今更聞けないSpaceXの魅力とは?ハッチがその将来性を緊急解説!
スペースXはなぜ今、上場したのか?AI・ロボット時代の通信需要とテスラ連携の可能性【中編】
2026年6月にNASDAQ上場を果たしたスペースX。マネックス証券の岡元兵八郎氏が、史上最大規模のIPOとなった同社の強みを「スターリンク」の成長、宇宙AIデータセンター構想、テスラとの連携可能性などから解説。長期投資で注目される理由とリスクを整理しました。3記事に分けてお届けします。(※2026年6月15日収録のマネックスオンデマンドYouTube動画に基づく内容です)
8.スペースXはなぜ、今、上場したのか

岡元兵八郎氏:スペースXは長く上場しなくても事業を拡大してきました。お金は不要であったためです。スペースXはなぜ今回、上場したのでしょうか? 答えは、新しい成長フェーズに入るためです。
スペースXの設備投資額は急激に拡大しています。2025年のスペースXの設備投資額(CAPEX)は207億ドルで、約3.31兆円を記録しましたが、2026年は第1四半期の3ヶ月間だけで、その半分の101億ドルを投じています。
なぜそのような大金が使われるのでしょうか? 現在、「スターリンク」は1万機を超える衛星が稼働してると言われています。イーロン・マスク氏は今後通信の目的だけでも10万機以上の衛星を軌道上に打ち上げることを目標としており、お金が必要です。
特に重要なのが、今開発中の「スターリンク V3」は、現在稼働している「スターリンク V2」の10倍から20倍の能力を持っていると言われていることです。加えて、スペースXが独自に設計した3つのチップによって「スターリンク」全体の帯域を現在比100倍にする構想です。また、その高度を下げることで遅延もおよそ半分にすることができると言われています。
「スターリンク V1」は宇宙と地球がつなげられるという証明をし、「スターリンク V2」は商業サービスの拡大を行い、現在研究している「スターリンク V3」はスペースXを地球規模の通信インフラへ進化させようとしていると言えます。
「スターリンク V3」を本格的に打ち上げるには、既存の「ファルコン9」よりも大型の「スターシップ」が必要なのです。「スターシップ」とは、スペースXが開発している超大型、完全再利用型の宇宙輸送システムのことです。簡単に言うと、地球の周回軌道や月、火星へ、人や貨物、衛星、大型設備を大量に運ぶための、次世代の宇宙トラックです。「スターシップ」だと、1回で50基程度の「スターリンク V3」衛星を運ぶことができると言われています。
衛星1機あたりの能力が上がり、同時にその打ち上げコストが下がると、通信容量あたりの原価が大きく下がります。これが「スターリンク」の利益率の改善とサービス拡張の両方につながる、とても重要なポイントです。
9.AIとロボットの時代は通信需要が桁違いになる

AIとロボットの時代は、通信需要が桁違いになると言われています。イーロン・マスク氏によると、人間が一度に処理、入力、出力できる情報量の最大値であるピーク帯域は、1秒あたり数百ビットと言われています。人間が目で見て、耳で聞いて、手で入力する情報量には限界があります。一方で、コンピューターやAIロボットの帯域は1秒あたり1兆ビット級になるとされています。
つまりAI、ロボット、自動運転、ドローン、軍事通信の時代には、通信需要が人間中心の時代と桁違いに膨らんでくるということです。地方や田舎等、本来使用できないところでインターネットが使用できるサービスなのではなく、将来のAI・機械社会を支える常時接続回線になり得るということが「スターリンク」の将来性です。
10.宇宙AIデータセンターという次の大きな構想

