会社概要
青野慶久氏(以下、青野):サイボウズで代表を務めています、青野でございます。本日は当社のIRグループ面談にご参加いただき、ありがとうございます。
まずは会社概要です。従業員数は昨年末時点で連結1,115名ですが、有期雇用の方を加えた最新データでは、先月末で約1,380名です。引き続き、従業員が増えてきているといったご報告ができると思います。
企業理念
企業理念です。サイボウズと長くお付き合いいただいている方々はご存じだと思いますが、我々は企業理念に大変こだわっています。株主のみなさまの総意として株主総会で決議するなど、企業理念を一番に考え、憲法のような位置づけに置いています。
また、「業績の前に企業理念あり」として、企業理念を実現するために会社があると定義しています。当社の存在意義である「チームワークあふれる社会を創る」の実現に徹底して取り組んでおり、売上も利益も、すべてはそのためにあると考えています。
「チームワークあふれる社会」がどのような社会かについて、押さえておくとチームワークが良くなるというポイントを4点ほどスライドに記載しています。
1つ目は、チームが1つの理想に向かって共感することです。理想を掲げるだけではなく、一人ひとりが共感している状態を作ります。
また、チームにはさまざまな個性があって良く、それぞれの個性を重視します。もちろんすべて尊重できるかどうかはわかりませんが、周りの個性を見て、それぞれ活かそうというのが2つ目の「多様な個性を重視」になります。
そして3つ目の「公明正大」は嘘をつかない、隠し事をしない、情報の共有を信頼関係の基盤にするということです。
4つ目は、一人ひとりが足を引っ張り合うのでなく、自分は自分としてそれぞれが自立し、考えを主張し議論するといった、自立の文化を重んじたチームを作るということです。
この4つを世界中に広げながら、世の中のチームワークを良くしていくというのがサイボウズの企業理念です。我々はそのために製品を作り、売上を上げ、利益を出していきます。言い換えると、経営理念の実現のために売上を大きくする必要がないのであれば、無理に目指す必要はありません。利益も必要ないのであれば出さなくても良いです。パーパスを最重要として位置づけ、嘘偽りなく進めていこうとしています。
情報共有とチームワーク
企業理念の実現において、現代では情報共有基盤が特に重要です。現在は会計のクラウドサービスや、HR Techのクラウドサービス、またビジネスのチャットサービスなど、さまざまなクラウドサービスが存在し、便利です。しかし、情報共有という観点では、サイロ化がより進むといった問題点が出てきています。
それを解消するために、できるだけ多くの人が1枚の風呂敷上でいろいろなデータを取り込み、情報共有の基盤を作っていこうというのが「kintone」の発想になります。
製品事業
現在は、情報共有プラットフォーム「kintone」を中心にビジネスを展開しており、売上全体の約半分が「kintone」によるものです。また、26年前から展開している中小企業向けのグループウェアアプリ「サイボウズ Office」と、中堅・大企業向けの「Garoon」の売上も大きいです。
さらに、届いたメールを全員で共有し、全員で返信しようというシンプルな機能の「Mailwise」は、グループウェアの導入編のような位置づけになっています。
現在、「kintone」は3万社の企業と契約しています。東証プライム上場企業の3社に1社程度が導入していますが、社内全体で導入するということではなく、多くは一部門での導入です。セキュリティ上の問題もなく、プライム市場の企業に使われるようになってきています。
「サイボウズ Office」の導入企業数は延べ7万7,000社、「Garoon」は7,000社です。大きなソフトを販売するというよりは、小さく安価なソフトを多くの方に購入していただくというのが、我々の基本的なビジネスです。
上期連結売上高 対前年同期比
業績についてです。6月で上半期が終わりました。上期の売上高は、前期比プラス16.3パーセントで、約17億円の増収です。利益についても約17億円のプラスで、売上が増えた分だけ利益も増えた構図となっています。
要因としては広告宣伝費が減ったことが大きく、昨年の上期と比べると、広告宣伝費だけで約13億円減少しています。昨年の上期まではテレビCMやアメリカのネット広告に、大赤字でも良いから広告を展開していく方針を取っており、その分が大きかったのですが、現在は定常状態に戻したことで、このように数字になって表れています。
詳細
人件費の増加については、人員の増加と給与の昇給が主な理由です。また、大きな金額ではありませんが、新しい製品開発のための研究開発費が約2億円増えています。
クラウド関連事業 単月売上高(MRR) 対前年同期比
クラウド関連事業における単月売上高の推移です。この上期はかなり苦戦し、数字はあまり伸びませんでした。昨年はMRRの対前期比が25パーセントくらいありましたが、当上期に関しては18パーセントくらいしか伸びていません。
背景についてお話しすると、先ほどご紹介した中小企業向けのグループウェア「サイボウズ Office」が要因です。一部のお客さまに対して特殊な売り方をしており、その特殊な契約が終了したことで売上高が減りました。いずれどこかで清算する必要があったのですが、そのタイミングが今回だったということです。
また、「kintone」の売上の伸びが鈍化していることも背景にあります。因数分解すると、テレビCMの効果もあって販売本数は伸びているのですが、1件あたりの単価が下がってきています。
ポジティブに考えれば、種をたくさんまいているものの、残念ながらまだ育ってきていないため鈍化してきているという背景があります。私たちも問題意識を持って、改善に取り組んでいきたいと思います。
製品開発
中長期における製品開発の方針です。他のSaaS企業は、どちらかというとSaaSのラインナップを増やしていくところが多いと思います。それではサイロ化してしまうと思いますので、私たちはどちらかといえば、「kintone」を中心に統合していく流れを作っていこうという考えです。
売上としては、たくさん製品があったほうがARPUを上げるのに良いと思われるかもしれませんが、お客さまにとってはサイロ化するよりもきちんとしたプラットフォームを作るほうが便利です。
「kintone」を中心としてシームレスに統合していくような動きで製品開発を進めており、“サイボウズNEXT”を掲げ、サイボウズ全体のプロダクトラインナップを見直しています。
製品開発
生成AIについては、私たちがどこまで取り組めるかというと、マイクロソフト社のようなことはできませんので、既存の生成AIを、いかにグループウェアとシームレスに連携させるかというところに取り組んでいます。
例えば、「サイボウズ Office」に書き込んだデータを要約して返してくれる、またはプラグインという「kintone」の拡張機能を作ってもらうなど、生成AIを活用することで、よりよいグループウェアを使っていくといった実験プロジェクトを同時並行で進めています。
2023年4⽉ Cybozu for Challengers(サイチャレ)
売上・利益に直結するようなものではないのですが、最近の活動のご紹介です。
1つは、社内で「サイチャレ」と呼んでいる「Cybozu for Challengers」についてです。スタートアップや代替わりした中小企業が、「よし、ここから組織をもう一度作っていこう」といったシーンで、 サイボウズのツールを提供するだけでなく、希望者を募って指導員を派遣し、チームワークの作り方なども含めたノウハウを提供しながら、スムーズにスケールアップしてもらうといったプロジェクトを進めています。
こうした取り組みを経て成長されたお客さまが、我々のフラッグシップ事例になってくれるだろうと考えています。
