鉄塔への設備投資
孫正義氏(以下、孫):一方、我々はこれまで先行投資として設備投資を積極的に行ってきました。特に設備投資では、鉄塔が他社よりも少ないという状況がありましたので、我々としては鉄塔を急激に増やして、いまではもう日本全国接続率ナンバーワンになったわけですけど。
この鉄塔は1回作れば50年くらい持つわけですね。そういう意味では、この鉄塔の設備投資が一巡した。したがって設備投資は必要とされた鉄塔の投資が一巡したので、これからフリーキャッシュフローが急激に良くなってきている。
前年対比で去年の上期と今年の上期でいくと、3倍近くに増えている。下期以降、来年はこれよりもさらにフリーキャッシュフローは増えていくと考えています。
したがってソフトバンクの経営内容が日に日に良くなってきている。その分我々は他に投資することができると考えています。
課題のスプリント事業が純増に反転
我々に唯一残っている大きな課題はスプリントであると申しました。スプリントの進捗状況について少し触れたいと思います。スプリントの新しい経営人としてマルセロがCEOになりました。その前と後で経営内容が随分変わりました。
この黄色い折れ線グラフですが、ポストペイドがほとんどです。ポストペイドが売上を左右します。このポストペイドが、純減が続いていた状況から毎月純増というところまで反転できました。
なかでも、端末のほうが重要なんですが、他社の純増が第2クオーターで下がってきている状況で、スプリントのみが去年純減だったのが反転し始めている。
そういう流れとしては、純増の勢いが反転しはじめてきた。これまで純減だったのが他社と比べてみても見栄えがよくなった。そういう兆しが出てきたと言えると思います。特に同じポストペイドでもスマホが一番重要な収益についての部分になります。
タブレットはあまり儲からない。各社お互いに販促的に使っているので、携帯端末のほうが収益のほとんどです。この携帯端末についてマイナスがかなり続いていたのが、この直近の四半期では黒字。ポストペイドの携帯端末のほうも純増に反転しはじめてきました。これは我々にとって非常にグッドニュースだと考えています。
また有料顧客の新規顧客。アメリカではサブプライムのお客様と有料顧客のお客様では1人あたりの利益が5倍も6倍も違うんです。でも店に来るお客様はあちこちのお店で断られて、来るお客様の8割近くはサブプライムのお客様なんですね。
そのサブプライムのお客様を審査のバーを低くして取っているというのがマルセロ前の状況だったんですね。ですから顧客は取れるんですけど、どんどん解約する。しかも端末も払ってもらえないで解約。これ経営にとっては最悪の状態だったわけですね。
サブプライムのお客様にとっては審査を厳しくしているわけですから、純増しにくいわけですね、同じポストペイドでも。
それで、プライムのお客様、有料顧客のお客様をいかに取ってくるかがこれから収益にものすごく効いてくる。このプライムカスタマーが前年対比で10%増えていることは非常に良いことです。
スプリント事業の開始以来一番低い解約率へ
そんないろいろな努力で解約率が、スプリントの携帯事業を開始して以来一番低い解約率に改善できた。それでも1.5%解約率あるじゃないかと言われればそれまでだけど。急激に解消してきた。これはこれからの経営の内容に効いてくる。
取っても取っても端末代も払ってもらえずに解約するお客様がたくさんいたわけですから、その解約率が下がってくるのは、経営のボトムラインに一番影響を与えるところですが、これが急激に下がっている。
もちろん解約率が下がってきているもう1つの理由はネットワークが改善してきたことであります。スプリントは2.5GHZの電波を持っています。この2.5と2.5を足してキャリアアグリゲーションを他社に先駆けてアメリカで提供開始しました。
ネットワークの改善と営業利益の向上
おかげさまで通信の速度が66%増えた。スプリントのネットワークは繋がらない、遅いという状況だったものが、ここ最近急激に改善してきたということであります。同じiPhoneの接続速度でも急激に良くなってきていると。
いろいろな努力の結果ですね、ソフトバンクグループ入りしてから、調整後のEBITDAも着実に改善してきております。
