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2026年6月にNASDAQ上場を果たしたスペースX。マネックス証券の岡元兵八郎氏が、史上最大規模のIPOとなった同社の強みを「スターリンク」の成長、宇宙AIデータセンター構想、テスラとの連携可能性などから解説。長期投資で注目される理由とリスクを整理しました。3記事に分けてお届けします。(※2026年6月15日収録のマネックスオンデマンドYouTube動画に基づく内容です)

今更聞けないSpaceXの魅力とは?ハッチがその将来性を緊急解説!

岡元兵八郎氏:みなさま、こんばんは。マネックス証券のハッチこと岡元兵八郎です。

今日(2026年6月15日)は米国とイランが戦闘終結の覚書に合意したことで、世界中で株価が大きく上昇しています。投資をしているみなさまも、ほっとされているのではないでしょうか? 現在S&P500の先物はプラス1.2パーセント、NASDAQ総合指数はほぼ2パーセントの上げとなっています。

今回は2026年6月12日にNASDAQに上場したスペースX(SpaceX)特集です。21のポイントをカバーしてお話しします。

スペースXの上場で、イーロン・マスク氏の個人資産は、なんと1.1兆ドルとなりました。1.1兆ドルはおよそ176兆円で、我々には想像できないほど大きな金額です。加えて、スペースXではおよそ4,400人の従業員が億万長者になったといいます。6月12日は、まさに「アメリカンドリーム」を見ているような1日だったと言えます。

スペースXは史上最大のIPOということで、基本的なところからあらためてお話ししていきます。

1.スペースX 史上最大のIPO

今回のIPOで調達した金額は750億ドルと、日本円でおよそ12兆円規模となっています。

世界規模で過去のIPOを見てみると、2019年のサウジアラムコの約294億ドルと比較し、2.5倍以上上回りました。米国のマーケットでは、2014年のアリババグループの約220億ドルと比較しても3倍を超える金額となり、史上最大のIPOとなりました。

スペースX社内では、今回のIPOに「プロジェクトAPEX」という社内コードネームがついていたということです。APEXとは「頂点」を意味します。この「頂点」に向けて準備を進めており、結果的に大成功だったということです。今回のIPOは少なくとも21行の投資銀行が関わったとされており、ウォール街にとっても異例の大型案件でした。

結果、この案件に関わった米国大手の投資銀行であるJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーやモルガン・スタンレーは、今回のIPOがきっかけで株価が上昇したと言われています。

2.固定価格方式という、マスク流の異例の価格設定

スペースXの株価は、1株135ドルで値決めが行われました。米国東部時間の2026年6月12日金曜日、11時45分過ぎぐらいに150ドルの初値がつき、取引が開始されています。

オープニング・クロスだけでも5,800万株が売買されたと言われており、一時は176ドルを超え、終値が160.95ドルで、IPO価格比約15パーセント高で金曜日の商いを終えています。今現在もプレマーケットで、6パーセント程度上がっています。金曜日の出来高は5億株を超えており、商いはきちんとできていました。これだけ巨大な案件としては、取引開始後の値動きも比較的スムーズだったと感じます。

マーケットで値決めを行う担当となったモルガン・スタンレーは、非常にいい仕事をしたと思います。私は1987年からIPOのプライシング等を見てきましたが、中にはプライシングエージェントである証券会社が失敗して上手くいかなかったケースもありました。これだけ大きな案件を上手く扱うのはすごいことだと思います。

今回のスペースXのIPOの特徴は、固定価格方式を取っている点です。

通常のIPOは「いくらからいくらまで」というレンジを示し、需要を見ながら最後に価格を決めますが、スペースXの場合は最初から「1株135ドル」と一本値を提示していました。つまり「この値段で買うか、買わないか?」という、イーロン・マスク氏の自信の表れだと思います。

ここで重要なのは、今回スペースXは、需要が強くても値段を引き上げなかったことです。中には需要が高いために値段を上げる企業もありますが、スペースXはそうはしませんでした。結果、初日の株価に上昇の余地を残したのです。

悪い例が2012年の旧Facebook(現Meta Platforms)です。上場価格を引き上げようと欲張った結果、初日から株価が下がりました。一部ではスペースXでもその可能性もあると言われていましたが、今回の取引は対照的で非常にオープンでした。

