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2026年6月にNASDAQ上場を果たしたスペースX。マネックス証券の岡元兵八郎氏が、史上最大規模のIPOとなった同社の強みを「スターリンク」の成長、宇宙AIデータセンター構想、テスラとの連携可能性などから解説。長期投資で注目される理由とリスクを整理しました。3記事に分けてお届けします。(※2026年6月15日収録のマネックスオンデマンドYouTube動画に基づく内容です)

【前編はこちら】
スペースXの魅力とは?史上最大IPOで注目される衛星通信ビジネスの実力【前編】

【中編はこちら】
スペースXはなぜ今、上場したのか?AI・ロボット時代の通信需要とテスラ連携の可能性【中編】

14.イーロン・マスクの目標は達成可能なのか

岡元兵八郎氏:では、イーロン・マスク氏の目標は達成可能なのでしょうか? みなさまの中には「本当にそんなことできるのか?」と考えている方も多いと思います。私は、今までお話ししたようなことがすべて予定どおり起きると考える必要はないのではないかと思っています。

まず、イーロン・マスク氏の計画はたいてい遅れます。しかし、完全に絵空事として無視するのも危険です。テスラの時もそうでしたが、スペースXは過去に不可能だと言われたことを何度も現実的なものにしてきています。例として、再利用ロケットも達成済みです。「スターリンク」も加入者数は1,000万人を超え、キャッシュフローの黒字化の段階にも来ています。

次の課題は、「スターシップ」を完全再利用に近づけ、打ち上げコストを現在の1キログラムあたり1,000ドルから、将来的に100ドル未満に低減させることです。宇宙データセンター構想を含め、今後の実現には不確定な要素も多いため、イーロン・マスク氏の最終目的を100パーセント信じ切る必要はないと思います。

ただ、「スターリンク V3」や「スターシップ」、宇宙データセンターの計画のうち、いくつかが実現するだけでも、スペースXの企業価値は大きく変わってきます。時間をかけてでもそのような進化は着実に進行していくと思います。

15.競合環境:ブルーオリジンの事故が示したスペースXの優位性

競合の動向も大切です。Amazonの設立者であるジェフ・ベゾス氏が率いるブルーオリジンの大型ロケット「ニュー・グレン」は、2026年5月28日にフロリダの発射台で行われた、エンジンに実際に点火する地上の試験である「ホットファイア試験」中に爆発しました。この事故は、結果としてスペースXの優位性を示しました。

幸い怪我人は出ませんでしたが、この失敗はかなり大きく影響します。イーロン・マスク氏は「ロケットの失敗は仕方ないが、発射台で失敗だけは絶対に避けなければならない」と指摘しています。発射台が爆発により破損してしまうと、打ち上げ自体ができなくなるためです。今回、発射台で爆発事故が起きたことで、ブルーオリジンは今後1年間打ち上げ不能になると言われています。これは同社にとって非常に痛手です。

さらに、NASAは今回の事故の直前、ブルーオリジンと月面車のビジネスで約4億7,000万ドル(約750億円)規模の契約を締結したばかりでした。本事故により、納入することは困難と見られます。

その一方で、スペースXは「ファルコン9」を高頻度で打ち上げ、「スターシップ」の試験も順調に重ねています。さらに、「スターリンク」という自社の衛星を大量に打ち上げるという独自の需要を持っているのです。

つまり、外部の顧客からの注文を待つことなく、自社のネットワーク拡大のためにロケットを打ち上げ続けることができる垂直統合こそが、競合他社との決定的な差を生むスペースXの強みであると言えます。

16.株価を動かす短期材料:指数・オプション・ロックアップ

株価を動かす短期的な需給について見ていきます。スペースXの株は、しばらくボラティリティが高く取引が続くと予想します。理由は、指数への組み入れ、オプションの取引、ロックアップ解除が短期間に継続するためです。

オプションの取引については、早ければ現地時間の6月16日に始まる可能性があります。そうするとマーケットメーカー、ヘッジファンド、個人投資家が新たに参加しやすくなります。

もう1つの重要なイベントとして、スペースXの主要株価指数への組み入れが挙げられます。MSCI、ラッセル指数への組み入れは6月25日に、NASDAQへの組み入れは独立記念日の連休明けの7月6日に予定されています。連動する投資信託、ETFといったパッシブファンドによる機械的な買い注文が見込まれるため、短期的に需給の追い風になります。

もう1つポジティブな要因として、証券会社の調査の開始が挙げられます。通常、IPOから約25日後に開始されるため、6月12日に上場した場合、7月の上旬、具体的には7月8日前後に、主幹事を中心にカバレッジ開始のレポートが出る見込みです。これだけ注目されている大型IPOであることから、多くの証券会社が「買い推奨」で調査を開始する可能性が高いと考えられます。

一方で、需給面での逆風となり得るのがロックアップ解除です。ロックアップ解除とは、株主であるスペースXの社員や初期の投資家が保有していた制限付株式の売却が可能になるもので、今年の夏から秋にかけて市場での売り圧力となる可能性があります。そのため、今後の需給動向には十分な注意が必要です。

17.予測市場と個人投資家の熱狂

また、米国の市場参加者が注目する「予測市場」の動きも興味深いです。例えば、「スペースXは7月前までにIPOを行うか?」という取引が半年前に100ドルで開始され、最終的に1,100ドルまで上昇しました。

他にも、イーロン・マスク氏の資産規模や火星着陸の可否、OpenAIのIPO時期等、さまざまな関連テーマが取引されています。今回のスペースXのIPOは、単なる株式市場のトピックにとどまらず、いろいろな側面から注目を集めたビッグイベントだったと言えます。

