目次
橋本正徳氏:みなさま、こんにちは。株式会社ヌーラボ代表取締役の橋本正徳です。本日は当社の2025年3月期の決算説明会にご参加いただき、誠にありがとうございます。今回も決算発表から日を空けての開催となりましたが、最後までよろしくお願いします。
本日はスライドの目次に沿ってご説明します。なお、この資料は成長可能性に関する資料も兼ねています。ご了承くださいますよう、よろしくお願いします。
ブランドメッセージ
はじめに、会社概要についてです。株式会社ヌーラボは、「“このチームで一緒に仕事できてよかった"を世界中に生み出していく」というブランドメッセージのもと、SaaS型のコラボレーションツールをサブスクリプションで提供している会社です。
Mission&Value
当社は「To make creating simple and enjoyable」をミッションに掲げ、「Try First」「Love Differences」「Goal Oriented」という3つのバリューを中心に据えています。
会社概要
当社は福岡に本社を置き、東京、京都を合わせて国内に3拠点、国外にはニューヨーク、アムステルダムに子会社を持っています。グローバルで戦えるソフトウェアをインターナショナルなチームで開発・運営しています。なお、シンガポールの子会社は、2024年9月に清算手続きが結了しました。
会社沿革
沿革です。当社は2004年に設立され、創業時はお客さまのソフトウェア開発を請け負っていました。2006年から自社サービスの開発と運用を開始し、2013年に受託請負の事業を終了して自社サービスだけに集中する今のビジネス形態となりました。
現在は、プロジェクト・タスク管理ツールの「Backlog(バックログ)」、ビジュアルコラボレーションツールの「Cacoo(カクー)」、そしてヌーラボ製品のセキュリティとアカウント管理サービスの「Nulab Pass(ヌーラボパス)」の3つの製品を提供しています。主力サービスは、売上の大部分を占める「Backlog」になります。
サービス概要
当社のサービス内容についてです。主力サービスである「Backlog」から「Cacoo」「Nulab Pass」の順にご説明します。
Backlogの利用対象ユーザー
「Backlog」は業種や職種を問わず、たくさんの方に使っていただきたいプロジェクト管理ツールになります。「Backlog」はもともとソフトウェア開発の現場から生まれてきたという歴史がありますが、古くから導入していただいているWeb開発・システム開発を行っている企業はもちろん、社内で多数のプロジェクトを発案し、プロジェクト管理を行っている企業など、広くお役に立てるツールだと考えています。
プロジェクト管理とは、顧客管理、案件管理、予算管理、タスク管理、お問い合わせ管理、不具合管理、コミュニケーション管理、ファイル・文書管理など、多岐にわたる情報をタイムリーに正確に管理する業務全体を指すものです。
プロジェクト管理の現場では、「ファイルが増えすぎてどこに何の情報があるかわからない」「ファイルの共有が漏れてしまい最新化されない」「誰が何のタスクを担当しているかわからず、進捗が見えない」といった課題が発生していることがあります。したがって、プロジェクト管理のために多くのヒトやツールが必要になり、多大なコストがかかることがしばしばあります。このような課題を解決するツールが「Backlog」です。
Backlogの基本機能
「Backlog」はプロジェクト管理に必要な機能がオールインワンで揃っているため、面倒な準備をすることなく、すぐにプロジェクトを始めることができます。
具体的には、課題の設定、進捗の共有、ファイル管理、権限管理などの機能を備えています。さらに、コミュニケーションを円滑にできるような工夫をしていますので、マネジメントする側とされる側の摩擦を減らし、チームメンバーのコミュニケーションの質を向上させることができます。チーム全員がプロジェクトを進捗させることを目標にし、前向きに仕事を進めることが可能です。
Backlogで変わること①:管理プロセスの比較
「Backlog」の機能を使うと、従来のやり方に比べて工数を大幅に削ることができ、付加価値の高いタスクによりたくさんの時間を充てることができます。
Backlogで変わること②:メールとの比較
メールでのコミュニケーションの場合、メールのやり取りを繰り返しているうちに、誰がボールを持っているかわからなくなったり、いつの間にか「CC」から外れて共有が漏れ、情報が欠落することがあります。
