質疑応答:自社株買いについて
司会者:今回は初心者さん限定ということで、広木さんに簡単にご説明をいただきます。
ではさっそく、質問をしていきたいと思います。「自社株買いは、EPS増加、ROE改善、株主還元など評価されるようですが、株式市場で資金調達するという本来の目的に反し、本末転倒だと思います。どうすれば、各企業は成長投資をするのでしょうか?」というご質問です。
広木隆氏(以下、広木):どう考えてもこの人は初心者じゃないでしょ。経済学者の先生みたいですよ。でもしょうがないかな。答えますか。
そのとおりですね。EPS増加、ROEの改善、これはただテクニカルな話なので正しいです。そうするとどうなるのかというと、財務テクニックでEPSが増えるだけの話なので、評価にはつながらない。
実際、自社株買いをして、株価が好反応するケースはすごく多いし、大概はそうなります。どうして自社株買いがマーケットに好感されるのか、それだけを研究している先生もいるんですよ。学術的なテーマにもなるぐらいなんです。ただ、自社株買いの効果は長く持たずに、その後、また株価が下がってしまうとも言われているので、結局、一時的な効果にすぎないんじゃないかと思います。
よく言われるのは、企業が現金を持ちすぎているということ。ファイナンス的に現金は何の価値も生まないものなので、現金を持ちすぎているということが、そもそもマイナスであると。使わない現金は株主に還元せよ、ということなので、株主還元を行うと株価が好反応して、上がるというのが1つの道筋なんですね。
おっしゃるとおり、お金を返す行為なので、上場している以上、ファイナンスをしてそれを成長のために投資するのが、企業のあるべき姿だろうと。それはそれでわかるんだけど、極論は自由なんですよね。幅広くいろいろなところから資金を集めて、それを事業に回して、さらに投資をして、成長していくのが上場のあるべき姿と言えますが、逆に言えば、上場するもしないも自由だし、上場した企業がどう振る舞おうが、それも企業の自由じゃないかという話なんですよ。
それこそ今、散々批判されているように、上場をゴールに捉えているような起業家もいる。上場して、自分の持っていた株が、市場で評価されて、億万長者になって、もうそれでいいやという、上場がゴールだから、そこから後の業績も会社の経営もパッとしない人もいる。残念ながら、そういう企業もすごく多い。ただ、それに対して、けしからんとか、上場した以上はリステッドカンパニーとしての責務を果たせ、と言って迫るのもまた投資家。市場の役割なんですよね。
だったら、そういう株は買わない、あるいは売り崩したりしてもいいわけだし。それが、そういう仕組みをどんどん作っていくということなんだろうと思いますよ。なので、投資もせず、成長もしない企業は、投資家から見向きもされず株価がつかない。要は、流動性の観点からも売買がなければ、それだけでも市場から退出する要件になるので、そうやってどんどん時価総額が下がったり、流動性が低下したりして、東証がそういう企業に上場廃止を迫っていくことで、市場から追い出されていくというルールを徹底して、もっと厳しいものにしていくのがいいんじゃないかなという気はしますね。
質疑応答:株式の始まりについて
司会者:続いて、「そもそも株式はどうして始まったんですか?」というご質問ですね。
広木:それは教科書とか読んでくださいという話なんだけど、いわゆる大航海時代に、ヨーロッパの人たちが船を仕立てて、それこそジパングとかを目指したわけじゃないですか。金銀財宝や絹、あるいはインドの香辛料だとかね。香辛料は本当にすごく高額だったわけで、チャレンジというか、冒険のための、まさにベンチャーですよね。
そのために巨額の資金を募ったわけですが、そんな大事業は1人じゃできないから、そこで生まれたのが株式。大航海のための資金調達というところで、株式というものが使われたのが起源じゃないですかね。
やはり株式会社を一番有名にしたのはオランダの東インド会社でしょ。それが最初ではないんだけど、一番有名な初期の株式会社は東インド会社ですね。まさに名前のとおりで、インドとかに行って貿易のための事業をやるために、広く資金調達をしたというのが、株式ができた起源じゃないかなと思いますね。
質疑応答:口座選びについて
司会者:続いて、「みなさんは口座選びはどうしておられるのでしょうか?」「源泉徴収ありの特定口座にしておられるのでしょうか?」ということです。
広木:簡単だから普通はそうですね。今日は初心者限定なので、それでいいと思います。ただ、配当がたくさんあって、総合課税になると、基本は税率が高くなります。
