株式会社網屋
石田晃太氏(以下、石田):株式会社網屋代表取締役社長の石田です。どうぞよろしくお願いいたします。本日は、直近の業績状況と当社概要、3ヶ年の中期経営計画を含めた今後の事業プランについてお話しさせていただきます。
株式会社網屋は、社名からラーメン屋や魚屋に間違われやすいのですが、創業時は企業のITインフラシステムの設計構築事業からスタートしました。企業LAN/WANを扱う会社であることから、「インターネット屋」の日本語版という意味で、「網屋」と名付けました。
現在はサイバーセキュリティに軸を移しており、セキュリティ製品の開発・販売に強みをもつ会社となっています。
コーポレートミッション
石田:我々のコーポレートミッションは「SECURE THE SUCCESS」です。現在は、サイバー攻撃の増加によりセキュリティが非常に重要視されていますが、そもそもセキュリティは大企業や資金に余裕のある企業にしか導入できない高額なソリューションです。
しかし、攻撃側は企業の大小にかかわらず、どのようなターゲットにも攻めてくるため、どうしても中小企業は脆弱になってしまいます。そのような企業を救うために、セキュリティをAIやクラウドを使い自動化することで、人を介さずに、誰もが安全を低価格で享受できる社会を創ることを我々の使命としています。
当社の大きな特徴は、プロダクトのメーカーであると同時に、システムインテグレーターとしてサービスも行えることです。この両方を持っている会社は、IT企業には比較的少ないと思っています。
また、企画・製造から販売までワンストップで行えることも大きな特徴です。中間販売だけを行い、製造・販売は他の販路に委託するケースも多いですが、当社は一気通貫で担うことができます。
さらに、セキュリティとネットワークの両方に対応できることも特徴です。この2つは同じように聞こえますが、まったく別の領域です。このように、異なる領域を両方対応できることが当社の大きな強みとなっています。
会社の変遷
石田:会社の変遷をご紹介します。1996年の創業時には、先ほどお伝えしたように無線LANやアクセスポイント、ルーターやファイアウォール、スイッチといった、パソコンやサーバをつなぐ、かなり複雑な仕組みを設計・構築する仕事を行っていました。
創業から6年から7年ほど後に会社が債務超過に陥り、結果的に労働集約型のビジネスに特化したため、低粗利のスポット売上という課題に直面しました。私が入社したのはこの頃で、会社を再生させるためには、1つの商品をきちんと育て上げ、商品力で会社を牽引していく必要があると考えました。
当時、大手企業の役員・従業員による顧客名簿の持ち出し、転売する不正が多発していました。これをなんとか防ぐ方法がないかと考え、記録を取ることで、重要なファイルが使われている場所を特定し使用者を追いかけることができる仕組みを作りました。
この商品を売ることで、ようやく債務超過が解消されましたが、祖業であるネットワークインフラ事業も非常に傷んでいました。そのため、メーカービジネスを考えることにしました。データとアプリケーションはクラウドにしやすいですが、パソコンやプリンター、無線LANといった物理装置はなかなかクラウドになりにくいという特徴があります。
ネットワークも同様で、上段のシステムをクラウド化することは非常に難しかったのですが、1つのSaaS画面上からコントロールすることにより、すべてのネットワークが一元的に運用できる仕組みを作りました。
このような変遷を経てようやくIPOができ、現在は成長戦略に入る段階となっています。
売上高の計画
石田:2023年12月期からの新3ヶ年計画として中期経営計画を作成し、公表しました。この計画では、3年で売上高と利益を倍にし、CAGR25パーセント以上とすることをコミットしています。
FY2023 第2四半期累計 PLハイライト
石田:今期の通期業績予想は、売上高が33億円です。第2四半期累計では16億9,900万円となり、50パーセント以上に無事到達しています。
営業利益は前年同期比239.4パーセントと非常に好調です。販管費の平準化など、いくつかの要因を背景として非常に奏功しており、結果的に第1四半期で上方修正しています。今後もそれらの要素を十分に踏まえ、第3四半期と第4四半期を迎えていきます。
FY2023第2四半期累計 業績予想の進捗
石田:通期進捗率は営業利益が75.3パーセント、当期純利益が80パーセントを超えており、もう一度修正のチャンスを狙っているところです。
増井麻里子氏(以下、増井):今期はすごく好調ということですが、もともと第2四半期は軟調傾向であると資料に記載されています。御社の場合は、四半期ごとにどのような傾向があるのでしょうか?