「Backlog」では誰が何のタスクを持っているかを明確に整理できることに加え、情報が集約され、常にプロジェクトメンバーに情報が共有されている状況を整えることができます。
Backlogで変わること③:エクセルとの比較
プロジェクト管理に「Excel」を使っている方も一定数いらっしゃると思います。「Excel」ではToDoやタスクの分解ができたとしても、タスク一つひとつの内容、進捗などを細かく管理することは難しく、「Excel」の中身が徐々に複雑になってしまうケースも多いと思います。みなさまにとっては「あるある」かもしれません。
「Backlog」を使うと、常に最新の情報が共有され、メンバー全員がいつでもプロジェクトの状況を把握することができ、タスク一つひとつの中でコメントし合うこともできます。
Backlog料金体系
「Backlog」の料金の大きな特徴は、「スタンダードプラン」以上であれば、ユーザー数無制限で利用できることです。他の一般的なSaaSサービスとは異なり、ユーザー数に依存しない料金体系となっています。
ユーザー数が無制限であるという特徴を活かし、ユーザーのみなさまは自社だけでは完結しないプロジェクトを進める時に、気軽に社外の関係者の方も招待して、一緒にプロジェクトを進めることができます。このため、成長著しいスタートアップ企業や、申請や稟議の手間が多い行政の方々などでも、プロジェクトメンバーを巻き込んでいくことが可能です。
なお、ツール導入時にセキュリティ面を重視する大企業などに対しては、セキュリティ強化オプションの「Nulab Pass」を組み合わせていただくことで、提供価値をさらに大きくしていきます。
幅広い顧客ラインアップ
スライドは導入企業の一覧です。幅広い業種でご利用いただいています。「ITreview Grid Award」でプロジェクト管理ツール部門で25期連続受賞となるなど、優れたサービスとしてさまざまな賞をいただいています。
Cacoo
「Cacoo」についてご説明します。「Cacoo」は誰でも使えるシンプルな機能で、チームのアイデア共有を加速するクラウド環境のビジュアルコラボレーションツールです。豊富なテンプレートやバージョン管理機能で、チームのコラボレーションを促進します。
例えば、「Backlog」の「Wiki(ウィキ)」に使用する図を「Cacoo」で描くことにより、特別な編集ツールをインストールしなくても、ブラウザさえあれば誰でも簡単にわかりやすい図を作成・共有することができます。
なお、「Cacoo」は無料ユーザーを含めて世界で300万人以上の方にご利用いただいています。
Nulab Pass
「Nulab Pass」についてご説明します。「Nulab Pass」は、ヌーラボサービスを利用する組織のアカウントを一括して管理するためのツールです。シングルサインオンや、ユーザーの操作履歴を追うことができる監査ログの機能も提供しています。さらに、ユーザープロビジョニング機能も備えており、アカウント管理の効率化にも寄与するサービスです。
【ご参考】2024年4月以降の主要サービス関連リリース
スライドは、昨年4月以降にリリースした主要な新機能を記載しています。「Backlog」「Cacoo」「Nulab Pass」のそれぞれで、お客さまの声を反映した機能改善に取り組んでいます。
通期業績ハイライト
2025年3月期の業績およびKPIの推移についてお話しします。まず、ハイライトです。2025年3月期の売上高は41億1,000万円、2021年3月期以降のCAGRは21パーセント、うち「Backlog」の売上高は38億3,000万円でした。また、売上総利益は29億6,000万円、営業利益は6億4,000万円でした。
P/Lサマリー・有料契約件数および解約件数
P/Lサマリーになります。第4四半期の売上高は前期比プラス7.1パーセントの10億5,200万円、うち「Backlog」が9億7,500万円でした。営業利益は7,800万円となり、以下の段階利益はスライドに記載のとおりになります。
第4四半期はサービス基盤の強化、中長期的な組織強化のための教育研修等の追加施策の他、広告宣伝費の月ずれなどにより、各段階利益の増加幅は概ね想定どおりとなりました。
