トリシマは1919年に創業したポンプメーカー

原田耕太郎氏:酉島製作所代表取締役CEOの原田耕太郎です。当社について説明させていただきます。

酉島製作所は、1919年に大阪市の酉島(とりしま)町というところで水車、ポンプ専門の製造工場として始まりました。その中心となったのは、業界に率先してポンプの設計に従事していた技術者の一団です。彼らのポンプにかける情熱と技術を受け継ぎながら100余年、現在の私たちがいます。

トリシマのコアバリュー

「金銭の赤字は出しても、信用の赤字は出すな」という社是は、1945年に、後に中興の祖となる原田龍平がトリシマに入社してきた時に、まず打ち立てた経営指針です。「『信用』を何より大事にする」というこの社是は大前提として守りながら、2019年の創業100周年には、時代に合わせて経営理念と行動指針を刷新しました。経営理念の中に「愛」という言葉を入れている企業は珍しいと思いますが、それだけ本当に当社の従業員は、ポンプという仕事に愛情と誇りを持って働いています。

トリシマは、大型・高圧ポンプを製造できる世界でも数少ないポンプメーカーです。

ポンプと言われても普段目にすることがないため、あまりピンとこないかもしれませんが、当社が造っているポンプは、インフラ向けの大型・高圧ポンプです。

例えば、当社の中で最も大容量のポンプは、一般的な25メートルのプールを5秒で空にするほどの威力があります。最も高圧のポンプは、富士山より高い4,200メートルまで水を上げられるほどの圧力です。また、350度以上の過酷な環境下でも運転できるポンプもあります。

世界中にポンプメーカーは数あれど、このようなポンプを製造できるメーカーは、数えるほどしかありません。

ポンプは、社会の心臓として見えないところで当たり前の暮らしを支えています。

このようなポンプが実際にどのようなところで使われているかというと、ポンプは「社会の心臓」と言われるように、表からは見えないけれど社会のいたるところで使われています。

例えば、先ほどの大容量のポンプは、上下水道施設に使用されています。とくに近年では、豪雨から人や街を守る雨水排水機場などで活躍しています。

また、高圧のポンプは、発電所のボイラに水を送り込むボイラ給水ポンプやボイラ循環ポンプとして重要な役割を担っています。

その他にも、農地に水を送ったり、余分な水を排水したりする農業用ポンプや、水不足の地域では、海の水を真水に変える海水淡水化プラント用ポンプなど、縁の下の力持ちとして、人々の当たり前の暮らしを支えています。

需要先/事業領域

続いて、需要先、事業領域について説明します。需要先は、ポンプの最終的な納入先となります。

「官需」は、日本の国及び地方自体向けの上下水道施設、排水施設、かんがい施設など向けのEPC事業になります。「民需」は、国内の発電所(火力・バイオマス・地熱)向けポンプの他、一般産業の各種工場、ビル設備、商業施設など向けの標準ポンプ及びサービスメンテナンスです。「海外」は、海外向けのポンプ及びメンテナンスサービスです。

よくご質問のある事業領域の内訳ですが、「ハイテクポンプ」は、ポンプ単体の販売です。EPC事業ではなく、あくまでも当社はポンプのサプライヤーとしてプラントメーカーにポンプを納品するのみです。

「プロジェクト」は、機械・電気のエンジニアリング及び工事を含めたポンプEPC事業です。需要先の「官需」がすべてここに入ります。海外のプロジェクトは、リスクが高く利益率低下の要因となりやすいため、近年はリスク管理として選択受注をしており、利益率が安定してきました。

「サービス」は、ポンプのオーバーホールや部品交換、SV(スーパーバイザー)の派遣などアフターサービス全般で、最も収益率が高くなります。

創業からの歩み(1919〜2001)

冒頭でも触れたように、当社は創業当時からポンプに関する高い技術を有していました。実際、創業後すぐに農業用ポンプの全国大会で1位に認定されており、「技術のトリシマ」の礎を築いています。

しかしその後、資本系列の度重なる変更や戦中戦後の混乱などから経営は窮地に追い込まれました。そこへやってきたのが後に中興の祖となる原田龍平です。元銀行マンの経営手腕と、「ポンプ産業は今後必ず発展する」という信念で見事、経営再建を果たしました。

その後は、日本の経済発展や人口増加に伴う水・電気インフラの大型化を受けて、ポンプ大手の一社として順調に受注を重ね、発展していきました。1958年には海外のポンプメーカーと提携、1970年代には中東諸国の海水淡水化プラント向けポンプを受注するなど、比較的早くから海外展開も始めています。