営業利益も改善しはじめました。これもグッドニュースですね。純利益はまだ赤字ですけども、赤字の幅が急激に改善してきました。
営業利益が黒転して純利益がまだマイナスというのは、その差額は金利です。これから借金が減ってきて、金利が減ってくると、その分さらにネットインカムのほうも黒字になりやすいという形になります。
ではスプリントの手元流動性がどれくらいあるかというと、こちらの色の付いている積み上げグラフが手元流動性。今現在、現金および現金同等物をいくらもっているかという金額であります。
日本円にして7000億円の現金または現金同等物をもっているということであります。社債の返済は今年度で約800億円、来年で4千数百億円。来年返済分まですでに調達は整っているという状態であります。
ということで手元の流動性もあるし、資金の多様化。リースについて、3ヶ月前のこの場でスプリントの多様な資金の調達方法として「リースも準備中」と申しましたが、今月中に第一弾のリースによる資金化。リースカンパニーを作ってそれによる資金化というのができることで、いま最終の詰めが整ってきています。
スプリント反転のための3つの戦略
ということでスプリント反転のための3つの戦略について述べたいと思います。1つはOPEXの削減、固定費の削減ですね。ネットワークの改善、資金調達の多様化。この3つであります。
まず固定費の削減ですが、コンスタントに毎年2千数百億円の削減。2千数百億円から3千億円近い毎年の削減の目処がつきました。いま470ほどの固定費削減のためのプログラムを並行して開始しました。
つまり、どういう項目で何をどのようにすれば経費が削減できるということが、470項目のプロジェクトで走り始めたということであります。ですから最低限でも毎年かかる固定費を毎年継続的に2千数百億円減らせる。
そのために思い切って一時費用は計上します。一時費用として1千数百億円ですが、これはワンタイムですから。一時費用として今年の後半から来年にかけてこの分の費用がかかりますが、それにともなって毎年2千数百億円が削減できる。
費用対効果として十分メリットのある手立てが見えて、その設計に入って実行を着々と準備していることであります。ですからこの点は非常に自信が出てきた。
全米でNO.1のネットワークを作る
2つ目はネットワークです。さきほどネットワークはすでに改善し始めた。解約率も下がってきたということを申しましたけれども、これがさらに次世代のネットワークを、冒頭で言いましたように私自身、毎晩夜の22時から24時、1時、2時までやっています。
これはもう本当にワクワクする作業であります。うちのエンジニアと次世代のネットワークについて詳細の設計を、打ち合わせをやっておりますが、私にとってはほとんど喜びの時間というか、趣味の時間といいますか、自分にとっての楽しみの時間。
1日の仕事が終わって、「さあ、これから楽しむぞ」というのがネットワークの設計会議です。非常に私にとってはうれしい時間ですが、これを費やすことによって、全米でNO.1のネットワークを作ることができるという自信が出てまいりました。
それを最低限の費用で、設備投資とオペレーティング費を、最低限の費用でできる設計が見えてきたということであります。これが現実のものになるのは、これから1年半、2年がかかってきますけれども、非常にワクワクする状況にあります。
資金の調達の多様化
3点目は資金の調達の多様化。先ほど言いましたようにリースカンパニー。リースでお客さんに販売しているわけですね。しかしメーカーには30日後に払わなければいけない。
メーカーには30日で払うけども、お客様から資金を回収するのは2年間のリース販売で毎月ちょっとずつ24分割で入ってくる。そうするとお金はいくらあっても足りない、ということになるわけですね。
それに対してリースでお客さんから入ってくる部分を、別にリースカンパニーを作ることによって、リースカンパニーが端末の所有者になる。
リースカンパニーからスプリントに現金が頭で回収できる。そうすると、スプリントは今までリースで販売して、支払いは30日で払わなきゃいけない。
リースカンパニーを作ることによって、この資金のギャップを埋める。この体制が整いましたので、今月中に第1弾が実施される。