現在、上場で最も大きなテーマの1つが、宇宙AIデータセンターです。AIのボトルネックは半導体だけではなく、電力、冷却、土地、送電網、許認可も必要です。地上に巨大なデータセンターを作るには、非常に制約が多いのです。そこでイーロン・マスク氏が注目しているのが宇宙であるということです。宇宙では、雲や土地の制約を受けずに太陽光を直接使うことができます。
低軌道では地球の影に入ってしまう時間もありますが、大型太陽電池と蓄電池を組み合わせると、地上よりも大規模な電力を得られる可能性があります。
そこでGPUやTPU(AI計算に特化した専用の半導体)を乗せたAI衛星を「スターシップ」で打ち上げ、衛星上の太陽電池で発電して宇宙で計算させ、「スターリンク」のレーザー通信等で地上局を通して結果を地球に戻し、ロケット、発電、計算、通信をスペースXの中でつなぐという展開です。
スペースXの宇宙AIデータセンター構想は、すべてのAI計算を宇宙に移行するわけではありません。遅れが許されない、大量のデータを頻繁に出し入れする処理は地球で行い、それ以外の処理を宇宙で行う試みとなっています。
スペースXが示したTAMは約28.5兆ドルで約4,560兆円と言われており、そのうちの93パーセントがAI関連とされています。また、スペースXは2028年に初めてのAI衛星を打ち上げる計画があるという見方があります。1ギガワット級のAIの計算資源は、地上では年間150億ドル規模で収益化されると言われており、非常に大きなビジネスです。これを宇宙で実行しようというのが、彼らの持っている夢です。
GPUに関して、地上で使われているGPUを宇宙にそのまま持っていけばいいかというと、そうではありません。宇宙では放射線、温度の変化、冷却、保守の難しさがあり、イーロン・マスク氏はNVIDIAのジェンスン・フアン氏に宇宙で使える半導体、すなわち放射線や熱に強いGPUチップの開発を進めてもらっているという話があります。必要なのは宇宙仕様のGPU、放熱板、レーザー通信、太陽電池、そしてxAIのようなAIモデルです。
スペースXは、宇宙版のクラウドデータセンターのプラットフォーマーになろうと考えていることがわかると思います。
みなさまもご存知のとおり、地上ではMicrosoftやAmazon、Googleがクラウドの覇者になっています。そして、宇宙クラウドの覇者の最有力候補にスペースXが浮上してきたと言えます。
11.半導体とM&A(企業買収・合併)にもスペースXらしさが出ている

次に、スペースXのM&Aについてお話しします。スペースXは過去20年以上、基本的にM&Aをしてきませんでした。しかし、今後AIの世界では、M&Aが増える可能性があると言われています。
先ほどお話ししたエコスターの周波数資産取得やxAIとの統合、AIコーディング企業であるCursorとの提携、将来的には買収を視野に入れています。特に注目すべきは、テキサス州で進行すると言われている巨大チップの製造構想「Terafab」です。
以上から、スペースXは単に宇宙でAIを利用する企業という枠組みを超え、AIモデル、チップ、通信、輸送、電力等、AI運用に必要なすべての物理インフラを自社グループ内で垂直統合しようとしています。そのため、OpenAIやAnthropicがAIソフトを作る企業だとするならば、スペースXはAIを動かすための物理インフラを作っていく企業だということです。
12.テスラとの関係性:現在の連携と将来の合併の可能性

次に、テスラとの関係について、2つに分けてお話しします。1つ目は実際に今進んでいるテスラとの事業連携についての話で、2つ目は将来的にスペースXとテスラが合併するかもしれないという話です。
今連携している例としては、テスラのハンドル、ペダルがない2人乗りのロボタクシーである「サイバーキャブ(Cybercab)」に、「スターリンク ミニ(Starlink Mini)」が取り付けられ始めているということです。テスラの車に「スターリンク」のアンテナが付いてるということなのです。
完全自動運転には、地図のアップデート、地図の更新、車両の監視、遠隔支援、ソフトウェアの更新、事故が起きた際のデータ送信が必要になりますが、携帯電話の電波が弱いところでは「スターリンク」がバックアップ回線になり、将来的には「スターリンク」だけで上手くいく可能性もあるということです。
そして、「スターベース」と呼ばれるスペースXのテキサス拠点では、テスラのサイバートラックが数多く使われており、スペースXがテスラのサイバートラック販売の大きな買い手だったという可能性も指摘されています。これは合併ではなく、すでに現場レベルで相互利用が始まろうとしている例となります。
将来の合併について、私は非常に可能性が高いと考えています。米国の経済テレビチャンネルでのインタビューで、「スペースXとテスラはいずれ1つの会社になるのではないですか?」と聞かれたところ、スペースXのCOOのグウィン・ショットウェル氏はイエスともノーとも言わず、「そうなるとイーロン・マスクの人生が少し楽になるかもしれませんね」と答えました。当然、はっきりと言いませんが、一緒にならない理由がないような気がします。
いろいろなハードルがあるかとは思いますが、2つの会社が一緒になることは非常に理にかなっていると思います。
13.スペースX:将来的な新たな可能性

