネットを使って国民生活に近いところで展開する会社です。

アイティーエムは完全に運用・保守の会社で、例えば最近上場されたサーバーワークスさまに近いサービスを提供しています。

S2i、櫻花移動電信有限公司に関しては飛ばします。IZUMOBASEというのはストレージの会社です。データをいかに蓄積していくかということが最近のキーワードになってくるのですが、データを保存するためのソフトウェアは、実はほとんどがアメリカで開発されています。

とはいえ、日本でストレージをいちからソフトウェアで開発していこうというプロジェクトを行っていた日本の東大発ベンチャーのIZUMOBASEが去年グループに入り、一緒に開発しているというところです。

サーバーを中心にしつつ、それをサービスとして提供し、お客さまにとって人手が必要な部分に関してはソリューションとして提供する、それがさくらインターネットグループです。

既存事業の市場環境

市場環境を申し上げますと、国内のデータセンター専用事業者においては、CAGRが23.1パーセントということになります。

当社の売上の成長率も2割前後ですので、おおむねCAGRどおりということになります。当社独自の工夫も当然あるのですが、そもそも市場が伸びているということに助けられているということも背景にはございます。

連結売上高(四半期推移)

ではここから業績の概要について簡単にご説明します。売上に関してでこぼこがあるのは、初期費用という売上が入ることが関係しています。(当社のビジネスは)基本的にはストックビジネスで、毎月決められた料金をいただいています。

実際のお客さまだと、メールサービスだけで月80円ぐらいのお客さまもいれば、スーパーコンピュータをクラウドで借りていただいているお客さまですと、月額4,000万円ぐらいいただいたりしており、かなり大きな幅があります。

一貫して言えるのは、ほとんどの売上がストックビジネスによるということです。ただ、ストックビジネスでも、あまりにも大きなサービスの場合は、初期費用をいただかないと当然ファイナンス的にも困りますので、たまにそのような初期費用が発生するサービスが出てきた時に、ぽこんと(売上が)上がることはございます。

連結営業利益・経常利益(四半期推移)

営業利益に関しては、投資期であり、人の採用を強化しているため、一時期は減っていたのですが、最近に関しては少し回復傾向にございます。

ただ、私のこの1、2年の方針でいきますと、利益は当然重視しつつも、よい人材をいかに確保していくかということ(を考えています)。あとは、非常に伸びている分野ですので、設備投資をいかにしていくかということは重視しています。一定の利益は確保しながらも、成長性と人材確保に注力したいということがございます。

サービス別売上高推移

結果としては先ほどのとおりなのですが、サービス別に見ていただくと、クラウドが中心に伸びているものの、「専用サーバ(高火力コンピューティング)」と呼ばれるAI向けのGPU提供も伸びてきている状況にあります。

顧客状況

売上構成比です。このグラフを見ていただくと、当社がロングテールとショートヘッドの両方を持っている会社だということがおわかりいただけるかと思います。当然月額1,000万円以上のお客さまもたくさんおられるのですが、実は月々10万円までの会社さまが39パーセントいらっしゃいます。

当社は定価販売を心がけていまして、その背景には価格競争になってしまったら利益が減ってしまうということがあります。もちろん固定費がかかる会社ですので、ある一定の売上にいくまでは非常に厳しいのですが、どちらかというと小口の、例えば月々500円のお客さまが突然値切ってきたりということはしないわけです。ただ、月々500万円、5,000万円のお客さまからは、当然値切られてしまうわけです。

なので、大口の顧客は大胆に大きな投資をしていくためには当然重要なのですが、経営の安定性という観点では、解約されたとしても一気に影響が出ず、定価で買っていただいて、一律のサービスが提供しやすい小口のお客さまも重視しています。

株主還元

次に株主還元です。当社は設備投資のフェーズにあるものの、配当については安定して継続したいと考えています。分割はしたものの、2015年3月期に一度増配しているのですが、それから一貫して2.5円ということで、同じ額を提供しています。ここまでが決算等の概況です。

