~新morichの部屋 Vol.19 株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼聰氏~
福谷学氏(以下、福谷):こんにちは。今日は緊張していますか?
森本千賀子氏(以下、morich):いやいや、私、今日は気合が入りまくっています!
福谷:入りまくりですか(笑)。どうされましたか?
morich:今日この日を待ち望んでいました! こんなことを言うと、過去のゲストの方に失礼かもしれないですが、とてもうれしいです!
福谷:なるほど。私は、本日のゲストの方に大変緊張しています。カリスマ性のある方だと思っており、私も今日は情報のシャワーを浴びてきました。
morich:本当ですか? 実は昨日、帯状疱疹のワクチンを打ちました。帯状疱疹は50代女性の3分の1がかかると言われているため、ワクチンを打ったほうが良いということで打ったのですが、その後、お医者さんから「今日と明日は熱が出るかもしれません」と言われたのです。早く言ってほしかったです(笑)。
そして熱が出てしまい、昨夜から39度、朝に38度台が続き、熱がまったく下がりません。
福谷:今もですか?
morich:気合いです、気合!
福谷:それで舞い上がっている部分もありますね。
morich:そうですね!
福谷:なるほど。本日も、素敵なゲストをお招きしています。
morich:男前過ぎて、目を合わせられない感じです。どうしたらいいでしょうか?
福谷:そうですね。男前ですよね。
morich:貴公子のようですね。
福谷:本日のゲストの方とは、面識はありますか?
morich:実はあります。以前の会社の頃からよく知っているのですが、まったく変わっていません。
福谷:変わっていませんか?
morich:まったく変わっていないです。
福谷:なるほど。
「新morichの部屋」は、上場企業の社長をお招きし、フラッと立ち寄れるような、お酒を飲みながらさまざまなお話をする番組です。
morich:今日もたくさんのオーディエンスの方々に来ていただきました。
福谷:オーディエンスの方々も、よろしくお願いします。
(会場拍手)
morich:よろしくお願いします。前回は男性ばかりでしたが、本日は女性が大勢います。
福谷:おそらく、本日のゲストのファンの方がいるのではないでしょうか?
morich:絶対いらっしゃると思います。お呼びしましょうか?
福谷:ではmorichさん、よろしくお願いします。
morich:株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEOの天沼聰さんです。ようこそいらっしゃいました。
福谷:よろしくお願いします。
(会場拍手)
天沼社長の自己紹介
天沼聰氏(以下、天沼):よろしくお願いします! 入りづらいですね。入りづらい(笑)。
morich:すみません。少し持ち上げてみました(笑)。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか? ここから掘り下げていくため、簡単なご紹介でけっこうです。
天沼:株式会社エアークローゼットの天沼と申します。お招きいただき、ありがとうございます。
福谷:こちらこそ、ありがとうございます。
morich:ありがとうございます。
天沼:サービスを開始してから2月で丸10年となります。
morich:10周年、おめでとうございます! すばらしいです!
(会場拍手)
福谷:すばらしいです!
天沼:それまでにはなかった、普段着に特化したファッションのレンタルサービスをちょうど10年前にスタートしました。
月額会員制のサブスクリプションでファッションをレンタルしていただけるサービス「エアークローゼット」を立ち上げ、現在は「それをもっと当たり前にしたい」「広げていきたい」という思いで、仲間と一緒に取り組んでいます。よろしくお願いします。
福谷:よろしくお願いします。
morich:ありがとうございます! こちらのサービス、もちろん使っています。
福谷:もちろんですか?
morich:もちろんです。
天沼:ありがとうございます。
福谷:先日「Facebook」にもあげていただいたことから、私も使おうと思ったのですが、よく見ると女性向けのサービスだったため、私は諦めました(笑)。
morich:彼女や奥さま向けですね。
福谷:今日も、情報のシャワーを浴びてきましたか?
morich:熱が39度ありましたが、浴びました。私は、天沼さんのことはもともと知っていたのですが、奥が深い人でした。
本日はそのあたりについて聞いていきたいと思っていますが、この企画は幼少期からこれまでを振り返るかたちになります。天沼さんの幼少期について、まず、お生まれはどちらですか?
天沼:千葉市出身です。千葉が大好きで、現在も千葉にいます。
morich:昨年、鋸山に登りました。
天沼:本当ですか。千葉県民は、遠足などで行きますね。
morich:遠足で必ず行きますよね。
天沼:「地獄のぞき」ですね。
morich:そうですね。
福谷:morichさんは、なぜ鋸山に行ったのですか?
morich:山登りしたかったからです。でも、高尾山はしんどそうだと思い、それで鋸山にかなりなめた格好で行ったら、本格登山だったため死にそうになりました(笑)。
天沼:最後のほうは、しっかりとした岩場になっていますからね。
morich:ただ、上のあたりには石像があり、すばらしかったです。
福谷:鋸山?
天沼:鋸山は千葉県の南のほうにあります。
天沼社長の幼少期
morich:幼少期はどのような感じでしたか?
天沼:どのような感じかといいますと?
morich:現在の小さい版でしょうか?
天沼:小さい版ですね。スポーツ刈りというか、スポーツが好きで、ずっとやんちゃしていました。幼少期は幼稚園、地元の公立小学校に入っていました。
morich:絶対にモテますよね。クラスのヒーローですよ。
天沼:わりとやんちゃしていましたね。なにかに秀でているわけではなく、バランス良く、なんとなくできているような部分がありました。ただ、当時から若干コンプレックスもありました。
なにかに秀でているスペシャリストって、かっこいいじゃないですか?
morich:スポーツとかですか?
天沼:なんとなくこなして、「どうなんだろう? これでいいのかな?」と思っていました。
morich:小学生の頃にそんなことを思っていたのですか?
天沼:はい。小学校はそんな感じで、そのまま地元の中学校に進学しました。
人生はなんでも起こり得ると感じた幼少期の原体験
天沼:ただ、振り返ってみると、小学校の時が人生で一番の転機と言えるかもしれません。兄弟は、男3人兄弟の真ん中でした。真ん中は自由人ですよね?
morich:そうですね。ご想像のとおりです。
天沼:次男はだいたい自由人ですよね。ただ、私は非常に父親っ子でした。週末には父親の趣味にも早起きをして付いていき、「父のようになりたい」と思って見ていました。
しかし、小学校高学年の頃、ご飯を食べ終わって父とソファーで話をしていると、父が倒れてしまい、そのまま他界しました。
morich:えっ? 本当ですか。
天沼:その時に、「人生はなんでも起こり得るな」ということを学ばせてもらいました。
morich:目の前で?
天沼:そうです。今、この瞬間に倒れて死ぬかもしれません。「それは起こり得るよね」と思われるかもしれませんが、それを強くリアルに感じています。
morich:小学生の時にですか……。
天沼:そこからは、人生には限りがあり、その後の人生のさまざまな転機で「相談したい」「話したい」と思って泣き喚いても、当然ながら時間は戻ってこないことを痛感しました。人生は時間が非常に大事だということを、自分の中で最初に学びました。
小学校の時にそんなことは言語化していませんが、自分の人生を自分できちんとかたち作っていったほうがいいという、ざわざわとした実感がありました。
morich:ちなみに、お父さんはおいくつの時ですか?
天沼:42歳です。
morich:そうですか……。
天沼:私もその年齢を超えたので、早いと思いますね。勉強して受験しようと思っていましたが、そこから自分の中のさまざまなモチベーションがプツッと切れてしまいました。
海外で初めて経験した多様性
天沼:受験せずにそのまま近くの公立中学校に進学し、中学生活を経てどうしようかと思っていた中学校1年生の頃に、母親の「もっと前を向けよ!」という思いかはわからないのですが、短期留学に勝手に申し込んでくれて、夏休みの間に海外へ短期留学に行きました。
morich:1人で?
天沼:短期留学のプログラムに登録してくれて1人で行きました。
morich:なにも知らない状態で行ったのでしょうか?
