米国債格下げと日本株の反応
司会者:今日はムーディーズによる米国債の格下げというニュースを受け、日経平均も続落しました。このニュースに関するご質問が多く寄せられていますので、まとめてご紹介します。
まずは、「米国債、それから通貨のトリプル安が加速しているように見えるんですが、日本株に影響はあると思いますか?」というご質問が来ています。それから、「今回、米国債の格下げがあったにもかかわらず、株価への影響がかなり軽微でしたよね。これは、今後の減税や規制緩和といった政策が、ある程度市場に織り込まれているからなんでしょうか?」という内容です。
そして、「格付け機関のムーディーズが、米国の長期ソブリン格付けを引き下げましたよね。前回の格下げの時は、10パーセントほど株価が下落しましたが、今回はどのくらいの下落リスクがあるとお考えですか?」というご質問をいただいています。
広木隆氏(以下、広木):米国債の格下げは間違いなく大きなニュースですが、市場の反応は比較的穏やかでした。例えば、今日の日経平均は255円安でしたが、一時的に下げ幅を縮小する場面もありました。TOPIXはわずか2ポイント安と、ほとんど影響が見られませんでした。
円高気味だったにもかかわらず、自動車株などは上昇しています。つまり、市場はトリプル安や日本株への影響をそれほど気にしていない、というのが現状の反応です。
影響が軽微だった理由については、減税や規制緩和の期待もあるとは思いますが、最も大きいのは「サプライズではなかった」からです。 S&Pはすでに以前に米国債を格下げしており、ムーディーズも時間の問題と見られていました。象徴的ではありますが、織り込み済みということですね。
トリプル安のリスクと市場の見方
広木:また、今回の格下げがトリプル安につながる可能性は完全には否定できません。米国債が買いにくくなったのは事実です。ただ、大手格付け会社3社のうち2社はすでに格下げを行っており、トリプルAを前提にポジションを組んでいる投資家は、現時点ではほぼいないでしょう。
つまり、ムーディーズの格下げを理由に大きくポジションを変える投資家は少ないと見られます。ただ、格下げによって売りが出やすくなり、それに伴ってドルも売られる。そうなればトリプル安につながるリスクは否定できません。
トランプ政権はこのトリプル安を非常に警戒しています。特にベッセント財務長官は、関税政策を進めるにあたり、米国債やドルへの信認が保たれていることが前提だと考えています。もし信認まで失われれば、アメリカの経済、そして国民生活にまで深刻な影響がおよびかねません。
このような状況を受けて、市場は「ムーディーズの格下げ」という一見ネガティブなニュースが、トランプ政権の関税政策の軟化につながると見ているのかもしれません。つまり「悪材料=好材料」と捉え、むしろ安心材料として織り込んでいた可能性もあり、市場の反応が軽微だったのではないかと思います。
為替と金利の見通し
司会者:「今回の米国債格下げが米国株やドル円に与える影響は?」「半年ほど円高・ドル安が続くのでしょうか?」というご質問をいただいています。
広木:現在のドル円は145円前後で、特に円高が進んでいるわけではありません。為替相場は短期的に動きやすいものですが、基本的には方向感のない展開が続くと見ています。
米国債の金利上昇は日本の金利にも波及します。つまり、米国の財政不安で債券が売られ金利が上がれば、日本国債も同様に売られる可能性があります。そうすると、金利差の縮小を理由に円高が進むという展開にはなりにくいです。
米国債が売られても、それを理由に「日本の国債は安全だ」として買いが集まるロジックには無理があります。そのため、米国債格下げが直接的に円高をもたらすとは考えていません。
日経平均の見通しとバリュエーション
司会者:続いて、「決算発表を受け、業績予想が下方修正され、日経平均のPERが高くなっています。今後、下落を見込むべきでしょうか?」
広木:はい、これは先週末のストラテジーレポートでも触れましたが、日経平均はいったん戻りが一服したと見ています。現在のPERは16倍台で、これは過去1年の平均を上回っています。
EPSは決算一巡後に下がっており、PRは相対的に上昇している状況です。そこに加えて金利が上昇しているため、バリュエーションの縮小圧力が強まっています。
このような中で株価がさらに上昇するための材料は乏しく、しばらくは上値の重い展開が続くのではないかと見ています。
景気後退懸念とバフェットの動き
司会者:次のご質問です。「バフェット氏が金融株を売却し現金比率を高めたというニュースがありました。これは景気後退を見越した動きなのでしょうか?」
広木:アメリカについては確かに慎重な見方があるのは事実ですが、現時点で本格的な景気後退に陥るとは考えていません。
米国経済には構造的な人手不足があり、とくに医療・介護、物流などでは人材の確保が困難です。これは移民政策の制限も影響しています。 また、製造業の国内回帰の動きもあり、一部の企業ではすでにアメリカに工場を建てて人を雇おうとしていますが、採用が非常に難しいという状況が続いています。
このような背景から、労働市場が急激に悪化するとは考えにくく、景気はある程度支えられるという見方をしています。
米国の孤立主義と長期的な景気見通し
司会者:続いて、「反米感情や議会の分裂が進み、4年後に保守政権が誕生しても関税政策は継続するのでは? 長期的に景気後退が続く可能性は?」
広木:アメリカの孤立主義的傾向が強まっているのは事実ですが、それが10年単位の長期的な景気後退につながるとは考えていません。
アメリカは世界最大の消費国であり、内需によって経済を自立的に運営する力があります。確かに国際的な信頼や地位は低下しているかもしれませんが、景気は循環的なものであり、良くなったり悪くなったりを繰り返します。
米中対立は続きますが、アメリカの技術力、金融、イノベーションの土台は依然として強く、それが景気を支える要因になるでしょう。
夏枯れと2番底のタイミング
司会者:最後に、「夏枯れや2番底があるとすれば、いつごろで、どのくらいの日経平均を想定しておけばよいですか?」
広木:2番底が来るとすれば、8月〜9月ごろが有力です。特に9月は相場が弱くなりやすい時期です。
10月になると中間決算の発表が控えており、その内容次第で相場が持ち直す可能性もあります。したがって、夏から秋にかけてが2番底のタイミングと見るのが自然ではないでしょうか。