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日本特殊塗料株式会社4619

東証スタンダード

化学

第110回 個人投資家向けIRセミナー

遠田比呂志氏(以下、遠田):日本特殊塗料株式会社代表取締役社長の遠田です。本日はみなさまの貴重なお時間をいただき、当社がどのような会社かをご理解いただく機会を賜り感謝します。どうぞ最後までお付き合いいただきますよう、よろしくお願いします。

会社説明の前に自己紹介をします。私の入社は1983年4月で、入社42年目になります。当時の配属先は、現在の自動車製品事業本部の設計部と生産技術部の起源となる、新たに設立された部署でした。

1994年から1999年までは設計課長を、その後2006年まで設計部長を務め、2007年に生産子会社に出向しました。帰任後は原価管理部と購買部の部長を兼務し、2017年から自動車製品事業本部長、2021年から社長を務めています。

会社概要

遠田:まず、会社概要についてです。当社は、1919年に創業者の仲西他七が立ち上げた「日本特殊塗料研究所」での航空機用塗料の研究に始まります。その10年後となる1929年に会社を創業し、まもなく100周年という節目を迎えます。

創意工夫の歴史

遠田:当社は創業以来、「創意工夫」の精神を何よりも大切にしながら、時代の変化を柔軟に捉え、技術と事業の領域を着実に広げてきました。祖業は航空機用塗料の製造ですが、戦後の航空機製造禁止という厳しい状況の中でも、屋根瓦用塗料や自動車向けの新製品に挑むことで逆境を乗り越え、今日の成長につなげています。

「航空機塗料のメーカー」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、現在では自動車の制振材や防音材といった車両性能を支える部品をはじめ、建築物用の塗料など、素材技術を活かした多様なものづくりに取り組んでいます。

事業セグメント

遠田:当社の事業について簡単にご説明します。当社は自動車製品事業と塗料事業の2つを柱に展開しています。このうち、自動車製品事業では、車の静粛性を高める防音材や制振材などを自動車メーカー向けに供給しています。当社の売上高のおよそ6割を占める主力事業です。

塗料事業では、工場やビルの防水材や塗り床材などを中心に、建物の耐久性を高めたり、生産現場の快適な環境を支える製品を幅広く扱っています。また、子会社でマンションの大規模修繕工事なども行っています。塗料事業全体で売上高のおよそ4割を占めています。

事業セグメント【自動車製品事業】

遠田:当社の主力製品である自動車製品事業について、もう少し詳しくお話しします。防音材や制振材と聞いてもなかなか具体的にイメージしづらいかもしれませんが、これらは自動車の騒音や振動を低減させる重要な製品となります。

スライドの図に示しているように、当社の製品はエンジンやタイヤといった騒音源の近くに配置されています。例えば、当社の主力商品の「ダッシュインシュレーター」は、エンジンから発生する音が車室内に侵入することを防ぐ重要な機能部品であり、電気自動車でも必要になります。

また、「フロアアンダーカバー」はタイヤや路面から伝わる走行音を吸収し、車外騒音や車室内騒音の低減に役立っています。エンジン周りに使われる製品は、エンジンから発生する音を吸収することで、走行中の快適性に貢献しています。

こうした製品機能が評価され、すべての日系自動車メーカーに長年ご採用いただいており、当社の技術力と信頼性を裏付ける証だと考えています。

kenmo氏(以下、kenmo):自動車の吸音材や遮音材の分野で国内トップクラスのシェアを持たれているということですが、そもそも音をコントロールする技術の強みはどのようなところにあるのでしょうか? 