今非常に問題になっている暗号資産は雑所得なので、総合課税になってしまって、普通は源泉20パーセントで済まないだろうから、それはちょっと困るよね、みたいな話になっているんですが、やはり源泉分離は、いちいち申告する必要はなくて楽なので、普通はそうしていると思いますよ。
質疑応答:トリプルレッドの終わりの始まりについて
司会者:「トリプルレッドの終わりの始まりと広木さんは言われていましたが、中間選挙までは株価にとってマイナス要因が少ないということなのでしょうか?」ということです。
広木:いや、そういうことじゃないです。それは違います。
僕が言っているのは、今はトリプルレッドになっているので、もうトランプ大統領がやりたい放題ですと。要は、上院も下院も全部共和党だから、反対されることがない。もっと言っちゃうと、トリプルじゃなくてクアッドで、実は司法、要は最高裁の判事を共和党寄りに変えて、今は、最高裁も共和党寄りの構成になっているので、司法・立法・行政の三権分立が、全部共和党なんですよね。もうやりたい放題。
ただ、中間選挙になると、結局負けるだろうから、こういうのが続くのはあと2年だよと言っているわけです。共和党が票を落として、議席を失うだろうから、トリプルレッドは崩れるだろうと。
結局、トランプが復活を果たしたからといって、低所得者の生活は楽にはならないと思うんですよね。トランプ氏は自分の支持者に受けるようなことをずっといろいろ言ってきた。
まさに今、移民の送還が始まっていて、コロンビアといろいろやってたり、メキシコのところもそうだし、領土拡大とか、メイクアメリカグレートアゲインというのはアピールポイントにはなるかもしれないけれども、肝心の、人々の暮らし向きがどうなるかというと、ここは良くはならない。トランプの政策で良くするのは難しいんじゃないかな。
つまり、今やっていることって全部、富裕層にとってはすごくいいですよ。要は規制緩和で、ビジネスマンにはすごくいいだろうし、ウォールストリートも万々歳だし、それから暗号資産業界もものすごく喜んでいる。あとはドリル・ベイビー・ドリルでエネルギーとか産業とか石油とかも、ものすごく潤っている。
それで景気があまりにも良くなったら、もう1回インフレになると言われていますよね。結局、関税も輸入品が全部高くなるし、移民を追い返したら人手不足になる。全部インフレ要因になってきているので、低所得者の人たちの暮らし向きは、たぶん良くはならないだろうと。トランプ氏は製造業をアメリカに持ってきて、そこで雇用を生むとは言っているんだけど、結局のところ、今さらアメリカで製造業をという人は、あまりいないわけです。
この間、ソフトバンクグループとか、OpenAIとか、オラクルとかが5,000億ドルという巨額のAIインフラへの投資を発表しましたが、AIはインフラだから。AIのインフラストラクチャに関連する仕事ができる人なんて、トランプを支持した低所得者層とはぜんぜん違うでしょ、ラストベルト地帯の人とは。
じゃあもうすでにあるUSスチールの労働者にとって、いいのは何かと言ったら、買収額そのものが高い、日本製鉄に買われるほうがよっぽどいいわけです。
労働の環境だとか、待遇だとか、いいものでやっていくと言って、みんなそれで合意しているのに、変な横槍入れてUSスチールの買収をダメにしたら、アメリカの労働者の暮らしぶりは改善しないでしょ。
だとすると、2年間やってきたけれどちっとも良くならないって、当然、共和党は離散しますから。今、もう上院はけっこう拮抗しているんですよね。上院の解散数は、この間から言っていますが、共和党のほうが多いので。そういう意味では共和党のほうが議席を失う確率が高くて、トリプルレッドが崩れると。そういう意味合いのことを言っているわけです。
質疑応答:株価の決まり方について
司会者:続いて、「株価は、どうやって決まるのでしょうか? 板という数字の並びを見てもよくわからないです。教えてください」
広木:株価はどうやって決まるかって、これはもう本当に哲学的な質問なので、それこそ株価の決まり方だけで本一冊書けます。その本も、正しいことが書ける人はたぶんあまりいないと思うし、そればかりはもう誰にもわからないので、本当にそういう大上段の議論をするとなると、時間がいくらあっても足りないという話になりますよね。
株価はどうやって決まるのかを追い求めてきたのが僕の人生みたいなもんだから。本当に、一言では言えない。ただ、質問の最後に、板を見ていてもよくわかりませんって書いてあるんですよね。そういう制度面であれば、これはもう簡単な話なんですよね。