これが整うと、資金の逆回転というのが好回転に変わっていきますよね。更に経費が下がるということを申しました。経費が下がって設備投資の効率がよくなれば、必要な資金が減っていきますので、結果借り入れの、特に社債で今まで出している部分の返済にいよいよ入れると。
来年からは社債の返済に入っていくと。ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収したときも、最初は10年間で返済するという予定でした。しかし、現実は4年で完済しました。
スプリントは4年で完済するというわけにはいきませんが、少なくとも来年からは有利子負債の社債の返済というものが始まっていって、これから徐々にスプリントのトータルの外部負債。社債の償還というのが始まって、結果金利も減っていくと。結果、純利益も一気に改善し始めると。好循環の回転に入れるというふうに設計が見えてまいります。
従いましてこの3つです。固定費の削減、ネットワークの改善、資金調達の多様化・および返済。この3つの部分で、スプリントが大いに反転し、継続的な成長に持っていけるという自信を深めたということであります。
EコマースにおけるYahoo! JAPANの成長
次に投資といいますか、ソフトバンクの通信以外の部分ですね。とくに、インターネットの部分ですけど。
ヤフー。コンスタントに成長しておりますが、とくに広告収入。スマホにお客さんは移ってますね。PCからスマホに移る。
そうなると「広告単価がスマホのほうが小さい」という問題がありました。したがって広告の売り上げが、構造的に広告が減っていくという問題がありました。
しかし、ついにYahoo! JAPANのほうでですね、スマホで上にスクロールしていくと、ヤフーのニュースと、ところどろこに広告が入っている形で、上にスクロールできるというような方式に切り替えてから、広告単価が増えて、広告効果が増えました。したがって、ヤフーの広告がもう一度成長路線に入れるようになってきたと。
また、ヤフーの重要な課題としてあげていたのが、Eコマース。Eコマースで、amazonだとか、楽天さんだとかの他社が伸びてるという状況に対して、Yahoo! JAPANがマイナス成長という問題がありました。
しかし、Eコマース革命ということで一年半前に打ち出して、そこから14パーセント増、30パーセント増ということで、他社よりもおそらくは伸び率は上回ったんじゃないかなと。
ついにYahoo! JAPANのショッピングの伸び率は、他社を大きく下回ってたのが、反転して、取り扱い金額の伸びがもしかしたら大手のEコマースでは一番伸びてるという状況まで変えることができた。
これは、ヤフーショッピングの上に乗っかっている販売店さんが急激に増えたと。その結果、品揃えがよくなって、品揃えが他社に追いつき追い越すという状況になってきて、その結果、価格競争も販売店同士で始まって、より安く買える。よりたくさんの品物がそろっている。
ということで、お客様がヤフーショッピングのほうにどんどん今、来初めたと。これはこれから更に伸びると私は思っています。
インターネット企業への投資事業
スコアカードということであげますと、3つの主要な事業ですね。国内の通信、アメリカの通信、ヤフー。
緑色、緑色、真ん中のスプリントはまだ黄色ですけど、少なくとも反転の設計図は見えたというのが先ほどからの話であります。
そして、ここでソフトバンクの投資事業として行っている、特にインターネット企業について少し触れたいと思います。
Eコマースですけど、ご存知アリババ。アメリカのウォルマートを抜くと。世界のウォルマートの取り扱い高を抜くというところまできておりまして、また、アリババの売上高は32パーセント増えています。モバイルでの売り上げは3倍以上に伸びている。
中国のGDPが7パーセントなのか、6.5パーセントなのかと、いろんな話が今、出ていますが、それでもアリババは32パーセント伸びていますと。
純利益も36パーセント伸びていると。更にインドのEコマースのsnapdealは、前年対比223パーセントということで大いに伸びている。
韓国の我々のEコマース、coupang。これは531パーセントということで、それぞれ伸びているということであります。