近年20年の歩み(2002〜2023)

次に、よくご質問のある近年の業績向上の理由です。少し遡って、その背景となる近年20年の歩みから説明しましょう。

当社は、1970年代から海外展開はしていましたが、当時はまだ売上全体の1割程度で、国内官需向けの仕事が中心の会社でした。それが2000年代に入った頃から国の財政再建により公共事業が縮小、また、日本の人口がピークアウトに向かったことから2002年、「このまま日本にとどまっていては成長はない」とTorishima Global Team(TGT)を立ち上げ、海外展開を本格化しました。

当時、原油価格の高騰で中東諸国の海水淡水化市場が活性化していたこともあり、トリシマが強みとする海水淡水化プラント向けポンプをはじめ、送水プラントをEPCで受注するなど、TGT発足当時10パーセント程度だった海外比率は一気に50パーセント台へと拡大しました。

近年20年の歩み(2002〜2023)

ところが、急激な成長に体制が追いつかず、設計や生産が混乱した他、世界のさまざまな国の顧客要求に迅速、柔軟に対応できずミスも起こり、原価や引当金が増加しました。1ドル100円を割る超円高(2009年から2013年頃)も重なり、受注はするものの利益を残せず、さらに受注が続く中で混乱するという悪循環に陥りました。

そこで、このままではこれ以上の成長は望めない、真のグローバル企業になるためには、「一時的に受注を制限してでも、モノづくり基盤を再構築する必要がある」と決断しました。一気通貫システムやBOMの導入、製品の標準化、設計・生産の効率化、受注時採算管理の徹底など、企業体制の強化に乗り出しました。

それと同時に、新規ポンプに比べ、利益率の高いサービス事業に注力し、アジア、中東、欧州、米国と拠点を広げ、TGT発足当時は10パーセントだったサービス比率を30パーセント台まで拡大しました。こういったさまざまな取組みが功を奏し、生産体制、収益体制が大幅に改善したことにより、売上、営業利益ともに3年連続の過去最高を達成することができました。

トリシマのマテリアリティ(重要課題)

トリシマのマテリアリティを紹介します。当社は、創業当時から「ポンプで社会のお役に立つ」ことを志してきました。時代が変わった今も、それは変わりません。

現在、世界はさまざまな課題に直面しています。とくに深刻なのは、やはりCO2増加による地球温暖化です。これを食い止めるためには、従来の化石燃料から持続可能な燃料へとエネルギーの転換が不可欠です。その他にも、異常気象による災害の頻発、水不足、食糧危機など、人々の暮らしに深刻な影響を及ぼしています。

当社は、自分たちの強みであるポンプの力で、自分たちにできることを解決し、世界に貢献していきます。

それが、「価値創造の重要課題」にあげた3つのマテリアリティ、「1.脱炭素社会実現に向けたエネルギー課題への取組み」「2.安全・安心な社会の構築」「3.データ・AIの活用による新しいモノづくりとサービスの構築」であり、これらを進めていくための「基盤となる重要課題」が「4.社員活力の最大化」「5.ガバナンスの向上」「6.トリシマ品質の継続的向上」になります。

1.脱炭素社会実現に向けたエネルギー課題への取組み ①スーパーエコポンプによる省エネ推進

それでは、1つずつ具体的に説明しましょう。まず、「1.脱炭素社会に向けたエネルギー課題への取組み」の「①スーパーエコポンプによる省エネ推進」です。ポンプは社会の心臓として欠かせない機械であるだけに、稼働時間が長く、稼働台数も多いことから、非常に多くの電力を消費するのも事実です。それは実に、日本の年間総電力量の約3割を占めているとも言われています。

当社は、ポンプの高効率化を徹底的に追求することで、ポンプの省エネを進め、消費電力量とCO2削減に貢献しています。実際、カーボンニュートラルという言葉が一般的に知られるようになる以前の2009年から「ポンプdeエコ」活動をはじめ、お客さまにポンプの仕様を見直すことで大きな省エネができることを伝えてきました。

その地道な活動が認められ、2014年度の省エネ大賞で経済産業大臣賞を受賞しました。近年は、すべての企業においてCO2削減への意識が高まっていることから、この省エネポンプをさらに効率を高めてスーパーエコポンプとし、リリースします。

1.脱炭素社会実現に向けたエネルギー課題への取組み ②次世代エネルギー用ポンプの提供

次に、「②次世代エネルギー用ポンプの提供」です。化石燃料に代わる次世代エネルギーとして期待が高まっているのが、燃やしてもCO2の出ないアンモニアや水素です。当社は、この分野でも果敢に研究開発を進めています。