今は、東証のアローヘッドというシステムが、ものすごく速くなっていて、1,000分の1秒を争うようなスピードで値刻みが行われています。前は、ミリセカンド、1,000分の1秒と言っていたのですが、今は、ナノセカンドぐらいの速さ。あまりにも速く動くから、人間の目じゃ株価は見えないですよ。
板を見ていると株価が止まっているように見えるし、下一桁が1円と2円の間で動いているように見えますが、本当はその何万倍も速く、ピクピク動いていて、人間の動体視力じゃ捉えられないぐらいに動いているわけです。そういうように株価は動くわけです。
注文が入ってくるから動くわけですが、その注文には、時間優先と価格優先という2つの原則があるんです。つまり、早く出した人は、その注文の先頭に並べるんですね。要は、売り注文と買い注文が合致するから商いが成立するわけで、その注文の先頭からつき合わせて、合致していくので、早く出した人が先に行ける。それを時間優先と言います。なので、100万分の1の世界を争うために、みんなシステムの投資をしているわけです。
これは結局、ハードの世界なんですよ。デジタルですが、結局それって、光の速さで言ってみれば物理的なケーブルを通っていくわけじゃないですか。遠いところにいたら損だから、みんな東証のところに、コロケーションといってサーバーを置くんですよ。物理的に近い方が速いから、東証に置いているんです。
速いほうが時間優先で行くから、いわゆるハイフリークエンシーという、高頻度取引をやる業者はみんな近くに置いているんです。
あとは価格優先です。要は、買うんだったら高い値段、売るんだったら安い値段が先頭に来る。それがぶつかって株価は決まっていくというのが、仕組みといえば仕組みですかね。
質疑応答:初心者がチェックしておくべき情報について
司会者:続いて「日経新聞や録画をしていた「モーサテ(Newsモーニングサテライト)」、「WBS」を観ていたら、個別の銘柄分析に充てる時間があまり取れません。初心者であれば、これだけはチェックしておくべきという情報をぜひ教えてください」ということです。
広木:普通は何もしなくていいのですが、やはりバブルの時は売らなきゃいかんので、今がバブルかどうかをはかる1番の基本は、PERなんだと思います。なので、市場全体のPERを見て、異常な水準まで高まっていないかというのは、定期的にチェックしておけばいいんじゃないかなと思います。
質疑応答:保管振替制度について
司会者:続いて、「ほふり(保管振替制度)について。難事が起きた時に、ネット証券口座にある残額は満額補償されて預金者に戻るのでしょうか」ということです。
広木:難事とは何か。例えば証券会社が潰れるということですか。これは分別管理という意味で、別にその証券会社が預かっているわけじゃないので、保護預かりとは言いますが、分別管理されていますから、大丈夫ですよ。ほふりというのは保管振替。要は振替で決済とか、そういうことをやるところという認識でいいんじゃないかなと思います。
質疑応答:株価が下落した銘柄について
司会者:続いて、「将来性があると思い、ベンチャー株を買ったのですが、どんどん下がり、今や9割以上下がり、今売っても5万円にしかなりません。こういう場合はどうすればいいのでしょうか。もっと前に売っておけばよかったのか、今は持っておくしかないのでしょうか」
広木:もっと前に売っておけばよかったという、その一言なんだけど、もうこうなっちゃったらどうにもならないですよね。
要は、どっちでもいいんですよ。ちょっと語弊がありますが、売っても5万円にしかならないんでしょう。だったら結局、売らなくても同じですよ。結局5万円にしかならないんだったら、持っていてもいいじゃないかということです。本当はそこに行くまでに、損が出ていても売るべきだったんだけど、もうこうなっちゃったらどうにもならないので、5万円だったら持っていたらということですよね。
本当に、もう1回上がる望みがあるのかどうか。どんなベンチャーなのか知りませんが、ベンチャーですから、もしかしたら儲けものになるのかもしれないし、結局、今さら売ったってどうにもならないんだから、今さら回収してもしょうがないので、ほとんど紙くずになっちゃったと思って持っていらしたらどうでしょうか。
質疑応答:アメリカの株価が右肩上がりである理由について
司会者:続いて、「アメリカの株価S&P500などは、長期トレンドで見ると右肩上がりですが、どうしてこのようになるのでしょうか。移民を受け入れてきて人口が増加してきた。また、自由到達な風土のため、この傾向は今後も続くのでしょうか」