また、通期の売上高は前期比プラス12.3パーセントの41億1,200万円、うち「Backlog」が38億3,000万円となり、概ね修正計画どおりとなりました。一方、「Cacoo」は前期比マイナス0.6パーセントの結果となりました。要因としては、「Cacoo」の戦略策定・実行を進める上で、必要なリソース配分が必ずしも追いついていなかったことがあると見ています。足元の2026年3月期は、必要な経営資源をしっかり投下していきたいと考えています。
通期の営業利益は前期比プラス92.8パーセントの6億4,000万円、以下の各段階利益はスライドに記載のとおり、修正計画を上回る結果となりました。
主要なKPIである有料契約件数については、「Backlog」が期初計画を大きく上回る結果となりました。解約率が期初の想定を下回る水準で推移したことに加え、導入時のオンボーディングの支援や「Backlog」活用促進などの支援協力が功を奏したことが要因だと考えています。
コスト構造(全社)2025年3月期 第4四半期
第4四半期のコスト構造については、スライドに記載のとおりです。
コスト構造(全社)2025年3月期 通期
通期のコスト構造についてです。前期からコスト構造の構成に大きな変化はなく、労務費を含む人件費、通信費、広告宣伝費が大きな割合を占めています。
Backlogの主要KPI
「Backlog」の主要なKPIについてです。スライド左側の円グラフで示している有料契約件数は、3月末時点で1万4,763件となりました。先ほどP/Lサマリーのスライドでも触れたとおり、有料契約件数は期初計画を大きく上回る結果となっています。
スライド右側をご覧ください。有料ユーザー数は約145万人となり、前期末から約17万人増となりました。「Backlog」の料金体系はユーザー数無制限であることから、有料ユーザー数の増加がトップラインの成長に直結するものではありません。ただし、「Backlog」のユーザーが増えることは将来のリファラルにつながっていきますので、これからも大事にしたいと思っています。
レベニューベースの月次解約率は0.44パーセントと、例年並みの水準で推移しました。
Nulab Pass提供開始後の進捗
「Nulab Pass」の状況です。「Backlog」新規導入顧客に対するセールスチームの提案活動等により、引き続き順調にライセンス数を伸ばしています。2025年3月末時点で6万9,000ライセンスを突破しました。
2025年3月期の成長戦略の進捗について
2025年3月期における当社の成長戦略の進捗についてです。期初に示した成長戦略に対して、「Backlog」導入時の「Nulab Pass」の提案、バックオフィス向けの展示会への出展などで、エンジニア以外の職種への認知・想起を広げる活動を実施しました。
「Backlog」の認知度を向上させる施策としては、この他にも経済誌、大手出版系メディアへの記事出稿などにも取り組み、一歩ずつではありますが、着実に成果を積み上げてきました。
2026年3月期業績予想
2026年3月期の業績予想についてです。2026年3月期は、売上高が前期比プラス12パーセントの46億300万円、営業利益が前期比マイナス53.1パーセントの3億円、経常利益が前期比マイナス53.2パーセントの3億円、当期純利益が前期比マイナス59.6パーセントの2億2,300万円を計画しています。
トップラインの計画についてです。「Backlog」は、足元の状況をベースとしてAIを活用した新規機能の追加、マーケティングやセールス活動への積極的な投資により、新規契約件数を大幅に伸ばす計画としています。なお、有料契約件数および解約件数は、「Backlog」の「クラシックプラン」提供終了に伴う解約の発生を織り込んでいます。
コスト面では、売上原価の通信費はユーザー数の増加、効率化ツールの導入、機能開発・実装によるAWS使用量の増加などを見込み、通期で前期比プラス24.5パーセントとなる5億6,000万円を計画しています。一方、広告宣伝費は、通期では前期とほぼ同水準の6億4,800万円を見込んでいます。
人件費については、既存プロダクトの成長、新プロジェクトの創出を見据えたエンジニアの積極採用の他、セールスの増強、バックオフィスの強化など、全社で40名以上の新規採用と既存社員の昇給を計画しています。したがって、全社人件費は通期で22億7,500万円を計画しています。
目次
成長戦略についてです。スライドの目次に沿ってご説明します。
当社の課題