主要国の名目GDP推移

では、当社自身がどういうところをビジネスチャンスとして見ているのか、中期的な話をさせていただければと思います。

GDPで見ていただくと日本は横ばいですが、1989年の状況で見ていただくと、多くの日本企業が、世界の時価総額ランキングのトップに入っていた時代があります。

1989年の世界の時価総額ランキング

(世界の時価総額ランキングに)15社の日本企業が載っていたという時代があるのですが、第三次産業革命、いわゆるIT革命を経て、IT銘柄にどんどん入れ替わっていることはみなさまもご存知のとおりだと思います。

2019年の世界の時価総額ランキング

実際のところこのランキングは少し古く、現在はAmazonさまがトップになっています。これは8月時点のもので、Microsoftさまのほうが上になっていますね。極めて入れ替わりが激しいのですが、ここで1つ申し上げたいのは、IT銘柄がどんどん膨らんでいるということだけではなくて、トップが変わったということです。

実は、長い間Appleさまが時価総額トップでした。スマホをベースにこの10年間すごい勢いでAppleさまは伸びて、時価総額が世界1位になったわけですが、2018年の11月から12月頃にMicrosoftさまに入れ替わり、そのあとAmazonさまに入れ替わりました。

そして世界一の企業はAmazonさまになったわけです。もちろんECに強いという観点はありますが、やはりクラウド銘柄が時価総額を上げているという言い方もできますし、プラットフォーマー(の時価総額)が上がっているということも言えます。

実はMicrosoftさま、Amazonさま、Googleさまは、3社とも非常に強いクラウドプラットフォーマーになりつつあります。(時価総額トップが)このような会社さまに入れ替わっているということ自体が、大きな市場環境の変化だと当社はとらえています。

ITは「あると便利」から「不可欠」なものへ①

とはいえ、以前の日本は非常にITに強い国でした。例えば通信機器の輸出に関しては、輸入よりもずいぶん多かった時代があります。それは1980年代までです。現在、通信機器は完全に輸入過剰になっています。スマホ、ルーターを筆頭にほとんどの通信機器は日本でつくられておらず、輸入しているという状況です。

第1のプラットフォームと書かれている1990年代ぐらいまで、日本がパソコンや半導体を大量につくり、ものづくりでITに対応していた時代がございます。

Intelという会社がございます。実はIntelさまは1980年代に、メモリ市場から撤退するという判断を下しています。Inteさまlの売上のなかでメモリは売上の半分以上を占めていましたが、完全に日本の半導体企業に脅かされていたということです。(日本の半導体企業の)トップはNECさまだったのですが、そのような会社さまに脅かされ、もうメモリ市場では戦っていけないということで、(Intelが)ソフトウェアを中心にしたCPUに転換されたのが1984年の頃です。

それぐらい日本企業は強かったのですが、インターネットが発達して世界が変わったことはみなさまもご存知のとおりだと思います。この時期にGoogleさまは世界一を目指すわけですが、世の中うまくはいかないもので、突然スマホが出てきました。そのようななかで、AppleさまがGoogleさまを抜いていくという事件がここ10年で発生したわけです。

ただ、これからの時代は、実は第四次産業革命だといわれています。AI、IoTなどにより、今までネットのなかだけで完結していたものがリアルと繋がっていく時代に変わっています。

別の言い方をすると、以下のようになります。昔にはいわゆるWebの時代がありました。この時代は、Googleで検索して、その検索結果をもとにWebサーフィンをするという時代です。その時代には過去の情報を検索できていたわけなのですが、今はアプリの時代になり、ソーシャルネットワークの時代になって、今を検索できるようになっています。

例えばTwitterは今を検索するといわれています。青山一丁目駅で今何が起こっているかというのは、Googleで検索しても出ませんが、Twitterで検索すれば出てくるわけです。

そして、これからの時代、第3のプラットフォームのその先、第四次産業革命が起こると、未来を見とおす時代になってくるだろうと言われています。

どういうことかというと、コンピュータの上に世の中のすべてのデータを乗せ、それを巨大なコンピューティングリソースで解析して、未来を探しにいく、未来予測が広がっています。

今までだと台風ぐらいしか予測できませんでしたし、予測できる台風も2日ぐらい先の進路しかわかりませんでしたが、最近は3日後、5日後、10日後、業界によっては1年後のトレンドを推測できるようになっています。