18.リスク

これまではポジティブな側面の話をしてきましたが、投資に伴うリスクについてもお話しします。

1つ目は、通常の尺度で測った場合のバリュエーションが極めて高い点です。売上高倍率で見ると、既存の優良のテクノロジー企業とは比較にならない水準です。

2つ目は、「スターシップ」、AIデータセンター、M&A関連への巨額投資に伴う赤字リスクです。

3つ目は、「スターシップ」完全再利用の実行リスクです。

4つ目は、宇宙AIデータセンターの運用リスクです。放射線、冷却用ラジエーター、チップの耐久性、保守、軌道上の安全性など、さまざまな問題をクリアしていかなければなりません。

5つ目は、GPU、TPU、メモリ、パッケージングなどの半導体の調整、自社開発(Terafab構想)も簡単に実行できるものではないという点です。

6つ目は、規制および安全保障のリスクです。特に国防関連契約は、各国の政府の判断に左右されます。

7つ目は、イーロン・マスク氏個人への過度な依存とガバナンス体制の課題です。

8つ目は、テスラ、xAI、スペースX間での複雑な事業連携に伴うリスクです。

9つ目は、需給バランスの悪化リスクです。ロックアップ解除や指数採用後の買い需要一巡などが懸念されます。夢が大きく期待値の高い会社であるため、失望した時の株価の調整も同様に大きい可能性があります。

イーロン・マスク氏の発言、打ち上げの試験、政府契約、規制当局の判断等、多様なイベント要因で株価は大きく変動する可能性があるため、常に冷静な注視が必要です。

19.それでも、なぜ多くの投資家が魅了されるのか

それでも、なぜ多くの投資家が魅了されるのでしょうか? それは、スペースXの価値が売上高やEPS(1株当たり利益)といった従来の財務指標では説明しきれないためです。「来期のEPSが何パーセント成長するのか?」といった基準で判断すべき銘柄ではないということです。

「スターシップ」や「スターリンク V3」、ダイレクト・トゥ・セル、宇宙AIデータセンター等、さまざまなビジネスを展開しようとしているスペースXへの投資は、いわば「夢への投資」です。

通常の銘柄分析では1つの事業の売上、利益率、成長率をチェックしますが、スペースXの場合は、これまで誰も行ったことのない複数の巨大テーマが相互に補強し合います。例えば打ち上げコストの低減で「スターリンク」が競争力を高め、通信網の拡大がAIとロボットの用途を広げ、AI計算需要が増えるほど宇宙AIデータセンターが重要性を高めます。

このようなビジネスエコシステムの連鎖も、投資家を惹きつける要因だと思います。

20.スペースXへの投資の仕方:時間を分散する

スペースXへの投資方法について、大切なのは時間を分散することだと考えています。

短期的な視点では、オプション取引の開始や主要指数への組み入れ、証券会社の銘柄調査開始、ロックアップ解禁等が、長期的な視点では決算発表が株価を動かす重要なポイントとなります。スペースXに投資をするということは、イーロン・マスク氏のビジョンそのものに投資をすることになるため、投資期間も5年から10年、場合によっては20年と長期視点を持つことになると思います。

先日、米国のテレビで、「スペースXをどのくらい保有するのですか?」という質問に対し、個人投資家が「もちろん自分も投資家として持ち続けるが、自分の孫に渡すくらい長期間保有するつもりだ」と語っていました。私も長期で持つべき銘柄だと予想しています。

もちろん、ロックアップ解除前後は、需給悪化から一時的に株価が弱含む局面も予想されますが、株に投資するタイミングを狙うのは非常に困難です。私がいつもお話ししている、長年の経験から来た結論です。そのため、スペースXの株式投資を検討する方は、「まずは一部を購入し、残りはドルコスト平均法で継続して買い続ける」というスタンスが現実的です。

また、ポートフォリオにおける位置づけも、通常の銘柄とは少し分けて考えるべきだと思います。グロースストックでも自分のポートフォリオの中で「未来成長枠」として別枠を設け、長期保有する投資対象とすることをおすすめします。

繰り返しになりますが、スペースXへの投資基準は「イーロン・マスク氏とスペースXの描く10年単位のビジョンを信じられるか?」に尽きると思います。

21.今回のセミナーのポイント

今回のセミナーのまとめをお話しします。今回のIPOは、その規模や個人投資家の参加比率の観点から、資本市場の歴史に残るビッグイベントでした。スペースXは単なるロケット会社ではなく、宇宙輸送、通信、AI計算、半導体、エネルギーを統合する「宇宙版AWS」とも呼ぶべきプラットフォーマーへと進化していくでしょう。

短期的には、ポジティブな要因としてオプション取引開始および主要株価指数(MSCI、NASDAQ100、ラッセル指数)への組み入れがあります。また、ネガティブな要因としてロックアップ解除に伴う売り圧力と需給の変動があります。

中長期的には「スターリンク V3」、ダイレクト・トゥ・セル、「スターシップ」、宇宙AIデータセンター、宇宙用のGPU、月面のインフラ等が今後の成長を牽引します。テスラとの事業シナジーや将来的な統合の可能性も含め、非常に興味深い成長ストーリーが期待されます。

夢は大きいものの、バリュエーション、赤字リスク、エクセキューションリスク(実行リスク)、ガバナンスリスクが存在することも忘れないようにしましょう。一括での購入は避け、「未来成長枠」として時間をかけて投資を行うのが良いと思います。

今回はスペースXについてお話ししてきました。スペースXの株式投資のお役に立てれば幸いです。ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

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