個人投資家駄犬氏×PERAGARU塩谷氏特別対談(前編)
個人投資家の企業分析はどう進化したのか 個人投資家 駄犬氏とPERAGARU塩谷氏が語る、公開情報の読み方
個人投資家の駄犬氏と「PERAGARU(ペラガル)」を運営する株式会社hands代表取締役社長の塩谷航平氏。コロナ禍以前から親交が続くお二人の対談を前後編でお届けします。
かつては「開示資料を読み込めば勝てた」という個人投資家の世界。しかし、市場の効率化や情報取得手段の進化により、その常識は通用しなくなりつつあります。それでも、公開情報の価値がなくなったわけではありません。むしろ、決算資料だけでなく、Q&Aやライブ配信、周辺データまで含めてどう読み込むかが、より重要になっています。
変化の激しい株式市場で戦い続けるお二人に、出会いのきっかけから、データ活用術、市場の変化までを聞きました。
始まりはXのDM「個人投資家はどのように分析しているのですか?」
ーーまず、お二人の出会いから教えてください。
塩谷航平氏(以下、塩谷):私からXでDMを送ったのがきっかけです。コロナ禍前なので、めちゃくちゃ前ですよね。
駄犬氏(以下、駄犬):そうでしたね。最初に渋谷のカフェでお会いしたのをなんとなく覚えています。
塩谷:当時は「PERAGARU(ペラガル)」を始めた直後で、機関投資家が数社だけ利用している状況でした。でも、どのようにデータを使っているかは教えてくれなかったのです。
当社もそこまで企業の分析に長けていなかったので、「個人投資家の方たちはどのように分析しているのですか?」などと、駄犬さんにさまざまな質問をさせてもらった記憶があります。当時はアルペンの商品在庫などをB/Sでずっと追っていましたよね。
駄犬:そんなこともありましたね。
塩谷:「どこかのタイミングで下方修正が出るかも」と、ポジションを狙っているような感じでおっしゃっていました。その分析がすごく細かくて、「すごいな! 個人投資家の人ってこんなにレベルが高いんだ」と、思った記憶があります。
駄犬:だいぶ懐かしいですね。アルペンはコロナ禍の時期に少しだけ業績が伸びたタイミングがあり、確かその時に利確しました。ブログにもそのあたりのことを書いた覚えがあります。
塩谷:駄犬さんは当時から、けっこうご自身で決算資料以外のデータもいろいろと追っていた記憶があります。「ここのサイトでゲームのダウンロード数と売上の推定がわかる」などとおっしゃっていました。
駄犬:サイトの名前はもう思い出せませんが、そうでしたね。ゲームの販売本数がわかるサイトなど、業績予想のインプットになるようなものがあるとメモしておいて、見るようにはしていました。
塩谷:あれはけっこう衝撃的で、カフェでお話ししている間ずっと感動しっぱなしでした。その後、駄犬さんが個人投資家の勉強会に招待してくださったので、私も少し分析ができるようになった感覚です。
駄犬:あの頃は私も、自分でExcelを使って業績予想を作るようなことをやり始めた時期でした。その勉強会にも入ったばかりでしたね。だいぶ懐かしいです。
勉強会で切磋琢磨というか、お互いにやり合っているうちにレベル上がっていくと思いますね。同じ個人投資家のコミュニティが何年も続くと、なんとなく企業分析のレベル感が上がっていきます。パフォーマンスがそれに伴うとは限らないのが難しいところですけどね。
塩谷:確かにそれが株の難しいところですよね。そこからプライベートでも駄犬さんの家に遊びに行くようになったりという感じですね。もう5、6年前です。
最初に「PERAGARU」の「CMデータ」を活用したのは駄犬さん!?
