アイコム株式会社の概要
中岡洋詞氏:本日はお忙しい中、アイコム株式会社の決算説明会にご出席いただき、誠にありがとうございます。代表取締役社長の中岡洋詞です。よろしくお願いします。前61期に開催した60周年記念イベントで上映したアマチュア無線通信機器の歴史の動画を冒頭でご覧いただきました。
当社はアマチュア無線を祖業として創業70年、設立60周年となりました。現在もなお、国内外で「アイコム」というブランドはアマチュア無線機器をイメージする人が多く、特に170万人強のアクティブなアマチュア無線家の中でアイコムを知らない人はいないほどです。
現在「中期経営計画2026」に取り組んでおり、サステナブル経営のもと、100年企業を目指しています。
2025年3月期決算発表会および今後の見通しに関する説明に入る前に、アイコム株式会社の今までの歩みや製品カテゴリの展開など、100年企業に向けての取り組みを簡単にご説明します。
当社の概要はスライドのとおりです。創業時からアマチュア用無線通信機器の開発・製造・販売をスタートし、陸上業務用、海上用、航空用、ネットワーク機器へと業容を広げ、近年にはIP無線から衛星無線通信機器まで、自社の取り組みとイノベーションにより、安定した成長を実現してきました。
2025年3月末時点での社員数は1,057名で、そのうち約7割の社員が何らかのかたちで技術に関わっています。1976年にドイツに最初の海外現地法人を設立して以来、海外展開にも注力し、国内14拠点に加え、海外の子会社、孫会社9社および関連会社3社を含め、グローバルにアイコムグループを構成しています。また、国内および海外ディストリビューターによる販売ネットワークは約180の国や地域にわたり、当社製品を販売しています。
ステークホルダーのみなさまのおかげで無事に60周年を終え、1つのマイルストーンに達しました。これは通過点に過ぎないと考えており、創立100年を目指してさらに努力を重ねます。
アイコム株式会社の歩み
スライドはこれまでの歩みです。当社のコアビジネスは無線機です。現代社会で無線は幅広い意味を持つようになっています。無線の中で、トランシーバーという機器を中心に、製品の企画から販売まで、自社完結で対応しています。
当社は60年の歩みで、さまざまな時代や経済環境の変化、無線技術の発展と進化に適応し、製品カテゴリもアマチュア無線から陸上業務用、海上用、航空用とさまざまな分野に展開してきました。
創業当時、日本国内だけで1,200社以上の無線機器メーカーがあった時代から、他の多くの会社のように買収や合併、廃業をせずに、現時点でもオリジナルの業態を貫いているのは、唯一当社だけだと自負しています。
アイコム株式会社の強み
冒頭でお伝えしたとおり、当社はアマチュア無線からはじめ、さまざまな無線の主要な製品カテゴリへと展開しています。
各カテゴリの製品はすべてアイコムのブランドで、多くの場合、そのカテゴリのベンチマークとして市場で高い評価をいただいています。60年間の成長、実績および市場からの信頼をいただいている背景には、創業以来、コアビジネスから大きく外れないという信念があったからだと考えます。近年、サステナブル経営が注目されていますが、当社は創業以来、持続可能な経営を貫いてきました。
アイコム株式会社の技術
当社は「常に最高の技術集団であれ」を社是として掲げています。
スライドに記載している保有技術は代表例ですが、世の中で無線と認識されている技術には少なからず当社も携わっている可能性が高いと思います。黎明期の短波帯やAMやFMラジオの技術はもちろん、最近のデジタル化した無線通信における各種デジタル技術も保有しています。
インターネットでなじみの深いIPも当社の無線機や無線LAN製品と親和性が高く、4Gや5G、サテライト・衛星通信など、日常耳にするような技術にもいち早く取り組み、さまざまな製品を供給してきました。
アイコム株式会社の「初」
半世紀以上無線を専門としてきたからこそ、世界初および業界初、日本初のさまざまな製品を生み出しています。スライドに記載している内容は代表例に過ぎませんが、業界の動向に大きな影響を及ぼした内容が多く含まれます。
私のアメリカ駐在時代に、業務用無線の周波数がいっぱいとなり、アメリカ政府機関から狭い帯域のチャンネルによる通信を確立するよう要請が出ました。当時「技術的に不可能」とされていた6.25キロヘルツの狭帯域デジタル技術は、当社が世界で初めて実現しました。
アメリカ最大の無線機の展示会「IWCE」で、実物の製品を初めて展示した時のマーケットの反応は今でも忘れられません。アマチュア無線用に開発した世界初のデジタルプロトコルであるD-STARの技術が関係しています。これは、まさに当社の強みを象徴する1つの歴史です。
