国際金融都市東京 企業価値向上サミット

馬渕磨理子氏:みなさま、こんにちは。日本金融経済研究所の馬渕です。本日は大変お忙しい中、このような場にお集まりいただき本当にありがとうございます。心から感謝申し上げます。

本日は、日本を代表する企業経営者の方々、また、IR関係者のみなさまにも集まっていただいています。さらに、会場だけではなく、実はオンラインでの申し込みも800名を超えています。これだけ多くの方々がサミットにご参加くださっているのは、まさに企業価値向上に対するみなさまの課題意識、危機意識の表れかと思っています。この後のセッションで、企業の価値を高めた企業さまの具体的な事例を、経営者のみなさま自らの言葉でお話しいただきます。

本サミットの1つ目の目的は、どのように企業価値を高めていくのかという具体的な事例を、みなさまと共有させていただくことです。2つ目の目的は、「なぜ企業価値が高まらないのか?」ということを考えた時に、おそらく政策として手薄になっている点が挙げられます。そのため、国の政策として何らかの企業価値を向上できるような施策が必要だと思い、政策提言を含めて、この会を開催しています。

日本金融経済研究所とは

まずは、日本金融経済研究所について簡単に自己紹介させてください。私たちは日本の企業価値向上のために、企業の現場で再現可能な、さらに効果的なIRを研究し、みなさまにオープンに共有していくことを目標として設立した非営利の研究機関、つまりシンクタンクになります。

このように、IRの実務について研究している機関というのは、日本ではほぼありません。「具体的に何をしたら良いのか」ということを、経営者や企業のみなさまは一番知りたいのだと思っています。

したがって、私たちとしては、投資家と企業をつなげるIR情報を徹底的に研究し、そこに何らかの共通項、あるいはみなさまが真似できるようなメソッドがあるのではないかといったことを研究していくという立ち位置にいます。

そのため、私たちだけでは完結しません。私たち、そして上場企業の経営者の方々、IR担当者の方々、みなさまのお力添えがあって、ようやくデータというものは出てきますので、そのデータを共有します。さらに、大学との共同研究をしていくことによって、より普遍的なものになっていくと感じています。

私自身は、上場経営者の方々を年間100社ほど企業訪問し、実際にお話を直接うかがっていますが、すばらしい企業の方々が本当に多いと肌身で感じています。しかし、マーケットで見てみると、そのすばらしさがなかなか評価されていないということに苦悩を感じるようになりました。

一方で、私は個人投資家に寄り添った活動をしているアナリストでもあります。年間60件ほどの個人投資家向けのセミナーに登壇しています。また、自身の「YouTube」チャンネルも21万人の方々にご登録いただいています。資産運用EXPOで自身の講演に1,700人の投資家のみなさまがご参加くださいます。投資家と企業情報をしっかりとミスマッチなくお伝えしていくという役割が、より社会に必要なのではないかと思っています。

しかし、私1人ではできることは限られています。アナリストとして8年間活動していますが、自分1人では何もできないと感じるようになり、日本金融経済研究所を設立しました。

理事・政策顧問のメンバー

こちらが現在の理事、そして政策顧問のメンバーです。副代表には、元上場企業のCFOである後藤さんに就任いただいています。さまざまなIRの知見、また、日本金融経済研究所の組織をより強くしていくために、お力添えをいただいています。

次に、IR Roboticsの金社長です。金社長は、さまざまな上場企業の経営者の方々をサポートされています。私が「こういったものを作りたいんだ」と言うと、「ぜひやってください」「やったら絶対教えてくださいね。理事にもなります」と一番最初に言ってくださったのが金社長でした。

また、メディアの方のお力添えも必要だということで、私がアナリストの駆け出しの頃からずっと応援してくださっている日本証券新聞の伊藤さんにも、理事に就任していただいています。

続いて、ログミーの秋元さんです。今回のサミットの運営はログミーFinanceが行っています。圧倒的なバックアップをしていただいていますので、ログミーFinanceのお力添えなしに本日の会はなし得ることができません。