遠田:当社の自動車用吸音・遮音材の強みは、材料の開発から車両全体の音の評価、対策までのすべてを自社内で一貫して行えるところにあります。例えば、音を見える化する評価技術、材料全体を開発して製造する技術、全体最適を考慮した提案力といったところです。

これらを有していますので、車内のどこからどのような音が聞こえてくるのか、またその経路を正確に捉え、どこにどのような材料を使うと最小のコスト・重量で最大の効果が出せるか、材料段階から無駄のない効率的な音対策の提案が可能です。

競合会社を見ても、すべてを自社内で完結できる会社はなかなかなく、長年にわたって自動車の音に向き合ってきた経験や実績が当社ならではの大きな強みになっています。

kenmo:そこが差別化要素となっているのですね。

自動車製品事業を支えるグローバル・ネットワーク

遠田:自動車事業を支えるグローバル・ネットワークについてご紹介します。自動車製品事業については、スイスに本社を持つ防音材トップメーカーのAutoneum社と半世紀以上のアライアンスを提携しており、日系顧客・海外拠点への製品供給を目的としてジョイントベンチャーを設立しています。現在では海外6ヶ国に12ヶ所の生産拠点を展開しています。

また、当社は防音材という領域だけではなく、自動車の塗材といわれるシーリング材やアンダーコートなども供給しています。それらの製品に関しては、スイスのEFTEC社や中国のTGPM社と連携して、日系顧客・海外拠点へ製品を供給しています。

事業セグメント【塗料事業】

遠田:もう1つの柱である塗料事業についてご説明します。当社の塗料製品としては航空機塗料が有名ですが、建築用塗料にも注力しています。主力は工場やビル、マンションなどに使われる防水材や塗り床材で、雨や風、薬品、磨耗などから建物を守り、長く安全にお使いいただくために重要な役割を果たしています。

また、一部の特殊塗料の技術はロケットなどの航空宇宙分野にも採用されており、過酷な環境下で確実に機能する当社の技術力の高さが評価されています。

kenmo:さまざまな事例がスライドに出ていますが、意外なところに御社の製品が使われているといった身近な例は他にありますか? 

遠田:最も身近な例としては、みなさまがお持ちのスマートフォンのカメラレンズ周辺に、反射防止を目的とした当社の塗料が使用されています。もちろん競合会社もあるため当社がすべてを独占しているわけではありませんが、身近なところで当社技術が生きている例です。

また、気象観測で使われる白色の丸いドームがあります。雨が降るとそのドームの表面に水滴がつき、電波が乱れてしまうため、水滴がつかないように当社の塗料が使われています。

kenmo:競合の製品もいろいろあると思いますが、特にどのような領域で御社の製品は強みを発揮するのでしょうか? 

遠田:例えば、先ほどのレーダードームの塗料には航空機塗料技術を応用した超撥水塗料を適用しています。また、塗料は施工業者による施工があってはじめて成り立つものですので、一般的な防水材や塗り床材は、耐久性と施工のしやすさを両立していることが非常に重要です。こうした特徴を兼ね備え、長期間使用して安定的な性能を発揮できることが、屋外で使う際の強みになっています。

連結売上高・営業利益の推移

遠田:過去10年間の売上高と営業利益の推移です。スライドのとおり、景気の変動、特にコロナ禍で数字が落ち込んでいますが、それらを乗り越えながら着実に売上高と営業利益を伸ばしてきました。

新中期経営計画の位置付け

遠田:このような状況を踏まえて、今期、中期経営計画を発表しています。新中期経営計画では、5年後の2030年3月期に売上800億円、営業利益61億円、営業利益率7.6パーセント、ROE10.0パーセント以上の実現を目指しています。

実現に向けて、これまで築いてきた自動車製品事業、塗料事業の収益基盤をさらに強化するとともに、市場環境や顧客ニーズの変化に応じて、場合によってはM&Aなどの外部資源の活用も視野に入れつつ、持続的な成長と資本効率の向上を図っていきます。

具体的には、既存分野での高付加価値製品の拡販や自動車のグローバル展開、生産性の向上などを進めることにより、安定的な利益成長を実現させていきます。重点施策については、後ほどお話しできればと思っています。

kenmo:今期について挟ませていただきます。新中期経営計画が走っている状況ですが、1年目となる今期はどのようなところに注力されていく方針なのか、もう少し具体的に教えてください。

遠田:自動車事業では、まず収益構造の改善に取り組みたいと考えています。固定費の削減や生産効率の向上は欠かせませんので、中期経営計画の基本となる初年度は収益力の強化をしっかりと進めていきます。

