「LIMEX」とは

藤沢久美氏(以下、藤沢):『藤沢久美の社長talk』、今日のゲストをご紹介します。株式会社TBM 代表取締役CEOの山﨑敦義さんです。山﨑さん、よろしくお願いします。

山﨑敦義氏(以下、山﨑):よろしくお願いします。

藤沢:実は私、TBMにはすごくお世話になっています。

山﨑:いつもありがとうございます。

藤沢:私の名刺は「LIMEX(ライメックス)」という素材で作られているのですが、TBMはその「LIMEX」を作っている会社です。

山﨑:その素材を開発、製造、販売しています。

藤沢:そのマークを名刺につけていると、さまざまな方に「すごいですね」と言われるほどですので、今知名度が上がっている状況だと思います。

山﨑:まったく知られていない状況から始まりましたが、みなさまにお使いいただくことによって少しずつ知っていただけるようになり、非常に感謝しています。

藤沢:「LIMEX」とはいったい何なのかについて、まず教えていただけますでしょうか?

山﨑:「LIMEX」という名前の由来に関しては、英語で石灰石を意味する「LIMESTONE」に、無限の可能性があるという意味で「X」をつけています。「LIMEX」は石灰石を主原料とし、普段の暮らしの中でみなさまがお使いになられているプラスチックや紙の代替となる新素材です。コンセプトとしては、エコノミーとエコロジーを両立して素材を開発していくことをベースに開発しています。

藤沢:石灰石がプラスチックや紙の代わりになるのですね。今日はいろいろなものを持ってきてくださっていますが、見た目はプラスチックのようです。

山﨑:実際に触ってもプラスチックとはなかなか見分けがつかないくらいです。成形の仕方や比較する石油由来プラスチックの種類にもよりますが、CO2の削減効果が40パーセント以上あったり、石油の使用量も4割以上削減できたりすることが特徴です。

藤沢:今までプラスチック100パーセントで作っていたものに、石灰石を4割くらい入れると考えてよいのでしょうか?

山﨑:「LIMEX」の定義は、主原料として石灰石などの無機物を50パーセント以上(重量比)含むことになっています。石灰石は世界中において埋蔵量が豊富で安価なため、それを使って素材開発を行っています。

藤沢:それでは石灰石などが50パーセント以上であり、プラスチックは若干入っているということでしょうか?

山﨑:おっしゃるとおり、石油由来プラスチックが入るものもありますが、植物由来の樹脂を使うこともありますし、生分解性プラスチックとの組み合わせも開発中です。

藤沢:組み合わせは自由ということですね。

山﨑:そのとおりです。石油由来の樹脂を植物由来の樹脂に置き換えた「LIMEX」もあります。

藤沢:もろかったり、性能的に落ちたりすることはないのでしょうか?

山﨑:真空成形や射出成形など、プラスチックにはいろいろな成形方法がありますが、「LIMEX」は既存のプラスチック成形機械をそのまま使えます。成形方法に応じてまだ課題があるものもありますが、日常でお使いいただくようなものは、ストレスなく使えるようになってきています。

藤沢:時代がようやく追いついてきていますね。脱炭素で言うと、「LIMEX」製のものがすごいと思います。CO2も40パーセントくらい削減できるのですよね?

山﨑:成形用途によって異なりますが、おっしゃるとおりです。気候変動へのアプローチに関して、我々は「ライフサイクルアセスメント」と言って、原材料の調達から製造、処分といった、その製品のライフサイクル全体の中でどのくらいCO2が出ているかの可視化に取り組んでいます。そのため、我々が代替していこうとする素材に対して、どのくらい削減効果があるかについて常に可視化させた上で、製品開発を行っています。

藤沢:日本にも、温室効果ガスを2035年までに46パーセント削減、2050年までにはゼロに、という目標がありますが、「4割もどのように削減するのですか」という話になった時、「LIMEX」を使った瞬間に4割の削減が可能になるということだと思います。