ソフトウェア企業は、常にこのような成功事例をお客さまに示し続ける必要があります。我々の引き出しとして、いかに成功事例数を持っておくかというところが、マーケティングの観点では重要になってきます。人を張り付け、うまく活用している企業を増やすための取り組みを進めています。
2023年6⽉ 新会社「サイボウズ・コネクトシー」設⽴
「サイボウズ・コネクトシー」という子会社を立ち上げました。顧客企業が増えたことで問い合わせ数も増え、それに対応するコールセンター、カスタマーサポートが必要になりました。加えて、顧客満足度を下げない意味でも、人材を確保し教育して定着させることが、戦略的に大変重要な意味を持つようになりました。
人員の確保と教育、定着についてはサイボウズ本体ではなく、立ち上げた子会社で専門的に対応していきます。現時点では6名程度ですが、人員は今後どんどん増えていくと思います。
2023年7⽉ コーポレート・ベンチャー・キャピタル 「kintone Teamwork Fund」組成
コーポレート・ベンチャー・キャピタルの設立についてです。「kintone Teamwork Fund」という名称で、「kintone」周辺に出資するファンドです。
「kintone」はプラットフォームですので、生成AIと連携するベンチャー企業のように、その周辺で「kintone」にいろいろな付加価値をプラスしてくれるパートナーを増やしていく必要があります。
これまでは「お金は出しませんが、人では協力します」という程度でしたが、財務的に余裕が出てきたこともあり、ファンドを立ち上げ、「人だけではなく、お金も支援します」や、「開発・販売の支援金にしてください」ということで、お金も含めてパートナーに協力していく体制を構築しました。
おそらく、下半期あたりから事例が出てくると思いますが、1件あたり何億円という投資ではなく、1件あたり数千万円規模で考えています。
2023年7⽉ 広島オフィス統合・移転開設
オフィスの動きについてです。全国的にカバーできる体制になってきましたが、中国地方がまだ手薄だったため、統合、移転を行いました。小さな営業拠点と開発拠点をそれぞれ持っていたのですが、パートナーも育ち顧客事例も出てきましたので、そろそろアクセルを踏もうかと考えています。
広島駅と直結するアクセス性に優れた「広島JPビルディング」でオフィスを開設し、中国地方のハブとなるような拠点を作り、地域に根付いた活動ができるように進めています。先月は開所式が開かれ、広島県の湯崎知事からビデオメッセージをいただくなど、良いスタートが切れました。
国内10都市・海外7カ国の拠点
国内と国外の拠点についてです。しっかりと地域に根ざすことが目標ですので、それぞれ目立つような立地を意識して展開しています。
また、セミナールームのようなものを作って開放し、地元の方にイベントなどで利用いただきながら、プレゼンスを高めていきたいと考えています。
スライドには書ききれていないこととして、かなりの数のリモートワーカーがいる関係で、記載している拠点以上に社員は各地に分散しています。「新潟で働いています」「山梨で働いています」、または「富山で働いています」というケースもあります。それぞれローカルな活動を展開してくれています。
海外についてもご覧のとおりです。アメリカはオフィスを借りているサンフランシスコのみの記載ですが、実際には「ロサンゼルスに住んでいます」「シカゴに住んでいます」「東海岸あたりにいます」など、さまざまなメンバーが分散して働いており、全世界をカバーする拠点数となっています。
グローバル展開(対前年同期⽐)
グローバル展開に関する数字です。グローバルについては、現在は厳しい冬の時代を迎えていると考えています。アメリカ、中華圏、東南アジアの各市場のどこにおいても、伸ばすことが難しい状況です。
地域ごとにご説明すると、アメリカでは戦略の転換がありました。これまでは知名度が無いながらも、インターネットでサイボウズの広告を打ち、リードを取って、我々でクローズするという自社完結型のビジネスモデルを展開し、孤軍奮闘のなかなか苦しい状況で、赤字を出し続けていました。
そのような中、努力の成果としては、リコーさまがグローバルで「『kintone』を扱いたい」と言ってくださり、「RICHO Kintone plus」というリコーさまの製品として、「kintone」をOEM販売していただけることが決まりました。それにより、アメリカの販売もリコーUSAを中心とする販売へ完全に切り替わっています。
しかし、リコーUSAが、すぐに販売してくれるかというと、これまでコピー機を販売していた企業が、すぐに「kintone」を売れるわけではありません。現時点では我々が教育しながら販売のノウハウも提供し、リコーUSAの後方支援をしているという状況です。
したがって、結果が出るまで数年はかかると思いますが、この事業が波に乗れば、これまでの販売とは異なる勢いで伸びていくというイメージを持ちながら、協業を進めているところです。
次に中華圏についてです。ゼロコロナ政策という国全体の動きがあったため、思ったような営業活動ができませんでした。また、すでに施行された個人情報保護に関する法律の対応に労力を費やすこととなり、営業活動を通じて短期的に数字を伸ばすのは難しいと感じました。しかし、法律の手続きを踏めば販売活動を続けられるため、しっかりと対応し、販売活動に集中できる体制を整えたいと考えています。
東南アジアについては、当社の中でさまざまなプロジェクトが走っていたため、価格を統一しようという我々の事情により、1年ほど前からアメリカと同じプロダクトを同じ価格に値上げして販売しています。アメリカでの1ユーザー24ドルという最も高い価格を東南アジアにも適用したため、新規の売上は停滞しているのが現状です。
この価格を理解してもらうレベルに持っていかなければ、売上を伸ばすことは難しいかもしれません。しかし、一つひとつの課題をクリアしていけば、これまで以上に伸ばせると思いますので、そのあたりについてはご期待いただければと思います。
連結売上⾼・連結営業利益 年次推移
スライドの青色の部分は連結売上高です。今年は約254億円の着地を予想しています。連結の営業利益は約23億7,000万円で、過去最高の数字に近づけるのではないかと予想しています。
上半期の連結営業利益は20億円でしたが、下期の途中で業績予想値を一度超えると思います。ただし、11月、12月にサイボウズお決まりの大型イベントの開催や、上期に控えていたテレビCMなどへの投資も良いバランスで実施していきたいと考えています。したがって、現時点での期末の着地見込はスライドの数字となっています。このあたりは柔軟に考えていきたいと思います。
林忠正氏(以下、林):1点だけ、補足させてください。連結営業利益についてですが、こちらの見立ての23億7,000万円に対して、6月までの累計実績では20億円強で数字をお出ししています。しかし、最新の7月度月次開示の営業利益では25億円となっています。
先ほど青野がお伝えしたとおり、下期に広告宣伝費やイベント費用もあらためて投下していきますので、最終的な着地としては、現時点でこのくらいの見立てになると見ています。
質疑応答:海外での展開について
質問者:ご説明いただいた中で、3点おうかがいします。1つ目は海外展開についてです。
お話しいただいた内容ですと、数年後のアメリカはかなり期待できる一方で、中華圏と東南アジアは足元がやや厳しいといった印象です。アメリカではパートナーがいますが、中華圏と東南アジアでも同じようにパートナーとの展開を考えていますか? それとも自社でしっかりと伸ばしていく戦略なのでしょうか? 特に、中華圏と東南アジアにおける今後の展開についてお聞かせください。
青野:はじめに一般論からお伝えすると、いきなりパートナーを開拓するということはやはり難しいです。ある程度の実績を出さないと、パートナーも自信を持って販売できないと思います。