まずアンモニアでは、アンモニア混焼火力発電実証事業にポンプメーカーとして参画しています。今後は商用化に向けてより大容量の液化アンモニアを扱うポンプが必要になりますが、アンモニアは毒性が強いため、ガス漏れを防ぐインタンク型のポンプが求められます。この分野でトップメーカーであるドイツのHermetic社と業務提携をし、競争力を強めていきます。

そして、水素です。水素を大量に運搬するためには、マイナス253度まで冷却して液化状態を維持しなければなりません。液化水素を扱う大容量のポンプは、まだ世界に存在しておらず、非常に難しい挑戦です。水素社会の実現は、液化水素を扱う大型遠心ポンプにかかっているといっても過言ではありません。

当社は、水素向けポンプでも、高い専門知識を有する大学機関と共同研究を進め、2023年末には商用化に近い規模で実液試験を実施する予定です。他社に先駆けて製品化を成功させ、水素ポンプの分野でも世界トップレベルを目指します。

2.安全・安心な社会の構築 ③水不足・食料不足を解決するポンプの提供

次に、「2.安全・安心な社会の構築」の「③水不足・食料不足を解決するポンプの提供」です。日本は幸運にも水に恵まれていますが、世界には深刻な水不足に悩む国が多くあり、そこでは海の水を真水に変える海水淡水化プラントが重要なインフラです。

トリシマは1970年代から中東諸国を中心に、世界中の海水淡水化プラントへポンプを納入しています。世界でも高いシェアを誇り、経済産業省の2020年度版グローバルニッチトップ企業100選(GNT)にも認定されています。今も約20億人が安全に管理された水を飲むことができないという現実や、今後、水素をつくるにも淡水が必要であることを考えると、海水淡水化プラントの必要性はますます高まっていくと見込まれます。

2.安全・安心な社会の構築 ④水不足・食料不足を解決するポンプの提供

「④水不足・食料不足を解決するポンプの提供」として、近年の受注高大幅増の理由の1つでもある、エジプト向け大型案件があります。

エジプトは2020年に人口が1億人を突破し、今後も年間2.4パーセントの上昇率を続けていくと見られており、水不足、食糧不足が懸念されています。そこでナイル川の水を取水し、農地開拓に利用する国家プロジェクトが進んでいます。当社は、当プロジェクトにおいて「高品質」「短納期」「顧客対応」などで高く評価され、200台を超える大型ポンプを受注しました。

リビアやチュニジアなど北アフリカ諸国の海水淡水化プラントへも多くのポンプを納めていることから、お客さまのより近くでアフターケアをするためにも、2023年にエジプト支店を開設し、今後、サービス事業も展開していきます。

2.安全・安心な社会の構築 ⑤気候変動対策向けポンプによる減災技術の推進

「2.安全・安心な社会の構築」の2つ目「⑤気候変動対策向けポンプによる減災技術の推進」です。 近年、頻発するゲリラ豪雨への対策として、排水機場では排水容量を増やすニーズが増加しています。ところが、既存水槽の寸法がそのままでは水槽内の流速が速くなり、ポンプに悪影響を及ぼす水中渦や空気吸込渦が発生します。その渦を防止するため、従来は水槽内に土木構造物である渦流防止板を設置する必要がありましたが、設置には多額の工事費と日数がかかります。

当社は、これらの渦の発生をポンプ本体で抑制(「二重ラッパカン&渦対策リング」)することにより、渦流防止板を不要とし、工事費の削減、工事安全性の確保及び工事日数とポンプ不稼働期間の短縮を実現しました。

また、ポンプが水没しても運転可能なように、ポンプとモータを一体化した「耐水モータ一体型ポンプ」でも防災、減災に貢献しています。実際、2022年7月に、宮城県にある排水機場が大雨による浸水を受けましたが、当社の「耐水モータ一体型ポンプ」を導入していたため問題なく稼働し、被害を最小限に食い止めることができました。

ここに紹介した減災技術ですが、「二重ラッパカン&渦対策リング」はNETIS(注1)に、「耐水モータ一体型ポンプ」は、NNTD(注2)にそれぞれ登録され、高度な技術として信頼を高めています。

(注1)国土交通省が運営する新技術情報システムです。登録された新技術を活用することで、コストの縮減や工期の短縮が期待できます。
(注2)一般社団法人農業農村整備情報総合センターの農業農村整備民間技術情報データベースです。農林水産省が発注する設計業務の特別仕様書記載例には、設計作業の留意点として「コスト縮減に関して新技術や新工法等の選定にあたっては、NNTD等を積極的に活用しなければならない」と記載されており、設計をする際にはNNTDに登録されている技術を発注者や設計者が吟味することとされています。