天沼:一応は話を聞いてイギリスに行きましたが、中学生から大学4年生までの学生が参加する短期留学で、中学校1年生だった私は一番小さかったため、お兄さんやお姉さん方についていきました。
イギリスには、ボタンを押すとプシューっと開く電車があり、添乗員のような方が連れていってくれました。私にとっては初めての海外のプログラムで、緊張しながら1人で参加しました。
morich:英語はできましたか?
天沼:もちろん、できないですよね。
morich:ですよね。
天沼:そこでは当時そして今も、日本ではそこまで起きないことかもしれませんが、電車の扉がプシューっと開いたら、外でカップルが熱いキスをしていたのです。
morich:ない、ない。ないです(笑)。起きないことですね。
天沼:ドラマのようですね。その方たちは男性同士で、自分の価値観もあって二重に「うわっ」と思いました。しかしその時、ふと周囲のイギリス人の方々を見ると平静で、そんな状況にざわざわとした違和感を持ちました。
morich:確かに、日本ではそんなことはないですよね。
天沼:自分が勝手に思い込んでいる当たり前と、違う文化で生きてきた人の当たり前は、これほどまでにも違うのだと強く実感しました。
異文化なので当たり前かもしれませんが、私にとっては衝撃的でした。自分がこれまで培ってきた当たり前だと思っているものは、自分が生きてきた人生経験の積み上げの中からしかなく、「狭いなぁ」と強く感じました。
そこまで言語化していたわけではありませんが、まったく違う異文化の中に自分の身を置いてみた時に、さまざまな発見があるかもしれないと感じました。当時は「異文化がおもしろそう」という程度でしたけどね。
morich:当時はそうですが、今になって振り返ってみるとそうだったということでしょうか?
天沼:今、こんな話をすると賢い人のようですが、そんなことはありません。「異文化はすごいな」という感覚で「海外に行ってみたい」と思いました。
morich:それがきっかけですか?
天沼:そうです。最初に話をした時は、祖父から「絶対駄目だ。危ない」と大反対を受けました。
morich:確かに。
天沼:「そうかぁ」と思いましたが、それでも行きたい気持ちがあったので、いろいろと調べていくうちに、日本人の先生方がいて、日本人の生徒と寮生活ができる分校があることを知りました。これなら祖父もOKを出してくれるかもしれないと思い、分校についていろいろと調べていきました。
国を比較する中で、検挙率が最も低いアイルランドという国を選びました。今はなくなってしまいましたが、当時あった駿台のアイルランド校です。
そこで、日本人学校で寮生活なら安全ではないか、現地の学校と違って先生も日本人、さらに心配であれば電話もできるからと、祖父に話しました。
morich:日本語も通じますからね。
天沼:「検挙率も低いみたい」と言ったところ、祖父が渋々OKしてくれて、母も背中を押してくれたため、高校で海外に単身で行かせてもらいました。
福谷:高校で海外ですか。
morich:「高校でアイルランド」と書いてあったので、「なんだろう?」と思いました。普通は、なかなかアイルランドは選ばないですよね?
天沼:そうですね。なかなか選びませんよね。
morich:そんな背景があったのですね。
天沼:日本人学校の分校なので、寮生活では仲間と話をするような生活でした。語学を目的に行ったわけではなく、異文化の中に身を置きたいという思いがありました。
とはいえ、ほぼ日本語を使う寮生活だったため、そこまで異文化を体感しきっているわけではありません。
途中には、ホームステイの機会もありました。乗馬などもやらせていただくなど、ファームステイも経験しました。
morich:乗馬、似合いそうです!
天沼:おそらくイメージとは違いますね(笑)。実際には本当になにもない、田舎の牧場での乗馬です。
morich:そうですよね。アイルランドはイギリスのど真ん中とは違いますよね。
天沼:高貴なイメージをされていましたよね?
morich:しました、しました(笑)。ブーツみたいなものを履くようなイメージですね。
天沼:ブーツは履きますが、かなりボロボロなものを履いていました。料金は、田舎ならではで、1時間1,000円や1,500円程度でできます。きれいな乗馬を想像されているかと思いますが、ボロボロなものを想像してもらったほうがいいと思います。
morich:想像とは違うということですね。そこに3年いたのですか?
天沼:そうです。アイルランドには3年いて、その後は日本に帰国するか、そのまま海外に残るかという中で、異文化の中に身を置いていないことから、現地にある異文化の学校に行きたいと思い、隣国のイギリスの大学へそのまま進学しました。
海外生活が組織作りの原点に
morich:高校でアイルランドに行ったのですね。
天沼:高校でアイルランドに行き、その後はイギリスに渡りました。
morich:ロンドン大学ですよね?
天沼:そうです。
morich:簡単には入れないのではないでしょうか?
天沼:そうですね。これもだんだん下げていくことになるのですが、ロンドン大学はユニバーシティといって、さまざまなカレッジの集合体の大学です。つまり、カレッジの中でもさらに分化し、非常に優秀なカレッジや普通のカレッジなどに分かれています。
ロンドン大学を総合して学力や研究などを見ると、確かにかなりのトップです。
morich:平均点ではそうですよね。
天沼:トップのカレッジが有名で、非常に良いユニバーシティです。
morich:そんなイメージがありますね。
天沼:私が通っていたカレッジは、私は良いところだと思っていますが、特にITにとがっていたわけではない普通のカレッジでした。そこに行こうと決めてから、正直、入ることは非常に簡単でした。
morich:お得ですね。
天沼:試験なども簡単でしたが、一応「ロンドン大学卒業」となるのでお得です(笑)。
morich:「本当ですか?」と声を大にして言いたいです。少なくとも、私の知り合いのロンドン大学卒業生はみんな非常に優秀ですが、こちらなのですね(笑)。
天沼:こちらではないです。カレッジを聞かなければいけません。このことをお話しすると、カレッジを聞かれるようになるので嫌ですね(笑)。
morich:とはいえ、授業は英語ですよね?
天沼:もちろんです。つまり、最低限の語学力があれば基本的には入れます。もちろん進級には一定のテストがあり、そこで止まる人も多いですが、教授と仲良くさせてもらっていました。
morich:では、高校、大学と親元を離れていたのですね?
天沼:そのとおりです。ずっと離れていて、大学では一人暮らしもさせてもらいました。
morich:すごく自立されていたのですね。
天沼:自立というのでしょうか?
morich:一応言えると思います(笑)。
天沼:ここでようやく、「異文化の中で生活したな」と感じました。なにかを借りたり、車を運転したり、言語的には電話がかかってくることに一番ドキドキしたりと、そんな文化を味わいました。友だちが文字どおり土足で上がり込んでくるのも、異文化ですよね。
そういった一つひとつの経験を自分で感じた中で、徐々に、究極的には人それぞれ価値観や考え方が違うものの、主観で見ればその全部が正しいからこそ、誰かを否定すること、誰かの価値観を否定することは、する意味もなく、本質的ではないと思いました。
ただ、意見として出し合い、徹底的に議論すればお互いの価値観が広がっていくため、全員の考えを肯定したいと、現在は強く感じています。
morich:そんな思いに至ったのですね。
天沼:組織作りの原点は、おそらくこの海外での生活です。
morich:まさにダイバーシティですよね。
天沼:そうです。本当に理不尽なことはたくさん起きますよね。例えば、アイルランドで暮らしていた当時、アイルランドはITなどの税金関係で国が大きく成長する前の時期だったため、アジアの人がいること自体がすごく珍しい状況でした。
morich:そうですよね。ややアジア蔑視のようなものがありますよね。
天沼:それこそ、見知らぬ人から石が飛んでくることもありました。そんな理不尽はないですよね?