将来的にテスラ、スペースX、xAI、そしてAI半導体製造構想「Terafab」が深く連携することで、AIの開発から実行、実装、通信に至るプロセスが垂直統合された強固な体制が完成します。
xAIがAIという頭脳を作り、スペースXの宇宙AIデータセンターが計算能力を供給し、テスラが自動車および人型ロボット「Optimus(オプティマス)」を作ります。そして「スターリンク」が常時接続するイメージです。
合併には事業的なシナジーがあることもあり、可能性は非常に高いのではないかと思います。
スペースXが今後お金を稼ぎ得る新たな可能性を整理します。重要なのは、スペースXはロケット会社ではなく通信、AI計算、半導体、エネルギーを1社グループでつなぐ企業として見ることです。
ポイントは8つあります。1つ目は、「スターシップ」による打ち上げコストの低下です。キャシー・ウッド氏が率いるアーク・インベストの調査では、「ファルコン9」により、2008年以降のロケットの打ち上げコストがすでに約95パーセント下がったと見ています。
現在、コストは1キログラムあたり約1,000ドルと言われていますが、「スターシップ」が完全再利用に近づいてくると、将来的にこの1,000ドルが100ドル未満まで下がる可能性があります。そうなると、宇宙ビジネスの採算性が大きく変わってくるのです。
2つ目は、「スターリンク」が宇宙版通信キャリアになる可能性です。ダイレクト・トゥ・セルが進むと、山奥、海上、飛行機、災害地域のどこにいても、スマートフォンの回線がそのままつながる世界が見えてきます。
3つ目は、宇宙AIデータセンターです。地上の電力、冷却、送電装置が集まれば、宇宙の太陽光と「スターリンク」通信を使って宇宙でAI計算ができるとされています。スペースXの野心的な新しいフロンティアマーケットであるということです。
4つ目は、月面のインフラです。月は重力が小さいため、将来的には地球と比べて月面から資材や設備を打ち上げるほうが安くなる可能性があるということです。月からの資材の打ち上げは長期のオプションとして重要であるため、可能性は高いのではないかと思います。
ただ、これは来年の売上に関係のある話ではありません。「スターシップ」が低コストで大量輸送ができるのであれば、月は単なる探査の対象ではなく、宇宙インフラ建設の中継地点になるという発想が出てくるということです。非常におもしろいですよね。
5つ目は、ロボットと自動運転のためのグローバル通信網です。ロボット、ドローン、配送ロボット、鉱山の車両、農業機械、軍事用ロボット等が世界中で働く時代には、途切れにくい低遅延の通信が必要になります。つまり、「スターリンク」は機械すべてをつなぐインフラになる可能性があるということです。
6つ目は、防衛であり、政府向けの「スターシールド」事業です。ウクライナ戦争以降、衛星通信の重要性が劇的に高まってきました。通信、測位、ドローン運用、災害対応は、高単価かつ長期契約になりやすい領域です。プロフィタビリティの高いビジネスになるということです。
7つ目は、宇宙産業全体の資本の循環です。スペースXのIPOによって、社員や初期投資家に新たな富が生まれました。次の宇宙スタートアップの会社が出てくる可能性もあるということです。PayPalで起きたことが、宇宙領域でも生まれるかもしれません。
8つ目は、地球上の2地点間、地球で「スターシップ」を移動させるというような、いわゆるポイント・トゥ・ポイントの輸送の可能性も長い将来的にはあると見ています。
そのため、今お話ししている話はすぐに売上につながる話ではないのですが、ロケットの打ち上げコストが下がると、これまでは高すぎて難しかったことも「打ち上げコストが安くなって、次はこのようなこともできるのではないか?」と採算化するようなフェーズに変わっていきます。
スペースXは、最終的にロケットの打ち上げ、衛星事業だけでなく、宇宙を事業が行える場所として利用できるようにする仕組みづくりをしてくれると考えています。
【後編は後日公開します】


