マーケティングのDXを活用することで、より付加価値の高いIRを実現

——ログミーFinanceの「IRダッシュボード」には、株式会社Figuroutが運営するダッシュボードサービス「Hooolders Analytics」の機能の一部が提供されています。はじめに、中村さまがサービスを立ち上げた思いや、事業会社が抱えるIRの課題感についてお聞きかせください。

中村研太氏(以下、中村):株式会社FiguroutCEOの中村です。IRの効果検証ができる「Hooolders Analytics」というダッシュボードサービスを運営しています。

Figurout創業以前、私はずっとマーケティング関連の仕事をしていました。Googleアナリティクスやビッグデータの分析によるマーケティングの高度化、より成果の出るウェブサイトにするための効率化など、企業向けのコンサルティングです。

前職ではファイナンスにも携わることがあり「投資家獲得を目指すIRは、実はマーケティングと同じだ」と気づきました。投資家に自社を認知してもらい、興味を持ってもらい、株式を買ってもらうこと。さらに、株主となった投資家に対して継続的なコミュニケーションをとり、ロイヤルカスタマーのような存在にしていくことは、まさにマーケティングです。

IRには個人投資家向けと機関投資家向けがありますが、個人投資家向けはBtoCのマーケティングに、機関投資家向けはBtoBのマーケティングとそっくりです。

IR業界はあまりDXが進んでいません。IR担当者にとって、投資家のデータや株価など企業価値に関わるデータを管理するための適切な基盤がないため、どうしても経験則で感覚的に判断するしかなく、データに基づいた意思決定ができていない企業が多いのが現状です。

一方で、マーケティング業界はDXが一番最初に進んだ業界だと言われています。2000年頃にインターネットが始まって以降、マーケティングのオペレーションはDXという言葉が出てくる前から、さまざまなツールがDX化されてきました。

例えば、Googleアナリティクスのようなウェブ解析ツールや、営業管理や顧客フォローを実施するCRMツール、あるいはマーケティングオートメーションツールなど、マーケティングにかかわるいろいろなツールが生まれ、マーケティングの成果を向上し、業務効率が改善されてきました。

マーケティング業界に身を置いてきたキャリアだからこその目線で、マーケティングテクノロジーを投資家向けのIRに活用し、より効率的かつ効果的に付加価値の高いIRが実現できるのではないかと考え、Figuroutを立ち上げました。

もう1つ、マーケティング業界で大きく変わったのが「データの民主化」と言われる部分です。

デジタルマーケティングが始まる前の時代は、広告主側は自前でデータをほとんど持っていませんでした。マーケティング担当者は広告の成果やどのような人にリーチできたかなどのデータを持たず、基本的に広告代理店から提示された部分的なデータで判断するということしかできませんでした。

現在はDX化によって、GoogleアナリティクスやCRMなどを活用して自社でデータを持てるようになりました。自分たちで過去の施策の効果検証を行うなど、次の施策の意志決定ができるようになったということは、広告代理店による受け身のマーケティングではなく、自社で戦略を立てられるようになったということです。

IRについても「このようなデータを見たい」と思ったら、以前は証券会社に頼るしかありませんでした。しかし、部分的なデータしか見えない状態では重要な意思決定はできません。自社できちんとハンドリングすることで、攻めのIRを実現できるようになると感じています。

営業部門も人事部門、経理部門も、Excelでの業務管理はどんどん少なくなり、さまざまな業務サービスができています。なぜかIRについてはそれが進んでいませんでしたが、ログミーFinanceの「IRダッシュボード」を活用することで、IRの業務管理も変化していくと思います。

IRの役割は投資家との対話

——自社でハンドリングするために、IR担当者が取り組むべき仕事も数多くありますね。

中村:IRの仕事は基本的に「施策の実行・情報発信」です。具体的には決算発表、適時開示、投資家との面談などを行い、それに対して投資家が動いた結果として、株価やPER/PBR、流動性などに反応が出ます。多くの義務としてやらないといけないIRは、情報発信することと、反応に対する対応ですね。

義務としてやるべきことをやるということが、まずIRの最初のフェーズだと思います。東証も推奨しているように、昨今、投資家との対話で求められているのは「投資家が何を言っているのかしっかりと把握して、そのフィードバックを経営に活かしましょう」ということです。