山﨑:資源枯渇問題に対するアプローチで言うと、資源の使用量の削減とCO2の削減という両方への貢献度があるため、そこは非常にインパクトがあると考えています。

また、CO2の排出量は焼却せずにリサイクルすることで格段に減らせます。今後グローバルにおいて、「LIMEX」を回収して循環させ、継続的にお使いいただく製品として生まれ変わらせていくことをどんどん展開していこうと思っています。

藤沢:そのようなサーキュラーなかたちになっていくと、燃やされたり廃棄されたりすることがなくなるため、CO2を発生させる石油由来のものはなくなりますよね。

山﨑:そうですね。みなさまの意識も含めてのお話になりますが、資源というのは僕らが地球から借りているものだと思っています。そのため、「借りたものは返して循環させる」ということをみなさまが意識高く持ち、回収、循環においていろいろな方に力をお貸しいただいて、それを我々がどんどん行動・実装させていくことができると、今のお話にあったような回収、循環が実現できると思います。

藤沢:ちなみに、「LIMEX」のような素材を作っている会社は世界にもあるのですか?

山﨑:石灰石と樹脂を組み合わせた素材という意味では他にもあって、もともと我々は台湾の会社が製造していた製品の輸入商社としてスタートしたものです。しかし、重い、品質が不安定、印刷適性が悪いといった課題があったので、我々はそのような課題を改善して今の「LIMEX」を開発しました。印刷適性を上げて既存の印刷機でもお使いいただけるような素材開発を行ったことは、我々にとって大きなイノベーションだったと思います。

藤沢:こちらに会社説明資料がありますが、234億円も調達されています。

山﨑:直近では2021年7月末に、韓国のSKグループという大きな財閥と資本業務提携を実施して135億円を調達しました。今後、一緒にグローバルで「LIMEX」を展開していこうという方向性でタッグを組んでいます。

藤沢:まだ小さな会社ではありますが、234億円も調達されたということは、相当注目されていると思います。

山﨑:ありがとうございます。

藤沢:国からもお金が入っているのではないかと思います。

山﨑:国からは、1つ目の工場と2つ目の量産工場を建てるときの補助、また、研究開発の補助というかたちで、合計40数億円のサポートをいただいています。

藤沢:すごいことだと思います。

大工から世界的企業への転身

藤沢:このようなことは、どのように思いついて、どのように始められたのですか? いろいろなサイトを見ると「元大工」と書かれており、大工からなぜこのようなすごい世界的企業に転身されたのか教えてください。

山﨑:僕はもともと大阪の岸和田というところで中学校を出てすぐに大工の見習いになり、ずっと建築関係の仕事をしていました。同じような境遇で同じように建築関係の仕事に就く後輩や友人もいましたが、将来の夢ややりがいを思い描いたり口にしたりする仲間も少なくなってきた中で、「もっとこうしとけばよかった」「勉強もしとけばよかった」「学校も行ったらよかった」と思っていました。

過ぎた時間は取り戻せませんが、諦めたくなかったですし、「今からでもチャレンジすればここまでできるんだ」ということを仲間にも見せてあげたいという思いで、僕は20歳の時に地元で中古車販売の会社を起業しました。

右も左もわからずに起業したため、本当に大変なこともたくさんあったのですが、いろいろな人に応援していただき、支えていただいて、失敗も繰り返しながらですが、なんとか前に進むことができました。

起業家としてなんとか10年継続できたタイミングで、時間も少し余裕ができたため、先輩の社長に誘っていただき、生まれて初めてヨーロッパ旅行に行ったことがあります。最初はロンドンに行き、ローマ、スペインのバルセロナに行きました。CMで流れていたサグラダファミリアを見たかったためです。その後、最後はパリに寄って帰ってきたのですが、この旅で本当に人生観が変わりました。

もともと大工だったということもあり、建築物はだいたい数年ででき上がるもので、新しくできたものが「おしゃれ」「かっこいい」と言われるような価値観で生きてきたため、何百年もかけて建物を作り、また今も変わらずにずっとそこに人々の暮らしがあるという姿を見た時、本当に衝撃を受けました。