塩谷:当時に比べて、駄犬さんの資産はたぶん8倍ぐらいになっていますよね。
駄犬:最初に会った時はまだ1億数千万円ほどでしたからね。
塩谷:5年ですごいですね! 正直、決算プレイなんて、ぜんぜんわかりません。駄犬さんのようにはできる気がしませんね。
駄犬:いやいや、塩谷さんのほうがデータも持っていますし、自社でアナリストを抱えて業績予想を作っていますよね。
塩谷:でも、需給の読み方や織り込まれているかどうかの判断などは難しいです。最近は「『PERAGARU』の『CMデータ』が決算プレイでめちゃくちゃ使える」という声をいただくのですが、もともとその使い方を考えたのは駄犬さんですよね。
駄犬:ヤプリの分析ですかね。
塩谷:最初にあの分析方法を見つけたのは、駄犬さんだったという記憶があります。
駄犬:いや、SaaSの会社も含めて、BtoCでネットサービスを行うような会社の業績を見ていれば、あれは、別に誰でも気づくような話だと思います。
人件費やサーバー費は固定費に近いでしょう。つまり、マーケティング以外のコストはそんなに変動しません。それに対してマーケティングコストは凸凹しますので、マーケティングにどれだけ使ったかを推定できれば、業績がなんとなくわかります。
加えて、「CMデータ」は誰でも持てるデータではないため、織り込まれづらいと考えました。それは今でもそうだと思います。
塩谷:最近また聞くようになりましたね。一時期は織り込まれている感と言いますか、CM費を削って黒字転換しても、当時のヤプリやSansanのように決算の反応からは読めなくなっていました。そのような銘柄はたいてい寄り天です。
駄犬:なるほど、まぁ、そうですよね。
塩谷:寄り天なのですが、初値ベースや寄って1時間などで見ると、それどおりに動くようになっていたりします。一時期織り込まれたものが、また織り込まれなくなるのは不思議だなと思います。
他にも、アシロの「ベンナビ」などのデータも、駄犬さんが使ってくれていた印象があります。
駄犬:アシロは一時期保有していたので、その時は見ていましたね。自分の持ち株がインターネットサービスなどを手掛けており、オルタナティブデータが取れる会社だと決算前に見たりします。
塩谷:アシロは現在、それが業績のエンジンではなくなったので参考にならないかもしれません。しかし、駄犬さんはデータなどを使わなくても普通に勝っているじゃないですか。それはなぜかを聞きたいです。
開示資料に書いてあることを読めば勝てた「超イージーモード」の終焉
駄犬:最近はそんなに勝っていないので、お話ししにくいのですが、少し前まで、小型株は開示資料に書いてあることを全部は織り込まないくらいの非効率さがありました。開示資料をたくさん見て、近い将来の業績を示唆するようなインプリケーションがあればメモし、決算絡みのトレードをするとそれなりに勝てていました。
それはもう、だいぶ変わってしまったと思います。やはり現在は、小型株も開示資料に書いてあることをものすごく織り込むようになっていると思います。以前と同じことをしても勝てなくなっているので、どうしようかと考えているところですね。
塩谷:駄犬さんは最近「織り込みが早くなって、勝てなくなってきている」と、言っていますよね。本当のところはどうですか?
駄犬:いや、本当にそうだと思います。例えば、4月14日にIGポートが決算を出しましたが、3Q単体で四半期の数字としては、すごく良かったですよね。
おそらく過去最高ぐらいの業績が出ていたのですが、翌日のチャートは5パーセント下がりました。あれは2Qの決算説明資料に四半期ごとの営業利益イメージが出ていたのです。
出典:IGポート2026年5月期第2四半期 決算説明資料
塩谷:なるほど、このような開示も増えましたよね。
駄犬:3Qにめちゃくちゃ利益が出ているでしょう。私はこれを見ていたので、今週はIGポートの決算を少しまたいで、マイナス5パーセントの損で終わりました。例えば5年前、10年前にはこのような情報を見て、トレードすれば勝てていたのです。
塩谷:3Qまたぎの期待値がめちゃくちゃあったということですか?
駄犬:一応ありました。完全には織り込まなかったのですよね。以前は「見ればわかるようなアイデアでトレードして勝てる」という、超イージーモードのような感覚がありました。最近は多くの方がこのようなデータを見ており、むしろ過剰に先回りしています。
塩谷:しっかりと寄り天になるか、もしくは普通に下がって始まるようなことですね。
駄犬:このようなアイデアで買っても、むしろマイナスの期待値になってしまうようなイメージです。IGポートはすごく典型的な事例だったと思います。
決算プレイはもう勝てない? 変化する投資家の勝ち筋
塩谷:駄犬さんは一時期、IGポートをめちゃくちゃ持っていましたよね。『SPY×FAMILY』などのカタリストがありました。現在はだいぶ厳しくなっているのですね。PTSの反応も下でしたか?