したがって他国に展開するときには、まず自社で展開し、実績を出してから「ほら、売れるでしょう?」というかたちで示し、我々が現地で販売できるノウハウを身につけてから、それをパートナーに横展開していこうと考えています。アメリカに関しては自社である程度開拓して、赤字を出しながらもそれなりに実績を出し、現在パートナーにノウハウをお渡ししている段階です。
東南アジアのいくつかの国では、ある程度パートナーに渡せるくらいの実績は出てきていますが、自社として投資がもう少し必要なフェーズですので、自社が牽引しなくてはいけない状況です。
中国については最も長く展開しています。実は中華圏で展開している1,340社のうち、1,000社強はいわゆる日系企業であり、ローカルには行けていません。その意味では、日系企業はある程度のシェアを取りましたが、ローカルのところでは実績を出す必要がありますので、こちらについてもまだまだ自社で引っ張っていかなければいけない段階です。
中国は競合も強力で、アリババやテンセントといったグループウェアを、非常に低価格で大規模に配布していたりします。なかなか厳しい状況ですが、少しずつでも自社で実績を出しながらパートナーを開拓していこうと考えています。
質問者:ありがとうございます。ちなみにリコーさまとのお話の中で、中華圏と東南アジアでも一緒に展開していくといった交渉はあったのでしょうか?
青野:明確な返答はできませんが、基本的にリコーさまとはグローバル展開をするための提携ですので、世界全体を視野に入れて協議しながら進めていきたいと考えています。
質疑応答:解約リスクについて
質問者:2点目は解約についてです。先ほど、少し特殊な売り方をしているお客さまの解約についてお話がありました。このようなことが発生するリスクを意識しておくべきなのか、それとも今回だけで終わるのかについてお聞かせください。
青野:「サイボウズ Office」という製品に関しては、このような大きな解約はないと思います。しかし「Garoon」のような500ユーザー、場合によっては数千ユーザーのプロダクトの場合は、まとまって購入していただくケースが多いため、1つの解約でも大きなマイナスになってしまうケースは今後も十分にあります。
質疑応答:「kintone」の単価が下がっている要因について
質問者:3点目は「kintone」についてです。上期は数量が伸びている一方で、単価があまり伸びていないというお話がありました。その要因として、値引きして販売されているためでしょうか? それとも、単純に新規でライセンスが増えないため単価が下がっているのでしょうか?
青野:まだ分析しきれていないため私の所感になりますが、この2年間、テレビCMをはじめ、積極的にマーケティング活動を展開し、「Excelで行っているようなことが簡単にできます」といったメッセージを積極的に発信してきました。
したがって、そのあたりのマーケティング活動の影響も少なからずあるのではないかと思います。組織全体のインフラとして『kintone』を導入するというよりも、「うちの部署でも簡単に購入できそうだな」といったイメージが先行したため、数量が増えた一方で1社あたりの単価が下がってしまったのではないかと思います。
導入していただくことはもちろんありがたいのですが、我々としては全社のDX基盤として導入していただくといった一歩先のマーケティング活動にも力を入れていかないと、種をまくだけで終わってしまうビジネスになりかねないという危機感を持っています。よって、値引きはあまり影響がないと考えています。
質問者:今のお話ですと、下期から単価が急回復するというよりは、少し時間をかけながら1社あたりの単価も上げていく状況になると認識しておいたほうが良いでしょうか?
青野:おっしゃるとおりです。
質疑応答:月次の赤字と広告宣伝費の使い方について
質問者:広告宣伝費の使い方についてです。6月の月次で一度赤字が出て、その後は回復ということでした。今後も同じような一時要因によって月次で赤字が出ることはあり得るのでしょうか? 来期以降の広告宣伝費の使い方も含めて教えてください。
林:月次の赤字・黒字でいいますと、広告宣伝費だけではなく、人件費や賞与の関係もあるため、それだけで決まっているわけではないというところが1つあります。また、下期に向けての広告宣伝費の使い方としては、テレビCM等があります。
方針としては、昨年度のように一気に認知を広げるというよりは、維持もしくは若干上振れさせるくらいの位置づけという戦略です。まったく使わないわけではないため、引き続き一定の費用が出ます。
例年、下期に一大イベント(Cybozu Days)を控えており、そこで広告宣伝費を大きく投下します。そのタイミングでは月次の利益が大きく下がるフェーズが来ると思っています。
来期以降の広告宣伝費の使い方については、この下期から、まさに組織体制等も変更して検討しているところです。先ほど青野からお話ししたとおり、件数は増えているが1社あたりの単価が伸び悩んでいるといったところに対してどのようにアプローチするかも含めて、これから考えていきます。現在検討中のため、まだ決まっていないというお答えになります。
青野:人件費でいいますと、3月、6月、9月、12月の3の倍数の月に賞与を計上するため、その時にどうしても利益が少なくなるという計算になります。
質疑応答:「kintone」の国内の販売戦略と今後の値上げについて
質問者:御社の成長ドライバーと見られている「kintone」について、あらためて国内の販売戦略を足元でどのように考えているのか教えてください。また、今後の値上げについても検討しているのか、ご回答をお願いします。
青野:国内の販売戦略について、概略としては基本的にエコシステム戦略を取っています。他のSaaS企業では直販で販売しているところが多いと思いますが、「kintone」に関しては、できるだけパートナー経由の販売を進めていくことが基本方針となります。
なぜかといいますと、「kintone」はSaaSといわれるアプリケーション層よりも、もう少し下のミドルウェア層の利用者に向けたプラットフォーム型製品です。「kintone」を買っただけでは実は何もできず、「kintone」の上でお客さまやパートナーがアプリを作り、それを改善し続けることで価値が出るプロダクトとなっています。
私たちの発想としては、例えば自社で3万社を相手にできるかといいますと、やはりできないため、できるだけパートナーを増やし、パートナー経由で「kintone」を提供していくことがベースの戦略になります。
お付き合いの深いリコージャパンさんや富士フイルムビジネスイノベーションさん、大塚商会さんのような大手販社のパートナーには、今ももちろん「kintone」を提供していただいていますが、さらに販売していただけるような提案活動にも力を入れつつ、まだ開拓しきれていないパートナーの開拓にも注力しています。
具体的には、「この業界ではあそこが強い」「自治体向けだったらあそこが強い」など業種特化のパートナー、もしくは大手企業向けです。
「kintone」は、今後大手企業のインフラとして導入されることを目指しています。そのため、大手企業向けにシステムインテグレーションができるパートナーをさらに開拓しながら、エコシステムを充実させ、販売を伸ばしていくことが基本戦略になります。
その中で値上げを考えているかといいますと、今のところはまだ考えていません。私たちはプラットフォーマーを目指していますので、パートナーが付加価値を付けられる余地を残しておきたいと考えています。
プラットフォームを値上げすると、全体の価格が上がり、パートナーが付加価値で利益を上げられなくなってしまいます。良いバランスを取っていきたいため、今のところ、日本の1ユーザー当たり月額1,500円から値上げする予定はありません。
質疑応答:生成AI関連での収益化について
質問者:先ほど少しご説明があった生成AI関連について、収益化が見込めそうな事業や、「kintone」と特に相性の良い使い方など、将来に向けてのイメージがあれば教えてください。