アイコム株式会社の強み
他にも当社のユニークさ、強みと考えているものがいくつかあります。かつて「Made in Japan」は日本の経済成長を象徴するものでした。
製造業の世界では、価格競争力の強化のため、海外への生産移管による産業の空洞化が広がりましたが、当社は創業以来一貫して「Made in Japan」にこだわり続けています。和歌山県に2つの工場を保有しており、月産15万台の生産能力を保有しています。
「高品質を日本から」を合言葉に、ある機種は100台、またある機種は2,000台といった、少量多品種の生産が可能な柔軟性の高い「IPS(アイコム・プロダクション・システム)」を構築しています。
近年では、将来の人手不足を考慮したロボット生産をいち早く導入しており、これも当社が業界初だと思います。現在は、5Gを含めたスマートファクトリー化にも取り組んでおり、新たなビジネスモデルへの展開を目指します。なお、和歌山アイコム株式会社に関する専用のホームページを開設しましたので、ぜひご覧いただきたいと思います。
アイコム株式会社の強み
スライドの写真は、昨年10月に開催した60周年記念イベント「チーム・アイコム総会」の様子です。
アイコム本社、国内営業拠点、和歌山アイコムなど国内の子会社、海外現地法人、そしてお客さまを含む約1,250人で祝典を開催しました。このイベントで、参加者一同「チーム・アイコム」をスローガンに、さらに結束力が強化されたと考えます。当社の大きな財産となり、今後の持続可能な経営でも大きな助けとなりました。
アイコム株式会社の強み
当社のサステナブル経営をよりよくご理解いただけるように、主要な数値をご説明します。財務基盤の面からいうと、企業の規模としてはそれほど大きくありませんが、非常に安定した土台を持っています。
総資産をはじめ、資金力や無借金経営をベースに、スライドに記載のとおり「30期連続黒字」などの実績を上げています。引き続き、当社が無線機業界および関連市場で、当社の何十倍もある大きな競合他社と競争していくための財力を確保していきたいと考えます。
2023年3月期、2024年3月期に続いて、2025年3月期も3期連続で連結売上高の最高記録を更新しています。また、中期経営計画で掲げている利益追求の実現に向けては、現時点では前倒しして増収・増益の状況にあります。投資計画も、3年間で約105億円の計画に対し、2年目の段階ではほぼ予定どおりに進んでいます。
アイコム株式会社の強み
100年企業に向けて、近い将来に連結売上高500億円の達成を目指します。日々、業務改善と技術力アップを持続すべく、中長期での人材確保、老朽化の懸念される施設の建て替え、設計環境の整備と改善など、労働環境の充実にも取り組んでいます。
創業以来、ほとんどのビジネス工程を自社完結で行ってきました。いわばすべてを自前主義で行ってきましたが、その利点は引き続き活かしながら、今後はパートナー企業とのコラボレーション、M&Aによる人材や技術の確保、また新規ビジネス開拓にも取り組みます。
安定した経営基盤および成長の持続的維持を常に意識することで、当社の総合的な企業価値の向上を目指し、投資家のみなさまのご期待に沿えるよう努力します。
アイコム株式会社のサステナブル経営
現在は300億円台後半の売上となっていますが、先にお伝えしたように中期的な目標として500億円の売上を目指しています。今後の売上目標の達成に向け、会社の資産同様、参入可能な注力市場の潜在性は重要なファクターの1つと考えています。
昨年の決算説明会と重複しますが、当社で把握している参入可能な市場の推定規模をスライドに記載しています。当社にはまだ成長できる十分な市場があるということをご理解いただけると思います。
アイコム株式会社のサステナブル経営
当社は常にサステナブル経営を意識しています。また、当社は今後の成長および企業価値向上のために必要な要因・要素も備えていると考えます。100年企業に向け、投資家のみなさまをはじめ、すべてのステークホルダーのみなさまのご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
目次
「2025年3月期決算発表会」および「今後の見通し」のご説明を行います。本日の主な説明内容はスライドのとおりです。
2025年3月期 決算ハイライト
スライドは主要となる数値です。2025年3月期第2四半期の説明資料には、連結売上高、営業利益、試験研究費とロボット生産実績を記載しました。今回は、当社が取り組んでいるKPIの数値を含め、会社の実態をよりわかりやすくお伝えできるように、財務関係とそれ以外の重要な数値に分けています。