駄犬:PTSの反応は上でしたね。でもプラス2、3パーセントくらいです。ですから、投資額が少なくてPTSでさばけるくらいのポジションしか取らないのであれば、まだ勝てますね。
塩谷:確かにそうですね。
駄犬:PTSの反応はまだぬるいですね。
塩谷:でも、100万円、200万円くらいでさばけても、スリッページが1、2パーセントほど出てしまいますよね。そのような状況だと、もう株は絶望的です。「駄犬さんが勝てなくなったら、たぶんもう誰も決算プレイで勝てない」という、私の仮説があります。
駄犬:いや、そうでもないですよ。決算ギャンブルをする人の中でも、さらに細分化できるのです。私は開示資料などから業績予想を作って理解するのですが、もう少し需給寄りのアプローチをする知人がいます。
例えば、彼は決算後の反応の値動きのデータをお手製のツールで取っています。決算の反応は、決算シーズンごとに若干の癖というか、違いがあるのです。「今回の決算シーズンはこのような株が買われやすい」「このような株はだめだ」というようなことを見ています。
塩谷:私もExcelでツールを作っている方を見たことがあります。
駄犬:あのようなアプローチだと、もう少し別のところからリターンを取り出す感じになるかと思います。彼はどちらかというと決算後に買ってモメンタムが出たら乗る、といったことをするので。
塩谷:なるほど。真似できないなと感じてしまいます(笑)。駄犬さんも、長期で保有する銘柄はありますよね。
駄犬:ありますあります。
塩谷:そのようなものは、「決算プレイ」とか「決算ギャンブル」とはまた別の文脈ですよね。
駄犬:そうですね。本当に長期で保有する銘柄は、もう少し割安成長株というか、GARPって言われるようなスタイルで、3年ほど保有します。
塩谷:それは、四半期ごとの決算を見て、細かく保有数を減らしたり増やしたりはするのですか。
駄犬:あまり細かくはしないです。どちらかというと逆張りなので、下がったら増やして上がったら減らすみたいなのはやりますね。
塩谷:なるほど。決算プレイは今も多少やっていますよね?
駄犬:そうですね、多少はやります。でも前ほどは勝てなくなってきている気がします。それこそIGポートのような、開示資料を見れば誰でも分かるようなアイデアで勝てなくなったので、ああいうのを端折って。もう少し一捻りしないと思いつかないようなアイデアとか。あと、ペイウォールがあって一部の人にしか見れないようなものを根拠にしないと、今は勝てなくなった気がします。
塩谷:ああー、確かに。
駄犬:そうするとやる数も減るし、あとは、そもそも運用資産が増えて流動性のない株を触れなくなってきています。なので、決算絡みのトレードはまだやるものの、一時期ほど激しくはやらなくなりましたね。
開示資料を読み込む個人投資家が増加
塩谷:以前、四半期ごとに平均すると3、4パーセントのリターンが出ているとおっしゃっていましたよね。
駄犬:しっかりと集計したわけではないですし、その時の地合いによってすごく左右されますが、取ったポジションの金額に対して1、2パーセントぐらいでしょうか。トータルで1億円分ポジションを取ったら、100万円から200万円ほどが浮く感じです。
塩谷:それはいいですね。毎四半期あるわけですから、1、2パーセントの4乗で、年間パフォーマンスとして10パーセントくらいは寄与するのですね。
駄犬:おそらく、ここ数年分を平均したらそれぐらいかと思います。
塩谷:すごいですね。わりとシンプルな開示で、織り込まれていない銘柄を探すような、まだ流動性の低い銘柄だと期待値があるのでしょうか? 資産金額が低い人だと、まだ戦いやすいのかもしれません。
駄犬:そうですね。流動性が低いほうがまだ織り込まれづらい気はしますね。それも、最近はみなさんが賢くなって、変わってきているかもしれません。
塩谷:確かにそうですね。以前はログミーFinanceのQ&Aなどをチェックして、中計の発表タイミングなどQ&Aにしか書いてない情報を見つけていました。発表のタイミングをメモしておいて、その前に当社からレポートを出すという企画を行っていたのですが、最近はみなさんが細かく記事を読んで、自力で発見していますよね。
「PERAGARU」で勉強会を行うと、Q&Aにしか出ていない情報などが参加者の発表内容に入っていたりします。「Q&Aに出ているのに織り込まれていない」という発表をいろいろな勉強会で聞くので、「あ、これも織り込まれているのだろうな」と思います。
駄犬:Q&Aはそうだと思いますね。ログミーFinanceもそうですし、最近はQ&Aを書き起こして、TDnetや自社のサイトに掲載している会社が増えています。それをみなさんが読むようになりましたね。読む人の数が増えると、それだけ織り込まれてしまいます。
公開情報を読む価値は残る 問われるのは「どう読むか」
ーーこのように開示資料を読み込む個人投資家が増加した今、公開情報を丁寧に読むことにどのような意味があると考えますか?