当社でも衛星データのプラットフォームを提供していますが、例えば今はただ撮影しているだけの人工衛星の画像データを解析することで、「どこで穀物が不作になるようだ」ということが予測できて、「それなら3ヶ月後の船は余るのではないか」「そうすると6ヶ月後の穀物価格が上がるのではないか」などのような予測までたち、サプライチェーンを最適化をするなかで、儲ける人が出始めています。

データを大量に集めて、それぞれの専門性を活かして解析して、その解析をするための高速なハードウェア、サーバを用意する、これが1つのこれからの時代のキーワードになってくるだろうと思っています。そのなかにおいて、コンピューティングプラットフォームとしてビジネスを展開するというのが当社のビジョンです。

ITは「あると便利」から「不可欠」なものへ②

ぜひみなさまに強く申し上げたいのが、「現代はオンライン前提社会に変わった」という部分です。例えば「suica」などはオフラインで使えるようになっています。コピーされないようにして、残高を改ざんされないようにした専用のハードウェアをみなさまお持ちだと思います。

「suica」や「PASMO」という名前で使われている交通系ICカードですが、今までの時代はオンラインではなくてオフラインが前提だったので、改札機は常にクラウドに繋がっているわけではなくて、基本的にスタンドアローンで動いていて、カードと自動改札機の間だけで決済を行うという仕組みになっています。

ここで「PayPay」を想像いただきたいのですが、バーコードは偽造されてしまいます。ただ、(PayPayでは)一回一回モバイルネットワークを経由して、クラウドに照会しています。そのため、(バーコードが)コピーされたとしても、おおもとのデータを改ざんすることができなければ、結果としてコピーはできないということになります。この大きな差は、オフライン前提かオンライン前提かというところです。

当社にとってのもう1つのビジネスチャンスは、オンライン前提社会にあると考えています。これまでは、クラウドがなくてもなんとかなる世界でした。しかし、例えば飛行機を想像いただくとわかるのですが、最近の飛行機(のチケット)はQRコードになっています。

自動改札機を通る時に、一回一回クラウドサーバに照会しています。オンライン状態が途絶えることで照会ができなくなり、例えば飛行機の搭乗手続きが止まってしまうなどといったことが起こりかねません。

(オンライン前提とオフライン前提)どちらの未来を選ぶかということですが、大きな潮流としては、クラウドサーバに一回一回照会して、クラウドが止まらないようにマルチクラウドを展開していき、モバイルネットワークを5G等で強化していくという方向に動いています。

そうなってくるとクラウドがますます必要不可欠になっていき、データセンターはデータの集積場所として必要不可欠であるということが当社の背景にあります。このあたりについては先ほどご説明したとおり、いろいろなキーワードが出てきています。

IoTやAIを使ってデータを収集することだけがポイントではなく、そのデータを解析することによって新たな価値を生んでいくということが非常に重要だと考えています。

以上を軸に、当社がどういった取り組みをしていくのかということをご説明します。

まずは当然のことながら、CAGRが高い分野でビジネスをするというのは当然です。幸い、我々の業界は伸びています。ただ、IT業界全体でいうと、例えばガラケーの市場などはすごい勢いで下がっています。なので、IT業界のなかでもどこを選択するかということは非常に重要であり、当社としては、キーワードはデータ、AI、そしてIoTだと考えています。

データ流通市場への取り組み

実際、データという観点では、先ほど申し上げたように衛星データのプラットフォーム「Tellus(テルース)」をつくっています。これは国のプロジェクトなのですが、当社が受託して、開発し、ユーザーを集めています。

具体的に説明致します。現在、国が持っている衛星データはほとんど民間利用されずに、世の中に大量に存在します。それを無料でみなさまに提供して、いろいろなかたちで解析するためのプラットフォームです。

データ流通市場への取り組み 直近の取り組み

衛星データというと、画像だけだと思われるかと思うのですが、例えば電波、超音波、赤外線など、衛星にはいろいろなセンサがついています。それを分析し、例えば雪質についての情報がわかればスキー場にフィードバックできますし、穀物の出来についての分析というのもあります。

最近Googleマップがゼンリンさまとの提携を解除して騒ぎになりましたが、Googleさまはデータをもとにして完全に自動で地図を生成しています。これは世界中でトレンドになっていて、衛星の画像をもとに地図をつくるといった自動化がどんどん進んでいます。