投資家が面談でどのような質問をしてきたのか、決算説明会の質疑応答でどのようなことを聞かれたのか、しっかりと分析して経営陣にフィードバックすることです。それが次の決算や会社としての取り組みの中で活かされていくと思います。

また、実際の発言ではなくても、投資家がどのような行動をしているのか、市場の反応を把握することも大事な対話の1つだと思います。リリースや決算発表を行った時の市場や株価の動きは、行動を通じて知ることができる投資家からの重要なメッセージでもあります。

定性的なフィードバック以外にも、定量的なKPIとしてのフィードバックを行い、IR施策の発信に活かしていくことで成果向上につながり、株価やPER/PBR、出来高、流動性の向上にもつながっていきます。「情報発信、効果測定、市場のモニタリング、フィードバック」というサイクルをしっかりと回すことが、企業価値を高めるために大切だと思います。

これまでは、多くの企業が「効果測定がしっかりできていない」という課題を感じていても、データをとることができませんでしたが、「IRダッシュボード」のようなツールを活用することで、IRの成果が可視化され、より企業価値向上にも寄与していくことになると考えています。

「業績を上げれば株価もついてくる」というようなスタンスの企業もありますが、IRにしっかりと取り組めば株価が上がるということは、学術的にもいろいろなデータが出てきています。

もちろん業績が悪いのに株価だけが上がることはありませんが、業績が良くなってもPER/PBRが変わらないという企業も非常に多く見られます。また、そのような企業はIR活動が不足していることが多いです。

効果的なIRの発信や投資家との対話ができているかどうかによって、企業価値に影響があるのは間違いないと思います。

データ活用の3つのシチュエーション

——事業会社側がイメージしやすいデータ活用シーンがあれば、いくつかお話いただけますか?

中村:IRにおけるデータ活用のシチュエーションは大きく分けると3つあります。1つ目がモニタリングです。これは主に平時の株価がどのような動きをしているのか、今の時価総額水準がどの位置にあるかなどを見るということです。

また、経営層向けのファイナンス状況のレポートもモニタリングの1つだと思います。月次や3ヶ月ごとにレポートを行い、決算発表からその後の投資家対応などを踏まえて、株価出来高の水準がどうなっているのか、前四半期や前年度と比べてどうなっているのかなど、経営層が把握するためにIR担当部門が報告するレポートです。

普段のIR施策や経営の取り組みが、投資家にどのように受け止められているのかを日々把握することで、投資家の考えていることや感じていることが理解できると思います。モニタリングで大きな差が出た例として、とてもわかりやすい出来事だったのが、今年8月上旬の「植田ショック」株価の大暴落です。

あのタイミングでスピーディーに、自社株買いや株価変動に対するアナウンスをした企業がいくつかありました。これは平時からモニタリングを行い、自社の株価水準や市場変動に対して、経営としてしっかり把握ができていたということだと思います。「このような数字になったら自社株買いをしよう」「株価変動に関するリリースを出すことが有効だ」と判断ができたのは、平時から準備ができていた企業です。

しかし、そのような企業はごく一部で、私が多くの企業から聞いたのは、株価が大きく動いた時に「これはどういうことだ?」「何が起こっているのか把握してレポートを出してほしい」「証券会社に確認をしてくれ」などと、まるで災害が起こった時のように、経営陣からIR担当まであたふたと状況把握に努めたという話です。

これは、平時のモニタリングができているかどうかの差だと捉えています。

2つ目は施策の効果測定です。わかりやすい例としては、ログミーFinanceで書き起こし記事を掲載した時に、その反応を見ていくことです。掲載した効果だけでなく、決算発表の内容に対する反応も含まれていると思いますが「今回は『出来高インパクト』としてここが良かった」「前期の掲載時は市場の出来高は増えなかった」「インパクトが弱いということは、そもそも潜在投資家の開拓ができていない」などと、効果測定をすることができます。

IR担当は決算説明の内容や、経営に関する取り組み内容などを把握できていると思いますので、「この時はちょっとわかりにくかったのかな」「魅力が伝わりにくかったのかな」などと「出来高インパクト」の数字から把握することができます。