駄犬:株式投資における強いルールとして、みんなで同じことをやりだしたらそのやり方は勝てなくなる、というものがあります。開示資料を読む人が増えたら開示資料に書いてあることを理由にトレードして勝つことは難しくなっていくでしょうし、実際にそういう変化が足元で起きているものと認識しています。今はオンライン参加を含めて100名を超える参加者を集める株の勉強会がいくつもあって、開示資料をもとに活発な議論がなされており、一昔前と比べて裾野の広がりを感じます。
周りにいる個人投資家を見ると、開示資料から少しずらしたところから利益を獲得しようという動きが見られます。PERAGARUのようなオルタナティブデータサービスもそうですし、貿易統計などの公的な統計データやペイウォールのある情報ソースを活用しようとしたり、みんせつを使って発行体から一次情報を取りに行ったり、個人投資家でありながらアクティビストのような動きをしたりとか。
開示資料を読むことの重要性が失われたわけではないと思いますが、機関投資家のいないテーブルでイージーな勝ち方ができた牧歌的な時代は終わって、変化に対応することが求められていると考えています。
塩谷:駄犬さんと近い考えです。短信や説明資料の読み込みだけでは、優位性を得ることができなくなっている時代になったと思います。一方で、投資の基礎力を身につけるという意味では有用だと考えています。
投資の基礎力というのは
・どのKPIを継続的に追うのか
・どの業界の需給変化を先回りして見るのか
・会社がまだ言語化していない変化をどこで察知するのか
・経営陣が本当に見ている指標は何なのか
・競合比較をどの粒度で行うのか
などの判断を正確にできる能力だと考えています。
この能力は自身で決算を読み、仮説を立て、その後の株価の値動きで仮説を検証するループを回している人ほど高くなっていくのではないかと。
特に生成AI以降は、「開示資料を要約する」こと自体の価値が急速に薄れています。誰でも一定水準で読めるようになるからです。
その結果、単なる情報整理よりも、「何を観測するか」「どこに違和感を持つか」の方が重要になっている気がします。
AIを使う前にこの投資の基礎力を育てる意味で決算読みは有用だと考えています。
それでもQ&Aやライブ配信にはヒントがまだ残っている
塩谷:先日、「ちょっといいな」と思うことがありました。ログミーFinanceで実施されたある会社のIRセミナーに、私がゲストスピーカーとして登壇した時のことです。社長への質問コーナーで、なんと翌期の受注を回答してくださったのです。
その企業にとって1年半分の売上が達成できるような金額でした。しかも前期よりも採算性がよく、おそらく利益率が上がるというような内容です。セミナー終了後に資料を確認しましたが、それはどこにも書いてありませんでした。
駄犬:それはいいですね!
塩谷:これは織り込まれていない情報だろうと思い、翌朝チャートを見ていたのですが、やはりぜんぜん動きませんでした。
その会社はめちゃくちゃ流動性が低いので、おそらく買えても100万円ほどだと思います。きっとIRセミナーを視聴した人は買っていたと思いますが、買える量も限りがあったでしょうね。今後、ログミーFinanceが生配信するIRセミナーについては、Q&Aの部分を聞こうと思いました。
駄犬:やはりQ&Aを読み込むことからは、まだ得られるものがあると思いますね。ログミーFinanceに限らずIRサイトなど他にも見られるサイトはいくつかありますが、しっかりと見ておくとよいことがあるかもしれないですね。
プロフィール
駄犬(個人投資家)現在フリーランスのプログラマーとして活動している個人投資家。株式投資歴は10年以上で、現在の運用資産は約10億円。成長性に対して割安な小型株を主な投資対象とし、決算書などの開示資料を読み込んで投資アイディアを探すスタイルを取る。近年は生成AIも活用しながら企業分析・投資を行う。
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塩谷 航平(株式会社hands代表取締役)