青野:生成AIとの連携プロジェクトを進めています。繰り返しになりますが、その中で成果が出そうなのは、「kintone」に入っているデータの要約や、その中から要素を抽出、分析してアドバイスしてくれるところです。
「kintone」に会議の議事録や営業報告等を記入しますので、日々データが蓄積されていきます。ここに生成AIを組み込むことで、人間に知をもたらしてくれることが、間違いなくバリューを生むと考えています。
また、「kintone」は機能拡張できる余地がありますので、簡単な拡張機能を生成AIに行ってもらうという動きもあり、こちらもある程度達成できそうです。機能拡張時のプログラミングができる人が少ないため、生成AIに協力してもらうということです。
加えて、アシスタント的な生成AIの使い方も実験しています。例えば、「kintone」の中に売上のデータがたくさん入っています。「A社について知りたい」という時に、自分で集計して検索できればよいのですが、それが難しいときに「A社の去年の売上はいくらで、このような傾向になっています」と生成AIがアシスタントのように返してくれるという使い方にもチャレンジしていますので、このあたりはそれなりに成果が出ると思っています。
質疑応答:「サイボウズNEXT」の位置づけについて
質問者:「サイボウズNEXT」について、御社での位置づけと思い、楽しみを聞かせてください。ターゲットは日本なのか海外戦略製品なのか、既存ユーザーなのか新規ユーザーなのかを教えてください。新製品の投入でチームワークがどのようなイメージで加速、または醸成されるでしょうか?
青野:「サイボウズNEXT」については、夢を壊すようで申し訳ありませんが、既存製品の「サイボウズ Office」「Garoon」「Mailwise」「kintone」との統合・融合がテーマになりますので、あまりグローバルな製品ではありません。ほとんどが日本のお客さまですので、日本向けが中心になります。また、既存ユーザーがより使いやすくなるところが、ファーストステップとしてあると思います。
もちろん、ここで新たなステージに進むことができれば、新規ユーザーにもそのバリューをもって販売できると思いますが、既存製品をアップデートする方向に重きを置いたプロジェクトだとご理解いただければと思います。
「新製品の投入でチームワークがどのようなイメージで加速するか」については、例えば、今私たちが提供している4つのグループウェアでどのような問題があるかといいますと、まずユーザーインターフェースがそれぞれ異なります。
当社内でもいくつも使っていますが、「『kintone』を使ってから『Garoon』を見ると、画面がぜんぜん違うよね」「『Mailwise』も違うよね」と感じており、少なくともユーザーインターフェースをもう少し統一したいと考えています。
また、「最初に『kintone』で検索して、なかったら『Garoon』で検索してみて」ということを社内でも行っているわけです。「検索は横で統合してほしい」など、まだ改善したいことがありますので、少しずつ4製品が融合・統合していく世界観にしていきたいと思っています。
それができれば、より多くのお客さまがサイロ化することなく、チームワークのプラットフォームを社内インフラとして使えるようになるというイメージを持っています。
質疑応答:AIの自社開発について
質問者:AI開発は自前での開発でしょうか? 自社開発の場合、手応えやハードルがありましたら教えてください。
司会者(広報):こちらは広報の私よりご回答します。
「サイボウズ Office」に関しては、自社のAIの仕組みを使っているわけではありません。ただし、サイボウズ・ラボという会社に機械学習の専門家が在籍しており、以前から機械学習領域の研究を行っています。
サイボウズ・ラボとサイボウズの開発メンバーと合同でチームやプロジェクトを組み、AIを製品に応用することを目的とした研究開発チームを発足していますので、今後も製品開発と連携しながら進めていくことを目指しています。
そのあたりが手応えとなるかはまだこれからですが、このような活動を進めています。
質疑応答:広告宣伝費の計上のタイミングについて
質問者:広告宣伝費について、3月、6月、9月、12月に費用が計上されていますが、実際に目に触れる広告と計上のタイミングを教えてください。3ヶ月分をまとめて先に計上しているイメージでしょうか?
林:広告宣伝費に関しては、まとめて計上しているように見えているかもしれませんが、都度計上しています。「これから出る広告にはどのようなものがあるか」というご質問だと思いますが、現状でお伝えできる内容はありません。
下期に向けて7月に大きな体制変更があり、マーケティングの組織変動もありました。9月頃にかけてマーケティングのプラン等も具体的に固まっていきますので、今は「このようなものに積極的にプロモーションをかけていきます」とお話しできるような内容は手元にない状態です。
質疑応答:売上高1,000億円達成までの課題について
質問者:5月に開催された機関投資家面談の内容が公開されており、青野社長から「『kintone』の売上高は、国内のみで1,000億円まで伸ばせる」というお話がありました。
売上高は前期末で約100億円ですので、仮に年率30パーセント成長が可能だとすれば、約9年後に達成できる試算になると思います。これを達成するために乗り越えなければならない課題について教えてください。
青野:まず、売上高1,000億円の根拠についてお話しします。現在の「kintone」のビジネスをとてもシンプルにご説明すると、例えば約100万ユーザーの方たちから年間約1万円をお支払いいただくと、掛け算で年間100億円になります。
日本で働く人口を考えると、1,000万ユーザーくらいまでは達成できるのではないかと考えており、その人数に1万円を掛けると1,000億円になります。日本で非常に良いポジションのままビジネスを拡大できれば、上限としては1,000億円くらいまでは見えるということです。
ただし、そのためには中小企業も相当すみずみまで取りにいかないといけません。今のように「『kintone』のテレビCMを見て、自分で試して買う」というお客さまだけではなく、「『kintone』だとわからなくても、パートナーから提供してもらって使う」というところまで進めないといけません。
例えば、「RICOH kintone plus」はそのチャレンジの1つです。「リコーブランドとして買ったが、実は『kintone』のエンジンを使っている」といったように、「kintone」が表に出ないくらいのパートナリングで、すみずみまで提供していくことが中小企業向けの課題としてあります。
もう1つは、エンタープライズへの課題があります。まだまだ部門で導入されるに留まっており、例えば1,000人の会社でも50人しか使っていないといったことが多々あります。
東証プライム市場の上場企業で3分の1が導入しているのに、売上がこの程度しかないわけですので、プラットフォームとして横展開での導入にチャンスがあると思っています。
このためには、やはり私たちの力だけではなく、全社展開する時にそれにふさわしいパートナーを育成し、マーケティング活動を行っていく必要があると思っています。これもまだまだやりきれていないところですので、これを乗り越える必要があると考えています。
もちろんエンタープライズ向けになるほど、マイクロソフト社やGoogle社など、グローバルのスーパー企業と対峙していくことになりますので、困難なことではありますが、ぜひチャレンジしたいと思っています。
質問者:2点確認させてください。1点目は、売上高1,000億円達成のためにパートナーとの連携強化が必要だというお話がありました。パートナーと連携している数が開示されていると思いますが、この数を増やさなければいけないと考えているのでしょうか?