塗料事業では、当社の塗り床材は物流工場や精密部品工場だけでなく、当社の自動車事業と関係が深い自動車工場や自動車部品メーカーの工場などで幅広く使われており、拡販に注力する分野の1つです。塗り床材は、社会インフラを支える重要な用途として幅広い需要がありますので、ここを確実に固めていきたいと考えています。

kenmo:今期の期初にトランプ関税の話があり、新中期経営計画の出鼻をくじかれたところが若干あるかと思います。外部環境はこれからいろいろと変わっていくかと思いますが、そのような環境変化に対応できる御社の組織的な強みなどがありましたら教えてください。 

遠田:自動車関係では、現地で材料を調達して生産する体制を整えているため、各拠点で完成車メーカーのニーズに応じた対応が可能です。日本から輸出しているわけではなく、現地で調達して生産まで行える点が大きな強みです。

国内から輸出している場合と異なり、海外拠点はジョイントベンチャーとして展開していますので、売上や利益にダイレクトに影響しません。現地で完結できる対応力こそが当社の自動車事業の強みだと考えています。

kenmo:つまり、トランプ関税の影響はそこまで大きくはないということですか? 

遠田:おっしゃるとおりです。ただ、国内のいくつかのメーカーはトランプ関税の影響でアメリカに生産拠点を移しています。そのため、直接的な当社の販売は減ることになりますが、アメリカでの現地生産に移管された分をジョイントベンチャーが手掛ることも多く、表向きの販売は減っていても、最終利益にはあまり影響がありません。これは当社ならではの強みと捉えることもできるかもしれません。

新中期経営計画の基本方針

遠田:中期経営計画についてお話しします。中期経営計画では「変革と挑戦」を掲げ、成長を支える経営基盤の強化と同時に、成長分野への投資や新規事業の開発などを行い、つぎの100年をともに創り上げていく会社を目指します。

経営目標

遠田:経営目標です。スライドは、直近の2025年3月期の実績と5年後となる2030年3月期の中期経営計画のゴールを比較したものです。売上高は2025年3月期比でおよそ21パーセントの増加、ROEは10.0パーセント以上を目指しています。

株主還元方針 <株主還元の強化>

遠田:株主さまへの利益還元についても、非常に重要な要素として、中期経営計画の中で明確な方針を掲げています。総還元性向70パーセント以上を中期経営計画期間の基本方針とし、配当と自己株式取得を組み合わせて積極的な還元を行います。資本効率の向上に向けた取り組みの一環として、ROEやPBRの改善にもつなげていきたいと考えています。

キャッシュ・アロケーション <戦略的成長投資の促進>

遠田:戦略的成長投資の促進についてお話しします。既存事業の収益拡大には製品の供給拡大とそれにまつわる投資が欠かせませんが、デジタル化への対応や経営データのリアルタイムでの可視化など、IoTやDXへの投資も避けて通れません。そのため、これまで以上にこれらの分野への投資比率を高めていきます。

また、省人化や効率化による利益の確保も重要なテーマの1つですので中期経営計画に掲げるさまざまな施策について、こうした観点でモニタリングを行い、その結果に応じて方向修正をすることも必要かと思っています。

【自動車】 目標数値・基本戦略

遠田:自動車製品事業の具体的な目標についてです。数字はスライドに示したとおりです。製品ポートフォリオ変革や技術革新を製品に結びつける取り組みとして、環境負荷低減につながる新製品の開発や、海外市場向けの投資を進めていきます。

また、生産の抜本的な改善も戦略の1つとして掲げています。加えて、販売機会を逃さないため、当社が持つ音響制御技術を活かした製品を新たな市場に出していきたいと考えています。

【塗料】 目標数値・基本戦略

遠田:塗料事業については、基本的には塗り床材や防水材のシェアを伸ばすことを最優先に考えています。

汎用性のあるものは大手化学メーカーが自社で作りますが、採算面の問題や当社の強みを活かすため、特徴のある特殊な樹脂を当社で製造していく計画です。今後は、この内製化がサプライチェーンの強化につながると考えています。