企業側としても自分たちにとっての短期的な目先の利益よりも、上場後のマーケットで新規の投資家にちゃんとリターンを残し、投資家がうれしくなるようなイベントにしたのです。非常にイーロン・マスク氏らしい、計画された上場だったと思います。

3.個人投資家を重視した、「金融の民主化」IPO

今回のIPOのもう1つの特徴は、個人投資家への配分の多さです。「金融の民主化」という表現を使っていますが、個人投資家を重視したかなり異例のIPOです。通常、米国のIPOでは個人投資家向けの配分は5パーセントから10パーセント程度にとどまることが多いですが、今回は約20パーセントが個人投資家向けになったと報道されています。

イーロン・マスク氏は、上場に先立ち個人投資家を機関投資家と同じように扱うことを気にしていたといいます。スペースXは宇宙を政府や巨大企業だけのものにしないという意識のある企業であるため、その哲学がIPOの配分にも表れたと見ることができます。

4.スペースXは、もはや「ロケット会社」ではない

ここから本質的な話に入ります。スペースXは、もはやロケット会社ではなく、宇宙、通信、AIをつなぐ次世代のインフラ企業です。スペースXは3つの事業の集合体といえます。

5.打ち上げ市場では、すでに圧倒的な存在

第一に、再利用ロケットを使う宇宙の輸送会社です。第二に、「スターリンク(Starlink)」を運営する巨大通信インフラ会社です。そして第三に、AI計算能力を宇宙へ拡張しようとするAIインフラ会社です。この3つは別々ではなくて、相互に強化し合っています。

このスペースXにとって運命を変えたといってもよいのが、「ファルコン9」ロケットです。従来のロケットは打ち上げ後に大部分を使い捨てにせざるを得ませんでしたが、その常識を変えたのが「ファルコン9」でした。「ファルコン9」はロケットの1段目を地上や海上ドローン船に着陸させて再利用することを可能にしたのです。

この「ファルコン9」で打ち上げコストを下げたことで、「スターリンク」衛星を大量に打ち上げることができました。衛星が増えたことで今度は家庭、船、飛行機、政府、軍事向けに通信を売ることができるようになりました。

そのような通信網を持ったことで、今度はスマホの直接通信、ドローン、自動運転、AI、宇宙AIデータセンターへ広がる可能性が出てきました。スペースXは、宇宙インフラのプラットフォーマー企業だということです。

ただロケットを売るだけではなく、通信容量、周波数、データ処理能力、衛星ネットワーク、宇宙への輸送、将来的にはAI計算そのものを提供できる企業になろうとしています。

この見方をすると、スペースXは宇宙版の「AWS(Amazon Web Services)」に近いかもしれません。

「AWS」は企業にアプリそのものを提供したのではなく、企業がアプリを開発し、動かして拡張するためのクラウドの基盤を提供しています。同じようにスペースXは、企業、政府、通信会社、航空会社、そしてAI企業が宇宙を使うための基盤を提供します。

ロケット会社は打ち上げが終わると売り上げもそこで終わってしまいますが、プラットフォーマー企業になると、通信、周波数、機内Wi-Fi、船舶通信、軍事通信、AI計算、月面輸送まで、継続的な利用料が入る可能性があることが魅力だと思います。

スペースXは、打ち上げ市場ではすでに圧倒的な存在ですが、今や地球の軌道上に運ばれる物資の重量ベースでは、少なくとも90パーセントがスペースXのロケットによって打ち上げられているというデータがあります。つまり、NASA、ボーイング、ブルーオリジン、中国勢をすべて合わせても、残りはわずか10パーセント程度です。

スペースXはもはや数ある宇宙企業の1社ではなく、世界の宇宙輸送を支える事実上の基幹インフラ企業になっているのです。

もっと大切なのは、ただロケットを多く飛ばしているだけではなく、打ち上げコストが下がっていることです。打ち上げコストが下がると、通信衛星、地球観測衛星、そして月面貨物、将来的なAI用GPU衛星まで、これまで採算が合わなかった事業が計算に乗り始めます。昔はSFの話だった宇宙データセンターも、コストが下がることによって事業計画に変わってくるのです。