2点目は、エンタープライズ向けの強化というお話もありました。現状の「kintone」の売上高100億円のうち、エンタープライズ向けの売上はどのくらいの割合ですか? また、これをどのように高めていき、どのような比率にしていくのかを教えてください。
青野:パートナーの数については、オフィシャルパートナーが現在400社です。オフィシャルパートナーには義務があり、「kintone認定資格取得者を何名置く」などの契約を毎年行っています。
今後、パートナーについては質も量も伸ばしていかないといけないと思っており、オフィシャルパートナー以外にレジスタードの登録も進めています。
「kintone」の資格取得者がいなくても、「kintone」をお試しで提案していただけるようなパートナーを裾野として広げており、レジスタードパートナーをどんどんオフィシャルパートナーに育てていく活動に力を入れているところです。
併せて、質のところでいいますと、大手企業へ提案できるパートナーは限定されますが、このようなところで深く深く入り込んでいきたいと思っています。例えば「『kintone』を扱える人が2人しかいません」ということがボトルネックになりますので、「10人の体制を組んでください」、場合によっては「部門を作ってください」とお願いしています。
このように、質と量の両方を高めていくことが大事になります。エンタープライズの売上比率は、現在は開示していません。
質問者:おおよその比率でかまいませんので、例えば2割、3割、5割など、ヒントを教えてください。
林:そのあたりを開示していないため、私の一存で今お答えすることができません。ただし、もともと当社が中小企業を中心に営業をスタートしてきたところから考えると、おそらくグローバルでかなり大きな売上を持っている「Salesforce」などに比べると、占める割合は低いとご認識いただいてよいのではないかと思います。
このあたりの数字をどのようにみなさまにお伝えしていくかは、中長期的にIRのところでも検討します。ご要望があるという旨は認識しましたので、お知らせの仕方等は持ち帰らせていただければと思います。
質問者:現在、エンタープライズ向けも高まっているということですので、今の状態について、数字ではなく定性的なところだけでもコメントをいただけますか?
青野:割合という意味では伸びていません。今年の上半期は、小さな方向でたくさん売れるようになったという結果となりました。
3万社に販売しているが売上高は100億円しかありませんので、今後エンタープライズ向けを育てていくことが課題になります。まだ序盤戦どころか、スタートラインにもきちんと着けていない段階だという認識です。
質疑応答:「サイボウズNEXT」の効果、「kintone」のチャット機能開発、プラグインマーケット、IAM分野のプロダクト開発について
質問者:1点目は、「サイボウズNEXT」についてです。シームレスに統合することにより、既存の4製品のアップセル・クロスセルが促進される可能性があるのか、またその効果について教えてください。
2点目は、メディアにおいて「『kintone』にチャット機能などを付与する」というご発言があったと思います。そのような付加機能をオプションとして、新たに課金を取っていく考えがあるのかを教えてください。
3点目は、「kintone」は現状でもそのプラグインを外部のパートナーなどが販売されていると思います。「プラグインを販売するマーケットプレイスを作る」という構想を語られていたと思いますが、詳細を教えてください。
4点目は、サイボウズの求人に「IAM(Identity and Access Management)分野でユーザーの管理や認証をつかさどるサービスを開発中で、遠からずローンチする」という記述がありました。こちらの製品の売上や規模感について教えてください。
青野:4点ということで手短にお話しします。ご了承ください。
まず、1つ目の「サイボウズNEXT」についてシームレスに統合することで、アップセル、クロスセル、単価向上の効果を期待しています。今はスケジュールを扱う場合は「Garoon」を使ったほうが便利ですが、シームレスに統合することで「じゃあ『kintone』とセットで使おうか」という気運が高まると思いますので、それによる単価の向上を見込んでいます。
2つ目のチャット機能については、まだ構想段階のところもあるため、具体的な計画はお話しできません。ただし、私たちのお客さまから「なぜチャット機能を出さないんだ」というお声をたくさんいただいています。「Slack」「Teams」「Chatwork」などに対抗しようというものではなく、チャットが必要なお客さまに対する私たちなりの答えとして、チャット機能を出していこうと考えています。
3つ目のプラグインマーケットについては、構想はあるものの、本当にマーケットプレイスを作った時に、誰に喜んでいただけるのかというところがありますので、短期的に華々しいマーケットができることは想像していません。
お客さまにとっては、プラグインがマーケットに並んでいても、誰かが「あなたの業務だったらこのようなプラグインがあるよ」と説明や提案をしてくれないと、「じゃあこれにしよう」と買うことにならないと思います。「楽天市場」で買うようなものではないため、マーケットプレイスというよりは、むしろ商品カタログくらいの位置づけで、しっかり作っていくべきじゃないかと社内で議論しているところです。
4つ目のIAMの件については、「kintone」よりもさらに下の層で、まさにログインの基盤の部分を今切り出して作ろうとしています。
「チームワークあふれる社会を創る」ためには、チームに入ってくる人が誰なのかを認証し、それをつかさどる機能がチームワークの根幹になると思っています。
世の中にはもちろん「Okta」「Azure AD」など、大手企業がログインをつかさどるユーザー認証基盤を提供しています。しかし、さらにシンプルで中小企業でも簡単に導入できるような個人認証基盤、チーム認証基盤があってもよいのではないかということで、今開発を進めています。
ただし、こちらも機能がそれなりにたくさん必要になりますので、今年、来年にローンチすることは考えていません。再来年以降に出していきたいと思っていますが、売上への貢献度は相当あやしいです。手探りで探索しつつ進めていきますので、長期的な視点で見ていただければと思います。
一方で、ここにチャレンジする日本企業はあまりありません。低レイヤーになるほどグローバルプレイヤーと競合し、文化に依存しない部分に入っていきますので、大変厳しい市場ではあります。しかし、そのようなところにチャレンジする日本企業があってもよいのではないかと思っていますので、がんばっていきます。
質問者:IAMのプロダクトについて、私の理解があまり追いついていないのかもしれませんが、「HENNGE One」などSaaSの入口となるようなプロダクトをイメージしています。そのようなもので合っていますか?