そして、人の人生は、この景色の中からするとすごく短いのだと感じました。何百年もかけるということは、生きている間にでき上がらないもののために、ずっと取り組んでいるということになります。それを何周も繰り返していると考えるとすごいことだと思います。

僕も起業して苦労し10年経ちましたが、この10年をあと3回、4回繰り返すと、おじいちゃんと言われる歳になるのだと思った時に、どのようなことを成し遂げたら、自分は「できた」と思えるのだろうかと考えました。

また、先ほどの「仲間や後輩に見せたかった」ということもそうですが、「僕と一緒にこれから仕事をしていく若いメンバーたちに、仕事でがんばること、このような街で過ごすことを一緒に経験させたい」と感じました。自分自身、もっと前にこのようなところに来ていたら違う自分がいたのではないかと思いましたので。

そして、グローバルで勝負できる事業を行いたいということと、いろいろな事業を行っていく中で、世の中で役に立つ事業をわかりやすく行い、人生をかけて勝負したいと考えました。

10年行ってきた中でいろいろな経営者の方を見てきましたが、当時の僕の周りにいた人たちの中には、すごくチャレンジ意欲があったのに、ある程度のビジネスモデルができて売上が上がり利益が出ると、ハングリーさやリスクを取って挑んでいくことをしなくなっていく人たちもいました。そのような先輩方を見てうらやましいとは思いませんでした。

そのため、先ほどお話ししたように、僕は10年を3回、4回と繰り返し、とにかく挑戦し続けて、どこまでできるのかずっとチャレンジしたいと思いました。30歳からの気付きになりますが、兆のつくような事業を目指し、慢心せずにずっと挑戦し続けるしかないと思っています。

起業家として生きていく中で、僕はやがて死んでいくわけですが、ヨーロッパの建物や街のように、何百年と挑戦し続けていく会社は残せると思っています。

藤沢:素敵です。

山﨑:何百年も挑戦し続けていく会社を残して僕は人生を終えたいんです。

研究開発をスタートした当初の状況

山﨑:そのようなことを思いながら事業を探していた中で、先ほどお話しした台湾製の素材と出会ったのですが、最初に台湾の輸入商社を始めた時は、環境省の「チーム・マイナス6パーセント」プロジェクトなどが話題になっている頃でした。

藤沢:小池百合子さんがやっていた時代ですね。

山﨑:でも、まだ「エコがビジネスになるのではないか」くらいの感覚でした。この時、僕は今お話しした「兆のつく事業でグローバルで勝負できて」というようなところまでは行き着いていなかった状況です。

藤沢:その当時にエコなことを行おうという切り口を持っていたのですか?

山﨑:漠然とですが、今後、環境問題が叫ばれていく中にビジネスチャンスがあると考えていました。

藤沢:他の候補は考えなかったのでしょうか?

山﨑:ITなどいろいろな事業分野がありますが、自分はもともと中古車販売からスタートしたということもあり、やはりかたちのあるものをしっかりと売っていくほうが合っていると思い、このような事業にチャレンジしてみようと思いました。台湾製品の品質がなかなか不安定な中でも、いろいろな方がこの素材に対する潜在的なポテンシャルへの期待や可能性について述べてくれました。

日本は水資源が豊富で水のリスクはあまり考えられていませんが、今後の資源枯渇や人口増加について考えた時、グローバルで見ると水資源の乏しい国はものすごくたくさんあり、紙を作れない国も本当にたくさんあるのだとわかります。そのような国で今後人口が増えていき、産業発展が進むと考えると、その国にある豊富な石灰石によって素材が作られていくということは、本当に意義のあることだと考えています。

しかし、そのような話を台湾にしに行くのですが、なかなか聞いてもらえず、僕らが目指していきたい方向と彼らが行っていきたいことの違いが明確になっていきました。

エコロジーをコンセプトに事業を広めるのであれば、当たり前のように広く使われるものにならなくては意味がないと思い、先ほどお話ししたヨーロッパで思い描いたような事業にすると覚悟を決め、いろいろな方にお力添えいただきながら、ちょうど10年前に素材開発をスタートしました。

藤沢:素材を開発した経験もなく、化学や工学の知識もない中で、どのようにしたのですか?