3.データ・AIの活用による新しいモノづくりとサービスの構築 ⑥データに基づくスマートメンテナンスの提供

最後に、「3.データ・AIの活用による新しいモノづくりとサービスの構築」の「⑥データに基づくスマートメンテナンスの提供」です。少子高齢化による人手不足や技術の継承問題を受けて、製造業の現場では、IoTやAIを活用したスマートメンテナンスが推進されています。

当社はポンプメーカーとしての技術と経験を活かして、独自の回転機械モニタリングシステム「TR-COM」を開発しました。10,000ヘルツまでの高周波を測定することで、従来は難しかった「故障予知」を可能とし、故障原因の分析やメンテナンスのアドバイス、ポンプの修理まで、ポンプのプロだからこそできるソリューションを提供しています。2022年には、経済産業省が推奨する「スマート保安技術」にも認定されました。

三菱地所さまによる「Society5.0実現に向けた次世代型施設運営モデル」の中でも、IoTを活用した設備点検として、トリシマの「TR-COM」が採用されました。

ガバナンス体制の強化

マテリアリティを確実に進め、課題を解決し、「社会に欠かせない企業」になるために、より一層、組織力を強めていくべく、2023年度から当社では経営体制を一新しました。

これまで酉島製作所の代表取締役社長を務めていた私は代表取締役CEOとして、副CEOのジェラルド・アッシュとともに、トリシマグループ全体の戦略を打ち立てていきます。酉島製作所は、共同COOとして、アリスター・フレットと羽牟幸一郎が執行責任を持って進めていきます。

取締役のダイバーシティ推進

経営にさまざまな視点を取り入れるため、2022年度より当社の社外取締役に就任した上田理恵子氏に続き、2023年度には、先ほど述べたジェラルド・アッシュとアリスター・フレットも取締役に就任しました。2人とも、もともと英国のポンプメーカー出身で、2000年代初めに当社に入社しました。TGT発足当時から、当社の海外展開の中心的役割を担ってきました。

同じく2023年度に社外取締役に就任した安陪裕二氏は、会計とコンプライアンスの専門知識を有しています。取締役のダイバーシティを推進し、ガバナンスを強化しています。

2021年5月に策定した中期経営計画Beyond110

最後に、今後の中長期的な経営目標について説明します。2021年5月に、創業110周年にあたる2029年度を見据えて、中長期的な経営計画「Beyond110」を打ち立てたのですが、おかげさまで、2022年度ですでに2029年度の目標を達成しました。

これは、1つには、先ほどお話ししたエジプトにおける大型案件が想定以上に早く進捗していることもあるのですが、それがなかったとしても、官需、民需、海外ともに堅調です。

2029年度に向けた経営目標

そこで、2023年5月に改めて計画を見直しました。大型案件を入れると創業100周年の2019年度から2022年度にかけて、CAGR11.6パーセントの成長を遂げていますが、大型案件を抜いた成長率は5.8パーセントですので、この水準を維持して売上CAGR6.0パーセントを目標としました。また、営業利益率、ROEともに、最低でも9.0パーセント以上を目指します。

株主還元方針

最後に、株主還元方針です。当社は、水と電気のインフラを支えるポンプメーカーとして、長期にわたり堅実な成長を実現するとともに、株主のみなさまへも安定的・継続的な利益還元を行うことを重要な経営課題として捉えています。

毎年の配当金は、業績の変動にかかわらず安定的に、確実に配当できるよう、純資産配当率を採用し、DOE3.0パーセント(配当性向では35パーセント)を目安に、累進配当を目指します。2023年度の一株当たり配当金は、2022年度より4円増の56円を予定しています。

また、自己株式については、資本の状況や経営環境の変化、当社株価の動向などを考慮した上で機動的に実施していきます。

配当金の推移

配当性向よりも純資産配当率(DOE)を主な指標とするのは、業績が良い時も悪い時も安定的、継続的に還元させていただきたいという想いであり、さらに、毎年増配、少なくとも同額維持を目指します。

グローバルネットワーク

TGTを発足してちょうど20年、海外支社支店が20ヶ国を超え、海外売上比率も半分を超え、堅調な成長を遂げています。

今後も、自分たちの得意とする技術をさらに進化させ、世界の課題を解決し、社会になくてはならない企業を目指していきます。

Contact Us

以上、トリシマの概要説明とさせていただきます。ご質問のある方は、お気軽にIR広報課までお問い合わせください。