まず、当社の現在の企業価値評価についてです。他のSaaS企業と比較して、PSR(株価売上高倍率)が低く、割安に評価されていると考えています。原因としては、今後の成長性に課題があるため、このような評価にとどまっているのではないかと認識しています。
これまでの売上高CAGRは21パーセントでしたが、2025年3月期の売上高成長率は前期比プラス12パーセントにとどまりました。さらに直近2025年3月期第四半期の売上高成長率は、前期比で7パーセント台まで鈍化しています。
この状況を受け、今後の成長に対して不安を感じている方も多いのではないかと考えています。売上高成長率をさらに高め、CAGR20パーセントのトレンドに戻していくことが、企業価値の向上に直結すると強く信じています。そのためには、一時的に利益を押し下げることがあったとしても、必要な施策をしっかりと実行していく必要があると考えています。
Nulabの強み
当社は「Backlog」において、1万4,000件の有料契約件数、145万人の有料ユーザーを誇る顧客資産を有しています。さらに、解約率は0.44パーセントという高い顧客満足度に裏づけられた開発力、製品主導の成長を支え、気軽に社外の方を招待できるライセンス形態、約30億円の現預金と前受金モデルによる安定した財務基盤といった強みを持っており、これらを最大限に活用してミッションを実現していきます。
Nulabの成長戦略
当社の成長戦略は3つの柱で構成されています。第1に「既存プロダクトの持続的な成長」です。創業以来強みとしてきたリファラルによる自然成長を維持しながら、セールス組織を強化してユーザー基盤を広げ、さらにAIを活用した機能強化で顧客体験を継続的に進化させていきます。
第2に「新プロダクトによる成長」です。既存顧客へのクロスセルを見据えた製品・サービスラインアップを拡充するとともに、新規プロダクト創出のためのR&D投資を加速し、新たな収益源を開拓します。
第3に「非連続的な成長を支えるM&A」です。シナジーが見込める企業を対象に、今後3年間で3社を目安として戦略的なM&Aを進め、事業ポートフォリオを強化していきます。
先ほどお話しした強みを活かし、既存事業の成長に加え、新プロダクトによる成長やM&Aによる非連続的な成長も組み合わせることで、中長期的に売上高100億円の実現を目指します。
Nulabの成長戦略
当社の課題として、足元では成長が鈍化傾向にあります。このトレンドを打破し、本来の20パーセント成長トレンドへ回帰するために、今期は投資を積極的に行う「種まき」の1年と位置づけています。
変化の早い市場において、常に競争力を維持し、優位性を確立していくためには、未来への収益基盤の強化が欠かせないと思っています。具体的には、AIを活用した機能拡充により製品の魅力を高め、これまでのプロダクトレッドグロースによる成長を目指します。加えて、セールスも組み合わせたハイブリッドな体制でトップラインを伸ばしていきます。
これらの施策は一時的に利益を押し下げることがあるとしても、将来的に新たな収益源となり、より強固な事業基盤を築くためのものです。投資が利益に先行するため、今期は一時的に減益となる見込みですが、2028年3月期までには利益水準を回復させて、継続的に過去最高益を更新し続けられる体質へと変革していきたいと考えています。
競争優位性を強化するためのAIを活用した製品機能拡充
昨今AIを取り巻く技術環境は大きく、そして劇的に変化しています。当社は、この重要なトレンドを的確に捉えて、ヌーラボプロダクトへ積極的にAIを取り込むことで、さらなる製品の価値を向上していきます。これにより、業務の自動化や効率化に貢献し、当社のミッションでもある「創造を易しく、楽しくする」ことの実現を目指していきたいと思っています。
製品主導による成長モデルの確立
「Backlog」は、これまで純粋なプロダクトレッドグロースで成長できた、数少ないサービスの1つだと認識しています。また、それはヌーラボの強みでもあると自負しています。ユーザー課金モデルではないかたちでリファラルの循環を生み、ユーザーエンゲージメントを向上させることで、みなさまに愛される製品を目指してきました。今や、ユーザーの自発的なコミュニティ形成がされるほどに、ユーザーのみなさまの輪が大きくなっています。
このようにユーザーのみなさまのエンゲージメントを高めることが、結果的にはLTVの最大化につながると考えています。足元ではセールス機能の充実を図っていますが、ベースとしてこのような戦略があることは、今後のヌーラボの成長を支える基盤となると考えています。