また、全国に展開するネットワークの中で、関東や東京地区などウエイトが弱い地域に適切な人員配置を行います。

さらに、航空機塗料の技術を応用した高付加価値製品の開発なども進めていきます。

飯村美樹氏(以下、飯村):御社の社名は日本特殊塗料ですが、お話をうかがっていると本当に特殊なものをたくさん開発しているのだなと、大変勉強になりました。

遠田:当社が航空機用の特殊塗料を手がけているという点は、当社の特徴を理解していただくうえで大きな強みだと思っていますが、当社の株式は化学に分類されているため、投資家のみなさまからも自動車とのつながりが見えにくい部分があるのではないかと感じています。

飯村:セクターがそうですね。

遠田:昔はみなさま紙で調べていましたが、今はインターネットのため、「化学塗料」「機械」「自動車」というと、どうしてもセクターごとに情報が分かれてしまうところが悩みの部分です。

飯村:インターネットではチェックを入れるだけのスクリーニング方法のため、そこは悩ましいですね。

遠田:当社は社名の影響もあり、それを乗り越えて、いかに企業価値を高め、市場にPRするかが重要だと考えています。もちろん、企業努力で補い、投資していただく株主のみなさまにも価値を届けていきたいと思っています。こうした視点も持ちながら、新中期経営計画に取り組んでいます。

場合によっては、社名を変更する会社もあると思います。特に化学メーカーは、プロモーションに女優の方を起用されるケースもありますが、当社はそこまではできないかもしれません。しかし、企業価値を真摯に考え、社名を変更するべきかどうかも今後検討していく重要なテーマだと考えています。

2026年3月期 通期業績予想サマリー

遠田:中期経営計画の初年度である今期は、数字的に気になる点も多いかと思います。スライドは2026年3月期の業績予想ですが、一見すると前期よりやや減少しており、マイナス要素が目立つ印象です。しかし、第1四半期の進捗を見ると、若干のマイナス影響はあったものの、全体としては順調に推移しています。現時点で、計画を変更する予定はありません。

先ほどトランプ関税のお話がありました。自動車生産の多少のダウンなどはありますが、数字的に特に大きな影響はなく、比較的順調に推移しています。

計画としてマイナスを出さざるを得なかったのは、原材料の高騰など非常に難しい要素が入っているためです。特に「中期経営計画の初年度が前期比で減収減益となる」ということにはなりますが、計画するからには、当然そのあたりをしっかり織り込んで計画しています。この5年間で、最終的には売上高800億円を目指していきます。

2026年3月期 第1四半期 決算サマリー

遠田:スライドは第1四半期の前期と今期の比較ですが、先ほどの通期業績予想よりはマイナス要素が少なくなっています。利益構造の改善も順調に進んでおり、徐々に効果が出てくることを見込んでいます。そのため、現時点で通期業績予想の変更はありません。

ここまで、当社の取り組みや今後の見通しについてお話ししてきました。少しでも当社に興味を持っていただけるきっかけになれば、非常にうれしく思います。

質疑応答:海外の足元のマーケット環境について

kenmo:海外展開についておうかがいします。現状ではインド、北米、東南アジア等で事業展開を行っていますが、海外の足元のマーケット環境についてお聞かせください。

遠田:現在、日系の自動車メーカーが海外、特に中国で非常に劣勢だというニュースを耳にされている方も多いと思います。そのような状況下でも、特に成長の余地が大きい地域として、インドや東南アジアそして北米を非常に重要なマーケットとして当社は重要視しています。

まずインドでは、バッテリーEVやハイブリッド向けの新たな製品が展開されています。従来は安価な製品が優先されましたが、市場が変化し、多少コストがかかってもより軽量で性能の良いものが求められるようになっています。現地に進出している自動車メーカーの認識も変わってきています。

東南アジアについては、コスト競争力のある製品を現地で開発して販売していくことが重要です。

北米では、高機能製品や環境対応品の展開を推進していきます。トランプ関税によって環境対応や方針が多少変わってきていますが、基本的なスタンスは大きく変わることはありません。特に環境対応、快適性を両立させる製品を武器に、当社の拡大余地は大きいと考えています。

質疑応答:海外ニーズへの対応について

kenmo:海外のニーズも少しずつ変わってきているとのことですが、日進月歩で変わっていくお客さまのニーズに対応するために製品やサービス面で工夫されている点や、製品開発の体制や品質保証の体制など、御社独特の強みがあれば教えてください。

遠田:当社は北米やアジアに合弁会社を展開しています。現地の工場では、日本で培った技術やノウハウをしっかり継承しながら、現地化を重視した経営を進めています。かつては日本人スタッフが中心になって現地を支えてきましたが、現在は現地採用のメンバーが主体となり、生産から品質管理、開発まで対応できる体制となっています。

質疑応答:海外の市場拡大余地について

kenmo:今後の海外の市場拡大余地はどのぐらいあるのでしょうか? 