このようななかで、データを大量に公開するためのデータプラットフォーム、コンピューティング環境を当社が提供し、最終的にコンピューティング環境によって当社が儲けていく、というようなビジネスを始めようとしています。

あとは、IoT等に関しても注力しています。

働きやすい環境づくり

あともう1つ、リソース活用ということがあります。これは働きやすい環境づくり、人の確保や、環境、お客さまの成功に関する分野です。

最近でいいますと、当社は働き方の見直しを進めています。一時期は20パーセントほど離職率があったのですが、最近は3パーセント程度となり、IT業界では群を抜いて離職率が低い会社になりました。

そのために(行ったことは)、例えば柔軟性を高め、副業の可否を全面的に見直し、リモートワークも全面的に認めていくなどして、辞める理由をなくすことが1つです。もう1つは、伸びている市場のなかで、お客さまも伸びて、自分自身のスキルも伸びていくと、仕事のやりがいも出てくるということがあります。なので、当社は働きやすさと働きがいの両立を進めています。

もう1つがデータセンターです。当社のキーワードの1つに余白というものがありますが、やはり日本の社会はこの20年、30年間、無駄を削るということに慣れすぎたと思っています。当社では、空間的にも時間的にも人員的にも、余白をつくるということを実践しています。

例えば、1日に100パーセントの仕事をこなしていると、新規の案件が来たら残業して対応するしかなくなってしまいます。そして、そもそも残業していたとしたら、さらに残業して(新規の案件に)対応するしかなくなります。そのように、時間的に余裕がないことで、新たな案件が回らないという現場を多く見られているのではないかと思います。

渋滞も、車間距離があると起こらなくて、車間距離がなくてブレーキをかけるから渋滞が起こるということがあります。余白を削ると、小さな範囲では最適化できたように見えるのですが、全体としては最適化されないという問題があります。

石狩データセンター

もう1つがデータセンターです。データセンターについて、他社さまは稼働率にことさらこだわるのですが、当社は稼働率はほとんど気にしていません。ただ、空いているスペースがコストとして負担にならないように、いかに使っていないスペースにコストがかからないようにするかということを考えています。

その1つの手段としては、東京ではなく北海道でデータセンターをつくるという手段があります。家賃が高い東京にデータセンターをつくると当然コストがかかるわけですが、北海道は坪当たり3万円、4万円と、土地の値段が非常に安い場所です。

ですので、空いているスペースのコストが十分に無視できるぐらいに小さくなるように全体で最適化しています。小さな部分で最適化するのではなくて、小さな部分に余白を設け、全体で最適化をするということが戦略の中心になってきています。

カスタマーサクセス

もう1つはカスタマーサクセスという観点です。これまでは当社も売上をいかに上げるかということに注力してきました。情緒的な話になりますが、実は現在はお客さまの成功をいかに増やしていくかということに注力するようになりました。

例えば「レンタルサーバ」というホームページ、ブログ作成のサービスがありますが、今までは申込数を非常に注目していました。

今は、お客さまが最初のホームページやブログを公開できているかというところに一番注目しています。今後に関しては、お客さまのホームページやブログのアクセスが増えると、アップグレードしていただけ、契約も長くなっていくということから、お客さまのホームページやブログにどれだけアクセスが増えているのかというところまで注力していければ(と考えています)。

サブスクリプション的に言うと、チャーン(解約)しないお客さまがストックとして積み上がっていく状況ですが、今までは申込の時点を見ていたということです。これからは申し込まれてから実際にお客さまが成功しているかどうかを見ていくように変化しています。

(解約率を下げることは)サブスクリプションとしては当たり前の手法ではあるのですが、丁寧にそこに取り組みます。新規の顧客も重要なのですが、やはり今いるお客さまがもっと成長されることが非常に重要だと考えています。

多様な働き方を支える「さぶりこ」制度

もう1つ、先ほどの人材確保の部分について、社内制度を全面的に刷新しています。

例えば、余白を作るという考え方では、定時までいるという時点で余白がゼロになっているということですので、その日の業務が終われば定時前でも帰れるようにしています。「さぶりこショート30」という制度で、定時より30分は早く帰れるのですが、仕事が終わったらさっさと帰る、仕事があったら残業するという方針です。

