自己紹介

大﨑善保氏(以下、大﨑):デリカフーズホールディングス代表取締役社長の大﨑です。本日はこのような機会をいただきありがとうございます。デリカフーズグループの事業内容と農業の実態についてお話しします。

はじめに、簡単に自己紹介をします。少し変わった経歴で、24歳でデリカフーズの創業者で現取締役会長の舘本勲武と出会い、舘本の下で自分を磨きたいとアルバイトでデリカフーズに入社しました。パートの方々やアルバイトの仲間たちと一緒に大根の皮をむいたり野菜を運搬したり、といったところから事業を学びました。

Agenda

大﨑:アジェンダはスライドに記載のとおりです。

デリカフーズグループの志

大﨑:グループの経営指針です。当社は「野菜の未来を変える。野菜で未来を変える。」をパーパスに掲げています。今、野菜が非常に高く、みなさまもお困りかと思います。当社はそのような野菜の未来を変えていきたいと考えています。

野菜の形が悪いために捨てられたり、農家の収入が上がらないなどの問題を抱える中、野菜の未来を変えることで、我々の未来も変えていけると考えています。

デリカフーズグループ経営方針

大﨑:MissionとVisionです。Missionは「青果物の流通を通じて日本の農業の発展と人々の健康増進に貢献する」、Visionは「未来の子供たちが安全でおいしい野菜をいつでも食べられる持続可能なインフラを構築する」です。今後の農業とインフラをしっかりサポートしていこうと考えています。

会社概要

大﨑:会社概要です。1979年に愛知県名古屋市で創業し、およそ45年が経過したところです。みなさまも普段外食を利用すると思いますが、当社はそのような外食産業に新鮮なカット野菜と野菜を納めています。おそらくみなさまも、どこかで当社の野菜を食べているのではないかと思います。今では外食産業にはなくてはならない青果物のサプライヤーに成長したと自負しています。

デリカフーズグループの体制

大﨑:グループの体制です。デリカフーズホールディングスを持株会社として、主力事業である青果物の加工・流通を担うデリカフーズ株式会社、物流を支えるエフエスロジスティックス株式会社、研究・コンサルティングを行うデザイナーフーズ株式会社、コロナ禍に新規進出したBtoC事業を担う楽彩株式会社があります。

その他、デリカフーズ株式会社の子会社として、たれやソースの加工を行うデリカフーズ長崎株式会社があります。

数字で見るデリカフーズグループ

大﨑:数字で見るデリカフーズグループです。連結売上高は528億円です。社員数747名、従業員数2,972名、男女比は社員でおよそ6対4です。女性管理者は21パーセントと非常に女性が活躍しており、また外国人を含めた多くの従業員に支えられている会社です。

年間の野菜の流通量は約10万2,000トンです。数字にするのはなかなか難しいのですが、今政府が備蓄米を21万トン放出するという話があります。そちらと比較しても、相当量の野菜を扱っている会社であることがわかると思います。外食産業を始めとする全国約3万店舗のお取引先に納品しています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):非常に見やすい数字で示していただいていますが、全従業員の中で外国人従業員数が非常に多くなっています。採用ルートと、外国人の採用によって生まれるメリットがあれば教えてください。

大﨑:当社の事業は24時間365日稼働しています。当初は日本人のみの作業所で、人手不足に非常に苦労しました。そのような意味では、外国人の方々も一緒に働くことで夜間や土日をカバーできています。

採用ルートとしては、技能実習生や特定技能外国人を受け入れており、業務面・生活面で彼らをサポートする外国人社員もしっかり配置して働きやすい環境を整えています。

事業モデル

大﨑:主な事業モデルです。基本的には、厳選された全国の契約農家から野菜を調達し、それぞれのエリアで加工して各店舗までお届けしています。創業当初はまだ野菜の流通が確立しておらず、八百屋が常温の軽トラックで配達することが一般的でした。

当社は事業開始時からカット野菜の加工業者としてスタートしました。新鮮なカット野菜を届けるためにはチルド帯での物流を整える必要があり、早くからこの部分に力を入れてきたことが強みになっています。

坂本:最近、野菜の価格の高騰がニュースになっています。全国の契約農家から調達とありますが、仕入れてカットや加工を行い店舗に納入するにあたって、価格がぶれてくると困ると思います。調達価格の工夫や調達方法など、御社の強みについて教えてください。