石田:例年、ある程度規則的なパターンになっています。四半期別に割合を示すと、第1四半期が4割、第2四半期が1割、第3四半期と第4四半期が2.5割もしくは第3四半期が2割、第4四半期が3割というかたちになります。結果的に、上半期と下半期は同じくらいのボリュームになりますが、特に1月から3月の第1四半期が非常に好調で、第2四半期はその余波を受けるというパターンになっています。
八木ひとみ氏(以下、八木):契約する企業側の影響を受けているのでしょうか?
石田:どうしても3月にお客さまの決算期があるため、そこで一気に検収が上がってしまうところもあります。また、第2四半期は4月に3月の余波、5月にGWによる営業日数減の影響が若干あり、第1四半期の反動という部分が非常に大きいです。
一方で、第3四半期と第4四半期はその影響をあまり受けず、例年均質的に売上を作ることができています。今後は、大きな事業の抜本的な構造転換を行い、サブスクモデルに注力することで、安定した売上が確保できると考えています。
増井:販管費の平準化についての記載もありますが、つまり第3四半期と第4四半期にこれまでより利益が増えていくかたちになるのでしょうか?
石田:おっしゃるとおりです。上場前まではCMへの広告出稿やタレント起用など、次年度への戦略的投資というかたちで、第4四半期に利益を調整していました。しかし、上場後、特に今年の第3四半期と第4四半期は、それほど大規模な投資を見込んでいません。そのため、この半年間で比較的安定した利益構造を作ることができると考えています。
FY2023 中計3か年の営業利益予実
石田:現在、中期経営計画を公表していますが、営業利益についても第3四半期予測をすでに第2四半期でほぼ達成しています。この調子で中期経営計画を前倒しでコミットしていきたいと考えています。
事業の紹介『ALog』 データセキュリティ事業
石田:各事業について紹介します。我々は大きく分けて2つの事業を持っており、1つはデータセキュリティ、もう1つはネットワークセキュリティです。
データセキュリティ事業についてです。以前は、社内のログを収集・分析して不正を検知・監視する仕組みを提供していました。しかし最近は、外部攻撃、特に国外からのサイバー攻撃が非常に頻発しています。ランサムウェアは、病院や自動車メーカーのサプライヤーなどに対して無差別攻撃を行い、恐喝やデータを全部消してしまうなど非常に重大なトラブルになっています。
我々のシステムでは、どこから侵入され、どのように遷移し、どのような権限昇格をし、どこに被害を与え、どこに送信するのかなどの部分を、お客さまのシステムのすべてにログを収集し、そちらのオペレーションヒストリーを集約することにより、あらゆる挙動を検知します。
これまではどうしてもそのデータを溜め込むだけで終わっていましたが、我々の仕組みにはAIに自動解析させる機能があります。例えば、営業担当が技術の重要なフォルダを触っていると異常として察知したり、通常の外部通信であるにもかかわらずボリュームが異常であることを検知したりします。このようなAIの自動解析による仕組みを我々が開発しました。
事業の紹介『ALog』 データセキュリティ事業
石田:いくつかの特長がありますが、1つは特許を取得しています。複雑なシステムのログは、メーカーや機種によってすべてバラバラに出てきますが、それを統一したフォーマットに自動変換する仕組みです。
さらに人間の挙動としてファイルを開いて、編集して、消したことなどを解釈して出力させることができます。こちらも唯一無二の特殊な技術を持っており、自動的にすべての情報を集約・集計してAIで検知するところまで、一気通貫でできる仕組みとなっています。