青野:おっしゃるとおりです。HENNGEさんとは非常に仲の良いパートナー企業ですが、大まかにはHENNGEさんが開発しているような分野ということでご理解ください。HENNGEさんも「Okta」や日本マイクロソフトの「Azure AD」などと戦っていると思いますが、その市場はまだまだ大きくなり、さらにいろいろなプレイヤーが出てきて全体として市場が拡大することになると思います。
ユーザー認証基盤の必要性にあまり気づいていない人が多く、まだ一部の大企業で導入されている程度です。しかし、中小企業まで広がってきた時に、どのようなプレイヤーがどのようなポジションを取るかという市場だと見ています。
質疑応答:価格改定による解約とパートナーのインセンティブの考え方について
質問者:Salesforceが8月から既存製品を平均9パーセント値上げしています。その理由としては機能強化を持続的に行い、ユーザー体験をより良くするためで、実際に値上げしてもユーザーが離反する例はあまり見られていないと思います。
特に「kintone」は「Salesforce」と比べ、現状でもかなりのコストパフォーマンスがある価格設定になっていると思います。そのため、値上げすることでお客さまの獲得効率が悪くなる、もしくはお客さまが離れてしまうといったことはあまりないのではないかというのが素人の考えです。
そのくらいで離れていくお客さまであればいずれ解約してしまうため、付加価値をしっかりと認めていただいたお客さまに提供することで、より良い「kintone」に進化させることができると思います。御社は価格改定をどのように考えていますか?
また、価格を上げることにより、パートナーが販売を強化しようというインセンティブが生まれると思っています。パートナーと御社の取り分の比率は非公開ですので不問にしますが、現在1,500円で販売しており、1ユーザー当たりの課金額はそれほど多くないと思います。
しかし、金額が大きくなると「もう少しがんばって売ろうかな」と思ったり、大塚商会などの大手はリカーリングのレベニューが急上昇して「サイボウズありがとう」と思われたりするなど、いろいろと良い影響もあると思っています。価格改定は、パートナーが販売を強化するインセンティブにもなり得るのではないかという観点からもコメントをお願いします。
青野:非常に的確な分析で、反論する余地もありません。おっしゃるとおり、例えば「kintone」の価格を20パーセント上げて離反するユーザーは多くないだろうと思います。
しかし、「値上げすることで、私たちのエコシステムにどのような影響があるか?」を慎重に考えながら上げる必要があると思います。
「Salesforce」の場合、基本は自社で開発して自社で売る直販モデルだと思いますので、エコシステムに与える影響はそれほどないと思います。しかし、当社の場合はプラットフォームの上にパートナーがいろいろな価値を乗せて提供しますので、実際の末端価格は1,500円という感覚ではありません。
お客さまがプラグインや連携サービスを購入することで、全体として「kintone」のシステムを購入しているため、私たちは末端価格に与える影響を考えないといけないということです。
確かに、「Salesforce」と「kintone」の単価だけを見るとかなり差がありますが、「kintone」のお客さまはそれ以外にもいろいろと購入しています。そのため、「kintone」を値上げすると全体の価格が底上げされることになり、「Salesforce」と競争力があるかどうかを考えなければなりません。
また、パートナーの取り分も増えますが、上に乗せる付加価値の分も稼いでもらう必要があるため、バランスを見ながら価格を決めたいと思っています。したがって、パートナーの商売状況を見ながら、プラットフォームの価格を決定していくというイメージです。
「すぐに値上げします」と言えないのは、「Salesforce」が値上げした後の影響がどのように出てくるかわからないためです。Salesforceは「これによる離反はしない」と言っているかもしれませんが、離反はしなくても新規の勝率は私たちのほうに上がる可能性もあります。
仮に、長期的に見て新規の勝率が上がるのであれば、私たちが無理に価格を上げて勝率を落とす必要はありません。新規顧客開拓を優先するという手もあると思いますので、慎重に動向を見極めていこうと思います。
質問者:今は見極めている最中ということですね。
青野:そのとおりです。
質問者:例えばABテストのような、値上げをした時にユーザーがどのような反応をしたかがわかるようなデータや社内的なテストはありますか?
青野:値上げに関してのABテストは行っていません。
質問者:値上げのインパクトは相当大きいと思います。青野社長の心の中でも、御社がさらに自己資本を積み上げ、「世界規模で『チームワークあふれる社会を創る』というミッションを死んでもやり遂げる」と決意されていると思います。
ただ、我々の寿命は短いです。青野社長も今後50年も生きておられるかわかりません。スピード感を持たないと、世界中にチームワークを広めたという光景を、青野社長が見ることができないかもしれません。
他社のSaaSカンパニーは値上げでマージンを稼ぎ、猛烈な勢いで人員を確保しています。私はそこまで無茶をする必要はないと思いますが、御社も値上げをすることで、製品をさらに磨くことも、チームワークをより世の中に広めていくことができると思います。
ミッション達成のためにも、このようなインパクトを鑑みて、Salesforceの動向を見ながら前向きに取り組んでほしいと思っています。
青野:ありがとうございます。このツールを世界のすみずみまで提供するために、どのような値付けがいいかという最終的な答えはありません。その時々で値付けを考えていくしかありません。
パソコンのOSを例にとると、Windowsの力が以前より失われてきており、モバイルではiOSやAndroid、サーバーOSではLinuxがほぼ席巻しています。デスクトップでさえ、ChromeOSやmacOSが出てきている状況です。
なぜこのような変化が起きたのかを考えると、その震源地はLinuxというオープンソースです。フリーでコアのカーネルだけを提供し、さまざまなパートナーがいろいろなサービスを付加してエコシステムを作り、気がつけばどんどんWindowsを侵食してきました。
このような状況を見て考えたのは、「最終的に私たちが向かっていくのは、もしかしたらオープンソースのような世界かもしれない」ということです。そこに行き着くために今どのような値付けをすべきかを考えたとき、やはり私たちは値を上げ続けるイメージを持っていないということです。
質疑応答:組織のグローバル化について
質問者:社員の外国人比率を教えてください。中長期的な組織のグローバル化について、どのようにお考えですか? また、アメリカはパートナー経由でクラウドを買う習慣自体がないと思いますが、どのような企業をターゲットにパートナー販売を強化するのでしょうか? また「kintone」が海外企業で受け入れられるためのハードルになっていることは何でしょうか?