大﨑:後ほど詳しくご説明しますが、野菜や米の高騰の背景には、気候変動に対して日本の農業が追いついていない状況があると思います。

農家も懸命に努力していますが、残念ながら収入が非常に低く、農業離れもあって安定供給が困難な状況が続くことが懸念されています。今後さらに難しくなると予想される中で、当社の強みの1つは、もちろんスケールメリットです。

もう1つは加工技術の強みです。畑で採れた形の良いものも悪いものも全部使えるというのは、農家にとってもメリットが大きいため、そのようなメリットを利用しながら全国の農家と契約しています。難しい点は、日本は四季で産地が変わるところです。

坂本:キャベツなども時期によって収穫のパターンがあり、そのパターンが気候変動で寸断されてしまったため、キャベツがなくなり値段が高騰しているわけですね。

大﨑:おっしゃるとおりです。同じキャベツでも、北海道から鹿児島まで日本全国に産地を作る必要があります。当社は長年かけてその仕組みを構築してきました。

坂本:今回の野菜の高騰に対しては、消費者が買う値段よりは抑えられて乗り越えているイメージでしょうか? 

大﨑:そのようにお答えしたいのですが、実はそう簡単にいかないところがあります。先ほども少しお伝えしたように、逆にどのように農家の手取りを増やすかも考えていかなくてはならないのです。

もちろん当社も安く調達する、もしくは無駄なく使い切る努力はしますが、すべて販売単価を安くすることにつなげるのではなく、農家も持続できるような単価を認めていく取り組みが非常に重要になっています。

その他の特徴として、各部門において研究開発を活用しながら事業を展開しています。

坂本:国産と輸入野菜の割合で、国産が76パーセントとかなり国産で賄っていると思います。近年、比率に変化はあるのでしょうか?

大﨑:当社としては国産を増やしていく方針です。ただし、今回のような天候不順が起こるとどうしても輸入せざるを得ません。昨年はこうした緊急処置的な輸入が増えてしまいました。

坂本:いきなり海外から輸入するのは難しいと思われますが、パイプを常に保っているのも強みでしょうか?

大﨑:おっしゃるとおりです。

部門別構成比

大﨑:部門別構成比です。基本的にはカット野菜とホール野菜が同程度です。これ以外の事業では、物流事業や、最近はミールキットという加工した商品の販売事業も進めています。

業態別売上構成比

大﨑:業態別売上構成比です。コロナ禍前は外食比率が85パーセントほどでしたが、コロナ禍で非常に痛い思いをしました。その中で、外食以外や、外食産業の中でもテイクアウトなど人流減に強い顧客開拓を進めてきました。以上の結果、現在は外食産業が約74パーセントとなっています。

取引先例

大﨑:取引先例を業態別にまとめました。全国に展開しているほとんどの外食産業と取引しているのではないかと思います。全国に拠点を展開し、かつ物流拠点を持っていることがお客さまの獲得につながっています。

メニューへのアプローチと使用例

大﨑:メニューへのアプローチと使用例です。外食で提供されるこちらのような「ガーデンサラダ」などのメニューがありますが、皿の中にはさまざまな食材があります。

こちらの野菜の中でも、例えばクレソンやトマトは鮮度が重要なため、ホール野菜のままお届けします。一方、レタスやサニーレタスは当社が加工してミックスした状態でお届けしています。

アスパラやブロッコリーは基本的に熱を加えて食べるため、当社が加熱まで行ってお届けしています。このように、1皿のサラダの中でも、品目ごとに最適の加工を施した当社の野菜がたくさん利用されているという訳です。こうした提案力が当社の大きな強みです

その他、「顔が見える野菜」として産地や生産者のわかるものがありますが、当社はそのような農家とお客さまのマッチングを行っています。例えば、スライド上部に掲載している大手サンドイッチチェーンの「サブウェイ」では、そのような当社のカット野菜をそのまま使っています。

スライド右下に掲載しているハンバーグレストランの「びっくりドンキー」には、ハンバーグの中の玉ねぎも当社が加工して納品しています。このように、外食産業の店舗で使用する野菜のほとんどを当社で賄うことができます。

坂本:時間がかかる下ごしらえの短縮プラス高品質の野菜ということですね。先ほどの話と重なる部分もありますが、野菜が高騰している中で、外食産業にとっては原価も上がっています。自社で加工や仕入れを行う企業は出てきているのでしょうか?