そして、FUNDINNOの向井さんにもご就任いただいています。もう少し先の話になりますが、私たちの上場企業のIR研究がある程度進行できた際には、スタートアップのIRに関しても、おそらく10年後、問題になってくると思います。未上場・スタートアップのIRを国内No.1で持っているのはFUNDINNOですので、そのような意味合いで、理事に入っていただいています。

続いて、政策顧問の山本さんです。山本さんは霞ヶ関、そして永田町に太いパイプをお持ちです。そのため、数多くの政治家を紹介していただいています。山本さんと一緒に永田町に何度も訪問し、私たちの感じる課題や現状を政治家の方に伝えるロビー活動を行っています。

本日のご登壇者

本日の会は、企業価値を高めた企業の成功事例を共有いただくことが大きなミッションです。

本日の登壇者をご紹介します。1つ目のセッションは、ベクトルの西江会長です。まさに本日の会場をお貸しいただき、この会の運営も全面的にバックアップしてくださいました。西江会長は、トップ自らがIRに積極的に尽力されています。

そして、西江会長と一緒にご登壇いただくのが、チェンジホールディングスの福留社長です。福留社長もご自身独自の方法で個人投資家の方々とコミュニケーションを取られています。お2人のセッションの進行役は、IR Roboticsの金社長にお願いしています。

2つ目のセッションは、Macbee Planetの千葉社長です。Macbee Planetは、直近3年間で企業価値を10倍に高めることに成功しています。千葉社長が何を考え、どのように社内でIR担当者とコミュニケーションを取り、どのように実行してきたのかについて、お話を聞けば聞くほど深いものがありました。私は「ぜひ多くの方にご共有ください」ということを懇願して、今回ご登壇いただきます。

そして、千葉社長と一緒に登壇していただくのが、noteの鹿島CFOです。noteも今、非常にIRに力を入れていらっしゃいます。まだ上場したばかりですが、note自体が、IRと非常に相性が良いため、現在noteを使ってIRを発信される方々が非常に増えてきています。

こちらのセッションの進行役は、副代表の後藤さんにお願いしています。実はお三方ともCFO経験者ですので、CEOとは異なる視点でお話が聞けるのではないかと思っています。

そして、本日のスペシャルゲストは小池百合子都知事のご登壇です。

日本の課題 数字・概念

私の考える、現在の日本が直面している3つの大きな課題をご共有します。

1つ目は、上場企業のおよそ3,000社が時価総額1,000億円以下だという現状があります。

2つ目は、これから日本は実質GDPよりも名目GDPのほうが大きくなり、実質GDPを名目GDPが牽引してデフレから脱却していくような世の中になりそうだと考えています。そのような状況になった場合、「国内の投資家がどのような判断をするのか」ということを考えた時に、私自身も危機意識を感じていますので、これについてもお伝えさせてください。

3つ目は、家計の金融資産 現金=1,000兆円ということです。これは有名な話ですが、この金融資産が海外に行くのではないかという、キャピタルフライトの懸念も感じています。

企業政策に「ムラ」がある 時価総額資本主義の時代

1つ目の大きな課題として、なぜこのように時価総額1,000億円以下の企業が多く増えたのかという点については、さまざまな理由があります。私自身で、このように日本に存続している企業のセグメントをカテゴライズしてみたところ、明らかに上場・新興企業3,000社に対する政策が少ないと感じました。

中小企業に対する政策はもちろん手厚い国です。さらに、スタートアップに関しては、この業界の方々による約10年の非常に力強い活動によって政府の骨太の方針に含まれるようになり、スタートアップ・ユニコーン企業への政策はガラッと変わってきました。大企業に関しては、半導体戦略にカジを振りながら、5Gも日本で研究開発を推進し、6Gでは遅れを取り返すといった国家戦略がいろいろとあります。

しかし、スライドにもあるとおり、ぽっかり空いているのが上場・新興企業の施策だと思います。なぜ、この部分の企業のアクセルを吹かせないのかと思っています。

上場という非常に厳しい基準をクリアした企業は、非常にすばらしい企業が多いです。そのような企業のアクセルを吹かすことなくして何があるのか、ということに対して、もっと政策を手厚くしていってほしいという思いがあります。