林:外国人比率については私からご回答します。明確な数字は出していませんが、現在、有期無期を含めた約1,400名の雇用を拠点別に見ると、国内が1,105名、海外で265名となっており、比率もほぼ同等だと考えています。
日本においても海外出身者の採用を増やしていますが、まだ数は多くありません。そのため拠点別に見た数字が、実体とほぼ等しいと思っています。したがって約1,100人対300人弱というイメージで考えていただければと思います。
青野:長期的な組織のグローバル化については、外国人比率が上がってしかるべきだと思います。新製品の開発では、すでに英語が前提のプロジェクトも立ち上がっていますし、開発から販売まで外国人比率が上がっていくことが自然な成長だと考えています。
「アメリカはパートナー経由でクラウドを買う習慣がない」というご意見については、おっしゃるとおり、アメリカは直販の文化だと認識しています。
現在、リコーUSAと組んでアメリカで販売しています。私たちの立場からするとパートナー経由ですが、リコーUSA自体は「RICOH Kintone plus」として、ある意味自社サービスを直販している状態です。私たちはそのコンポーネントとして裏から「kintone」を提供していますが、「リコーUSAがリコーブランドの製品をお客さまへ直販している」というかたちですので、アメリカ文化に適合したビジネスモデルができていると思っています。
今後も「kintone」が組み込まれているクラウドサービスを、パートナーのブランドとしてビジネスできるパートナーを増やしていきます。
3つ目のご質問の、「kintone」が海外企業で受け入れられるためのハードルになっていることとしては、ローカライズだと考えています。
現地企業に受け入れてもらうためには、「kintone」を日本の「kintone」のまま売るのではなく、ローカルのパートナーが「kintone」をローカルブランドに変え、現地ならではの付加価値を乗せることで、現地のお客さまに喜んでもらえるように仕立てて販売する必要があります。
そのためには、ローカルのパートナーとのエコシステム作りが重要になります。これは一朝一夕にできることではなく、一社一社にお願いをしながら実績を積み重ね、パートナーと伴走しながら高めていこうと思っています。
質疑応答:投資増額の効果について
質問者:投資を増額した年度と、そうでない年度の売上の伸びが大きく変わっていないように見えます。前期まで投資を加速させたことの効果はあったと評価していますか? また、その効果を数値的に示すことは可能ですか?
青野:おっしゃるとおり、2021年度と2022年度にかなりの広告宣伝投資を行いましたが、売上はあまり変わりませんでした。全体で15パーセント程度の売上成長で、この数字だけを見ると効果があったかどうかは怪しいところです。
ただし、効果に関してはより細かいデータがあり、例えば認知度がどのくらい上がったか、それによってパートナーが増えたか、販売本数が伸びたかなどのデータも含めて、効果を検証したいと思っています。
林:現在、広告宣伝の効果を直接お伝えできるような数値はありません。私は財務系の責任者として、投資に対しての効果についてマーケティングセクションや営業担当者などと、妥当な判断だったかどうかのコミュニケーションをしています。
その中で、「kintone」の認知が上がっていることにより、パートナーが営業する上で「お客さまへの感触が良くなっている実感がある」という声を聞いています。そのような意味での定性的な効果はあったのではないかと判断しています。
青野:投資対効果については、競合に対する戦略としてお見せできない情報も含まれていますので、ご理解いただければと思います。
質疑応答:海外事業の売上・利益について
質問者:4点ほどおうかがいします。1点目は海外展開についてです。連単差からこれまでの海外事業の売上と経常損益状態がわかると思いますが、今期は売上高8億円で経常損失9億円という予算になっていると思います。それに関して、定性的なものでかまいませんので、この上期はどのような着地をしたかの数値を教えてください。
また、サイボウズの「YouTube」チャンネルで、事業戦略室長の栗山さまが「アメリカでは月に20社から30社ほど導入できており、手ごたえがある」と発言していました。今回開示いただいた資料を見ると、6月末時点でアメリカのサブドメイン数が850社とあり、これは2022年12月末の時の数字とまったく同じでした。
これは半年で新規獲得した百数十社と、解約数が同じだということでしょうか? そうであれば、なぜ解約が出ているのかについて教えてください。
林:1点目についてお答えします。上半期の単体の業績は公開していないため、具体的な数字はお伝えできません。
連単差からグローバルと国内の利益差があることについては、ご想像のとおりです。先ほど青野の話にもありましたが、特に主力で投資をしていたアメリカでは、大きな戦略方針の転換に伴い、リコーUSAと組むことになりました。そのため中長期的には、我々が単体で広告宣伝費を投下しマーケティングや営業活動を行うという負荷は、かなり下がっていく想定です。そのため、海外と日本国内の利益差は、縮小していくイメージです。
質問者:今のお話ですと、上期については前期比で赤字幅は縮小しているということでしょうか?