大﨑:私の個人的な意見も含まれますが、外食産業にとっては店舗の人手が一番重要です。まずは人材を確保しなければいけません。今まではセントラルキッチンとして工場を持っていた外食チェーンも、築後数十年が経過し、今の建築費を考えると自社の加工場を持ってもなかなか採算が合いません。

そのような意向から野菜の加工はすべて当社に任せる企業が非常に多くなっており、おかげさまで当社も直近数年間は売上高を伸ばしています。

坂本:セントラルキッチンで加工して配送するコストを考えると、御社から仕入れたほうがよいという選択ですね。業態によっても異なると思いますが、例えばサンドイッチのファストフードでは素材がほぼ野菜のため、おそらく御社から仕入れる選択になるのでしょうか? 

大﨑:そのとおりです。

FSモデルの概要(2010年第一号のFSセンターを開設)

大﨑:当社の拠点についてご説明します。2010年から、「FS」(Fresh&Speedy)を冠した工場を全国に展開してきました。

1階の出荷センターと2階のカット野菜工場は室温5度となっています。当初、業界では、野菜の加工を低温と言われる15度前後の環境下で行っていました。しかし今はコールドチェーンが主流となり、いかに鮮度を保って流通させるかが重要となっており、当社の加工場の温度も5度にすべきではないかと考えました。

人が働きやすいのも大事ですが、当社は野菜で事業を展開しているため、野菜が一番好む温度に人が合わせることにしました。これは業界が変わるほどの大改革で、このようなFSモデルの工場を全国に展開することが、さらに成長するための大きなターニングポイントとなりました。

坂本:そのような鮮度へのこだわりなどを評価して、御社にお願いする会社が増えたのでしょうか?

大﨑:おっしゃるとおりです。

カット工場の概要

大﨑:工場は、自動化された部分と人間の目と手で行う作業のバランスをうまく取って運営しています。スライドには野菜を目視している写真を掲載しています。

坂本:左上の写真ではかなり明るく照らしていますが、大きさの判別や不純物の発見を容易にするために考えられているのでしょうか? 

大﨑:そのとおりです。一番大変なのは虫の除去です。こちらは人の手で行っています。

坂本:一気通貫で流れるような設計になっているのですか?

大﨑:赤い枠の部分が自動化されたラインで、その上が細かい作業を行う場所です。当社は、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで売っている袋入り商品とは違い、お客さまの要望に沿って、お客さまごとに商品設計を行っています。

坂本:規格が違うということですね。

大﨑:アイテム数が非常に多くなっています。

坂本:例えばキャベツの千切りでも好みがあって、少し幅が広いほうがいいなど要望があるということですか?

大﨑:納入先のニーズに合わせていろいろな種類に対応できるのが当社の強みです。そして、そのためにしっかり人材を確保し、人の手で行うべきことはきちんと人の手で行っているという訳です。

出荷センターの概要

大﨑:こちらは出荷センターです。以前はすべて人の手で野菜を1個ずつ集めていましたが、現在は機械化されています。スライドに掲載している写真はオートメーション化された機械で、ベルトコンベアに野菜を置いていくと、店舗ごとに自動で振り分けることができます。

坂本:物流施設でよく見られるようなことが、御社の商品でもできてしまうのですね。

大﨑:その仕組みを野菜用に開発して利用しています。

食品安全の取り組み

大﨑:食品安全の取り組みです。こちらが一番重要で、各工場ではISO22000を取得しています。さらに、FSモデルではFSSC22000というさらに上のクラスの国際認証を取得しています。また、各工場にトレーナーという教育専門の人員を配置しており、その職種で多くの女性社員が活躍しています。

FSセンター拠点の増設

大﨑:2010年からスタートしたFSセンターは、お客さまからも非常に高い評価をいただいたことから、その後も全国への設置を進めてきました。これまで、仙台事業所、奈良FSセンター、西東京FSセンター、中京FSセンター、埼玉FSセンター、福岡FSセンターを開設してきました。

そして、8拠点目となる2024年の大阪FSセンター開設により、FSモデル全国展開計画が当初の予定どおり完了しました。総投資額は約150億円です。2010年に最初の工場を作った時の建築費は、機械も含めて坪あたり100万円ほどでした。2020年の福岡FSセンターは約125万円、2024年の大阪FSセンターが約150万円、現在は約180万円となっています。