福谷:ないですね(笑)。
morich:まったくありません。なにか害を与えたわけでもないですからね。
天沼:石が転がってきて、明らかな悪意を感じることはありました。
morich:欧州には、そんなところもあるのですね。
天沼:でも、自分の中では「なにもやっていないのに攻撃を受けた」とか「それを駄目だ」と思う必要もないと捉えていました。
「それはおかしいだろう」と腹は立ちますが、単に理不尽だと片付けてしまうのではなく、大切なのは、石を投げたくなる気持ちがあって、そうした価値観が存在するという事実を認めるということです。
morich:違いを認めるということですね。
天沼:その時に「ダイバーシティの原点はこういうものなのかな」と感じました。価値観を押し付けると喧嘩になって戦争になってしまうので、大前提として価値観の違いをきちんと理解することが必要だと思いますね。
morich:私は元リクルート社員ですが、リクルートにいた頃、ダイバーシティが進んでいる企業の経営者へインタビューをしました。みなさん欧州に留学していたり、20代の頃に赴任していたりといった共通した経験がありました。
天沼:欧州の文化に触れているのですね。
morich:触れているのですよ。まさにその典型だと思います。
天沼:諦めなのかもしれませんが、そんな理不尽に自分から対応できないと考えていくうちに、本質について考えるようになっていってしまいました。
morich:「違うよね」ということと、違いをきちんと許容する感覚でしょうか?
天沼:単純に、違いであるだけで、間違いではありませんよね。
morich:そうそう、間違いではないということですよね。
天沼:こういった考えを強くベースに持つことができたのは、海外に行ってよかったと思うところです。ただ、どうも勉強が大好きで得意なタイプではなく、なるべく避けてきたため、学業成績はまったく褒められたものではありませんでした。
morich:とはいえ、卒業はされていらっしゃいますよね?
天沼:卒業はしています。
将来の夢があったわけではなかった
morich:その頃、将来どうなりたいといったことはありましたか?
福谷:気になります。
天沼:正直にいえば、あまり考えていませんでしたね。大きな構想や将来の夢を持って、起業家などと思っていたわけではありません。自分の人生を自分らしく、胸を張って生きていけたらいいなと思いつつも、「なんだよ。なにも考えてないじゃん」という(笑)。今言ってから思いましたが、ゆっくりと偉そうに言っているだけですね(笑)。
morich:もともとお父さまの影響などはあるのでしょうか?
天沼:父は開業医をしていたため、医者という選択肢も考えましたが、これからは情報システムや人工知能によって社会が大きく変わっていく中で、もともとデータ分析が好きだったこともあり、情報システムやテクノロジーを経営と切り離すのではなく、融合させた時にどう活用するかを大学で考えていました。
そうした背景から、1つは、テクノロジーを活用するビジネスパーソンになりたいという思いがありました。
もう1つは、リーダーシップは役職に付随するものではなく、人に備わっているものだと思っているため、人がリーダーシップを発揮するかどうかが重要であり、自分もリーダーシップを発揮できる人になりたいと考えました。
ただ、その時点で明確に起業しようとは考えておらず、「社会人ってなにやるの?」と、正直なところ、なにをやるのかまったくわかっていませんでした。
現在はインターン制度などもありますが、1970年代生まれの私が学生だった当時はまったく普及しておらず、大学時代もミレニアム前だったため、インターンをしている人はかなり珍しい状況でした。
morich:インターンという言葉も、まだない状況ですよね。
天沼:ほぼないです。だから「社会人って何をするんだろう?」という感じでした。
morich:お父さまも士業ですものね。
天沼:ビジネスには触れていないです。
morich:おそらく本当のビジネスのようなことには触れられていませんよね。
天沼:周囲の仲間は半ばインターンやアルバイトのようなことをしていましたが、私はまったくそんなことはせず、日本人会の幹部を務め、せっかく海外にいるのに日本人で集まってパーティをしていました。
morich:なるほど(笑)。
天沼:そんなことをしてはいたものの、自分がリーダーを務めるとか、リーダーシップについて深く考えることはまったくありませんでした。こうして振り返ると、だんだんブランディングが下がりそうな気もしますね。
morich:でも、天沼さんもそうだったのだと思うと、本当に安心しました(笑)。
天沼:考えていなかったのかもしれないですね。ただ、状況は変わるので、今日の自分が最善だと思うことを考えていく、という繰り返しのほうが良いのではないかと思います。
morich:その状況の中から、なにかをキャッチする力がおありなのかもしれないですね。
天沼:当時「リーダー」と聞いて思い浮かべるのは、やはり会社の社長のような人でした。ドラマなどを見ていても、人前で堂々とプレゼンテーションをしたり、ファシリテーションや会議を格好良く進行したりしているようなイメージだけがありました。
ただ、私は今もそうですが、人見知りで緊張しやすい性格です。
morich:あら、そうなのですね。
福谷:へぇー。
天沼:人前で話すのがとても苦手なので、今日ここに来る時も、実はかなりどんよりしていました。
morich:本当ですか(笑)?
天沼:お話しするのは楽しみでしたが。
morich:知らない人が大勢いて、「偉そうなことを言わなければならない」といった感じがありますからね(笑)。
福谷:よく引き受けていただけましたね。
天沼:みなさんに知っていただきたかったのです。
morich:私も母親ですが、お母さまの「何かを気づかせたい」という思いからの体験がきっかけではないでしょうか?
天沼:海外に行かせてもらったことですね。
morich:きっと、当時はこのまま普通に中学生活をさせておくのはどうなのだろうと思ったのでしょうね。
天沼:なにも考えていなかったのでそうでしょうね。
morich:いやいや、お父さまのこともあって、ぽっかり心に穴が開いてしまったのですね。
天沼:そうですね。それはあると思います。当時のモチベーションも分散していたと思いますね。
未だに鮮明に覚えていますが、小学校の時、「これから母子家庭として生きるから、社会からそう見られることを知り、どう発言していくか、コミュニケーションしていくかを自分で考えましょうね」と言ってくれました。確かに、非常に影響があるかもしれませんね。
morich:男3人兄弟を女手ひとつで育てることは、かなり大変ですよ。
天沼:振り返ると、大変だっただろうと思います。
morich:私は子どもが2人いますが、2人だけでも本当に大変です。本当に、親孝行してください(笑)。
天沼:まったくできていないので、これからちゃんと親孝行します。
日本に戻ってきてコンサルファームへ
morich:でも、そこから日本に戻って来たわけですよね?
天沼:はい。海外で生活したいとか、英語が非常に堪能になりたいというわけではなく、異文化の中に身を置きたかったわけですが、やはり自分の母国として、日本が好きですね。海外にいると、日本について聞かれることが多くあります。
morich:「日本はどうなの?」などと聞かれるのでしょうか?
天沼:「侍はどこにいるの?」とかですね。
morich:いませんけどね(笑)。
天沼:そのくらい知られていないということを感じました。
福谷:なるほど。
morich:やはりそうなのですね。
天沼:日本をもっと良くすると言うとおこがましいですが、自分ができることをしたいと思っています。
ただ、例えば大学時代に「プレゼンテーションをして」と言われた際、人前に立ってカンペを読み上げるだけのプレゼンテーションだったにもかかわらず、カンペが揺れて読めず、プレゼンテーションが失敗に終わった経験があります。
morich:そうだったのですか。
天沼:ショックやトラウマもあり、ドラマなどを見ていると、格好良くファシリテーションをしたり、ロジカルにわかりやすく話を進めたりする姿に憧れを感じていました。
まずは、そういった人になれたらいいなという思いがありました。理想は高くないのかもしれませんが、自分の経験を最も汎用的に積めるのはコンサルだと考え、コンサルファームに進むことを決めました。
実際に入社してからは、誰よりも早く、できる限り多くの経験を積み、プロジェクトマネジメントまでイメージできるようにしたかったので、「ここまで学ばせてもらい、成長させてもらいたい」という思いで、コンサルファームに進みました。
コンサルファーム時代に学んだもの
morich:仕事しました?
天沼:しましたねぇ。
morich:当時の環境は超ブラックですよね?