世界の金融市場の規模 企業価値の格差が広がる

現状として、世界の金融市場をセグメント化してみると、スライドに示しているように時価総額で差が開いています。

世界では時価総額資本主義という考え方が一般的になっています。レオス・キャピタルワークスの藤野氏は、「ウェポン化した資本主義」という言葉で表現しています。つまり、「時価総額は資本主義であり、武器である」「これを使わずして、どうやって成長するんだ」ということです。

ペイパルマフィアやGAFAのように、どんどん時価総額を大きくし、M&Aを成功させ拡大していくという考え方が一般的であるにもかかわらず、日本はそれができていないということを指摘しています。

実際に、グロース市場全体の時価総額は約7兆円です。一方で、ニューヨーク証券取引所は約3,400兆円です。このような格差があることに対して、やはり課題意識を持たざるを得ません。

東証の新しい動き

このような現状を踏まえ、2023年3月31日に東京証券取引所で新しい動きがありました。これは山道CEOからの大きなメッセージで、すばらしいグランドデザインをお示しになったと思います。

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、企業経営者のみなさんは対応してくださいね」というメッセージが出ました。一般的なニュースメディアではPBR1倍割れの是正策として注目されていますが、本質はそうではありません。

今回、東京証券取引所および山道CEOは「単純に自社株買いを行って、単純に配当する。そうではないでしょう?」ということを、テレビなどで明確に発信しています。また、「資本効率を図るならば、本来、不採算事業や成長力のあるところに資本を使ってほしい」「株価も意識してほしい」との発言もありました。

これは私の意見になりますが、日本の経営者の方々は非常に上品ですので、株価を意識することや時価総額を高めることを下品だと感じ、まだ抵抗があるのではないでしょうか。しかし、決してそうではないということを東京証券取引所が明確に打ち出しました。

「株価を意識したプランがあるなら、しっかりと説明してほしい」と求められています。つまり「株価は市場が決めますので、言及は避けます」というコメントは、もうふさわしくない時代だということです。

現在、私は東京証券取引所プライム市場上場企業であるイー・ギャランティの社外取締役を務めていますが、役員になるとさまざまな研修を受けます。

その中で、まさにこの東京証券取引所のメッセージにあるとおり、「万が一自社のトップが『株価は市場が決める』と言いそうな場合は止めてほしい」ということが言われます。すでにそのような時代ではなく、株価に対してコミットし「具体的にこのような計画があるんだ」と話せるように、役員はサポートしていくべきだという話が研修の中でもあります。

日本もインフレ時代へ 名目GDP>実質GDP

次に、GDPについてのお話です。名目GDPが実質GDPを上回る社会に入ることが示唆されています。「物価を含んだ名目GDPのほうが大きいのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれません。実際に、日本も直近ではそうなってきています。

こちらは私が非常に尊敬しているピクテ・ジャパンの岡崎良介氏が分析されたデータです。このデータによる岡崎氏のロジックを、みなさまと共有したいと思います。過去27年間のデータを見てみますと、スライド左側に記載のアメリカは明らかに名目GDPが170パーセント以上に増えており、それに牽引されるかたちで実質GDPが拡大してきています。

このように、アメリカは名目GDPが牽引するかたちで賃金が上昇して、S&P500も300パーセント以上に上昇し、一番下の家計金融資産も一緒に膨れ上がってきた社会だと言えます。

日本の名目GDP・実質GDP

一方で、日本に関しては驚くことに、この27年間で実質GDPのほうが大きく、名目GDPのほうが小さいという推移になっています。つまり、これは明らかにデフレの象徴の図なのです。

現在はこれが逆転し、名目GDPのほうが拡大しつつあります。そうなると次に何が起こるかといいますと、おそらくインフレが高まり利上げが起こります。もしかしたら2年後くらいに政策金利の短期金利が下がるかもしれません。

基本的に、インフレになるような社会になると、株式投資せざるを得ない状況が今よりも差し迫ったものになりますので、より広くあまねく一般の初心者の方が株式市場へ入ってくる可能性があります。