広木:そういうことですね。アメリカという国はまさに自由の風土で、移民拡大で人口が増えたから経済成長したというのはあります。今回トランプが返り咲いて、また国土や領土を拡大していくとか、ほかのところはどうでもよくて、とにかく自分のところを発展させるんだという、本当にそういう発展志向がある。もちろんいろいろな批判はあるけれども、翻って、例えば我が国の石破さんが、もう1回日本を楽しい国にするとか何とか言っているけど、成長戦略はともかく、その前段階の気概というか気持ちというものが、まったく伝わってこないですよね。
そういうものと比べたら、トランプの迫力というか、気概というか、もう1回アメリカをグレートにするんだという、ガッツというか、メンタリティというか、そういうものがぜんぜん違うのはすごいじゃない。
あとはやはり企業家の精神というか、もう次から次へと新しい企業がどんどんどんどん出てきて、ものすごく成長する。マーク・ザッカーバーグが作ったMeta。Amazon、Google、Netflix、Tesla。もうボンボン新しい企業が出てきて、時価総額の上に来るわけですよね。NVIDIAも然り、そういう新陳代謝がどんどん行われている。それに比べると、我が国は本当に見習うところがいっぱいあると思います。
ただ、アメリカだからそうだったわけじゃなくて、日本の株価も実はこの10年間でアメリカ並に成長しています。要は株価というのは、そういうようなものなんだというのが僕の持論なんですけどね。右肩上がりに推移していくんですよ。それはどうしてなんですかというと、日本とアメリカじゃマインドも違うし、企業の新陳代謝もぜんぜん違うのですが、共通点はあって、ざっくり言うと、やはり企業であるからには今日より明日を良くしたいという気持ちがみんなある。
今日より明日が良くなるように、みんな努力する。時にはうまくいかないけれど、長い目で見ると、やはりうまくいく。だから株価が右肩上がりなんだというのが、僕の考えなんですね。企業も人だから人の思いがあって、それで株価が右肩上がり。これは日本もアメリカも一緒です。
質疑応答:信用取引の買い残と売り残について
司会者:「信用取引の買い残と売り残についての質問です。買い残が積み上がると上昇抑制となり、将来的な株価下落につながるという理解ですが、株価の動きとしては、買い残が増加する段階でいったん株価が上昇し、借りた株を返済する時点で株価が下落の認識で合っていますか」ということです。
広木:そういうことですね。結局、買い残というのは、いつか売らなきゃいけない。要は制度信用だったら半年間のうちに売らなきゃいけないので、それが増えていったら、結局将来的な売り要因が溜まっているということなので、それは信用で大丈夫かなと。膨らめば買いが増えるわけですから。
そこは上がるのかもしれないけれど、結局その溜まった買いは期日が来れば、制度信用なら半年後の期日の時までには、逆に反対売買の要因になるわけです。買い残というのは、売り要因という認識でいいです。
質疑応:株主総会に参加するメリットについて
司会者:では、最後の質問にさせていただきたいと思います。「株主総会に出席したことがないのですが、参加するメリットは何でしょうか」ということです。
広木:単純な話、株主総会に参加するメリットは、自分の声を経営者に伝える機会があることです。ここがまたちょっと難しいのですが、例えばマネックスグループの株主総会だと、質問に立った人には、全員質問させるんですよね。
ほかの大企業となると、あまりそういうことはしないかもしれませんが、ただ、もちろんそういうチャンスはありますから、自分の声を経営者に伝える最大のチャンスだと思います。
自分が投資している企業に不満がないなら別にいいですよ。ただ、株主総会では、いろいろな情報が出てきますから、経営者から直接、より情報を入手できるという機会が、投資先の理解につながるというのが1番だけど、自分がもしもその企業の経営者に言いたいことがあるのであれば、それを言えるチャンスです。言ったから変わるかは、また別の話ですが、やはり自分の思いをぶつける。
それで変わらないのであれば、株主をやめる自由もこちらにあるので、それなりには納得した投資行動ができるというか、投資の判断ができるという意味で、株主総会という機会を利用できるんじゃないかと思います。主に個人投資家にとっては、そういうところがメリットだと思います。
司会者:企業の株をたくさん保有していなかったとしても、行く意味はあるということですね。
広木:もちろん、もちろん。だって、アクティブユーザーだって、別にそんなにたくさんは持っていませんよ。今の世の中、それでもきちんと対話ができますから。個人投資家を大切にする企業であれば、株式の保有数に関係なく意見を聞いてもらえるはずであるので、ぜひそういう機会を利用するべきじゃないかなと思います。