増井:スライド左下を見ると、日時が秒単位まで書いてありますね。
石田:世の中ではAIによるデータ解析が流行っていますが、実はAIでデータを分析するよりも、データアセットと呼ばれるデータ作成のほうが猛烈に作業量は多いです。
例えば、スライドには日時が書かれていますが、タイムゾーンの年が先に書かれているもの、カンマ区切りもの、日本語で書かれているものなど、いろいろな情報があります。それをすべて同じパターンに集約させなければ、分析ができません。
すべてのシステムインテグレーターの難作業の元であるデータアセットを自動化させられることが、当社製品の1つの特長です。
FY2023 第2四半期 事業KPI データセキュリティ事業
石田:今の状況について例えると、ジャンプする前のしゃがんでいる時期となります。3ヶ年でARRを297パーセントと、3倍にはきちんと到達させるという目標設定があるため、四半期ごとにコミットしながら発表していきたいと思っています。
ただし、本格的な構造転換はまだ始まっていません。今まではソフト販売を行っていましたが、今後はすべてのモデルをサブスクモデルに完全に切り替え、まったく違う収益構造へと変えていきます。
事業の紹介『ALog』 データセキュリティ事業
石田:「ALog」という製品は市場占有率がかなり高く、お客さまの傾向としては、どちらかと言いますと大手企業が多いです。特に官公庁、金融・保険業、製造業が非常に多くなっています。
顧客を見るとメガバンク、官公庁、大手の製造業、通信業など、日本のインフラ環境を支えている非常に重要なお客さまを持っています。当社はそれらのお客さまにセキュリティソリューションを提供する企業としてパブリックカンパニーとなるために上場したという経緯があります。
ホットトピック データセキュリティ事業
石田:サブスクモデルへの全面変更についてご説明します。もともとは売切りモデルであり、まずライセンスを販売し、その後スライド左下のように10パーセント程度の保守費用が累積してストック収益になる構造となっていました。
実は、我々はかなり良心的に事業を展開していました。最初にライセンスを売った後、例えば「Windows7」の後に「Windows10」が出たらもう1回買い直すことが当たり前の中、我々はすべてのメジャーバージョンアップの保証を毎月の保守費用の中で供給してきたという経緯があります。そのような意味では、売上の機会損失もかなりありました。
今年2月にリリースしたクラウド版に加え、来年にはこれまでのオンプレ版の新バージョンもリリース予定ですが、どちらもサブスクで供給し、まったく新しい構造を展開していきます。今までの小さな保守費用の積み上げ部分が最初のサブスクモデルの売上と同額レベルで次年度も推移していくモデルに切り替わります。
八木:サブスクモデルに変更された理由としては、大手以外の顧客にも訴求したいという部分もあったのでしょうか?
石田:いろいろな理由がありますが、例えば中小企業のお客さまの場合、インフラ、つまりハードウェアを構築した上で設定しながら、運用も含め環境を作らなくてはいけないことが非常にストレスになると思います。
そのような点では、クラウドによりすぐにデータを集め、分析しながら監視もできる環境を提供していますので、中堅・中小企業のお客さまも、非常に手早く導入できるというメリットがあります。
八木:今回のサブスクモデルへの転換に関して、既存顧客の反応はいかがでしたか?