驚かれることとして、残業してはいけないとはあまり言わないですし、有給も取れとはあまり言わないのですが、このような制度に加えてもう1つ「さぶりこタイムマネジメント」として、20時間分の残業代を前払いしています。

20時間以上仕事をすると、当然それよりもプラスして残業代が払われるのですが、20時間を切ったとしても、残業代が減らないという制度になっています。

というのも、残業を減らした分収入が減るということになると、逆インセンティブになってしまうという考えを持っています。そのため、残業時間を短くすると、自分の時給が上がっていくという制度になっています。

最近、1週間休むと3万円もらえる会社が話題になっていましたが、当社は10年ほど前から、1週間以上前に2日以上の有給休暇を申請すれば1日当たり5,000円支給されるという制度があります。

1週間休むと25,000円のお金が入るわけですが、そのようにインセンティブを丁寧に設計しています。そのため、有給をとれということは言わなくとも、八十数パーセントの有給取得率になっています。

ただ、困ったことに、有給を強制しないため、(有給取得が)ゼロの人もいます。最低5日は取ってもらわないといけない時代になりましたが、基本的に強制はせず、残業時間が短くなって、有給休暇を取るほうに誘導しています。仕事をしたい人は仕事をしたらいいと思うので、そのようなかたちにしています。

そのように社員の満足度を上げ、お客さまの満足度を上げていくというのが、中期的に非常に重要な取り組みだと思っています。

CSRへの取り組み

加えて、CSRに対して取り組んでいます。これは別に社会に対してアピールするというものではなく、社会との繋がりのなかで、当社自身が学びを得るということが重要だと思っています。

やはり(社員が)会社だけで成長するのではなく、社会との繋がりのなかで成長するということで、そのような取り組みを推奨しているという現状です。

まとめますと、当社は成長する分野でビジネスをしているということです。とくにコンピューティングリソースは必ず必要になってくる時代になりました。加えて、オンライン前提の社会になっていますので、常にサーバにアクセスできる環境が必要になっています。

その上でビジネスをしていくにあたって、いかに人に定着してもらい、エンジニアを継続的にしっかりと雇用できるのか、加えて、その人たちが成長できる環境をいかにつくっていくのか、そして最終的にはお客さまも会社も社員も成長していくというのが、当社のストーリーです。

坂本慎太郎氏より質問

八木ひとみ氏:ありがとうございました。では質疑応答の時間に移りたいと思います。まずは坂本さん、お願いします。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):ご説明ありがとうございました。本日は、今後成長していく上での、人材に対しての手厚い施策や取り組みをおうかがいしました。このような話をとくに社長から聞けたため、今後の方針等々はみなさまも理解できたのかなと思っています。

確かに、今後は研究開発も当然必要になりますし、御社のような業態においては、やはり人がすべてかと思います。そのなかでも、能力の高い人をいかに囲うかというところがポイントだと思うので、そのへんの考えをおうかがいできたのはよかったと思っています。

そしてご質問なのですが、データセンターを自社でお持ちだという話の意味合いについておうかがいしたいです。実際に、米国大手がデータセンターに対して積極的に設備投資しているのですが、御社が国内にこだわる理由についてお聞きしたいです。

そのなかでも、石狩のデータセンターの資料があったりしますが、サーバはけっこう熱が出るので、それを自然の吸気で冷やすと電力の削減になるという説明もあり、こだわりもお見受けできます。これらのデータセンターを国内で整備される理由をおうかがいしたいと思います。よろしくお願いします。

田中:実は当社はとくに国内にこだわりがあるというわけではなくて、別に海外でも一向に構いません。最近はとくに電気代が安い地域にデータセンターをつくることを検討しているのですが、お客さまがデータの移動についてかなりセンシティブになられているということが最近の背景にあります。

以前は当社も中国にデータセンターを置いていましたし、アメリカにもございました。最近ですと、日本のお客さまから日本のデータセンターで処理をしたいと言われることが非常に増えていますし、データの保護主義が非常に進んでいます。