岡崎氏も指摘していましたが、そうした時に「よりわかりやすいS&P500で良いのではないか」、あるいは「よりわかりやすい大企業へ投資すれば良いのではないか」と集中することが予想されます。

例えば、今回東京証券取引所が発表した「JPXプライム150」のように、非常に成長力があるところにしか資金が集まらない可能性があります。そのような懸念を感じています。名目GDP・実質GDPの論点から見ても、日本はもしかすると境目に入っているのかもしれません。

投資家コミュニケーションで企業価値を高めた企業事例

事例研究および大学との共同研究についてお話しします。事例については、後ほど経営者のセッションでMacbee Planetの千葉社長が登壇されますが、ひとまず簡潔に概要をお伝えします。

マーケティングの企業であるMacbee Planetは、3年間で時価総額を60億円から600億円と、10倍にしてきたマーケティング企業です。マーケティングの会社ですので、ビジネスモデル自体は非常にわかりづらく難しさがあります。しかし、それを的確に投資家に届けてきたプロセスがこの成功につながっていると考えられます。

Macbee Planetの少し前の決算では、売上高が140億円、経常利益が12億円で、この規模の企業は約250社ほどあります。この先の成長には少し違いがあるかもしれませんが、みなさまにも再現可能なメソッドがここにあるのではないかと思い、そのようなものを共有するために本会を開催しています。

投資家コミュニケーションで企業価値を高めた企業事例

具体的なアクションについては、後ほど千葉社長にお話しいただきます。ここでは、私がMacbee PlanetのIR担当である前橋さんと密にコミュニケーションを取って、一体どのようなことをして、どのようなプランで進めているのかについてヒアリングしています。

可能な範囲でご紹介したいと思いますが、他の企業でも真似できるKPIのようなものの基準を私なりに抽出しました。

上場から今までの3年間の出来高をすべて確認し、そこに再現できるものがないかを分析したところ、出来高の平均が月に5日以上、10万株以上を維持できていといった取り組みを見つけることができました。

年間計画を立てて割っていくと、IRの施策にはできることが限られています。ここでいかに月に5回、株式市場にインパクトのある発表をするか、あるいはセミナーなどを通じて認知していくのかといった、いろいろな策をこの数字から逆算することができます。非常に出来高が少ない企業は1つの目標値として、月に5日以上で10万株以上の出来高を維持するといった目標を、担当者が持つことが良いのではないかと思っています。

Macbee Planetは個人投資家向けのセミナーを月に1回ほど開催しています。また、機関投資家とのミーティングは、大小さまざまなものを含めて、多い時で四半期に100件ほど行っているそうです。このような個人投資家や機関投資家に対するアプローチが効果として出てきているのではないかと思っています。

IRグッドビジュアル賞受賞 ポジショニングマップ

Macbee Planetは、さらにIRグッドビジュアル賞を受賞しています。スライドにはポジショニングのマップをお示ししています。非常にシンプルなマップですが、多くの時間をかけて社内で議論し、作り上げたとうかがっています。

9マスのマトリックス図の中にある色分けされた丸は実在する企業名ですが、ここでは名前を伏せています。各企業の強みをすべて分析し、その上で自分たちがどこにポジショニングを取るかということを徹底的に分析しているため、競合の比較・分析ができているのです。

1枚の勝負スライドとして、非常に強い戦略的なメッセージが出ていますし、IRグッドビジュアル賞の受賞にもつながっています。こちらがMacbee Planetの事例になります。

東洋大学から研究の受託

私どもの日本金融経済研究所と大学が連携している研究についてで、こちらは今年も続けています。東洋大学の竹中平蔵先生に監修していただき、公共政策に貢献しているような上場企業の認知と企業価値に対する調査業務を依頼され、現在進めています。

公共政策に貢献する企業となると研究対象の幅が狭まり、限られてきます。今回は、その時偶然お声がけのあった旧前田建設のインフロニアHDを研究対象としています。今日の時価総額は4,000億円まで上がってきましたが、私がこの研究でサポートした時点では2,000億円台でした。