石田:直接的に言えば値上げになるため、いくつかのインパクトがあると懸念はしていましたが、実際にはそれほどトラブルはない状況です。競合他社は、だいたい大手の海外製品になりますが、それらはすべてサブスクモデルしかないため、我々のほうがむしろ特殊だったと言えます。そのため、通常モデルに切り替えることを受け入れていただいてるお客さまも非常に多い状況です。
事業の紹介『 Network All Cloud 』 ネットワークセキュリティ事業
石田:ネットワークセキュリティ事業についてです。スライド左側の図は、ネットワークのインフラをクラウド化する仕組みを示しています。そもそも、この先の世の中において、人口が減少するだけではなくエンジニアも必ず不足します。今までのインフラの設定・構築作業は、すべて現地のお客さま先で行っていました。
しかしこれからは、機器のみを宅送しインターネットにLANケーブルを差せば、すべてをクラウド画面上から設定できるようになります。それにより導入から運用、設定、監視、ログの取得まで当社がすべて代行できるため、お客さまはまったくストレスなく、特に専門技術を必要とすることもなく運用できます。
すでに人手不足は始まっていますので、人手を必要としないビジネスという意味では非常に需要が高く、現時点でCAGR20パーセントを超えている状況です。こちらもサブスクモデルのため、基本的には次年度の収益も確定しており、継続率も非常に高いモデルになっています。
事業の紹介『 Network All Cloud 』 ネットワークセキュリティ事業
石田:いろいろなソリューションがありますが、クラウドVPN/ゼロトラスト「Verona」というサービスについて言うと、最近非常に流行っているテレワークなどでは、会社との通信において、どこにいても、どの環境でも、安全に通信できることが求められています。
今までのテレワークでは、自宅のパソコンやスマホは、必ず会社のルーターとファイアウォールを通してから「Office365」などを使っていました。当社は、ゼロトラストの考えですべての端末自体を安全化させ、安全な通信を直接クラウドに届けるという仕組みを開発・販売しており、日本では特殊な存在のベンダーとなっています。
事業の紹介『 Network All Cloud 』 ネットワークセキュリティ事業
増井:この仕組みの具体的なメリットは何ですか?
石田:多くのお客さまの中で一番わかりやすい例は、牛丼の松屋フーズです。松屋は全国で1,100店舗以上展開されていますが、iPadを業務利用するため、お店の中にはWi-Fiがついています。これまでは、例えば電子レンジと干渉して動かなくなるなど、なんらかの影響で機器が止まってしまう時はエンジニアが必ず現地に出張し、作業して帰ってくるという手間とコストが非常にかかっていました。
当社の仕組みを使うようになってからは、クラウド上からSaaSの画面で再起動をかけたり、電波幅を変えたり、チャンネルを切り替えたりできるため、現地にエンジニアを派遣させる必要がまったくなくなりました。
このメリットは特に、全国に拠点や支店を展開している店舗や企業で非常に有用です。スーパーやドラッグストア、塾や大学などの学校関係でもよく使われています。
増井:利用するほうも、けっこう不安が軽減されそうですね。
石田:おっしゃるとおりです。1日から2日かけてエンジニアを出張させる場合、コストも時間も非常にかかるため、それらを低減できるという大きなメリットがあります。
どうしても多店舗・多拠点というイメージが強いですが、最近ではオフィスインフラとしても使っていただいています。現在は「フリーアドレス」と呼ばれる、自分の席がないかたちのオフィスも増えています。下手をすると有線ケーブルも自分で持っていないため、すべてWi-Fiを利用する環境になりますが、こちらの運用は非常に大変です。
このような場合でも、我々の仕組みを使えば専門家が現地に行かずにクラウド上から設定できるため、通常のオフィスでも非常に有効に使われています。
ポジショニング ネットワークセキュリティ事業
石田:ポジショニングとしては、いろいろなベンダーがいます。上場企業の中にはWi-Fiに特化したクラウドサービス、認証サービスに特化したクラウドサービス、オンプレの現場作業を得意とされているSIerなどがいます。