坂本:ほぼ2倍になっているわけですね。

大﨑:2010年から急ピッチで工場を設置してきたことが功を奏したと言えます。現在の180万円の坪単価で工場を作っても採算は非常に難しいと思います。その意味で、他社も追いつけないくらいの優位性を確立できたと思っています。

坂本:今から設備投資をしようとしても高くてできないか、コストが増大してしまうことから、ある意味では財産になっているということですね。

大﨑:そう思います。

全国へ広がる配送網

大﨑:配送網を全国に広げるため、北海道から長崎まで自社工場を設置してきました。その他各エリアに協力会社があり、そちらを介して全国3万店舗のお客さまに納品しています。

商品ラインアップの拡充

大﨑:商品ラインアップです。先ほどもお伝えしたように、基本的には産地から直接届く新鮮な野菜が原料になります。形の良いものはホール野菜としてそのまま出荷し、少し形の悪いものや大小あるものを、カット野菜に加工して販売していきます。

そして、カット野菜に熱を加えると加熱野菜に、それを冷凍すると冷凍野菜に、また長崎で作っている調味液と組み合わせるとミールキット(惣菜)になるということで、いかに加工度を上げていくかを考えながら商品ラインアップの拡充に取り組んできました。

付加価値を上げていくと、使える野菜の種類が増えていきます。例えば豊作で出来すぎた時には冷凍野菜にする、形の悪いものは加熱するなど、当社が加工した商品を広く利用いただくことで、当社事業の社会性も高まっていくと考えています。

楽彩株式会社(BtoC事業)

大﨑:コロナ禍への対応として、新たにBtoC事業を開始しました。ぜひ「RAKUSAI」というモールで当社の商品をご確認いただきたいと思います。こちらのミールキットは、ECサイトでの通信販売のほか、スーパーマーケット等での販売も進めています。

食品事業部

大﨑:食品事業部では、冷凍商品の開発や、加熱商品、調理済み商品など加工度を上げる取り組みを行っています。

サステナブルな取り組み

大﨑:サステナブルな取り組みについてです。カット野菜の工場では野菜の端材が大量に出ます。また、産地では規格外の野菜も出るため、そのようなもので出汁を取る技術を確立し、お客さまにご利用いただいています。

例えば、日本航空の国際線で出すスープ、物語コーポレーションの「寿司・しゃぶしゃぶゆず庵」や良品計画の「Café&Meal MUJI」など、当社の取り組みに賛同いただいたお客さまに利用されています。

物流事業の状況

大﨑:物流事業の状況です。物流業界は2024年問題で非常に大きな分岐点を迎えましたが、そのような中でも当社の物流事業は順調に成長できました。2015年に立ち上げた物流会社は、現在車両台数が134台、配送員が約200名の陣容となっており、30パーセントから40パーセントの物流を内製化できています。

デザイナーフーズ株式会社

大﨑:実は当社は研究開発事業が非常に強い会社です。創業者も、創業当初から、野菜の鮮度保持の研究や、近年であれば野菜の健康に対する機能性などのテーマに力を入れた研究を行っています。

野菜の可能性を追求

大﨑:スライド左上のグラフは、一般的なキャベツと、我々の契約産地で栽培したキャベツで、糖度・抗酸化力・硝酸イオンの含有量を比べたデータです。見た目が同じキャベツでも、栽培の仕方で数値が異なっています。当社は、右側のような野菜の中身の有用性をお客さまに提案しています。

外食で使われる野菜を「業務加工用」、スーパーで売られる野菜を「小売用」と言いますが、ここで野菜の流通の違いについて少しご説明します。スーパーに並ぶ小売用は、見た目が価値を決めます。みなさまが買う時に、どうしても姿や形の良いもの、きれいなものを買いたがるということです。

我々は従来、外食産業に加工した野菜を納品してきたため、形にはこだわっていません。それよりも、おいしさを追求した野菜作り、高い栄養価を持った野菜作りを展開しています。したがって、小売用とは真逆といえば真逆なのです。

今後はスーパーでもさらに惣菜など加工食品が増えてきます。当社は、そのような業務加工品の増加にともない、さらに健康に効果のある野菜をたくさんご利用いただけるように、野菜の中身の分析を長く続けてきました。

スライド左下は、ほうれん草の年間データをグラフにしたものです。先ほどのキャベツと同様に、見た目は同じほうれん草でも、数値はこのようにまったく違うものとなっています。やはり野菜は旬が重要だということです。旬の野菜は栄養価が高く、非常においしいのです。