インフロニアHDの研究後の株価と取り組み

インフロニアHDとの研究において、研究後の株価と実際に何を行ったのかを簡単にまとめたものがこちらのスライドです。

旧前田建設は機関投資家に対しての対応が得意で非常に手厚かったのですが、前田建設、前田道路、前田製作所の3つが統合してホールディングス化した時に、認知度が一気に下がりました。この時に私に依頼があり、個人投資家向けの認知度向上をサポートしています。

当時、私は時価総額が2,000億円を超える企業の企業価値の向上や個人投資家向けの認知度向上にアプローチするのが初めてでしたので、非常に迷うところがありました。

しかし、これまで新興市場を見てきた中での知り得た方法を、この大型株で行うことに決め、それがもし当てはまるならば、再現可能な手法として考えられると思い、個人投資家向けのIR年間計画を作成して、「このようなアクションをしましょう」といったことを昨年の5月初頭から始めました。

そこからは非常にスピード感のある展開となりました。5月末には私の株式クラブに社長対談として出演いただくくらいのスピード感でしたので、正直、大変驚きました。非常に迅速で機動力があります。

1回目の対談動画後の決算を経て自社株買いを発表しました。そこから2回目の対談動画をして決算があり、さらに3回目の対談動画を公開するといったかたちで繰り返しています。3回の対談動画はそれぞれ非常に工夫を凝らしており、決算の内容をお話しするという単純なものではなく、自分たちが何者であるかをしっかり訴求しています。

3回目の対談動画に至っては専門家の第三者的な視点も交えて、かなり攻めながら答えていただく座組みで行いました。オンラインだけのアプローチでは限界がありますし、私自身の「YouTube」チャンネルに頼ることも、自分自身そこまで良いとは思っていません。いろいろなオンラインプラットフォームをぜひ使っていただきたいという思いもあります。

日本証券新聞東京・名古屋・大阪セミナー「アンケート調査」

そして、この規模の会社であれば、オンラインだけではなくリアルの開催も必要だと思い、日本証券新聞に東京、大阪、名古屋でセミナーをお願いし、約500名を超える方々にアプローチができました。

こうしたこともあり、現在株価が非常に推移しています。IRだけではなく、いろいろな企業としての力が表れた結果だと思いますが、一定の効果が出たのではないのかと考えていますので、次のスライドでご説明していきます。

インフロニアHD(旧前田建設)22年5月 研究サポート以降

スライドのチャートは、研究サポート以降の時価総額と株価、個人投資家数を明示したものです。

時価総額は1,000億円以上プラスになっていますし、株価も30パーセント以上上昇していますが、特にIRという意味合いで一番わかりやすいのは、投資家や個人投資家がこのサポート以降2,000人増えたというところではないかと思います。

つまり、個人が買い支えている側面が確認できています。建設業界は非常に厳しい業界で、アクティビストも非常に注目しています。そのため、個人の数が多いことは実は防衛にもなりますし、実際にそのようなニーズもありました。そのような意味合いで、2,000人プラスできたことを成果報告の1つとして、昨年末に大学に報告しています。

インフロニアHD(旧前田建設)

今回、私がどのようなことを行ったかについてです。1つ目として、個人向けのIRの年間計画を作りました。2年目からは自らアレンジを行い、いろいろなことを付け加えて実装しています。

2つ目に、アナリスト向けの資料が非常に難しかったため、これを個人投資家が一目で見てわかりやすいようにアップデートを行っていただきました。

3つ目に、インフロニアHDでは、自分たちが何者であるかということについて「脱請負」というメッセージを打ち出していました。建設業界という請負で成り立っている企業が「脱請負」を掲げているため、「風雲児」、つまり業界の異端児というイメージを打ち出していたのですが、ここに成長の源泉力があります。