天沼:なにも言えませんね。
morich:ですよね(笑)。今も多少はそうかもしれません。
天沼:ただ夢中だったというか、「したくない」と思ったことはありませんでした。非常にきつかったですが、つらいと思ったことは一度もなかったです。
morich:めちゃくちゃ鍛えられたのですね。
天沼:仕事は大好きです。目の前にある一つひとつの仕事を実現できれば、自分を褒めてあげられますし、「格好いいじゃん、自分たち」と言えることの繰り返しをひたすらやっていくことは楽しくて仕方がないですね。だから私は仕事が本当に好きです。結果として、ハイタッチもできますからね。
今もそれほど得意ではありませんが、プレゼンテーションは下手でも「やらせてください」「プロジェクトを経験させてください」と手を挙げ、経験を積ませてもらいました。「自分には合わないかも。できないかも」と思いながらも続けてきました。
プレゼンテーションも、自分でビデオを撮って見返したりしていますが、正直、かなり恥ずかしいですね。
福谷:えー!
morich:えー! 本当ですか(笑)。私には絶対できないです。
天沼:人前ではできませんよ。実際にやってみると「えー」「あー」しか言っていません。
morich:「えー」「あー」と言ってしまうのですよ。
天沼:それほど言っていないと思っていて、自分でカウントしてみました。すると、あまりにも駄目だなと感じて、練習を重ねていきました。
少しずつですが、自分なりに経験を積みながら、ロジカルシンキングやファシリテーションにも取り組み、経験させてもらったのが、コンサルファーム時代です。
morich:何年ほどでしょうか? アビームコンサルティングさんですか?
天沼:10年ほどです。マネージャーをした際、徐々に自分で起業したいという気持ちが芽生えていました。
起業のきっかけ
morich:なにかきっかけはあるのですか?
天沼:その時点では、まだきっかけはありませんでした。起業したいという思いはありましたが、自分にはまだ足りないと感じていたのが、事業会社で一定の責任ある立場で仕事をする経験です。
コンサルファームには当然ながら責任もありますし、プロフェッショナリズムを持って本気で仕事に向かっていましたが、やはり提案で止まってしまうことが非常にもどかしく感じていました。どこまで本当にそのとおりになるのかを見られないことも、もどかしかったです。
morich:ほとんどのみなさんが、同じような話になりますよね。
天沼:そこは分かれますし、当然ながらコンサルにも良い面はありますが、起業したいと考えた際、いくつか自分に足りない能力と経験があると感じました。1つは、事業会社での経験です。
もう1つは、起業とプロジェクトの違いをイメージできなかったことです。プロジェクトマネジメントは、スタートのタイミングとエンドは決まっており、出すべき成果物も決まっています。使っていいお金やチームメンバーもすべて決まっている中で進めるため、マイルストーンを決め、そこまでうまく進められれば、ゴールまでは到達できます。
場合によっては、エネルギーがゼロになり、息切れしながらゴールしても良いわけです。それで完遂と言えますよね。しかし、起業を考えた場合、組織はゼロからです。
morich:終わりはないですね。
天沼:スタートはできますが、終わりが決まっているわけではありません。
morich:終わりというか、永遠に続きますよね。
天沼:そして、組織の規模が変わっていくことを考えた時に、プロジェクトの途中でどんどん組織規模が変わっていくのはおそらく炎上案件で、あまりよろしくないですよね。
そうではなく、だんだんと事業を進めながら組織を大きくしていくイメージがまったく湧きませんでした。
morich:未知の領域ですね。
天沼:そうですね。組織作りについて考えたいと思っており、コンサルではマネージャーを務め、複数のプロジェクトを並行して担当していました。
メンバーの立場から見ると、アナリスト、コンサルタント、シニアコンサルタント、マネージャー、シニアマネージャーは1本の道があり、コンサルファームでは道筋が決まっていることが多いと思います。
1本の道と考えた時に、いわゆる魔法使いだとすると、私はメンバーに対して上級魔法使いの立場であり、彼らが使える魔法はすべて使えますし、彼らがまだ使えない魔法も使うことができます。
だからこそ、確かに上位者をリスペクトしてくれるのではないかと思います。ですが、組織作りを考えると、全員が上級魔法使いになりたいわけではありません。
morich:そうですね。目指すものはみんな違いますものね。
天沼:「天使がいい」「僧侶がいい」「勇者になりたい」など、そんな人たちが自分をリスペクトしてくれることが想像もできませんでした。
morich:目指す頂上が違うからこそ、難しいですね。
天沼:まったくイメージできず、その時は「今はスキルセットで上位互換だからそうなのか」と感じていました。
組織作りと合わせて多種多様な方々と仕事をしていく中で、仕事の求心力というか、共通のものをどのように生み出していくのかがまったくわかりませんでした。
それを得たいとおぼろげに考えていた頃、私は転職活動をしたことがなかったのですが、たまたま飲みの場で、知人を通じてエージェントの方と知り合う機会がありました。
morich:なぜ言ってくれなかったのですか(笑)? 待っていましたよ。
天沼:そういう共通項について話していました。特に、組織作りの面では、起業して終わるのではなく、実業へと変化させていきます。「0→1」だけでなく、「1→10」、「10→100」という規模の大きな変遷を経て実業家へと変わっていくとともに、人としても変化していきます。
起業家から実業家へと変わっていくのだろうとなんとなく思っていた時にゼロから起業し、日本さらにはグローバルでも戦える企業へと成長させる、かつ、1つのサービスを愛し大きくしていくことで1つの柱を育て、その後に多角経営するような経営スタイルを実現したいと考えました。
これはおそらく好みですが、そのように考えた際、一番イメージに近いのが楽天(現:楽天グループ)さんの三木谷さんでした。
morich:ロールモデルのようなものですね。
天沼:そこで、エージェントの方にも「三木谷さんのような経営や組織作りの変遷をイメージしている」と話したところ、求人のご紹介をいただきました。まさに私がいいなと思っていた、社内で人材を集めて、まだ存在しないチームをゼロから立ち上げるグローバルチームのマネージャーです。
morich:楽天市場事業のグローバル版でしょうか?
天沼:楽天市場事業とは違い、楽天市場と並行してCVRを上げて、UI/UXを司る部隊がありました。
海外拠点が次々と立ち上がっていたタイミングで海外各社のUI/UXを確認し、楽天市場が培ってきたノウハウを共有していく部隊を作るという発想がありました。当時はそれがなかったのです。
多種多様な人を集め、組織も作ることができる上に、ゼロから組織を作るという経験だけでなく、新規部隊だからこそ三木谷さんへの報告を上げる場面も多くなるでしょうし、これはすごく良いと思いました。
morich:確かに。なおかつ、グローバルな中でダイバーシティを見られますよね。
天沼:たまたまお話をいただいたのですが、「そんな機会があれば」と言っていたものと合致しました。
morich:私がエージェントをやりますね(笑)。
天沼:逆に言うと、それまでにいろいろなお話をいただいていたのですが、いただいている話が……。
morich:響かなかったのですね?
天沼:魅力的ですし、響きますよ。響きますし揺らぐのですが、私は、なりたい自分像に対して「こういう体験、経験を得るべきだ」という信念を持っているのであれば、その得たいものを得たほうが早いと考えています。
morich:ベクトルが合っているということですね。
天沼:舞い込んできた話は、自分の求める軸ではない軸で魅力的に感じてしまうので、私はそうではないほうがいいなと思っていました。
そんなタイプでしたので、お話はいろいろいただきましたが、「違うな」と思っていた時に、エージェントの方が話を持ってきてくれて、「じゃあ、行こう」と思い、転職を決めました。楽天さんに入り、そこから3年間は楽天さんで経験させていただきました。
「何をやるか」ではなく、「誰とやるか」
morich:その後、アビームコンサルティングさんの元同僚の方たちと起業されたのですよね?
天沼:そうです。
morich:起業の夢はずっと温めていたのですか?
天沼:アビームコンサルティング時代には、「いつか、会社経営などしたいね」という話はしていましたが、なにも温めていなかったです(笑)。
自分はまだ経験できていないですし、「自分が経験値として得たら起業すると思うから、その時には声かけるね」という話をしていました。
morich:「声をかけるね」と言っていたのですか?