遠田:北米に関しては、先ほどお話したように、快適性と機能性を両立させた製品を展開しています。NV、いわゆる防音機能を高めた製品や、リア周りのモジュール製品などの市場開発も進めていきます。具体的には、乗用車ではトランク部品、SUVではリア周りの大型トリム部品などを、新たな製品展開として進めていきたいと考えています。

質疑応答:アフリカへの展開について

kenmo:「今後の人口増加を考えると、アフリカなども大きな市場になると考えられます。アフリカへの展開などは考えていますか?」というご質問です。

遠田:当社の特徴として、日系自動車メーカーの進出状況を把握したうえで、対応策を検討しています。アフリカについても、必要に応じて進出を考えていきます。

ただ、日系メーカーがアフリカで現地生産をすることは少ないのが現状です。日産自動車はモロッコでノックダウンでの生産実績があります。また、トヨタ自動車や日産自動車は、南アフリカでフル生産ではありませんが生産実績があります。しかし、ノックダウンでの生産規模では、当社が進出するメリットが小さいと考えています。このため、現地での本格生産が始まる際に、当社も一緒に進出していくという方針を基本としています。

この考え方に基づき、北米、アジア、インドなどに生産拠点を配置しています。これが当社の基本的なスタンスです。

質疑応答:建設業系への追い風が業績に与える影響について

飯村:「昨今の国土強靱化計画などの建設業系への追い風は、御社の利益にも貢献しているのでしょうか?」というご質問です。

遠田:国土強靱化というと、老朽化したインフラを新しくし、耐久性を高めていくということになります。

例えば、高速道路の防水です。高速道路を走行していると、道路が補修されているところを目にすることもあるかと思います。テレビ報道でも、高速道路の橋の架け替えなどで大きなコンクリートのプレートを持ち上げている映像がよくありますが、そのプレートの上にアスファルトがのり、車が走行できる状態になります。

一方、アスファルトの下には防水層があります。高速道路に雨が降ると、水はアスファルトを浸透し排水されます。浸透した水がひび割れから侵入すると、コンクリートの劣化や鉄筋の腐食が進行するため、防水層でコンクリートを保護する必要があります。当社のウレタン防水材の技術は高速道路の防水機能向上に寄与し、橋梁の長寿命化に貢献しています。みなさまが乗る車を支えている高速道路の床の下には、この防水層があり、そこに当社の製品が採用されています。

また、下水管の劣化防止においても、樹脂メーカーや化学メーカーがそれを覆うような樹脂を用いた技術を開発しています。最近はビルピット施設などのニーズも増えており、上下水施設に対し長年の防食施工の実績がある当社にとっては大きなプラスになると考えています。

飯村:この先、工事は増えていくと思いますので、需要も増えていくことが想像できるということですね?

遠田:そのとおりです。

質疑応答:「パラサーモ」シリーズの遮熱性について

飯村:ファンの方ではないかと思いますが、「『パラサーモ』シリーズの遮熱性はどのくらいの効果があるのでしょうか?」というご質問です。

遠田:具体的な数値はなかなかお話ししづらいのですが、一例をご紹介します。当社の自動車部品工場では、これまで屋根に「パラサーモ」を塗っていませんでした。ところが、屋根に塗ったあと、従業員から「確実に雰囲気温度が下がった。体感的にも気温が下がり、身体への負担が減ったと実感する」との感想がありました。

「パラサーモ」シリーズのような遮熱塗料は、当社に限らずいろいろなメーカーが提供していますが、実は国内で最初に市場に出したのは当社です。ただし、その後、他社も追随しています。

飯村:それだけ世の中に求められていたということですよね?