作ったものやその設備の後まで運営することをインフラ運営と言いますが、「脱請負」を果たしてインフラ運営を行うと、非常に利益率が高まります。

スライド株の表でご説明すると、例えば土木は利益率が10パーセントですが、インフラ運営まで行うと、32パーセントまで利益率が大きく上がります。

海外事例研究VINCI(仏)コンセッション部門の利益率

このように「メッセージを着実に個人の方へわかりやすく伝えてください」ということを、年間通して行っていただきました。

のみならず、竹中平蔵先生から「この規模になったら海外の事例はもう必須だね。こちらのIRを研究してください」と言われたため、対象企業としてフランスのVINCI社のIRをいろいろ拝見しました。建設業界はアメリカよりも大陸であるヨーロッパのほうが強いためです。その結果、非常に示唆に富む図がありました。

実は、VINCI社もインフラ運営を行っています。スライドには「Concession(コンセッション)」と書かれていますが、売上に占める割合は非常に少なく14パーセント程度です。しかし、右側のグラフにある、営業利益に占めるコンセッション、つまりインフラ運営の割合は、非常に高い水準で56パーセントとなっています。この図を見るだけでも、非常に利益率が高いもので占められているということがわかります。

業績説明資料のアレンジ

これを活用して、実際にインフロニア・ホールディングスが証券新聞などで個人投資家回りをする時の資料をこのように改善しました。

スライド左側は機関投資家向けの資料です。もちろんこのようなものも必要です。事細かな数字を十分に示すことも大事です。このような情報はオープン情報として、明確にホームページに出ています。しかし、これをいきなり個人投資家向け説明会で解説されても、個人投資家はこの会社が何に強いのか、まったくわかりません。

そこで、VINCI社のように「売上に占めるコンセッションとしてのインフラ運営の割合は3パーセントだが、営業利益に占める割合は30パーセントを超えている」ということを示しています。

そして未来の計画として「営業利益に占めるインフラ運営の割合を今後50パーセントまで上げていく」と明確に言っています。そうすると、会社の成長が着実にイメージできます。また、配当も出されているため、それに連動しながら配当が上がっていくだろうと予想ができます。このように戦略的なIRを実際に行いました。

家計の金融資産

事例のご紹介はここまでとして、ここからは提言のお話をしていきます。先ほど、3つ目の懸念としてキャピタルフライトの問題があることをお伝えしました。

日本には現在、個人の資金として現金が1,000兆円あります。私は、以前からここに対して、半導体業界と同じようにならないかという懸念があります。

半導体業界は、いったん空洞化しました。加えて、デジタル赤字は現在非常に大きな問題になっています。日本の企業や個人がアメリカのデジタルやサービスを使うため、現在デジタル赤字が4兆8,000億円なのです。

そこに危機感を感じたのか、直近では河野デジタル大臣が「国のデジタルは国産化で行っていきます」とお話しされました。しかし、それは今手放したものを戻していくということです。現在、日本の半導体もがんばっていますが、非常に難しいものがあります。

金融も同じようにならないでしょうか? なってから「あっ、駄目だ」と思って行うのではなくて、予測ができている現段階で、ここに手を打つべきだと思っています。つまり、現在金融発として日本に残されている希望の1つは家計の金融資産1,000兆円です。これが海外へ出ていってしまうことを、私は非常に懸念しています。

そのため、安心して国内の個人の方々が、みなさまのようなすばらしい日本の企業に投資できるような環境作りをぜひ行ってほしいと、いろいろな政治家の方々にお願いしています。

日本の企業価値を高めるためにIRを日本の<成長戦略>の1つに掲げる

現在、日本金融経済研究所として提案しているのが、高度IR人材のカリキュラムを作ったり、あるいは国家資格化したりできないかということです。

ここまでの事例でお伝えしたとおり、IR人材は非常に戦略的な人材であり、企業の価値を高めるような存在です。それにもかかわらず、1人で行っている、あるいはいろいろな部署と連携しながら兼任されているような会社もまだ多いです。

しかし、これだけの仕事を行い、さらに年間で数多くの機関投資家とコミュニケーションを取ろうと思えば、ぜひ専属の方を置くのが望ましいところです。それだけ価値のある人材ですので、ぜひ国として、都としても力を入れてほしいという思いで、本日東京都知事をお招きしたという経緯があります。