当社の強みは、すべての製品を包括し、どのような環境でも提供できることです。例えば、Wi-Fiはハイエンドからカジュアルまで3機種を用意しており、店舗に近いレベルではカジュアル、オフィスでハイセキュリティを保ちたい場合はハイエンドの機種と、いろいろなパターンを組み合わせて提供できます。
社会背景と当社事業
石田:今後の経営計画についてご説明します。振り返りになりますが、国家間の紛争も含めたサイバー攻撃は、今後も減少しないだろうという社会背景があります。同様に、人口減少が好転することもまずあり得ません。
したがって、単にクラウド移行やAI活用だけではなく、それらをすべて自動化し人手を介さず、比較的安く提供できることが非常に重要になってきます。
当社は労働集約型の事業として創業しましたが、途中でソフトウェアメーカーに切り替わりました。この先は、メーカーの機能を活かした総合的なセキュリティプロバイダになっていきたいと思っています。
取り組むべきセキュリティと当社事業
石田:お客さまが求めるセキュリティはかなり広範囲にわたります。今、何をしなければならないのか、どの環境で自分が脆弱なのかを理解しながらガイドラインを策定し、実際の環境を構築し、運用するために攻撃監視を行います。
今中期経営計画では、これらを含め社員全体の教育を行い、すべてのセキュリティ方面を網羅しソリューションを提供できる体制を作っていきます。
新しい事業としてすでに始めているのは、セキュリティサービス事業です。こちらでは、業界用語で「SOC(Security Operation Center)」と呼ばれる、サイバー攻撃の監視を代行するサービスです。そのままの環境で防ぐだけではなく、堅固な環境を新たに構築した上で監視につなげていくようなサービスとなっています。
セキュリティ教育事業では、資格を取ったり、実際に攻撃を仕掛けられた時にどのように対処するのかという攻撃演習を行ったりします。日本のセキュリティエンジニアは圧倒的に不足しているため、養成しながら社会に供給していく役割を担っていきたいと考えています。
新_中期3か年 経営計画
石田:先ほどお伝えしたとおり、今中期経営計画では各項目を約2倍にするという目標をきちんと達成しようと思っています。
ARRの計画
石田:ARRは、前年度の234パーセント以上を達成していこうと考えています。
主力商品のクラウド化 データセキュリティ事業
石田:中期経営計画を達成するにあたり、具体的にどの部分で基軸を立てていくのかということで、各事業プランについてご説明します。
まずは、システムのログを収集・解析する「ALog」についてです。国内では知名度がかなり高い製品となっており、こちらのクラウド版をリリースしました。
販売モデル
石田:従来は初年度にライセンス販売を行う売切りモデルでしたが、クラウド版のリリースによりサブスクの料金体系に変更し、計画的かつ継続的に次年度以降の確定収益が積み上がっていきます。
年間契約件数の平均350件にARPU400万円をかけあわせ、前年度の収益を堆積させていくモデルとなります。今はサブスク契約が始まったばかりで浸透度が低いですが、4,000社から5,000社いる既存顧客に向け、順次切り替えを行っていきます。
新ALogは、果たして高額か?
石田:「そこまで高くして大丈夫なのか?」という方もいると思います。
八木:おっしゃるとおり、どのくらいが普通なのかよくわかりません。
増井:相場がわかりませんね。
石田:スライド左上の図が従来のオンプレ版の料金体系です。これまでは我々の商品が安くても、サーバやハードウェアの構築や運用コストがかかるため、プロジェクト全体では比較的高額になっていました。しかし、「ALog Cloud」ではクラウド化により環境をまるごと供給できるため、顧客の総負担額はあまり変わりません。
また、IBMなど他社の大手SIEM(Security Information and Event Management)は当社製品よりも高額であり、すべてサブスクモデルです。そのため、我々がサブスクモデルに料金体系を変えることは、一般化されることになります。
他社SIEM製品は高額ですので、すでに大手企業や官公庁も海外製品から当社製品への切り替えが始まっています。同時に、我々の製品も様変わりしており、特定の情報のみ取得するのではなく、よりたくさんの情報を一元的に集約し活用します。