山﨑:僕が日本で石灰石をもとにした紙代替品の素材を開発して、工場を作るための資金を集めている時には、「山﨑からの電話には出たらあかんで」とか「ちょっとおかしくなったんじゃないの?」など、けっこうさまざまなことを言う人もいました。

藤沢:そのような人が突然来て「これをやりたいんです」と言われても、夢はすばらしいけど「本当にやれるの?」と思いますよね。

山﨑:当時、僕は台湾で素材を学ばせていただいたため、どのようなスキルを持つ人たちが必要かということは分かっており、さまざまな方にご相談して、たくさんの人をご紹介いただきました。

そして、当時82歳で元日本製紙の技術畑で専務をしていた角会長にジョインいただき、またその後輩の方にも来ていただいて、大学のラボなどを借りて研究開発をスタートさせました。

藤沢:すごいですね。

起業当初の苦労

藤沢:でも、最初は資金も集められなかったのではありませんか?

山﨑:僕が中古車販売で残したお金は全部なくなり、家賃も払えない状況になって、取引先に「申し訳ないのですが、分割払いにしてください」とお願いしたり、会社に督促の電話がかかってきたりと、本当に大変な時もありました。

角に「絶対に諦めないので、最後までご一緒してください」と話してスタートした素材開発だったのですが、はたから見ると、諦めないのではなく、悪あがきなのではないかというくらいの状況でした。

しかし、最後の最後に経済産業省が、駄目もとで申請していたパイロットプラント設備の補助を採択してくれました。これを御旗にして「国がお墨付きをくれました。ここから巻き返せるので力を貸してください」と言い、さまざまな方にご出資いただいて、20億円を調達して1つ目の工場を作りました。

藤沢:工場ができた後、使ってもらえる素材はできたのですか?

山﨑:角は「工場ができたら3ヶ月くらいで製品が出せるようになるから大丈夫だ」と言っていたのですが、そこから1年半、売れるものがまったくできませんでした。

藤沢:きついですね。

山﨑:本当にきついです。最初に売り出した製品は、先ほど藤沢さんがご紹介くださった名刺なのですが、それを世に送り出すまでの1年半はまったく売れるものができませんでした。

工場ができると、人件費や電気代、原材料費など、それまでかからなかった経費がかかるようになりました。また、大量に仕入れた原材料を機械に通すと、数分後にはごみの山に変わり、さらには、たまったごみを片づけるためにまたお金がいるという状況が続きました。今だから言えることですが、この当時はもう本当に「この先どうなるのだろう」と思いました。

藤沢:その時はいつまで続くかわからないですよね。

山﨑:そのとおりです。ただ、その時は「何年続いたとしてもやるしかない」と思っていました。

藤沢:やめようとは思わなかったのですね。

山﨑:さまざまな方にご出資いただいてスタートしたこともあり、絶対に最後の最後までやり切るという覚悟がありましたし、とにかく工場を守るのだという思いもありました。このような素材開発のものづくりには「死の谷」というのがあると聞いていました。

藤沢:でも、谷が深くて長過ぎますよね。

山﨑:「技術陣は『台湾でできてたものからだから、そこまで時間はかからない』と言っている」などと周りには説明していたのですが、まさに死の谷を越えるのに1年半かかりました。

ピンチをチャンスに

山﨑:しかし、その時にピンチをチャンスに変えました。莫大な資金を投じて仕入れた原材料がごみになるのですが、もともと耐久性や耐水性については高い評価を受けていました。紙代替ニーズやフィルムなどの石油由来プラスチックシートの代替ニーズは高いため、プラスチック代替の用途がいけるのではないかということで、ごみになった素材を使って、さまざまな成形会社とレシピを考え、プラスチック代替品の開発を行いました。

藤沢:すごいです。本当にピンチはチャンスですね。

山﨑:そのとおりです。プラスチック代替として成形品のサンプルができた時に、今の世の中で言う「脱プラスチック」や「マイクロプラスチック問題」が出てきて、「LIMEX」のプラスチック代替としてのニーズが大変高まったのです。

藤沢:工場ができて1年半は厳しかったということですが、名刺が出たのはどのタイミングですか?