後ほど詳細をご説明しますが、このスライドでは、財務系の数値となる売上高、営業利益、経常利益、ストックビジネスにまとめています。
売上高は3期連続で過去最高を更新し、営業利益も前期を上回り、増収増益となっています。
2025年3月期 決算ハイライト
財務関係以外の鍵となる数値です。先ほど3年間で約105億円の投資計画とご説明しましたが、現時点2年間で約73億円の投資実績となっています。試験研究費は40億500万円で、前年同期比1.1パーセント増、売上構成比は10.6パーセントと目標を達成しています。
和歌山アイコムの総生産台数は、84万7,466台と前年を下回りました。これは、米州の在庫過多による生産調整によるものです。一方、ロボット生産台数は27万2,055台で、ロボット生産比率は32.1パーセントと、引き続き目標を上回る実績となっています。
売上高及び収益増減
一部の電子部品を除き、全般に生産財の供給状況は回復しています。これにより、各地で供給過剰による一時的な在庫過多となり、当社にとって最大市場である米州市場では、陸上業務用無線通信機器が前期を下回る結果となりました。
一方、アマチュア用無線通信機器では、60周年記念関連製品および新製品効果により、大きく売上を伸ばしました。加えて、陸上業務用無線通信機器においても、国内市場におけるIP無線機の需要が堅調に推移したことや、国内外で各種入札案件を獲得したことで、全体としては3期連続で過去最高の売上実績となりました。
また、期初の想定に比べ、為替相場が円安に推移したこともあり、現地法人の人件費や一般管理費が増加した中、営業利益面では前年を若干上回る実績となり、結果として増収増益となりました。
なお、当社の主要製品分野の1つとなっているIP無線およびそれに伴うストックビジネスは堅調に推移しています。ストックビジネスも重要なKPIとしており、スライドに記載のとおり、現時点の割合は目標を上回り、総売上高の9.5パーセントとなっています。
資産及びキャッシュフローの増減
当期の財務状況の概要についてご説明します。はじめに、資産、負債、純資産の状況です。前連結会計年度の数字との比較でご説明します。
総資産は、7億2,900万円増加し、738億8,800万円となりました。
負債合計は、8億8,500万円減少し、65億2,800万円となりました。純資産合計は、16億1,400万円増加し、673億5,900万円となりました。
キャッシュフローの概況です。営業活動により増加したキャッシュフローは、25億1,300万円となりました。前年同期は22億800万円だったため、3億400万円増加しています。投資活動により減少したキャッシュフローは、26億6,900万円となりました。前年同期は36億7,500万円の減少でした。
財務活動により減少したキャッシュフローは、13億9,300万円となりました。前年同期は11億2,400万円の減少でした。
品目別売上高増減
スライドの品目別の売上高を見ると、製品カテゴリにより対前年の増減があり、全体として売上高は前期を若干上回る結果となりました。
陸上業務用無線通信機器は、地政学的リスクの高まりによる需要拡大や、前期に続くストックビジネスの伸長がありました。しかしながら、他社の供給不足が解消されたことや、一時的な在庫過多が生じたことにより、売上は減少しました。
アマチュア用無線通信機器は、当社60周年記念活動を含め、発売した新製品の効果もあり、売上は増加しました。
海上用無線通信機器は、地域により季節的な需要増はあったものの、特にオーストラリアと北米において、物価高騰に伴う高金利が船舶需要に影響し、売上は減少しました。
付属品その他は、海洋航法機器の売上停滞があった反面、航空用無線通信機器およびネットワーク機器が売上全体を支え、前期売上とほぼ同じ水準となりました。
品目別売上高構成
製品ポートフォリオおよび2025年3月期の連結会計期間における各カテゴリの販売比率です。
先ほどご説明したとおり、米州での在庫過多による売上減少により、陸上業務機が対前年で2ポイント下落しています。一方で、アマチュア用無線通信機器が、60周年関連製品の新製品効果もあり、対前年で2ポイント構成比率を高めました。
このカテゴリ間の比率の変動は、当社が幅広い製品カテゴリを取り扱う強みだと考えています。つまり、苦戦しているカテゴリがあってもほかのカテゴリがカバーしていくことが可能となった事例の1つだと思っています。
地域別売上高増減
日本市場は、陸上業務用無線通信機器において、経済活動の回復に伴う需要増により、IP無線の売上やストックビジネスの伸長が引き続き貢献し、前期売上を上回ることができました。