わかりやすい例ですと、テレワークをしているユーザーが本当に働いているのか、業務に関係ないサイトや転職サイトを見ていないか、実稼働時間のうち、マウスが動いている時間はこれくらいしかない、などの記録もログを集めることで知ることができます。
このように、さまざまな用途に使われ、ビジネスにおける活用の機会は飛躍的に増えていくと考えています。
変わるマーケット
石田:従来のログデータ管理は難しく、わかりにくく、一般のお客さまが使いづらい点がありました。しかし、クラウド化することにより、それらの問題が解消されます。
サービスを付帯
石田:これまでは、例えば野菜を買ってきて、みじん切りするところまで(ログの収集)は我々が代行できますが、どのような料理をするか(ログの活用)はお客さまマターになっていました。これらの問題に対しては、我々がセキュリティの運用代行を同時に行うことで解決します。
たくさんのログが我々のクラウドセンターに集められることで、お客さまからの運用委託があれば、サイバー攻撃があった時に検知し対処することが可能になります。万が一攻撃を受けてしまった場合の対応に通常、非常に高額なコストがかかりますが、当社のサービスではサイバー保険が付帯されているため、お客さまにコストをかけることなく提供できます。これがクラウドで実現できる一つの要素です。
変わる顧客層
石田:同時に、今までは大手企業にしか供給できていませんでしたが、クラウド化により、中小・中堅層の企業までかなり広範囲に供給することができるようになります。インフラを提供するだけではなく、すべてのセキュリティ運用を我々が代行することで、セキュリティについてそれほど見識が深くないお客さまにもご提供できるようになります。
八木:コンサルまではいきませんが、似たようなことも行っていくのでしょうか?
石田:コンサルティングは包括的なサービスとしてご提供が可能ですが、我々は攻撃者のパターンのノウハウを持っているため、どのような攻撃がきて、どのように対処すべきなのか、基本的な部分さえ設計できれば、あとは我々が防御の代行をしていくかたちです。それほど複雑な仕組みを構築しなくてもセキュリティの運用を自動化できます。
新事業:セキュリティ人材教育 データセキュリティ事業
石田:セキュリティ教育事業は、これから高めていかなければならない分野です。日本のセキュリティエンジニアが圧倒的に少ないという問題の解決は、国家存亡も含め経済安全保障の観点からも急を要します。公的機関にも供給し、これからはさまざまなセキュリティ教育事業を展開していく予定です。
増井:これらの受講価格は数十万円ですが、こちらは企業から研修に行くように指示された個人の方を対象にされているのでしょうか?
石田:基本的にはそうですが、社内のエンジニアをこれからセキュリティエンジニア化したいお客さまもたくさんいます。
同時に、人材をいろいろなお客さまへ供給することを生業にしているIT企業も非常に多いです。エンジニアのリテラシーを上げることで単価を高くし、需要のオポチュニティを広げられます。また、エンジニア自身にセキュリティという付加価値がつけばセカンドチャンスにもなりやすく、どちらの面においてもセキュリティ教育は重要な要素になっていきます。
増井:こちらで養成事業をすると、将来的に競合を支援することにつながっていくのではないかという気もします。
石田:そのとおりです。しかし、そもそも今は日本全国にセキュリティエンジニアが圧倒的に足りず、過当競争のレベルではありません。最終的に競合になったとしても、業界全体の土壌を広げていくことが重要だと思っていますので、その点は許容範囲だと考えています。
新事業:ゼロトラスト ネットワークセキュリティ事業
石田:ゼロトラストは非常に難しい技術です。もともとはルーターやファイアウォール、UTM(Unified Threat Management)など、1つのセキュリティ装置に通信を集約し安全化させていましたが、今はどこの環境にいても働くことができます。
そのようなことから自分の持っているスマホやパソコンが、どこで、どのようなサービスのインフラにアクセスしても、どのようなインターネットを見ていても、必ず有害サイトには行かないように自動で検知され、ブロックされる仕組みになっていきます。