一方で、旬ではない野菜は、見た目は同じほうれん草でも実は中身が違うため、ほうれん草は体に良いといっても、旬ではない夏場の時期のものにはそこまで効果はないということです。我々は旬の野菜を冷凍野菜も含めたさまざまな製品に加工し、届けていくために研究を行っています。

国は1日350グラムの野菜を食べることを推奨していますが、現在のところ実際に食べられているのは280グラムです。この差の70gが我々の成長のポテンシャルだと考えています。1グラムでも多くの野菜を食べていただくために、いろいろなメニュー開発や食品開発を進めています。

そして、そのような試みを通じて1円でも野菜の価値を上げ、少しでも農家に還元されるようにつなげていきたいとの思いで事業に取り組んでいます。

連結売上高・連結経常利益推移

大﨑:売上高と経常利益の推移です。前期2024年3月期は、売上・利益ともに過去最高を更新することができました。コロナ禍では減収減益と非常に苦しい思いをしたのですが、それ以上に成長することができました。足元では野菜の高騰で非常に苦労しているものの、トップラインは順調に成長を続けています。

デリカフーズグループの業界地位

大﨑:こちらは、デリカフーズグループの業界での地位を示したものです。上場しているのは我々だけであり、見ていただくとおわかりのとおり、圧倒的な拠点数を持っています。売上高も非常に大きく、当社は業界で頭一つ抜けた存在になっています。

坂本:御社の顧客との契約期間はどのようになっているのでしょうか? 店舗ごとに指定された個数を確保して出荷するかたちだと思いますが、大手チェーンへとの契約は規模がなければやはり難しいと思われるため、小規模の競合他社が価格戦略で仕掛けてくることはないのでしょうか? そのあたりの業界環境や御社の取り組みについても教えてください。

大﨑:外食産業のお客さまも、数店舗の展開から1,000店単位まで幅広く、基本的には値決めの方法もお客さまごとに設定を変えています。契約期間は1ヶ月単位が一番多いのですが、一番短いお客さまですと1週間単位で連動します。

坂本:では、仕入れ価格とお客さまへの納品価格で逆ザヤ現象が起きるようなことは、1ヶ月であればなかなか考えにくいということですね。

大﨑:ただし、1年という長いスパンのお客さまもいるため、そのようなお客さまには翌年に改善していただきます。我々はどうしても野菜を集める必要があるため、高い金額を払ってでも、まず集めてお客さまに納品します。

その後、そこで発生した我々の持ち出し分を、翌月にお客さまと交渉して返済いただいています。基本的には農家の方と我々とお客さまの三者相対のようなかたちです。どうしてもタイムラグがあるため、一時的に我々がそれを背負うことにはなりますが、最終的にはご理解いただいています。

価格戦略について、実は現在業界の中では我々がおよそ1割から2割高くなっています。価格に関して、我々は高いポジションを取っているということです。

坂本:優位性が非常にあるのですね。

大﨑:そうですね。それは先ほど触れたように、安全や鮮度を保てる技術が当社にはあり、それを認めていただいていると解釈できます。お客さまから見て単価も重要なのですが、それ以外の物流面などさまざまな取り組みも評価いただいていると思います。

デリカフーズグループの業界地位

大﨑:各企業が持っている優位性を比較しています。全国に拠点があり、自社で物流網を持ち、かつ自社で加工場を持っている企業は我々だけだと認識しています。

その他、開発力・営業力、商品力、人材については、他社はわからないのですが、当社は自信を持って二重丸と判断しています。

坂本:今のお話について、人材に御社が二重丸をつけている理由をお聞かせください。

大﨑:私は社長を拝命してから、毎年、未来に向けて人材を確保することに力を入れてきました。例えば、大学生向けに会社説明会を開催する時も、必ず私自身が登壇し、直接話すことで入社を決めてくれる方がいます。

ここ数年は毎年40人から50人の大卒者を採用し、キャリア採用でも同じく40名から50名採用しています。

例えば大きな市場や、我々の同業者でも、おそらく採用できても数名だと思いますが、おかげさまで当社は上場の効果もあり、毎年多くの学生を採用しています。そのような若いメンバーを10年かけて育て、青果物の専門人材にしていくのが我々の育成のスタイルとなっています。今後は、どれだけの人材を持っているかという戦い方に変わると思っています。

坂本:9ページの数字でも、「社外向け講演・セミナー・勉強会 開催総数」が882回と非常に多いのですが、こちらもやはり人材教育の一環で力を入れているのですか?