遠田:おっしゃるとおりです。現在、塗料工業会で遮熱性能を標準化し、1つのルールに基づいて数値化しています。これにより、今後は具体的な数字を示すことができるようになります。

飯村:何よりも、快適さに変化があったことが非常に大きいと思います。

kenmo:足元で気温が上がってきている中で、ニーズがかなり増えているということはあるのでしょうか? 

遠田:当社に限らず、遮熱塗料を供給する企業では、ニーズが非常に高まってきています。塗料業界にとってはうれしいことです。同時に、世の中の気温がここまで上がってきたため、どうしても対策が必要な状況になっているのだと思います。

質疑応答:新中期経営計画目標における事業別の売上高構成比について

kenmo:「今後の成長についてです。2030年3月期の売上高目標800億円を掲げられていますが、自動車製品事業と塗料事業のそれぞれの割合、寄与度について、どちらをどれくらい伸ばしていきたいのか、イメージでかまわないので教えていただけますか?」というご質問です。

遠田:現在の売上高構成比は、おおよそ6割対4割、もしくは6割5分対3割5分です。基本的にはこの比率に沿った販売増を見込んでいますが、この5年間については、自動車関係のほうが多少ウエイトは高いと考えています。

質疑応答:足元の原材料価格の影響について

kenmo:直近でいろいろな原材料価格が上下している中で、足元の原材料価格の状況についてお聞かせください。足元の原材料価格が、それぞれの事業にどれくらいの影響を与えているのでしょうか? 

遠田:年初の状況として、市場はかなり不安定でした。自動車も塗料も石油由来の材料を使っており、石油価格上昇の影響は避けられないと考えています。当然、それを製品価格に転嫁し、回収して行く必要がありますが、ここにきて当初の値上がりよりも多少落ち着いてきています。

非常に難しいのは、材料によっては20パーセントから30パーセントほど上がるものもあることです。それを単純にユーザーに転嫁することはできないため、原材料価格が上昇基調の時は、どうしても収益にマイナスの影響が出やすくなります。

先ほどご覧いただきました前期実績と今期計画は、今期の数字が下がっていますが、これは実は原料費の影響です。お客さまには値上げをお願いしていますし、ある程度妥当性があれば受け入れてくださいます。しかし、原料を買って、製品を作り、それから販売するまでにはタイムラグがあるため、その影響が収益の差として現れている、というのが正直なところです。

kenmo:業界的に先んじて値上げをさせてもらうのは、なかなか難しいですよね?

遠田:それは難しいですね。塗料業界でも自動車業界でも、先に値上げをするというのは非常に難しいと考えています。

質疑応答:人材教育および人事制度について

kenmo:今後の成長にあたって人材が鍵になってくるかと思いますが、足元の採用計画や、御社ならではの教育システムなどの強みがありましたら教えていただけますか? 

遠田:先ほど、当社の社名は、塗料業界を目指す方には興味を持ってもらいやすい一方で、自動車業界を目指す方には少しリーチしにくいとお話ししました。

そのような状況を踏まえ、2001年3月期から行ってきた人事制度を、来期に改定する予定です。人事制度を刷新し、「こういう人事制度である」ということをリクルート活動にきちんと見せることで、社員のやる気につなげていきたいと考えています。

もちろん、今の時代に合った評価も織り込んでいます。最近は時代の変化が激しく、若手はどうしても「転職しようかな?」となりやすいため、時代に合った制度で魅力を出していくことが重要だと思っています。

また、新しい人事制度に合わせて、社内カレッジのような教育制度も導入予定です。教育制度の本格運用は1年後になりますが、社内に大学の単位制のような仕組みを設け、マネジメント教育からスタートする予定です。

例えば、若手と役職者では必要な財務知識も異なります。当社でも当然月次決算を行っており、旅費精算は当月中にするよう指導していますが、ずれてしまう人もいます。若手には「月次決算に影響するんだよ」と教え、当月中に申請することの大切さを理解してもらいます。一方、役職者は、当月中の申請が工場損益の計算にどう関わるかを理解してもらうことになります。

同じ分野であっても、等級に応じて教育内容を変えていくことを目指しています。

マネジメント教育制度を整備し、社員のキャリア形成に役立てたいと考えていますが、当社の事業規模でキャリア形成のためにすべての従業員をローテーションすることは難しいため、教育・制度でキャリア形成を補うという考えです。

飯村:それぞれの立場で、会社を自分ごとに考えることができるようにという仕組みですよね?