出来高に対する影響の大小を見返すことで効果検証を行い、良かった要素は次の施策に活かし、良くなかったものは仮説を立てて改善していくなど、施策の後に市場がどのように動いたかしっかりとチェックすることで、施策の質が向上していくと思います。

営業など他の仕事でも、その日の提案で良かった点や悪かった点の反応を振り返りながら改善していくことは大切です。ただし、IRについては「Yahoo!ファイナンス」などを眺めるだけでは、今回のリリースに対する反応はわかっても「過去1年間の施策の中ではどの程度の位置づけになるのか?」という点では、どうしても感覚的になり把握しきれないと思います。

3つ目は戦略立案のためのフィードバックです。来期のプランニングを行う際、長期間を振り返るためにデータが有効となります。

前年比で株価がどうなっているのか、PER/PBRの水準がどうなっているのかなどを捉えた上で、出来高や売買代金の水準がどのように変わっているのかということを踏まえなければ、現状のIRの課題や次にどのような取り組みをすべきかは見えてきません。

高頻度に四半期や月次で行っている企業もあると思いますが、年度単位での振り返りはほとんどの企業で必ず取り組んでいることと思います。出来高が下がってきているのであれば「来期は個人投資家向けの説明会を増やそう」「機関投資家との面談を増やすためにアプローチをしよう」などと検討できます。

あるいはPBRの水準が下がってきているのであれば、魅力を訴求するような動きや自社株買い、配当性向などのコーポレートアクションで株価対策を行うなど、来期の投資家向けの戦略を定める上で必ず過去の実績の振り返りが重要になります。

細かく見るとユースケースはいろいろありますが、データ活用のイメージとしては、モニタリングと施策の効果検証、戦略立案のための分析及びフィードバックという3つのシチュエーションになります。

データのログから定量的に把握することで、IR施策の効果検証を行うことが可能に

——3つのシチュエーションそれぞれで、ログミーFinanceの「IRダッシュボード」をご活用いただけそうです。具体的な機能についてもご紹介いただけますか?

中村:こちらがログミーFinanceでご利用いただける「IRダッシュボード」自社分析のページです。

多くの企業が自社株の時価総額は把握していると思いますが、当社のヒアリングでは、ほとんどのIR担当者が「Yahoo!ファイナンス」や担当者個人の証券口座でウォッチしています。機関投資家は平均売買代金などを投資の基準としているため、その推移を把握するために「Yahoo!ファイナンス」などからExcelに数値をコピーして、平均や前月比などを確認する担当者も多いです。

「IRダッシュボード」の基本機能として、自社の株価の推移がチャートとして表示されます。それに対して、プレスリリースやIRリリースなどのさまざまなコーポレートアクションが自動で収集され、データが表示されます。

収集されるデータは、TDnetで公開される有価証券報告書や決算短信、適時開示、大量保有報告書、PR情報などです。また、PR TIMESのプレスリリースと日経ニュース、ログミーFinanceに掲載された書き起こしデータもアクションとして表示されます。チャート内の丸印をクリックすると、該当施策のWebページに遷移し、詳細を確認することができます。

さらに、取り組みを開示した際の株価と出来高の変動が自動で表示されます。地合いの影響については「株価インパクト」として表示され、例えばプライム企業であればプライム指数の変動の影響を除いた時に、どのような動きをしたのかがわかるようになっています。

また「出来高インパクト」として、リリース開示前の平準的な出来高に対して、何パーセント程度変動したかを自動的に計算するため、感覚的に捉えていた出来高を数値として定量的に把握できるようになっています。

過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年の推移の把握や、プライム指数及び業種別指数チャートとの比較などもできるため、何か大きな動きがあった時に活用できます。先ほどもご紹介しましたが、今年8月の株価大幅下落時にはプライム指数と自社株の変動を比較して、市場平均並みの変動幅であるかどうかの判断ができました。

自社の株価だけを見ていると、その変動が投資家の好感を受けたものなのか、それとも景気の地合いの動きによるものなのか判断できませんが、このような指標と比較することで、自社の動きなのか市場の動きなのかが把握できるようになります。

普段からのモニタリングが、効果的な判断につながる

——マーケットとの比較以外にも、モニタリングすることで自社の株価の健康診断のようなこともできるイメージでしょうか?