製品主導と、セールス主導のハイブリッド成長モデル
最後に、セールス機能の充実の方向性について少しだけ補足させてください。一般的に、セールス主導による成長には、営業サイクルが長くなりがちで顧客獲得コストが高くなるというデメリットがあると思います。しかし、高額プランを対象としたエンタープライズ層にターゲットを絞り、戦略的にアプローチすることで、製品主導による成長を補完することができます。
これにより、製品主導の良い面とセールス主導の良い面を組み合わせたハイブリッド型の成長モデルを構築していきます。
スライドはまだ続きますが、いったん私からのご説明は以上とします。最後までご清聴いただき、ありがとうございました。
質疑応答:利益を押し下げる投資に対する株主とのコミュニケーションについて
「営業利益を下げる大きな構造改革を行うことは、株主の期待に反していると思います。事業を伸ばす投資は良いですが、利益を大幅に削るのは、未来の利益を作りにいく転換点としては、株主に対して不誠実です。資本コストを意識する前に、株主とのコミュニケーションを適切にできるようにしてください」というご質問です。
経営陣として、ご指摘を真摯に受け止めています。株主のみなさまの懸念点は当然であり、当社の説明不足やコミュニケーション不足があったことを深く反省しています。先ほどご説明した成長性の資料でも示したとおり、成長率の鈍化は極めて重要な課題だと認識しています。
私たちは売上高成長率をさらに高め、年平均20パーセントのトレンドに戻していくことが企業価値の向上に直結すると強く信じています。変化の速い市場において、常に競争力を維持し優位性を確立していくためには、未来の収益基盤の強化が欠かせません。
AIなどの新技術領域への投資、新規セールス人材の採用、そしてM&Aといった施策は一時的に利益を押し下げることがあったとしても、将来的に新たな収益源となり、より強固な事業基盤を築くためのものです。したがって、これらは持続的な成長と中長期的な企業価値の最大化を目指すために必要な施策として、断固として実行していく必要があると考えています。
ご指摘のとおり、株主のみなさまへの情報開示やコミュニケーションのあり方については、さらに改善が必要であると認識しています。今後は、戦略の背景と意図の明確化、対話の機会の拡充などの点を特に意識して、より適切で誠実なコミュニケーションに努めていきます。引き続き、当社の事業活動にご理解とご支援を賜りますようお願いします。
質疑応答:2028年3月期の利益・利益率と中期経営計画について
「2028年3月期までに売上高70億円を目指しているとのことですが、この時の利益または利益率はどの程度の水準を考えていますか? また、中期経営計画は出さないのでしょうか?」というご質問です。
2028年3月期に売上高70億円を達成する際の利益や利益率について、現時点では具体的な数値目標をお伝えすることは差し控えます。ただし、当社としては、売上高成長と同時に利益性の向上も強く意識しており、最適な利益水準を目指していきます。
決算説明資料の成長イメージ図では、売上高成長に合わせて、利益も前期の水準より高いレンジに拡大していく方向性を示しています。これが当社の目指す姿です。
利益率の向上について、3つの視点でご説明します。1つ目は、規模の経済による固定費の効率化です。売上高が70億円規模に拡大するにつれて、人件費やシステムインフラ費用といった固定費が売上高に対して相対的に小さくなる、いわゆるスケールメリットが出てくると考えています。これにより、現在の利益率を上回る水準を目指せると認識しています。
2つ目は、M&Aによるシナジー効果です。M&Aは単に売上を獲得するだけではなく、買収した事業とのシナジー効果によるコスト削減や効率化も期待できると考えています。具体的には、買収対象企業のコスト構造改善、既存事業との連携による販売管理費の効率化、そして共通プラットフォームの利用による開発費の抑制などが挙げられます。
3つ目は、セールスマーケティング投資の効率化です。成長段階においては、セールスやマーケティングへの投資が先行しますが、事業の成長に伴って、既存のお客さまからのリピートやアップセルによる収益性の向上が期待できます。これにより投資効率が改善し、利益に貢献していくと考えています。