山﨑:1年半経ったタイミングで売れる製品がやっと出てきたのですが、その1年半の間に無駄になった原材料を使ったプラスチック代替品の開発をファブレス(自社工場以外)で行っていました。そのようなこともあり、今も「LIMEX」のプラスチック代替品の製造は、海外のファブレスでも行っています。今までプラスチックを作っていた工場に我々が原材料を供給して作るようになっています。

藤沢:工場は日本のみではなく、海外にもあるのですね。

山﨑:そのとおりです。今でも東南アジアの多くの国で「LIMEX」を作っていただき、それを日本に運んできてお使いいただいたり、海外から海外に運んだりする事例も出ています。

山﨑社長のタフさと揺るがない信念

藤沢:すごい苦労の末ですね。起業してから何年かかったのですか?

山﨑:自社開発を始めてから6年。20歳で起業してからだと20年くらいかかって、やっと売れるものが出てきたイメージです。

藤沢:医薬品の開発会社のようなことになっていますが、よく耐えましたね。

山﨑:もう本当にみなさんに言われます。でも、目の前の困難をなんとか乗り越えなければいけないと必死でした。その時の精神状態はどうだったのかとよく聞かれるのですが、1つ目の工場ができるまで、資金を逆算していた時は本当に眠れず、さまざまな人に知らない間にLINEを送ってしまったのを朝起きて確認したりしていました。しかし、そのような状態が続いていると、それがデフォルトになって平気になってくるのです。

藤沢:タフですね。

山﨑:振り返って客観的にさまざまな人と比べたら、本当にタフなんだなというのはあります。

藤沢:信念というのが存在するとしたら、千年杉のように揺るがない太さがありますよね。

山﨑:このようなチャレンジをしたおかげで、僕のルーツやバックボーンからすると出会えなかったようなすごい方たちが、たくさん力になってくださいました。しかもリターンを求めるのでなく、本当に純粋に力になってくださる人もたくさんいます。また、リターンを求めたとしても、自分という人間を信じてリスクをとってくれたわけですので、その思いに応えるために、なんとしても最後の最後の最後まで絶対に諦めないという気持ちがありました。また、この挑戦に賛同して、大手の企業や化学品メーカーなどから本当に優秀なメンバーが、リスクをとり、給料を下げてでも転職して来てくれるのです。

藤沢:ありがたいですね。

山﨑:本当にそのとおりです。ですので、このメンバーたちに「この会社に来て本当によかった」と思ってもらえるような結末を絶対に迎えるため、とことんがんばらなければ駄目だと思うと同時に、そのことがすごいエネルギーになっています。

藤沢:多くの人の思いが山﨑さんのところに凝縮されており、この思いを大切にする以外にないということなのですね。

山﨑:そのとおりです。ビジネスモデルがある程度の時間軸で出来上がり、売上と利益が上がったような事業形態ではなく、10年間、常にピンチの連続で、さまざまな人や事業会社に応援いただく中で過ごしてきたため、そのようなベースの部分は本当に染み込んだものがあります。

世界からのニーズについて

藤沢:続いて、そのようなみんなの思いが染み込んでいるこの会社が今後どのようになっていくかということと、世界の人たちが興味を持っているということについておうかがいします。

資料によると、最近ではSKグループという韓国の大財閥やベルギーのCSR Europeと提携したり、サウジアラビア、モンゴル、中国の河南省などにも行っています。やはり世界からのニーズは高いですか?