当社自身も「安いので海外にデータセンターを」ということを一時期は検討したものの、海外のお客さまをとるのでなければ難しいだろうと思っています。

当社としては、データセンターを海外に設営するよりも先に、海外のお客さまを開拓していまして、とくに東南アジアを中心に、VPSやホスティングサービスの提供を広げ始めているところです。

坂本:ではもう1問お願いします。先ほど、衛星の話を含めて宇宙事業のお話があり、今後の計画として、イメージでは(衛星によるデータは)いろいろなことに使えるとおうかがいしたのですが、収益性についての計画を教えていただけたらと思います。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。今は定量的なところについてはお話しできないので定性的な部分になりますが、まず本事業は3年間は国の事業で、4年目から民営化する、という計画になっています。

4年目以降は国の事業から民間移管しますので、この事業自体を自立させていかなければなりません。どの事業者が引き継ぐかは、今後決まることですが、仮にさくらが事業を引き継ぐとすると、自立化に向けて、やはり厳しい状況はあるかと思うのですが、だいたい5年から6年で黒字化することを想定しています。

その背景にあるのは、1つはサブスクリプションです。というのも、衛星のデータをただで使い放題ということになれば、使いたい方は当然非常にたくさんおられます。

Googleマップで衛星情報は見られますが、写真しか見られないのです。なので、赤外線、近紫外線などを駆使した衛星(データには需要があります)。

加えていうと、日本の衛星はすごく性能がいいのです。それこそ車が駐車場に何台止まっているのかということすらわかります。ですので、個人向のプラン、法人向けのプランで、サブスクリプションをいかに確立していくかというのが1つのキーワードになってくるかと思います。

あともう1つ、当社が非常にビジネスチャンスだと感じているのが、衛星を打上げようとしている人が現在非常に増えているということです。

ただ、衛星を上げる人の一番の悩みは、どのようにマネタイズするかということです。衛星を上げて、どのような情報があればお客さまが買ってくれるのか、また、どうやって買ってもらうかというのが非常に高いハードルになっています。

「Tellus(テルース)」というプラットフォームは、すでに11,000人ほどのユーザーさまに登録していただいているのですが、衛星情報を使う準備ができている方がおられて、その方のニーズがすでに毎日サポートにやってきます。

「このような情報はとれないのか」ということを、衛星を開発している方にフィードバックし、そのような意見をベースにして衛星を開発していただき、衛星が打ち上がったら当社のプラットフォームにデータをフィードしていただいて、利用者がその情報を使うとマージンが当社に入り、お金が衛星開発会社さまに入る、というようなエコシステムを想定しています。

このようなシステムが6年、7年後に構築されるだろうと想定していまして、その時はサブスクリプションとプラットフォームとしての仲介手数料の両方が収益源になると考えています。

質疑応答:ホスティングサービスにおける独自の強み

質問者1:今貴社のベースとなっているレンタルサーバサービスについて、ホスティングサービスを強くしていこうという考えのように思えたのですが、ホスティングサービス自体は14ページに載っているように他のSIベンダーさまや通信業者さまも手がけていると思うので、貴社の強みというのがあったら教えてほしいです。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。まず、ホスティングについてはいくつか(種類が)あります。レンタルサーバのようなものもあれば、「さくらのクラウド」という「Amazon EC2」のようなサービスもあり、国内の他事業者さまとの一番大きな差は、オープンソースベースにすべて自社開発しているというところです。

SIerさまの場合は、VMware、Pleskなどといった基盤となる海外のソフトを買ってきて、1ユーザー当たりライセンスをお支払いになっており、その代わり専門性を持ったエンジニアを自社に抱えなくて済むというビジネス形態です。

当社は専門性のある人材を抱えていて、固定費はかかるのですが、その分お客さまに定価で大量に販売していくということで、お客さまにお売りすればするほど開発費が低減していくという、いわゆるSaaSサービス的なつくり方をしています。

実はそこが一番大きな差別化要因になっていて、お客さまにとってのベネフィットとしては、より安く提供されるということがあります。また、VMware等の既存のソフトウェアだと画一化した機能しかないのですが、当社は独自機能を自社で開発できるため、使いやすさも高められるというメリットもあって、ユーザー様に選んでいただいているという状況です。