北米ではすでに一般的な仕組みですが、日本では我々が数少ない国産メーカーとして開発・製造をしています。
質疑応答:今後の配当方針について
八木:やはり、みなさまは株主還元に対して興味があるようです。「今後の配当方針を教えてください」「投資家が魅力に感じるような施策はなにか考えていますか?」というご質問をいただいています。
石田:当社にとって、配当政策は株主さまに対する重要な施策だと認識しています。ただし、当社はまだグロース企業で、トップラインのスケールを作っていくことが非常に重要です。そちらへの投資も含め、事業活動に注力することがプライオリティとしては上だと考えています。
しかし、当然ながら株主さまのベネフィットは考えていますので、優待の提供などにも取り組む予定があります。事業が安定してきましたら、先々には配当政策を展開する予定で考えています。
質疑応答:IT人材の採用や研修について
増井:「IT人材を確保するのは厳しいと思いますが、採用や研修などについての現状と今後の見込みについて教えてください」というご質問です。
石田:現在は人手を確保すること自体が困難な時代になってきています。特に、優秀なエンジニアを採用し教育するのが難しい時代です。
しかし、当社は比較的成功しています。その理由は、学生がメーカービジネスを好む傾向にあることです。エンジニアが就職する企業には、すぐ他社に常駐したり、お客さまのさまざまな要件に応じて受託開発を行ったりするところも多くあります。
学生はそのような仕事をすることよりも、日本マイクロソフトやGoogleのように自分でなにかを成し遂げ、ゆっくりと腰を据えながら開発したり、自分の商品を持ったりすることに重きを置いています。幸いなことに、当社は優秀な学生を集められていますので、彼らをアクセラレートするために事業を加速化することを重視しています。
研修については、さまざまなプログラムを用意しています。細かい作業よりも、非常にロングスパンで難しい研究開発を行うことを要求するため、現場にいながら先輩方と一緒に進めていけるかたちになっています。
すぐに顧客に生産性を提供していかなければならない仕組みではなく、比較的ゆっくりと着実な研修を提供することができています。
八木:御社の社員構成の比率は、研究開発の部分が一番多くなるのでしょうか?
石田:一番多くはありません。ネットワークのクラウドセンターはさまざまなお客さまの要望にリモートで対応する仕事を行っているため、そちらのエンジニアも確保する必要があります。メーカーという意味では、研究開発と開発者を非常に重視していますがそちらも確実に増えており、同じぐらいのボリュームでエンジニアは配置されています。
増井:新卒、中途はどれぐらいの比率で採用されていますか?
石田:中途は採用しておらずゼロに等しく、完全に新卒採用に寄っています。幸いなことに優秀な学生が採用できており、3年は育てる必要があると思いながらも、1年目や2年目でかなりの生産性を出している方々がいます。
新卒社員でもそれほど時間をかけなくても生産性を供給できており、中途は人材不足で採用が難しいため、新卒の採用に注力しています。
質疑応答:サイバー攻撃の増加について
八木:市場規模にも関わってくるお話だと思いますが「サイバー攻撃は、今後どのくらい増加すると考えていますか?」というご質問です。
石田:こちらは非常に難しい問題です。「攻撃自体がものすごいボリュームで増えている」というのは「IP通信が攻撃ボリュームとして増えている」というような間接的要素としてしかデータは出てきませんが、ランサムウェアは至るところに自動で無差別に撒かれています。
意識的なターゲティングをされているわけではないため、脆弱な環境を持っているところがたまたま受け取ってしまい、データを使えない状態で恐喝され、そのまま開示せずに身代金を払い解決するケースが増えています。潜伏しているケースがかなり多いため、顕在化された情報があまり出てきていません。
当社としても、トラブルがあった時に駆けつけて対処し駆除する「インシデントレスポンス」というかたちでの対応件数も確実に増えています。みなさまが想像する以上に、事件を抱えて大変困っているお客さまは相当数います。
八木:企業の大小にかかわらず、なにかあった時のために、しっかりとセキュリティに投資をしていかなければならないということですね。