大﨑:そのとおりです。加えて、我々のデザイナーフーズ株式会社が、先ほど見ていただいたグラフのようなまだ知られていない分析・研究を多く行っているため、発信のための勉強会を開催し、提案しています。

坂本:中途採用については、どのような人材を採用されているのですか? 専門的な分野からの採用も多いのでしょうか?

大﨑:専門的な方はむしろヘッドハンティングしてでも来ていただいています。事業拡大していく中で、例えば物流の専門家をヘッドハンティングしたり、コンプライアンス関係の人材など、要所ごとに専門人材に来ていただいており、その方々が我々の若い社員を育成していくかたちができています。24時間365日稼働の当社にとっては、やはり人がすべてです。

デリカフーズグループの強み

大﨑:グループの強みをまとめています。全国に展開していることと、物流網を持っていることが挙げられます。その他、青果物に特化した多様な商品群、世界に類を見ない研究データがあり、それらを若手・女性を中心とした人財力でしっかりカバーし、社会活動につなげています。

外食・中食産業の市場規模推移

大﨑:当社を取り巻く環境と今後の展望をご説明します。まず、外食・中食産業の市場規模推移です。全体では約32兆円のマーケットになります。その中で野菜マーケットの規模が約2兆円で、これは今後も拡大していく見通しです。当社はその中で500億円ですので、まだ相当のマーケットが残っていると認識しています。

日本の食料自給率

大﨑:一方で、外食・中食産業を支える調達に関しては、ご存じのとおり自給率が非常に低下しています。野菜は今87パーセント程度で、さらに低下している状況です。

日本の農業の実態

大﨑:自給率を支える農家の数も急激に減少しており、わずか15年間に約半分の90万人が減少しています。農業従事者の高齢化、低所得化、耕作放棄地の拡大が進んでいます。

日本の農業従事者の年齢構成

大﨑:農業従事者の年齢別のグラフです。こちらにあるとおり、60歳以上の方が全体の80パーセントを支えています。対して60歳以下の方は20パーセントです。60歳以上の方たちは10年経つとどんどん引退の方向に進んでいくため、残りの20パーセントの方たちでどのように今後の日本の食糧を支えていくかが非常に重要だということです。

したがって、我々のビジョンのとおり、未来の子どもたちが野菜を食べられる状況にするには、まず農業をしっかりと支え、合理的な物流インフラを十分なかたちで作る必要があります。10年後を見据えて今から対策をとっていくため、我々は生産者から選ばれる企業になっていく必要があるということです。

当社を取り巻く環境と当社の打ち手

大﨑:当社を取り巻くそれぞれの環境と打ち手についてです。食の外部化が進むことにより、我々の成長余地はまだかなりあると認識しています。一方で、そのためには労働力を十分に確保していく必要があります。

調達市場に関しても、農業を着実に支えていく方針です。今後日本では、食料を輸入に頼り続けるリスクがさらに高まると思います。日本向けの輸出はどんどん縮小していく可能性が非常に高いことから、国産化を推進していこうと考えています。

10年後(2034年)のありたい姿

大﨑:10年後のありたい姿についてです。ここまでのご説明のとおり、さらに加工度を上げて総合加工メーカーとしてのポジションを確立していこうと考えています。同時に、持続可能な農業の実現に全力で向き合い、従業員とともに個人の幸福と会社の繁栄の両立を実現していくビジョンのもと、事業を進めていきます。

長期ビジョンに向け第五次中期経営計画をスタート

大﨑:第五次中期経営計画で掲げた長期ビジョン(10年後のありたい姿)の数値です。売上高1,000億円、経常利益率4パーセントから5パーセントを目標にしています。よく「10パーセントにならないのか」というご意見をいただきますが、先ほどご説明したように、我々の経常利益率が10パーセントや20パーセントになることはまずないですし、なる必要もないと思っています。

いかに安定して売上の4パーセントから5パーセントの利益を確保し、農家の方が働ける体制を持続していくかが一番重要だと捉えています。

坂本:売上を伸ばしてROEを上げていけば評価は高まると思います。

大﨑:加えて、先ほど触れたように取引のかたちが相対ですので、一時的な上下があっても通期では十分に獲得していけると考えています。

坂本:こちらの売上1,000億円の目標については、オーガニックの成長で達成できる見込みなのでしょうか? それともM&Aも含めて考えているのでしょうか?