質問者1:なるほど。そうなると、AWSに近い感じになってくるのですかね。

田中:実は「Amazon EC2」と比較すると非常に近いものになってしまっていて、当社としても非常に苦しい戦いをしています。

ただ、Amazonさまはサーバレスのほうに進んでいて、わざわざVM(ヴァーチャルマシン)を使わなくても、サービスの組み合わせだけで簡単にITサービスがつくれるということを推進されています。Googleさまもまさしくそのような方向に進んでいます。

実は世界は二分していて、そのようにITサービスをつくりたいという方もおられますし、一方で単にシンプルで安くて使いやすいサーバが必要だという需要もかなり多くございます。

そのため、当社としては、大きな流れであるサーバレスではなく、サーバ自体を安定稼働して使いたいというお客さまをターゲティングしていて、ニッチトップ的な考え方でビジネスを展開しているという差別化の背景がございます。

質問者1:要は競うことなく、自社で独立していこうという考え方なのですよね?

田中:はい、おっしゃるとおりです。すぐ1兆円の売上に到達するかというと難しいのですが、市場性を考えると1,000億円ならば当然目指せる、という規模感で考えています。

質疑応答:データセンターのメンテナンスと運用区分について

質問者2:本日はご説明ありがとうございました。

データセンターについて少しお聞きしたいのですが、石狩のデータセンターはもちろん新しいので問題ないと思うのですが、古いデータセンターは、更新にお金が一気にかかるようなことはなくて、定期的に少しずつ直していく程度で済むのでしょうか。

また、石狩のデータセンターとほかのデータセンターとの運用の割合についてです。例えば株の世界ですと、超高速取引のため少しでも距離が近いところにサーバがあったほうがいいということで東京にもサーバがあると思うのですが、そのように、東京のサーバと石狩データセンターのサーバの運用の分け方についての考え方をお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。まずはデータセンターのリノベーションについて、おっしゃるとおり、データセンターはだいたい10年から15年でリノベーションを行う必要がございます。実はそれがデータセンター業界の課題になっているのですが、当社はリノベーションを定期的に行っていまして、15年よりも古いデータセンターはもうすでに存在しない状況になっています。

当然、最新のデータセンターのほうが熱効率もよく、エネルギー効率もよくなってきていますので、当社としては、こまめに常にリノベーションしています。

実は東京のデータセンターに関しても、西新宿にあるデータセンターのリノベーションをし始めています。下期に少し利益的に弱含みになっているのは、データセンターリノベーションが背景にあります。定期的に、利益を大幅に毀損せず、加えて(設備が)陳腐化しないようにバランスをとりながら、リノベーションを行っています。

データセンターのバランスなのですが、実は時期によってずいぶんと思想が変わってきました。2011年に石狩データセンターをつくった頃は、クラウドが普及すれば東京や大阪にデータセンターがなくてもいいのではないかと考えて、北海道に非常に注力していましたが、残念ながらGAFAを中心とした最近のいわゆる大型のクラウドは、東京、大阪というリージョンに集中しています。

それはなぜかというと、SIerさまもユーザー企業も、東京と大阪に集中しているということもあるのですが、加えて、1つのクラウドだけを使うとトラブルがあったときに困るということでマルチクラウド化が進んできているということも影響しています。

そうなると、東京にあるクラウドは東京にある別の会社のクラウドと繋がないと、レイテンシーと呼ばれる遅延が発生してしまいます。心理的な障壁もあり、実際にレイテンシーの問題もあるので、実はクラウドは東京や大阪に戻ってきてしまっています。

当社でもクラウド型データセンターとして石狩のデータセンターをつくったものの、最近はやはり東京を中心にクラウドの強化をしています。

そうなると、石狩はどうなるのかという話をすることになるのですが、幸い、AIブーム、ディープラーニングブームが到来して、大量の熱を発生させるGPUを使ったコンピュータを、本当にたくさんの人が必要としているというのが現状です。そのため、石狩データセンターは、クラウド型データセンターの比率を下げつつ、AI向けのデータセンターとして維持しています。

ただ、5年後を考えると、環境負荷的な観点からもGPUのように大量に熱を発生させながらのコンピューティングが続くわけがないと思っているので、今は石狩のデータセンターへの投資よりは東京のデータセンターのリノベーションに舵を切り始めているというのが当社の現状です。