天沼:言っていたのです。言っていた2人に声をかけました。2人にとって、タイミングがよかったかどうかわからないです。
morich:お二人は、よく、ついてきてくれましたよね。
天沼:いや、本当そうですよね。
morich:ねぇ、それはもう本当にそうですね。
天沼:心強い以外の何物でもないですよ。
morich:おそらく、嫁ブロックもあったと思います。
福谷:嫁ブロック、めちゃくちゃ出ますよね(笑)。
morich:出ます、出ます(笑)。おそらく、アビームコンサルティングから「0→1」でやるというのはブロックが出ますね。
天沼:年末の忘年会というか飲み会を定期的にやっていたのですよ。
morich:飲んでいたのですね。
天沼:はい。私のプロジェクトを一緒に走ってくれた後輩たちと飲み会をやっていました。ある時その飲みの場で起業の話をしたら、2人とも二つ返事で「やりましょう」と言ってくれました。
福谷:うれしいですね。
morich:めちゃめちゃうれしいですね。
天沼:ただ、自分は「いや、待って。むしろ、ちゃんとしたほうがいいよ」と言いました(笑)。
morich:むしろ、覚悟はあるのかと、心配ですからね。
天沼:そんな話になると思いませんでした。ちゃんと整理して進められるかどうか、いま一度ちゃんと考えようと伝えました。
何週間か後に集まって話をした時に「それでもやる」というなら進めようと。それで再度集まって、OKとなりました。
その時に、話してよかったと思っているのが、それぞれ性格がまったく違うのですが、仕事に対するプロフェッショナリズムや価値観、やろうとしていることが合致していると確認し合えたことです。
morich:おそらく、それがよかったのですね。
天沼:性格はバラバラで、アプローチが違うものの価値観は一緒です。行き着こうとしている先、目指しているものが一緒なので、私はこの2人がいいなと思いました。
ただ、再集合に向けていくつか渡していた課題の中の1つが、例えば、給料がゼロになることについてです。
morich:最初はそうですよね。
天沼:給料がゼロになっても、どれぐらい今の生活を変えずに保てるのかということです。
morich:蓄えを含めてですね。
天沼:貯金を減らしながらどれくらい持つのかを各自で検証して再集合したら、ちょうど3人とも、「1年ぐらいはいける。死にはしない」という答えでした(笑)。
家族も含めて、変わらない生活を送れるとそこで言っていたので、まずは1年間を節目として置こうと決めました。
そこまでにちゃんと事業も立ち上げて、事業をやってみて、どのようなかたちになるかをしっかり見定めていこうというスタンスでスタートしました。金銭的に揉めるなど、よくありますが、そういうのも今までまったくないです。
福谷:いいですね。
morich:そこの確認が大事ですね。
天沼:2人をすごく信頼できるなと感じたのは、その部分が大きいと思います。
morich:でも、何をやるかということも大事ではないですか(笑)?
天沼:気づきましたか?
morich:はい、気づいていました。気づきました。
天沼:なにも考えていなくてですね……。
morich:今の議論で出てこなかったので、ちょっと気になりました。
天沼:起業当時の目的は、「仲間と一緒に仕事をする」ということでした。人生において、最も時間を使うのは仕事ですよね?
福谷:そうですね。
天沼:その仕事の時間がご機嫌な時間だったら、自分の人生もご機嫌になります。
morich:はい、大事だと思います。
福谷:そうですよね。
天沼:だからこそ、納得のいくご機嫌な仕事を仲間と一緒にしたいと思っていました。
morich:誰と仕事をするかというのが、まず大事だと考えられていたのですね。
天沼:仲間と一緒にご機嫌に仕事をする良い会社でありたいというのが原点でした。だからこそ、3人でスタートすると決めていました。起業したいと思ってはいたものの、1人では絶対せずに、3人でするということだけは決めていたのです。
morich:そうでしたか。
天沼:その2人が唯一、当時の候補だったので、断られていたら、どうなっていたかわかりません。私はさぼり癖があるので、とにかく絶対3人と決めていました。
morich:くじけるなということですね。
天沼:ちゃんとやらないと思います。さぼるのですよ。
morich:なるほど。「天沼さん、ちゃんとやっていますか?」と言ってくれる人が必要ですね。
天沼:2人だと真剣に仕事をしますし、プロフェッショナルとして死に物狂いでお互いの熱量をぶつけ合えるのですが、ぶつけ合い続けたら、喧嘩になってしまうかもしれないなと思います。3人だと「まぁまぁ」と、誰かが止めます。
morich:議論も含めて創業時3人が良いというのは、なにかの本に書いてありましたね。
天沼:そうですか。トライアングルは硬いですよね。だから3人が良いなと思い、その3人でスタートすることだけは決めていました。
morich:スタートはしたものの……。
天沼:「じゃあ、どうしようか?」となったのですよ。
morich:そうですよね(笑)。それは、そうですよ。何をするかですね。
天沼:確かに、前々から「こういうことをやりたいね」といった雑談はしていましたが……。
morich:いろいろなアイデアが出ていたということですね。
天沼:3人で「で、どうする?」という感じです(笑)。
morich:ビールを飲みながら、どうしようかなという感じですよね(笑)。
天沼:会社をやるとは決めたけれど、「で、どうする?」と。
morich:定款なども書かなければいけないですしね。
天沼:そうなのです。
福谷:いや、すごいですね。
天沼:「どうしよう」ってなりました。
morich:本当にゼロだったのですね。
天沼:ゼロでした。
morich:100個くらいなにか出したと書いてありました。
天沼:その間に「今まで話していたことも含めてリストアップはしておこうね」とは言っていました。ただ、これは性分ですが、今の仕事に対して常に考えるタイプですので、楽天さんを退職してから、最終的に何をやるかを……。
morich:決めたのですか?
福谷:3人でやると?
天沼:3人で決めようと言いました。
morich:本当ですか⁈
天沼:それまではそこまで話せていませんでした。
morich:思考もしなかったということですね。
天沼:休みの日には、どうしても考えてしまいますが……。
morich:なんとなく考えてはいるものの……?
天沼:正直なことを言いますと、ほぼ思考せず、決めずにいったん退職して、そこから「じゃあ、何をやろうか?」と話し始めました。
なにも決めていなかったので、「絶対ぶらさない、実現したいことは何か?」を決めていきました。
morich:キーワードですね。
気づいたのは時間の価値
天沼:会社を作るにあたり、会社が何に必要とされていくのか、ゴーイングコンサーンですので、「長く必要とされる会社ではないと、意味ないよね」と。そこを突き詰めていったら、流行った後にパッといなくなっていくようなものを私たちは作りたいわけではないという結論に至りました。
人のライフスタイルをもっと豊かにする、人生のQOLを上げる、そんなものがしたいねと、ただ、どうやったらそれができるかまったくわからなかったです。
morich:想像がつきません。
天沼:そこで気づきがありました。これも最終的にすごく共感したのですが、ライフスタイルを豊かにすることは人生を豊かにすることに近く、人生で最も大事なのは、私も小さい時から感じていた時間の価値だということです。
我々の会社のビジョンに行き着くのですが、時間は全員に平等です。ただ、使い方や感じ方によって不平等になるのが、時間の価値です。同じ1分1時間でも、「つまんないな」「億劫だな」と思って過ごしている時間と、「なにか、得ようかな?」と考えて、ワクワクする時間は……。
morich:違いますよね。
天沼:「聞くとおもしろいんじゃないかな?」と感じている時間は、まったく価値が違います。そこから、私たちは「ワクワクしている時間」と定義しました。ワクワクしている時間は、時間の価値が高いのです。
福谷:確かに。
天沼:「“ワクワク”が空気のように当たり前になる世界へ」を会社のビジョンに掲げました。要は、時間の価値を高められる会社を作ろうという考えが原点です。
morich:先にビジョンが決まったのですね。
天沼:そうです。何のためにやるかが決まらないと事業が決まらないということで決まりました。
morich:素敵ですね。ビジョンはほぼ後づけですよね(笑)。
福谷:だいたいそうですね(笑)。
天沼:そうですね。私たちもなにもなく、最初に「会社が何のためにあるのか」があって、それを実現するのが事業ですよね? ビジネスモデルやテクノロジーはすべて手段です。最初に3人で目的を決めようとして、時間の価値という話になった時、かなりしっくりきました。
福谷:いや、すばらしすぎます!