遠田:そのとおりです。

質疑応答:学生と直接話す機会について

飯村:先ほど、自動車業界を目指す人にリーチしにくいとのお話がありました。遠田社長ご自身が学生の前などで直接お話しされれば心をつかむことができるのではと思いますが、そのような機会はあるのでしょうか? 

遠田:リクルート活動で大学を訪問し、お話しさせていただくこともあります。私が設計部長だった2001年3月期当初は、自動車メーカー向けのプレゼン資料をパソコンに入れて大学に出向き、教授の方々や、自分の出身校ではない学校にプレゼンしたりしました。

最近は直接足を運ぶことは少なくなりましたが、今でも自動車製品事業の担当者が定期的に大学を訪問し、「日本特殊塗料がこういう仕事をしている」と紹介する取り組みを続けています。ただ、話を聞いていただいている時は盛り上がるのですが、いざ応募段階になると「あれ? ぜんぜん応募がないね」となることも多く、やはり社名と事業内容のギャップがあるのだと感じています。

実際に大学の先生方からも「自動車業界志望の学生にとって、特殊塗料という名前では分かりにくい」と言われています。これを言うと投資家のみなさまから「では改善すべきだ」とご指摘を受けてしまいますが、まさに悩ましいところです。

社名を変える前に、まずはこのような機会を通じて積極的にPRし、認知度を上げていくかという努力をすることが大切だと考えています。その上で、最終的な手段として社名変更を検討することは、企業価値向上の観点から必要になるかもしれません。

飯村:私としては、今日「御社の名前はもうぴったりだな」と思いました。

遠田氏からのご挨拶

遠田:先ほど「新中期経営計画では『変革と挑戦』を掲げています」とお話ししました。私たちは、この「挑戦していく」という組織風土をしっかり醸成し、社員一人ひとりにとっても魅力ある会社、働きがいのある職場を作っていきたいと考えています。

その実現のためにも、新中期経営計画に沿って人材の確保・育成にも力を入れ、持続的に成長できる企業を目指していきます。投資家のみなさまからの変わらぬご支援をよろしくお願いします。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:ROE10パーセント目標は達成してほしいですが、PBR1倍超に向けた施策と達成の時間軸を知りたいです。

回答:PBR1倍超については、市場からの企業価値評価を高めることが重要と考えており、安定的な利益成長と株主還元の充実を軸に、中期的に達成していきたいと考えています。明確な年度を区切るのは難しいですが、中期経営計画期間での実現を目指していきます。

<質問2>

質問:自動車産業への依存度がかなり大きな状況ですが、トランプ関税やデジタル化進展など変化が激しくなっています。新たな領域への進出など、どのようにお考えでしょうか?

回答:当社は現在、自動車分野の売上比率が高い状況ですが、将来を見据え、多角化や新領域への挑戦は非常に重要だと認識しています。

現時点で具体的な新事業プランは固まっていませんが、既存事業における収益力強化と並行し、塗料、自動車製品それぞれで培った高い技術力、多様な顧客対応で積み上げた営業ノウハウ、ネットワーク等を有効に活用できる事業分野、事業機会を着実に探り、必要に応じて戦略的なM&Aや提携も活用していく方針です。

<質問3>

質問:バランスシートを拝見しますと、投資有価証券を非常に多額に保有していらっしゃるようですが、どのような狙いでどのような業界へ投資されていらっしゃるのか、可能な範囲で教えてください。

回答:当社が保有する投資有価証券の大部分は、事業上の取引関係や協力関係のある企業との持ち合いによるものであり、長期的なパートナーシップを重視して、戦略的に保有するものです。

しかしながら、今般新たな中期経営計画に定めた財務・資本戦略を元に、社会的な要請も踏まえ、保有意義が低下したと判断する株式について売却を進める等、適切に見直しを進めていく方針です。

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