次にトランスポーテーションですけど、我々のUberがアメリカ、ヨーロッパで今急激に伸びておりますが、そのインド版になります、OLA。
これがインドで約80パーセントのマーケットシェアを取ることができました。このOLAがですね、前年対比で30倍も予約依頼数が増えているということで、まだ急激に伸びている。
アジアでインド、中国以外の同じサービスをやっているのが、我々のGRABTAXIです。これは前年対比800パーセント。
さらに中国で我々のアリババとテンセンとのグループは合併しましたけども、そこにも我々は株式をもっております。それも中国で400パーセントと、それぞれが急激に伸びているということであります。
次にゲームと広告ですけど、ガンホー、スーパーセル、ともに成長率はガーンと倍々というところにはいかない成熟期に入っていますけど、それでもフリーキャッシュフローとしてはそれぞれが1000億円級のフリーキャッシュフロー、利益を稼ぐというのがコンスタントに続いています。
また、スマホの広告ですね。ということでINMOBI、こちらも世界190ヵ国カバーして、月間のインプレッション、広告の数が1000億インプレッション出ていると。
アクティブユーザーも10億人規模になっていると。隠れた世界一の会社にこれからなれるんではないかと思っています。
フィンテック分野への投資
また、最近はフィンテック。ファイナンシャルテクノロジー。この分野がこれから急激に伸びるということで、世界中の銀行および投資家たちがですね、これから伸びるインターネットのテクノロジーを使って、これから伸びるホットな分野がフィンテックだと、言われておりますが。
中でも、我々が持っております会社SoFi。この会社が大変優良、有力な成長株だというふうに思っております。
もともと学生ローンから始まりました。誰にでも貸すという学生ローンではなくて、いい大学のいい学生に絞って貸すと。
したがって、同じ学生ローンでも焦げ付き率、不良債権率が非常に低くて、非常に収益が上がるということで始まりまして。それがさらに住宅ローン、個人ローンというふうに商品が広がっています。
どのぐらい伸びているかといいますと、約1000億円。約100億円あった貸付残高がこの4年間で3千数百億円ま伸びたということであります。
急激に伸びています。これは倍々ゲームで来ておりますけど、まだまだ伸びると。我々が筆頭株主になりました。この会社はこれからさらに私は伸びると。フィンテックの株の中で最も優良なのはSoFiだと思っています。
ニケシュ・アローラを経営陣に加えたさらなる進化
ということで、魅力的な投資先を続々と追加し、彼らの企業価値がもっともっと増えるように、我々はお互いにシナジーを出し合えるように。
とくにインドなどにおいてですね、ニケシュを中心に非常に細かく、それぞれの創業経営者陣と密接にやりとりをしながら。
ニケシュが来る前というのは、私が趣味のように投資をし、盆栽に水をやるように、楽しみに眺めながら、勝手に大きくなってくれるというのを祈りながら、成果を待っていたわけですが。
ニケシュが来て、専門のチームを作りました。それらの企業をより早く、より大きく、よりたくましく、より確実に成長できるように、日頃から密接に連絡を取りながら、密接に経営陣とやり取りをしながら、彼らがより早くより大きく成長できるようにという形で注力をしているところであります。
そういう意味でも、世界で最も大きくて、強大で、成果のあるインターネット企業といえばグーグルですけど、そこで実質的に経営を引っ張っていたニケシュを我々の会社に加わったということで、この、インターネットのシナジーグループですね。
我々は単に投資事業だと思っております。キャッシュフローとして通信の事業があり、そこで得たキャッシュフローを使って、投資を行うわけですが、単に売った買ったというわけではなくて、我々の業界を絞って、このインターネット業界。
情報革命のこの分野に絞って、そして、そこにお互いがシナジーを出し合うことによってタイムマシン経営が更に進化していくというのが、我々の状況だというように思っています。
ということで、我々は決して今の状況に満足するのではなくて、さらなる成長に向かって、いろいろな種をこれからも植え、育てていきたいというふうに思っています。
私の説明は以上です。