天沼:自分は人生のテーマとして時間の価値にこだわっていたのだと気づきました。
morich:なるほど。
天沼:そこであらためて言語化ができました。先ほどの振り返りですが、小学生の私が賢そうな話し方をしましたが……。
morich:後づけですね(笑)。
天沼:後づけです。結果、今、後づけということがばれましたが、そこで時間の価値を高めるための会社を作ろうと決めました。
会社は、社内外含めて関係するステークホルダーが必ず出てきます。もちろん私たち3人だけではありませんので、仲間が増えます。取引先やお客さまも増えていくということで、パートナー企業やお客さま、社内の仲間も含めてステークホルダーとなるすべての人の時間の価値が高められるような、要は「人生で、エアークローゼットに関わってよかった」と思ってもらえるような……。
morich:ワクワクするということですよね?
天沼:そうです。時間の価値を高めたと思ってもらえるような会社を作ろうとしたのがスタートで、そこから「じゃあ、何をやろうか」となりました(笑)。
morich:そうですよね。ワクワクはわかりますけどね(笑)。
天沼:「確かにいいね」と、「いいけど、何をやるの?」となりました。
morich:確かに、このビジョンから、ビジネスに解像度を持たせなければいけませんね。
行き着いた先はファッションだった
天沼:ここからは、当たり前にコツコツ考えていくだけですが、「誰のどんな時間の価値を高めるところからスタートしようか?」という議論をしました。
ライフスタイルだったので、影響力が最も大きそうな衣食住のどれかということで、特に人の心を動かすものと考えた時に、食や空間も影響はありますが、ファッションは1日中身に着けるものですよね?
morich:そうですね。
天沼:気に入ったファッションでガラスに映る自分をちょっと見るだけでも、テンションが上がりますよね?
morich:テンションが上がります。
天沼:人の心に最も作用するのはファッションだと思い、3人ともまったくファッションとは関係のない業界で仕事をしてはいたものの……。
morich:まったくゼロですよね(笑)。
天沼:そうです。私たちが思っているライフスタイルの変革の理想系をイメージした時に、イメージどおりなのはファッションかつ女性だという話になりました。
なぜなら、1日24時間という時間はみんなに平等に与えられてはいるものの、例えば朝の準備の時間など、女性のほうが総じて長くかかることもあります。また、ライフステージの切り替わりの中で、女性は時間の使い方について悩んだり考えたりすることがかなり多いですよね。
福谷:確かに。
morich:多いですね。
天沼:ファッションだけをとってみても、例えば仕事が徐々に忙しくなっていくうちに、ファッション誌をゆっくりと見る時間も減っていったり、結婚して自分の時間の使い方が変わったり、マタニティ期は歩く速度すら変わるため、駅まで行く時間のプランニングを変えたり、男性があまりしないことを女性はしているなと、子育てが始まってから気がつきました。
morich:あと、そういう時間を使いたいのに使えないのですよね。
天沼:そう、使えないのです。プランが変わってしまうと、どうやって時間を使うか考えますよね? 本当は時間を使いたいことに気づいているものの、できないというもどかしさが女性には強くあるのではと感じていました。そこで、最初は忙しい女性にしようと決めました。
時間の価値をより感じてくださる忙しい女性で、かつ人生を、より賢く時間を作っていきたい女性向けのファッションのサービスにしようとだけ決めたのです。レンタルやサブスクがまだまったく出てきていない時代でした。
morich:その時点ではそうですよね。
天沼:そして、「忙しい女性が24時間の中でできていないことって何だろう?」と、いろいろ聞いて回りました。
morich:ヒアリングしたのですね。
天沼:「もし、ゆっくり過ごせる時間があったら、今日はウインドウショッピングしたかったですか?」と聞くと、答えはみんなイエスで、「確かにしたかったです。でも、しなかった」という反応でした。
これはなぜかというと、やろうと決めたことを24時間の中でやっていっても、やりたいものの、結局できなかったことが常に埋もれている本質があるためです。
やれなかったことを我慢せずにできるように、少しでも変えられたら素敵だと思いました。24時間の中で、今のライフスタイルや時間の使い方を変えなくても、新しいファッションに出会えるサービスを作ろうとしたのが私たちのビジネスのスタートです。
「日常生活を変えずに、新しいファッションに出会えるサービスを作りましょう」と、3人で決めてスタートしました。ITコンサル出身の3人が、そんなことを話していました。
morich:そうですね(笑)。今のお話を聞くと、女性から見ても「なんて理解者なんだ」と思いますよね。
福谷:そうですよね。
天沼:ITコンサル出身のおじさん3人が話しているという想像で聞いてくださいね。
時間の価値を高めるというビジョンの実現に向けて
天沼:この3人で、「そんなサービスできたらいいね」という話をしつつ、最初は「スタートアップ、かっこいいな」と思っていました。「ITとテクノロジーを活用して2次関数的に成長して、特に在庫とか持たずにインターネット上でビジネスしていくのも格好いいね」と言っていました。ただ、蓋を開けてみると、順調に1次関数的な成長をするものの在庫を大量に抱えます。
morich:在庫を抱えるビジネスですものね。
天沼:今はそんなビジネスをやっていますが、3人で一度、考えたことがあります。自分たちがこれが良いなと思って持っているリソースを活用していくことと、自分たちが理想として掲げた「これがあったらいいな」というビジョンを絶対に実現することを比較した時に、どちらが良いだろうと。3人の答えは後者でした。
ご機嫌に仕事できるかと思い後者を選んだのですが、新規事業を作る際、リソースを活用したほうが早く、より良い時もあると思います。そのため正解はないと思います。
私たちは後者を選び、結果として大量の在庫を抱えるビジネスを行っています(笑)。ただ、私たちにとっては、そのほうが時間の価値を高めるというビジョンに近づけていけるのではないかと考え始めたのです。
morich:それまでのファッション、アパレル業界の大量生産、大量廃棄のスタイルからするとSDGsであり、サステナブルなビジネスモデルですよね。
天沼:そうですね。でも最初は出会いから考えたのですよ。確かにおっしゃるとおり、社会や業界の大きな流れには沿ったほうが良いと、私たち3人も話していました。
社会の大きな流れとして超情報化社会に向かっており、今は情報も物もあふれています。1日24時間は変わらないまま、触れられる情報量や物が増えていった時に、情報や物にどのように出会うのかがより大切になり、人の時間の価値は相対的にもっと上がると考えました。
経済的なお金の価値が高まっていくのと同じように、時間の価値が高まっていきます。私たちの時間の価値を高めるというビジョンに合致しており、社会の流れにも沿っています。
morich:ちなみに、御社のサービスでは、スタイリストから提案していただきますが、AIを活用して、過去に選んだものなどを自分のリコメンドに近いかたちで提案されているわけですよね?
天沼:そうです。
morich:そこにテクノロジーがあるのですよね?
天沼:AIなどが間に入っています。ただ、スタイリストは1点1点すべてパーソナライズでお選びしています。
morich:そうですか。では、人の感性もそこに入っているわけですか?