山﨑:おっしゃるとおりです。日本だけでなく海外から、お問い合わせや一緒に事業を行おうという話が圧倒的に多いです。

SDGsとして国連で17の目標が掲げられ、「誰一人取り残さない」という原則が採用されましたが、日本で暮らしていると、それを体感することはあまりないと思います。

しかし、我々が進出しているモンゴルなどは、SDGsの目標が常に日々の暮らしの中にあり、「10年でなんとしても実現する」「国を背負って未来を作っていきたい」と思う人たちがサステナビリティにコミットして産業を生み、雇用を生んで、自分たちの国を豊かにするために戦っています。そのような人たちから「一緒にやっていこう」とお声掛けいただくケースは多いです。

藤沢:サウジアラビアやモンゴル、中国の人たちは、自身の国に「LIMEX」の工場を作りたいと言っているということですか?

山﨑:工場を作って供給するだけでなく、回収や循環まで一緒に事業を行おうということです。我々はそのモデルケースを日本で作ります。日本は先進国の中でもプラスチックの回収率は高いのですが、実態は集めたプラスチックを燃やしていたり、物に生まれ変わらせるマテリアルリサイクルの材料にするとしても、多くは海外に輸出してきました。

藤沢:回収はしているけど、リサイクルはそれほどしていないということですか?

山﨑:62パーセントはサーマルリサイクルと言って、燃やしています。単純焼却と合わせて回収されたプラスチックの約7割が燃やされています。

藤沢:燃やしたらCO2を出してしまいますよね。

山﨑:燃やして発電や給湯の熱源に変えたりはします。しかし、気候変動問題や資源枯渇問題から考えると、世界で求められているのはマテリアルリサイクルです。

「LIMEX」の供給量はまだ少ないです。世界中で社会課題になっているプラスチックの回収・循環に事業として携わりながら、日本で使用済みの「LIMEX」製品も回収し、さまざまなパートナーや行政、自治体とも手を組んでお力添えいただき、循環経済の実現を目指しています。将来的にはこれを海外に広げていきたいと考えています。

藤沢:海外の工場で「LIMEX」を製造して、最終的にはサーキュラーエコノミーになるように回収も行うということですか?

山﨑:そのとおりです。

地球にある資源は限られている

山﨑:もちろんグローバルでも地球には資源が足りておらず、地球の人たちが今の暮らしをこのまま継続するには、現時点で地球が1.7個分は必要です。

また、日本人の平均的な暮らしでは地球2.8個分といわれています。地球が1年間に供給できる資源を人間が使い果たしてしまう日をアースオーバーシュートデーと言いますが、資源が足りておらず、これがだんだん前倒しになっています。足りていないにもかかわらず、未来の人に渡さなければいけないものを我々が先に使ってしまっているのが実情です。

藤沢:前借りしてしまっているのですよね。

山﨑:したがって、「削減・回収・循環」のサーキュラーエコノミーをどのように世界中で実装させていくかを考えています。

プラスチックなども今の使用量に対して、2030年や2050年には2倍以上の需要があると言われています。ここに来るまでは戦後70年くらいかかっていますが、この後は20年から30年で倍以上に増えるわけです。人口増加と東南アジアを含む国々の産業化で、ますます需要が伸びますので、どれだけ削減と循環をしていけるかが勝負だと思っています。

国や世界を含めた取り組み

藤沢:お話を聞いていると、ビジネスではなく国家政策・世界政策のように聞こえてきます。そのような大胆なことを行っていくには相当な仕組みを作らなくてはいけませんし、それを行いながら稼ぐのは非常に大変です。

山﨑:本当にそのとおりです。世の中にはいろいろなスタートアップの方々が製品やサービスをローンチして届けていますが、僕らはその後のインフラや回収、ルールメイクをし、標準化に向けて規格を作ったり、それをJIS規格からISOにしていくなどの基準作りもしていきます。

また、この新素材の定義を世界中で認めてもらうためのロビー活動も一生懸命しなくてはならないため、本当に大変ですが、とても勉強になっています。

藤沢:フランスにあるヴェオリアなどは半分国営企業ではないですか。

山﨑:すごいですよね。大変尊敬しています。

藤沢:TBMも国営企業的な動きとメンバリングをしなければならないくらい重要なことをされていますよね。

山﨑:このような新素材のサーキュラーエコノミーをグローバルで行っていくためのルールメイクには、今までの常識ではない非常識なことを新しいアプローチで行っていくことが大切です。常識で考えられることをしてもすごいとはならず、非常識なことをやり遂げてこそとんでもなくすごいことになります。