これらの要素を総合的に考慮し、事業成長と収益性のバランスを最適化することで、持続的な株主価値向上につながる利益水準を達成することを目指しています。
また、ご指摘のとおり、中期経営計画として株主のみなさまに当社の将来のビジョンと具体的な成長戦略、財務目標を明確に示すことは、IR活動において極めて重要であると認識しています。
中期経営計画の具体的な開示時期について、現時点ではお伝えできないのが申し訳ないのですが、現在、M&A戦略や財務戦略のブラッシュアップ、そして各事業部門の詳細な事業計画の策定や予実管理の精度向上などに向けた体制準備を進めています。これらが整い次第、公表できればと考えています。
中期経営計画を通じて、当社の持続的な成長性と企業価値向上へのコミットメントを明確にお伝えし、株主のみなさまの期待に応えていきたいと考えています。
質疑応答:事業価値向上の具体的な施策について
「貴社の時価総額や手元預金などB/Sの状況から考えると、事業価値が低いと思いますが、対策の必要性を考えていますか? なにか具体的な選択肢はあるのでしょうか?」というご質問です。
経営陣一同、この現状を深く認識しています。
当社のPSR、つまり株価売上高倍率が低いのは、市場が当社の売上高成長を過小評価していることに起因すると分析しています。この課題を克服して、適正な企業価値評価を実現するため、当社は3つの柱で具体的な打ち手を講じていきます。
1つ目は、既存事業の持続的な成長によるPSRの改善です。当社のPSRを向上させる最も根本的な方法は、本業における継続的かつ高水準な成長を実現することです。
売上高を成長させるため、営業体制の強化、AIをはじめとする製品開発への投資、そして新規市場の開拓など、積極的な投資を通じて既存事業の売上を確実に伸ばし、市場が当社の成長性を再評価するような実績を積み重ねていきます。特に、売上高成長率を年平均成長率20パーセントのトレンドに戻すことを強く意識し実行していきます。
2つ目は、M&Aによる成長戦略の加速とレバレッジ効果です。既存事業の成長に加えて、M&Aを戦略的な手段として活用して成長を加速させるとともに、企業価値を最大化するレバレッジ効果を追求します。
新たな成長ドライバーの獲得として、シナジー効果が見込める事業や技術を持つ企業を買収することによって、短期間での市場シェアの拡大、新分野への参入、技術力の強化を図っていき、売上高成長の速度を向上させていきます。
また、M&Aを通じて獲得した事業との統合により、コスト削減や業務効率化を実現し、効率的な経営基盤の構築を通じて収益性を向上させることで、PSRの向上に貢献します。さらに、潤沢な手元資金を有効活用し、無駄なく成長投資へ振り向けることで資本効率の改善も図っていきます。
3つ目は、株主還元の最適化です。株主のみなさまへの還元は経営の重要課題であり、企業価値向上と株主還元のバランスを常に最適化していきます。配当や自己株式取得といった株主還元策についても、その時点での最適性を考慮して柔軟かつ機動的に検討していきます。特に、今後のM&A戦略を見据え、自己株式の取得を通じた株主還元については積極的に検討したいと考えています。
これらの戦略を実行していくことで、市場における当社の売上高成長への評価を高めて、現状の割安な時価総額を改善し、株主のみなさまの期待に応える企業価値の実現に努めていきます。
質疑応答:自己株式取得や配当などの株主還元ついて
「直近3月末時点で現預金が31億円あり、時価総額と比較しても現金比率が高くなっていますが、自己株式取得や配当はいつ検討しますか? 株主還元に対する姿勢が消極的だと感じます」というご質問です。
株主還元に対する方針として、5月20日に開示した「資本金の額の減少(減資)に関するお知らせ」について、その背景と当社の成長戦略における位置づけと合わせてご説明します。
当社は、今後の企業価値向上において、M&Aを成長戦略の重要な柱の1つとして位置づけています。競争が激化する市場環境において、M&Aは新たな技術、顧客基盤、そして市場機会を獲得するために非常に有効な手段だと認識しています。
配当による直接的な還元も重要であることは認識していますが、現在の事業環境や当社の成長ステージでは、資金を戦略的な投資に振り向けることが、結果としてより高い企業価値の向上につながると確信しています。
今回の減資は単に会計上の手続きにとどまらず、株主還元を柔軟にかつ機動的に実施することを目的としています。財務戦略として、M&Aのようなビジネススケールにつながる投資に充てるというスタンスに変更はありません。