中村:定期的に自社の株価がどのような状況なのか、平時は事業利益に対してどのような動きをしているのかなど、普段からモニタリングすることは大事だと思います。

他にもPER/PBRなどの指標も確認できます。株価は業績変動すると大きく変わるかと思いますが、PER/PBRについてはそこまで大きく変わりません。ただし、投資家が投資判断をする部分でもありますので、このあたりの水準を確認すると「自社は投資家にこれくらいの目線で見られている」ということがわかります。

また、出来高売買代金については、移動平均で捉えることが大事です。特に時価総額が200億円前後の企業は「売買代金の水準が1日1億円ぐらいであれば、もっと機関投資家が必要だ」などと判断しているかと思います。「IRダッシュボード」を活用すると、売買代金の平均水準を高く維持できているかどうか、モニタリングすることも可能です。

その他の機能としては、コーポレートアクションを「ニュース種別」として絞り込むことができます。例えば決算短信で絞り込むと「今年の通期決算発表時の『出来高インパクト』や『株価変動』の指数は、平時の水準と比べてどうなっているか?」などと、確認することができます。

——「IRダッシュボード」を活用することで、これまで時間を割かれていたデータの加工作業などが効率化しますね。

中村:加えて、「1年前に株価が動いたのはどうしてだっけ?」というような、担当者の記憶は残っていても、イベントと紐づいて把握ができていなかった部分も解消されます。

適時開示のリストと株価チャートが別々に存在していると、変動の要因を確認するためにいちいち別のデータを見る必要がありますが、一緒に把握できていれば「この時期に株価が上昇したのは決算発表時に◯◯を発表したからだ」などと、パッと分析ができます。

IRアクションと市場の動きを一体化したイメージで把握でき、自社のIRが投資家にどのように受け止められているのかという情報管理ができるようになっていくツールです。また、役員会向けの資料作成など、もう少し加工して表示したい時には、チャート出来高や売買機能ログがCSVでもダウンロードできるようになっています。

IR部門だけでなく、組織全体での情報共有に重要なツール

——その他に事業会社から「これが良かった」というフィードバックはありますか?

中村:このツール自体をIR部門だけでなく経営企画部門に共有し、重宝しているというお話がありました。経営企画部門から「株価のデータを出してほしい」「このIRのログを出してほしい」など、さまざまなデータの提出を求められることがなくなり、IR部門はデータ抽出の手間が省け、経営企画部門の動きの質も上がったそうです。

他にも喜んでいただくケースで多いのは、過去の経緯がわかるようになったという新担当者からの声です。入社して半年ほどが経過し、業務を回せるようになっても「前年になぜ株価が上昇したのか」などの経緯は、チャートを見るだけではなかなかわかりません。

自社の開示情報履歴を見ても株価との関連がわかりにくいのですが、「IRダッシュボード」を見ると「去年はこういうことがあったから株価が上がったんだ」「下がったのはコロナ禍の影響でこういうことがあったからか」などと把握できます。

もちろんすべてが把握できるわけではありませんが、前任の担当者に質問して初めてわかるような内容も「IRダッシュボード」を確認することで、パッと理解できる範囲が広がるというお話です。組織で情報を共有する上で、このツールがとても大事だというフィードバックをいただきました。

——情報発信頻度を増やすことで、前年と比較して出来高のボリュームが厚くなったり、発信したニュースに対する出来高インパクトの数字が上がってくるなどの傾向はありますか?

中村:会社によって個別の状況は違いますが、基本的には情報発信の頻度を上げると、出来高が上がっていくという傾向にあると感じています。

これは当たり前といえば当たり前で、なんらかのリリースをすればそれを見る人がいます。また、そのリリースがメディアに取り上げられるなど拡散されることによって、さらに多くの人々の目に留まります。

現在はNISAなどもあり、国民の何割かはもう投資家だと言えますので、機関投資家向けのIRだけでなく一般向けにも認知が高まると、その会社に興味を持ち、銘柄と捉えて購入検討するという人が出てきて、それが出来高につながるということも当然あると思います。

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