そのようなチャレンジの力になるぞ、という方々にどんどん集まっていただき、国レベルでルールを一緒になって作っていける方々にぜひ応援してほしいです。

藤沢:そうですね。

山﨑:海外は比較的そのような方々が多いです。

藤沢:海外の方がわざわざ日本企業に声を掛けてくるのは、国を代表している人たちだからでしょうね。

山﨑:サステナビリティやSDGsを実現するために、日本の技術や価値観、仕組み作りは世界中からリスペクトされています。したがって、日本から学びたいという思いもみなさま持たれていますし、日本に期待してくれています。それは大企業の先輩方が世界中で活躍されてきたからです。

「三方よし」の価値観がベースにある日本の企業は、サステナビリティ領域で必ず世界のトップを取れるチャンスがあると思っています。そこにTBMが、世界のトッププレイヤーになるためにチームでコミットし、みんなで挑んでいます。

藤沢:日本から生まれた企業ですので、ルール作りは海外でしてもよいかもしれません。

「LIMEX」をみんなで使っていく

藤沢:非常に壮大なビジョンで、このような規模感の会社と経営者が出てきたことに大変ワクワクします。とはいえ、使ってくれる人も増やしていかなくてはなりません。ぜひ番組リスナーのみなさまの会社で、使える可能性があるなら検討してみてください。今は脱炭素の計画書を作るのが大変ですし、素材を「LIMEX」に変えるだけで良くなるものもいくつかあると思います。

山﨑:みなさまが普段使われているプラスチックの代替品として、かなり活用できるようになってきています。また、「こういうものが出来上がれば使います」と声を掛けてもらえると、開発チームも必死になれますので、プラスチックだけでなく紙の代替品としても、会社で使っているものでお声掛けいただきたいと思います。

直近では飲食店に向けて、メニュー表などの印刷物やバックライトフィルム、不織布などもできるようになってきました。

藤沢:エコバッグなども作れるのでしょうか?

山﨑:まったく問題ありません。今は食品容器など、いろいろなものに「LIMEX」が使われています。また、レジ袋が有料化になる中で、有料化する代わりに環境負荷の低い素材に変えなくてはならないため、「LIMEX」の袋を使っている企業もたくさん増えてきています。ぜひいろいろな面でご検討いただき、声を掛けてほしいと思います。

藤沢:ラインナップはサイトにたくさん書いてあります。「プラスチックを多く使用しているが、どうすればいいのかわからない」という場合は、まずは「LIMEX」のサイトを見てどれが使えるかを検討していただければと思います。

山﨑:みなさまに応援していただいて供給量がどんどん増えれば、それだけ回収・循環の速度も進んでいきます。必ず実現するために我々は日々努力していきますので、まずはみなさまに使っていただいて応援してもらいたいと思います。

また、我々は使用済のプラスチックを50パーセント以上含む再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」も作っています。ペットボトルのキャップや物流資材を運ぶ時のストレッチフィルムなどを原料にゴミ袋などを作り、自治体の指定ゴミ袋にしていただく取り組みを進めています。

藤沢:すごい。その結果、使うプラスチックも再生プラスチックを使用しているものが生まれてきているのですね。サーキュラーエコノミーをクルクル回し、サークルになるようにチャレンジしているのは、まさに時代の寵児として「『LIMEX』ががんばらないでどうするんだ」という思いですよね。

山﨑:そうですね。素材開発は大変なことも多いのですが、これからの時代が進んでいく方向とみなさまからの期待に何としても応え、我々のような日本発のチャレンジが世界で活躍し、サステナビリティ領域でトップを取っていける企業にならなくてはいけないという思いをみんなで共有し、日々戦っています。

藤沢:今日の山﨑さんの話に感動した方や共感した方は、応援の意味も込めて、ぜひ「LIMEX」の素材を使ってみてください。ほんの少しのために「回収してください」といっても、なかなか割りが合わず回収してもらえませんが、たくさんの人が使うと回収してくれる人も増えます。