大﨑:やはりM&Aは必要になってきますし、そのようなオファーも増えています。我々にとっても、同業の方たちと競い合うよりも、1つのプラットフォームで協業していくかたちをとって、持続可能な農業の実現を優先すべきだと思っています。

したがって、今後我々が垂直型に農業に参入していくこともあると思いますし、水平型で、例えば海外へも進出するなど、縦も横も広げていくのではないかと思っています。

事業ポートフォリオと商品ポートフォリオの変革

大﨑:事業ポートフォリオと商品ポートフォリオに関しても、さらに加工度を高めていきます。加工度が高まることで、輸出が可能になっていきます。BtoC事業も拡大させ、これまでの業務用の加工から、さらに付加価値の高い加工に進めていきたいと思っています。

SDGsへの貢献

大﨑:SDGsへの貢献については、スライドのとおりです。特に、天の恵みである野菜を100パーセント使い切り、畑でできたものをすべて胃袋にお届けすることが我々の一番の取り組みになります。

新たな戦略の実行(案)

大﨑:新たな戦略の実行についてです。これは現在計画を立案している段階ですが、我々はやはり農業に参入する必要があると思います。農家の方と同じ思いを我々も知るべきだと思いますし、我々自身が農業にたずさわることで、農家の方と一緒に改善できることも見つかるだろうと考えています。そのような意味で、農業に参入していく方針です。

今後の展開としては、今までのように、すべての野菜について「今日採れたものを今日届ける」という時代ではなくなると思います。先ほどご覧いただいたように、我々の拠点はかなりの低温で冷蔵する設備を充実させているため、今後はある程度ストックを持ちながら、安定的に供給していく体制に変わっていくだろうと考えています。

坂本:長期貯蔵技術というのは、ごぼうなど根菜類に関してはできる部分もあると思いますが、それ以外の葉物野菜などでも可能なのでしょうか? 御社が目指す技術について教えてください。

大﨑:まさしくおっしゃるとおりで、サラダで使う食材は非常に貯蔵が難しいため、我々は今レタスやトマトなどを研究開発の対象としています。例えば温度、湿度など、いろいろな条件下で研究し、1ヶ月間貯蔵を目標に技術開発に挑戦しています。

これは農家の方にとっても非常にメリットがあります。今はかなり精度高く台風も予測できるようになってきたため、台風が来る前に収穫して貯蔵し、農家の方の被害を最小限に食い止める方法を考えています。

例えば雪の予報であれば、物流が止まってしまう前に貯蔵するなど、1つの貯蔵施設をいかに有効活用するかということも考えています。

坂本:御社以外とも契約しているのであれば、価格が高くなる時に貯蔵していたものを出せば農家の方の収入も増えるというメリットもありますね。

大﨑:そのとおりです。それだけのいろいろな戦略を立てる時間を生む意味もあります。時間を生むことで、例えば緊急輸入や、相場の乱高下に巻き込まれずに対応できるという考えです。

当社を取り巻く環境と今後の展望まとめ

大﨑:当社を取り巻く環境と今後の展望のまとめです。成長に関しては、今後も非常に有利な環境だと思います。調達に関しては、ここまでご説明したように、農業ヘ参入しながら、生産者に選ばれる企業になることが重要だと思っています。経営面に関しては、人手不足対策を確実に行い、合理化を進めていきます。

財務に関しては、大型投資は一巡したと思っています。今後はインフラ構築・研究開発に早期かつ積極的に投資を行っていきます。この1年から2年の気候のとおり、貯蔵技術などはもっと早く手がけていく必要があるため、積極的に進めていく考えです。世の中の変化に迅速に、機敏に対応し、社会から必要とされる企業を目指します。

配当金及び配当性向の推移

大﨑:最後に株主還元についてです。スライドは配当の推移のグラフですが、基本的には売上連動型の配当を考えています。利益はどうしても上下するため、それよりも売上に対して配当を高めていきたい考えで、配当性向30パーセント以上を目標としています。