天沼:そうです。将来的にAIがどこまで入り込むかということはありますが、私たちがやりたいのは、一人ひとりの次に使いたいファッションをきちんとレンタルで届けることです。
ご自身が探すよりもバリエーションを広げて選ぶことができます。ご自身で探して見つけるだけの出会いではありません。
morich:私が気に入っているのはそこです。私は赤が好きなので、赤しか見ないのですが、「紫はどうですか?」といった提案がパッと来るのですよ。そんな客観的な視点からの新しい提案が新鮮です。
天沼:最初は、ファッションに出会うということだけで、スタイリストはまったく考えていなかったのですよ。いろいろなものを大量生産し、安価でみんなに届けていくことは、ある種それも出会いの作り方ですので、それも考えました。
ただ、社会とサステナビリティの流れがあります。従来のリニア経済、線形経済からサーキュラーエコノミー、循環経済への転換が必要になり、国も数兆円の予算をかけて転換しようとしています。その中で、今の日本ではファッションアイテムが1点1点作られていますが、半数近くが売られずに捨てられています。
morich:そうですね。
天沼:もったいなくないですか?
morich:もったいないです。
天沼:であれば、もっと生産最適化を図って使い方を変える、その両方が必要だと思ったのです。自分が買って着なくなった、あるいは1回しか着ていない服は、ほかの人にとっては今着たい服かもしれません。価値や物をパスしていけると思いました。
そこで、サステナブルなレンタルにしようと決めました。最初はアイテムをずらっと並べて、レンタルするサービスはどうかと思っていたのですが、忙しい人はそもそも洋服探しができていません。
morich:そうです。そこです。
天沼:新しいブランドの服を試着したり、紫色を想起したりするタイミングなどもないですよね?
morich:そうです。
天沼:新しい出会いがないのに、新しい出会いを探してくださいと言っても探してくれないと思います。
morich:自分の発想の中でしか見えていませんものね。
天沼:そうですね。
福谷:確かに。
お客さま視点で常に感動体験を届ける
天沼:ここで、時間の価値を高めるサービスを考えました。忙しくてできないのであれば、探すところをアウトソースします。
アウトソースするだけでもご自身の時間の節約になりますが、そこで、ご自身が出会えない出会いも可能性として広げることができたら、さらなる付加価値になると思い、スタイリストが洋服を選ばせていただくかたちにしようと考えました。
最初は、スタイリングしたコーディネートを届けて、例えば、「いついつまでにクリーニングして返してください」というサービスにしようと思ったのです。服が返却されたらすぐ貸し出しできるためです。
morich:そうですね。貸し出しできますからね。
天沼:最初は自分たちの都合で、オペレーションが楽なほうを考えたのですが……。
morich:ユーザーからすると、面倒くさいですね。
天沼:そうです。エアークローゼットの最初のDNAとして「お客さま視点で常に感動体験を届ける」と置いていたため、お客さま視点に立った時に「ちょっと、待て」となりました。
忙しい女性の方が、クリーニング店の閉まる時間を気にしているシーンや延滞料金を気にしているシーンを作りたくないと思ったのです。返却期限をなくして、クリーニングもすべて我々がやれば、いつでもご自身が好きなタイミングでクリーニングせずに返却できます。
届いたアイテムを試してみて、気に入るもの、気に入らないものはもちろんあるとは思いますが、それを知って試して体験してもらい、返却するとまた次の出会いが届くようにすれば、私たちが最初に思っていた、今の生活リズムを変えずに新しいファッションにたくさん出会って試せるサービスになると思いました。
もともとレンタルやサブスクリプションがやりたくてスタートしたわけではなく、サービスリリース当初の10年前から、届いて気に入ったアイテムをそのまま買える仕組みを取り入れています。
なぜかといいますと、レンタルは目的ではなくて手段だからです。短い時間、自分の一定のフィーで試せるというレンタルの価値があると思っています。
レンタルには大きく2つの価値があると思います。1つ目は、レンタカーがそうですが、高くて使用頻度が低いものを経済合理で借りるというレンタルの価値です。2つ目は、「試せるんだな」と感じる機会です。例えば最新のレンタカーを試せる機会がそれに当たります。
morich:返品などもできますが、目的が明確にあるということですね。
天沼:そうです。返品は購入した後の行為ですが、レンタルではレンタルフィーを払って、その権利をご自身が得ています。
morich:そうですね。まったく受けとめ方が違いますね。
天沼:ですので、その2つの価値の両方が良いと考えています。コスパが上がることと、試せることです。洋服も試着室で合わせることはもちろんできますが、家にある洋服とたくさん着合わせして日常生活で歩いてみて、どれぐらいストレッチするか、自分が着やすいのかを試して、周りからの評判も含めて良いと思ったアイテムであれば、より長く愛用してくれるのではないかと思っています。
そうすると、アイテムが生産されて、気に入ってもらえる人に出会えたという結果が生まれるのではないかと考え、そういうサービスにしようとスタートしました。
ビジネスの本質
morich:かなり本質的ですね。
福谷:本質ですし、今日はリアルに情報のシャワーを浴びています。
morich:ビジネスの本質ですよね。
福谷:そうです。
morich:ビジネスの本当の考え方、思想、哲学的なところですね。
福谷:ビジネスの作り方と言えますね。
morich:この考え方はどなたかから影響を受けたのですか? 経営者ですか?
天沼:わからないです。
morich:ロールモデルがあるわけでもなくそうなったということですか?
天沼:ロールモデルというよりは、私たちが常に思っているのは、誰か1人をイメージするのではなく、みんな価値観や考え方が違いますので、すべての人がメンターだということです。接することができるかどうかがかなり大事かと思っており、morichさんから学ぶこともそうだと思います。
morich:本当に、常に謙虚ですね。
福谷:いや、神プラス王子ですね。感動しています!
morich:会社の中でも社員からめちゃめちゃ愛されていますよ。
福谷:愛されていそうです。
morich:ここまで愛されている社長はいないですよね? みんな表向きは「社長!」と言いながら、裏で悪口言っているような会社のほうが多いです。
福谷:「なんだよ、また言っているよ」などと言っていますよね。
morich:そのほうが多くないですか?
福谷:多いですね。
morich:本当に愛されていますよね。
福谷:そうですよね。
天沼:わかりませんが、自分は仲間が大好きなことは変わらず、会社もみんながご機嫌に働ける環境がある会社を作りたいというところからスタートしています。ただ、事業の作り方や考え方が正しいわけではないと思います。おそらく1つのやり方です。
morich:誰かの真似ではありません。
天沼:理想を掲げて、そう考えていったほうが絶対に自分が納得できます。納得してはいますが、賢くないやり方でもありますね。
morich:いや、かなりの遠回りでも本質ですよね。
天沼:遠回りです。例えば、「じゃあこれをやろう! 時間の価値を高めるというライフスタイルを作れたら最高だね」と話していたのですが、最初に取り組もうとしたのがファッション業界で、そこからどうしようかとなりました。
最初は3人でSNSを広げて、ファッション業界の知り合いに、業界のことをまず聞きにいかないとと考えました。
morich:聞きにいこうとしたのですね。
天沼:SNSを調べましたが、そもそもわかりません。
morich:業界の中で誰か知り合いはいましたか?
天沼:3人で合計してもゼロです。
morich:誰も知り合いがいなかったのですね(笑)。
天沼:それは、そうですよ。ずっとITコンサルですよ。
morich:ITっぽいですよね。
天沼:前半、後半と、コンサルファーム時代の経験が分かれますが、両方ともドメステックでした。
morich:暇さえあればデパートに行く感じでもないですよね?
天沼:ないです。当時もずっと仕事をしていましたし、中央省庁などが最終のお客さまなので、ドメスティックですね。
職員の方にはたくさん知り合いがいますが、「業界のことを聞きにいけないし、どうしよう」というのがスタートでしたし、この作り方は遠回りかもしれないです。
morich:不器用とも言えますかね。
天沼:不器用かもしれません。
morich:本質的というか、こだわるものは、絶対にこだわりたいのですね。
福谷:真似してほしいです。
morich:この言い方、めちゃくちゃ好きですね。天沼さん、時間が本当に足りませんね。
福谷:そうです。どうしようか、そのままいこうかと思ってしまいました。
morich:あと30分延長しますか(笑)?
会社・個人として目指すもの
morich:未来志向ではなく、今が大事だということを前からおっしゃっているので、あまり未来のことを聞いてもと思うのですが、とは言いつつも、会社・個人としてなにか目指すものについてお話しいただけますか?