海外市場は、米州の陸上業務用無線通信機器において、衛星通信機器の需要が伸びたものの、その他製品で一時的な在庫過多が生じたことや、他社供給再開などが影響し、低調な売上となりました。
欧州地域は、域内の経済低迷が主因となり、売上が伸び悩みました。
アジア・オセアニア地域は、地域特定モデルの販売が堅調に推移したことに加え、衛星通信機器やIP無線のレンタル需要が増加したことにより、売上を伸ばしました。
地域別売上高構成
スライドに記載している2025年3月期連結会計期間の増減比率は、前項で説明した売上の地域別・カテゴリ別の実績です。
米州以外の地域の品目割合は、前年同期のレベルを維持しています。しかし、米州の陸上業務用無線通信機器の比率が約6ポイント減少したことが、全体の売上に影響を与えています。
セグメント別売上高-所在地別-
スライドはセグメント別売上高をまとめたものです。
2025年3月期時点に実施した投資の概要
「中期経営計画2026」に今後3年間の投資計画を記載していますが、スライドには現在の実績をお示ししています。新製品および新規技術の研究開発とともに、設計および本社スペースの環境確保と改善以外にも取り組んでいます。
M&A案件も引き続き検討しており、人的資本にも注力しています。事業構想大学院大学のプロジェクトに10名以上の社員を研究員として参加させているのはその一例です。今後も積極的な投資を継続していきます。
2026年3月期 業績予想
2026年3月期の見通しについてご説明します。2026年3月期は、2024年5月14日に発表した中期経営計画のとおり、連結売上高400億円、営業利益40億円、営業利益率10パーセントを計画しています。
前のスライドのとおり、すでに取り組みを開始している各製品カテゴリの新製品および新技術の開発と関連する投資を継続する予定です。試験研究費は、引き続き売上の10パーセント以上の水準を維持しています。
2026年3月期 業績予想
当社を取り巻く事業環境は、地政学的リスクに加え、円高および物価上昇や物流コスト増など、不透明な状況が続くと見ています。一方、当社グループがターゲットとする無線通信機器市場は、経済状況の影響を受け、分野ごとに異なる需要変動をしていますが、2026年3月期通期想定の売上高は達成できると見ています。
為替変動は続くことが想定されますが、為替に関係なく、今後も「利益創出」体制強化を目指していきます。
2026年3月期 配当予想
株主還元方針は、現在の「1株当たり年間配当額50円」あるいは「連結配当性向40パーセント」のいずれか高いほうを下限とすることを最低ラインとして維持します。
2026年3月期の配当金予想は、通期で96円です。ただし、予想以上の利益が実現する場合は、その水準にふさわしい配当額とします。
トピック
2025年3月期のトピックについてご説明します。
「中期経営計画2026」にある当社のサステナビリティ経営の推進に伴い、2024年11月上旬に、日本語版のサステナビリティ専用サイトを公開しました。2025年2月上旬には、英語版のサイトも公開しています。
ESGへの取り組みをはじめ、TCFDの実績や企業の社会的責任の活動など、当社のサステナビリティ推進に関する情報を掲載していますので、ぜひご覧ください。
トピック
TCFDへの賛同を含め、日々温室効果ガス削減への取り組みを進めています。
スライドのグラフは、温対法に基づき、年度ごとに算出している温室効果ガス排出量の推移です。CO2の排出量は、前60期以降、増減していますが、社業の拡大に伴い、トレンドとしては増加しています。業容拡大に伴う温室効果ガスの排出量の増加は避けがたいですが、種々工夫しながら、引き続き2030年の目標達成に向けて取り組んでいきます。
右側の表は、CDPへの取り組みを表しています。当社の環境対応と水資源対応に対して、各項目で評価され、ともにCスコアーをいただいています。
トピック
その他のトピックはスライドに記載のとおりです。61期は新製品として、既存製品の後継機などを含め、13機種を発売しました。中でも、当社の祖業製品の分野であるアマチュア無線「IC-7760」「ID-52PLUS」の新製品発売は売上に大きく貢献しました。
加えて、技術資料として、『IC-7760のすべて』と『IC-905開発へのこだわり』をWeb書籍として公開しています。
続いて、各種表彰です。61期も「IC-M510 EVO」が「NMEA賞」を受賞しました。海上用無線業界のベンチマークとなっている当社の無線機は、北米のマリン業界を代表する「NMEA賞」を11年連続で受賞しています。
CSRの一環で、大阪・関西万博のオフィシャルパートナーとして、機器の提供などを行っています。
今回の決算説明会は以上です。ご清聴、誠にありがとうございました。