石田:セキュリティは守りの投資です。鍵がない家はありませんし、最近では監視カメラを必ず付けることも常識になり始めています。システムの中でも、攻撃だけではなく、安全に使ったという正当性保証も含め、記録を取ることは必須の要素です。
加えて、セキュリティは国から要請されている1つのミッションとしても顕在化していますので、これからもそのニーズは底堅いと考えています。
質疑応答:新卒の定着率や賃上げについて
増井:「新卒の定着率は高いのでしょうか? 賃上げなどは検討されていますか?」というご質問です。
石田:定着率は非常に高いです。定着率が悪い会社は、客先に常駐し会社へ戻れないなど、請負先のルールに則った働き方をしなければならず退職するケースが多いです。
我々の場合は、基本的に社内で働きますし、ベネフィットとしてはワーケーションやサテライトオフィス、テレワーク、コアタイムのフレックスなどがあります。働きやすい環境のため、かなり考え込んだ施策を提供しています。
報酬については、若い時には薄給で役職が付くとようやく上がっていくという日本のこれまでのモデルはすでに陳腐化されています。当社では、優秀な人であればあるほど若いうちに所得を上げ、あとは緩やかに上がっていくモデルとなっています。当然ながら、そのためには生産性を高めて会社に貢献してもらうことが必要です。
また、すべての利益を従業員に還元していては株主の利益が毀損されるため、バランスを取りながら行っていく必要があります。とは言え、これらの施策の結果、退職率は非常に低いのが実態です。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:「ALog」がサブスクに切り替わります。解約についてはどの程度を予想していますか?
回答:サブスクへの切替後は値上げ幅が大きいように見えますが、競合他社の統合ログ管理製品に比べると依然として当社の製品は安価で、かつ「ALog Cloud」ではサーバ、設計・運用は不要でメジャーバージョンアップの費用も料金に含まれることで、大手のお客さまにおいては改定による影響は少ないと考えています。
<質問2>
質問:財務体質面はまずまずでROEも良いのですが、正直割安性を感じることができません。投資家が魅力に感じるような施策を何か考えていますか?
回答:割安感を感じていただく上で、重要なのは、成長速度であると考えています。そのようなことから、2023年12月期からの中期経営計画を確実に達成することを最低限の目標として、さらに上を目指し、それを結果としてお示ししていくことで割安感を感じていただけるのではないかと考えています。
<質問3>
質問:グローバルセキュリティエキスパートとの提携により、来期以降の業績見込みはどの程度のポジティブに働きますか?
回答:グローバルセキュリティエキスパート(GSX)とは、今年8月に戦略的業務提携を締結、9月15日には資本提携を締結しました。SIEM製品、セキュリティサービスを提供する当社とセキュリティ教育、セキュリティサービスを提供するGSXが提携することにより顧客基盤の拡大のみならず、両社の既存顧客へのサービスの拡充、クロスセル、アップセルによる業績拡大にも大きく貢献するものと考えています。
<質問4>
質問:網を蜘蛛の巣と見て、スパイダーズという会社名にしたほうが広く認知されやすいのではと思うのですが、社名変更したらいかがでしょうか?
回答:素敵な社名をご提供いただき、ありがとうございます。ネットワーク設計・構築事業者として創業し、「網屋」という社名でスタートしましたが、現在の主力事業であるサイバーセキュリティと「網屋」という社名がリンクしにくいというお声もいただいています。海外展開の拡充も視野に入れ、みなさまに認知されやすい社名への変更についても今後検討していきたいと考えています。
<質問5>
質問:「Alog」の既存契約のサブスク切り替えに関して、中期経営計画のARRは5,000社中どの程度サブスクに移行する前提でしょうか?
回答:各企業の予算化の関係上、サブスクへの切替が本格化するのは2024年春以降になると予想されます。
オンプレ版のサポート終了が近づく5年後に切替を検討される企業も多いと考えられるため、2025年12月期時点では切替前のお客さまも相当数いるものと思われますが、弊社としては、さまざまな施策を講じて切替を促進していく予定です。