天沼:会社については、創業したタイミングで取り組んだファッションを中心に、試して買うという体験価値を生活の中に取り入れていただいたらQOLが変わるというのはまったく変わらず、心からずっと思っています。
morich:生活とファッション以外にもお願いします。
天沼:そうですね。
morich:ぜひお願いします。
福谷:確かにそうですよね。
天沼:2020年にスタートした「エアクロモール」は、美顔器、シャワーヘッド、ドライヤーなど、試してから購入したほうがいいということで始めたサービスです。後から使わなかったということもありますからね。
morich:そうです。返品はできるもののハードルはありますよ。
天沼:ハードルありますよね。
morich:あります。
天沼:試す、レンタル料金を払っている、払っていないで大きく変わります。
morich:すでに前提になっているのがすばらしいと思います。
天沼:私たちのサービスは、消費スタイルに少し変化を起こすだけですが、それまで買うか買わないかという選択肢だけだったところを、買うか買わないかだけではなく、試してから買うか買わないかを決めるというものです。この新しい消費スタイルを当たり前にしたいと思っています。
それを実行することが、創業した時に掲げた最初のビジョンに辿り着く1つの方法ですので、この消費行動を世の中に広めていきたいと思っています。
morich:女性だけではなく、ほかの層にも広げるということですね。
天沼:そのために今はレディースのファッションや「エアクロモール」の事業を広げています。同時に、メンズ、シニア、キッズなどのほかのエリアもそうですし、他社がサブスクリプションやファッションのレンタルサービスを広げることも、私たちが作りたい未来に近づくことです。
例えば今、自社で物流プラットフォームを作るのはかなり大変です。ですので、他社にも開放して、それを使っていただければと思っています。
morich:確かに在庫管理は大変ですね。
天沼:物流システムもすべてゼロからスクラッチで作ってきていますし、「WMS」と呼ばれている倉庫管理システムも作っていますので、これらを活用してもらうことで広がっていきます。そうすると、世の中にファッションのレンタルやファッションのサブスクサービスが広がっていきます。競合を作ることになるかもしれませんが、それを作りたいです。
morich:小さいことは言っていられないということですね。
天沼:お客さまや社会に対して広げていきたいという思いがあり、最終的に、感動体験を提供できるようなUXが高いサービスであれば、お客さまに選んでいただけるはずです。そのために私たちはサービス改善していますので、未来において、必ずそれを実現してみせます。
morich:個人として目指すところはいかがですか?
天沼:会社はそこに向けて徐々に動きつつも、まだスタートラインに立っていないという感覚です。
個人は正直なところ、自分の可能性についてはあまりわかりません。私は、どちらかというと、未来に「これをやる」というよりは、自分が今日考えている最高の状態の自分と、明日はそこまで変わらないと思いますが、自分が経営者としても学ばせてもらい、人として成長した1ヶ月後に考えている自分の夢は変わっていくと思います。
今成し遂げていきたいイメージはありますが、逆に言うと、そこに向けて自分が今日1日どれだけ成長できるのか、人間として得られるものがたくさんあるかが大事かと思っています。
morich:私も一緒です。
天沼:真剣に向き合うということです。
人生のハイライトは今この瞬間
morich:「あなたのハイライトはいつですか?」と聞かれたら、今って答えられます。
天沼:今日です。
福谷:なるほど。
morich:今日ですよね?
天沼:はい。
morich:同じです(笑)。使ってください。「あなたのハイライトはいつですか?」「今です」という。
福谷:今です!
天沼:もちろん今以上になっていきますし、経験を積んでいきます。例えば私が今想像している自分の未来は、大学や高校の時に思い描いていた姿かというと、思い描けてはいるものの、見聞がない中ではどこかでとどまってしまうと思います。
それを夢として持ってそこに到達するのも素敵な姿ですが、逆に言うと、私はそこまで自分の可能性を信じていないのかもしれないです。
morich:いえいえ、スティーブ・ジョブズの言う「Connecting the dots」的な感じですよね。
天沼:そうですね。大好きな2つの言葉です。私はよく講演させていただく際に必ず最後に、スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」の話をします。
morich:本当ですか? 私は本当にそうだと思っていますよ。
天沼:「Connecting the dots」というのは、今の人生は昔の点と点が線になるのを認識するということと、稲盛さんがおっしゃったのは、瞬間瞬間を完全燃焼すること、その点の連続が未来につながるということです。
点やつながるという表現は、「dots」と「connecting」に近いです。おそらくお二人がなにか示し合わせたわけではないと思いますが、2人とも残念ながら亡くなってしまっており、解釈を聞くこともできませんので、私の勝手ながらの解釈です。
morich:私も勝手な解釈です。
夢は、完全燃焼の繰り返し
天沼:点は何かというと、人生にとっての今この瞬間ですよね。過去は過ぎ去っており、未来はまだ来ていません。
人生とは、今この瞬間の自分たちしかいないと考えた時に、なにか腐っているなど、自分の中で納得いっていない心理状態にあることはなるべく避けたいと思っています。今この瞬間に完全燃焼するというのは今日もということで……、いや、話すのは得意ではないですね(笑)。
福谷:最初におっしゃっていましたが、とてもそうは思えないですよ。
morich:めちゃめちゃ流暢です。
天沼:入ってくる時も、入れずに窓の外から見ていました。
morich:下を向いてスマホ触っていたので、近づいちゃいけない雰囲気のように感じました。
天沼:下を向いて携帯触っていたのは、苦手だからです。
morich:苦手、そうなのですね。なにか、触られては困る感じだったのですね。
天沼:苦手なのですが、せっかく機会をいただいて、かつ、みなさんの人生のこの時間を奇跡的にご一緒するということですよね。自分の人生の時間も貴重ですし、みなさんの時間も同じく貴重ですので、せっかく人生の中で自分が今できる最大限の完全燃焼を、この時間にしていきたいと思っています。
morich:今日も「天沼さんに会いにきました」というような方がたくさんおられますね。
福谷:そうですよね。
天沼:完全燃焼の繰り返しですね。
morich:私とか福ちゃんではなかったですね(笑)。
福谷:いやいや(笑)。
天沼:夢は、完全燃焼の繰り返しです。今日、明日、明後日も、自分は絶対に納得いく時間の使い方をしますし、自分なりに時間の価値を最大限に高めます。
そうすると自分の視座が上がって、夢や自分の可能性も思っている以上に広がっていくのではないかと思います。頭の悪いやり方かもしれないのですが、自分は自分なりに必ず大きくなって、さらに広げていきたいと思っています。
福谷:もうやばいです!
morich:天沼ファンがやばいです。
福谷:目が離せなくなってしまっています(笑)。
morich:ハート目になってしまい、延ばしすぎてしまって、すみません。
天沼:すみません。なにも考えずにしゃべり続けてしまいました。
morich:この10分は本当に聞く価値があると思います。
福谷:そうですよね。入社届を出したくなりました(笑)。
天沼:待っています!
morich:師匠にしてください。でも、「Connecting the dots」は示し合わせたようですが、事前に調べた中ではまったく載っていませんでした。
福谷:そうですか。
morich:本当に、今のこの点が大事だということですよね。
天沼:大事だと思います。
福谷:今日も「新morichの部屋」がすばらしすぎます!
morich:本当ですね。株価が上がります(笑)。
福谷:そうなのですよ。この番組に来ていただけると株価が上がるという傾向が出ています。
morich:そうです。買いたくなくなってしまいます。応援したくなります。応援する1つのかたちです。
天沼:ありがとうございます。まだスタート地点なので、大きくなって育っていく自分たちを見てもらいたいと思いますし、応援してもらえたらうれしいです。
福谷:ぜひ応援したいです。
天沼:ありがとうございました。
福谷:本日も素敵な社長にお越しいただきました。いろいろなお話も聞けましたし、本当にありがとうございました。
morich:本当にありがとうございました。
天沼:ありがとうございました。