この中では、税制優遇などができないかと提案しています。これは呼び水なのですが、例えば、ご覧のような年間計画や実行プランを出した会社に対して、1社当たり200万円程度の予算が出れば、これに対して何か世の中が動いていくのではないかと考えています。ここに対する予算は40億円ぐらいです。

しかし、IRに積極的になった企業の時価総額は最低でも200億円は上がります。そうすると、例えばそのような企業が1,000社出れば、「1,000社×200億円」で計算すると、全体で企業価値が20兆円程度上がります。

つまり、グロース全体で7兆円しかない現状を大きく変えることができるのです。そのため、予算に対する費用対効果が非常に高いと認識し、このようなことをご提案しています。

政策提言の活動

このような政策提言を、いろいろな自民党の議員や政治家の方にお話ししています。菅前総理をはじめ、現職の加藤勝信厚労大臣におかれては、今年に入って2回もこの話を聞いてくださっています。また、自民党の政策グループである「有隣会」でも登壇させていただきお話をしたところ、議員のみなさまは非常に興味を持って聞いてくださっています。

このように、みなさまからお聞きした実務の課題を着実に政策までつなげていくことが、私たち日本金融経済研究所の活動になります。

学生向け金融リテラシーの活動 IR キャンパス

最後に活動報告とみなさまへのお願いとして、私の登壇は以上としたいと思います。

実は今、これ以外に学生向けの金融リテラシーを高める活動を行っています。これは副代表の後藤さんが率先して、かなり力を入れて行っています。

こちらは本当に必要な会場費ぐらいの費用のみ集めた、ほぼ慈善活動で、ログミーFinanceも全面的にバックアップしてくださっています。こちらは何か利益を求めるようなものではなく、学生に上場経営者にどのような方がいて、どのような苦労をされているのかをまず知ってほしいのです。

金融リテラシーとは、学生のタイミングでNISAや企業へ投資をすることではないと思います。上場経営者がどのような方で、どのようなすばらしい企業がいるのかを、まず学生の方に知ってほしいということで活動しています。

2月にはアピリッツのCFO永山さんにご登壇いただきましたし、来月には、私の地元である滋賀野洲の上場企業のオーケーエムという製造業の会社に京都まで来ていただいて開催します。ぜひ、本日ご来場いただきましたみなさまの中で、取り組みにご関心があれば、ぜひ私あるいは後藤さんにお申し出ください。

学生向け金融リテラシーの活動

実は高校生が、今年はじめて国際経済オリンピックというオリンピックに出場し、メダルを獲得しました。数学オリンピックなどは有名ですが、このようなものにも参加しているのです。私も委員としてサポートしています。

賛助会員(寄付金)のお知らせ

最後に、みなさまにお願いがあります。このような活動は、私自身や副代表の後藤さんにも助けていただきながら、少しずつ行っています。基本的には非営利ですので、自己資金で運営しているのです。

このような活動を今後も続けていきたいですし、今日のような会も継続的に行っていきたいと思っています。そこでみなさまには、ぜひ一緒に仲間となっていただきたいと思い、賛助会員のお知らせです。

ぜひ一緒になって現場の声を聞かせてほしいですし、政策提言のプロセスにも一緒にご参画いただきたいです。年1回の総会にもご参加いただきたいですし、さまざまな活動報告もご報告させていただきます。

また、冒頭で紹介したマクロ経済の転換なども、臨時のレポートとして私が執筆したものをみなさまにお知らせします。例えば、イールドカーブの修正など早急なものが出た時には、みなさまへ臨時でお届けしたいと思っています。

ぜひこのあたりを鑑みてご協力いただけますと、よりみなさまの業界やゾーン、時価総額の課題意識がある企業に対する見方が変わり、世の中自体が変わってくるのではないのかと思っています。ぜひご協力いただけますと幸いです。

この後は贅沢な経営者のセッション、そして小池都知事のご登壇がありますので、ぜひ最後まで楽しんでいってほしいと思います。

私からは以上となります。本日はどうぞよろしくお願いします。