株主優待

大﨑:株主優待に関しては、400株以上の保有から私どもの野菜ボックスをお届けしていますので、ぜひ優待制度をご利用いただきたいと思っています。

長期優遇優待品~自社開発製品~

大﨑:長期優待に関しては、我々の加工商品をお届けしています。

以上のように、当社はさまざまなことに取り組みながら、次々に変化する環境に機敏に対応しています。先ほどから繰り返し言っているように、今のままなにもしなければ、本当に未来の子どもたちが野菜を食べられなくなるという危機感を感じています。

そうなる前に、我々は業界のリーディングカンパニーとして、事業もさることながら、そのような社会活動や持続可能な農業の実現を確実に進めていきたいと考えています。

以上で私からの説明を終わります。

質疑応答:大規模農業参画の可能性について

坂本:「御社の成長に向けた打ち手の1つとして農業への参入がありますが、大規模農業を自社で運営し、一気通貫で生産から加工、販売まで行う考えはないのでしょうか?」というご質問です。

大﨑:先ほどもお話ししたとおり、ようやく我々も本腰を入れて農業に参入しようと考えています。どうしても四季によって産地が移り変わるため、「施設園芸」といわれるハウスをコントロールして安定的に栽培していく技術、まずはそちらから手がけていきたいと考えています。

それ以外に関しては、我々の各拠点の周囲で農業を営む方たちをいかに取りまとめていくかというところに取り組んでいきます。例えば、小売向けはどうしても袋詰めや箱詰めなどさまざまな手間がかかります。

我々は収穫したままの状態で収穫物を受け入れることができるため、農家の方と協力して、場合によっては手間のかかる作業を我々が引き取るなどの展開を予想しているところです。

質疑応答:災害時における工場稼働のキャパシティについて

坂本:「御社には、日本全国に効率の良い工場があるということですが、BCPの観点から、例えば天災などで被災してしまった場合、他の工場でカバーできるくらいのキャパシティがまだ残っているのでしょうか? 仮に1つの工場が仮に使えなくなったとしても、他から供給できるシステムがあるのでしょうか?」というご質問です。

大﨑:当社はまさしく、東日本大震災や新潟中越沖地震でもそうであったように、被災地の工場をバックアップできるよう全国に拠点を配置しています。基本的には、拠点間がおよそ4時間以内の場所に配置しており、例えば関東であれば足立区、神奈川県、西東京エリアになりますが、実は水もそれぞれ変えています。

坂本:水源の確保ですね?

大﨑:東京では利根川水系、神奈川では井戸水と、それぞれの水になにかあった場合もバックアップできる体制を構築しています。

キャパシティについては、最終的には社員を移動させてでも、とにかく乗り切ります。これもお客さまから安心いただいている要素ではあります。なにかあっても必ずグループでバックアップできるという強みがあります。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:株主優待200株から300株のホルダーまではQUOカードなのですが、なぜ野菜ではないのでしょうか?

回答:商品設計、コスト、発送件数などを総合的に勘案のうえ、QUOカードのみの設定とさせていただいています。今後の変更については継続的に検討します。

<質問2>

質問:協動配送は何社で行っているのでしょうか? 今後協動配送体制は何社まで増やしていく予定がありますか?

回答:物流事業の協力会社は数十社あります。今後についてはサービス向上と効率性の両面を睨みつつ最適な体制を目指していきます。

<質問3>

質問:キユーピーも「サラダクラブ」というカット野菜を作っていたと思います。スーパーでよく見かけます。また、オイシックス・ラ・大地も一部BtoBがあったと思いますが、唯一の上場企業なのでしょうか?

回答:業務用青果物加工を主業とする企業としては、唯一の上場企業となります。

<質問4>

質問:先程のお話を聞く限り、大口の取引先に対してもタイムラグは出るものの適切な価格改定を行うことができると考えて良いでしょうか?

回答:おっしゃるとおり、仕入価格を踏まえた販売価格改定について、事後的にお取引先さまにご理解いただくことが基本的な取引形態となっています。

<質問5>

質問:インバウンド需要から外食産業からの注文は多いとは思いますが、それでもいつかは一巡することを考えると、増益は長く続くとは思えないのですが、そのような先を考えた対策というのはしっかり考えているのでしょうか?

回答:全国展開している外食チェーンは地域ごとに仕入先を変えているケースが多いですが、当社の強みをご理解いただいて当社に集約する動きも出てきており、その観点での成長余地はあると考えています。加えて、コロナ禍以降は、事業ポートフォリオ改革として中食マーケット(量販・小売、弁当・総菜、給食など)やBtoC事業(ミールキット等)への取り組み強化も進めています。