株主還元方針としては、配当や自己株式取得が選択肢として挙げられますが、今後普通株式を対価とした戦略的M&Aに活用する可能性も踏まえつつ、自己株式の取得を通じて株主還元を行うことも検討していきます。
もちろん株主のみなさまへの還元として、配当の重要性は十分に認識しています。私自身も株主の1人であり、配当による直接的な還元を望む気持ちがないわけではありません。しかし、現時点においては、目先の配当よりもM&Aなどの成長投資に資金を投じることのほうが、中長期的な企業価値の向上につながるという強い信念を持っています。結果として、株主のみなさまにとって最大の利益につながると確信しています。
質疑応答:セールス主導での売上拡大について
「2026年3月期は有料契約件数を前期比20パーセント程度伸ばす計画に対して、広告宣伝費は前期比2パーセント増ですが、どのように契約数を伸ばすのでしょうか? 足元のセールス主導での売上拡大の手応えを教えてください」というご質問です。
広告宣伝だけが売上を伸ばす唯一の手段ではありません。これまで当社は、製品主導の成長を続けてきており、なるべく広告に依存しないかたちで事業を拡大してきました。
今後もこの基本路線は維持していきたいと考えています。広告宣伝費を前期比2パーセント増に抑えつつ、有料契約件数を前期比で20パーセント伸ばすという目標は、より効率的かつ戦略的な4つのアプローチによって実現していきます。
1つ目は、新規セールス人材の早期戦力化です。以前ご説明したとおり、採用した新規セールス人材の育成を加速させ、早期に売上へ貢献できる体制を構築します。
2つ目は、既存顧客からのアップセル・クロスセルの強化です。既存の有料契約のお客さまに対して、より高機能なプランへのアップグレードや関連サービスのクロスセルを積極的にご提案していきます。
3つ目は、オンボーディングの改善です。新規ユーザーが直面する最初のハードルを軽減して、プロダクトをスムーズに活用できるように、導入初期段階からしっかりと支援します。
4つ目は、製品・サービスの価値向上と差別化です。AIなどの機能を拡充することで、新規契約の増加や解約率の低下を目指します。
当社では持続的な成長を実現するため、セールス体制の強化を今期の重点課題の1つとして位置づけています。セールス主導での売上拡大の手応えについては、まだチームを組成中のため定量的な成果をお示しできる段階ではありませんが、非常にポジティブな手応えを感じています。
また、新規セールス人材の採用を積極的に進めていますが、営業活動の性質上、採用したセールス人材が市場や製品知識を習得し、お客さまとの関係を構築して、実際に契約を獲得するまでには時間がかかります。
そのため、今期は先行して関連費用が発生し、一時的に売上よりも費用が先行する見込みです。これは将来の収益基盤を盤石にするための戦略的な投資だと考えています。採用したセールス人材が本格的に稼働を始めれば、売上高は着実に増加していく見通しです。
投資家のみなさまには、これらの戦略的投資の意義をご理解いただき、引き続き温かいご支援を賜りますようお願いします。
質疑応答:「Backlog」の値上げと料金体系について
「2023年1月に『Backlog』の料金を改定してから2年以上が経過しましたが、今後さらなる値上げ余地はあるのでしょうか? ユーザー数無制限で定額料金という設計が今も最適だとお考えですか?」というご質問です。
今後の値上げの余地について、当社では常に戦略的な観点から検討を進めています。市場環境、当社サービスが提供する価値、競合他社の動向、インフレ率やコストの上昇、そしてお客さまからのフィードバックを総合的に分析し、慎重に判断していきます。
現時点では、具体的な値上げ時期や値上げ幅をお伝えすることは難しいですが、提供価値の向上と費用対効果のバランスを見極めながら、最適なタイミングと方向で価格改定の可能性を探っていく方針です。
次に、ユーザー数無制限で料金定額という現在の設計の最適性についてです。現時点ではこの料金体系が多くのお客さまにとって大きな魅力であり、当社サービスを導入する大きな強みの1つであると認識しています。
しかし、この料金体系が将来にわたって常に最適であるとも限りません。将来的な成長戦略や市場環境の変化を見据えて、最も企業価値向上に資する料金体系を追求し、必要に応じて柔軟な見直しを行っていく方針です。