林:その認識でいいと思います。上期というよりも、通期でそのような傾向にあります。
青野:2点目のご質問にお答えします。アメリカで20社から30社の契約を取ったという話について、これは去年まで広告宣伝費をしっかりと出して取っていた時の数字であり、残念ながら今はそこまで取れていない状況です。
この理由として、戦略変更により広告宣伝費に回していた分をリコーUSAの後方支援に回ったために獲得のペースが落ちたこと、また残念ながらカスタマーサクセスも日本ほど手厚くないために解約率が日本より高くなっていることから、数字が横ばいになっています。
質疑応答:リコーUSAとの協業の成果について
質問者:リコーUSAとの協業の成果についてお聞きします。特にリコーUSA経由でのパートナー売上がどの程度増加したのか、またアメリカでのマーケティングコストがどの程度削減できたかについて、定量的な部分をお話しできる範囲でお聞かせください。
また、私が危惧しているのが、今後「RICOH kintone plus」のように、例えば大塚商会版「kintone」や富士フイルム版「kintone」のようなものが出てきた場合です。
「RICOH kintone plus」には無料のプラグインが標準装備されており、ユーザーからすると直販の「kintone」よりも「RICOH kintone plus」を契約したほうがお得だと思います。
これにより、直販を解約して「RICOH kintone plus」を契約しようという動きが出てくる可能性があると思っています。実際にリコーのホームページには、そのような切り替えもできるという案内が掲載されています。売上的にはアカウント数は一定ですが、サイボウズの売上が減ってしまうのではないかと危惧しています。このような切り替え例が、実際に起こっているかどうかについてもお聞かせください。
林:マーケティング費用の減少規模の金額について、アメリカの具体的な費用は公開していないため、定量的な数字の部分は差し控えます。またリコーUSAとの協業に伴う売上実績の中身についても公開していません。
ただし、今回このようなご要望があることを認識しましたので、今後どのようなかたちで開示できるかをIRでも検討していきます。
青野:定性的なところについては、リコーUSAとの提携によりアメリカの宣伝広告費は削減できています。国内でもリコージャパンさん経由の売上が伸びており、リコーさんの活発な動きに競争意識を持ったほかのパートナーの売上や受注も伸びています。この効果については手ごたえを感じています。
懸念されている直販から間販への切り替えについては、起こっていないわけではないものの、数としては多くありません。わざわざ発注先を切り替えてまで使用するかというと、そうではないお客さまがほとんどで、現場でもほぼ起きていないと認識しています。
私たちとしては、直販よりも間販が伸びていくほうが好ましいと思っています。直販で全国、そして全世界をカバーするには無理があると思ったため、このような戦略を採用しています。そのため、間販経由で伸びていくほうがウェルカムであり、結果として私たちが儲からなくなることがあればプラットフォームの価格を上げれば良いと考えています。
その部分の意思決定権は私たちが持っており、そこで担保できると認識しています。そこはバランスを見ながら、調整しつつ進めていきたいと思っています。
質疑応答:パッケージ製品の売上高減少について
質問者:パッケージの売上高についての質問です。これまでパッケージの売上高は、しぶとく粘っているという認識でした。それが今期になり様相が変わっている気がします。月次ベースで見ると、7月までの間はずっと純減している状態で、7月度は月次の売上が2.5億円まで減少しています。
当初予算を立てられた時よりも減っていると思いますが、パッケージの売上が落ち込んでいる要因と、どのぐらいで下げ止まりそうかという目処があれば教えてください。
青野:おかしな言い方ですが「ようやく下がり始めてくれた」という感想です。私たちはいずれ、事業としてのパッケージは手離していきたいと考えています。すでにいくつかのプロダクトはパッケージ終了宣言を出しており、ようやくお客さまもクラウドに切り替え始めています。
これにより短期的に売上が下がることもありますが、長期的に見ればクラウドに移っていただいたほうが間違いなくライフタイムバリューを上げられますので、引き続きクラウドへの移行を支援していきます。
基本的にはポジティブに受け止めており、下げ止まりというよりも、できればすべてのお客さまにクラウドへ移行していただきたいと考えています。
質問者:基本的にはポジティブな事象だと思いますが、短期的に見た目の財務の数値が悪化するのが気がかりです。このペースですとパッケージの売上高が通年では31億円ほどで着地しそうですが、例えば来期に25億円まで減るのか、それとも30億円ぐらいになるのかによって、かなりモデルが変わってくると思います。クラウドへのシフトは好ましいことだと思いますが、どのぐらいのペースで落ちていくとお考えでしょうか?
青野:今までもクラウドへ移行してもらう努力をしてきており、ようやくお客さまの移行が始まったところです。できればこのペースを維持してクラウドに移行してほしいと思っています。
確かにクラウドに移行することで一時的に財務は下がりますが、2年目からは回収できるため、今年のペースで減らし続けていきたいと考えています。
質問者:おそらく今期が前年対比で3億円ほど落ちると思いますが、来期も同じぐらいのペースか、もう少し早まるかという感じで頭に入れておきます。
青野:少し補足すると、パッケージ比率が高いのは「Garoon」だけです。中小企業向けの「サイボウズ Office」は8割以上がクラウドに移行しています。
「Garoon」については3割から4割ほどパッケージのお客さまが残っており、私たちとしてはこのお客さまにクラウドへ移行していただけると大変ありがたいです。「Garoon」は中堅大企業のお客さまが多く、毎回何百ユーザーという単位でクラウドユーザーが増えていきます。今ようやくそのようなお客さまが増えてきています。
中堅大企業のお客さまの中でも「セキュリティ的な部分が気になっていたけど、やはりクラウドかな」ということで、エンタープライズ企業まで動き始めています。この流れをポジティブに受け取って、さらに加速していきたいと思っています。
質問者:この認識については若干危惧していましたが、雰囲気も含めて理解しました。望ましいこととして受け止めます。
質疑応答:公開する情報の選別について
質問者:情報共有についての質問です。最初のご説明にもありましたが、基本的にオープンな企業風土であり、インサイダーや個人情報以外に出せるものはすべて社内で共有するというお話でした。
これが投資家向けやマーケット向けになると、少し異なってくると思います。なぜ投資家向けの情報については選別をするのかというのが1つ目の質問です。開示を増やすことの効果はかなりあると思っており、御社への理解が促進されることで、中長期で応援しようという投資家が増えると考えています。社内と同様の方針で情報共有をしていただきたいと思います。
特に共有をお願いしたいものが3点あります。1点目はチャーンレートやクラウド重要指標といわれるものを、同業他社と同じようなかたちで開示してほしいと思っています。
2点目はアメリカをはじめとする海外の損益状況についてです。連単差で計算できるものなので、少なくとも通期では出せると思います。状況がわからないと応援するものも応援しにくくなるため、海外の損益状況を四半期ないし上期・下期で出していただきたいと思います。
3点目は中計です。青野社長にとって3年という時間軸は短期の短期であり、もしかしたらこの数字を追いかけることに何の意味があるのかとお考えかもしれません。そうであれば、例えば機関投資家向けの面談でお話ししていたような「『kintone』の売上高1,000億円」や「世界に『チームワークあふれる社会を創る」んだ」という長期ビジョンを示していただけると、「この組織は目先の売上や財務の数値だけでなく、長期のミッションを達成するために存在しているんだ」とマーケットで認知されると思います。
長くなりましたが、まとめると「公開する情報を選別しているのはなぜか」という質問です。
林:公開する情報の選別については、どちらかというと投資家のみなさま向けというよりも、競合戦略やパートナー戦略といった事業戦略上の観点から開示を控えています。そのような懸念がなければ、開示できるものはしていきたいと考えています。
現在開示していない情報についても、可能な限りマーケットと社内での格差をなくしていく方向で検討していますので、公開できるものについてはみなさまにお伝えしていきたいと思っています。
遅まきだと思われるかもしれませんが、製品別の売上についても今期初めて開示しましたし、ご要望いただいた内容についても検討し、問題のないものについては積極的に開示していきたいと思っています。前向きには考えていますので、今一度お時間いただきながら、我々を見守っていただけると幸いです。
質問者:方向性と目線感について、投資家と同じような部分を持っていただいているとあらためて認識できました。気長に、期待しながら待たせていただきます。
林:できる限りお応えできるように努めます。
質疑応答:海外ローカル企業とのパートナー契約について
質問者:アメリカを伸ばすため、リコーUSAだけでなく海外ローカルの大手SIやITコンサルを含む複数パートナーと契約する可能性はありますか?
青野:もちろん、複数契約の可能性はあります。中小企業に強いパートナーもいれば、大企業に強いパートナーもいます。
また、アプリを作るのが得意なパートナーや拡張機能を作るのが得意なパートナー、教育をするのが得意なパートナーもいます。このように得意分野も異なるため、多種多様なパートナーと組むことをと考えています。