山﨑:おっしゃるとおりです。回収時にソーシャルコストがかかってしまいますので、我々としてもまずは供給量を増やし、使用量とCO2削減のアプローチをしながら回収・循環を一歩ずつ進めていきます。

品質に厳しく信頼度の高い日本でみなさまにお使いいただけると、海外でも非常に使っていただきやすくなります。「日本で使われている」ということは、グローバルな視野で見た時にかなりのエビデンスになります。

藤沢:「Used in Japan」ですね。

山﨑:したがって、みなさまにまず使ってみていただいて、それを今度は海外で使ってもらうということを同時並行して繰り返していきたいと思います。

藤沢:実はもう回収したものを自動的に分類していますよね。

山﨑:そうです。「LIMEX」もプラスチックも一括で回収してきたものを自動で分別・洗浄して、再原料化できるリサイクルプラントを、2023年から日本国内や海外でいくつも立ち上げていこうと思っています。

藤沢:使う人がいかに増えるかが重要ですので、リスナーのみなさまの行動にかかっているかもしれません。

山﨑:よろしくお願いします。

収益化について

藤沢:このような会社は「どのようにして儲けるのですか?」という質問をするのも野暮な気がしています。「みんなで世の中を変えていかないといけない」という感じですよね。

山﨑:ありがとうございます。やはり僕はサステナブルをうたう以上、その企業は絶対に収益を上げていかなくてはいけないと思うんです。SDGsやサステナビリティをコンセプトとした会社が高収益を得ていく時代になっていくべきです。海外の方々はSDGsに非常に大きな経済効果があることをみんな理解し、そこにビジネスチャンスがあると思っています。我々もそこをどんどん吸収していきたいです。

藤沢:そうですね。私も企業経営者と話していておもしろかったのが、今までは素材調達部門には「コストを下げろ」とずっと言ってきたけれど、最近は「下げたことでは褒めない」そうです。「コストを上げてエコなものにした人を褒める」と言っているのです。

山﨑:よいですね。

藤沢:世の中は変わってくると思いますし、非常に楽しみです。「LIMEX」は見ている世界も時間軸も本当に大きくてワクワクしました。

山﨑:ありがとうございます。

藤沢:みんなが関わって、みんなで夢を実現したいですね。

山﨑:我々はまだ小さなスタートアップですので、みなさまに応援いただいてこそです。日々、素材開発を含めたいろいろな面で苦労しながら戦っていますので、ぜひ応援していただければと思います。

山﨑社長にとってのM&Aとはなにか

藤沢:この番組はM&Aクラウドのサポートで運営しているのですが、毎回同じ質問をゲストの方にうかがっています。今日は「山﨑さんにとってのM&Aとはなにか」をお聞きしたいと思います。

山﨑:「志を共にする同志とスピードを上げるために出会える大きなチャンス」だと思います。我々が目指すサステナビリティ領域で世界のトップを取っていくためにM&Aは欠かせません。企業のステージをどんどん上げ、トライアルしていけると考えています。

我々は「TBM Compass」という企業の理念体系を1冊の本にしています。これは、今後M&Aを展開した時に、我々が大事にする価値観を浸透させるために、濃い理念体系を今から作って備えているものです。

何百年と挑戦し続けていく企業であるために、残していかなくてはならないバリューがありますが、それはM&Aの戦略でも同じだと思っています。時間軸をしっかりと考えて事業を行う上で、M&Aの戦略は非常に大事だと感じています。

藤沢:TBMの哲学・精神を共有する会社が増えると世の中が良くなりそうな気がします。

山﨑:本当にそうなれるようにがんばらないといけませんし、海外で我々と一緒に取り組んでいこうという方々もそのような思いを持った方々が多いですので、良いものを作っていけるのではないかと思っています。

藤沢:なんだか今日はすばらしい未来を見ることができた気がします。どうもありがとうございました。

山﨑:ありがとうございました。