6.スターリンクは、すでに巨大な通信会社になっている

現在スペースXの収益の中核は「スターリンク」です。「スターリンク」は宇宙(低軌道衛星)から地上にインターネット接続を提供するサービスです。

私自身も自宅で「スターリンク」を使っています。今回のセミナーライブ配信も「スターリンク」経由で私の声や映像が、部屋の外にあるアンテナから衛星につながり、そこから地球に降りています。

「スターリンク」の通信速度はだいたい250メガビーピーエスほど出ており、非常に速く、安定しています。「スターリンク」はすごいサービスであると、数年前から感じていました。

スペースXの2025年の連結売上高は約187億ドルで、日本円で約3兆円ですが、そのうち「スターリンク」の売上高は110億ドルで、全体の約6割を占めるビジネスとなっています。

加入者数は2023年末で約230万人で、私もそのうちの1人に入っています。2024年末に約460万人、2025年末で約920万人、そして今年の3月末に約1,030万人となり、急速に増えています。3年連続でほぼ倍増しているという点は、やはり単なる宇宙関連企業ではなく、すでに通信サービス企業としてスケールし始めていることを示しています。

また、「スターリンク」は家庭、船舶、航空機向け、「スターシールド(Starshield)」は軍事、情報収集、安全保障任務向けのネットワーク事業であり、単価の高いマーケットにも広がってきています。

例えば船舶向けは毎月250ドルからで、データ容量によっては月額5,000ドルを超えてきます。航空機向けも一般航空で月額200ドルから1,000ドルほどで、ジェット機向け無制限プランは月額1万ドルとされています。大型船や航空機、政府機関とのビジネスの良いところは、一度導入すると簡単に切り替えられないところです。家庭向けとは違うBtoBの継続課金モデルの特徴です。

「スターリンク」は、通信が切れると困る場所や相手に対して高単価で回線を売るビジネスモデルであるということです。

私は先月、米国国内でユナイテッド航空に乗ったのですが、そこでは「スターリンク」のWi-Fiが使用でき、速度を調べたところ300メガビーピーエスを超えていました。偶然、機内で日本の友人から「LINE」の通話が来たので取ってみたところ、驚くほど音声がクリアだったのです。

昔は通信衛星というと速度が遅いイメージがありましたが、「スターリンク」のおかげでその考え方がガラッと変わってきています。

7.スマホが直接衛星につながる時代へ

これからの「スターリンク」は「Direct to Cell(ダイレクト・トゥ・セル)」と言われる技術で、スマートフォン専用の衛星と直接通信します。つまり、スマートフォンが家庭用のアンテナではなく直接衛星とつながります。

アメリカの上場企業であるエコスター(旧 SATS、現 ECHO)は、米国の通信衛星で有料テレビサービスを行っている企業で、スペースXはこのエコスターの周波数資産を取得しました。規模は170億ドルで、約2.7兆円を払ったと言われています。

スマートフォンに直接衛星をつなぐための、携帯電話向けの周波数があります。つまり電波の通行権が必要で、現在、衛星から地上の「スターリンク」までの間は10.7ギガヘルツから12.7ギガヘルツで、「Kuバンド」と呼ばれる周波数帯を使っています。問題は、空に障害物があると受信ができなくなり、やり取りができなくなります。

一方で、エコスターから買った700メガヘルツ帯は遠くまで届きやすく、建物の中でも電波が届く性質があります。そのため、山間部、災害地域、海上だけでなく、都市部の圏外対策にも向いています。

ただ、700メガヘルツ帯だけで、動画を無制限に流すわけではありません。低い周波数で広い面をカバーし、「スターリンク」の既存の衛星網を使い、レーザー通信を行うことで、地上ネットワークと組み合わせて圏外になることを減らすイメージになっています。

興味深いのが、IPO当日、スペースXが米国の大手通信会社であるベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)を買収する可能性があるのではないかと米国メディアで話題になりました。

ベライゾン・コミュニケーションズは周波数、顧客基盤、課金システム、通信網の運用ノウハウを持っている企業で、スペースXが宇宙から始まる携帯キャリアになるということであれば、このような憶測が出るのも自然だと思います。多少の驚きはありましたが「なるほど」と思いました。ただ、買収には政府の規制、負債、ローン、政府の審査など、いくつかの大きなハードルがあります。

このような話が出るのは、非常に興味深いです。

【中編、後編は後日公開します】

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